賢者は使い魔   作:超高校級の切望

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簒奪の真実

 アンリエッタを城に送り届けた後、一同はタバサの実家に向かう。

 監視もあるだろうから夜遅く。不可視の魔法も張っている。

 

「ん、よし。監視は止めた」

「……………」

 

 やはりいたのか、とタバサは木々を見る。

 

「ただのガーゴイルだ。同じ映像と音声を繰り返し流すだけにした」

 

 今日も何も異常のない毎日を流すことだろう。

 

「シャルロットお嬢様、おかえりなさいませ」

 

 と、ペルスランが迎える。

 

「よくぞご無事で」

 

 赤子の姿から戻ったタバサを見て安堵するペルスラン。

 

「彼のおかげ。母様も、治してくれる」

「なんと!? ホ、本当ですか!?」

「まずは診察しないことには」

 

 その言葉にペルスランはコチラです、と案内する。

 ルイズ達は広間で待機。

 

 タバサとペルスランに案内された部屋では頬のコケた女性がいた。今は眠っているようだ。

 

「ん、なるほど。ソフィアの薬じゃねえな」

「治せるの?」

「もう治した」

「「……………え」」

「念の為起きたら呼べ」

 

 困惑する2人を置いてケントは客室に向かう。タバサ達は顔を見合わせた。

 

「…………お嬢様」

「信じて、良いと思う」

 

 とは言うもののタバサも若干懐疑的だ。何年も母を蝕み、回復する手段が何一つ分からなかった毒を部屋に訪れただけで治すなんて。

 

「でも、あの人は………なんかなんでも出来そうだし」

 

 常識で測れない存在であるということはよく知っている。

 

 

 

 

 

 母親が起きるまで待つつもりだったタバサだったが、流石に色々あって疲れが出たのか眠ってしまった。

 

 差し込む夕日にようやく目が覚める。時刻は夕方………。

 タバサの頭を、誰かが撫でている。

 

 ぼんやりと微睡んだ頭で懐かしさを覚えるタバサはゆっくりと体を起こす。

 

「あら、もう起きてしまったの?」

 

 その声にバッと起き上がるタバサ。名残惜しそうに手が離れる。

 

「…………母様?」

 

 痩せこけて幽鬼のような顔はそのまま、しかし優しげに細められた瞳に宿る光は、間違いなく過去失ったはずの彼女のもの。

 

「大きくなりましたね、シャルロット」

「かあ、さま…………母様!」

 

 瞳に溜まった涙はすぐに溢れる。

 

「あらあら、大きくなったのに、泣き虫なのは変わらないのね」

 

 泣き出す娘を母は優しく抱きしめる。もう何年もしてやれなかった、親子のやりとり。最早それを阻むものは何もなかった。

 

 

 

 

「貴方がわたくしを治してくれたと聞きました。感謝いたします」

 

 タバサに支えられながら痩せ細った体で移動してきたオルレアン夫人。ケントから顔を出しても良かったのが、礼がしたいからだろう。

 

「お目覚めになられて何よりです。これでタバサ………シャルロット嬢の願いもあと一つですね」

「…………シャルロットの?」

 

 どういうこと、と視線で尋ねるオルレアン夫人。病み上がりの母に心労をかけたくなかった言いづらそうに言葉に詰まる。

 

「シャルロット………話してほしいわ。ここ数年、貴方が何を願っていたのか」

「それ、は…………」

「………………簒奪者の首を貴方の前に並べる、と」

「………………………簒奪者?」

 

 

 

 

 

 簒奪者などいはしない。ジョゼフは正当な王位継承者であった。

 世間に広がる噂も、まさしく心ない下衆の勘繰りでしかない。

 

「そんな………そんなはずがありません! あのような愚王が、無能が、次の王に指名されたなど!」

「貴方は何をもってあの方を愚王などと罵るのです?」

 

 ペルスランの縋るような言葉をオルレアン夫人は一睨みで黙らせる。タバサは目を見開き固まっていた。

 

 全てあの男が奪ったと思っていた。父の王位も、自分達の幸せも。王になれなかった嫉妬から理不尽にも弟を殺し、奪い返されぬよう母を狂わせ自分を奴隷のように扱ったのだと思っていた。

 

「………貴方は、知っていたのですか?」

 

 特に驚いた様子もないケントにオルレアン夫人が問いかける。

 

「予想はしていました。今のガリアを見れば、現王の偉大さは見て取れます」

「し、しかしルイミニア殿……! あの暗愚めは、まともに魔法も使えず、ならばと勉学に励むこともなく」

「片手間に収めた知識であの国土をああしているのなら、私はむしろその方が恐ろしいが…………」

 

 これは本音。周りから遊び歩く昼行灯に見られるほどの勉学の量だというのなら、一を知って一体幾つを知れるのか。

 

「トライアングルの王族ですら、小さな国一つまとめられない。国政に必要なのは杖でなく知恵ですよ」

 

 国防には力が必要だが、それは王ではなく兵の務め。前線に王が立つことで士気を挙げるのは否定しないし事実トリステインもアンリエッタが前線に立ったが、そもそもそうして士気を挙げなければ勝てない状態にする方が王としての素質が足りていない。

 

「まあ、ジョゼフ王はどうも政治に趣味を混ぜているようですが」

 

 むしろその上であれなのだから、やはり大したものだ。

 

「趣味、ですか?」

「どうにも、弟に殺されたいようで」

 

 シャルル派の貴族を残し、彼等が担ぐ神輿を残し、実践という名の修練まで積ませる。政治手腕より魔法の腕が優先されるハルケギニアにおいてトライアングルに至ったタバサは王として担ぐには十分な存在になった。

 

「罪滅ぼしというよりは…………恐らく弟だけが自分の心を動かすのでしょう」

 

 直接見たわけではないから確実ではないが、裁きを待つ王にしては悪徳が少ない。単純に欲望を満たす方法がないだけの可能性もあるが。

 

「あの方は、夫と本当に仲が良かったですから」

「ですが、母様! 父様を殺したのは、あの男で………どうして………」

「殺した理由は、わたくしにはわかりません。ですが、殺されるにたる理由はありました」

「理由?」

「あの人は王位を欲しがったのよ」

「それは、なんとも…………」

 

 ガリアの交差する杖は嘗て王位を巡り国を2つに割った双子の王子のようにならずに、王族は互いに杖を掲げ協力せよという教えを表している。ガリア貴族において双子が禁忌とされる理由である。

 

 故に継承は長男と決められていた。どちらが優秀かなど比べない。それは争いを生むから。

 それを王族たる立場で聞かされていながら王位を求めたというなら、なるほど大した罪人だ。

 

「まあ金の動きを見れば、良くないことをしていたのも確からしいですね」

 

 と、ケントが取り出したのは古びた帳簿。シャルルの物だ。これを見る限り、どうやら裏金まで使っていたらしい。

 

「ジョゼフ殿を罵る家臣も、夫を崇める家臣も………夫が挨拶をした数日後から行っていました。信じたくありませんでしたが、恐らく………」

 

 焚き付けたのはシャルルだろう。

 王になりたかったから。自分を上げ、兄を下げ、父王にすら伝統を破らせる空気を国に充満させようとした。

 

 それが果たされなかったのは父王が伝統に厳格だったのか、歳でボケたか、あるいは全て見抜いていたのか。

 

「シャルロット、覚えていますか? あの人が亡くなってすぐ、集まった貴族達を」

「………………」

 

 タバサはコクリと頷く。幼いタバサには、父を失い悲しんでいたタバサにはただ怖い人達としか印象を持てず、言葉はよく覚えていない。

 

「今すぐにでも敵を討てと言いました。戦力を整えようなどと誰も言いませんでした。当然でしょうね、きっと、あの人が死ぬ前から兵を集めていたのだから」

「旦那様が、謀反を企ていたと…………?」

「そうではないと信じたいわ。あの人を王にしたい人達が、逸っただけだと………」

 

 タバサはケントの『お前の味方がお前のために動くと思うな』という言葉を思い出した。

 

「でも、そんな……」

 

 だけど、シャルルが王になろうと裏工作をしていたなどと信じたくないタバサは震える声で言葉を探す。

 

「復讐など考えてはならないと、私は言いました」

「…………………」

 

 叱られた子供のように俯くタバサ。オルレアン夫人は覚悟を決めたようにケントを見る。

 

「異国の賢者様。どうかお知恵をお貸しください」

「私の知恵を借りたいと? お力になれるとは思いませんが」

「私一人の命で済むように交渉してほしいのです」

「母様!?」

「それは無理でしょう。貴方も分かっているはずだ………オルレアン公の味方が、貴方の娘を逃がしはしない」

 

 彼等は地位と名誉と、あと一部は正義のためにタバサを王にしようとするだろう。タバサが断ろうと『これは亡き貴方のお父上の名誉を取り戻す〜』的なことをいうだけだ。

 

「では、どうすれば…………わたくしは、どうすれば」

「タバサ、お前はどうしたい? まだ仇を取りたいか………」

 

 その言葉にタバサは首を横に振る。ケントは残念、と肩を竦めた。戦争はなしだ。少なくとも、タバサは引き金を引かない。

 

「では簡単だ。逃げましょう、ガリアから」

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