でもくっそお寒いですわよー! 地球さん、少しはお慈悲をくださいましー!
オッス! オラ『CiRCLE』の新人スタッフ*1! 今駅前広場でまりなさんと待ち合わせ中、ワクワクすっぞ! なんてたって今日は
ちなみに集合時間よりも1時間前に駅前広場に到着して待ってるんだけど、めちゃ寒い。浮かれすぎて今日の気温確認するの忘れてた。うおおおおお! トレーナー1枚じゃ寒いですよ、うおおおおおお!!
近くのコンビニであったかい飲み物買ってガブ飲み、公衆トイレと広場をダッシュで往復してる内になんやかんやで集合時間10分前。身だしなみを整えて完璧にお出迎えできる態勢に。
「お待たせー」
出入口から出てきたまりなさんと無事に合流、黒のコートと淡いラベンダーのニットに赤いマフラー……あったかそう。って俺が薄着すぎるんだよ! ここ最近暖かかったのに急に冷え込みやがって、人間はそんな頑丈じゃねえんだぞ地球!
「寒くないの?」
「寒いっす!」
そりゃもう元気に身体が震えるぐらいに……さっきまであったかい飲み物飲んで温めたのに、ちょっと風が吹いただけで冷えるー! さみぃよー!
「マフラー貸してあげるから、ちょっとかがんでくれる?」
言われた通りに少しかがんだら、マフラー巻いてもらいました。何やってんねん、俺は! せっかくまりなさんとのデートだってのに、格好がつかねえじゃねえか!
でも首元がすっげーあったかくなったのでさっきよりかはマシに。当然まりなさんにお礼を言って、頭を下げた。そこまでもないよーって言われたけど。
「じゃあ行こっか」
「……あ、まりなさん、ちょっといいっすか?」
「何、どうしたの?」
「トイレ行ってきます……」
ごめんなさい、待っている間にめっちゃあったかいコーヒーひたすら飲んでたし、寒いんで
……っと、その前にお昼を食べます。え? 集合時間が午後イチだし、まりなさんからお昼食べてから行こうって事前に言われたからそうなったんだよ。しかも、まりなさんの行きつけのラーメン屋を案内してくれるってことでウッキウキです。
「いやー今日は混んでるねー」
歩いて15分ぐらいしたら目的のラーメン屋に到着。店の中に入ると、目を皿にしないと空いてる席が分からないほどお客さんが麺を啜っていた。とりあえず食券を買って待つかー。
「どれにする? 今日はたくさん荷物持ってもらう代わりにお昼代とかは奢るから好きなの選んでいいからね」
「マジすか! ありがとうございます! じゃあ寒いんで辛いのにしたいっす」
「いいね、私も頼もうかな」
まりなさんの奢りで辛みそのラーメンセットを頼みました。さっきからなんかまりなさんに色々とお世話になってばっかり……くぅ~荷物持ちで挽回するしかねえ! 日頃重い機材を持ち運んでいるし、ここで見せないと格好いいところ何一つないまま終わっちまう!
ということで買い物に向けて飯を食います。2人並んでカウンター席に座って、お兄さんたちに食券を渡す──待ち時間に適当な世間話をしてました。え? もうちょっと何か話せよって? えー本当に寒くなったねーぐらいしか喋ってないもん、でもまりなさんのご尊顔を間近で見れて良かったっす、はい。
「美味しかったねー」
「そうっすね、身体もあったまりましたし」
食い終わってお店を出て、ショッピングモールに向かう。いやーうまかったー、適度に辛くて味噌も濃かったし、チャーハンもうまかったー。おかげで寒風吹いても平気……じゃないけど我慢はできるようになった、あ、でも口の中まだちょっと辛い。
「まだイチョウ落ちてないね」
「なんか今年は黄色になるの遅いって言ってましたねー」
「そうだよねー、最近この時期にしては暖かかったし」
「にしても寒くなるの急すぎるんすよ」
目にした黄色になったばかりのイチョウ並木を皮切りに、今年の気温について話す。いや本当にマジで急降下すぎるんだって、地球はちょっと人類に対する復讐心強くない……? もうちょっとこう手心加えてほしいんだけど。
「週末寒くなるって聞いてたけど、ここまで寒くなるのは流石に予想外だよね」
「おかげで俺はさっきまで氷漬けにされそうな気分でしたよ」
そんなこんなで
「すみません、まりなさん、先に上着買ってきてもいいっすか?」
「いいよ、私もちょっと冬物見てみたいし」
「ありがとうございます!」
やっぱり寒さには勝てなかったので臨時の上着を買いに行きます。モール内の暖房が身に沁みるぐらい身体がヒエヒエー状態だから本当に外出れなくなっちまうってばよ。
エスカレーターで上がった先の様々な服屋が並んでいるところ、比較的にお安い店で物色することに。っていっても俺は適当なダウンジャケットを買うだけだけど。まりなさんはどんなものを買うんだろ? ニットとかかな?
雑に予想を立てながら買う予定の上着を手にまりなさんのところへ……あれ? 見ているのって……。
「ん? どうしたの?」
「あ、いや……まりなさんがスカートとか手にしてるの珍しいなって……」
大体バイト以外に会わねえし、今日みたいな日だってジーパンにスニーカー。だからちょっと意外というか、あんま見たことないから驚いたというか。
「まージーパンの方が動きやすいからねー。たまにスカートとか履くけど、やっぱりこの時期は寒いから着ないね」
苦笑いしながらまりなが言った。もしかして内心似合わないとか思ってんのかな? そんなことないのに……いや待てよ、ここで俺が買ってあげたら男が上がるんじゃねえか? よーし、
「なら俺がその「あっこの裏起毛のやつ安い、買っちゃおうかな」……俺も買おうかな……」
俺は……弱いッ! 結局まりなさんジーパンしか買わなかったっていうか、俺が買ってあげられなかった。つられて同じデザインのジーパン買っちゃったし……いやこれはこれでありじゃね? まりなさんとお揃いとかあり寄りありじゃねえか。あとちゃんとダウンジャケットも買ったし、今年の冬はなんか余裕で乗り越えられそうな気がしたぜ!
服屋のコーナーをあとにして、上の階へ。ようやく今回の買い出し場所である100均ショップに到着して、季節品を調べる。いやー、今の100均ってたまに500円とか1000円とかの高額商品出すようになったよなぁ……いやちゃんとしたのを買うよりかは全然安いんだけどさ。
あーというか、コスプレ衣装っぽいものとか売るようになったんだな。こういうのって、格安の伝統だとか伝説だとかみたいなところで売っているイメージが強かったんだけど……お?
「まりなさん、ありました!」
お目当ての物を手にして、急いでダッシュ──じゃなかった、早歩き! パーティーグッズを眺めていたまりなさんがこっち向いてナイスってサムズアップしてくれた、やったぜ!
「これでクリスマスは困りませんね!」
「いい加減『CiRCLE』にもサンタさん来てもらわないとね」
「サンタの格好をしたクマさんなら来ましたけど……」
去年はミッシェルがサンタの格好をしてライブしたなー。美咲ちゃん、ライブ終わったあとめちゃくちゃ水飲んでたのも記憶に新しい……しばらくぐったりしてたから死ぬほど暑かったんだろうなって。着ぐるみ着て、サンタさんやるのってやっぱり大変だよな、すげーよ美咲ちゃんは。
「そういえば
ライブして欲しそうな顔をするまりなさん。でも俺は今年『CiRCLE』のサンタさんやるって使命があるし、リーダーは彼女とデートするって言ってるし、他の連中もバイトや用事が重なってんだよな。
「ライブしたいのは山々ですけど、今年は無理っすね……」
「そっかー、残念」
「でも俺ちゃんとサンタやるし、クリスマスライブもちゃんとサポートするんで!」
「じゃあ頼りにしてるね」
嬉しそうに笑うまりなさん……やっぱりこの人の笑ってる顔好きだなぁ……。
「今日はありがとうね」
「いえいえ礼には及びませんって……ってか俺の方こそ色々ありがとうございました」
買い出しは終わって、飾り付けだとか機材整理のために『CiRCLE』に戻ってきた。今日は定休日だからガールズバンドたちの賑やかな交流はなく、当番の人たちが黙々と清掃や機材チェックしている。意外と静かな場所だったんだなって、こういう日に来るといつも思う。
「『CiRCLE』もオープンしてから2年か……高1だった子たちは高3になるんだから早いよね」
「そうっすね、香澄ちゃんや蘭ちゃんたちもあんなに小さかったのに……」
そりゃもう小学生くらい幼かった子たちが──
「いやいやそこまで小さくはなかったでしょ」
ですよねー。危うく存在しない記憶を生み出すところだったぜ。
「でも本当にみんな頼もしい先輩の顔になりましたよね」
「うんうん、そうだね。みんな後輩ができて……『Morfonica』の子たちも今では立派な先輩になったし」
月ノ森の子たちで結成したバンド『Morfonica』も『CiRCLE』に来た当初は初々しい後輩バンドって感じだったのに、今では彼女たちに憧れてバンド始めたって子たちもいるぐらいに成長したもんな。光陰矢の如しってこういうことなんだなってヒシヒシと感じるよ。
「みんなこれからどんな道を歩くんすかね」
「大学に行きながらバンドを続ける子が大半だと思うけど……」
「高校で一区切りして解散だってところもやっぱりありますよね」
「寂しいけど、その子たちが決めたことだから最後まで見届けないとね」
『Roselia』や『Pastel*Palettes』の子たちみたいに大学生になっても続けているバンドは多いけど、中には進学先の問題とか就職だとかで活動休止や解散するバンドだってある。ここ2年で色んなバンドの終わりと始まりを見てきた──考えれば考えるほどじいさんになったんだな……はあ。
「そういえば勝くんのバンドはどんな感じなの?」
「あー就職してもやるかどうかはまだ話し合い中っすね」
「そっかー、納得できる答えが見つかるといいね」
「なんやかんやで俺らも他人のこと言えないっすね……就職先どうしようかなー」
「『CiRCLE』に来る? 君なら大歓迎だよ」
「いやまだ考えさせてください」
……実は『CiRCLE』への就職が第1希望だってことは内緒だぞ。しかも、まりなさんのことが好きだからってのが半分以上ってのも内緒だからな? 下心しかねえのかって言われたら首がもげるぐらいヘドバン決めてやんよ。
そんな調子でまりなさんと思い出話に花を咲かせながら明日の開店に向けて飾り付けをしたり、スタジオの掃除をしたりして店内を忙しく動き回ったら、あっという間に仕事が終わって帰り支度。普段はオーナーが終わりじまいに鍵をかけるんだけど、定休日やライブをやった日はまりなさんが鍵番をしている。ちなみに俺はそれの付き添い……え? だって夜中に女性1人だけって危ないっしょ? だから俺がいるってワケ……いくら下心があるとはいえ、健全な男子大学生だからな? やらねえからな?
鍵がかかったのを確認すると最寄り駅まで2人並んで歩いていく。俺がバイトを始めてからずっと続いている光景──今まで気づかなかったけど、もう少ししたらこういう時間もなくなるんだよな。本当に早えよな、時間が経つのって。
気がつけば改札口が見える。俺は電車には乗らないからここでお別れ。
思えば俺が『CiRCLE』にバイトしようと思ったのは、まりなさんに一目惚れしたからなんだよな……前のバイト先が潰れたのもあったけどよ。即戦力として扱われてあれやこれやとこの人の傍で働く内に、色んなことを知ったというか──元々バンドガールだったからこそ今のみんなも悔いなく楽しんでライブしてほしいって頑張ってる姿見てると、俺も頑張らなきゃだとか支えたいだとか思うようになって。……人生一度きりって言うんだし、やるか……!
「あ、あのーまりなさん」
「んー? 何?」
「俺、まりなさんのことが好きです!」
「……へっ?」
見上げた赤い瞳が固まったまま俺を映す。もう一押し……!
「だから俺は月島まりなさんのことが大好きなんです!」
「えっ? えっ? えっー!?」
「前からずっと好きだったんすよ! みんなの夢ずっと応援できるいい人だなって……だから、その……俺とお付き合いください!」
「ごめん! 気持ちは嬉しいんだけど応えられないかな。今はまだ色んなことで考えることがいっぱいだからさ」
見事に玉砕しました……あはは、まあまだチャンスはあるし? 諦めませんからね、まりなさんが彼氏作るまでは。ちなみに彼氏できた場合は盛大に祝わせていただきますし、ご結婚までされたらご祝儀死ぬほど出すんでご安心ください。
「だけどね」
あれ? 話が続いてる……? 本当にまだ終わりじゃない?
「もし私一人だけじゃできないことがあったら……そのときは頼りにしてもいいかな?」
「もちろんっす! ぜひぜひ俺ができることなら何でも! まりなさんのためなら火の中水の中でも飛び込んでやりますよ!!」
「いやそこまでしなくてもいいかな……ステージ演出でしそうなバンドも思い当たるし」
「あー、こころちゃんたちのバンドとかっすかね……」
恐るべし『ハロー、ハッピーワールド!』、俺一生このバンドに勝てる気がしねぇよ。どう頑張ってもあの想像力と実行力があるバンドに太刀打ちどころか太刀へし折られるって。それはそれとしてミッシェルが水の中火の中でパフォーマンスしてるところは見てみたいかも、すまん美咲ちゃん頑張ってくれ。
「本当に今日はありがとう。また明日もよろしく!」
「はい、明日もよろしくお願いします!」
小さくなっていくまりなさんの背中が見送る。完全に姿が見えなくなったら、俺もバスに乗るために歩き出す。また明日から頑張るぞー!
…………ちょっと待てよ? なんか忘れてるような……あっー!
「マフラー返すの忘れてたー!!」