悪の怪人に転生したので美少女戦隊に投降します 作:トマトルテ
『あの人の居ないこの世に未練なんてないわ』
それは、本来あるべきだった世界での出来事。
原作世界と言い換えてもいいかもしれない。
『もうやめましょう! こちらに投降してください!』
『そうでござる。負けたから死ぬなどバカげているでござる!』
『どうして……どうして…そこまでするの?』
ビューティーレンジャーと、否、白蓮も合わせた4人と戦い敗北する桔梗。
だが、それは単なる敗北では済まない。
『待ってよ、ママ! あたしを置いていかないでよ!?』
『白蓮……あなたは生きなさい』
自らの願いが叶わぬと知った桔梗は、地割れの中に身を投げる。
まるで、イザナミに会いに行くイザナギのように。
黄泉への道を1人、進んで行く。
白蓮という娘を1人残して。
『ママーッ!?』
母であることより、女であることを選んだ1人の恋物語。
それが、本来辿るはずだった未来である。
ある者は言う。愛に殉じた美しい物語だったと。
ある者は言う。親の責務から逃げた、毒親の話だったと。
ある者は言う。どうして新しい恋でも、見つけて幸せになれなかったのかと。
そして、ある男は言う。
―――こんな結末、認めないと。
辺り一帯を重力で押し潰し、怪人として底上げされた身体能力でゴーレムを砕く。
悪の組織のボス相手でも一歩も引かない。
いや、むしろ圧倒する光景に見ている者達の目は釘付けになる。
「これが、怪人を超えた怪神……オメガの全力」
片足を失っているというのに、重力を上手く使って負担を減らすことで、両足のような滑らかな動きを実現している。まるで、中身が入れ替わったかのような動き方。いや、実際に入れ替わったのだ。意図せずして、生前人の身体を奪ってしまった竜胆という男に。
「……どうして?」
圧倒的な力でジリジリと追い込まれながら、桔梗がポツリとこぼす。
「どうして、あなたは私の愛を受け入れてくれないの!?」
それは魂からの叫びだった。
彼女の行動は全て夫への愛だ。
悪の組織を作り、夫を蘇らせようとしたのはラブレター。
彼女の半生を費やした、永遠の愛を綴る恋文。
もう一度抱きしめて、口づけを送ってと。
いじらしい程に乙女な愛の告白。
そして、生前の夫であれば迷うことなく受け入れたであろう口づけ。
だというのに。
「―――何もかもをあなたに捧げて来たのに!?」
男は受け入れない。
愛想をつかしたわけでもないのに。
別の恋を見つけたわけではないのに。
女を今でも海よりも深く愛しているのに。
竜胆は決して、桔梗の言葉を受け入れない。
「どうして…か」
桔梗が手に持つ杖を吹き飛ばし、無力化しながら竜胆は答える。
愛を求める女に酷な一言を。
「君に母親になって欲しいからだ」
愛を求めるのではなく、愛を与える側になって欲しいと。
「母親…? 白蓮ならちゃんと一緒に居るわ。あなたと私の愛の結晶。とてもいい子だから、すぐにあなたとも仲良くなれるわ、きっと」
「ああ、違うんだ。違うんだ、桔梗。このまま、黄泉の門から魂を溢れさせるわけにはいかないんだ。でなければ、白蓮は
「……消える? どういうこと?」
だから、竜胆は残酷な事実を告げる。
男への愛に一途な乙女を叩き起こして、母としての自覚を持たせるために。
「白蓮は―――
空気が凍る。
まるで、時でも止まったかのように。
遠くで白蓮が首を傾げ、桔梗は訳が分からないと首を振る。
「いいえ……そんなはずはないわ。だって、あの子は遺体を成長させたのよ? 遺伝子情報だって100%私達の子だと証明している」
「そうだな。体は君のお腹の中にいた子だ。でも―――
では、ここでもう一度おさらいをしよう。
転生主人公の意識は、
この世に生を受けてからが物語の始まりだ。
では、そうなってくると――
―――お腹の中に居た時の意識は
「……嘘よ、嘘……だって、あの子は本来なら生まれていないのだから……魂なんて」
「嘘なわけあるか。君が一番知っているだろう? お腹を蹴っていた僕達の子供の姿を」
「あ……う……」
白蓮に過去は存在しない。
だから、魂を呼び戻しても今の白蓮は消えない。
そんな前提がひっくり返される。
他ならぬ、今のオメガを塗りつぶしている竜胆の手によって。
「白蓮……君は自分のパパを知っているか?」
「知らない。オメガっちはオメガっちだよ」
竜胆が追い打ちとばかりに白蓮に声をかける。
そして、当然の如く帰ってくる否定の言葉に、一瞬悲しそうな目をしながらも話を続ける。
「じゃあ、君の母親は?」
「ママだよ! ママ!」
心配そうな顔で、桔梗に声をかける白蓮。
桔梗はその姿に何も答えることが出来ない。
この子を自分は消そうとしていたのかと。
「この体の本来の持ち主……オメガだってそうだ。母さんって呼ばれているんだろう?」
「それは……」
「うん! オメガっちは、あたしの弟だよ」
「そして、君の息子なら俺の息子だ」
そして、更に続けられる言葉。
優しくて、残酷な、言葉のナイフ。
「君は俺に息子を殺させる気か?
生まれてこなかったあの子に―――
心の折れる音がする。
愛に生きる女には余りにも惨すぎる行為。
彼女は愛する者のために世界を滅ぼすことは出来ても、世界のために愛する者を殺すことは出来ない。
桔梗が膝から崩れ落ちる。
「君の愛は嬉しい。でも、今ある家族を捨ててまで俺達にこだわって欲しくはないんだ」
「ごめん…なさい……」
ポタリと涙が地面に落ちる。
「ママ、大丈夫?」
「白蓮……」
そこへ、白蓮が心配そうに駆け寄ってくる。
そして、キッと竜胆を睨みつける。母親そっくりの目で。
「ママをイジメちゃだめ!」
「ああ……ごめんな」
竜胆はその瞳に嬉しそうに微笑み返し、桔梗の方を向く。
「まだ、この子が消えるかもしれない行為を続けるかい?」
「……あなただけを別の肉体に入れることは出来る?」
本当に諦めの悪い
まあ、そう言う所に惚れたんだがと、竜胆は笑う。
「難しいな。出来たとしても、やる気はないが」
「どうして? 技術的な問題なら私が何とかして――」
「三途の川で石を積んでる
ああ、負けたと、桔梗は思う。
そうだ。自分は女としての愛を取ったが、竜胆は父親としての愛を取っただけなのだ。
何より、ずっと罪悪感を抱いていた水子の傍に寄り添っていてくれたのだ。
自分がこの世で、前だけを向いて生きていけるように。
「……そうね。お願いするわ」
「苦労を分かち合うのが夫婦だ。白蓮とオメガの子育ては任せるよ」
「大丈夫よ、2人ともいい子だから」
竜胆の身体が白く光り始める。
成仏しようとしているのだろう。
引き留めたくもあるが、それは出来ない。
何故なら、彼女は母親だから。
「桔梗」
「何、
だとしても、最後の言葉でぐらい男と女に戻ってもいいだろう。
まだ、母と父になる前だったあの頃のように。
「―――愛してる」
「ええ、私もよ」
光が消えて、オメガの身体が再び黒に戻る。
「………父さんは帰ったよ、
「ええ、ごめんなさいね……
竜胆が消えて、体の主導権を取り戻したオメガが母さんと告げる。
そして、桔梗もそれを優しい声で受け入れる。
ただの親子のように。
「これで一件落着ってことでいいのかな?」
「ううぅ……それがし、涙で前が見えませぬ…!」
「これ以上の抵抗はやめて頂きたいのですが……どうしますか?」
そして、そこにずっと見守っていたビューティーレンジャーが近づいてくる。
武装は解いていない。
その気になればいつでも戦えるようになっている。
「母さん……」
「オメガが決めていいわ。私よりも彼女達と親しいでしょう」
だから、オメガは桔梗に目配せをするが、桔梗は動かない。
何があっても子供達のためになる行動だけをする。
そう、新たに決めて。
「そうか、じゃあ俺達は――」
故に、オメガは万感の想いを込めて口にする。
「―――ビューティーレンジャーに投降する」
これにて第一部完。
感想評価お願い致します。
それと、新作書いたのでよろしければどうぞ。
『パーティーメンバーがデカケツ熟女しかいない』https://syosetu.org/novel/362820/
デカケツとおねショタの素晴らしさを世界に広めるための作品です。
『昔書いた黒歴史小説に転生してしまった件について』https://syosetu.org/novel/362758/
ギャグ。一発ネタ。