夢を、夢を見ていたんだ。
とても激しく、荒々しく、雄々しい夢を。
嗚呼、俺達は見続けていたのだ。
ただ、ひたすらに。
その夢の中で、俺は天から見下ろすように、まるで神の視点からその荒野を眺めていました。
荒野に二人の男達が朝日と共に並ぶ……二人共、何処か晴れやかな顔で、清々しい表情で顔を合わせる。
二人共、互いに恨み等何もないような、寧ろ友とすら思っている様な和やかな表情だ。
しかし、そこには戦おうという決意があった……必ず相手を打ちのめすと言う意思があった。
「さぁ……おっ始めるか。」
赤髪が逆だってくるの荒々しい青年が、拳を突き出してそう語りかければ、彼の周りの地面がまるでえぐられるように消えて……虹色の光となり、その右腕に纏わりつく。
光の中、腕は三枚おろしにされたように分かれ、まだくっつき……黄金の鎧を纏わりつかせ、その背には赤い3枚の羽が浮かび上がる。
「……絶影。」
相対する緑髪のクールでいなせなその男は、その手を開き手刀として腕を振るう。
さすれば、彼の後ろにあった車が木っ端微塵となり光の粒子となって、男の目の前にビジョンを形作った。
白い拘束具を纏った、悲しみや怒りや決意を一緒くたにしたような瞳を持つ人型のビジョン。
紫の鞭の如く刃を持つ、意思の塊。
二人の
「……フッ。」
「んじゃあ行くぜ……先ずはコイツからだ!兄貴譲りの……衝撃のファーストブリットォォォォォッ!!」
その声と共に黄金の腕が力を解放するように、まさに
まるでエンジンの炎のように緑色の輝きが吹き荒れ、男を身体を前へと突き進ませる。土煙が舞い上がり、まるで後ろに壁を作るようだ。
男は地面を滑るように回転しながら、目の前の男へと突き進む。
「さぁ来いッ!!」
男が手を振るえば、そのビジョンは紫の刃を振るい、目の前の拳へとぶつかり合う。
二つの強大な力がぶつかりあい、衝撃が世界を、地面を、空を、宇宙を!俺の心を揺れ動かす!
思わず目をつむりたくなるような、痛ましく意味もない、しかし大いなる意志のもと行われる戦い。
それから目をそらすことは、俺にはできなかった。
別に、別に目の前にいる人を恨んでいるわけじゃない。
違う出会い方なら、こうはなっていなかった。
でも、あの時出会ってしまった。
だから戻れない。
ただ上に行きたい。
白黒はっきりさせたい。
心に区切りをつけたい。
目の前にいる人は壁、相容れぬ存在。
嗚呼、すべては前に歩くために。
すべては前に進むために。
そう、そうも思っているはず―――いや。
そう思うだろ?
アンタも!!
響く電子音に鬱陶しく思いながら、夢を見終えた俺は、しかれた布団の上で目を覚ました……昔から、よく夢を見る事があった。
夢の中の俺は、まるで神か何かのように物事を見ていた……夢の中の世界は、俺の居る世界とは全く違う、大地が隆起し、人々の悲しみはより深い。
皆が生きようと懸命に足掻く。
俺は、その中で生きる者達を滑稽は思えなかった……まるで自分とその中で行きてるように思えたから。
彼らの意地が、力が、生き様が、今の俺を支えているのだから。
「嗚呼――良い夢見させてもらったぜ。けどな、あれは夢だ……俺のですらない、只の他人の
俺はそれが何故か虚しく、悔しく思えてしまいその拳を握ってしまう。
「だからよ……此処からは俺が夢を見せる番だ。此処からは、俺の
俺は自分でも訳がわからなくなるような言葉を吐き捨てて、ベッドから起き上がる。
リビングで母さんが飯を作ってくれるのを察した俺は、ゆっくりと戸を開けるのだ。
そこに待っていたのは、ベージュ色の髪を結んだ、オレンジの服を纏った一人の女性だった。料理を作り終えたのか、皿洗いをしてる最中の様だ。
「……母さん?」
「あ、リョウ君、おはよう。朝ごはんできてるよ?」
「……もう俺ァガキじゃねぇんだからよ。リョウ君なんて呼び方よしてくれ。」
リョウ――リョウマ。それが俺の名前だ……そしてこの人が俺の母さん……とは言っても、血は繋がっていない。
孤児で、ロクデナシで、クズでウスノロな俺を引き取った物好きな人だ……なんでも、昔面倒を見てた人と良く似ているらしい。母さんと呼ぶと、何故か喜ぶのでそうやって呼んでる。
俺は自らの席に着くと、差し出された料理を口に入れる……相変わらず、不味い。不味いけど、本当に美味い……不思議な味だ。
母さんは、黙々と飯を食べる……そんな俺を見つめて一つ問いかける。
「リョウ君、時間は大丈夫?準備は済んでる?」
「嗚呼、大丈夫だよ。」
母さんがここまで色々気にかけるのにも理由がある……今日は少し、特別な日だからだ。
私立雄英高校――世界ではびこる特異体質、個性を持つ者……その中でもその力を人々への奉仕の為に使用する者達をヒーローと呼び、その養成学校の役割を担う私立学校だ。
今日、この日こそ……その雄英高校の入試試験日。時間に遅れたり、荷物を忘れたりしたら一生のトラウマ物だ。
俺は母さんが口酸っぱく言うからには鬱陶しくて既にに用意し終えてある。
「本当にぃ?リョウ君物忘れ激しいから。』
「大丈夫だよ。」
ヒーロー、英雄、嗚呼……甘美な響きの言葉だ。そんな大いなる存在に頼れたらどれだけ楽だろうか。
嗚呼、だけど俺には無理だ。
誰かに背負わせっきりで生きていくなんてのは……それだけは、死んでもごめんだ。
だから、俺は少しでも長く自分の道を歩く為に、その道を選ぶ。誰かに背負われっきりじゃない、俺は俺の道を俺の足で進む。
改めて、俺の中の決意を固める……すると、そんな俺を察してか、母さんは俺に対してまた声をかけてくる。
「リョウ君。」
「何だって――」
俺はあまりにしつこい母さんに少し苛ついた目を向ける……すると、母さんは俺に対して微笑みかけて、しずかに、俺の背を押すような声で語る。
「頑張ってね!」
「……あいよ。」
俺はそう、ぶっきらぼうに言葉を紡いだ。
素直にありがとうも言えない――嗚呼。俺ぁ本当に不器用な男だ。
まぁ、そんな一幕を挟みつつも時間を大きく飛ばす。
あまり語るべきこともなかったからな。筆記試験?大丈夫だ、出来たと思え出来たと信じろ気合を入れろォッ!!
さて、場所は雄英高校のとあるグラウンド……グラウンドと言っても、その広さや並ぶ建物たるや、ちょっとした匣庭のようにも見える。
ここで行われるのが、今年度の雄英高校の実技試験。ルールは至って単純……ポイントの割り振られた仮想敵を倒してポイントを稼ぐ……これだけだ。
兎に角ぶっ壊してオーケーな、ある種単純……分かり易い試験だ。分かり易すぎて怖いほどに……
(ま、無駄にややこしい試験よりかはマシか。)
俺はそんな事を思いながら、凝った肩を大きく回して試験開始の合図を待つ。
待ってる間は退屈で、俺らしくもなく筆記の心配をしてしまった…大丈夫かねぇ。まぁ、大丈夫かぁ。
……そんな事を考えてる間に、何処かに取り付けられたスピーカーから、試験官の声が響く。
「はい、スタート。」
あまりに間の抜けた開始の合図に、流石に俺も唖然する……これ、行っていいんだよな?
「おいおいどうしたァッ!?実践で合図はナッシング!走れ走れェッ!」
……行っていいみたいだ。そう判断すれば、俺は足を踏みしめて、地面を蹴って、そのグラウンドの中を突き進む。
まさにコンクリートジャングルな街中……受験者の足音以外は、嫌に静かだ。
(んだよ、もっと面白ぇモンがあると思ってたのによ。)
俺は半ば肩透かしにも似たような感情を持つと、そんな中、上空からビルの窓ガラスを突き破って深緑の赤いモノアイを携えたロボットが降り立つ。
「標的――発見――ブッコロス……!!」
――見ればわかる通り、これが話に聞く仮想敵の様だ。俺はそっと笑みを浮かべて、手をつきだし……俺の『個性』を発動させる。
「へへっ――いいねぇ、お前みたいなのを待ってたんだよ!」
「ブッコロ―――?」
すると俺の目の前の仮想敵は次の瞬間、まるで削り取られるように虹色の光となって砕け散り、消滅する。この光、夢で幾度も見た光だ。
その光は、やがて俺の右腕へとまとわりつき、鎧となって装着される……嗚呼、夢で何度も見た力、名前も知らぬ赤髪の男が手にしていた力。
「へへっ……ちぃと痛むが、使えるな……!!」
俺の腕に纏わりつく力、掴んだ力――そうだ!これが!これこそが!
「俺のォッ!シェルブリットだッ!!!」
個性『
物質を分解し、特定の形に再構成させる事が出来る個性……その能力は感情の高ぶりによって幾度も進化する。
仮想敵の内の一体を消し去ったが……当然それだけで終わるはずはない。
「敵対者――」
「標的――」
「ねじコロス――!!」
どこに隠れていたのか、次々と現れる仮想敵。
嗚呼、久しぶりに思う存分暴れられる……いいねぇいいねぇ!そうこなくっちゃあなぁ!
「さぁ行くぜッ!!小手調べにコイツからだ――信念のシェルブリットォッ!!」
俺は叫び、その黄金の拳を、目の前に立ち塞がる壁へと叩きつける。この一撃が、俺が先へ進む為の一撃だ!!
分かってる……シェルブリットなんてアルター能力持つような奴が雄英高校に入学出来る訳ないって――だが!その常識に反逆するッ!!