何年か前に書いた作品が埋もれていたので供養のため出してます。
予め言っておきますが続きません。

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FAIRY TAIL~END ZERO~

──さい。

 

 

声が聞こえた。

 

何処からかはわからないが呼ばれている気がする。

 

───て……さい。

 

微かに聞こえたその声に振り向くがそこはただ黒が広がっていて他になにも見えなかった。

 

いや、そこだけではない。

よく見れば周囲の何処を見ても黒ばかりで他にはなにもない。

 

幻聴か、と思ったけれどまたしても声が聞こえた。

 

手足を動かそうと力をいれてはみるが体が言うことを聞いてくれない。いや、そもそも感覚すらないので動かそうとしても無駄なことだろう。

 

──お……て……さいっ。

 

まだ聞こえる。

しかし鬱陶しいとは思わなかった。

 

だって、こちらを呼ぶその声は、透き通っていて、とても、綺麗で、美しく感じたから。

 

まるでそれは、妖精が囁いているようだった──。

 

 

 

△▽△▽△

 

魔導師ギルド、妖精の尻尾。

マグノリアに存在するそのギルドの名は、フィオーレ中に知れ渡っていた。実力や功績はもちろんのことだが、それとは逆に苦情なども比例して常にフィオーレ中を騒がせていた。良くも悪くも妖精の尻尾はフィオーレ一と呼ばれるほどに。

 

そんな妖精の尻尾には、当然のことながら強者の魔導師たちが集まっている。聖十大魔道とも比肩をとらない実力をもつギルダーツを筆頭に数名の魔導師がいることはもちろん、竜に育てられた滅竜魔導師と呼ばれる魔導師が三人、竜のラクリマを埋め込まれたものも合わせれば四人もいる。

名を聞けば息を呑んでしまうような者たちがいるそんなギルド。

 

そのギルドが離島にある天狼島で、S級魔導師認定試験を行われているときに、事件は起きてしまった。

 

バラム同盟の一角である闇ギルド、悪魔の心臓の襲撃。

 

 

 

 

 

──ではない。

 

 

闇ギルドの三大勢力の一つでもある悪魔の心臓の襲撃は、事件と呼べるものだ。島の象徴たる木は倒され、マスターマカロフも倒れ、ギルドメンバー全員が大ケガを負うほどの戦いを繰り広げた。最終的に敵幹部及び、悪魔の心臓のマスターであり妖精の尻尾の二代目マスターだったプレヒトを打倒したものの、その戦いのどれもがギリギリで、妖精の尻尾が全滅してもおかしくなかった。

 

そんな戦いですら生ぬるいような事件……天災がやってきた。

 

 

 

漆黒の竜、アクノロギアの襲来だ。

 

 

黒魔導師ゼレフ同様に問題視されている目の上のたんこぶ。そのゼレフですら戦き、時代の終わりを告げる黒き竜と言わせるほどのアクノロギア。国一つ滅ぼしたとも言われるその黒き竜は、突然天狼島へ上陸してきた。

 

悪魔の心臓との戦いで傷ついた体に鞭を打ち、なんとか抵抗をした妖精の尻尾の魔導師たちだったが、攻撃は全くと言っていいほど効かずあそばれた。

 

飽きてしまったアクノロギアは天狼島ごと魔導師たちを咆哮で消し飛ばした。

それを遠方から見ていた評議員たちは、アクノロギアが放った咆哮に恐れを抱き、妖精の尻尾といえども助からない。そう思っていた。

 

しかし、彼らは……天狼島は無事だった。

幽体である妖精の尻尾の初代マスター、メイビスヴァーミリオンが使った妖精三大魔法の絶対防御魔法『妖精の球』によって。

妖精の尻尾たちの意思を魔力に変換し発動させた妖精の球は、無事にアクノロギアから天狼島及び魔導師たちを守ることができた。

 

 

が、その魔法を解除するには長い時間が必要になった。

 

 

本来の時間軸ならば、妖精の球によって天狼島ごと守られた魔導師たちが餓死しないため、魔法による七年の肉体凍結保存を行う筈だったのだが……。

 

 

おかしなことに、一人だけ……炎竜王イグニールから魔法を教えられた滅竜魔導師、ナツ・ドラグニルの姿が天狼島から消えていた。

 

 

 

△▽△▽△

 

 

「ぁ……?」

「大丈夫ですか、意識はありますか?」

 

自分の手を握る小さな手の温もりを感じながら意識が浮上した。

瞼を開け、地面で横になっていた上体を起こしてあちこち見渡す桜髪の少年、ナツ。

 

辺りには木々が生い茂っていて時折動物の鳴き声も聞こえてくる。若干上の方を見上げると島の中心の方からどでかい樹が生えていた。

何処か、と考えるまでもなく天狼島であることはすぐにわかった。

 

長い間眠っていたかのような気だるさで頭が働かない。それこそ、隣で何度も此方の安否を確認する見たことのない少女のことに関しても。

 

何が何だか分からずしばらくボーッとしていたが、少しずつ冷静になっていくと同時に先の戦いや今の状況も理解した。

 

「そうだ、アクノロギアッ!それにハッピーたちも……!」

「あっ、そんな怪我で急に起きたら……」

「ッ……!」

 

立ち上がろうとしたが、身体中が傷だらけな上魔力もほとんど消費しているせいか、力が入らず尻餅をつく。

しかし、それでもすぐに起き上がろうとするナツ。

 

このままでは身体の傷が悪化してしまうと感じた少女は、ナツの両肩をつかみ強引に動きを止めた。

 

「落ち着いてください!」

「放せよ、仲間を探さなきゃなんねぇんだっ!」

 

アクノロギアに全員殺されたかもしれない。悪い方向ばかり思考が流れているナツは少女の声など知ったことではないというように、押さえつける手を振りほどこうとする。

 

少女の方も少女の方で、気が動転しているナツを宥めようと取り合うが全く話を聞く耳さえ持ってくれない。

 

ナツが疲労しているお陰で腕っぷしがない少女でもなんとか抑さえられてはいるが、何もしないでいるとこの状況から何も進まない気がした。

 

目の前の男に話が通じないと察した少女は、首を反らし……。

 

「っ!?!」

「~~~~っ!!」

 

ゴツンと鈍い音がした。

 

己の頭をナツの頭に打ち付けたのだ。

しかし、日常でも喧嘩などでよく頭突きをするナツの頭は思ったよりも固く、ナツは少しの痛みしか感じなかったが、少女は頭を両手で抑え悶える結果になった。

だが、そのお陰かナツは落ち着き、初めて少女を認識してくれた。

 

「痛ェな、なにすんだよ!」

「~~~~~っ!!」

 

怒鳴るように言ったナツは、そこで初めて涙目で額を抑える少女を見た。

 

「……お前誰だよ」

「うぅ……わ、私ですか?」

「お前以外に誰がいんだよ……にしてもお前、どっかで嗅いだことのある匂いがするな」

「ちょ、止めてください!女の子の匂いを嗅ぐなんてマナー違反ですよ!」

 

顔を近づけてスンスンと嗅ぐナツの顔を少女両手で押し返した。

いまだに額が痛むのか手で撫でながら少女はゆっくりと立ち上がった。

 

「わ、私はメイビス。メイビス・ヴァーミリオンです」

 

匂いを嗅がれたことが嫌だったのか、少々頬を膨らませながらも自己紹介をしっかりする。

 

「メイビスか……んー?」

 

つい最近、メイビスという名前をどこかで聞いた気がする。

いつだったか……思い出そうとするがその時は気に止めなかったからか、ナツが馬鹿なのかなかなか思い出せずにいた。

 

「それで……あなたの名前は何ですか?」

「オレはナツ・ドラグニルだ。よろしくな、メイビー」

「メイビスです!……もぅ、今自己紹介したばかりなのに」

「わりぃわりぃ」

 

初めてナツの笑顔を見て、やっと落ち着いてくれたと、メイビスふぅと息をはいた。

 

 

「ところで、この辺にオレの仲間がいなかったか?」

「仲間、ですか?……えっと、ですね」

「えっと……まずルーシィっつぅ──」

 

仲間と言っても、どのような外見かわからないであろうメイビスにもわかるように、ナツは一人づつ外見を挙げていく。

 

しかし残念なことに、この島を歩き回った今日、メイビスは一度もナツ以外の人を見ていない。そもそも、ここ数年この島に入ってくる人など見たことがない。

 

「あ、あの~……」

 

メイビスは、いまだに特徴をあげているナツに言いづらそうに伝えようとした。

 

「──ハッピーって見た目は青い猫で、首に布巻いてて、空飛べて、んでもって喋って……」

「──青い猫?」

 

ナツの発した青い猫に、メイビスが機敏に反応した。

それに何か知っていると思ったナツはメイビスに詰め寄った。

 

「ハッピーのこと、なにか知ってるのか」

「あ……えと、はい。空を飛ぶかは分かりませんが先ほど、ナツが倒れていたところのすぐ側に倒れていたので、手当てをしたあとに日陰の方に……」

 

といって、メイビスが指差した方を見ると、少し離れた位置にある木の下でハッピーが寝かされていた。

 

「っ、ハッピー!!」

「あ、だから少しは落ち着いてくださいってば!」

 

メイビスの声をまたもや無視し、少しフラフラしながらもハッピーの元に駆け寄った。

 

「おい起きろハッピー」

「ちょっ、怪我に障るので揺すったら危ないですよ!それに、この子は」

 

勢いのままハッピーに触ろうとするナツの腕を全力で止めるメイビス。必死なメイビスの声で、ナツは怪我を悪化させないようハッピーに伸ばした手を下ろした。

 

「んんぅ……もぅ、うるさいよナツぅ~」

 

だが、先ほどから交わされていた二人の会話が煩かったのか、ハッピーは瞼を少しずつ開き起き、目元を擦る。

 

「ハッピー無事か!」

「うん、体がまだ痛いけどね」

「そっか。あー、それにしてもハッピーがいてよかった!エルザたちはいねぇし、アクノロギアはどっか言ってるしで何が何だか分かんなかったんだ」

「えっ、てことはシャルルも……?」

「ああ。そうだよな?」

 

ナツはメイビスへ視線を移して問いかけた。ナツの横にいたメイビスを見て、ハッピーは誰?といったような顔で顔を傾げた。

 

「……」

「おい、どうしたんだよ?」

 

しかし、メイビスからの返答は返ってこなかった。何故か顔を俯かせプルプルと肩を震わせ無言のまま。流石におかしいと感じたナツはメイビスの肩に触れようとした。

 

「……か」

「か?」

 

なにか呟いたのを聞いたナツは、メイビスに聞き耳をたててみた。しかし、それが間違いだった。

 

 

 

「可愛いですっ!!!!」

「ッ!!?!」

「むぐぅっ!」

 

キラキラと新しいおもちゃを貰った子供のように目を輝かせたメイビスはハッピーを抱き締めた。そして間近で声を拾おうとしたナツは突然のメイビスの大声量で耳をやられたのか耳を押さえて唸っていた。

 

「なんですかこの動物!?今まで見た図鑑では見たことがありません!!見た目は猫なのに人語を理解できるなんて……。バルカンなど人に近しい生き物の中でならそういった事もできますけど、猫は初めてです。……それともこの子は新種なのでしょうか?……いえ、違います。そんな些細なことはどうでもいいのです!」

「あ、あの……」

「それにしても触り心地もいいですし、何よりも可愛い!はぁ~~~、幸せです……」

「ぐるじぃ"ぃぃ……!」

 

自分で傷に障ると言っていたメイビスは完全にハッピーの状態を忘れていた。

それでも無意識とはいえ優しく抱き上げているのは流石というべきか。そのお陰でハッピーも痛がる様子がなく、ただ呼吸が出来ないだけで済んでいた。

 

それでも苦しそうだったので、すぐさま耳が回復したナツがメイビスの腕からハッピーを取り上げた。

 

「おいハッピーに何すんだ!」

「はっ、私としたことが……すみません。えっと、大丈夫ですか……ハッピー……?」

「あ、あい……オイラは平気だよ」

 

仲間であるナツの方も全然怒っている様子もなく、メイビスはふぅ、と胸を撫で下ろした。

 

「……ところでナツ」

「なんだハッピー」

「さっきから気になってたんだけどこの人誰?」

 

ハッピーは初対面で抱き締められたりして結局聞けなかった質問をした。

 

「ああ、こいつはアイビスってんだ。ついさっき会ったばっかだけどオレたちの傷を治してくれたんだ」

「だから、私の名前はメイビスです!!もう絶対にわざとでしょう!?」

「いやー、まだちょっと混乱しててさ。わりぃわりぃ!」

 

もぅー、と頬を膨らませるメイビスに、全く悪びれる様子もなく笑って誤魔化すナツ。

 

「もう!……あ、そういえばナツさんの怪我、治療してませんでした」

 

言われて気づいたナツ。

悪魔の心臓との戦いに加え、アクノロギアとの戦闘もあった二人の身体はウェンディの回復魔法を受けたとはいえ完全には癒えてはおらず、所々怪我を負っていた。

 

「でもごめんなさい、今は手持ちの治療道具が切れてて」

「あー別に俺は問題ねぇーよ……こんぐらいなら大丈夫だ」

「いつものことだしね」

 

腕をブンブンと振り回して大丈夫だというアピールとするナツ。

生傷の絶えない仕事をしているナツたち魔導師からしたら痛くはあるがこれぐらいの傷は問題ないのだ。

 

「だ、駄目です!」

 

しかし、問題ないと言い張るナツにメイビスは治療を待ったをした。二人からしたらそれほどでもなくとも、メイビスからしたら相当なものなのだ。

 

「出血は止まってますけどほったらかしにしてたらバイ菌が入って大変なことになってしまいます!ここから家まで近いですし、すぐに手当て出来るものを持ってくるので待っててください!」

「って、おい!」

 

ナツが声をかける間もなく、メイビスは森の中へと消えていった。

 

「つか、あいつ今家って……ここは俺らのギルドの島だってのに……」

 

ただでさえアクノロギアや、仲間たちが消えたという謎があるというのに誰かもわからない少女がこの島に住んでいるという謎も加わり訳がわからなくなるナツ。

 

それとは別に、ハッピーはメイビスが森の奥に消えたことを確認した後、顔を険しくさせ口を開いた。

 

「あのさ、ナツ」

「んあ?どうしたんだハッピー、トイレか?」

「違うよ!そうじゃなくてあのメイビスって人」

 

茶化したものの話しかけるハッピーの真剣な空気を感じとり、ナツはごちゃごちゃの思考を一旦他所にやり、ハッピーの話を聞く。

 

「あの子の名前、メイビスって言ってたでしょ」

「ああ、そうだけど」

「それでさ、もしかしてだけどメイビスって、もしかしてあのメイビス・ヴァーミリオンじゃ」

「なんで知ってんだハッピー!?……まさかお前、新しい魔法使えるようになったのか!!」

「そんなわけないじゃん!こんな短時間で使えるわけないでしょ」

 

それもそうか、と納得したナツ。

しかし、だとしたらなんで知っているのか。ナツの疑問にハッピーが答える。

 

「ほら、S級試験のときにマスターが言ってたでしょ」

「じっちゃんが?」

 

なんだったっけ、と顎に手を添え、んぅ……と唸りながらマカロフが言っていたことを思い返す。

試験といえば、マカロフはほとんど試験の内容しか話していない。ならば試験の中にメイビスの名前が出たのか。

メイビスが妖精の尻尾と関係があるというのか……そんな筈はない、とナツが考えたところではっ、とマカロフが口にした二次試験に入る前に言っていた内容を思い出した。

 

『第二次試験は、初代マスター……メイビス・ヴァーミリオンの墓を見つけ出すことじゃ』

 

「………………あ」

 

やっと思い出したナツは手のひらにぽん、と拳をおいた。ナツはメイビスが妖精の尻尾の初代マスターだということを理解した。

 

「……って、えぇぇぇぇええ!!?しょ、初代だとぉぉおお!?!」

「うん……そうなるね」

 

先ほどの少女が既に死んでいる初代だったことに驚愕するナツ。

これでハッピーがメイビスのフルネームを知っていた理由がわかったが、新たな疑問が浮かび上がる。

 

「……んん?でもそれじゃあおかしくねーか?死んでる初代が何で生きてるんだよ」

「そんなの、オイラもわかんないよ」

 

幽霊として実体のない状態で生きているなんてことはあり得ない。初対面の時や先程のハッピーとのやり取りで触れることが出来た上に生きてる温もりを感じた。そして匂いもした。実体のないものにこれ等のものはない。

 

訳がわからずうーん、と唸る一人と一匹。

 

「…………あっ、わかったぞ!!」

「……何がわかったの?」

 

なんとなく、的外れな事を言うに違いないと相棒であるハッピーは感じたが一応聞く。

 

「初代はホントは生きてて、実は今までずっとこの島で隠れ住んでたんだ!」

 

予想通りの答えだった。

 

「ナツ、人間はそんなに生きられないよ」

「んじゃあ誰かが初代を生き返らせる魔法を使って……」

「生き返らせる魔法なんて聞いたことないよ」

「じゃあどうして生きてるんだよ!」

「だからそれがわからないんだよ!」

 

訳わかんねぇー!!と頭を抱えるナツ。

元々こういった事を考えることが苦手でルーシィなどに任せていたナツが分かるはずもなく。

 

そうこうしてるうちに遠くの方からメイビスが両手に救急箱を持ってきた。

 

「すっ、すみません!遅れましたっ。今から、怪我の処置をしますねっ」

 

座るナツの横に座り、傷の深い腕を持ってメイビスは消毒液を手にもった。

 

消毒液の独特な臭いと傷に染み込む痛みに二重の意味で顔をしかめるナツを見ながらもハッピーは現状について考えていた。

 

(アクノロギアも、マスターたちもいなくなってる。それに不思議なのはなにもそこだけじゃない。悪魔の心臓とアクノロギアに傷つけられた形跡が何処にもないし)

 

何よりも、約90年前に死んだとされるメイビスが生きているのもおかしな話だ。

今回戦いの発端となった二代目元マスター、プレヒトもよく今まで生きていたと驚いたがメイビスは経歴上既に死んだこととされていた。

 

だが、そのメイビスは今ここで確かに生きている。

 

見た目だって100歳の老婆ではなく少女のもので、それもにウェンディよりも少し幼いぐらいのまだ小さい少女。

 

(もしかして……)

 

ハッピーの脳裏に、ある仮説がたった。

 

「これでよしっと」

 

どうやら終わったみたいだ。

サンキューメイビス、とナツは処置をしてくれたメイビスに礼をいった。

 

聞くなら今しかない。

ハッピーは道具を救急箱に戻しているメイビスに尋ねた。

 

「ねぇ、メイビス。今ってXの何年か知ってる?」

「何いってんだよハッピー、そんなのオレでも覚えてるぞ。確か今は……」

「ちょっとナツは黙ってて」

 

ナツの口を押さえたハッピーはメイビスを見て返答を待った。出来れば自分の予想が外れることを祈って。

 

が、ハッピーの祈りは届かず予想していた通りの答えが帰って来た。

 

「詳しい日付はわかりませんが、そうですね……。数えた日数で、今はX683年だと思います」

 

「な、ななななんだとぉぉッ!?」

 

その答えにナツは目を見開き驚きをあらわにする。予想していたハッピーは驚きはしなかったものの苦い表情を浮かべた。

 

ハッピーの予想通り、二人は過去に来ていた。

それも、いつか間違って最強チームで数年過去に戻ってしまったあの時とは違う。数年どころではなく100年も前、妖精の尻尾が誕生する前まできてしまった。バタフライエフェクトという言葉があるが、いま現在メイビスと邂逅したことで起こる未来の自分たちがいた時代への影響はどれほどのものなのか。考えたくはない。

 

これ以上過去の、それも初代妖精の尻尾のマスターに余計な事を言って状況を悪化させたくはない。

一刻も早くここを立ち去らなければとハッピーはナツを見、あっ、と声を漏らした。

 

そうだ。この相棒は、こういうときに限ってその余計な事をしてしまうのだった。

 

「てことはオレたち、100年も前に来ちまったのか!?もがっ」

 

ナツの口を両手で閉じたハッピーだったが既に遅く、ナツの放った言葉はしっかりとメイビスに聞かれてしまった。

当然そういった未知の内容に興味を示さないわけがなかった。

 

「100年前って……もしかしてナツとハッピーは未来から来たんですか!」

 

やはり食いついてきた。ハッピーの額から汗がにじみ出る。

 

絶対に、本当のことは言えない。

もし仮に正直に言ってしまったらどうなるか。自分たちのギルドが設立されない未来に変わってしまうかもしれない。

ヤバイ状況ではあるものの未来からきたなんて普通は信じられない。

ここは適当に誤魔化そうとするハッピーだったがそれよりも先にナツがメイビスに話しかけた。

 

「オレにもわけがわからないんだけどよぉ、そうみたいだ」

「ちょ、ナツ!?」

 

いま自分たちが置かれている状況を理解していないこの相棒に頭が痛くなるハッピー。

しかし、ナツも考えなしに話したわけではなく、ハッピーの耳元で小さな声で話す。

 

(わかってるよハッピー。前にもエルザとルーシィに駄目だって言われてるからな)

(じゃあどうしてあんなこと言ったのさ!)

(オレたちが過去から来たことは言っても妖精の尻尾の事は言ってねぇ。オレの首の傷だってオレが傷着けたモンだったし、余計なこと言わなけりゃたいむぱなどっぷす?は起きないはずだ。……多分)

(タイムパラドックスだよナツ。しかも最後の言葉で台無し)

(だ、大丈夫だって!……それに過去に来た理由がわからない今、初代と一緒にいれば何かわかるかもしれないだろ……。なんつーか、ここで初代と会ったのも偶然って感じじゃねー気もするし)

(なるほど、それである程度オイラたちの事情を話したわけだね)

 

自分達の帰る家がなくなることはナツの望むところではない。

意外と考えていたことに少々驚きはするも、そういえばこういう時と戦闘の時に限っては頭が回っていたことを思い出す。

……まぁ色々と穴はある。初代とはいえ何でも出来る神様じゃないし、何よりも今はまだ子供だということとか。

しかしそれ以外に方法が考えられないハッピーは何も言わない事にした。

 

ある意味ここでメイビスと出会ったことは運命なのだろう。

 

 

内緒話をする二人に、仲間はずれにされたメイビスはむすぅ、と頬を膨らませていた。

 

「むぅ……どうして二人だけでひそひそ話をしてるんですか」

「あ、あー。お、男同士の話をしてたんだ!なんつーかあれだなーって感じの話をなっ、なぁハッピー!」

「う、うん……そーだね、あれだね、あれだよねっ!」

 

とっさに二人とも嘘をついた。

当然、誰から見ても分かる嘘。メイビスもすぐにわかった。

 

「……別に、いいですけど」

 

『ほっ』

 

あまりの嘘の下手さに追求する気もなくなった。

気にならないと言ったら嘘になるのだが、それよりもメイビスはナツたちが未来から来たということに意識が向いていた。

 

「それはそれとして……お二人はどうしてこの時代に来たんですか。時間移動なんて魔法聞いたことがないですし」

「それは」

「……なにか訳があるんですね。よければ話してください」

 

ナツはハッピーと互いに顔を見合わせた後に頷くと口を開いた。

 

上位の魔導師、S級魔導師になるための試験から始まり、その途中で現れた敵対組織との抗争。勝利の末に現れたアクノロギア。

 

妖精の尻尾やそれに関する話はなるべく伏せながら、ナツとハッピーはメイビスに話した。

時折メイビスは驚いたりしていたが、最後まで二人の話を黙って聞いていた。

 

そしてナツたちの話が終わったメイビスは少しの間を置いた後に口を開く。

 

「つまりナツたちは未来に生きていた魔導師で、アクノロギアの強襲を受けて気づいたら過去のここに来た訳ですね」

「最後にアクノロギアのブレスを受けて気がついたら過去に来たみたいなんだけど……信じられないよね」

 

過去から来るという普通ならあり得ないと一蹴されるような事を信じてくれただけでもおかしいのに更にあのアクノロギアまで来て、しかもブレスを受けてなお生きてここにいるなんてことは想像できない。

が、メイビスはそれを肯定した。

 

「いえ、信じます。……それと、おそらくですが二人が過去に遡ることになった原因はそのアクノロギアだと思います。アクノロギアは未だに未知の生物ですしあの竜がどういった力を持つのかは今も完全には解明されていませんので」

 

それどころか二人が過去へ来てしまった理由も分析していた。

 

「お前っていいやつだな!怪我治してくれるしオレたちのこと信じてくれるし」

「怪我してる人を助けることは当たり前の事ですよ。それに、ナツって嘘つくの下手そうなので本当の事をいってる事は分かります」

「……なんかバカにされてねぇか」

「まぁ、ナツってパッと見何も考えてなさそうだからね」

「ハッピーまで!?」

 

落ち込むナツに、メイビスとハッピー二人は顔を見合わせて笑った。

 

その後不機嫌になったナツの機嫌を取り一段落ついた後、先ほどから考えていたあるお願いをハッピーはメイビスにする。

 

「もしよければなんだけど、元の時代に戻る方法が見つかるまで、ここにいてもいいかな」

「元の時代に戻る方法が見つかるまで、ですか?」

 

傷が癒えるまでは予想していたし、全然問題はなかったけれど、元の時代に戻る目処がたつまでいることは予想外だった。

 

そんなメイビスの疑問を迷惑に感じたのだと思ったナツは地面に頭を打ち着ける勢いで下げた。

 

「迷惑はかけない、この通りだ!」

「あ、頭をあげてください。別に迷惑だなんて思ってないです!」

「てことは、いいのか!?」

 

頭を上げたナツに対して、メイビスは少し考える素振りを見せにこりと笑いながら言った。

 

「えーっと…………駄目です」

「駄目なのか!?」

「うわっ、メイビスって結構Sなんだね」

「ち、ちがいます!」

 

上げて落とすメイビスに向かって引き気味に言うハッピー。

しかしその言葉を受けたメイビスは直ぐ様慌てて否定した。

 

「そうではなく。……言葉が足りなくて誤解を生んでしまったので訂正しますが、私はナツたちが戻れるまで手伝うことは嫌というわけではありません」

「だ、だったら」

「ですが、この島にいることがいけないのです」

 

何がいけないというのか。

続けてメイビスは口を開く。

 

「今は存在していませんが、この嶌は赤い蜥蜴という私が所属していたギルドが所有していました」

 

数年前、とあるギルドが襲撃してきた。それによってギルドや島の者のほとんどが犠牲になってしまったのだという。

 

「今は私と、()()()しかいません。ギルドもあってないようなものです。けれどギルドの意向で関係者以外が長期滞在することは許されていないんです」

「関係者っていってもなぁ、俺らも十分関係むぐっ……!」

「ナツ、それは言ったら駄目だよ」

 

妖精の尻尾にも天狼島にはギルドの者以外の立ち入りは禁じられていたが、この時代から既にそういう風習が存在していたのか。

 

しかしそうなるとメイビスにお願いをするのにも長期滞在せざるを得ない。つまりメイビスが協力的でもこればかりはどうしようもないということだ。

 

ナツもギルドの掟の重さに関して言えば身をもって知っているので仕方ないと食い下がることはしなかった。

 

 

「ですが、それはギルドにとって無関係の者の場合です」

 

 

が、落ち込むナツを見てメイビスは悪巧みをする子供のような笑みを浮かべた。

 

「ナツさん達が私たち赤い蜥蜴に対してその依頼を出すのなら依頼主ということで無関係者ではなくなります」

「っ!」

 

ここから先は言わなくてもメイビスが言わんとしていることが伝わった。

 

「と、いうわけなのですがいかがでしょうか。タイミングがいいのか依頼は何もないので今発注してくれたらすぐにでも受けることができますよ?」

「勿論依頼する!な、ハッピー」

「あい!」

 

嬉しそうにはしゃぐ二人……というか主にナツ。単純に島にいさせてもらえた事を喜んでいると同時に、断られた時の後の地獄を想像していただけにとても嬉しそうだ。もし断られでもしたら乗り物を使って島からでなければいけなかった。S級試験の時の長期の船での移動が余程堪えたのだろう。

 

そんな事を知らないメイビスは過剰に喜んでくれたナツを見て嬉しそうに笑う。

そこへ何かを思い出したのかハッピーは口を開く。

 

「あ、でもそれだと報酬を払わないと駄目だよね」

「あー、そういえばそうだな」

 

依頼をこなすことしかしてなかったナツも報酬については忘れていた見たいだった。

 

それを聞いていたメイビスは、報酬自体特にいらないものの契約上依頼をこなしたメイビスにナツは対価を払わなければいけない。

余計なところで硬いメイビスはどうしようか頭を悩ませる。

 

「んじゃ、身体で払うか」

「か、からっ!?」

 

突然のナツの発言に動揺を隠しきれないメイビスは顔を赤くさせわなわなと震える。無駄にIQの高いメイビスの脳内での妄想がとんでもない事になっていた。

 

「はわ、はわわわわっ」

「ナツ、その言い方だと誤解しちゃうよ」

「?どこに誤解する部分があんだよ」

 

しかし当のナツは誤解を受けるような発言を自覚しておらず首をかしげている。

混乱はしていたもののナツが特に深い意味で言ったわけではないと知るやメイビスは紅潮を誤魔化すようにコホンと咳を吐き仕切り直す。

 

「で、ではこういうのはどうでしょうか。ナツたちの依頼を達成する間でいいので私の探し物を手伝うというのは。そうすればナツ達も私もいいこと尽くしですし、依頼として成立します」

「おぉ!いいなそれ、そうしよう」

「それならオイラ達だけ特をすることもないね」

 

顔を見合わせて喜ぶ二人と一匹。

 

「で、メイビスの探し物って何なの?」

 

そこでハッピーはメイビスの言う探し物について聞いた。

ハッピーの質問にメイビスはぱぁっと目を輝かせて語りだした。

 

「よくぞ聞いてくれました!私、小さい頃から妖精さんを探しているんです!」

「「よ、妖精……?」」

「はい!」

 

二人のギルドに馴染み深い言葉が出て来て二人して戸惑う。そんな二人を余所にメイビスは楽しそうに続けて口を開く。

 

「私、妖精さんに会うのが夢なんです。知ってますか、妖精さんは泣く子は会えないんですよ?この話をしても誰も信じなかったんですけど……それでも私は妖精さんがいるって信じてますし、いつか会うんです!…………ぁっ」

 

ついつい熱く語ってしまい恥ずかしそうに頬を抑えながらメイビスはナツ達を見る。

引かれたか、とも思ったがナツとハッピーは二人とも屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

「そっかぁー、妖精って泣いてるやつには会えないのか。んじゃあオレたちいつか会えるかもな!」

「オイラたち泣かないしね!」

 

今まで妖精の話をすると馬鹿にされたり、相手にされなかったりしてまともに聞いてくれる人がいなかった。

二人の反応にメイビスは先ほどまでの恥ずかしさを忘れ、嬉しそうにまた話し出す。

 

「じゃあ皆で妖精さんに会えますね!」

「捕まえたら何すっかなー、芸とか覚えさせたら面白そうだし」

「ナツ、妖精を犬か何かと勘違いしてない?」

「だ、駄目ですよ捕まえるのは!お友だちになって遊ぶんですよ!」

「もー、ナツぅ…………あっ、でもナツは小さい頃散々ミラに泣かされてたから会えないんじゃない?」

「な、泣いてねぇし!あれは汗だ、あん時は蒸し暑くて汗が出たんだよっ!」

「えー、そうかなー?」

「んだとー!?」

 

時間も忘れてメイビスとナツ、ハッピーは会話に花を咲かせる。

話に夢中で気がついた頃には既に空は赤く染まり、夕日が落ちそうになっていた。

 

「あっ!もうこんな時間」

 

それに気付いたメイビスは話を切り上げ立ち上がった。

 

「そろそろ帰らないとゼーラが心配しちゃいます」

「ゼーラって、さっき言ってたよね?」

「はい。ギルド間抗争で今この島に残っているのが私とそのゼーラなんです」

 

だから早く帰らないとゼーラが寂しがる、とメイビスは口にする。

 

「そんじゃあメイビスん家に行こうぜ。そのゼーラってやつが心配するなら早く戻った方が良いだろうし」

「はい、それにこれから一緒に暮らすナツとハッピーも紹介しないといけませんし」

 

休んだお陰である程度回復したナツとハッピーはひょいっと軽く立ち上がる。

 

「それでは案内しますね」

「おう、よろしくな」

「はい!」




続きません(断言)
続きか気になる方が多ければ物語の流れ全て箇条書きします。

書く意欲わかなくてほんとできないんです……ほんと誰か続き書いてほしい!てレベルです…。

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