英雄の末弟と英雄を目指す白兎   作:ケツアゴ

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活動報告で仮企画実施中 一話だけ書いてます


解放

「体の関係を持つ相手が出来たのか。何と言うべきか、出会った頃の彼とは……いや、これ以上は止めておこう。自分の意思で選択し、そして責任を取る年齢だ」

 

「確かにそうですよね。ジルさん達家族なら兎も角……。で、でも、子供の頃から知っていますし、言うべき事は言わないと」

 

 ダンジョン五十二階層へと遥か下から届く階層無視のブレス。ヴァルガング・ドラゴンによって大手ファミリアでさえも一秒たりとも気が抜けない場所だそうだ。

 

 そして下の階層を目指す冒険者を追い詰めるのは足下からの狙撃によって開いた巨大な穴。それに落ちれば底に辿り着くまでにブレスに加えて横穴からワイバーンが襲い掛かる。

 

 前からちょくちょく行ける階層を伸ばして【テレポート】して来たこの場所で今、俺の女性関係について年上二人が真剣に話し合っていた。

 

 地面から噴き上がるブレスだが、足場自体が特別硬い訳では無いからそれなりの威力を吐き続ければ階層無視は可能なんだろう。

 元から貫通しやすい様になっているのか? ダンジョンがモンスターを生み出す訳だし、この階層はそれ用に作っているなら探知能力の方が凄い。

 

「……」

 

 こんな場所でのそんな会話、強く出られる相手でもないから俺は非常に居心地が悪いが、更に悪い奴は宙を跳ねながらワイバーンを切り刻みつつも居心地が悪そうだ。

 

 そう、俺達は絶賛竜の壺で戦闘中。浮けるエルファスを俺が背負い、跳べるアイズがフェルムさんを背負っている。

 慣れない空中戦は否が応でも戦いの日々の記憶を体が呼び覚ましていた。

 

 四方八方から俺達を狙っているワイバーンのどれが次に何処から襲って来るのか見て考えなくても体が勝手に反応してくれる。

 オッタルとの戦いで戻り始めていた勘を取り戻す最後の一歩、それがこの場所で徐々に踏み出され様としていた。

 

 だから尚更俺に関する話は止めて欲しい。餓鬼の頃から一緒に旅しているフェルムさんが保護者の気分になるのは別に良いさ。

 

 但しエルファス、テメーは駄目だ。あれか? 義兄気取りですかぁ?

 

「あのさ、今はアイズだって居るんだしその話は……」

 

 そもそもアイズがどうして同行しているのか、それは軽く準備をすまでてダンジョンに向かう途中の事だった。

 

「……あっ、どうも」

 

 俺の顔を見た途端に何かを期待する感じになって俺はピンと来たね。クノッソスの件が消化不良ながら一応解決し、今は悪用されない様に早い内に破壊するか、その前に回収可能な素材は集めるのか。

 

 集めるにしても何処に任せて分配はどうするか、それか有効活用は出来ないか、膨大な利益だのが関わる問題で揉めているとイシュタルが教えてくれた。

 

 あの女神は女神で情報を仕入れるのに使った費用の回収だけはギルドに請求するらしいし、それにカーリーに眷属を駆り出す気なんだろう。

 

 それが通った場合、クノッソス側に提供した資金はチャラにしつつギルドに大きな貸しを作れるって訳で、未だに定まらないデメテル様の後釜問題にも首を突っ込みそうだ。

 

 そんなイシュタルの一人勝ちみたいな状況だが警戒すべき相手は居るし、ダンジョンが正常に戻っても自由に行ける立場でも無いと、そんな時に俺を見掛けたって事か。

 

「えっと、人に頼る事を覚えろってとある人に言われて……」

 

「ダンジョンに連れて行けってんなら断……」

 

「何か知らないが良いんじゃないかい? ……少し迷いを抱えているみたいで放って置けないしね」

 

 普段から似た事を頼んで来る連中にそうする様に俺は断る気でいた。なのにエルファスが口を挟んで了承する。

 

 最終的な目的はどうであれ救世主として人を救って来たのは確かだし、俺の言葉で少しは進歩したのかしていないのかは別として、必要と思って判断したなら別に良いか。

 

 そんな訳で同行し、魔法で此処迄一気に来て即座に竜の壺に飛び込んだ、以上!

 

 

「そうだな。僕が聞いた話では別に婚約者が居ると……来たか」

 

 俺達四人に向かって未だ生まれ続けるヴァルガング・ドラゴンのブレスが収束されて放たれ続ける。

 連続でなく、一点集中。一発分の穴に向かいブレスを一斉に放って一撃の威力を上げる事のみに力を注ぎ込む砲撃だ。

 

 ダンジョンは意思を持つって言われているが、こりゃ明確な意思を持って襲って来ているな。

 

「流石に何発も凝縮されたら少し痛いですね。火傷したらどうしましょう」

 

 本来は俺達も普通の服は焼き尽くされる熱量だが、物理バリアも魔法バリアも重ねているから服は大丈夫だ。

 

 それでも少しは効くんだがな。

 

 そんな多少効く攻撃を受けつつワイバーンを仕留めて行く中、スコアは俺が僅かにエルファスを上回り一位、フェルムさんは広範囲や遠距離攻撃の手段に乏しいから三位、アイズはそれなりに遠距離も出来るがダブルスコアを付けられて最下位だ。

 

 ブレスで消し飛んでも凄まじい勢いで生成されたワイバーン達は現れて俺達の動きを少しでも阻害しに来ている。

 

 そんな中、【オールアタック】で前方のワイバーン十匹程を挽肉に変えながらフェルムさんはアイズに目を向けて、躊躇無く両手を離した。

 

「うん、ちょっと私は邪魔かも。アイズちゃん、頑張って」

 

 そのまま重力に従って下へと向かい、襲って来たワイバーンを踏み台にして真下まで蹴り落としながら横へと飛ぶ。

 

 壁の僅かな出っ張りやワイバーンを足場に飛び回り、先程まで以上の速度でワイバーンを始末して行った。

 

「私だって……」

 

 そしてアイズも風を推進力にして縦横無尽に跳び回りワイバーンを仕留めて行く。

 そしてエルファスはフワフワ浮きながら魔法を放つだけ。

 

 

「なあ、もっと速く飛べねえのか?」

 

「これはそういった魔法じゃないんだ。……そもそもオルファウスやネモは飛び方を教えてくれなかったのか? 彼等なら飛べそうだが」

 

「一度訊いてみたら使えるけれど、習得に時間が掛かる上に孤立するからって教えてくれなかったんだよ」

 

 結構高度な術らしいし、それを身に付けるだけの力を身に付けた頃には敵の強さと逼迫した情勢がのんびり飛行魔法を教わる余裕をくれなかった。

 

「農夫にはそこまで必要じゃねえし、平和になった後は習う必要無かったからなあ。フワフワ浮くより走った方がずっと速いし」

 

 仮に竜王との戦いで使えたとしても蠅みたいに叩き落とされる光景しか浮かばねえわ、実際。

 

「ジルも飛んでる敵を飛び越して叩き落としていたな、そういえば。バロルまで力任せに叩き落とした上、追撃で地面に少し埋めていた姿は……美しかった」

 

「あの脳筋ゴリラな光景がか? 恋は盲目って奴……妙じゃねえか? ブレスが全く来ない」

 

 あれだけ殺意マシマシ熱量濃いめだったブレスがやって来ない。下で何か起きたって所か?

 

 どうも嫌〜な予感がするんだよなあ。都合が良いからって異常事態は見逃せない。

 それはあっちの前衛職二人だって同じらしく、フェルムさんはこっちを見て頷いている。

 

 

「先に行って来ますね!」

 

 先に動いたのはフェルムさん。真上から来たワイバーンを蹴り付けた勢いで下に居るワイバーンや壁の方へと加速を続けながら飛んで行く。

 しかも片手でスカートを押さえる余裕まで見せながらだ。

 

 

 

「信じられるか? あの人、五年前までは酔っ払いに絡まれて困ってる様な普通の町娘だったんだぜ。姉貴騙して旅について来たんだよ」

 

「初めて聞いたな。……普通の町娘とは一体」

 

「まさか嘘だと思っていた伝説のフライパンが実在したなんてビックリだよ」

 

「……そっちか? 驚きべきはそっちが優先なのか?」

 

「それが不思議か?」

 

 俺達も飛ぶのを止め、フェルムさんに少し遅れつつも似た様な方法で真下へと向かう。

 町娘がドラゴンを片手でぶち殺せる程に強くなるのと老人のホラ話だと思っていた物が実在したなら後者だろ?

 

 だってフェルムさんには劣るけれど同じ位強くなった奴は多いしさ。ルルアンタとかクリスピーとかリルビーの小柄な体格でゴリゴリの戦士だぜ?

 

 竜の首をナイフで切り落としたり、何匹も一矢で射抜くのが居るんだから、町娘から世界でも上位にまで上り詰めるのは驚きではあるんだが、フライパンだぜ、フライパン!

 

 

「アイズはどっちの方が驚くんだ?」

 

「えっと、分かりません……」

 

「困らせる様な真似は止せ。そういう所だぞ、姉弟揃って」

 

 ……そんなに困る事か?

 

 突如止んだブレスに違和感を覚えながらも降り立った五十八階層で見た物は灰の山、つまりはモンスターの死骸の痕跡。

 

「フェルムさんが着地と同時に全部倒したって事か?」

 

「流石に少し無理かな? ほら、灰の山は密集しているし、見付けるなり速攻で倒そうとしてたら吹き飛ばすからもっとバラけるし……」

 

「あの短時間で倒せないとは言わないんですね……」

 

「はい。そんなに強いドラゴンでもないみたいですから。それで誰が……あれ? 何か聞こえませんか?」

 

「言われてみれば……」

 

 ガリガリと氷でも噛み砕く様な音、それが五十九階層へと続く階段の奥から聞こえて来ると気が付いた時、新たに生成されたワイバーン達が一斉に押し寄せた。

 

 即座に魔法で灰すら残さずに消し去っても良いんだが、ちゃんとした相手が居ない以上は不利な条件で戦うしかない。

 もう一度空中戦をすべきか迷った時、階段の奥から緑の肉が伸びて来た。

 

 

「精霊……?」

 

 ブヨブヨとした緑の肉にアイズは反応して動けない。そんなアイズにワイバーンが殺到して、それを横合いから肉塊が襲い飲み込んだ。

 幾重にも枝分かれした先端部が蔓の様に絡み付き、蛇が獲物を丸呑みするかの様に内部へと包み込む。

 

 肉が押し潰され骨が砕かれる音と悲鳴が混じり、聞こえなくなると肉塊は奥へと戻って行った。

 

「間違い無く精霊なのは変わらないが随分と歪められている。魔神に近い状態で、僕でも戻すのは容易ではないぞ」

 

 エルファスが声に警戒を滲ませる中、ダンジョンが大きく揺れる。階段の奥から響く激突音。

 広いはずの通路を更に巨大な何かが無理矢理にも押し通ろうと通路の壁や天井を破壊している。

 

 その音は間隔を短くしながら大きくなり、階段の周囲を中心にヒビが大きく広がって行った。

 

「……おーい、アイズ。ちょっと下がっててくれ」

 

「え?」

 

「いや、それは無駄だ。既に囲まれている」

 

『グォオオオオオオオオオオッ!!』

 

 階段の奥から怪物の叫び声が轟きダンジョンが激しく揺れ動く中、地面を突き上げながら四足歩行の巨大なモンスターが現れた。

 見た目としては牛に近いが異様なのはその全身。

 

 背中に寄生する巨大な木の根が肉に食い込んで全身を覆い、その瞳には光が無い。

 僅かに開かれた口の中にまで小さな根が張っていて、完全にその意思は失われていた。

 

「あれはベヒモス……」

 

 その名前は知っている。先日相手をしたリヴァイアサンと並ぶ陸の王者。

 圧倒的な肉体ともう毒を持つ三厄災の一角。

 

「【ヘルファイア】【ヘルファイア】」

 

「【ヘルファイア】【ヘルファイア】」

 

 だから完全に姿を見せて暴れ出す前に魔法を放ったらエルファスも同じ意見だった。

 同時に降り注ぐ四つの火球がベヒモスを飲み込み、毒があるらしいので焼けた際に発生した毒も厄介だろう。

 

「【フリジット】【フリジット】」

 

「【サイクロン】【サイクロン】」

 

 だから俺が凍らせ、エルファスが竜巻で砕く。それでも背中に生えた巨大な木、恐らく精霊の力の大元で人間の顔が無数に生えたそれは未だに原型を留めている。

 それどころか凍り付き削られた部分が振動して氷を弾き飛ばし、断面が盛り上がろうとする程だ。

 

 

 このままでは十も数えない内に原型を取り戻すだろう。このまま放置したらの話だが。

 

 

 

「【ギガスラッシュ】」

 

 俺達が魔法を放つ間にフェルムさんが済ませていた二回のチャージ。近接系スキルの最大威力。

 瞬時に叩き込まれた八連撃の衝撃は内部へと浸透して反対側から飛び出して、それでも動きを止めず再生を続けようとする精霊の木からフェルムさんは跳んで退がる。

 

 

 この時、俺もチャージを一つ重ねていた。発動するのは二倍の威力で魔法を放つ【チャージスペル】。

 放つのは三倍威力を二つ重ねれば竜王すら肉体の三割を吹き飛ばす封印された伝説の魔法。

 

 

「【エナジーボルト】!」

 

 相手を中心に起きた大爆発の閃光は視界を埋め尽くし、それが消え去った時には僅かな破片が残るのみ。

 

「随分とタフだな。未だ消えちゃいない」

 

 驚き半分呆れ半分の中、木片から小さな腕が突き出され中から幼い少女が出て来る。

 胸の中心に内部から突き出した魔石を持つ虚な瞳、それ以外は整った顔以外は何処にでも居そうなかんじで、それでも発する精霊の力の残りが只者ではないと告げていた。

 

「ランクアップ前のオッタルの八割程度って所か? 魔法次第で変わるだろうが……。エルファス、あの状態で元に戻せるか?」

 

「無理とは言わないが難しい。精霊の力に反する力が魂と肉体を縛っているからな。純度の高い精霊の力を叩き込めば……つまり君次第だ。風の精霊の力を宿す少女」

 

「え? えぇ!? アイズちゃんが精霊の力を宿すって一体……」

 

 あっ、フェルムさんには分からないか。そりゃ混乱するわな。今は、……本人から事情を聞いてる訳ではねえけれど複雑な事情があるみたいだから断片的にも話せねえし今は置いておいて。

 

 問題はアイズだ。流石に挑むには高過ぎる壁だが……止められねえな。

 

 目を向ければ既に風を纏っての臨戦態勢。殆ど削った残り滓とはいえ力はずっと上の相手だって分かっているだろうに決意を決めた目を前に止めてはいけないって理解した。

 

『アリア? アリアアリアリアリアリアリアぁアアアアアアアアッ!!』

 

「違うよ。私はアリアじゃない。アリアは私のお母さんだから。だから……お母さんの代わりに私が貴女を救ってみせる。……正確には私じゃないけれど」

 

 本当に出来るのか、今日会ったばかりのエルファスにそんな確認もせずに言い切る辺り、俺の仲間って事で信用してくれているんだろう。

 

「既に彼女は限界が近い。風だけで死ぬギリギリまで追い詰めてくれ。其処迄行けば僕が必ず呪縛から解き放ってみせる」

 

 アイズの返事は無い。エルファスの言葉を聞くなり躊躇無く飛び出して行ったからだ。

 故に此処からは俺とフェルムさんの出番は無く、アイズが堕ちた精霊を救う為に追い詰めるのを見守るだけだ。

 

「彼女の力に乱れが起きては行けない。横からの支援はするな」

 

「……あぁ、分かってるさ」

 

 この場で出来る事は何も無いし、そもそもその必要は無い。

 

 

「彼奴は短期間だが俺が修行を見てたんだぜ? 手を貸す必要なんてないさ」

 

 どれだけ力を持ってようが使いこなす為の理性が欠けた相手だ。秒で放つ魔法の一発一発がアイズを殺すだけの威力を持っているが当たらない。

 風で逸らされ、直撃しないまでも余波でダメージを受けながらアイズは止まらず、そのまま精霊の力を叩き込んで行く。

 

 

 そして、その時が訪れた。

 

 

「もう良いだろう。……後は任せろ」

 

 アイズの風は堕ちた精霊を包み込む様に吹き荒れ、風の檻に閉じ込められた事で小さな体は動きを止めて、そしてエルファスの救世主としての力が注ぎ込まれる。

 

 

 精霊から魔石が消え去り、その体は少女の物からアイズの周囲で浮かぶ光の粒子へと姿を変えた。

 

 

 

「これで解決として、さっさと地上に戻るか。その精霊も地上に出たがっているみたいだしな。連れて行ってやりたい」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……流石にあの少女は違うか? 二股だけでも如何な物なのに三人目は流石に……」

 

「た、多分大丈夫ですよ!」

 

 ……イシュタル◦ファミリアに居るカーリーの眷属の前に連れて行ってやろうかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

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