pixivより転載
それは、時同じくしてそれぞれの近侍と交わされた同じ話題だった。
「主、クリスマスは? 恋人とデート?」
そのような内容のことを、彼らは本丸、政府とそれぞれ別の場所で問われた。
その間も絶え間なく出陣が繰り返されていた。そして、彼らはほぼ同時にこのようなことを答えた。
「審神者のクリスマスはね、連隊戦と相場が決まっているんだよ。さぁ! 道誉を迎えよう!」
――なお、政府のバーソロミューも似たような旨を言っていた。政府所属は政府所属で連隊戦に当たる業務があるのだ。
それに対し、近侍は。
「いやつきあいたてのカップルだろう!? そこはじかんをつくりなさい! 私らもがんばるから!」
「死ぬ気でイヴとクリスマスの非番もぎとったよぉ~」
――彼らは有能だった。
そういうわけで、本丸所属審神者のパーシヴァルと政府所属審神者のバーソロミューは、急遽クリスマスイヴを恋人と過ごすことになったのである。
バーソロミューは、官舎の一室の鍵を開いた。
「とは言っても、レストランの予約も取っていなかったからね。悪いねパーシー、むさ苦しい男の部屋で」
「こういう機会でもなければあなたの部屋に来られることもなかったからね。ケーキとワインを楽しむことにしよう」
同じウェールズ人の血が混じっていると言えど、彼らは日本生まれ日本育ちだった。クリスマスは恋人と祝うものであるという認識はあった。ただ彼らはあまりに審神者業に馴染み過ぎていたために、クリスマスというものは連隊戦の最中に適当に祝うものという認識になっていた。年末年始も帰省した記憶がこのところない。シーズンオフに合間を縫って非番を取ってなんとか帰省するというのが審神者になってからの習慣だった。
それが今年になって恋人ができてしまった。彼らは世俗から離れて恋愛からも離れていたものだから、日本の恋人が普通にする習慣というものもスルーしかけたのだった。その結果が近侍を怒らせての放逐だった。
バーソロミューの部屋は、彼が言うほど散らかってはいなかった。――ただし一角にメカクレものの祭壇があったが。パーシヴァルは特に気にすることなく、ダイニングテーブルに持っていたワインの瓶を置く。中身はスパークリングだ。バーソロミューはケーキの箱を置く。ホールケーキは予約なしでは買えなかったし、バーソロミューの三十路の胃袋は既にホールケーキを半分も食べられるようにはなっていなかったので、カットケーキを買ってきたのだった。モンブランにガナッシュ、苺タルトにショートケーキ。両者共に食べ物の好き嫌いは特になかったので、好きなものを2個ずつ取ることになっている。フォークと小皿を2人分用意した。
椅子に座りながらパーシヴァルは言う。
「フライドチキンでも買って来るべきだったか」
「まぁケーキとワインだけというのも乙だろう。ワイングラスはないからガラスのコップでいいかい?」
「構わないよ」
男のひとり暮らしにワイングラスなどない。バーソロミューがコップを渡すと、椅子に座ったバーソロミューの前でワインを開けたパーシヴァルがワインを注いだ。それから、コップをぶつけ合う。
「乾杯」
「かんぱーい」
それからワインを呷ったところで、バーソロミューは言う。
「こんな静かなクリスマスは何年ぶりだろうなぁ……」
「私もだよ。本丸の大所帯に慣れてしまって……君の場合は政府の職場かな?」
「クリスマスは連隊戦の最中に発生する物欲と言う名の煩悩に引き寄せられた怪異を狩っていたよ」
「なんだか申し訳ない……」
「本当だよ、除夜の鐘でも打ち消せない煩悩だよ。あ、モンブランもらうね」
「では私はガナッシュを」
ワインの肴にケーキを食べる。甘ったるい気もしたが、軽く酒が回るとそれも良い気がバーソロミューにはした。弾ける泡の感覚……。
――買ってきたケーキをすべて食べ終えた頃には、ワインの瓶も空いていた。
「テレビでも観るかい?」
そう言って来たパーシヴァルの頬はほんのり赤い。バーソロミューは恐らく己もそうだろうと思った。それから、席を立ち。
椅子に座ったパーシヴァルにキスをした。
ワインの匂いがする。その中で、バーソロミューは囁いた。
「ケーキも食べた。ワインも飲んだ。あとはイヴにすることと言ったら、相場が決まっているだろう?」
パーシヴァルの手が、バーソロミューの腰に回った。
そのときバーソロミューが思ったのは、「連隊戦で皆が頑張っているときにこんなことをするなんてなぁ」ということと、それに対する背徳感だった。
「どう? 楽しめた?」
「……まぁね」
了