偶然の出会い、とはよく言ったものだと感心してしまう。目の前の少女を見ながらライカンはそう思わざるを得ない。
「これはこれは、礼を尽くしていただき幸甚の至り。
私どものほうこそ、こうしてあなた様にお会いできたことは大変な光栄でございます」
ライカンは態々ここまで赴いてくれたリンに感謝をする。
「あなた様はヴィクトリア家政の協力者であり、お客様でもあります。
快適で安全なホロウの旅をお過ごしいただくため、最善を尽くすことをお約束いたしましょう」
ライカンの言い振りにリンはその所作の指先まで綺麗に見えた彼に思わず感嘆してしまう。
「ありがとう。イアスの場所はわかる?」
そこでリンはここまで出てきた理由の一つであるイアスの居場所を聞くと、ライカンは快く答えてくれる。
「パートナーであるイアス様には、現在リナがおそばで仕えております。
イアス様は多湿の環境が大層に不快だったご様子でしたので、疲労回復のためリナの方で深層回路へのマッサージを施術させました」
そしてライカンからの話を聞き、なんだか申し訳なくなると同時に『なんかいい事されてる…』とマッサージを受けたイアスに少し半眼になりそうになる。
「彼らをお探しになるのであれば、下の広場へ降りられるのがよろしいかと。
それと、カリンでございますが…以前助けていただいた時以来、彼女はあなた様との再会を心より切望していたようです」
ライカンはそう話し、以前に出会ったことのあるカリンのことをリンは思い出しながら、同時にあの時に転職後のナイルや「パエトーン」のことを知られたかと思い出す。
「もし良ければ、彼女にも二、三お言葉をかけてやってはいただけないでしょうか?」
「そうだね、そうしようかな」
「あなた様が私どもの従業員にお心を砕いてくださること…ヴィクトリア家政の責任者として、厚く御礼を申し上げます」
ライカンはそう言い頭を下げると、リンは逆に恐れ多すぎてしまって萎縮しそうになる。
なにせナイルの転職後のリッチな雰囲気からして相当な金額をもらっているんだろうかと思っていたが、アキラが今し方調べた金額を見てひっくり返ってしまったのだ。
「何か、お聞きになりたいことはございますか?」
そこで聞かれたので早速リンは常連客の名前を出して聞いた。
「あの、ナイルさんはどこにいるか分かりますか?」
「ナイルでしたら、下の広場で休憩をしている元と思われます」
そこでライカンから彼の居場所を聞くと、リンはすぐに階段を伝って下の広場に出た。その広場にはカリンやエレンと言った先ほど見た面々がおり、彼女達に話しかけて行った。
「そのお姿は…ガイドさまですわね?お初にお目にかかりますわ」
そして綺麗なヴィクトリアンメイドの格好をしていたリナに思わず見惚れてしまいそうになりながらリンは話しかけられる。
「アレクサンドリナ・セバスチャンと申します。そうかお気軽にリナ、とお呼びくださいまし」
「ンナ、ンナナンナ!(リナ、リナはね、イアスのことを「イアスさま」って呼んでくれるんだ!)」
その足元でイアスは興奮気味に軽く跳ねて先ほど施してもらったマッサージでいい夢を見た様子であった。
「ええ、そうですわね。ガイドさまと感覚を同期して、ホロウを行き来できるなんて…イアスさまのように素晴らしいボンプをリナはこれまでに見たことがありませんわ」
リナはそう言い、先ほどのマッサージで確認したイアスの体調を見て驚いていた。
「それに物知りで、長くお仕事をされているにも関わらず、お体はとても壮健なのですから…感心してしまいます」
「ン、ンナナ、ナ!(その通り。イアス様は、すごい!)」
すっかりリナのマッサージでイアスは気持ち良さげにしており、リンはその様子に微笑ましげに聞いた。
「もっと褒めてあげればよかった…」
そしてこれほどイアスが良くしている様子にリンはイアスの接し方を間違えていただろうかと少し不安になってしまった。
「ンナナ、ンナナンナ!(僕知っているよ、本当は全部リンのおかげだって!)」
イアスはそう言いリンを見上げると、リナがそこで言う。
「ガイドさまはご兄妹でいらっしゃるのですわね。お二人で、主人を失ったイアスさまに暖かなお家をご用意して差し上げたのだと…このリナ、感服しましたわ」
「どうしてそれをーー」
その時、リナはややハッとなった様子で口元を軽く抑えた。
「まあ、私としたことが…イアスさまがお二人に寄せられる信頼に心動かされ、つい口さがないところが出てしまいました。どうかお気を悪くなさらないで下さいまし」
彼女はそう話すと、リンは少しだけ顔を青くさせてイアスを見てしまう。
「(まさかイアス…リナさんのお世辞に乗せられて…?)」
マッサージの気持ちよさで何か余計なひと言を知ってしまったのではないかと不安に感じていると、リナは言った。
「ふふ…ガイドさま、ご安心なさって?イアスさまは依然として、忠実なご友人ですわ。きっと、あなたさまにはもっと秘めごとがおありなのでしょうけれど…けして明かそうとはなさいませんでしたもの」
彼女はそう言い、次によく整備をされてとても健康的なボンプを見てそう話す。
「それにイアスさまとお話できて、「パエトーン」とは素敵なビジネス上のお付き合いができそうだと確信いたしました。今後とも、よろしくお願いいたしますわね」
「(イアス、ナイス!)」
その時、リンはまた新たなお得意先…しかも金払いはとても良さげな雰囲気の顧客を作ったことに内心でガッツポーズをとる。特に最近はFairyがいつもの五倍以上の電気代を食う大喰らいであるがために、店の利益率は減少していた。
そこでリナと会話を終えると、最後に彼女は川辺の柵にもたれかかっていたシリオンに話しかける。
「ナイルさ〜ん」
「よう、漸く着いたみたいだな」
そこでリンが話しかけたことでナイルは気がついた様子で彼女を見た。
「やっぱそっちの制服の方が格好いいよ」
「そりゃあ金かけているからな。これで似合わなかったら、よっぽど素材が悪いってことだよ」
彼は苦笑気味に絶妙に堅苦しいタキシードを纏ったまま答える。
「ンナナ!ンナ!(お久しぶりです!リンさん)」
「うん。久しぶりだね」
リンは時々見ているカニングにも微笑んで挨拶をすると、彼女はそこでナイルを見上げながら呟く。
「ええ〜、こんなにいい感じだったらさ…たまには友達価格で安くサービスでもしてくれないかなあ〜」
「生憎、俺の担当はガンスミスと人員輸送、後方支援がメインの仕事なの」
「ガンスミス?」
そこで聞きなれない仕事に首を傾げるリン。
「狩猟で扱う銃の整備を担当したり、銃の改造を行う仕事」
「へぇ〜」
「実際、これでも治安局で名はそこそこ売れてたから注文は多いんだ。幾人かの富豪から猟銃を預けられる程度にはな」
「へぇ〜」
全くもって自分たちの生活からは遠くかけ離れた話を目の当たりにして目が点になって『へぇボタン』を押してしまうリン。
「もし頼むなら気をつけろ。リナを台所に立たせるな」
「へ?」
そこで困惑気味にリンはナイルを見ると、彼は実に…実に嫌な顔をして言っていた。どういうことだと聞くと、そこでナイルは誤魔化すように聞いた。
「それよりもだ。いいのか?イアスの点検に来たんだろう?」
「あっ、そうだった」
リンは指摘をされて思い出したようにイアスの下に駆け寄ると、イアスの点検を行った。
そしてイアスの点検を終えると、彼女の持っていた携帯が鳴った。
『リン、ヴィクトリア家政の人たちとは会えたかい?』
「うん、バッチリ!挨拶もしたし、イアスの点検だって終わらせちゃったよ」
リンは大いに頷くと、アキラは電話越しでもよくわかるリンの様子に安堵したた様子で頷く。
『どうやらヴィクトリア家政の人たちとは仲良くできたようだね。いい事だ』
アキラもその様子に満足でにして新しい顧客ができたことを嬉しく思っていた。
元々治安局所属であったナイルであったが、最近の羽振りの良さの理由もよく理解した様子だった。
『ともかくリン、早く帰っておいで。準備ができたら、すぐにホロウに入ってレインを探そう』
「うん。分かった」
そこで電話が切れると、ナイルが話しかけてきた。
「イアスは、俺が見ておけばいいか?」
「うん。お願い、ナイルさん」
そこでイアスやカニングなどのボンプがナイルと戯れているのを見ながらリンは頷くと、そのまま広場を後にして近くに止めていた車に乗り込む。
「…さて、そろそろ出ましょうか」
「分かりました」
「了解です」
「りょーかい」
そこでホロウに向かう為、ナイル達はライカンと合流する。
その中で二台のボンプを尻尾で器用に乗せているナイルを見ながらエレンは驚いていた。
「重くないの?」
「生憎、俺の肌は拳銃弾程度なら簡単に弾く頑丈さなのさ。これくらい軽いもんよ」
「えぇ…」
エレンはナイルから聞いた自慢の全身防弾の鰐の皮膚に苦笑していた。
「ナイルは羨ましいですね…防弾装備もつけずに全身が鎧に覆われているのですから」
「いやあ…でも正直面倒ですよ?すぐに手入れしないと乾燥して肌荒れやすいですからね」
そこでこの中で三名がいるシリオン。その中でライカンは哺乳類、ナイルは爬虫類、エレンは魚類に分類される。
「私も、ノミとダニには気をつけなければいけませんよ」
「その分女性受けがいいじゃないですか。ライカンさん」
「そうでしょうか?」
そこで自分の狼のシリオンの悩みを漏らすと、意外な話が出てきてライカンは驚いた。
「まあ、たしかにライカンさんは女性人気も高そうですわね」
「…あまり揶揄わないで下さい。リナ、ナイル」
ライカンはため息混じりに答えるが、その尻尾は大きく揺れていた。
「「…」」
そんな大人たちのやり取りを見て半眼になってライカンを見つめる
「今回の仕事が終わったら飲みますか?」
「良いですね。おすすめの居酒屋でも紹介させてください」
「そうですわね…焼酎なども用意している店なんかも…」
大人達の会話を聞いていたエレン達は、この三人は酒を話をしている中で少しだけ大人に早くなりたいと思ってしまった。
なお次回投稿は不明です。