灰は龍炎に惹かれて   作:ジルバ

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……火の無い灰よ、王におなりください
苦痛、絶望、そして呪い。あらゆる罪と苦しみを
受け入れ、喰らう深淵の王に……






第24話:零れ氾く灰よ

「サーシャ!無事でよかったよ!」

「……お前もな、メフィスト」

チェルノボーグの残骸から離脱したイーノは無事にアッシュとサーシャと合流を果たしていた。

 

「ついに始まったんだね、おじさん」

「……あぁ」

アンデッド達は龍門近衛局の本拠地であったビルの屋上で眼前に広がる戦場となった龍門を眺める

 

今この瞬間にも薪の王達は殺され──篝火から蘇り続け近衛局やレユニオンの雑兵達を蹂躙している

たとえ、敵がどれほどの数を誇ろうが、一騎当千の猛者の集まりであろうが、不死には敵いやしないのだから。

この為に彼等は今までに幾つもの篝火を灯してきたのだ。

 

龍門が陥落するのも時間の問題だ。

 

……さて、

 

「イーノ、サーシャ……アリーナは言っていた。子供は道なき道を切り開き、未来を創る宝だと。私もそう思う……そしてそんなお前たちをここまで連れてきてしまったことが後ろめたくもある……」

「まだそんなこと言ってるの?前も言った筈だよ僕らはタルラ姉さんの為ならどんなことだってやるって」

「……俺も同じだ……覚悟はとうの昔に済ませている」

 

「……そうか…ありがとうな。二人共」

毅然とした態度でそう返した二人の少年にアッシュは薄く笑んだ。

本当に、強い子に育ったものだ。

 

──だが、もう……十分だ

アッシュが手をイーノとサーシャに翳すとその手から放たれた炎が二人を囚えた

 

「何…!?」

「な、何だよこれ!?どういうことだよおじさん!?」

 

「ここまで漕ぎ着けたのはお前たちのおかげだ……しかし、ここから先は想像を絶する戦いになるだろう。お前たちには荷が重すぎるほどの…な。だからこの炎で安全な場所へと送る」

 

「お前はまだそんなことを…!」

「ふざけるなよ……僕らは結局足手纏いだって言うのかッ!?」

 

「……二人は私の寄る辺の一端なんだ。絶対に死なせない…安心しろ、タルラは私が必ず取り戻す……それまで大人しくしていてくれ」 

 

 

「そんなの聞ける訳「悪いな、隊長」……お前ら!?何をしてる!」

「クソッ!お前たちも……グルか…!」

「……すまない、隊長。これはアンタらの為……そうだな?」

「……あぁ、これで…良いんだ」

必死に足搔き、炎から抜け出そうとする二人だったが無情にも彼等の部隊として動いてきた薪の王に阻まれる

二人にはもうアッシュにその目で訴えることしかできない。

 

しかし、

 

「──またな」

彼もまた“覚悟”をしているのだ

 

サーシャとイーノ、そして薪の王達は跡形もなく焔と共に消え失せた。

 

そして入れ替わるようにしてに彼女が現れる。

 

「……一体何が……ここは…!?」

「……よく来たな──チェン」

「!?お前は…アンデッド…!やはりお前が…ッ!」

チェンは突然自身に起こった転移という異常な事象に驚く暇も無く新たな敵と相対した。

ミーシャの護送を強襲した時、彼女は彼に終始圧倒されていた

勿論あの時はミーシャを護りながら戦っていた故防戦を強いられていた。

だが、何よりも……

 

チェンは己の左手の内で今もなお爛々と朱い輝きを放つ愛剣を見やる

赤霄は今までに数度鞘から抜き放つこと自体は出来たが、いづれも抜くに値する敵や事態を斬った後に鞘に戻っていた。しかし此度、竜狩りの鎧を下したにも拘らず赤霄は眠りにつく気配はない

 

(赤霄はまだ眠っていない……今の私なら…!)

 

「……ここは良い街だな。活気に溢れ、夜になっても尚光輝いて……何より、生き別れた筈の“アイツ”とそっくりに育ったお前が全霊で護ろうとしているのがその証拠だ」

「やはり、お前がこの騒動を起こしたのか…!降伏しろ、そして今すぐ龍門への攻撃を止めさせるんだ!!」

 

 

「それはできぬ相談だ。私にはこの都市が必要なのだから」

「…ならば実力行使させて貰うまでだ……だが、その前に聞きたいことがある」

 

「お前は……タルラから聞いたのか、私のことを」

「…あぁ、君のことを耳が痛くなるほど聞かされたとも。彼女はここから遠く離れたウルサスで君のことを忘れることなく想い続けていた。届けようのない君宛ての手紙を何通も認めてすらいたんだぞ…クハハ…」

 

 

「タルラは言った、いつか君に会わせてやると…なのに…何故こうなったんだろうなぁ、チェン…」

「…本当に…アイツがレユニオン率いて…」

「違うッ!!」

弾かれた弦のように素早い否定にチェンは思わず押し黙ってしまった。

 

「アレはタルラなんかじゃあない!今のレユニオンも決して彼女の理想などでは断じて違うのだ!!」

 

「あの悪霊がタルラの心を壊し、奪い、支配し、暗躍している!ヤツはタルラの救おうとした感染者を利用して何かを成そうとしている…タルラの体で彼女の望まぬことを…!!」

 

「だがそうはさせん。今この瞬間にもこの龍門へと迫るチェルノボーグと共に来たるヤツが…ここでケリをつける…いや,つけねばならん。これ以上タルラに負う必要のない罪を背負わせはしない!」

 

 

徐にアッシュが手を伸ばし、虚空に生じた火とソウルから現れた“ブルーフレイム”を掴む。

 

「私の望みはただ一つ、あの黒き悪蛇を滅ぼし、タルラを救う。そうすれば……また昔のように…!」

ブルーフレイムが指揮者のタクトのように縦横に振るわれ、彼の頭上に無数の蒼の魔法陣が浮かび上がる。

 

同時詠唱……“収束するソウル”、“ソウルの奔流”!

 

幾本もの光線がチェンただ一人目掛け降り注ぐ

チェンはそれを横へ飛ぶことで難なく避け、アッシュに術を行使させないと接近する為に身体を沈める

 

「っつう!?」

しかし、チェンが相手に視線を戻そうと前を見た時、目の前に剣の切先が迫っていた。

間一髪それを右手の剣で弾くが、まだ火のない灰の攻勢は終わっていない。

アッシュが縮地と見紛う程の速度で突進し

地を蹴らんと力を込めていなければ弾き飛ばされていただろう。

 

「っらあッ!!」

「クッ…!」

一連の連携を凌ぎきったチェンは鍔迫り合いに勝ちアッシュを押し返し、ノーガードとなった彼の体を蹴り飛ばす。

 

 

後退せざるを得なくなったアッシュは二転三転転がるが、受け身を取って立て直し、“ゴーの大弓”のアンカーを地に突き立て衝撃を殺しながら矢を──“フランベルジュ”を番え…放つ!

 

空を切り、風を渦巻かせた“フランベルジュ”がチェンへと迫る

その波打つ刃が彼女の身を捉えたならば肉を抉り、剣で防いだならば強射の衝撃に腕が壊されるであろう。

 

(ならば…!)

 

身体を捩り、"フランベルジュ“が頬をすれ違いざまに裂いて行った

 

チェンが駆ける、アッシュの元へ

 

全力疾走で迫ってくるチェンを更なる射撃を以て迎え撃つ

"うつろの鎧の剣“と"イルシールの刺剣“の熱と冷気を帯びた凶刃をスライディングで避け、彼我の距離を詰めていく。

 

「チィッ…!」

アッシュに焦りが見える。彼の後ろは断崖絶壁。後退はできない。

 

「雲耀の如く!!」

ゴーの大弓を手放し、竜狩りの槍を手にしたアッシュは身体を左手と両足の三点で支え、地に触れそうなほどの低姿勢から地を蹴った。

 

その一刺はまさに迅雷のように疾く、獅子のように荒々しいものであった。

 

しかし、来ると分かっているならば

 

チェンは迫り来る竜狩りの槍の穂先から横へのサイドステップで逃れ、標的を見失った槍、そしてそれを持った腕を眼前に捉えた。

 

「らあッ!」

「ゴハッ…!?」

彼女は到来したその好機を逃さず掴み、アッシュを背負い投げ地に叩きつけた。

そのまま流れるように彼の背に馬乗りになった後。腕を締め上げその手から槍を手放させた。

こうなっては生殺与奪を握られた状態。もうどうしようもない。王手だ。

 

「終わりだ…観念しろ!」

…しかし

 

「──まだだ!!!」

アッシュが徐に左手で握り拳を作り、地面を殴った

 

危

 

チェンは既に完全に優勢を取れていたにも関わらず、気が付いた時にはアッシュの拘束を解き、飛び退さっていた。

その危機察知に理性による判断は介在しておらず、本能としか言いようのなかった。

 

しかし、それは最善手だった。

倒れていたアッシュの周囲の地面から悍ましい数の骨の剣が突き出したのだ。

 

(クソ!あと少しの所で…!)

“墓王の大剣舞”の作り出した剣山の中心でアッシュが荒い息を吐きながら、“墓王の剣”を支えに立ち上がる。

 

 

「ハハッ…やはり強いなぁ…チェン!」

流石はタルラの妹だ。

 

「…だがな──!」

バキッ!!

掴んでいた“墓王の剣”が砕け、周囲の剣山もそのあとに続くように塵となって空に舞い上がる。

 

アッシュの視界にチェンの姿に重なるように数多の記憶が蘇る

 

ウルサスの雪原で稽古で剣を交え、共に研鑽を積んだタルラが

 

あの夜、苦悩に呻いていたタルラが…

 

そして…

 

焼かれた村の前で、跪く己を見下ろす悪霊が

 

決意に満ちた眼で己を見上げていたイーノとサーシャが

 

悲痛な顔で己を見るアリーナが

 

イヴァン老夫婦の家で理想を語ったタルラが

 

──そして彼女達を喰らわんと顎を開く黒き大蛇が…

 

そうだ…私は──

 

「私はもう負けられないんだァッ!!」

「それは私とて同じことだッ!!」

 

彼の手にいつの間にか顕れていた‘綻び刀’と‘煙の剣’の一閃で墓王の剣の塵が吹き飛び、咆哮を上げたアッシュは目に映る"敵“へと突撃する

 

ガキィィンッ!!

アッシュの"煙の剣“とチェンの赤が交差し、甲高い金属音が天へと轟く。

 

──ナドラよ

 

「何…!?」

“その呼び声”に呼応し、"煙の剣“の刀身から黒い靄がとめどなく溢れ出す。

 

否、それは靄などではない。煙だ。この黒霧こそ煙の剣の内に宿る深淵の主、マヌスの別け身たる煤のナドラの力の具現である

 

かつて鉄の古王の記憶の内で聳え立っていた黒霧の塔にそうしたように近衛局本拠のビルの屋上一帯を漆黒の濃霧で覆い尽くしたのだ。

 

(煙幕か…!)

視覚を奪われ、歯噛みするチェンだったが、呼吸を整え、不動の構えを取る。

左。またも本能じみた直感が警鐘を鳴らす。反射的に赤霄を振るうと火花と鋼が噛み合う甲高い音が生じる。

 

防いだ。そう思ったのも束の間。火花で僅かではあるが照らされた暗闇の奥で妖しい暗紫の軌跡が走った。

 

次に右肩、右足、そして左の脇腹に灼けるような痛みが走る

 

「ッ……!」

斬られた。防いだはずだった。

黒煙の向こうから、音もなく一撃が届いていた。一歩下がる。二歩。その瞬間、今度は背後から殺気。振り向くより早く赤霄を薙ぐ。空を切った

 

再び闇が閃いた。

 

(見えた…!)

闇の中でアッシュは前傾姿勢の居合の構えを取っていた。

そして、既に彼の“綻び刀”は鞘から解き放たれんとしている!

 

二刀を交差させ、攻撃に備えたチェン。攻撃の前兆を捉えたことで辛くも高速の十文字斬りを凌いだ。

 

しかし対するアッシュは刀を鞘に戻し、煙の中に消える。

高速の居合の猛襲がチェンの身と精神を削り取っていく。

これこそ凄まじき切れ味を持ちながらも闇の侵され、外気に晒されていれば瞬く間に朽ちゆく運命にある闇喰らいのドラゴンウェポンの極致だ。

 

 

「──これにて終いとしよう」

「…気が合うな。私もそう思っていた」

 

同時、一切の違和と差もなくキンッ!と赤霄と綻び刀が鞘に納められる音が静寂の中、一際強く互いの耳に響く。

 

恐ろしく長く感じる静寂の見合いであった。

 

 

抜刀の刻は──

 

((今ッ!!!))

 

アッシュの逃亡騎士の鎧の節々からから黒霧よりも黒い瘴気が漏れ、鞘の内の綻び刀へと吸い込まれ、その刃を黒く染め上げ…

 

チェンの手で揺籠(鞘)に戻った赤霄だが、その内でその輝きを絶やすことなく再び解き放たれたこの瞬間に応える!

 

 

 

「喰らい尽くせ、ミディール…!」「赤霄……抜刀!」

鞘より両剣が抜き放たれた

 

 

 

二竜の剣より放たれし黒紫と深紅の斬撃の奔流が真っ向から激突し、互いを喰らい尽くさんと拮抗する。

 

 

 

勝因はたった一つ

 

ドラゴンウェポンはかつてアッシュ達の居た世界に君臨していた絶対的な支配者の力の象徴である。

神々に拮抗し得る神秘の力は強力無比で、それは古竜の末裔たるミディールのドラゴンウェポンである綻び刀も同様に名刀だ

 

その鋭き刃はその主と同じ運命を辿って闇に染まった今となっても健在であり、如何に硬き敵手をも切り裂くことが出来よう

 

 

……しかし、

 

「──────」

“綻び刀”。そんな蔑銘に甘んじている時点で、闇喰らいの竜の刃が赤霄に勝てるはずは無かったのだ

 

 

 

 

赤霄の赤の斬撃が闇の斬撃を、ビルを覆う黒霧を……そしてアッシュを切り裂いた

 

ナドラの黒霧が跡形もなく霧散し、曇天から漏れる日の光が二人を照らす。

 

アッシュは膝を着き、切り裂かれた胴鎧の内から絶えず血を流していた。

それでも、と満身創痍になりながらも綻び刀を支えに立ち上がろうと

 

パキン……ッ!

 

……しかし、限界を迎えた綻び刀は半ばからへし折れ、アッシュは力なくチェンの足元で跪いてしまった。

 

 

勝敗は決した。

 

「──悪くない剣だった。だが、私の勝ちだ。再度通告する……しかし、投降しろ」

折れた刃が瞬く間に塵となって消えていくのを見届けたチェンが赤霄を跪く騎士に突き付ける

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだだ!私は……まだ…終われない…!」

誓ったのだ。この命を賭けてでも二人を護ると…!

 

願ったのだ。私を人として見てくれた者達との日々を取り戻すと!

 

立ち上がろうと四肢に力を込めるが、言うことを聞いてくれない。逆にその行為が災いして傷口からの出血が増し、体の熱が無くなっていくのを感じる…

 

やはり…私ではダメなのか。一介の不死でしかない私では……誰も守れないのか、誰も救えないのか

 

欲しい。力が欲しい

 

大切なモノをあらゆる害意、災い、脅威から護リ抜く為の力が……

 

「もっと…力を…!」

 

──願ったな、不死の勇者よ

 

(…………)

 

貴公は我が示した正しき使命を拒み、剰え我が愛しい娘達を殺した

 

だが、我は許そう。最後には火を終わらせ、あの世界を闇へと誘ったのだから

 

故に我も貴公に報いてやろう

 

再び開くのだ。貴公が閉ざしてしまった暗き穴を

 

(ふざ…けるな…私は…!)

 

良いのか?

 

力が無ければ何も成せぬと、誰も守れぬと

 

それを貴公は思い知っただろう?

 

誰も守れなかったな?誰も救ってやれなかったな?

 

──ワオォーン…!

悲しげな目で己を見つめ遠吠えを上げる大狼

「ぁ……」

 

── なあに、探索は英雄の嗜みさ。覚悟はできている、ガハハハハ

豪快にそう言って旅立ち、灰の湖で斃れていたカタリナの騎士

 

──…あぁ、ダメだ…俺の、俺の太陽が、沈む……

追い求めた“太陽”に狂わされた男

 

──ありがとう、お前に会えて…本当によかったよ

姉をこの手で殺めてしまった蜘蛛の姫に寄り添うように死んでいた呪術の師

 

自責する必要はない。ヒトとは脆弱な存在なのだから

 

「黙れ…!」

「おい、どうした?死ぬなよ!お前には聞きたいことがある!しっかりしろ──」

 

──なぁ、お前、無事でいろよ。学院の真似事も楽しかったぜ…

──行くのかい。まあ、儂も少しここを離れる、しばしのお別れだな

ロスリックの城にて屍となった私のことを友と呼んでくれた者達

 

──貴公、我が友よ…無事、使命を果たしたまえよ

約束を果たし、再び私の前から消えたカタリナの騎士

 

──ああ、ホレイス、僕たちはやったんだよ…

運命に抗い、亡者に成り果ててしまった女騎士

 

そして…

 

(あ…あぁ───!)

 

数多の矢に射抜かれ、地に臥せったサーシャ

 

(止めろ…)

 

巨大な四角の構造物の中に独り身を投げるイーノ

 

(やめてくれ…!)

 

ドクターに抱きかかえられた冷たい屍となったエレーナ

 

アーミヤに手を伸ばしたまま物言わぬ屍となったボジョカスティ

 

(────ッ!!)

 

雪の降り積もる木々に囲まれ、木漏れ日に照らされた血塗れのアリーナ

 

皆の屍の積み上げられた山の上に一人で立つタルラ

 

「──私からこれ以上奪うなァァッ!!!!!」

「くっ…!?」

 

……ならば取るが良い、剣を。そして

 

 

──人間性を捧げよ

 

 

親友の惨たらしい姿が“アッシュ”にトドメを刺した

 

「………良いだろう」

ふらふらとふらつきながら騎士は立ち上がり、綻び刀を拾い上げる

残された半ばから折れた刀身も既に崩壊を始めている。もはや何も切ることもできまい。

 

だが──塞がった疵を開くことはできよう

 

チェンは彼が次にとった行動に驚愕し、目を見開く。

彼は綻び刀を損壊した鎧の隙間から覗く胸へと突き立てたのだ

 

 

「お前、何を馬鹿なことを!!?」

綻び刀に貫かれ、その刃から鮮血が滴り落ちていく

 

──暗き穴。

ソレはもう一つの王の証。

彼にロードランにて闇の蛇に、ロスリックにてその蛇の遺した娘に示されていた亡者の道

 

彼は二度に渡りソレを拒んだ──…深淵の恐ろしさを目の当たりにしていたからだ

 

深淵は如何に強靭な精神を誇った神の騎士であろうと抗えず、

闇を喰らい尽くす使命を帯びた古竜にどれ程喰らい尽くされようと滅びることは無く、

そして人の身でありながら神喰らいを成した聖者と英雄の資質無き奴隷騎士を神に届きうる怪物へと変貌させた

 

だから彼は彼を王と呼ぶ亡者たちの手を振り払い、穿たれた穴を癒し、火の時代を終わらせた

 

だが、過去はテラに流れ着いた彼に追いつき──

 

──彼の前に再び道が示した

 

 

傷口から溢れ、綻んだ刃が垂らす液体のイロが変わる

 

赤から───闇の魂の如き色へと

 

「守るんだ、皆を…救うんだ、タルラを…!」

「何が起こっている…!?」

男は綻び刀を握る力を強め、刃を横に動かし、己が身を抉り裂いていく。それにつれ引いた傷口と鎧の節々から黒よりも黒く、夜闇よちも暗い瘴気が噴き出し始める

 

──灰の方!いけません!

──アッシュ!それ以上はダメッ!

 

「そして寄る辺を取り戻し…幸せになるのだ…その為ならば私は──人間性(アッシュ)を捧げよう!!」

 

 

HUMANITY LOST

 

 

その刻、日輪が姿を消し、世界が暗闇に呑み込まれた。

突如起こった異常現象に人々は大きく惑う

 

 

ウルサスの女学徒達が、

炎国を彷徨っていた“代理人”が、

クルビアのエルフが、

カジミエーシュの燻んだ栄光の騎士が、

カズテルで戦いに明け暮れていた傭兵達が、

ラテラーノの玉座に座す教皇が、

ヴィクトリアを手中に収めんと暗躍する摂政王が

 

 

異なり地で異なる立場、異なる種族の者達は皆深淵に惑っていたが、すぐに皆揃ってソレを見上げていた。

 

 

……もちろん──

 

「あ、姐さん!なんだよアレ!?」

「チクショウ一体何だってんだ!?ようやくあのよく分かんねぇ奴らを切り抜けたってのによぉ!?」

「全員落ち着け!動転するな!誰もここから離れるなよ!!」

 

「アーミヤ…アレは…何だ?」

「……分かりません。ですが…アレのある方向から…凄まじい感情が…流れ込んで…ううっ…!?」

「ちょっとアーミヤ!?しっかりなさい!」

 

“……こちらドクター。あぁ、丁度通信を繋げようと思っていた。ケルシー、至急我々を拾って──龍門へ”

 

 

 

 

 

ソレは消え去った日輪代わりとばかりに天に座していた。

そのゆらめく火の織りなす円環は世界に僅かばかりであるが、灯りをもたらしていた。

 

だが、何よりも──

 

その円環の内に封じられているかのようにそこに在る先の見通せぬ闇が彼らの目を惹きつけて止まなかった

 

それは“孔”である

 

龍門上空に開かれた孔は絶えず深淵の泥を吐き出し、近衛局のビルへと注ぎ続けていた。

 

彼の者の生誕を祝福するかのように

 

深淵の泥に沈みゆくチェンは見た

己の手の中で深淵に抗うように放つ輝きによって照らされた……闇の中で蠢く影を

 

バキッ……ビキビキ……バリィィ―ンッ!!

逃亡騎士の甲冑が内にいる存在の脈動に悲鳴を上げ、ついに破砕する

その様はまさに卵から鳥の雛が孵るかのようであった

 

そう、生まれ変わったのだ

 

今や彼の者は。薪の王でも、灰にもあらず

 

 

 

 

 

人よ、存分に祝うが良い、新たなる深淵の主の……否

 

───深淵の王の誕生をッ!!

 

 

 

 

 

 





あとがきの時間だ
……最近感じてるんですけど、シリアスってメタ話し辛いんですよ。
実を言うとフロストノヴァ達スノーデビル小隊とドクター達ロドスの共闘書きたかったんです……けどこの世界のフロストノヴァ原作よりちょっと元気なんで詠唱中の隙をアーミヤたちがスノーデビル小隊達と連携して護るだけでMISSION ACCOMPLISHEDするんですよね……まぁこの作品の主人公はアッシュなのでね
それに共闘の機会はまだありますから

それでは……もしよければ感想評価、お気に入り登録を恵んでぇーくだされよー


















深淵の王、■■■
重量5
近距離 物理
HP A+    移動速度C
攻撃力A    攻撃速度C
防御力A    元素耐性E
術耐性E    損傷耐性E
我等が悲願を成し遂げ、神の枷より解き放たれしヒトの英雄
ヒトとは本来カタチ無き生きものである。故に何にでもなれるのだ。
万敵万害を捻じ伏せる圧倒的なる力を望んだ彼の者には“世界を破滅させうる力を持った兵器”のごとき姿こそ相応しいであろう
恐れるなかれ。彼の王こそ、分かたれし全てを一つにし、偽りの世界を打ち砕く救世主である






……次回、第25話「深淵の王」


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