――これが夢であったなら、僕はきっと来世では聖人になるだろうね

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MyGO13話分の知識を総動員して書きました


第1話

休日にしては人が少なく見える、土曜日の駅前。

現在時刻は12時を少し過ぎた頃。

日中だからモンスターは出ないが、これから僕、空斗(そらと)はその辺の名有りボスよりもよっぽど危険なクエストにソロで挑戦しなきゃいけないんだ。

名字なんて名乗らない、書きたくもない。

名前負けしてるし。

 

「なるべく普通の人っぽい格好にしたはずだけど...大丈夫だよな?」

 

別に僕が悲しきモンスターという訳ではない。

普段外出する用事なんて学校しかないし、そうなれば制服で事足りるし、土日外出も制服にするぐらい洋服がないだけで。

と、左後方から「あっ」と声がする。

 

「早いね。待たせちゃったかな?」

「いえ、僕がちょっと早く着いただけなので」

 

今日の待ち人、三角初華に声を掛けられ、思考を中断する。

帽子とサングラスをかけて、身バレ防止をしている。

僕と三角さんの関係性といえば、同じクラスで、僕が学級委員で、時々連絡事項とかを話すだけ。

ただそれだけの関係で、誓って恋仲ではない。

というより、そんなことは万一にもあり得ない。

だって彼女は今をときめくアイドルユニット、『sumimiの初華』なんだから。

 

「制服以外見るの、初めてかも」

「まぁ、そうでしょうね」

「学校以外で会わないもんね」

「会う用事もそうないでしょうし」

 

当たり障りない返事をしていると、三角さんの顔が曇る。

何か選択を間違えたらしい、代償は僕の命で事足りるかな。

 

「何でずっと敬語なの?同じクラスだし、年も同じはずだよね?」

「…ずっと緊張してるんですよ」

 

余談だが三角さんの誕生日は6/26、僕は…8月中と言っておく。

今は12月なので、年は同じ。

 

「いつも通りにしてくれていいんだよ?空斗くんとお出かけできるの楽しみだったし」

「それは、どうも…」

 

十中八九アイドルスマイルであろうそれを、目の前で見ると破壊力がだいぶある。

いくら本当の笑顔ではないとはいえ、普段万人に向けて向けてる笑顔を自分だけに向けられていると、なんというか。

 

「なんか、申し訳ないな」

「何が?」

「三角さんのこと、独り占めしてるみたいで」

 

そう言うと、三角さんの顔が赤くなった。

風邪かな?なんてベタなことを考えるわけもない。

少し恥ずかしい発言をしたんだ、赤面が羞恥の意味を指すのはいくらコミュ力皆無の僕でも分かる。

伊達に文学に触れてるわけじゃないんだから。

 

「…じゃあ、これはデートかな?」

 

三角さんがそんな事をいうので、固まってしまう。

 

「あれ、そういうこと言うから、慣れてるのかなって思ったけど」

「…そんなわけないでしょう。親族と出かける以外で人と出かけるのは初めてで」

 

そう言うと、三角さんの目が大きく開いた。

 

「嘘だ、そんなわけないでしょ」

「嘘じゃないですよ。三角さんと出かけるのが初めての他人との外出なんで」

 

このまま嘘だ嘘じゃないと押し問答していても何も起きないので、強引に話を切る。

 

「それで、何故僕を呼んだんです?」

「…男の子って、何をあげたら喜ぶかな」

 

疑問が真っ当な女の子だった。

アイドルにも意中の男性っていうのはいるんだなと思いつつ、失礼を承知で苦言を呈す。

 

「…そういうのは僕じゃなくて、もっとクラスの人気者とかに聞いた方がいいと思いますけど…」

「空斗君にしか聞けないことなんだ、お願い」

 

身長の関係上、少し上目遣いで言われる。

全く関係ないが、僕は”お願い”という言葉に弱い。

 

「…そう言われたら弱いですね。分かりました」

「いいの!?やった!」

 

――アイドルの上目遣いにやられたわけではない。決して。

 

「…そんな喜ぶことですか?」

「だって!…ううん、これは後のお楽しみ」

「そう、ですか」

 

乙女の秘密は詮索するべからず。

どっかで聞いたけど忘れた。

興味もなかったし異性と関わる気もなかったし。

 

「じゃあ、早速出発!…の前に」

「前に?」

「お腹すいちゃって。おすすめのご飯屋さんとか、知らない?」

「そうですね…この辺だと」

 

えへへと笑う彼女を見て、三角さんの方が知ってそうなものだけど、という言葉を飲み込んで、駅周辺のマップを脳内で展開する。

外に出ない癖に外の知識をため込む悪癖が、ここで活用されるなんて。

 

 

 

「うわぁ、おしゃれなお店…よく来る、わけじゃなさそうだね?」

「よくわかりましたね」

 

選んだのは駅近くで美味しいと評判の、こじんまりとした洋食店。

まぁ、駅近くで出店してるならまずい訳はないだろうけど。

レビューも4.5と、オール5よりも信頼できる場所だったのでここにした。

 

「だって、初めて来たって顔してるもん」

「分かるんですか?」

「…まぁ、ね」

 

やめよう、湿っぽい空気になりそうだ。

 

「何食べます?」

「いっぱいあると悩むね」

 

少し笑いながら彼女が言う。

 

「そうですね。でも僕は決めました」

「早いなぁ。ん~、と。よし決めた。すみませーん」

 

自然な動作で店員さんを呼んで、なだらかに注文していく。

続けて僕のも注文し終えたところで、少し一息。

すると、三角さんが少し顔を寄せて囁く。

 

「ここ、結構いい値段するね?」

「…入ってから気付きました。すみません」

 

一番安くて3桁後半、高いのだと4桁前半、切り上げで5桁になるものもある。

おいしい話には裏がある、とは違うが、今度からちゃんと調べようと思った。

 

「ううん、平気。私が出すし」

 

耳を疑った。

今、とんでもないことを聞いた気がする。

 

「え、いやそれは」

「私の方が多く頼んでるし、これからいっぱい振り回すし。ね?」

 

行間にお願いの文脈を読み取ってしまったので、引きさがる。

自意識過剰とかでなければいいが。

 

「何考えてるの?」

「え?」

 

声をかけられ、いったん自己反省をやめる。

 

「空斗君と目を合わせようと思ってずっと見てたのに」

「あぁ、その…すみません」

「で、何考えてたの?」

「…自分がここにいる意味ですかね」

 

駅で言ったとおり、男子が好きなものを聞きたいだけであるなら、全然僕じゃなくていい。

なぜ三角さんは僕を、休日に、それも二人きりで。

それが分からない。

間違っても「三角さんは僕の事が好きなのかもしれない」とかは思ってはいけない。

それだけは、絶対に。

 

「言ったでしょ。空斗君とお出かけしたいからって」

「…あんまり言いたくないですけど、僕と出かけることにメリットとかあります?」

「あるよ。私が嬉しい」

 

僕の問いにノータイムで答えた三角さん、なんなら食い気味だったまである。

嬉しいと言った理由の答えをどうにか着地させる前に、「来たよ」という声がした。

疑問をいったん棚上げして、運ばれてきた料理に意識を移す。

 

「おいしそうだね」

「ですね」

 

僕はパスタ、三角さんはハンバーグのセット。

大きい口を開けて頬張る姿は可愛らしいと思ってしまう。

 

「空斗君、あんまり食べない人?」

 

あまりにも唐突な問いだったので、なんで?とそのまま口から出た。

パスタが口に入ってなくて良かったと思う。

 

「それだけで足りるの?」

「朝食べたのが2時間とか前なんで」

 

嘘を吐いた。

朝は食べたが、現在時刻13時前から逆算して5時間以上前だ。

三角さんを前にあれもこれもと食べられるはずもなければ、そもそも緊張でパスタでさえ喉を通るか怪しいのだから。

 

「食べる?」

 

飛んできた言葉の意味を理解できず、しばらくフリーズしている間に、僕のパスタの皿にハンバーグが一切れ乗る。

 

「…ぇ?」

「ふふ、変な声」

「いや、その、え?」

 

思考がまとまってない。

何をされたんだ?

 

「呆けちゃって、美味しいよ?」

「あの、その…えっと」

 

なおも困惑していると、戸惑いとからかいが混じったような声で、

 

「そんなに驚くことないでしょ?食べ物分けるのって、友達とかだと普通じゃない?」

 

と言われる。

 

「そう、なんですか…?」

 

友達というものを知らない。

けど、本の中の彼らはそんな事をしていたような、そんな気がする。

本に従うなら、ここはお礼を言ったほうがいいのだろうな。

 

「じゃあ、その…ありがとう、ございます」

「ん、どういたしまして。冷めちゃうよ」

 

提供されてから少し、かつ分けられてからも少し経っているが、言うほど冷めているわけではなかった。

ちょうど一口サイズのそれを食べる。

形容詞はジューシー、だろうか。

あまり言うべきではないが、高いだけはある、ということでもあるのだろう。

 

「おいしい?」

「はい、とても」

「ふふ、よかった」

 

こちらを見ながら微笑む三角さん。

こういうのを、画になるというんだろう。

 

「どうしたの?」

「…いえ、何でもないです」

 

パスタを口に入れて誤魔化したけど、顔が赤くなっていることが自分で分かったし、きっと三角さんにもバレていたのかもしれないと考えると、さらに恥ずかしくなった。

 

 

「ごちそうさまでした~!」

 

店を出て、現在は駅に併設ショッピングモールされているに向かっている。

 

「私が出すって言ったのに」

「流石に全額は申し訳ないので。ここをおすすめしたのも僕ですし」

 

全部出すと言われ、はいそうですかと引き下がれなかった僕は、せめて自分の分はと出した後の会話である。

 

「いいって言ったのに。頑固だなぁ」

 

頬を膨らませてそう言う姿は、怒っているというよりいじけてるように見えて、少しかわいく思えてしまう。

 

「すみません」

「ううん。私も意地悪言ってごめんね」

 

このままお互い謝り倒してしまっては昼前の二の舞だと、なんとか話題を探す。

 

「…そうだ。今向かってるショッピングモールですけど、目的とかあるんです?」

「ん~、目的はご飯食べる前も言ったけど、空斗くんがもらって嬉しいものを探すのと、あとは…ちょっと早いけど、春服とか欲しいなぁって」

「春服ですか…ん?」

 

春服の前、何か重要なことを言っていた。

僕の記憶違いじゃなければ、集合時に言われたのは…。

 

「三角さん、探しに行くのは僕が喜ぶものじゃないんじゃ」

「あれ、そうだっけ?でも同じじゃない?」

「僕の好みと他多数の好みは違うと思いますよ」

 

やはり今からでも同行者を変えた方がいい気がする。

とはいえ、代わってくれるような友人もいなければ、そもそも人に連絡するツールなど持っていないのであるが。

と、三角さんの足が止まる。

 

「…ごめんね空斗くん。正直に言うと、今日は君にありがとうを言いたくて連れ出してるの」

「…お礼を言われるようなことは、何も」

「私がしたいの。だから付き合って!」

 

まただ。

彼女は口外に"お願い"をするのが上手だ。

僕がお願いに弱いのを言ってか知らずか。きっと知らないと思うけど。

 

「…わかりました。付き合います。他ならない三角さんの頼みなので」

「ふふっ、ありがとう。じゃあ改めて、敬語やめるのと、呼び方変えよっか」

「…いきなり難しいこと、言うんだね」

 

なんとか絞りだしたタメ口でも、彼女は上手だねと笑ってくれる。

こんな人が彼女であったなら、デート中は楽しいだろうなとふと考える。

そして、そんな浮かれることではないイベントであることを再認識して、気を引き締める。

同時に、感謝を伝えるためだけにこんなに時間を使ってくれているのかとも考えてしまう。

 

…ダメだ、人の思考なんて読めないんだ。

 

「空斗くん?」

「…ごめん、ちょっと考え事」

「もう。せっかくデートなんだから、楽しい顔して考えてよ」

「わかっ…え?」

 

今、デートって言ったか?

いや、きっと比喩だ。

そうでなければ、僕は。

 

「…あんまりそういうこと、言わない方がいいよ」

「どうして?」

「勘違い、するでしょ」

 

どう思われようとも、これだけは言わないと。

と、三角さんが僕の右手に触れ、そのまま指が絡む。

 

「なに、してるの?」

「行こう、ソラ君」

「え、ちょっと」

 

繋がれた右腕が引かれる。

三角さんの顔が赤いのは、きっと寒いからだと思う。

いや、僕がそう思いたいだけ、かもしれない。

 

 

結局腕を引かれたまま、「ソラ君」という呼称にも、なにも聞けずに目的地に到着してしまった。

三角さんの変装が功を奏してるのか、視線はあまり感じないのがせめてもの救いかもしれない。

とはいえ、「現役アイドルと手を繋いでいる、しかもお忍びで」というこの状況が、僕のメンタルを確実に抉っている。

 

「ん~…ここは、どこ?」

 

モール内マップを見ながら、頭の上にハテナを浮かべている、ように見える三角さん。

正直とても可愛いので眺めていたい…が、今のメンタルでそんなことはできない。

マップ下部の赤い部分を指さす。

 

「今はここだよ、目的地ってあるんだから」

「ここか。…てことは、こっちかな」

 

再び僕の手を引いて歩く三角さん。

 

「あのさ、三角さん」

「呼び方」

 

割と低目の声で怒られた。

 

「…初華さん」

 

身バレ等々を気にして、少し小声で呼ぶと、

 

「…なに?」

 

と、まだ不機嫌な顔がこちらに向く。

 

「どこに、向かってるの?」

「まずは洋服屋さんかな。呼び方間違えられて機嫌悪いから、服選び付き合ってね」

「え、っと…はい」

 

手を繋がれている状況で拒否なんて選択などできるわけもない。

曖昧に頷くと、「よろしい」と言って目的地に目線を向ける初華さんの顔を見ながら、

機嫌が悪い割には、どうして口角が上がってるんだろうと、そう思った。

 

 

「じゃあ、ソラ君はそこにいてね」

 

迷うことなく服屋の前にたどり着いた初華さんは、そこでようやく僕の手を離した。

春服をどうとか、とか言っていたが、今の時期に春服は売っているのだろうか。

 

「ソラ君、こっちとこっち、どっちがいいかな?」

 

どうやらあったらしい。

で、提示されているのは淡めの青のアウター類…確かデニムシャツとか言ってたやつ、と濃い目の青のカーディガン。

 

「青、か…」

「ソラ君、青好き?」

 

なぜかそう聞かれる。

 

「まぁ、はい。好きか嫌いかと言われれば」

「そっか、よかった」

 

何が良かったなのかは全くわからないが、ものすごく満足そうな顔をした初華さんが試着室に入っていく。

カーテンをすべて締め切ったと思ったら、ちょっと開けて顔だけ出して

 

「覗いちゃダメだよ」

 

とか言うので、「覗かないよ」と返す。

 

まるで本で読んだカップルのような会話だと考えてから、周りにはそう見えているのかもしれないと、今更ながら考える。

仮にそう見えていたとして、初華さんはどう見られているのだろう。

声を掛けられていないのは変装が完璧だから?もしくは気付いているけど僕がいるから?

分からない。

思考がぐちゃくちゃになって、目の前が暗くなっていく。

 

「ソラ君」

 

初華さんに呼ばれ、思考を止める。

明るさを取り戻した視界に映るのは、見事なまでにデニムシャツを着こなす初華さん。

 

「似合ってますね」

「そう?カーディガンも着るから、ちょっと待っててね」

 

そういってカーテンを閉め、30秒ぐらい経ってからまた開く。

 

「どうかな?」

 

デニムシャツの時とは違い、着こなしている感じには見えない。

というより、勝手に抱いている初華さんのイメージに、カーディガンが合わない。

とはいえ、それをそのままいうのはあまりにもノンデリが過ぎるので、言葉を選びつつ慎重に声にする。

 

「…どっちも似合ってるんですけど」

「けど?」

「…さっきの方が、似合ってたかなって」

 

なんとかそこまで言い切ると、初華さんが「そっかぁ」とだけ言って、カーテンの向こう側に消えて行く。

程なくして、初華さんが先ほど着ていたものを持って出てくる。

 

「じゃあ、ちょっと買ってくるね」

「え、はい」

 

どっちも買うのだろうか。

少なくともどちらかを元あった場所に戻るようなことは見てない。

僕に聞いたのは、なんとなくだったのか。

と、袋を下げた初華さんが「お待たせ~」と帰ってくる。

 

「あ、おかえりなさい」

「ソラ君のおかげで迷ってたの踏ん切り付いたよ、ありがとう!」

 

満面の笑みで言われてしまえば、先ほどの悩みも馬鹿らしく思えてしまう。

 

「良かったね」

「うん!ありがとう!」

 

同時に、その笑顔を向ける相手は僕ではないのだろうと、浮かれた気持ちを落ち着ける。

この外出をデートと呼んだのだって、ソラ君なんてあだ名を貰ったのだって、きっと。

 

「まただ、ソラ君。暗い顔してる」

 

初華さんの手に顔を挟まれて、強制的に初華さんと目が合う。

 

「ソラ君、もうちょっと付き合って」

「…言われなくても、そのつもりだよ」

「…もっと気楽にしてていいのに」

 

寂しそうな顔をしないでほしい。

僕は、どうしたらわからなくなるから。

と、右手に初華さんの手の感触。

 

「最後に、もう一個だけ付き合って」

「え?」

「星、見に行こう?」

 

 

 

初華さんに言われ、連れられた先はモールの最上階。

 

「プラネタリウムがあるって聞いて、ここも来てみたくてさ」

「そっか」

「ソラ君、星は好き?」

 

そんな事を聞かれ、少し返答に迷う。

好きか嫌いかで星を見たことはない。

 

「…どっちかと言えば、好き、かな」

「良かった、嫌いって言われたら泣いちゃうところだったよ」

「泣かれるのは困るな。好きって言って良かったよ」

 

今日の外出…初華さん的にはデートらしいけど、だいぶ距離が縮まったように思える。

しかし、明日からは元通り、一学生とアイドル。

それが何だか、寂しく思ってしまう自分がいる。

 

「ソラ君?」

 

今日はなんだか、初華さんに顔を覗き込まれることが多い気がする。

下を向いてるせいだろうか。

 

「どうしたの?」

「いや、その…なんか、寂しくなってきちゃって」

 

思ってたことがそのまま口から出てしまって、まずいと思いとっさに顔を上げると、

 

「…私も、同じこと思ってた」

 

初華さんが頬を赤くして言う。

 

「だって、いっぱい仲良くなれたんだよ。これでお別れは寂しいでしょ?」

「それは、そうなんですけど…」

 

揺らいだ。

危うく、本当に自分のことを思ってくれてるのかもしれないと思ってしまった。

線引きをしなければいけない、それだけは、絶対に。

 

「あっ、もうすぐ時間だ。あとで話そう?」

「…はい」

 

初めて入るプラネタリウムは、映像で見る大きいテントのようなものだった。

天井がスクリーンとなり、星を映す。

星座たちの由来や説明を聞きながら、星を眺める。

この時期だと、こぐま座流星群なんかも見れるらしい、もう少し先とは言ってたけど。

 

「奇麗だな…」

 

意図せず呟く。

隣からクスッと聞こえたのは、きっと気のせいだろう。

呟いたのを見た初華さんが笑ったなんて、そんなこと。

 

 

 

プラネタリウムから出て、モールの1階、フリースペースで休憩中。

冬の星座がすべて見えるのも、そうないだろう、圧巻だった。

 

「奇麗だったね」

「初めて見た、あんな大量の星」

 

さっきの情景を思い出しながら呟くと、初華さんが口を開く。

 

「…ソラ君は、都会の人?」

「生まれも育ちも都会だね」

「そっか。そう、なんだ」

 

含みのある言い方をしてから、初華さんは僕の隣に移動してきた。

対面で座ってたのに、わざわざ隣に。

 

「私さ、都会育ちじゃないんだ。あんまり人がいない島で育ってね。星も綺麗に見えるんだ」

「それは…羨ましいかもね」

「だよね。でさ、一個提案があって」

 

初華さんは僕の左腕を取って何かを付ける。

 

「これ、は?」

「まぁまぁ、それよりさ」

 

顔が近い。

息が当たる。

 

「ねぇ、今度の土曜日、暇?」

「た、ぶん…?」

「じゃあ、さ」

 

抱き着かれる。

 

「さっき言ってたこぐま座流星群、見に来ない?」

「見に、来ないって…?」

「ううん、見に行こう。私と一緒に」

 

拘束が強くて抜け出せない。

仮に抜け出せたとして、どうするのが正解なんだ?

 

「ソラ君、お返事は?」

「え、っと」

「私、ソラ君のこと好きだよ」

 

頭を殴られたような衝撃。

引いた一線を軽々越えてくる。

僕は、どうしたらいいんだ。

 

「ね、ソラ君」

「…ちゃんと、連絡するので。1日、待ってもらっていいですか」

 

どうにかそれだけ声にした。

それを聞いて、初華さんが離れる。

 

「…うん、分かった。待ってるね、ソラ君のお返事」

「ありがとう、ございます。絶対、連絡するので」

 

僕は明日死ぬのかもしれない。

もしくは、全部夢なのかもしれない。

あるいは、全て誰かの筋書き通りに進んでるのかも。

 

「あ、ソラ君」

「は――?」

 

頬に触れる柔らかい感触。

 

「また、明日ね?」

「は、い。また、あした…」

 

――全部、夢であってほしい。

 

あり得ないことが起こり過ぎている。

僕はもう、普通の生活を送れないのかもしれない。

 

 

 




文字書き、頑張った
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