You’re gonna be the one that saves me
And after all
You’re my wonderwall
oasis 『wonderwall』より引用
季節は冬。
冬という季節は、高校二年生の自分にとってどこか特別な意味を持っている。
寒さが肌を刺す朝。白く曇る息を見るたびに季節が動いていることを改めて実感させられる。
それは、時間が確実に進んでいるという現実を突きつけられるようでもあった。
冬は、物理的な冷たさだけでなく、心の中にもひんやりとした空間を作る。
クラスメートたちがいつも通り笑い合っている教室の中でさえ、何か静かな孤独感を感じる瞬間がある。
それは、冬が持つ特有の透明感のせいかもしれない。
全てがはっきり見えるようで、でもその奥に何か隠れているような、そんな感覚だ。
一方で、冬には不思議な魅力もある。街路樹に積もった雪が陽光を受けて輝く様子や、夜の静寂の中で聞こえる雪の足音は、他の季節では味わえない特別なものだ。
寒さの中で縮こまる指先も、マフラーに包まれた首元も、どれも「今、この瞬間」を強烈に感じさせる。
冬の帰路はどの季節の帰路よりも暗い。
帰宅の号令をかけられ帰る道で見上げた空はいつも低く、どこか物寂しい。
だが、その物寂しさが嫌いなわけじゃない。
それは、どこか心を落ち着かせるような優しさを含んでいる。
家々から漏れる明かりや遠くで響く電車の音に触れると、自分がこの広い世界の一部であることをふと思い出させられる。
冬という季節は、恐らく高2の自分にとって心を深く掘り下げる時間なのかもしれない。
受験の足音が遠くから聞こえ始め次の一年がどんなものになるのか想像する。
その不安や期待が、冬の冷たい空気とともに自分の中に染み込んでくるような気がするのだ。
放課後の高校の校門を出ると、冬の冷たい空気が頬を刺す。
雪は午前中から降り続いていたが、積もるほどではなく、地面には薄く湿った白い跡が残るだけ。
空を見上げると灰色の雲が低く垂れ込めており、時折ふわりと舞い落ちる雪が視界をぼやけさせる。
自分は肩にかけた通学鞄を少し持ち上げ、同じく厚手の上着姿で前を歩く友人の姿に目を向ける。
黒いコートにマフラーを巻いた彼女は、手袋をはめた手で鞄のストラップをぎゅっと掴みながら歩いている。
呼吸によって排出される白い息とともにどこか無言の空気が流れる中、足元で靴が雪を踏む音だけが響く。
ふと、彼女が立ち止まり、振り返る。
「あのさ」
その短い言葉に、不意を突かれたように自分は足を止める。
彼女の頬は冬の冷気で少し赤らんでいて、どこか照れたように目をそらしながら続ける。
「何さ美咲」
「今度、どっか寄って帰るのとか、どう?」
「どっか……とは?」
自分は聞き返しながら、頭の中でいくつかの選択肢を巡らせている中で、美咲はポケットからスマホを取り出しながら小さく肩をすくめた。
「別に大したことじゃないんだけど、最近気になる服があってさ。ショッピングでもどうかなって」
彼女の提案は、自分をほんの少し意外な気持ちにさせる。
基本、彼女の姿を見る際には彼女のバンドメンバーと共に様々なことに巻き込まれながらも行動を共にしている印象がどうしても強い。
彼女の周りの人物が濃い人たちだからということもあるが、そういう点が多いため、自分自身の中で彼女がこういったような柔らかい提案をするのが珍しく感じ、どこか人懐っこい一面を見た気がしているのだ。
「別にいいが、どこに買い物へ行くつもりで」
自分がそのように応じると、美咲はスマホを操作しながらにやりと笑ってみせる。
「駅前のモールかな。そっちの方はあんたが詳しいじゃない?」
「詳しいというか普通だが」
そう答えると、自分が真面目な顔で答えたことが面白かったのか、美咲は小さく吹き出した。
それは雪の降る空気を少しだけ温かく感じさせるような笑いによく似ている。
「じゃあ、来週の土日のどっちかで」
道端の街路樹には、まだ薄く雪が積もり、その隙間から見えるイルミネーションが淡い光を放っている。自分たちはそんな冬の街を背景に、次の週末の約束を交わしながら歩き出した。
空から降り続ける雪は、二人の足跡をほんの少しだけ隠し始めているように見えた。
☆
冬の風が頬を刺すような冷たさを帯びて、駅前のロータリーには灰色の曇り空が垂れ込めていた。
吐く息が白く浮かび上がり、すぐに消えていく様子は冬ならではのものに他ならない。
週末の駅前は、それでもいつもと変わらず多くの人で賑わっている。手袋に包まれた手を擦り合わせる人々や、厚いマフラーに顔を埋めるように歩く人たちの姿が目立つ。
駅前の商店街からは、クリスマスソングが薄く流れている。
明るいメロディが鳴り響く一方で、雪の匂いが少しだけ混ざった冷たい空気が、どこか寂しげな印象を与える。
周囲には、小さな屋台がいくつか並び、焼き芋やホットコーヒーの香りが漂っていた。
湯気が立ち上る屋台の明かりは、灰色の世界にほんの少しだけ暖色を灯している。
駅のアナウンスが響くたびに、改札口から人が次々と現れては足早にどこかに向かって散っていく。
その中に、待ち人がいるかもしれないという期待が、胸の中で小さく跳ねる。
そのたびに時計を見るが、針の動きはいつもより遅く感じられる。
待ち合わせをした彼女の姿を思い浮かべる。どんな服を着てくるのだろうか。
冬らしく厚手のコートを羽織っているのか、それとも少しラフなスタイルで来るのか。
どちらにしても、彼女らしい佇まいで現れるのだろう、と勝手に想像してみる。
人々が行き交う雑踏の中、目の前を通り過ぎるのは知らない顔ばかり。それでも、どこか期待を捨てられないのは、駅前という場所が「出会い」を約束する特別な空間だからだろう。
駅前広場の片隅ではストリートミュージシャンがギターを奏で、鈴の音が交じったクリスマスソングを歌っている。
ポケットの中のスマートフォンがひんやりと冷たい。
画面を確認してみると、特に通知はない。
それでも、そろそろだろうと思いながらも改札口の方へ視線を戻す。
美咲が現れたとき、自分はどんな表情をするだろうか。
そんなことを考えながら、冬の駅前の喧騒に身を置いていた。
『ついた』
携帯の通知にメッセージが届き、再び人の波が改札口から吐き出されていく。
この中にいるのだろうとぼんやり改札口を眺めていれば、改札から出てくる彼女の姿を視界に捉えることができた。
「お待たせ」
「こっちも着いたばかりだ」
厚手のコートにマフラーを巻き、頬を赤らめながら小走りで近づいてくるその姿は、周囲の景色よりもずっと鮮やかに目に映った。手を振る彼女の仕草にこちらも手を上げて応じると、自然と顔がほころぶ。
彼女の声は街の喧騒に紛れて少しだけ小さく聞こえたが、それでもはっきりと耳に届いた。
「どうする? 先に昼でも買うか?」
「……ワガママ言っちゃってもいい?」
「ファミレスか?」
「正解」
「だと思った」
何かこうだろうといった根拠はなかったが、しっかりと予想と同じものだと些か驚くが、彼女側もやっぱり当てられちゃうか、と言ったように顔に笑みを浮かべる。
「じゃ、行くか」
「うん」
そういって自分は彼女の手を手袋越しに握りながら、彼女の行きたい場所へと共に足を進めた。
☆
自分らの目指すショッピングモールの中には、食品売り場に雑貨店、服屋や書店にレストランなど、よほどニッチなものでなければ大方このモールのテナントに入っている。
それだけの店舗が入っているのならば、当然迷子の子供が出ても致し方のないことだなとも思う。
現にクリスマスシーズンということもあり、子連れの親子や夫婦が手をつないで通り過ぎていくのを道中で多く目に映っている。その中には、迷子になって泣きじゃくる子供や、子供を探す夫婦の姿も視界の端に映ったりもした。
迷子の知らせをアナウンスも店内BGMの合間に幾度も流れ、その仕事ぶりに心の中でねぎらう。
そうして、自分らはショッピングモールの中にあるファミレス店の前まで歩いてきた。
店はお昼時よりも少し早い時間帯だったためさほど並ばずに店内に入り、店員に案内された席に座る。
席に着き、お出しされたお冷を口にしながらメニューを見ていると、不意に美咲が口を開いた。
「何食べるか当てていい?」
「当ててみな」
「オムライス」
「じゃあそれで」
「じゃあって何??」
「決めてなかったから全部正解だったって事だ」
「イジワルなのか優しいのかわかんないって……」
彼女はそんな自分の態度に呆れているのかおかしく思ったのかこちらを見て笑いかけてくる。
「じゃあお前は何にするつもりなんだよ」
「じゃあこっちも当ててみてよ」
「……ハンバーグ」
「じゃあそれで」
「イジワルされ返されたが?」
食べるものを互いに勝手に決めるという、イジワルなのか仲のいいからこそのやり取りなのかわからなくなるが、店員さんに注文を伝え、しばらくすると注文の品物が運ばれてきた。
彼女に勝手に決められた料理ではあるが、特段苦手なものでもない為、スプーンで掬っては口に運んでいく。
そうしてケチャップと共にオムライスの味を確かに感じながら、その味に舌鼓を打つ中、その姿を彼女はじっと見つめてくる。
「……ほしいのか?」
「ちがうちがう。本当に美味しそうに食べるなって」
「……そんなに露骨だったか?」
「あたしがすぐに分かるくらいには」
「忘れてくれ」
「嫌だけど」
昼食を共にする人間にそこまで露骨に見分けられるのはさすがに恥ずかしい。
そんな姿を忘れてほしいと要望したが、正面の彼女はニヤニヤとしながらこちらの珍しい一面を見れたといわんばかりに笑っている。
そうして、互いに届いた料理を、互いに舌鼓を打つ姿を見守りながら、どこかむず痒い昼食の時間を済ませた。
「で、次に行く場所は?」
「そりゃ、服屋さん」
「ですよね」
昼食を取り終えた自分たちは、モールの中に入っている目的の服屋へと向かうのだが、自分たちと同じような年代の客は周りは手を繋いだカップルばかり目に映る。
その客たちの向かう先は、当然ながら自分たちの目的地である服屋。
……そういう関係でもないのに、どこかそんな気分にさせてくることに、どこかまた心のどこかがむずがゆくなった。
そうしてモール内の階層が変わるたびに、すぐに使い古されたクリスマスソングが耳に飛び込んでくる。
どの階層でも天井近くには大きなリースが飾られ、店内の照明も暖色で統一されている。
その暖かな雰囲気と同じように、周りを歩く客も異性同士で手を繋いだりして、個人個人で暖かな雰囲気を纏わせている。
「ここ。服屋」
彼女が指差したのはカジュアルな雰囲気のアパレルショップだった。
店の入り口には「クリスマスセール」の文字が目立ち、マネキンがクリスマスを想起させる様な赤や白の華やかな服を着て出迎えている。
ここまで頼ってもらってついてきた自分だが、ファッションについての知識がほとんどない人間だ。
どんな服が流行っているかもわからないし、自分の服ですら気に入ったものを適当に買うだけだ。
そんな自分に「一緒に服を選んでほしい」と彼女が言ったとき、少し不安だったのは否めない。
果たして自分に彼女の役に立てるのだろうかと今でも一抹の不安を覚えているほどだ。
「どうしようかな……」
彼女が一つのラックの前で立ち止まり、目を輝かせながら服を選び始める。
その姿は真剣であり、そうして服を選別していく姿を自分はぼんやりと見つめるしかなかった。
「これ、どう思う?」
そうして彼女が取り出したのは、淡いピンクのニットだった。
袖がふんわり広がったデザインで、胸元には小さな刺繍が施されている。
「あってるんじゃないか?」
そう答えると、彼女は少し笑いながら「本当に?」と尋ねてきた。
「いや、本当に似合うと思っている。……なんというか、その色、お前に合ってると、本当に思っているんだ」
そんな抽象的な返事しかできない自分がどうにも情けないが、彼女はそれを気にする様子もなく、にこにこと嬉しそうな表情を浮かべていた。
「じゃあ、次はこっち試着してみるね」
彼女が試着室に入るのを見送りながら、自分は少し緊張した。
この後、美咲がどんな服を選んでも、果たして的確な意見を言えるのだろうか、再び不安になってくる。
「これなんだけど、どう思う?」
試着室から戻った彼女が次に手に取ったのは黒のタートルネックニットだった。
素材が柔らかそうで、シンプルだけどどこか品のあるデザインだ。
「それもいい。どこか大人っぽい感じがして、さっきまでと雰囲気が変わった印象をもった」
「黒ってシンプルすぎるかなって思ったけど、意外といけるかもね」
そう絞り出した自分の言葉に、彼女は「そうかな?」と首をかしげながらも、満更でもなさそうだ。
彼女は鏡の前でニットを体に当ててみせる。その姿があまりにも自然で、「シンプルすぎる」という言葉がむしろ的外れに思える。
「うん。いいと思う」
自分の思ったことを素直にそう言うと、彼女は少し照れたように笑った。
「自分でもちょっと冒険してみたんだけど、これはどう?」
「自分は良いと思うが……確かに冒険したな」
その後に彼女が次に選んだのは、鮮やかな赤のワンピースだった。
裾が少し広がるデザインで、クリスマスシーズンにはぴったりの華やかさがある。
正直に言うと彼女は「そうなんだよね」と笑いながらも「でも、こういうのもたまには着たいなって思って」と答えた。
そもそもこれは、美咲のためのファッションショーのようなものだ。
だから彼女の好きなものを好きなように来てもらうのが、一番だと自分は思うのだ。
「じゃあ、ぜひ試着してみてよ。似合う姿が想像できる」
その言葉に彼女はうなずきワンピースを持って試着室へ向かう。
彼女が試着室へと姿を消したあと、自分は改めて店内を見回し、彼女が選ぶ服のセンスを自分には備わっていない良いものだと感じたのだ。
次に彼女が選んだのは、ベージュのロングコートだった。シンプルだけど形が美しく、どんな服にも合わせられそうな万能な一着だ。
「これ、どう思う?」
「いい。どんな服にも使いやすいだろうし、お前の雰囲気にも合ってると思う」
「珍しく、ちゃんとした意見っぽいね」
「……素直な感想を言っただけなんだがな」
からかうように言いながらも、彼女はコートを試着してみることに決めた。
最後に彼女が選んだのは、グレーのタートルネックセーターだった。
シンプルなデザインながら、袖口に小さなアクセントが施されており、どこか上品な雰囲気が漂う。
「これじゃ無難すぎる?」
「全然そんなことないんじゃないか? そういうシンプルなデザインが一番似合うとも思うんだが」
「じゃあ、これも試着してみるね」
自分の返事に、彼女は少し照れたように微笑んだ。
彼女が一着ずつ試着しては「どう?」と尋ねてくるたびに、結局自分は「いいね」「それも似合う」と答えを繰り返すしかなかった。
けれど、彼女が鏡の前で楽しそうにしている姿と、それを自分に見せてくる姿を見ると、それが正しい答えだったような気がした。
そうして美咲が自分自身の試着を一通り終え買う服を決めた後、彼女が不意にこちらを振り返った。
「ねえ、今度はあんたの服も見てみようよ」
「え、俺?」
「そう。せっかく一緒に来てるんだからさ、あんたの服も選びたい」
「それは良いんだが、多分なんでも肯定してしまう気がする」
「いいのいいの。あたしに任せてって」
自分は少し戸惑いながらも、彼女の提案を断る理由が見つからず、結局彼女に引きずられるようにしてメンズコーナーへ向かった。
「これ、どう?」
彼女が選んだのは、濃紺の長袖タイプのシャツだった。シンプルだけど少しだけ光沢のある素材で、大人っぽい印象を与えるデザインの服だった。
「いい服だとは思うが、自分が着るとなるとどうにも背伸びしている気がしてな……」
「そんなことないってば。こういうの着てみたら絶対似合うと思うって」
彼女の説得に押されて試着してみると、鏡に映った自分が思った以上に悪くなくて驚いた。
「ほら、やっぱり似合うじゃない」
彼女が得意げに言うその顔を見ていると、なんだか自分も少しだけ服を選ぶ楽しさがわかった気がした。
「これにする?」
彼女が尋ねてくる。その声には少し期待が混じっていて、自分は迷わず「それにする」と答えた。
美咲が笑顔でレジに向かう姿を横目にしながら、自分の中でふと気づいたことがある。
この時間がこんなにも楽しいものだと、今まで知らなかったのかもしれない、と。
試着を終えた彼女が一着ずつ姿を見せてくれるたび、自分は「いいね」「それも似合う」と褒めることしかできなかった。
だがしかし、そのたびに彼女が嬉しそうに笑うのを見ていると、自分のそんな曖昧な意見でも少しは彼女の役に立っているのだろうかと思えてくる。
最後に彼女が選んだコートを羽織った姿を見たとき、自分は無意識に「完璧だね」と呟いてしまった。
彼女は少し驚いたように目を丸くしたあと、「そう?」と頬を染めて笑った。
その姿があまりにも輝きを放つ魅力的な姿に見えて、自分は何も言えなくなってしまった。
奥沢美咲という少女は、自分の友人であり、かけがえのない人物だ。
奥沢美咲という少女は、同い年の人間たちとバンドを営み、非日常に身を置く存在だ。
自分から見る彼女、彼女の送る非日常の生活の中で見える彼女。そのどちらも彼女であることに間違いはない。
どちらも彼女。頭ではわかっている。
しかし、彼女が非日常の喧騒の中で、少しずつ変わっていっている事だけは、どこまでも愚かな自分でも察することができた。
彼女が変わっていったのも偏に非日常の体現したようなバンドメンバーのおかげなのだろう。
変化することが悪であるなどというつもりもない。むしろ喜ばしいことの筈だ。
しかし、その変化によって自分から離れていってしまうとするならば、話は別だ。
だからと言って、今の関係を崩すような真似をしようとは、自分には到底できなかった。
それほどまでに、自分の中で、奥沢美咲という少女との関係は、何物にも代えがたいものなのだ。
だからこそこの時間は、奥底で汚辱の渦巻く自分の中で何よりも充実した時間であった。
買い物を終え、冬の季節柄か気づけば日も沈み、空からは雪が降り始めている。
足元を見れば、モールに訪れる前には見えていた路面は薄らと白く染まり、通行人の足跡が真新しい白に刻み続けられている。
自分達の互いの手には互いの服の入った店の袋の紐を握り、もう片方には寒さから互いの手袋越しに手を繋ぐ。
「なんかさ」
「何」
不意に美咲が気温の低い中、白い息と一緒に言葉を紡いだ。
「恋人……みたいだなって」
「……それを自分で言って恥ずかしくないのか」
「恥ずかしいに決まってるじゃん」
彼女は、先ほど見せてきた試着の服よりも顔を真っ赤に染めて言い返す。
「……嫌か?」
「まぁ、あんたがそれで迷惑じゃ無いんなら、それでも良いのかななんて、思わないわけじゃ無い」
……その言葉を聞いて、自分は足を止めた。
「……冗談でもいうもんじゃ無い。お前がそんなことを」
「この顔を見て、あんたは冗談だと思う?」
そう言い切った彼女の顔は、冗談でもなんでもない、覚悟を決めて言い切った顔をしていた。
……馬鹿なことを言った。
こちらが不義理を働いたのは自明の理ではないか。
「自分はさ、お前と話したり、一緒にいる時間を無くしたくなかった」
「でも、お前はバンドをやり始めて、元気を濃縮したような我の強さをもった子達と一緒にいるようになって、どこか変わったようにも思えた」
「……馬鹿だよな。友人の変化なら、等しく喜んでやるべきなのに、自分の心はそれを素直に喜ぶことができなかったんだから」
「お前が、星座に召し上げられたと思うほど、遠くに行ってしまったと勝手に思ってたんだから」
自分でも意味のわからない独白だと思う。
自分の中でも纏まり切ってないような癇癪じみた自分の汚点が、これ見よがしにとめどなく溢れてくる。
「あんたさ、意外と馬鹿だよね」
「……仰ると思うだとも」
「あたしがさ、あんたの時間も切り捨てるような真似すると思う?」
「確かに、ハロハピの大事なんだけど、それと一緒位、あんたの存在も大事なんだって」
……とめどなく溢れていた汚点も、自分に向けられた発言にその勢いをピタリと止めた。
「……そう、か」
結局、自分の元を離れてしまうなどという醜い願望は、徒労に過ぎなかったのだ。
「こんな無様を晒した後だが、お前に言わなきゃいけない事が、一つ出来た」
「そう? こっちも言いたい事が出来た」
頭の中で纏めようとせずとも、お互いの言いたい事は決まっている。
「「貴方が好きです」」
それは、どこまでもシンプルで、それでいて何よりも芯の通った言葉だった。
「バンドリ共通プロット企画」参加させて頂きました。
開催して頂きありがとうございます。