問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~ 作:しましまテキスト
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ありがとうございます!
今話の前に投稿が遅れた言い訳をさせて下さい。
文が…書けないんです。
端的に言うなら、文才がないんです。
頭の中で構成は出来ているんですが、いざ書こうと思うとどうやって書いたらいいのか分からないんです。
今話も結構悩みました。
オリジナル展開という事もあるかもしれませんが、それでも中々話が進みません。
という訳で、もしこれから投稿が遅れる事があっても、サボってるのではなく、文章考えるのが遅いだけだと思っておいてください(笑)
もし投稿だ著しく遅れるようでしたら、その都度告知させて頂きます。
それでは悩みに悩んだ今話をどうぞ。
白亜の宮殿闘技場。
そこには常軌を逸した戦いを繰り広げる二つの存在があった。
一つは身体中に傷をおい、口からは血を垂らしながらも、しかし顔には依然として獰猛な笑みを浮かべたままの少年、逆廻十六夜。
もう一つは十六夜とは対照的に目立った傷もないが、しかし顔には心底つまらなそうな表情を浮かべている妖艶な少女、星霊アルゴール。
両者の力量差は彼らの現状を見るだけで誰もが容易に想像できる。
それ程までに星霊アルゴールの力は圧倒的であった。
彼等の戦いは箱庭の貴族たる黒ウサギをもってしても得ないと思わせる程の代物。
第三宇宙速度にせまる速度で移動する十六夜。
その足場は砕け、空間には視認できる程のソニックブームが発生し、その余波だけで闘技場は見るも無残な姿に成り果てている。
だが、そんな常人には視認すら難しい速度をもってしても、
”遅い…。”
アルゴールには全く通用しない。
十六夜がいかに高速のフェイントを織り交ぜようとも、完全にランダムなパターンで移動しようとも、それに反応できるアルゴールの性能の前ではその様な策は無いも同然であった。
アルゴールの戦法は至極単純。
十六夜が攻撃をしかけて来た所を、それ以上の速度をもって返り討ちにする。
ただそれだけだ。
だが単純であるが故に、それはつまり彼我の実力差を如実に示している事になる。
ーお前程度、策を弄す必要もない。
アルゴールの戦法が、態度が、表情が、それを無言で十六夜に告げていた。
だが、そんな屈辱極まりないはずの状況においても十六夜の心は躍っていた。
ー届かぬ物に手を伸ばす事。
ー考えて、行動し、失敗し、そしてまた考える事。
ー数えきれない失敗の末に、成功をつかむこと。
元居た世界では決して満たされなかった彼の心は、今ようやく最後のピースを手に入れたかの如く歓喜していた。
だが、同時に聡明な十六夜は当然ながら気づいていた。
自らよりも相手の方が圧倒的に格上である事を。
そして、この楽しい楽しい祭りが徐々に終焉を迎えつつあるのを。
”認めてやるよ、アルゴール。お前は強い。俺なんかよりもずっとな…。”
だが、十六夜の瞳には絶望や諦めの色など微塵もない。
それどころか、これ程までに実力差を見せつけられても、未だに勝利を諦めていない様にさえ見える。
”だがな…、強い奴が勝てる程、世の中単純じゃないんだぜ!”
そんな十六夜の内心を見透かしているかの如く、同様にまたアルゴールも十六夜に諦めの気配が感じられない事を訝しく思っていた。
”あいつ、まだアルちゃんに勝てる気でいるわけ?ちょームカつくんですけど!”
十六夜の様子に一層苛立ちをつのらせるアルゴール。
かつてはクイーン・ハロウィンにも比肩しうると言われ、いまやその頃を遥かに凌ぐ力を持つ自分に、だが未だ勝てると思っている目の前の人間がとてつもなくアルゴールには不快だったのだ。
”なら、もっと力の差を教えてやるだけだし!”
そう結論付けるやいなや、アルゴールの姿が消失した。
いや、消失したと思える程の速度で、高速移動する十六夜の背後に回り込んでいたのだ。
その速度たるや十六夜の第三宇宙速度さえ凌駕し、宇宙を置き去りにする彼女のそれは第六宇宙速度という尋常外の速度に達していた。
「なっ!?」
十六夜がようやく背後に見失ったアルゴールの気配を察知する。
が、それでは…
「遅すぎっ!」
そう、遅すぎるのだ。
圧倒的に遅すぎる。
十六夜が防御の構えさえ準備出来ない刹那に、アルゴールの拳が深々と十六夜の背中を打ち抜く。
「…ガハッ!」
「十六夜さん!」
そんな呼吸さえままならない苦悶の声と共に、そして黒ウサギの叫び声と共に、十六夜は闘技場の地面へと叩きつけられる。
そのあまりの威力に地面はクレーターを作る事も出来ずに瓦解し、局所的な天変地異かと見紛う程の様相を呈している。
だが、それ程の攻撃を繰り出してもアルゴールは攻撃の手を緩めようとはしない。
高々と舞い上がった土煙を自らの翼で一瞬の内にかき消すと、更なる追撃をかけんと十六夜の落下地点に近づき、止めをさすために拳を振りかぶるが…
”いない…。”
彼女が予想した場所に十六夜の姿は無かった。
そのかわりそこにあったのは、
「へぇ、こんな所に地下空洞があったんだ。」
人1人が通るには十分な広さの穴と、その先には巨大な地下空間が広がっていた。
「悪運まであるとか、マジむかつくし!」
箱庭においてこの様な言い方が正しいのか分からないが、とにかく天が十六夜に味方している事にアルゴールは理不尽な憤りをあらわにする。
確かに、十六夜が運よく助かったのも事実。
先ほどのアルゴールの攻撃は十六夜の強靭さをもってしても必殺と言わしめるだけの威力を有していた。
仮に地下空洞がなければ、十六夜は地面に叩きつけられた際にエネルギーを拡散できず、致命傷あるいは死んでさえいたかもしれない。
しかし幸運にも地下空洞のおかげで十六夜は落下する途中で態勢を立て直す時間が発生し、最悪の事態を逃れる事が出来たのだった。
「まあ、寿命がちょっと延びただけだし!」
だがアルゴールには運など関係ない。
敵が天を味方につけているなら、それごと打ち破ればいいだけの話。
運が介入する余地がない程の暴力で、敵を屠ればいいだけの話だ。
そしてアルゴールは、目の前の穴をくぐって地下へ自由落下する。
意外にも地下空洞は底が深く、アルゴールが最下層まで到達する頃にはまるまる十数秒も時間が経過していた。
”チッ、面倒な。あいつに隠れる時間をやっちゃた訳か…。”
最下層に降り立ったアルゴールは、周りの空間を認識するために集中力を研ぎ澄ます。
どうやらこの空間は全体としては球体を半分に切ったような構造をしており、天井を支えるための柱が円状に12本並んでいるだけの比較的シンプルな構造のようだ。
唯一の光源である天井に開いた穴からは、心もとない月光がわずかに差し込むだけで、空間は全体的に暗闇に覆われている。
「どこいった!こそこそしてないで出てくるし!」
完全に気配を絶っているのか全く十六夜の居場所を捕捉できないアルゴールはいらだたし気に問うが、もちろん返答があるはずもない。
”ほんとウザったいし!いっその事、ここら一帯全部石化しちゃおうか…。”
そんな物騒な案が一瞬頭によぎるも、アルゴールはすぐにその必要はないと悟る。
なぜなら、彼女の鋭い五感がある決定的な手がかりを掴んでいたがゆえに。
”この匂いは…血。しかもまだ新しい…。”
彼女の嗅覚が、十六夜のものと思われる血痕のありかを察知する。
”血の匂いの源は…、そこ!”
アルゴールは自身の身体能力を限界まで発揮し、匂いの元である彼女の右前方を凝視する。
すると、そこにはわずかではあるが確かに真新しい血痕がポツポツと地面にこびりついており、一つの線を形成している。
決定的な痕跡を見つけたアルゴールはわずかに口元をつりあげると、その血痕が続いていく先に視線を移す。
そしてその視線の先には、天井を支えるために設置されている巨大な柱のうちの一本があった。
”間違いない。あそこだし!”
人1人程度ならば楽々死角を作る事ができる柱を利用して隠れているのだろうが、そんな小手先の隠匿でアルゴールは欺けない。
アルゴールは獲物を見つけた捕食者のごとく獰猛な笑みを浮かべると、その柱に向かって殺気を放つ。
アルゴールから放たれるそれは、まさしく星の殺意。
白夜叉や祖国が放つ”威嚇”としての殺気とは話が違う。
まるで既に死が確定しているかと思われる程のその殺気は、気の弱い者なら即座に発狂してしまうだろう。
そしてそんな殺気を浴びた者の気配が揺らいでしまうのもまた当然の結果であった。
先ほどまでは完璧な隠形をなしていた柱の陰に、ふわりと何かが動く気配を感じたアルゴール。
それを察知するやいなや、彼女は自身の拳を強く握りしめると、
「かくれんぼはもう終わり!」
そんな勝利宣言とともに、一瞬のうちに気配の主をその拳で柱の反対側から、”柱ごと”打ち貫いた。
柱をまるで紙切れのごとく貫いた彼女の拳は、気配の主を巻き込みなおも止まらない。
音さえ置き去りにする彼女の拳にようやく爆音が追い付く頃には、彼女の拳は空洞壁面に深々と突き刺さり、壁一面を覆う程のクレーターを作り出していた。
立ち上る土煙の中で、アルゴールは確かな手ごたえを感じていた。
逃げるタイミングはない。
そもそも逃げれる速度ですらない。
そして確かにやわらかい”何か”をとらえた感触もあった。
”勝った…。”
そう確信するアルゴールは、十六夜の骸を確認しようと翼で土煙を吹き飛ばし…
「…はぁ!?」
この戦いにおいて初めて驚愕の声をあげた。
彼女の拳のその先。
打ち付けられたその拳の先にあったのは、彼女が思い描いていた人間の死体ではなく、
「これは…、あいつが着ていた上着!?」
そう、十六夜の一張羅にして、皆様おなじみの学ランの上着であった。
それは皮肉としか言いようのないミス。
全盛期の彼女の本気の一撃を受けた者は、皆ゴーゴンの威光も相まって必死、最悪塵も残さず消し飛んでしまっていた。
そんな必殺の一撃を放つ彼女が、手ごたえ云々を熟知しているはずもない。
つまるところ、それは彼女が強者であるがゆえの過ちであった。
だが、今のアルゴールはそんな事を考える余裕はない。
彼女の頭の中は、たかだか人間にはめられた事への怒りであふれかえっていた。
冷静さを欠いたアルゴールは、怒りのまま口を開く。
「どこだ!どこに行った!アルちゃんをこんなにコケにして…、絶対許さないし!」
アルゴールの怒号が宮殿内に響き渡る。
シルクの様に白く美しい彼女の肌は憤怒のあまりに赤みがかり、滑らかな黒髪は怒髪冠を衝くという言葉がふさわしいだろう。
だが彼女自身は気付いていないだろうが、箱庭においてアルゴールの美貌は静的な時よりも動的な時のほうが美しいと噂になるほど、今の彼女は美しかった。
端的に言ってしまえば、生き生きとしているのだ。
その切っ掛けは戦闘という血生臭い物であっても、それが彼女を最も輝かせる瞬間には変わりない。
その美しさを一目見ようと、マニアックな趣味をお持ちの神様がアルゴールに挑戦し、
「我々の業界ではご褒美です!」
という遺言を残して散って行ったという伝説があるほどである。
まぁ、それ程極端な行動にはしらないまでも、生気あふれる彼女の姿は誰もが美しいと断じる事ができるものであった。
それはともかく、
アルゴールの怒号に対して、
「おいおい、そんなにひっかかった事がお気に召さないかよ?意外とお子ちゃまなんだな?」
十六夜の挑発的な声が空洞内に響き渡った。
まさか返答があると思っていなかったアルゴールは一瞬たじろぐも、すぐに自らがバカにされている事を理解し、さらに躍起になって叫ぶ。
「べつにお子ちゃまじゃないし!いい加減姿をみせろ!」
そう、空洞内は出入り口が天井に開いた穴だけというほぼ密閉空間。
先刻アルゴールが吹き飛ばした土埃も、十分な換気が出来ないこの空間内では循環するだけ。
光源も心もとなく、さらに土埃で視界が最悪の現状では、十六夜を捕捉するのはアルゴールの性能をもってしても至難の業であった。
「ヤハハ、格上相手にそりゃ自殺だろ。もしかしてお頭もゆるいのかよ?」
十六夜の声が空洞内に反響する。
半球状という反響しやすい空間構造上、音声を発した者の居場所が特定しにくい事もアルゴールが苛立ちを覚える一つの要因となっていた。
「だ~か~ら~、アルちゃんをバカにするなーーーーー!!!」
十六夜の挑発と、苛立ちのつもる現状、そして格下相手に手間取っているという事実に、ついにアルゴールが癇癪を引き起こす。
そして、それゆえに彼女の次の反応が悪手になったのも当然といえば当然の結果であった。
ーカツン
彼女のすぐ真後ろで何かが動く気配と共に、乾いた音が鳴り響いた。
まさかそんな近くに接近されているとは思いもしなかったアルゴールは、瞬時に反応すると、音源と気配から敵位置を逆算し、必殺の一撃を振り返り際に放つ。
避けるという選択肢は無い。
相手の策謀、挑発、実力、そのすべてを真向から打ち破って勝つ。
そしてそれが自分には叶う。
そんな彼女の魔王としてのプライドから放たれた一撃は、
「はずれだぜ、魔王様!」
虚しくも空を切った。
そう、それは間違えて十六夜のブレザーを攻撃した時と全く同じ。
冷静な判断力をなくした今のアルゴールは、フェイクの二重性に気付けず全く同じ罠にかかってしまったのだ。
「こっちだぜ、メデューサ・アルゴール!」
同時に、フェイクの裏に隠れた本命の十六夜が彼女の頭上から拳を振りかぶりながら第三宇宙速度で迫る。
いまだ攻撃モーションのままのアルゴールに避ける術はない。
そして心の中で自らの失態をアルゴールが理解するよりもはやく十六夜の拳がアルゴールの背中に突き刺さり、彼女を地面へと叩きつけた。
「…ぐっ!」
地殻変動に比する彼の拳に、さすがのアルゴールも苦悶の声をもらす。
だが十六夜の攻撃はまだ終わらない。
叩きつけられ、腹ばいになっているアルゴールの背中から生える翼を左手でつかみ固定すると、
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
星をも揺るがす拳をあらんかぎりの力を込めて乱打した。
秒間数百発に及ぶ拳打の嵐が目視可能な衝撃はをまき散らしながらアルゴールに叩きこまれていく。
あまりの衝撃に地盤が崩落を始め、余波で空洞内のあちらこちらが崩壊していく。
だがそれでも十六夜は拳を止めない。
すでに彼の拳はくだけ、手からは血がとめどなく流れている。
しかしそんな事は関係ないと言わんばかりに十六夜は渾身の拳打を叩きこみ続ける。
そして、
ーグチャッ
そんな生理的に嫌悪感を催す音と共に、ついにアルゴールの翼が背中からもがれた。
十六夜の拳の威力に耐えきれ無かった翼は鮮血を纏いながら無残な物体に成り果てる。
それと同時に、アルゴールと自分の位置を固定する物がなくなった十六夜もようやく攻撃の手を止めると、念のためすぐさまアルゴールから離れる。
今やアルゴールがいた場所は超巨大なクレーターと化し、十六夜の猛攻がいかに凶悪なものであったかを如実に物語っていた。
”くっ、やったか?”
砕けた右手の激痛に耐えながら、いまだ土煙が止まないクレーター中心部を凝視する十六夜。
全身打撲、切り傷、骨折などなど、決して軽くはない傷を負った十六夜の姿はまさに満身創痍という言葉がふさわしいだろう。
”これで勝てなかったら、本格的にヤバいな…。”
そう頭では考えるが、十六夜は心のどこかで確信していた。
ーまだ決着はついていない、と。
そしてその直感は数秒後に現実となった。
突如巻き上がる規格外の旋風。
一瞬にしてクレーターから湧き上がっていた煙はかき消され、その現象の中心が露わいになる。
「なっ!?」
クレーターの端からその姿を確認した十六夜は驚愕の声をあげる。
そう、そこには身体はボロボロになりながらも、背中にはちぎれたはずの翼が再生し、いっそう禍々しいオーラを纏ったアルゴールの姿があったのだ。
「おいおい、再生とかありかよ…。」
そんな十六夜の嘆息を無視してアルゴールは静謐な声で告げる。
その声音は、いつものふざけた口調でも、癇癪をおこした時の口調でもない。
魔王として、星霊アルゴールとして、人類への試練としての、厳かな口調であった。
「あっぱれだ、人の子よ。星霊にして魔王たる我にここまでの傷を負わせる貴様の実力、高く評価しよう。」
「そりゃどーも。」
いきなりの賞賛に困惑しながらも、しっかりと応答する十六夜。
だが、その胸中は決して穏やかではなかった。
”やべえな…。あの野郎、この上なく冷静な目をしてやがる…。”
そう、怒りでもなければ慢心でもない。
アルゴールの瞳に宿るそれは極めて冷静にして冷徹な物であった。
そんな十六夜の焦りをよそにアルゴールは再び口を開く。
「貴様と最後の拳を交える前に、一つ聞いておく事がある。」
「なんだよ?」
「貴様、名は何と言う?」
「逆廻…、逆廻十六夜だ!」
予想外の質問に一瞬言葉を詰まらせるも、十六夜は確固とした面持ちで自らの名を高らかに告げる。
十六夜の真っ直ぐに自分を見据える瞳に、アルゴールはコクコクと愉快そうに頷く。
「そうかそうか。かような小僧が十六夜とは、むしろいっそすがすがしいの。」
「ヤハハ、全くだ。名付け親を見てみたいもんだぜ!」
さも愉快といったアルゴールの発言に、全く持ってその通りだと同意する十六夜。
アルゴールは最後に面白い問答が出来た事に口元を緩めながら、だがしかしその美しい眼は荘厳な光を宿したままに告げる。
「では行くぞ、逆廻十六夜!我が存在を越えてみせろ!」
そう言い終えるやいなや、アルゴールの霊格がさらに膨張する。
限界など知らぬかの如く膨らみ続けるその力に、十六夜はいよいよもって自身の危機を理解する。
心なしか自らの拳が揺れている様に感じる十六夜。
”ハッ、今更何ビビってんだ!元々アイツが強い事なんて分かり切ってるだろーが!”
そう自らを叱咤するも、彼の拳の震えは止まらない。
”クソが!肝心な時に何やってんだよ!”
悔しさと不甲斐なさの余り、唇をかみしめ、目を閉じる十六夜。
彼が心の中で自らの死期を悟ったその時ー
ふと彼の瞼の裏側に、彼がいつか越えてみせると誓った男の姿が浮かんだ。
その男は問いかける
ーそんなものか?
違う。
こんな所で終われるはずが無い。
終わっていいはずが無い。
なおもその男は問いかける。
ー諦めるのか?
バカを言うな。
諦める訳にはいかない。
こんな所で諦めれば、あの男を、貴様を、大宮祖国を超えるなど夢のまた夢だ。
ーならば怯えるな逆廻。死すのは己の全てで敗した時のみだ。
そうだ。
まだこの身に宿る力全てを出し切っていない。
死者の世界さえ切り裂いた必勝の光。
己が身に眠る奇跡を使わずして死んでやる事など出来はしない。
ー勝ってこい、逆廻!
「おうよ!」
そう呟いた十六夜はゆっくりと瞼を開ける。
拳は依然震えている。
だが恐怖は無い。
その震えはむしろ武者震いに近いだろう。
そして真っ直ぐとアルゴールを見据える十六夜の瞳は、何物にも折れぬ力強さを有していた。
「いくぜ、メデューサ・アルゴール!これが最後の一撃だ!」
そう言い放った十六夜は、ボロボロの身体に最後とばかりに力を込めると、自らの限界速度で空中に飛んだ。
十六夜が目指す場所は、この空間唯一の出入り口である天井の穴である。
十六夜の不可解な行動に眉をひそめるアルゴール。
”地上戦に持ち込むつもりか?いや、見晴らしが良い場所での白兵戦は我に分がある事ぐらい奴は承知しているはず…。まさか、逃げる気か?”
だが瞬時にそれはないとかぶりを振るアルゴール。
”奴は何時でも我を虎視眈々と狙っておった。奴に逃げの選択肢は無い!”
ならばどうするか?
十六夜の跳躍は何らかの作戦である可能性が極めて高い。
ここはいったん様子を見るか?
ー断じて否だ。
策があるなら策ごと打ち破る。
罠であるなら、それを破って勝つ。
自分は何時だってそうしてきたし、これからもそうだ。
魔王の一端を担う者として、星霊アルゴールの威信を賭して、かの英傑を真正面から打ち破る。
そう決心したアルゴールは十六夜を追って跳躍する。
十六夜の速度もあり得ないが、アルゴールのそれは更に速い。
第六宇宙速度を誇る彼女のスピードをもってすれば、穴を抜けた直後に十六夜に追いつくだろう。
”その時が貴様の最後だ、逆廻十六夜!”
数秒後に訪れるであろうその瞬間を恍惚とした表情で待ちわびるアルゴールの表情は、それはそれは生き生きとしていたという。
そしてその瞬間はやって来た。
一瞬にも永劫にも思える時間。
だが確かにその時は来た。
”今だ!いましかチャンスはねえ!”
それは天井の穴を通過した直後。
十六夜は遂に自らの最後の切り札をきるために砕けた右腕を天に構える。
次の瞬間、あたりを極光が包む。
十六夜の右掌から顕現するその極光は、天さえ貫かんとする巨大な光の柱と化しなおも膨張していく。
「なっ!?まさかこれは!?」
十六夜のすぐ後ろに迫っていたアルゴールは、まぶしさと驚きの余りに減速の判断を一瞬遅らせてしまう。
そしてそれこそが十六夜の狙っていた一瞬。
光がほとんどない地下空間から出た瞬間では、流石のアルゴールもまぶしさで一瞬反応が遅れると仮定した十六夜の作戦。
それがドンピシャにはまったのだ。
「これで終わりだ、アルゴール!!!」
身体を半回転させた十六夜は、自らを凌駕する速度で向かってくるアルゴールに向かって、特大の極光を振り下ろす。
彼女をまるまる呑み込まんとする必勝の光。
避けるタイミングは既に逃した。
どうあがいても避ける事は不可能。
”俺の勝ちだ、アルゴール!”
そしてそんな勝利を確信した十六夜の一撃は、
ー「聖書偽典”ピルケ・アボス”起動ー円環巡りて壊せ、”疑似創星図”………!」
アルゴールの厳かな死刑宣告と共に、音を立てて壊れ去った。
比喩ではない。
そう、十六夜の極光が粉々に砕け散ったのだ。
「なっ!?」
目の前で何が起こったか理解できない十六夜。
自らの切り札が破られた事も、それを砕いた方法も、何もかも理解できない。
だが何よりも彼が理解できなかったのは、
”なんだよ、お前のその光輪は…。”
アルゴールの背後に突如出現した漆黒の光輪であった。
彼女の背丈ほどもあるだろうその禍々しき光輪は、それを一目見ただけの十六夜でさえ敗北を確信する程の異常さを漂わせていた。
「ハッ、参った。お手上げだぜ…。」
正真正銘全てを出し切った十六夜は満足気な、だが少し悔しさをにじませる表情で呟く。
そして同時に刹那のうちに十六夜の全てを打ち砕き、彼を呆然自失とさせたアルゴールは高らかに告げる。
「誇るがいい、逆廻十六夜!我にこれを使わせた事を!そして…、」
瞬間、十六夜の身体をアルゴールの拳が打ち抜く。
「我に手ずから殺される事を!!!」
アルゴールの星をも揺るがす一撃を受けた十六夜は、爆音と共に闘技場のフィールドへと墜落する。
爆散した瓦礫を巻き上げながら、砕ける闘技場。
立ち上る煙の中からは十六夜が動く気配はない。
「終わったか…。」
どこか物悲しそうに呟いたアルゴールは、せめて骸を一目みようと翼で煙をはらう。
視界がよくなった闘技場のそこには、地に伏して動かない十六夜の姿があった。
「せめてもの手向けだ。我が手にかかって死んでゆけ…。」
そう漏らすと、最後のとどめをさすためにアルゴールは十六夜にゆっくりと近づいていく。
そしてアルゴールが十六夜のすぐ近くに来た時、彼女を本日3度目の驚きが襲う。
いや、予想外の出来事と言ったほうがいいかもしれない。
なぜなら、
「…うっ…。」
地に伏し、最早立ち上がる力さえ残されていない十六夜の目には、未だに希望の光がともっていたが故に。
「いやはや、驚いたぞ。未だに意識があるとは。それに貴様の目。まだ我に勝てる気でいるのか?」
「そんな訳…ねえだろ…。俺の…負けだ…アルゴール。」
眼前の魔王の問に消えかける意識を必死につなぎとめながら、辛うじて言葉を紡ぐ十六夜。
だが、その目は確かに消えぬ光があった。
「ああ…最高に…楽しかったぜ。」
「我もだ、逆廻十六夜よ。貴様との決闘は実に心躍る死闘であった。」
アルゴールはうそ偽りの無い気持ちを告げる。
だが同時に、魔王たる者として無情な現実を告げねばならなかった。
「だがこのゲームは我の勝ちだ。貴様程の英傑を超える猛者がノーネームに残っているはずもなかろう。ゆえに後は再びつまらぬ蹂躙に興じるとしよう。」
心底つまらなそうな表情をするアルゴールに、十六夜はうっすらと笑みを浮かべると、
「それは…違うぜ…アルゴール。」
とアルゴールの言葉を全否定した。
そう、それこそ十六夜の瞳に宿る希望の源。
安心して後を託せる男の存在であった。
「なんだと?」
「あいつが…俺の越えるべき目標が…最大の好敵手が…お前を倒すぜ…アルゴーr…」
そして遂に意識を手放す十六夜。
だがその表情は、苦悶でもなければ、苦痛でもない、ただただ穏やかな様子であった。
「我を倒す、か…。」
十六夜の最後の、万感の思いを込めた言葉を咀嚼するアルゴール。
虚栄では無い。
偽りでも無い。
ただ純然たる信頼から生まれた言葉。
十六夜程の強者が羨望し、己の後を託す事ができる人間がいる。
その事実がアルゴールを、
ーとてつもなく歓喜させていた。
そしてその男は現れる。
ーお前が、魔王アルゴールだな?
不遜な態度で彼女を見下ろす人間が。
十六夜が全幅の信頼をおく人間が。
ノーネームの最後の希望が。
そして彼の男 大宮祖国は、戦場に立つ。
読了ありがとうございます!
いや~、長かった。
そして全然話が進まないw
色々言いたいことがあるかもしれませんが、そこはまあ、生暖かい目で見守ってあげて下さい。
感想、意見、批判、疑問等はコメント欄までお願いします。
それでは今回はこれにて。