問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~ 作:しましまテキスト
しましまテキストです。
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毎度の事ながら誠にありがとうございます!
目指せ300件!
さて、春休みなのに休みが無いとはこれいかに。
リアルが多忙すぎてマジで泣けるorz
とりあえず、更新遅れてすいません。
※タグに不定期更新をつけました。
さて、今回は謎解き回です。
分かりやすい説明に出来ればいいのですが、いかんせん筆者の語彙力ですので、皆様の読解力に頼らせて頂きたいと思います。
それでは今話もお付き合いください。
コンコンコン
控えめなノックの音が静かな部屋に反響する。
その音を聞いた部屋の主は、ゆっくりと意識を覚醒させた。
ー約束の時間だ。
外から聞こえてくる声が彼にタイムリミットを告げる。
「…ああ、分かった。」
そして今にも消え入りそうな声で呟いた男は、虚空から黒い着物を取り出すと、一気に袖を通すのだった。
ゲーム再開まで、残り20分。
場所はペルセウス会議室。
祖国がアルゴールと交渉を行った、まさにその部屋である。
対アルゴール用の作戦を練るためにこの部屋を事前に予約した祖国は、現在絶賛対策を思案中だったりする。
”ハァ、マジで帰りたい…。”
頭に糖分が足りていないと、近くの菓子箱からチョコレートを一つ取り出して頬張る祖国。
濃厚なチョコの甘さの余韻に浸りながら、すかさず右手に持ったティーカップの紅茶を無駄に優雅な動作ですする。
瞬間、品の良い紅茶の香りとカカオの風味が祖国の鼻腔をくすぐり、それがまた新たな祖国の…
”食レポかよ。少しは自重しろや。”
おっと、失礼。
とにもかくにも、適度な糖分を補充し終えた祖国は、再びその思考をフル回転させ、アルゴール対策を組み立てていく。
「とりあえず、十六夜との戦闘映像から見た限りで分かった事は…」
そう言って祖国は、近場にあった紙にアルゴールの特徴の中でも、特に厄介な性能を箇条書きにしていく。
・逆廻十六夜を越える身体スペック。
・もげた翼を瞬時に回復する程の耐久性能。
・ルイオスを石化させたギフト。
・十六夜の極光を無効化した、謎の黒い光輪。
自分で書き出しながらも最後の方はやや頬がひきつるのを感じた祖国。
聞きしに勝るチート性能に、流石の祖国も苦笑いが隠せないようだ。
実際、半分人間を止めている十六夜をも凌駕する身体能力に、石化の恩恵、さらには高い耐久性能や、極め付けには謎の光輪を使えると来た。
これでドン引きするなと言う方が無理な話だろう。
「上3つは…まあ何とかするとして…、問題は最後のギフトだな…。」
特に最後の能力は詳細が一切分からない事を差し引いても、かなりのヤバさだと祖国は結論付ける。
上の3つは、その正体や出自が比較的分かりやすい上、祖国は白夜叉の持つ知識と蔵書で予習済みであるため、対策もそれなりに立てやすい。
上2つは、アルゴールの霊格増加に伴う基本スペックの上昇と考えるのが妥当だろう。
3つ目は、予習段階である程度仮説を立てていたが、今回のルイオスのおかげでほぼ正体と本質まで掴むことが出来た。
だが、最後の光輪だけは異様だ。
その能力が何に由来し、どのような効力を持ち、どのような対策を立てればいいのか、何もかもが現状分かっていない。
”逆廻の極光を砕いたって事は、相手の攻撃を無効化するギフトか?だがその前、逆廻の極光を見たアルゴールの動揺っぷりから推察するに、逆廻のアレはただの光じゃねえな。恐らく見た目以上に凶悪な性能してやがるに違いねえ。とすると、アルゴールのソレも単なる無効化ではなく、もっと上位の、それこそ神性を帯びた何かって事か…?そう言えば、たしか発動時のキーワードに「聖書偽典」って言ってたな…。って事は、あれはヤツがもともと属していた旧約聖書に関する能力か…?でも「偽典」って事は…、ああクッソ、やっぱり情報が少なすぎる!”
頭の中でちっとも考えが纏まらない祖国は、いらだたし気に頭をガシガシと掻く。
いかんせん情報が少なすぎるし、白夜叉との予習で知りえなかった物の正体をこの場で暴こうという事自体が無茶な話である。
闘いにおいて情報は大事なファクターの一つであるが、それによって視野狭窄になるのはむしろマイナスだ。
そんな事なら必要最低限の情報だけを持ち、その場で臨機応変に対応する方がまだマシという物だ。
断片的な情報でけで物事を決めつけて分かったつもりになる事がどれだけ危険かを理解している祖国は、一度冷静になろうと再び菓子箱に手を伸ばした。
と、その瞬間。
「祖国君いるの?入るわよ?」
そう言いながら、一人の可憐な少女、久遠飛鳥が唐突に部屋に入って来たではないか。
扉の前の気配に気が付かない程思考に入りびたりになっていた祖国は、突然の飛鳥の登場に驚いたのか一度つかみかけたチョコを手元でファンブルさせてしまう。
辛うじて床スレスレでキャッチした祖国は、大切な茶菓子を危険な目に合わせた張本人に非難するかの様な目線を向けつつ口を開いた。
「おいおい、お嬢様。部屋に入るならまずノックが基本だろ?」
「ノックしたけど返事が無かったから、こうやって確認しに来たんでしょ?むしろレディをドアの前で待たせるなんて、そちらこそ基本を見直して見たらどうかしら?」
有無を言わさぬ完全論破に押し黙る祖国。
まさか気配だけでなく、ノックの音にまで気が付かなかったとは思いもしなかった祖国は、彼にしては珍しく素直に謝意を伝える。
「そりゃ悪かったな。考え事に熱中して気づかなかったわ。」
「考え事というのは、やっぱりこの後の戦いの?」
「ご名答。」
そう言いながらも、いつの間にか祖国の対面のソファに座り茶菓子を一つまみしている飛鳥に、祖国はそっと新しい紅茶を差し出す。
それを受け取った飛鳥も、お嬢様に違わぬ気品に満ちた所作で紅茶を飲むと、
「…なかなか美味しい紅茶を淹れるじゃない。」
これまた珍しく素直な感想を口にするもんだから、祖国が驚きのあまり飛鳥の顔をマジマジと見つめてしまったのもしょうがない事だろう。
~黙々休憩中~
「ねえ、少し聞きたい事があるんだけど。」
お互いに茶菓子と紅茶をもくもくと楽しんでいると、唐突に飛鳥が真剣な表情で切り出した。
その表情は、なんだか不安げで、しかし聞かねばならぬといった使命感に駆り立てられているような、そんな表情。
決して似合っているとは言えないその表情のまま、まずはジャブといった感じの軽い話題から飛鳥は話しかける。
「黒ウサギに聞いたわ。貴方、ゲームクリアの第二条件をあまり重視していないみたいだけど、何か理由があるのかしら?」
「いや、別に重視してない訳ではないぞ。隙あらば、いつだって解いてやろうと今だって思ってる。」
「でも貴方、今回のインターバル中に本気で謎解きをしてないじゃない?ペルセウス兵や私たちで力を合わせれば、何かヒントぐらいは見つかるかもしれないのに。」
飛鳥の提案は、一般的に見れば合理的な選択だろう。
人海戦術で、第二条件の解答を見つけ出す。
解答まで至らずとも、何かしらの手がかりぐらいは見つかるはずだと、そう飛鳥は考えたのだ。
だが、
「いや、恐らくそれは無い。」
あくまでそれは”一般的”な話である。
およそ一般的という単語が最も似つかわしくないであろう男、大宮祖国は飛鳥のまともに思える意見を真向から否定すると、チョコを右手で弄びながら問う。
「そもそもお嬢様は、今回のクリア条件”天地をつなぐ逆理を暴け”って、どういう意味か理解してる?」
「…いいえ。」
「そっか、ならそこから説明するとしますか。」
そう言って祖国は、弄んでいたチョコをパックと口に含み糖分を摂取し終えると、そばにあったギアスロールを手に持ち、考察を開始する。
「じゃあ、いっちょやりますか。まず、この第二条件の文言にある”逆理”。この単語その物は矛盾やパラドックスといった意味を持っているんだが…、それじゃあ質問。この場合の”矛盾”とは何か?」
「えっ、それが今回の解答ではないのかしら?」
「いや、条件文をよく読もうぜ。今回”暴く”のは矛盾の正体ではなく、矛盾を”つなぐ”何かの正体だ。矛盾の正体は謎を解く過程でしかない。」
「…確かにその通りだね。」
そう呟くと、飛鳥はギアスロールに書かれた内容をもう一度吟味していく。
そしてたっぷりと数秒考え込むと、自信なさ気な様子だがおもむろに口を開いた。
「…詳しい内容は分からないけれども、文章から考えるに”天地”という単語に矛盾があるように思うの。」
「へぇ、理由を聞こうか。」
「ええ。逆理、つまりパラドックスには基本的に二律背反の存在が関係するわ。たとえはコインの表裏や生き物の生死のようにね。そしてこの条件文の中で唯一、対となる存在が同時に語られている単語、つまり”天地”だけが矛盾を内包し得るのよ。」
「おお、意外にやるじゃないか、お嬢様!」
飛鳥の意外にも的を得た発言に、祖国は内心彼女の評価を引き上げる。
たった一言のアドバイスでここまで条件を読み解いた飛鳥は、やはり多才な少女と言えるだろう。
正鵠、飛鳥の言は合理的でかつ正しい。
”逆理”が存在するからには、何かしらの”矛盾”が無ければならない。
ならば”矛盾”が存在する場合、それがどの単語に反映されているか?
その答えは、飛鳥の言う通り”天地”にある。
矛盾とは基本的に、二律背反の命題を同時に満たしている必要がある。
飛鳥の例ならば、コインが同時に表かつ裏を満たす事、あるいは生き物が生きながらかつ死んでいる事。
これらは明らかに同時に達成し得ない”矛盾”をはらんでいる。
そして条件文において、唯一その身に対の意味を含む単語、すなわち”天地”のみが矛盾を抱える存在として成立しうるのだ。
祖国はうんうんと頷くと、飛鳥の言をまとめる。
「そう、つまりこの条件文において”天地”とは何かしらの矛盾を持っていなければならない。より正確に言うならば、”天”と”地”という物は同時に成立し得ない、という事を意味している。」
「ええ、そうね。だけど私に分かるのはそこまでよ。”天地”が具体的に何をさしているのか見当もつかないもの。」
そう言って飛鳥は少し悔しそうな顔をした。
キーワードが”天地”であるという事は分かったが、それが具体的に何を指し示すのか分からない以上、問題解決にはならないからだ。
だが、そんな中でも祖国は全く落胆していない。
そしてそれは単に飛鳥がその才能の片鱗を垣間見せたからに他ならない。
今回はそれだけでも十分な収穫だと、彼自身納得していたからだ。
「まあ、そこまでできれば十分だろ。これ以上読み解くには、ある程度の知識や情報は必要不可欠だからな。今のお嬢様には情報が足りてないだけだ。そんな物は後からどうにでもなるさ。」
「…そうかしら。」
「ああ、今はお嬢様がそれだけ頭がキレるって事が分かって安心した。だからここから先は俺が説明しよう。」
そう言うやいなや、祖国はピシッと人差し指をたてた。
突然の祖国の行動にいぶかしむ飛鳥を後目に、祖国はさっさと考察の続きを開始する。
「今回の条件文を理解するにあたって、クリアしなければいけない物が三つある。まず一つ、キーワードの特定。これはさっきお嬢様がやってくれた。」
コクリと飛鳥が頷くと、祖国は次に中指を立てる。
「次に二つ目は、アルゴールの出自、由来、伝承、特性などを知っている事。だがお嬢様にはこの情報が圧倒的に足りていない。だからこそ、お嬢様がここから先に進めない理由でもある。」
歯がゆそうな表情を浮かべる飛鳥。
だがそんな事はお構いなしに、祖国は最後の指、薬指をスッとあげ再び口を開く。
「そして最後のカギ。現状のアルゴールと伝承に伝わるアルゴールとの違いに気づく事。この三つが条件文を読み解くための最低条件だ。」
「昔と今のアルゴールの違い?」
「ああ、だがまあそれは後においておこう。二つ目と三つ目の条件は俺の仮説の裏付けとして使うからな。とりあえず今は、”天地”の正体を暴くとしよう。」
そう言っとドップリとソファに座りなおした祖国は、先程までとは打って変わって真剣な面持ちでしゃべり始めた。
「まず簡単な確認だけど、実際問題”天地”を”つなぐ”ことが物理的にできるかって話だ。お嬢様はどう思うよ?」
「”地”ならまだしも、”天”をつなぐなんて到底出来るとは思えないわ。そもそも”天”の範囲がどこかという定義すら無いもの。」
「その通りだ。ならばここに書かれている”天”と”地”は、何かの比喩あるいは置き換えと考えるのが妥当だ。」
「確かにそうね。」
「ここで忘れちゃいけない事だが、これはアルゴールのゲームだ。という事は、この”天地”も必然的にアルゴールと何かしら関係がある物って訳だ。」
「それがどうかしたの?」
「”アルゴール”、”比喩”、そしてさらに”彼女の来歴”。これら三つの事を統合して考えると、ある一つの仮説が浮かび上がってくるんだよ。」
「仮説?」
「ああ。この”天地”が指し示す内容ってのは、アルゴールの”霊格”に関係している可能性が高い。」
その断言の力強さに、もはや可能性でなく事実なのではないかと錯覚してしまう飛鳥。
それほどまでに、彼女の目の前にいる男の瞳には自信が溢れていた。
「ふぅん、”霊格”ね。でも仮に彼女が霊格的に何かしらの矛盾を抱えているとして、じゃあその矛盾って何かしら?いくら”天地”の正体がわかっても、矛盾の正体が分からないんじゃ意味が無いわよ?」
「ああ、その通りだ。だが矛盾の正体の正体を語るためにも、事前にお嬢様には知っておいて欲しい事がある。」
そう言うと祖国はどこからともなく一冊の本を取り出した。
茶色いなめし革に金の刺繍が施されたそれは、一目見て貴重な蔵書であることが見て取れる。
どこから取り出したという飛鳥の疑問も知らずに、祖国はあるページを求めてパラパラと紙をめくっていく。
「この本は見た通りアルゴールの伝承や来歴が事細かに書かれている。彼女がどこで生まれ、何を行い、そしてどうなったのか。その全体の内容が大まかに纏められたのがこのページだ。」
そう言いながら、祖国はとある見開きのページを飛鳥に差し出した。
そしてそこには以下のような内容がまとめられていた。
『元来アルゴールとは生まれながらの星霊ではなく、後天的な星霊である。
彼女の霊格の本来の姿は、古代メソポタミアにおける地母神であった。
しかし天文学が発達するにつれ、彼女の霊格は地母神としての性格を失っていき、最終的に旧約聖書に取り込まれたことで、原初の悪魔を冠する星霊として覚醒する。
そしてほぼ同時期に星霊アルゴールは三千世界の神々に宣戦布告。
持前の恩恵で神話群に大打撃を与えたものの、最後には封印される形となる。
だが封印された彼女を旧約聖書の神々が引き取る事を拒否。
神話形態にたらい回しにされた結果、最終的に彼女を引き取ったのはギリシャ神話群だった。
しかしそこでもアルゴールの問題児っぷりが遺憾なく発揮され、後見人であるアテナと口論の末争う事となる。
だがギリシャ神話群に取り込まれて霊格が劣化していたアルゴールは十全に力を揮う事ができず、結果としてアテナと組んだペルセウスに泥酔時に暗殺された。
そしてそれ以降、アルゴールはペルセウスに隷属される事となる。 著:筆者』
「(最後のバカにはつっこまんぞ…)これがアルゴールのざっくりとした来歴と伝承だ。」
「(最後の筆者って誰よ…)彼女の人生が壮絶な物だった事は分かったわ。でも、これを読んでも矛盾の正体は分かりそうにないのだけれど。」
「ま、そうだろうな。この謎を解くにはもう一つ重要な事を理解していなきゃならんからな。」
「重要な事?」
「ああ。つっても、お嬢様はすでにそれを体現した奴に会ってるんだがな?」
「…?」
祖国の言葉に、一瞬全く心当たりがないといった表情をする飛鳥。
だが、それもほんの数秒の事だった。
すぐに彼女は思い当たる人物に気が付いたのか、自信に満ちた口調でその答えを口にした。
「分かったわ。白夜叉でしょ?」
「ご名答。まぁ、お嬢様が知ってる星霊なんてアイツぐらいだろうがな。」
飛鳥の会心の答えに、しかし当然といった表情で応答する祖国。
星霊アルゴールに最も共通項が多い星霊白夜叉を飛鳥が導き出せたのは、彼女の聡明さを前提に考えれば当然の結果と言えるからだ。
せっかくの正解したにも関わらず釈然としない気持ちの飛鳥を後目に、祖国はさっさと話しを進めていく。
「でも、ここで一つの疑問が浮かんでくる。お嬢様はこの”星霊白夜叉”って表現おかしいと思わないか?」
「えっ、どうして?」
「いや、だってさ、この表現じゃ”星霊”なのか”夜叉”なのか分からないだろ?」
「それは白夜叉が星霊であると同時に夜叉でもあるからじゃないの?」
「いや、それはおかしい。そもそも”星霊”ってのは星を司る程莫大な力を持った存在だ。それに対して”夜叉”ってのは、数多ある神群の中の一つである仏門、しかもその中の一柱の神にすぎない。それを同格として扱うなんて無理があると思わないか?」
祖国のもっともな質問に押し黙る飛鳥。
内容をよくよく反芻していくと、確かにおかしい部分が浮上してくる。
霊格の強弱とは、ひとえに信仰の大小によって決まる。
星全体の信仰に匹敵する規模の星霊は、箱庭においても最強種と呼ばれるほどであり、ギフトを与える側の存在でもある。
それに対して夜叉は、星の一部の宗教である仏門の、さらに一柱に過ぎない。
もちろん夜叉が弱いという訳ではないが、星霊と比べると役不足感が否めないだろう。
だが実際問題、星霊であるはずの白夜叉は夜叉という名を冠している。
このパワーバランスの不均衡こそが、祖国の言う”表現がおかしい”ということであった。
白夜叉にしてみれば星霊である自分が、わざわざ格下である夜叉の名を冠する理由は無いはずだからだ。
「だから、実際に本人に聞いてみたんだよ。なんでそんな変な名前してるのかってな。」
「直接白夜叉に聞いたって事?」
「ああ、そしたら意外と面白い事がわかったんだ。なんでも白夜叉はフロアマスターとして下層に干渉する条件として、仏門に帰依し夜叉の霊格を得ることで、本来の星霊としての霊格を一部封印しているらしい。」
「霊格を封印!?」
「おいおい、お嬢様。確かにそれはビックリするかもしれねえが、問題はそこじゃねえよ。今回大事な事は、同一人物が二つ以上の異なる霊格を持つ場合、その人物の霊格はより格が低い方の霊格に依存するって事だ。」
「…つまり箱庭独特の法則みたいな感じかしら。」
飛鳥は流石と言うべきか、今の解説で一応は理解したようだ。
念の為に解説しよう。
箱庭において同一人物が複数の霊格を持つ場合、その本人の霊格は相対的にランクが低い方の霊格に依存することとなる。
例えば、人物Xが二つの霊格、αとβを有するとしよう。
この場合、この人物の霊格はαとβのうちより霊格としての格が低い方に決まる。
条件分けして考えるなら、α>βならばXの霊格はβに、α<βならばXの霊格はαとなる。
まあ、つまるところより格の低い霊格は”枷”として作用するという事だ。
「そしてそれこそが、アルゴールの霊格の矛盾の正体でもある。」
「どういう事?」
「そうだな…、端的に答えを言おう。アルゴールの霊格の矛盾、それはつまり奴が未だ地母神としての霊格を残しながらも、星霊として十全に力を発揮できているという事だ。つまり、地母神という”地”の霊格を持ちながらも、”天”である星霊として完全に成立している矛盾。それこそが奴の矛盾だ。」
あまりにぶっ飛び過ぎた解答に唖然となる飛鳥。
いや、決して解答がぶっ飛んでいる訳ではなく、むしろ彼女が呆れているのは祖国の思
考なのだが。
祖国の解答はつまりこうだ。
霊格が同一人物に二つ以上ある場合は、霊格の低い方が枷として作用する。
例えば白夜叉が夜叉の霊格に引っ張られ、星霊としての力を十全に発揮できない様に。
だが、アルゴールはこの枷が当てはまっていないというのが彼の答えだ。
彼曰く、アルゴールはその霊格の内に地母神としての霊格を秘めている。
本来ならばこれは”地”の霊格で、星霊という”天”の霊格よりも劣るため、地母神の霊格という枷によってアルゴールは完全な星霊として成立せず、その力を完全には発揮できない。
にも関わらず、アルゴールは現に完全な星霊として顕現している。
これこそがアルゴールの霊格の矛盾の正体であると祖国はふんでいたのだ。
しかし過程をいささか以上に省略しすぎたためか、飛鳥は未だに納得いかないといった表情をしている。
いかにしてその様な解答にたどり着いたのか、解答を聞いても逆算さえ出来ない答えを信用できないのも、まあ当然の事だろう。
とりあえず祖国の解答を理解するためにも、飛鳥は一つずつ疑問をつぶしにかかった。
「えーと、いろいろ聞きたい事はあるのだけれど…。どうしてアルゴールの霊格に地母神としての霊格があるって分かるのかしら?」
そう、祖国の解答はアルゴールが未だに地母神としての霊格を有している事が前提だ。
だがアルゴールの伝承にあった通り、彼女はすでに地母神としての霊格を失っているはず。
彼の主張の根拠がいったいどこにあるのか。
それを問いたださずして、彼の答えを認める訳にはいかなかったのだ。
だが、そんな飛鳥の問は予想済みだったのか、祖国はいっさい迷う様子もなく口を開いた。
「ああ、それな。最初は俺も自信なかったんだがな。さっき逆廻の戦闘を録画していた物を見て確信したんだ。やっぱりアルゴールは地母神の霊格が混じってるってな。」
「だからその根拠を聞いてるのよ。」
「ルイオスの石化の仕方だ。」
「石化?」
「ああ、お嬢様も見ただろ?ノーネームがペルセウスに荒らされた時に、庭の一帯が石化していたのを。」
「ええ。」
「星霊アルゴールが石化の方法として使用するのは主に”ゴーゴンの威光”だ。つまり星霊の場合は、石化は光を媒介にして行われる。これはその特性上、石化対象の周囲一帯も巻き込んでしまう。ノーネームの庭が良い例だ。」
「…確かに。」
「だが、ルイオスが石化した場所を見ても、そんな痕跡は見当たらなかった。これはつまり、威光以外の方法で石化したという事を意味する。ここまではいいか?」
「…問題ないわ。」
「ならば威光以外でアルゴールが有する石化のギフト。そんなものは俺が知る中でたった一つ、………ゴーゴンの魔眼だ。」
「…それくらいなら聞いた事あるわ。たしか目に見た人を石に変えてしまう瞳でしょう?」
「多少違うが…、まあ概ね正解だ。」
「でもそれがどうして地母神の証明になるの?」
「簡単な話だ。アルゴールがゴーゴンの魔眼を持っていたのは、彼女が地母神キュベレーだった頃だけだからだ。」
そう、それが祖国の主張の根拠。
星霊アルゴールはその名を冠する前は、メソポタミアの地母神、名はキュベレーと呼ばれており、五穀豊穣を司る神であった。
そしてその頃に彼女が有していたギフト、それこそがゴーゴンの魔眼。
裏を返せば、アルゴールがゴーゴンの魔眼を持っているという事実は、そのままアルゴールが地母神キュベレーとしての神格を有している事を意味する。
つまり、アルゴールには”地”の霊格が混ざっている事の証明となるのだ。
「…いつから気が付いていたの?」
「最初に違和感を覚えたのは、やっぱり石化されたルイオスをみた時だな。そんでもってさっき録画をみたが、やっぱりゴーゴンの魔眼で間違いないみたいだ。ルイオスが睨まれただけで石化してやがるしな。」
この男の頭の中はいったいどうなっているのかと本気で溜息をつきたくなる飛鳥。
ハッキリ言って洞察力云々のレベルを超えている様な気がしなくもないが、そこはもう気にしたら負けだと割り切っているのか、彼女はさっさと次なる質問に切り替える。
「アルゴールが完全に星霊として成立しているという根拠はどこにあるのかしら?貴方は彼女の実力を完全に知っているとでも言うつもり?」
恐らく何かしら根拠があるのだろうという事を予期しながらも、飛鳥は気になった事を口する。
アルゴールが星霊として成立していると言い切れるその根拠がどこにあるか?
もしかしたら彼女はただ地母神のままパワーアップしただけかもしれないという事だ。
確かにこれはアルゴールの実力を、過去から現在に亘って把握している必要がある事なのだが…
「ああ、まあなんだ。勘かな?」
そんな事はこの男には関係ないようだ。
あまりにあっさりとした回答に、少し勢いをそがれた飛鳥は困惑気味に問う。
「勘って…、まあ貴方の事だから、その勘にも何か根拠はあるんでしょ?」
「一応な。って言っても、単なる推論ゲームだ。」
そう言うと、祖国は飛鳥に見える様に右手でピースを作ると、その二本の指をユラユラ器用に揺らしながら説明する。
「同じ星霊同士、白夜叉とアルゴールを比較してみよう。まず霊格の枷が無い場合では、確実に白夜叉の方が強い。信仰の数が圧倒的に違うからな。そんでもって、互いに霊格の枷がある場合も、仮に二人の枷を同レベルの物だと考えると、白夜叉の方が上なのは当然。ここまではいいか?」
「…なんとか。」
「んでもって、俺は枷をした白夜叉に勝った。って事は、枷をしたアルゴールにも当然勝てるわけだ。だがアイツから感じるプレッシャーを考えると、今の奴との勝負はどっちに転ぶか分からん。だから今のアイツは霊格的束縛を受けていない可能性が高い。」
祖国の言い方で分からなければ、数式で表した方が分かりやすいかもしれない。
自力の実力的に考えると、
(白夜叉)>(アルゴール)
とという事は、信仰数の違いからも明白。
また霊格的な枷が彼女等から同じだけの力を制限するとするなら、
(白夜叉+枷)>(アルゴール+枷)
というのも当然の事である。
そして、祖国の実力は枷を着けた状態の白夜叉よりも上なので、
(祖国)>(白夜叉+枷)>(アルゴール+枷)
と言える。
つまり、通常ならば祖国が霊格的に制限を受けたアルゴールならば負ける道理は存在しない。
しかし、祖国が実際に相対し、彼自身の目せ確認した彼女の威圧感は決して勝利を確約できるほど生易しいものでは無かった。
これは即ち、上の不等式が成立しない可能性を意味する。
そしてそれが可能な方法は、アルゴールの枷が存在しない事。
つまり
(アルゴール+枷)-(枷)>(祖国)
という状況以外あり得ないだろうという事だ。
「だけどまあ、そんな事考えなくても証明は出来るんだけどな。」
数学的な方面は少しお出来が芳しくないのか、頭をうーんと悩ませている飛鳥を見かねたのだろう。
祖国は今回のゲームのギアスロールを取り出して、飛鳥に差し出して見せた。
「一つ目のクリア条件にあるだろ?”星霊”アルゴールの打倒って。」
「あっ…。」
灯台下暗しとはまさにこの事だろう。
何てことはない。
アルゴールは既に彼女のギアスロールの中で、自らの霊格の正体を言及していたのだ。
「文章をよく読むって大切なのね…。」
「うん、まあ、あんまり落ち込むなよ。」
彼女なりにプライドがあったのだろうか、羞恥のあまりにどこか遠い目をしている飛鳥。
そんな感情豊かな彼女を見て、一瞬嗜虐心をくすぐられた祖国は悪くないはずだ。
いや、そんな事も無いか。
とりあえず無難な解答をした祖国は、これまでの総まとめとして大雑把に会話をまとめる。
「まあ、つまるところ今回のゲームの第二条件の解答はアルゴールの霊格的矛盾、もっと言うなら地母神の霊格を持ちながらも星霊として成立している矛盾を解き明かせって事なんだが…。」
「どうかしたの?」
「ハッキリ言って全然分からん。」
ハァ、と後ろにどんよりとしたエフェクトが見えそうな位大きな溜息をつく祖国。
彼にしてみれば戦わずに済めばそれに越したことは無かったのだろう。
まあ、死ぬかもしれない戦いに身を着たがるほど彼には死亡願望は無かった。
だが、そんな彼の様子を見ていた飛鳥は、納得がいかないといった表情のままだ。
「ねえ、思ったんだけれど、最初に聞いた私の質問の答えまだ聞いてないわよ?」
そう尋ねる彼女の声には、明らかに憤りが含まれていた。
「質問?」
「なんで皆で手分けして答えを探さないかって事よ。そこまで第二条件が分かってるなら、後は人海戦術でどうにかなるはずでしょ?」
そう、祖国がそこまで問題の核心に迫っているのならば、後は手分けして解答にたどり着けばいいし、そっちの方がより確実なはずである。
だが、祖国はそうしなかった。
その理由が、未だ飛鳥には分からなかったのだ。
”どうして私たちを頼ってくれないのよ!”
そんな言外の気持ちに気づかないのか、あるいは気づいていてそうしているのか…。
祖国の態度や表情に全く変化は見られない。
「あー、それね。少し考えれば分かると思うんだが…。もしお嬢様が誰かを拘束する時、わざわざ抜け出す手段がある方法で捕えておくか?」
「どういう意味?」
「つまりな、何かしらの抜け穴がある方法で相手を縛るくらいなら、もっとより確実な方法を選ぶだろ?」
「ええ、そうね。」
「それと同じさ。現状白夜叉は夜叉の霊格によって力をセーブしてる訳だが、アルゴールみたいな裏技が存在するなら、それはもう枷としての意味をなさない。もっと別の、確実に相手の力を削ぐ方法を採用するはずだし、アイツが所属するサウザンドアイズならそれくらいできるはずだ。」
「それでもそうしないって事は…」
「そう、少なくともサウザンドアイズは今の霊格による方法が安全だと考えている。つまりアルゴールの裏技はサウザンドアイズさえも知りえない方法って事になる。」
「…さすがにペルセウスの情報網がサウザンドアイズに勝るとは考えにくいわね。」
「ああ、だがサウザンドアイズ程の大規模コミュニティがこんな危険な情報を全くつかめないとは思えん。」
「確かに。具体的な方法は知らなくとも、”裏技が存在する可能性”さえ知っていればこんな方法をとるはずないものね。」
「その通りだ。この事から総合的に判断すると、おそらく今回の裏技は極最近に発見された可能性が高い。いかにサウザンドアイズでさえも情報をキャッチ出来いはずだ。なにせ情報そのものがまず出回っていないんだからな。」
祖国の推測は、予測される中で最悪の部類だ。
なにせサウザンドアイズでさえも知りえない情報に加え、最近発見された可能性が高いときた。
これではいかに過去の蔵書や伝承を漁ろうとも答えなど出るはずが無い。
なざならそれは過去に存在していないのだから。
「なるほど、蔵書でも伝聞でも知りえない。さらにサウザンドアイズでさえ得られない情報なら、ペルセウスが持っているはずもない、か…。調べても分からない事に時間を割くのは無駄だから、最初から人海戦術を却下したのね?」
「そういう事。つーか、改めてこのゲーム鬼畜すぎだろ…。」
現状確認が済んだところで、事態は一向に好転しない。
というより寧ろ今祖国が置かれている状況がどれ程厳しいものか再認識させられたためか、部屋の空気が心なしか淀んでいる。
主に祖国の背後が。
まあ、実質答えの知りようが無い第二条件に、死闘必至の第一条件と、これ程までにキツイ状況はそうそう見当たらないだろう。
同時に遅まきながら、今回のゲームに参加する直接の原因となった白夜叉にフツフツとどす黒い感情が湧き上がる。
”とりあえず、あのロリババアは許さん。今度筆者に会ったらアイツの鬱エンドを提案してやろう。”
中々にメタい事を考えていらっしゃる祖国君の悪い顔といったら。
まあ、そんな主人公のダークサイドはさておき、部屋に再び一時の静寂が訪れる。
祖国は飛鳥への説明を終えたためか、すでにアルゴールに対する作戦を練り始めている。
彼女の弱点、死角、パターン等を読み込み、そして頭の中で戦闘をシミュレーションしていく彼の表情は真剣そのものだ。
一方飛鳥はというと、部屋に入って来た時と変わらず、どこか落ち着かない態度のままソワソワとしている。
まるで言い出しにくい事を切り出す前の、一番勇気がいるタイミングの様な感じである。
「どうしたお嬢様?トイレか?」
「もう!レディに対してそんなデリカシーの無い事を言うなんて最低よ!」
流石に目の前でそんな雰囲気をされては堪らないと思った祖国。
飛鳥の緊張気味な態度を軟化させるため小粋なジョークを一発挟み…、と言うのは嘘で特に何も考えず発言しただけなのだか…、彼女の気分を幾分か解消させる。
そして飛鳥も、祖国の超奇跡的なミラクルアシストのおかげか、幾分気分が楽になったようである。
比較的いつも通りの口調で。
だが真剣な瞳はそのままに。
そして彼女はついに口を開いた。
「ねぇ、一つ確認したい事があるのだけれど。」
「ん?」
「貴方、死ぬつもりじゃないわよね?」
ー瞬間、祖国の中で何かが砕ける音がした。
なぜだ?
なぜバレた?
どうして彼女はそれに辿り着いた?
いや、そもそもどうして彼女なのだ?
ー心に押しとどめていた感情の波が、わずかに入ったヒビから表に流れ出ようと押し寄せる。
今はダメだ。
今だけはダメだ。
ここで失敗したら全てが水の泡なのだ。
ここで甘えてしまえば、彼女たちは必ず自分を許せなくなるから。
だから今だけはダメなのだ。
ーそして彼はペルソナになる。
いつも通りに演じよう。
そう、簡単な事だ。
俺はいつも通りの、愚かな英雄。
皆の未来を明るく照らす、天下無双のヒーローを。
心の波が荒れ狂う中、祖国はいたっていつも通りの表情、いつも通りの態度、いつも通りの言葉遣いで応答する。
「………ハハハ、笑えない冗談だな。だいたいお嬢様には、俺が誰かのために死んでやるような聖人に見えるのかよ?」
「…ええ、見えるわ。」
ハッキリと彼を見据えるその瞳は、それ以上の隠し事を不義理だと感じるほどの眼差し。
感情を隠す事に特化した大宮祖国が、まるで心の底まで見透かされているのではないかを思うほどに、それは真摯な光を帯びていた。
「…どうして、そう思うんだ?」
だからだろうか。
彼がそれを否定できなかったのは。
いつも通りそんな事は無いと、ただの考え過ぎだと、そう一笑に付す事が出来なかったのは、きっと彼女の瞳がただただ他意もなく、
ー祖国の事を案じていたからに他ならなかった。
「…目がね、似ていたのよ。小さい頃によく面倒を見てもらっていた人がいたんだけど。その人が死地に赴く時の目に、とてもよく似ていたの。」
「ハハ、なんだよそりゃ。」
本当に何だよ、それ。
そんなのズルじゃねーか。
そんなの騙せるはずが無いだろうよ。
始めっから、答えを知ってるなんてさ。
もはや防波堤に意味は無い。
どれだけ押しとどめても。
どれだけ直しても。
その先の答えが知られているなら、これ以上は無意味だろう。
なればこそ、最後くらいは俺らしく、気障で嫌味な俺らしく、彼女に言葉を贈ろうじゃないか。
それが俺の心を暴いてくれた少女に対する、最後で最大の意趣返しだから。
「………フゥ。まったく、この俺が心を読まるとはな。ああ、世界は暮れて世も末か。」
「…やっぱり、そういう事なのね?最初から一人で戦うって提案したのも、ペナルティから私たちを守るためなの?」
「さあて、なんのことやら。」
「真面目に答えなさい!」
突然、彼の身体に謎の強制力が働き、瞬間的にこれが彼女の”威光”だと理解する祖国。
だが悲しいかな、彼女の未熟なギフトが祖国に本当に届く事は無かった。
それは単に格の違い、意志の違い、背負ってきた全ての違い。
大宮祖国の人生が、軽々しく他人に真実を語らなかったそれであることに他ならないからだ。
「悪いが、他人にペラペラ自分をしゃべる様な軽い人生は送ってないんだよ。」
そんな祖国の非情な言葉が彼女の胸に突き刺さる。
自らのギフトが、いや一縷の願いが絶たれた飛鳥は、それでもまだ諦めきれぬ表情で、ただただ祖国を睨みつけていた。
「だからお嬢様も気にすんなよ。全部俺が悪いのさ。」
そうだ、悪いのは俺だ。
だからもう諦めてくれ。
そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
お前らが笑っていられるように、俺はこの道を選んだんだから。
そんな祖国の惰弱たる願いは、だが聞き遂げられる事はなかった。
それはこれ以上踏み込んで欲しくないという彼の拒絶をとって捨てるかのごとく。
彼の諦観を踏みにじり、ただただ生きて、生へ縋り付くかのごとく。
ー大宮祖国に生きていて欲しいというそれだけの願いを。
彼女はポツリと呟いた。
「…苦しむ事になるわ。黒ウサギも、春日部さんも、十六夜君も、もちろん私も。」
「………。」
「貴方にすがる事でしか生き残れなかった自分を。貴方を犠牲にして享受する生を。誰も彼もみんな、許すことが出来ないはずよ。」
「………。」
「それでも貴方は行くというの?」
「…悪い。」
「みんなを悲しませると承知で?」
「……悪い。」
「…どうしても変えられないのね?」
「………悪い。」
それ以上の会話は続かななった。
もはや言葉を交わす必要もない程に、聡明な飛鳥は理解してしまっていた。
もう変えられないのだと。
彼の意志も、現状も、何もかもが。
全ては既に終わっていたのだと。
そして祖国もそうだろうと確信していたのだ。
だからこそ、彼女の次の言葉は祖国さえも予期し得ないものだったのだろう。
「生きて帰ってきなさい。」
去り際に放たれた、たった一言。
ただそれだけの言葉に込められた意味。
勝たなくていい。
どんなに汚くてもいい。
ただ、生きて帰ってきて欲しい。
そんなどうしようもなく優しい言葉に。
久遠飛鳥という人間の底なしの優しさが垣間見える言葉に。
「…ああ、約束だ。」
彼は最後まで、小さな嘘をつくのだった。
読了ありがとうございます!
まさかの一万字オーバー。
そして安定の話の遅さ。
マジでこれ完結するんかいなw
まあ、気長にやっていきたいと思います。
感想、批判、質問などお待ちしています。
それでは今回はこれにて。