問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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こんにちは、しましまテキストです。

今話でなんと30話に到達いたしました!
これまで読んで下さった読者様、本当にありがとうございます!
これからもお付き合いのほどよろしくお願いいたします。

お気に入りも290件を突破いたしまして、嬉しい限りでございます。
まだまだ至らぬ点が多い駄文ではございますが、なにとぞご指摘等もお願いします。

さて、今話は独自解釈、独自設定のオンパレードでございます。
文章力の無さで分かりにくいかもしれませんが、そこはお許しください。
設定がおかしいよ、これどういう意味、という方はコメント欄までよろしくお願いします。

それでは今話もお付き合い下さい。


黒幕

ここはとある屋敷の中。

ヴィクトリア朝様式の趣が垣間見えるその部屋には、その文化に相応しい絢爛たる装飾品が所せましと並んでいる。

絵画、燭台、寝台、小物などなど…。

総じて装飾過多になりがちなそれらを、しかし全く厭味を感じられない程に部屋にマッチさせている事実はこの部屋の主のセンスの高さを如実に示していた。

 

そんなほんのりと蝋燭の明かりで照らされた部屋の中。

今回の騒動の黒幕である彼女は笑う。

 

「これでやっと始まるのねぇ。まったく、ほんとに時間がかかったわぁ♪」

 

黒をベースとしたゴスロリの服装に、まだあどけなさが残る可憐な顔立ち。

十人に問えば十人ともが美少女と答えるであろうその可愛らしい顔には、しかし彼女の年齢では考えられ無いほどの妖艶な笑みが張り付いている。

 

「ああ…、愛しの愛しの祖国さん。貴方はどんな声をあげて死んでいくのかしらぁ?絶望?恐怖?それとも諦め?ハァ、早くその端正なお顔を苦痛でゆがませてあげたいわぁ♡」

 

この上なく物騒な事を口走りながら、うっとりと恍惚の表情を浮かべる少女。

常人が見れば一瞬で異常と断ずるであろうその言葉が、だが決して気まぐれで発せられたものでない事は彼女の瞳を見れば容易く理解できた。

 

淡い栗色の髪に映える琥珀の様な黄金の瞳。

その中に渦巻く底なしの狂気。

幾重にも織り重ねられたそれは、見る者を彼女と同じ快楽へと引きずりおろす魔性の闇。

 

そんな神秘的とも幻想的とも、あるいははたまた悪魔的とも言える瞳で、彼女は遠く遠く、遥か彼方で行われているペルセウスでの一部始終を”眺めて”いたのだった。

その姿はまるですべてを掌の上で操っている様な、図った物事が全て計画通りであるかの様な、そんな全能感さえ漂わせながら。

 

 

 

 

「ハッ。相変わらず悪趣味だな、ティレス。」

 

 

 

 

突然、彼女がいる部屋に鋭い男の声が響く。

ティレスと呼ばれたその少女が、まるでいいところで邪魔をされた子供の様な表情をしながら声をかけて来た男の方を振り返ると、そこに立っていたのは水色の髪を綺麗に切りそろえた峰麗しい青年であった。

 

「あらぁ、まさか貴方が来るとは思わなかったわぁ。お久しぶりね、アンデルセン。」

 

彼の非難の声は見事にスルーしながら、軽く挨拶を交わすティレス。

当のアンデルセンと呼ばれた男も、その反応は想定内であったようで、さして気にする様子もなく少女にしゃべりかける。

 

「当たり前だ。この俺がわざわざ唄まで謳ったのだぞ?ならばその結末を知るくらいは当然の権利というものだ。」

 

「別に見るななんて言ってないわよぉ。ただ貴方がわざわざ出向くほど、この戦いに価値があるとは思えないのだけれどぉ?それとも何か貴方のお気に召すものがあるのかしらぁ♪」

 

「戦い自体に興味は無い。まあ、貴様があの原初の悪魔に何か細工をしているのは気付いていたからな。せいぜいそれを確かめに来ただけだ。それよりも…」

 

そこでいったん言葉を切るアンデルセン。

瞬間、その髪と同じ色をもつ瞳で冷やかな目線を目の前に座る少女に向ける。

言葉にせずとも明らかに彼女を糾弾しているその目線は、返答次第では最悪の事態も辞さないという圧力だ。

 

そして彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「今回の一件、貴様が黒幕なのだろう?洗いざらい吐いてもらおうか?」

 

「あらぁ、物騒ね。そんな怖い目で見なくても、ちゃんと喋るわよぉ。今回は貴方にも手伝ってもらった訳だし、それなりに感謝しているのよぉ?…それで何かが知りたいのかしらぁ?」

 

「すべてだ。今回貴様が関わった事、目的、手段、知り得る事全て教えてもらおうか。」

 

「あらあら、欲張りねぇ。けど、まぁいいわぁ。面倒だし最初から説明してあげるわよぉ♡」

 

そう言うと、少女はアンデルセンの方へと椅子ごと体を向けた。

安楽椅子にゆったりと腰かけたまま、黒幕たる彼女は自分以外知りえない真実を語り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めに聞いておくけれどぉ、今回に限らず私の本質的な目的を貴方は理解しているのかしらぁ?」

 

「フン、何を今更。あの小僧を殺す事だろう?」

 

「ええ。と言っても、それもほんの過程に過ぎないのだけれど、まあいいわぁ。とりあえず今回は彼を殺す手段としてアルゴールを利用する事にしたのぉ。」

 

「何故わざわざそんな遠回しな方法をとる?貴様が出向けば一番確実なはずだろうに。」

 

アンデルセンの無粋極まりない解答をうけたティレスは、分かっていないとばかりにかぶりを振る。

物事には何事にも順序という物が存在する。

基礎の土台を疎かにして高層ビルを建てれば容易く崩れる様に、彼女の目的を果たすためにも、今彼女が祖国を手ずから殺すのはリスクが高すぎたのだ。

 

「分かってないわねぇ。器が未完成な彼を殺しても意味が無いのよ。何事も下準備は大事なのよぉ。」

 

「だが何故アルゴールなのだ?他にも奴を殺すのに適した方法は幾らでもあったはずだろう?」

 

「そこは本当に偶然なのよぉ。祖国君がノーネームに身を寄せたのは、こちらとしても想定外だったし。彼ならあんな胡散臭い所は入らないと思ってたんだけれどぉ。で、しょうがないからノーネーム関係で当て馬を探していたら、丁度よさそうな星霊を発見したからぶつけてみただけよぉ。」

 

「ちょっと待て。”ぶつけてみた”という事は、今回のペルセウスとノーネームの戦い自体も貴様が仕組んだ事なのか?」

 

「ええ、元ノーネームの吸血鬼が商品になっててねぇ。次のゲームの商品だったから、ノーネームから何かしらのコンタクトがあると思って。だから外界の人間に情報をリークして、高く買い付けるように誘導してあげたわぁ。おかげでノーネームもホイホイと単独で乗り込んで来てくれたし、計画通りよぉ♪」

 

ティレスの発言に小さな嘆息を漏らすアンデルセン。

彼女の悪癖は今に始まった事ではないが、今回もそれが遺憾なく発揮されているらしい。

全てを手のひらの上で弄ぶ様な知略、未来予知かと見紛う先見。

ギフトを使わずしてもこれ程までに厄介かつ面倒な相手はそうそういないだろう。

暫定的には仲間である彼ですら、彼女とはなるべく争いたくないと感じるほどである。

 

実際彼女の策謀は緻密に練りあげられていた。

 

彼女が言った通り、今回ペルセウスが恥や外聞を捨ててまでレティシアを売りたくなるほどの大金を積んだ外界の人間は、ティレスの進言によって購入を決めていた。

実質、彼女がレティシアを外界に追放しようとした犯人に等しいだろう。

 

ではなぜわざわざそんな事をしたのか?

目的は複数あるが、最も大きな答えは星霊アルゴールの出番の有無である。

 

本来ペルセウスが開催する予定であったゲームは、当然のことながら今回祖国たちが参加したゲームとは違い、もっと大衆向けにレベルを落としたゲームのはずであった。

これはペルセウスのホストマスターとしての資質を見極めるためのゲームでもあり、それが大衆向けにレベルを意図的に下げた以上、星霊であるアルゴールの出番は存在しないはずであった。

最下層の人々に星霊と戦えという事がいかに無茶な事かは、常識的に考えればすぐに理解できるだろう。

つまり、もしティレスが今回レティシアの買取りにちょっかいを出さずに本来通りのゲームが行われていれば、そこにアルゴールの出番は無いはずであったのだ。

 

だがしかし、実際問題祖国は今回アルゴールと戦っている。

そしてそれがティレスがレティシアに手を出した目的。

 

もしレティシアが外界の人間に買い取られ箱庭を追放されるとなれば、ノーネームのメンバーは必ずペルセウスが常時開催している挑戦権をかけたゲームを逆手に取り、レティシアが売却される前にペルセウスに挑んでくるとティレスはふんだのだ。

そして同時にこのゲームはペルセウスの威信をかけた物でもある。

それゆえルイオスがアルゴールの使用を躊躇しない事は火を見るよりも明らかであった。

プライドの高い彼ならば、必ずや力を誇示するために星霊アルゴールを使うだろうと。

 

さらに今回のゲームは非常に突発的な物だ。

ゆえに対策や攻略方法を考える時間自体が少なく、ノーネーム側としては最大戦力で臨むのが最も勝率が高い。

ならばノーネーム最強である祖国がゲームに参加するのも当然の事。

彼がゲームに参加する可能性はほぼ100%と言い切って良いだろう。

 

これらの考察からティレスはレティシアの買い手をそそのかすという結論に至ったわけである。

そして実際、事は彼女が望んだ通りに進んでいる。

アンデルセンも彼女の一石二鳥ならぬ一石三鳥の手際に、悔しいながらも賞賛の念を送らざるを得なかった。

 

「フン、相変わらず小賢しい事を考えるのだけは得意なようだな。その気に食わん態度も簡単には変えられそうに無いか。」

 

「貴方の憎まれ口も相変わらずねぇ♡そんな言い方じゃ、褒めてるのか貶してるのか分からないわよぉ。」

 

「口が減らないのも相変わらずの様だな。…まあいい、話を続けるぞ。」

 

「あらぁ、案外素直に引き下がったわねぇ。昔ならもっと盛り上がったのにぃ。どういう心境の変化かしらぁ?」

 

「別に大した事ではない。貴様との口論が不毛だと気付いただけだ。いいからさっさと続きを話せ。」

 

「つれないのねぇ、…まあいいわぁ。どこまで話したかしらぁ?…そうそう、私が今回アルゴールを当て馬にしたのは、単なる偶然のたまたまって所までだったわねぇ。」

 

「ああ、貴様が殺したい男が入ったコミュニティの現状を鑑みた策という事は分かった。そして奴を殺す刺客としてアルゴールを利用したことも。」

 

「そう。じゃ次は彼女のパワーアップの秘密についてでも話しましょうかぁ。」

 

そういって立ち上がった彼女は軽快な足取りで席をたつ。

まるで流麗なダンスを踊るかのような調子でアンデルセンの横を通り過ぎ、ようやく彼女が立ち止ったのは壁際に設置され豪華な本棚の前であった。

沢山の蔵書が収められた本棚から、ある一つの本を取り出すティレス。

そしてその蔵書は奇しくも祖国が飛鳥に見せたのと全く同様の、アルゴールの伝承をかいたものであった。

 

「その本がどうかしたのか?」

 

「いいえ、これ自体は別に大したことはないわぁ。数は比較的少ないけれどぉ。」

 

「ならどうしたというのだ?」

 

「このページを見て頂戴。」

 

そう言うとティレスはアンデルセンにある見開きのページを開いたまま本を差し出す。

アルゴールの来歴、概要が時系列にそって表に整理してあるページだ。

特段変わった事が書いてあるわけでもないページだが、彼女はその中の一点を指さしながら説明を開始した。

 

「今回アルゴールを当て馬にするにあたって、私はとりあえず彼女の最大スペックを引き出すのを目標にしたのぉ。つまり彼女の星霊として最盛期を迎えていた時期を再現しようとしたのよぉ。」

 

そう言ってティレスはある一点を何度も指でタップする。

そしてその一点は、時系列的には”現在”を指し示していた。

 

「だけど”今の”彼女は霊格が圧倒的に縮小しているわぁ。その主な要因は二つ。彼女の所属が旧約聖書ではなく、ギリシャ神話となっている事。もう一つは、ペルセウスのボンボン坊ちゃんに隷属している事。」

 

彼女の声とともに、彼女の指はページの時系列をなぞりながら遡る。

一つ一つ、アルゴールに起こった出来事を遡りながら、彼女の最盛期へと逆流していく。

 

「ならどうやって彼女の最盛期を再現するか?簡単よぉ。彼女の霊格を引き下げる事となったイベントを一つ一つ遡って、解決していけばいいのよぉ。」

 

そう、彼女が行ったことは至極単純。

アルゴールが霊格を落とした要因を時系列に逆らって取り除いていくことで、彼女の最盛期を再現しようとしたのだ。

 

例えば今回アルゴールの霊格変化原因を並べると、

①最盛期

②神話形態移動による劣化

③ペルセウスに隷属による劣化

④現在

という大まかな時系列を作ることが出来る。

この時系列に逆らい、④→③→②→①という順番で劣化要因を逆順解決していけば、最盛期にたどり着けるという考えだ。

 

「だからまず、私が着手したのはペルセウスからの隷属解放よぉ。まあこれは比較的簡単だったわぁ。」

 

「何をしたんだ?」

 

「大した事じゃないわぁ。ボンボン坊ちゃんの身の丈に合わない程にアルゴールの霊格を引き上げただけよぉ。」

 

その言葉を聞いたアンデルセンはさして驚いた様子もなく、逆に合点がいった表情を浮かべている。

まあ、これは箱庭に長くいる者ならば比較的容易に理解できるのだろう。

 

隷属という物は、無条件に相手を使役できる訳ではない。

自らの身の丈に合わない者、自らが御する事が出来ない程に大きな力を持つ者を隷属する事は当然ながら不可能である。

極稀にジーニアーという恩恵を持ったものは、このルールに当てはまらず格上の魔王さえも十全に使役できるのだが、もちろんルイオスはこの恩恵を持ってはいない。

それゆえ星霊であり魔王でもあるアルゴールを最盛期のままでは使役できず、ルイオスの使役できる範囲にまで霊格を劣化させることでしかアルゴールを隷属させる事が出来なかったのだ。

そしてこれこそが隷属による霊格劣化の正体である。

 

ルイオスが使役可能な範囲にまで隷属対象であるアルゴールの霊格を引き下げた事。

第一の霊格劣化原因がこれである。

 

ならばこれをどのように解決するか?

ルイオスに隷属されていては決して全力を出せない現状をどのように打破するか?

 

簡単な話だ。

扱う者が未熟ならば、その者の手から解放すればいい。

ルイオスとの隷属関係を解消させればいいだけの話である。

 

そしてその方法こそがアルゴールの霊格を増加させる事。

ルイオスが御する事が出来ないレベルにまでアルゴールの霊格を引き上げる事で、ルイオスの隷属条件を未達成化し、彼女を解放したのだ。

 

分かりにくければバケツを想像するといいだろう。

ルイオスは今バケツを抱えている。

そしてそのバケツの中には半分だけ水が入っている。

これが今のルイオスの持つことが出来る限界量としよう。

ここでさらにバケツに水を注げばどうなるか?

もちろんルイオスはバケツを抱えきれずに落としてしまうだろう。

 

ここでバケツを器、つまりアルゴール、水を霊格と置き換えてみたらどうだろうか?

イメージだけでも想像できたのではないだろうか。

 

そして今回ティレスがやったのはそういう事だ。

バケツに水を注ぐ事。

ルイオスが隷属条件を満たせなくなるほどに霊格を引き上げる、ただそれだけ。

それだけでアルゴールはルイオスの手を離れ、力を制約される事無く発揮できるようになったのだ。

 

「まぁ、最終的に”アレ”を使う事を選んだのは彼自身なのだけれどぉ。といっても、相手が原点候補者の彼なら仕方ない事かもねぇ。」

 

「貴様にとってはそれも計算の内だったのだろう?あれだけ切り札のアルゴールが圧倒されている状況ならば、たとえ得体が知れないギフトでも使ってしまいたくなるものだ。だからこそ貴様も、惜しげもなくペルセウスの小僧に”あの”霊格を譲渡した、違うか?」

 

「さぁ、どうかしらねぇ。まぁ、おおかたの予想はしてたけれどぉ、原点候補者の力量は不確定だったから100%とは断言できなかったわぁ。でも、どっちみち彼で無理なら祖国君が出張って来てただろうから、結果は同じだろうけどねぇ。」

 

コロコロと歌うような声で告げる少女の瞳には、依然としてゆるぎない自信が浮かんでいる。

まるで他者の思考や行動さえも、彼女にしてみれば誘導することなど造作もないと言わんばかりの瞳だ。

まあ、実際ルイオスは彼女の誘導に引っかかり、彼女から与えられたギフトを何の疑いも無く使用している。

使うか使わないか、最終的な決定権は彼にあったにも関わらず、だが彼のとれる選択肢は最初から一つしか用意されていなかったわけだ。

 

「フン。まあ原初の悪魔がペルセウスの小僧の手を離れた事は分かったが、それだけであそこまで霊格が上がるとは思えん。何か他にも手を打っていたのだろう?」

 

「ええ、もちろんよぉ。ついでに言うなら、貴方に手伝ってもらった事ともかなり関係しているから、けっこう興味があるんじゃない?ねぇ、”人類最巧”のクリエイトさん?」

 

「愚問だな。むしろ下らない理由ならば、貴様といえど覚悟しておく事だ。なにせこの俺直々に唄まで謳わせたのだからな。」

 

「あらぁ、怖いわぁ。とは言っても、聡明な貴方なら自身がこなした依頼の意味も、もう分かってるんじゃないのぉ?」

 

「…大体はな。」

 

そう、今回ペルセウスのギフトゲームが行われるにあたって、アンデルセンはティレスから”とある依頼”を引き受けていた。

そしてその依頼内容とは、

 

「旧約聖書の神話群に掛け合い、アルゴールの所属をもう一度ギリシャ神話から旧約聖書に戻す事。そしてその見返りとして、旧約聖書の神話群が外界で最大宗派に匹敵する程の信仰を得られる様な唄を謳う事。この二点が俺に課された依頼だった訳だが…、貴様の今までの計画から考えると、これもアルゴールの最盛期を再現するための布石だろう?時間軸を遡って劣化要因を解決するならば、避けては通れぬ道だ。」

 

「流石ねぇ、概ね正解よぉ。」

 

「概ね、だと?」

 

ティレスの言葉を聞いた瞬間、アンデルセンの眉がピクリと動く。

含みのある彼女の物言いが気に障ったのか、あるいは完璧な正解を求める彼の探求心か。

自身の解答が完璧では無いと告げられたアンデルセンは実に不機嫌そうな表情で尋ね返した。

 

「そうねぇ、70点って所かしらぁ。私の計画をしっかり把握してくれてる事は理解したわぁ。」

 

「…では残りの30点分は何だと言うのだ?」

 

「フフッ、どうして私が見返りまで指定したと思う?」

 

「…まさか貴様、アルゴールの霊格を引き上げる為に!?だが、それならあの力の上昇幅も納得が…。」

 

「分かってくれた様で何よりだわぁ♡」

 

ティレスのたった一言で完全な解答に辿り着いたアンデルセン。

答えが分かっていてもトレースする事さえ困難な彼女の思考を、これ程までに容易く見抜く聡明さは、人類最巧と呼ばれるにふさわしいだろう。

極々小さなヒントを送ったティレスでさえも、まさかここまで早く解答にたどり着くとは思っていなかった様で、内心若干テンションが上がっていた。

 

さて、総じてアンデルセンの解答は正しい。

彼が受けた依頼、アルゴールをもう一度旧約聖書預かりにする事は、アルゴールの最盛期を取り戻す上で必要不可欠なファクターだ。

 

だが、その見返りを”わざわざ此方から提示する必要は本来ない”はずである。

相手が何を求めているか。

それを的確に見切るのは至難の業だ。

もしかしたら、こちらの提示した見返りが気に入らず、別の物を要求されるかもしれないからだ。

ならば最初から見返りの決定は相手側に任せ、自分たちは不干渉の方が合理的というものだ。

 

にも関わらず、今回はこちらから見返りの条件を提示した。

それ即ち、”見返りの条件にも何かしらの狙いが存在している事”を意味する。

そしてその狙いとは…

 

「俺が奴らの信仰を増やす唄を謳ったことで、外界から旧約聖書に信仰が集まりつつある。つまり旧約聖書の神々の神格は大幅に上昇したことになる。そして、その神格上昇は当然”旧約聖書に再び取り込まれたアルゴールにも及ぶ”。なるほど、今のアルゴールの霊格が最盛期の時よりも圧倒的に上回っているのは、これが理由という訳か。」

 

「ええ、いくら最盛期を再現したところで所詮は3桁。祖国君を確実に本気にさせるには些か実力不足だわぁ。だからこそ、アルゴールを最盛期以上にパワーアップさせる必要があったのよぉ。それも貴方のおかげで比較的楽に達成できたけどねぇ。」

 

そう、発言にある通りティレスはアルゴールの最盛期を取り戻す過程である結論に辿り着いていた。

それこそが、アルゴールの役不足である。

 

とは言え、もちろんアルゴールは強力な星霊である。

純粋なパワーやスピード、霊格ならば、たかだか人間に過ぎない祖国に負ける道理は存在しないだろう。

では、なぜ彼女が役不足なのか?

その答えは祖国のギフトとの相性の悪さ。

この一点に尽きるだろう。

 

良くも悪くもアルゴールの戦い方は単純である。

圧倒的な速度、圧倒的な力、圧倒的なギフト。

彼女の戦法は自らのハイスペックな性能によるゴリ押しが主体であり、細かい作戦などはほぼ皆無近い。

 

しかし祖国は違う。

彼はアルゴールの様に高い身体スペックを有していない代わりに、彼の唯一のギフト”カット&ペースト”を駆使して戦術的に戦う事を主とする。

肉体的に弱い分、頭脳を使って相手をハメる戦術をメインにしているのだ。

そして厄介な事に、彼のギフトは頭を使えば使うほど、それに呼応するかの様に戦術が増える。

まさに彼のためのギフトと言えるだろう。

 

さて、これを統合して考えてみよう。

ゴリ押しのアルゴールと、戦術的に絡め手を使う祖国。

どちらが有利か、考えるまでも無いだろう。

これが彼女の至った結論である。

 

力量は十分だが、相性が悪い。

かと言って、アルゴールが細かい戦法を覚え、絡め手を使う事はあり得無い。

このままではアルゴールの負けは必然。

 

ならばどうするか?

分かり切ったことだ。

 

”相手の作戦や相性に左右されないぐらい、アルゴールの霊格を引き上げてしまえばいい。”

 

脳筋丸出しな解答である。

だが、これがアルゴールを勝たせるためにベストである事も事実。

小難しい作戦を1からアルゴールに叩き込むよりは、よっぽど現実的だからだ。

 

ゆえに、ティレスは旧約聖書神話群への見返りを”唄”と指定した。

それがどれだけ破格の見返りか、どれだけ魅力的な提案か、十分理解した上で。

目の前のエサにつられた愚昧な神が、その裏に隠された真意に気づかないだろうと断じて。

 

案の定、旧約聖書の神々の中で、神格の上昇が彼等だけでなく、再び旧約聖書預かりになったアルゴールにも及ぶ事に気づいた者は殆どいなかった。

一握りの神は薄々気づいていた様だが、最終決定を下す老害たちは目の前の欲に負け、彼らの忠告を受け入れる事はなかった。

問題児の再所属と、人類最巧の唄。

裁量の天秤は後者を選んだのだった。

 

「いつの世も闇弱な老害は物欲に弱い。旧約聖書の神も、所詮はその程度だったという事だ。」

 

「手厳しいわねぇ。まぁ、貴方はああいう輩は嫌いだものねぇ。」

 

「ハッ、何を白々しい事を。貴様が俺に何をさせたかったかぐらい、この俺が気づいていないとでも?気づいた上で乗ってやったのだ!精々感謝するのだな。」

 

「あらあら、ずいぶんご立腹ねぇ。まぁ、私の思惑に気づいて尚、計画通りやってくれたなら感謝するわぁ。ちなみに、今回は何を仕掛けたのかしらぁ?」

 

「…”強欲なる王の右手”だ。奴らには相応しい結末だろう。」

 

そう言って、心底不機嫌そうな態度を見せるアンデルセン。

まるで親の仇とばかりの不機嫌さである。

 

実際、アンデルセンは老害と呼ばれる存在を非常に嫌っている。

それは彼のクリエイトとしての在り方に根ざしているのだが、今回はそれはおいておこう。

兎にも角にも、今回彼が交渉を持ちかけた旧約聖書の神々は十分にその部類に入っていた訳で、それが彼の機嫌をすこぶる悪化させていたのだ。

 

そして、そこに着目したティレスは彼の老害嫌いを利用して”あるトラップ”を仕掛けようと画策していた。

老害を嫌うアンデルセンならば彼等に一泡吹かせるために、必ず唄の中に”トラップ”を仕掛けようとするだろうと踏んだのだ。

人類最巧のクリエイトたる彼ならばそれぐらい造作もない事であろうし、実際彼の気に触れた者は、ことごとくそういった類の罠にはめられていたからだ。

まぁ、肝心のアンデルセン本人には思惑がバレてしまっていた様だが…。

 

今回アンデルセンが仕組んだトラップは”強欲なる王の右腕”、別名ゴールデン・マイダストラップと呼ばれているトラップであり、これは箱庭と外界における相互干渉関係を利用したトラップだ。

 

基本的に箱庭において、力とは信仰の多さに比例する。

外界で信仰が集まれば、その信仰を受ける神、あるいは宗派は箱庭において影響力を持つようになる。

つまり、外界→箱庭という影響のベクトルが存在するのだ。

 

一方箱庭の中で起こった事象も、当然外界に何かしらの形で反映される。

例えば、人類最終試練は外界での人類の破滅を体現した存在であり、箱庭でそれがクリアされれば、外界の世界も破滅から救われる事となる。

つまり、箱庭→外界という逆方向のベクトルも存在する。

 

したがってこれらの事から分かる様に、箱庭と外界は相互干渉的な関係にあり、互いに依存している状態にある。

そしてアンデルセンの仕掛けはこの性質を利用したトラップだ。

 

ここで例えばの話をしよう。

もし星霊であるアルゴールが人間である祖国に敗れる様な事があれば、それはどれ程の影響を外界に与えるだろうか?

 

仮に星霊や、神霊、百歩譲って英雄に敗れたのならば、まだその影響は想像の範囲内で収まるだろう。

神同士の争いや、英雄による討伐などは、外界の人類にとっても比較的メジャーな話であるからだ。

しかし只の、しかもたった一人の人間風情に敗れたとなると、その影響は到底計り知れないものになる。

それこそ敗れた神だけの問題ではなく、その神が所属する宗派全体の威信をひどく失墜させ、ひいてはその宗派の衰退や、信仰の減少を引き起こしかねない程に。

 

今回アンデルセンが仕組んだのは、そういった外界への負の影響を唄を介してより拡散させやすくするトラップ。

アンデルセンの唄によって得た信仰の上昇分と、アルゴールが祖国に敗れた場合に起こる信仰の減少分が丁度プラマイ0になるようなトラップだ。

 

ゴールデン・マイダス。

目先の欲に溺れ、最愛の娘さえ黄金に変えた愚王。

神に泣きつき、自らギフトを手放した愚か者。

その話は、浅慮な者は最後には何も得ぬ事を示す教訓。

 

それを模したこのトラップは、アンデルセンの精一杯の皮肉が込められた物と言えるだろう。

 

「私の思惑通りに踊ってくれたのは予想外だけれど、それでも罠を仕掛けてくれた事は本当に感謝しているのよぉ。貴方ほどの唄なら信仰の上昇も半端ない分、いろいろと目立っちゃうからぁ。」

 

「分かっている。今の時点で俺たちの存在がバレるのは得策ではない。だからこそ、俺も貴様の茶番に付き合ってやったのだ。」

 

「ええ、本当にありがとうねぇ。貴方のおかげよぉ。」

 

「…貴様がそこまで素直に感謝を表すとは珍しいな。不気味さを禁じえんぞ。」

 

「それぐらい貴方のトラップは価値があるってことよぉ。祖国君が勝って信仰の増加分を帳消しに出来れば、旧約聖書神話群が目立つ事はなくなるし、そうなれば背後の私たちも気づかれにくいわぁ。まぁ、祖国君が負けたら負けたで、アルゴールを此方の手駒にして、そっちに注目が行く様に誘導するだけだから、結局そこまでマイナスはないけれどぉ。」

 

「用心に越した事はあるまい。とは言え、俺たちの存在はバレても実態までは掴めんだろうがな。」

 

「そうねぇ。じゃあ、感謝ついでに貴方にした依頼の最後の目的、教えてあげちゃおうかしらぁ。」

 

「何だと?」

 

まさかティレスからの依頼にこれ以上の目的が隠されていたとは、流石のアンデルセンも思い至らなかったようだ。

だが、そう言われれば何だかその様に感じてしまうのは、やはり彼女との付き合いの長さから来るものだろう。

 

基本的にティレスという存在は物事の効率を重視する。

彼女自身は表舞台に上がる事は無い代わりに、舞台裏であらゆる事象を把握し、そして自身に都合のいいように誘導していく。

そしてその過程で、複数の目的を一つの手段で解決するという方法を彼女は好んで使っている。

いわゆる効率厨に近い人種である。

 

ゆえに彼女の思考を全て読み切るのは至難の業だ。

付き合いが長いアンデルセンでさえも、大抵何かしらを見落としてしまいがちであるのだ。

だからこそ、彼女がさらなる目的を持てっいたとしても何ら不思議はない様に感じてしまうのだろう。

 

そして彼女はゆっくりと口を開く。

誰もが見抜けなかった真実を告げるために。

 

「貴方にした依頼の最後の目的、それはアルゴールに預けた疑似創星図を成立させる条件を満たす事よぉ。」

 

「なに?」

 

「貴方も知ってると思うけど、疑似創星図は神群の秘奥、その宗派の宇宙観そのものよぉ。そしてそれが顕著に表れるのが、聖典やアヴェスターといった”書物”関連に多いのよぉ。だからこそ、世界各地に眠る宗教関連の書物は少なくとも疑似創星図になり得る”可能性”を持っているわぁ。」

 

疑似創星図とは、それつまり一宗派、一宗教の宇宙観である。

コスモロジーという現実世界では実現し得ない法則、概念をその内に具象化している代物だ。

あるいはコスモロジーの孕む内的宇宙を現世に解放する媒体、手段と言い換える事も出来るだろう。

つまり疑似創星図を使うとは、既存の法則を超越したコスモロジーを現世に投影するおいう事を意味しているのだ。

 

当初、宇宙観はその性質上変質しやすい性格をもっていた。

なぜならそれは、元をたどれば人類の想念であり、信仰であり、願いであったからだ。

”気持ち”という不定形な物ほど、変わりやすいものは無い。

代を追うごとに変質する口伝えの宇宙観では一定の安定性を得られず、同宗派内でも意見の対立や見解の差異が発生するようになったのだ。

 

そしてこれを解決するために、書物が重要な役割を担う事となった。

書物に記載してしまえば、口伝による変質は起こらない。

書物によって宇宙観の解釈を一律化してしまえば、対立や差異も発生しない。

つまり、コスモロジーの書物化、あるいは物質化は、そのコスモロジーを安定させるための当然の帰着だったと言える。

それゆえにコスモロジーを反映した書物は、少なくとも疑似創星図たりえる可能性をもっているのだ。

例外的な存在として逆廻十六夜やウロボロスの殿下が挙げられるが、彼らは原点候補者という特殊なカテゴリーに属するので、今回は誤差として語る事にしよう。

 

「だけれども、それはあくまで”可能性”の話よぉ。実際に疑似創星図として成立しているのはごくわずかしか存在しないわぁ。どうしてだか分かる?」

 

「単純な話だ。信仰量が足りな………、なるほど、そういう事か。旧約聖書に信仰を集めさせたのは、単にアルゴールの霊格を引き上げるだけでなく、奴に預けた偽典を疑似創星図として成立させるためか。」

 

「話が早くて助かるわぁ。」

 

そう、ティレスの発言にある通り、先程までの話はあくまで可能性に過ぎない。

現在、疑似創星図として成立しているコスモロジーは、三千世界、アースガルド、アヴェスター、旧約聖書など、名のある有力宗派の数点しか存在していない。

そしてかく言う、アルゴールが有する聖書偽典ピルケ・アボスも本来なら疑似創星図として成立はしていない、ただの可能性の一つに過ぎなかった。

 

では、疑似創星図と疑似創星図の”可能性”の存在では、決定的に何が違うのか?

ただの可能性が、どのような条件を満たせば疑似創星図として顕現できるのか?

 

その答えこそ、”信仰の大きさ”に他ならない。

 

この事は、なぜ現状最大級の宗派だけが疑似創星図を保持しているかを考えれば簡単に理解できるだろう。

弱小宗派と有力宗派の違い。

それは、信仰している人間の数である。

数が増えれば信仰の総量も増える。

単純な話だ。

つまるところ、箱庭における宗派間のパワーバランスは、外界の信仰勢力に依存していると言っていい。

 

ゆえにこそ、ティレスはアンデルセンに唄を見返りとして提示させた。

旧約聖書神話群の信仰増大の副次効果として、ピルケ・アボスの疑似創星図化条件を満たすために。

 

「いくらピルケ・アボスが聖書といっても所詮は偽典、つまりは外伝の様な物。圧倒的に信仰が足りていなかったから、私が手に入れた時も創星図としては成立していなかったわぁ。だからこそ、貴方には旧約聖書”全体”の信仰を増やす唄を謳ってもらったのよぉ。」

 

「なるほど、全体の信仰を増やせば、結果的にはその末端の偽典も信仰されやすくなる訳か。相変わらず抜け目のない奴め。」

 

宗派は樹に似ている。

その宗教内における主流派は幹であり、そこから派生した外伝や傍流は枝に該当する。

太い幹には根から吸い上げた信仰という名の養分が大量に存在し、その先の枝へと届けられる。

栄養が多いほど幹は太く、樹は立派に育ち、その先の枝もより大きくなる様に、宗教でも主流派への信仰が増えれば必然的にその派生への信仰も増えるのだ。

 

今回ティレスが狙った副次効果とは、この宗教の樹における主流派をより信仰させることで、その派生宗派への信仰量も増やそうというものだ。

それこそ、一つの派生体が疑似創星図を確立しうる程に。

 

「つまり、今回の依頼の見返りには合計3つの目的、所属移動、霊格向上、疑似創星図化が含まれていたわけか。」

 

「その通り、100点満点の解答よぉ。とは言っても、最後のなんて言わなきゃ分からないでしょうけどねぇ♪」

 

「一ついいか?今回アルゴールに預けた偽典…ピルケ・アボスと言ったか…、あんなマイナーな物は俺でも知らないぞ。いったいどんなコスモロジーなんだ?」

 

「ああ、アレは流石に知らなくても無理ないわぁ。私ですら言われるまで気が付かなかったからぁ。でもアレ、知名度に反してかなり凶悪なコスモロジーよぉ。性能だけなら多分、いえ確実にアヴェスターを凌ぐわぁ。アナザー・コスモロジー同士の喰い合いなら、性質上無敵じゃないかしらぁ?」

 

「そんなバカな!?アヴェスター…相剋のコスモロジーを凌ぐだと!?…確かに、あの原点候補者の疑似創星図をいとも容易く砕いていたが、アレは基本性能の差だと…。いったいピルケ・アボスとは何だ?」

 

「聖書偽典ピルケ・アボス。その真名は”ピルケ・アヴォート”…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『根源化』のコスモロジーを有するユダヤ知識の神髄よぉ♪」

 

「な!?根源化だと…。」

 

ティレスの言葉に絶句するアンデルセン。

これほどの動揺っぷりは、長い付き合いであるティレスでさえも数える程しか拝んだことが無い。

それ程までにティレスの言葉は信じがたい物であったのだ。

 

とはいえ、アンデルセンの驚きも尤もなものだ。

なにせ、彼女の言葉の意味する所はつまり…

 

「ピルケ・アボスは人智で到達し得る事象を解析、根源化し、瞬時に無へと帰えす疑似創星図。その性質上、人の想念によって作り出された物である疑似創星図は完全に無力化できるわぁ。」

 

「つまり疑似創星図キラーとしての性質が濃い訳だな。」

 

「ええ。もちろんギフトも少し時間をかければ根源化が可能よぉ。経験、学習、予測、対処という4つの円環を巡り、そして壊す。それこそがこのコスモロジーの本質よぉ。」

 

「化物だな…。」

 

ピルケ・アボスの性能はまさにアンデルセンの一言に集約されるだろう。

なにせその疑似創星図も前では、あらゆる事象が無力になるのだから。

 

疑似創星図は、元となったコスモロジーを反映する以上、様々な種類が存在する。

例えば善悪二元論というコスモロジーを反映したアジ・ダカーハの相剋のコスモロジーなどがある。

 

そして今回アルゴールに預けられたピルケ・アボスは根源化のコスモロジー。

これは人智で到達、理解できる事象を解析し、無に帰すという凶悪な性能を持っている。

特に同じ疑似創星図に対しては圧倒的な優位性を持つ。

なぜなら、疑似創星図とは元を辿れば人々の宇宙観、つまり人の信仰が生み出した物。

そしてそれが人によって作られた以上、人智の及ぶ範囲である事は当然の事。

ゆえにピルケ・アボスは疑似創星図殺しとしての側面をもつ珍しい疑似創星図でもあるのだ。

 

まあ、今回戦う祖国は疑似創星図など有していないのでこの点は余り心配する必要はないかもしれないが。

しかし、多少時間をかければギフトさえも根源化できるのだから、やはりこれ程アルゴールにうってつけな力はないだろう。

なにせ、これを使えば祖国の戦略的な硬い防御を容易く突き破れるのだから。

 

「と言っても、流石に常時発動できるわけじゃないし、使いどころを見極める必要はあるわねぇ。」

 

「当然だ。寧ろこんなトンデモ技を無制限で使えるとなれば、上層の神話群ですら裸足で逃げ出すぞ。」  

 

「そうねぇ。今のアルゴールの実力を箱庭の階層で表すなら…、最低でも3桁最上位。疑似創星図やゲーム難易度を考慮すると2桁中間って所かしらぁ?まあ、そう簡単には倒せないレベルには仕立てられたかしらぁ。」

 

「悪くはないだろうな。何より、もともとアレだけ劣化していたのだ。どれだけ強化しようとも、結果はたかが知れている。」

 

「それもそうねぇ。何より今回は祖国君の現状を知るためのチュートリアルに過ぎないのだものぉ。運よく殺せればいいけれど、無理なら無理で構わないし、あまり気負うのもよくないわよねぇ。」

 

ティレスの余りにもぶっちゃけた物言いにアンデルセンは苦笑いを隠せないようだ。

実際ここまでアルゴールを強化しておきながら、なお当て馬として考えている彼女の軽さには、呆れを通り越して賞賛さえ覚えつつある。

それが彼女の性格によるものなのか、あるいは彼女の”実力”を考えれば当然の事なのか…。

彼女の未だ見ぬ実力に本源的な畏怖さえ覚えながら、アンデルセンは短くため息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして舞台は整った。

 

方や最盛期を越えるスペックを持つ原初の悪魔アルゴール。

 

対するは数奇な運命を持つ少年、大宮祖国。

 

そしてその戦いの先に待つ結末は、

 

 

 

 

 

 

ー未だ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます!

若干詰め込み過ぎた感が否めません…。
分かりにくければ、気楽にコメント欄までお願いします。

次話からは、ようやく戦闘に入ります。
この調子だと一巻終わるのに40話くらいかかりそうですね(笑)
遅すぎて泣ける。

とりあえず更新は頑張って速度あげたいですね。
フラグじゃないよ!

それでは、今回はこれにて。
感想、意見、批判等コメント欄までよろしくお願いします。
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