問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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こんにちは、しましまテキストです。

お気に入りが300件を突破いたしました!!!
ありがとうございます!

もはや思い残す事は何もない。
いつでも失踪できる。

祖国「やめんか。」

はい、冗談です。
とりあえず、一巻分は根性で終わらせますとも。

祖国「以後は?」

………テヘッ☆

祖国「(゚Д゚;)」



という茶番はさておき、お気に入り300件突破は本当にうれしいです。
一応、私個人としましては300件を初期目標としていましたので、それが突破でき本当に驚いています。
こんな駄作を読んで下さった方々、本当にありがとうございました。
ひとえに皆様のおかげですので、この場でお礼申し上げます。

それでは今話もお付き合いください。


開幕 祖国vsアルゴール

~回想~

 

それはアルゴール対策のため、白夜叉がマスターを務めるサウザンドアイズ支店に祖国が顔を出した時の事。

手当たり次第に支店においてある文献を読み漁っていた祖国に、突如白夜叉が声をかけて来た時の話だ。

 

「のう、祖国よ。おんし、戦闘時自らの技に“名”をつけておらぬ様だが……何か理由でもあるのか?」

 

「ん?いきなりどうしたよ?」

 

「いやな、ふと気になっただけだ。おんしは自身のギフトを説明する時も、それから技を説明する時も、一度も名を出しておらなんだからな。意図的に名を伏せているのかとも考えたが…、そんな事をする意味もあるまいて。」

 

「へぇ、だから俺が名を付けていないと?」

 

「うむ、確信というほど大した根拠ではないが…どうかの?」

 

「………んー。戦いにおいて情報ってのは命の次に大事って、前に俺言ったよな?」

 

「確かに聞いたの。その言葉には、私も全面的に賛成だ。」

 

祖国の言葉にその通りだと首をふって賛同する白夜叉。

何千年と戦いを繰り広げて来た彼女だからこそ、祖国の言葉には深く共感できる所があったのだろう。

まあ、実際祖国が言った言葉は

 

「戦いにおいて情報ってのは、命の次に大事とかいうボケは今すぐ死刑でファイナルアンサー!!」(第11話より抜粋)

 

なのだが、まあ今回は大目に見て欲しい。

 

「本来、戦いにおいて情報漏洩は最も避けるべき事だ。そしてそれは何も戦いの前後だけじゃ無い。むしろ戦いの中でこそ、手札の本質を隠すべきだ。」

 

「その心は?」

 

「簡単な事だ。戦闘中の方がより多く情報を得られるからだ。なにせ目の前で技が繰り出されるんだからな。」

 

「なるほど。」

 

祖国のいう事は至極まっとうな主張だ。

情報を基本的に隠して行動している相手が、常日頃から他者に自分の情報を開示する様な事など考えられない。

特に祖国の様に日常的にギフトの正体を隠している場合は、それを日々の所作から読み取る事など不可能に近いだろう。

 

だが、必要に迫られれば話は違う。

その技、本質的にはギフトを使う事を強要される場面になれば、その情報は格段に得やすくなるのは当然の事。

そしてその場面こそが戦闘中に他ならない。

 

「戦闘中ってのは、いわば命の駆け引き場。そんな中で命よりも情報を大事にして死んでいくのはバカのする事だ。だからこそ、戦場では俺もギフトを使わざるを得ない。」

 

そう、あくまでも大事なのは命で、情報はその次なのだ。

故にこそ、命の危機が迫れば彼も自らの手札をきるしかないし、それこそが情報の開示でもある。

いわば、戦闘とは情報の塊と言えるだろう。

 

「戦闘中にギフトの情報が断片的に漏れ出てしまう事は、ある意味必然。逃れられない運命だ。ならばこそ、それを逆手に取った戦い方という物に行き着くのは当然の事だろう?」

 

「耳が痛い話だのう。」

 

そういって、白夜叉はクツクツと自嘲気味に笑う。

なにせ彼女もその戦略にまんまとハマった当事者なのだから。

 

「戦いの最中に何かしらの情報が漏れるのは当然の事。だったら、その漏れていく情報を意図的に操作することで、相手の思考をミスリードし、むしろこちらの都合のよい状況へと持っていけば良い。そしてそれこそが、俺の戦い方の根本にある物だ。」

 

「…ふむ。」

 

自身が思いもよらなかった考え方に、興味深そうに頷く白夜叉。

戦いとはただ単に力のぶつかり合いだけでは無い事を説かれ、軽いパラダイムシフト状態にあるようだ。

だが生まれながらの強者である彼女にしてみれば、確かに思いもよらない事でもあるだろう。

なにせ祖国のこの思考は、自らの脆弱さを理解した、卑屈なまでの臆病さから来ているのだから。

 

さて、祖国の戦略は白夜叉との戦いを思い出せば容易に想像が出来るだろう。

例えば、最初に祖国が落雷、爆炎、暴風といった攻撃範囲の広い技を偏って使用したことで、白夜叉は祖国が自身の周囲ではギフトを使えないと判断した。

また攻撃時に全く無駄なモーションを織り交ぜることで、それがギフト発動のトリガーだと誤認させる事に成功した。

自らの情報を断片的かつ、偏向して見せる事で、白夜叉に誤った認識を植え付けたのだ。

そしてその結果は、もはや言うまでも無いだろう。

 

「おんしの言いたい事は分かった。だがそれと名を付けない事とは、何の関係が?」

 

「おいおい、それくらい察しろよ。俺は散々情報漏洩の危険性を説明してきたんだろ?だったら、答えは一つしかないだろ?」

 

「そう言われてものう…。」

 

「はぁ、技に名なんてつけたらその本質がバレまくりだろーが。」

 

「!」

 

もしかしたら若干お頭が弱いのかもしれないと、白夜叉の認識を下方修正しかける祖国。

祖国の様な特殊な考え方は彼女にしてみれば未体験の見地なのだろうと、かろうじて修正を取りやめたが。

 

「名は体を表す、とはよく言った物だな。物の名前は総じてその中身や本質を映し出すという意味だが、それは裏を返せば”名前は物事の本質を知るヒント”って事だ。情報を隠匿したい側からしてみれば、たまったもんじゃねえだろ?」

 

「う、うむ。」

 

そう、名を付けるとは、即ち物事の本質を言い表す事に他ならない。

例えば祖国が自らの技である雷撃にふさわしい名前ーここでは仮にαとしようーをつけると、それを聞いた相手はそれだけで無条件に有益な情報を得た事になる。

仮称αが何かは知らないが、名前から攻撃内容を予測する事が可能となるためだ。

そして名が体を表している以上、名が本質への導となっている事も事実。

つまるところ、ギフトの本質をしられてしまう可能性が増してしまうのだ。

 

もちろん、名を偽りミスリードを図る事も出来るが、それは中々現実的では無い。

というのも名とは、多かれ少なかれ”他者へ伝える”事を想定した存在であり、それを覆してまで命名するのは他者との混乱を招くきらいがあるからだ。

簡単に言えば、犬を指して猫と呼び、猫を見て犬と呼ぶ。

これが自身の中でルールとして成立していても、コミュニケーションをとる他者からしてみればややこしいだけなのと一緒だ。

 

「つまり、バレた時のデメリットを考えれば、技に名前がついていない事なんざ大した問題じゃないって事だ。」

 

結論としてはリスク&リターンの問題に集約される訳だ。

名前が無いのは不便ではあるが、名前が漏れた時にデメリットに比べたらまだマシという事である。

事実、祖国はこのやり方で幾つもの戦場を生き残ってきており、彼の方法が決して理論だけではない、経験に基づいた物である事は疑う余地も無いだろう。

 

「なるほど、その様な考え方もあるのだな。まったく、齢幾何かの小童にここまで諭されるとは、いやはやどうして愉快なところがあるのう。………だがの、祖国。おんしが思っている以上に、”名”とは重要な役割をもっておるのだぞ?」

 

「と言うと?」

 

「そうじゃな、一般論で語るのもアレじゃし…。おんしが技を発動するまでに必要なプロセスを教えてくれるかの?」

 

「あんまりこういう事は言いたくないんだが…、しょうがねえか。」

 

そういって祖国はしぶしぶ白夜叉に彼のギフトの発動条件を語り始めた。

条件といっても、あくまで”正確に”発動する条件なのだが。

 

「…俺のギフトが発動するには3つの過程が必要になる。切り取る対象の座標設定、形状把握、そして俺の…なんて言ったらいいかよく分からないが、内在世界?への同質化だな。貼り付けの手順も、これと全く一緒だ。」

 

「内在世界とな?おんしまさか、自身一人でコスモロジーを形成して…?いや、だがまさか…。」

 

「おい、話ずれてるぞ。俺もそこらへんの事はよく分かってないんだよ。あんまりツッコムな。」

 

「…まあ、よいだろう。今回私が伝えたい事は、そこではないしの…。」

 

「んで、結局メリットて何なんだよ?」

 

いい加減答えが知りたい祖国は、若干いらだたし気に問いかける。

自らのギフトの本質に関する情報を提供したのだから、くだらない解答だったら許さないとその目で告げながら。

そしてそんな冷やかな目線を受けた白夜叉も、いい加減話がそれていた事に気が付いたのか一つ咳払いをすると、いたって真面目な様相で再び語り始めた。

 

「うむ。つまりおんしはギフトを発動するまでにその3つの過程を経ている訳だが、技に名を与えればその過程を一つにまとめる事が出来るのだ。要は、ギフトの発動速度を上昇させることが可能という事だ。」

 

「は!?いや、確かに、それは願ってもないメリットだが…。…本当なのか?」

 

「まあ、疑うのも無理はないかの。実際の効果は自分自身で感じる以外ないからのう。だが、理屈だけなら説明してやれるぞ?」

 

「…頼む。」

 

「とは言っても、何も難しい話ではないがの。本来おんしの発動条件、座標設定、形状把握、同質化は別々のプロセスとして処理されておる。だが技に名をつければ、その名の下に各プロセスを一纏めに集約して一括処理できるという訳だ。」

 

白夜叉の言はこうだ。

祖国のギフトは発動の為に、座標設定→形状把握→同質化という流れ(プロセス)を順次満たさなければならない。

そしてこれは当然別々の処理であり、個々の対応に応じて一々喚起する必要があった。

機械のスイッチon/offで言うならば、個別の3つ機械にそれぞれ処理が始まる際に電源をいれ、そして終われば切る様なものだ。

 

だが、名を得るとこれがガラリと変わる。

つまり、上記のプロセスが技の名の下に集約され、一つの塊のプロセスとなるのだ。

スイッチで言うなら、個別だった機械の電源が一括化され、ひとたびスイッチをonにすれば全ての機械が作動し、そしてoffにすれば全ての機械が停止する状態だ。

 

つまるところ、名を付けてプロセスを一元化する事で、スイッチを一々on/offする手間が省けるのだ。

これはプログラム処理高速化の基礎、処理ステップ数の減少に通じる理論であり、そして同時にその効率化こそがギフト発動速度の上昇に他ならない。

 

「本来、これは名を付けた事の副次的な効果に過ぎん。が、人類が命名という行為を行ってきた目的の一つでもある。もちろん偶然の産物だろうがの。」

 

「つまり命名にはそれなりのメリットがある、って事か…。」

 

「その通り。おんしは名を付けるデメリットばかり気にしておったが、一概にそうとも言い切れぬであろう?それにおんしの言うデメリットも杞憂ではないかの?」

 

「…んー、まあ確かに俺が名を口に出しさえしなければ、どうと言う事もないな…。」

 

確かに白夜叉の言い分にも一理ある。

名を付ける事によるデメリットは確かに致命的だが、それは祖国が名を口にしなければバレる可能性は殆どない言っていい。

なにせ名を知っていいるのは彼一人なのだから。

そこさえクリアしてしまえば、命名によるメリットは祖国にとっても非常に魅力的である。

 

ギフトとは命綱だ。

悪鬼羅刹、数多の人外が蔓延る箱庭においてこれ程心強い物は無い。

それをさらに確実な物にするためにも、発動速度の向上は欠かせない物だと彼も考えていた。

 

「うーん、悪い話じゃないな。ギフトを早く発動できるって事は、その分主導権をとりやすいって事だしな。」

 

「うむ、おんしのギフトは確かに強大だが、おんし自身は生身の人間だ。そういった意味でも、わたしとしては名を付ける事を勧めたいのだが…。どうかの?」

 

そして祖国がその問に答えるのに、それ程時間を有する事は無かった。

 

そう、それ即ちー

 

 

 

 

 

「そうだな、暇な時にでも適当に名前考えてみっか。」

 

 

 

 

 

是也、であった。

 

 

 

~回想完~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に閃く凶刃の如き一撃を紙一重で躱しながら、祖国の頭には走馬灯にも似た回想が浮かんでいた。

それは決して彼が意図していた事ではないのだが…、しかし彼の無意識を反映していた事はやはり否定できないであろう。

なぜならー

 

”ハッ、まさか白夜叉のアドバイスがこんな早々に生きてくるとはなっ…。”

 

ー眼前の敵から繰り出される一撃一撃は、今までの彼ならば対処できなかったであろう速度を有していたのだからー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時はあっけない程自然に訪れた。

 

ー開戦の時。

 

別段時間が長く感じたり、あるいは逆に刹那の如く過ぎ去ったりといったマンガ特有の現象が起こる訳もなく、ただあるがままにその時は訪れた。

それは祖国が特段リラックスしている訳でも、あるいは戦いたくてソワソワしている訳でも無く、ただ単に彼のポリシーによるもの。

 

”なる様になる”

 

そんな無為自然を体現したかの様な信念は、しかし彼に特有の不動の冷静さを与えていた。

そしてだからこそ、彼はその時が来てもごく自然な態度で受け入れる事が出来たのだろう。

 

 

 

「時間通りに来るとは感心感心。ビビって逃げたかと思ったし。」

 

闘技場に現れた祖国に放たれた第一声は、まさかまさかの挑発であった。

あからさますぎる挑発の言葉に若干苦笑しながらも、すぐさま祖国は平常通りに切り返す。

 

「下らない挑発してんじゃねーよ。そもそもギアスロールは絶対遵守。契約した時点で逃げれる訳ねえだろ、バカが。」

 

「バッ…、アルちゃん別にバカじゃないし!」

 

「あー、ハイハイ。テンプレテンプレ。」

 

再開場所である闘技場の中心で繰り広げられる舌戦。

いや、あからさまに見え見えな挑発を、祖国が効果的な言い回しで切り返しているだけなのだが…。

はっきり言って低レベルな口喧嘩程度のそれは、聞く者が違えばこれから命のやり取りをする者同士の会話とは決して思わないだろう。

 

そうして数刻程続いた他愛ない口喧嘩も、だが当然の如く終わりを迎える。

ギャップから弛緩しかけた空気が一瞬にして引き締まると、先程までの軽い様子はどこへやら、魔王アルゴールは悠然とした態度で祖国へと歩み寄る。

 

「アルちゃんそろそろ飽きて来たし………最後に締めの問答でもするとしよう。」

 

「ああ、構わないぜ。」

 

その言葉と共に突然彼女の雰囲気がガラリと変わり、同時に爆発的に彼女の霊格が膨れ上がる。

まるで霊格その物が質量をもっているかの様に、殺気だった空気がピリピリと祖国を刺し貫く。

その貫録はまさしく百戦練磨、一騎当千の猛者の覇気。

今までとは打って変わった威圧感に、流石の祖国も背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。

 

「問おう、人の子よ。貴様はなぜゆえ我が眼前に立ちふさがる?貴様が非情なれば、貴様”だけ”は逃げ切れたであろうに。」

 

その言葉に込められた言外の意味に、祖国も思いつく所があるようだ。

彼にしては珍しく表情をゆがめると、忌々し気な瞳でアルゴールを睨み付けた。

まるで余計な事をしてくれたと言わんばかりに。

 

だが、実際アルゴールの疑問も真っ当なものだ。

祖国は交渉の時点でサウザンドアイズに対する捜索権をダシにして、彼だけでも逃げれる様にアルゴールに提案する事も出来たはずだ。

そして彼の交渉力とアルゴールの本来の目的を照らし合わせてみれば、成功する可能性は決して少なくは無かった。

 

にも関わらず、祖国は迷わず自らが盾になる事を選んだ。

限りなく勝ち目の戦いに、自らの意志で参加することを選んだのだ。

 

その信念に、その決断に、遥か太古に同じ決断をした彼女もまた、恐らく惹かれたところがあったのだろう。

例えその決断の本質が、アルゴールと祖国では決して交わらないとしても。

 

そして、その問に対する答えは

 

「ハッ、下らねえ事聞いてんじゃねえよ。」

 

酷く淡泊な物だった。

仮にも魔王との問答という事さえ忘れているかのような、明らかに拒絶の色を含んだそれは、画面越しでこの戦いを見ているであろう他者にもはっきりと伝わるほど寒気を含んでいた。

誰もがその解答に落胆する中、だが祖国だけはまだ終わっていないとその口を開いた。

 

「そんなもん、自己満足に決まってんだろ。」

 

瞬間、空気が変わった。

いや、張りつめていた空気がほどけた訳でも、あるいは殺気だった訳でも無い。

具体的にどうとは言えないが、確かに空気が変わったのだ。

そしておそらくその原因であろう彼女は、無機質な表情で問いかけた。

 

「貴様、そんな事の為に我が道を阻もうというのか?」

 

「愚問だな。だから俺はここにいる。」

 

間髪入れない祖国の解答に押し黙るアルゴール。

 

数秒続いた沈黙の後…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ、フハハハハハ。よもやその様な心算で我が前に立つとな!」

 

心底愉快そうに笑うアルゴールの声が響きわたった。

悪意も何もない、純粋な哄笑。

それ程までに笑うの彼女は、箱庭史においても類を見ないイベントであろう。

 

「だが、なればこそ許そう。貴様のその傲慢なまでの自己満足、他の誰が認めずとも我が認めようではないか!」

 

「…別にお前に許しを請うつもりは無い。」

 

「フフ、よいぞよいぞ。やはり人類とはかくあるべきだ。どこまでも貪欲に、どこまでも傲慢に、己が欲望に従うその姿、その心!際限なき貪欲こそが我ら魔王を討つ唯一の武器ならば、やはり人類こそがそれを担うに相応しい!」

 

その迸る言葉に、堰を切って流れ出る感情に、アルゴール以外の全てが沈黙する。

まるで世界が今、彼女を中心に動いているかと錯覚せんばかりの異様さだ。

 

「だが、我にも我の渇望がある。成し遂げるべき欲望がある。貴様がその道をふさぐというのなら…、力ずくで退かす以外にはあるまいて。」

 

もはや激突が避けられぬ運命ならば、それも止む無し。

この一本道には、互いが互いを排斥する未来しか残っていない。

 

「お前の欲望なんざ知らん。ただ、俺が俺であるために、俺はお前を止める。それだけだ。」

 

それでも退かぬと言うならー

 

「よかろう、ならば是非もなし!互いに譲れぬ欲望を賭けて、力の限り死し合おうぞ!」

 

ー相手を退かして押し通る!

 

かくして、ペルセウス戦最大の火ぶたは切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先陣を切ったのはアルゴールであった。

互いの距離はおよそ10メートル。

だがこの程度の距離、二人にしてみれば有って無い様な物。

どちらか片方が望めば、すぐにでももう片方の間合いに入る事が出来るだろう。

 

”ならばここは臆さず攻める。”

 

事前にそう決めていた彼女は、底上げされた身体能力で一瞬の内に祖国へと肉薄する。

それと彼女が拳を打ち出したのはほぼ同時だった。

常人では見切ることさえ不可能な速度を持った拳が祖国へと襲い掛かる。

そのたった一撃が大陸を揺るがす程の威力を持って。

 

だが、その攻撃はむなしく空をきる事となる。

 

それも当然、その程度の攻撃は予測の範囲内だ。

ギリギリながらもバックステップでしっかりと攻撃を躱した祖国は、カウンター気味に初速の早い雷撃をくらわせようと座標設定しかけー

 

 

 

 

戦慄した。

 

 

 

 

なぜなら彼の眼前にはすでに二発目の拳が迫っていたのだから。

 

”クッ、いくら何でも早すぎる!?”

 

完全に攻撃を避けた事に慢心していた己を叱咤すべきか、あるいは座標設定するために彼女の方をもう一度見た自分の幸運を喜ぶべきか。

かろうじて彼女の攻撃に気づいた祖国は、白夜叉の秘策、その技の”名”を唱える。

 

”部分装甲…直列型神経回路(ダイレクト・サーキット)

 

刹那、思考が加速する。

無駄な時間がそぎ落され、最小限の時間で伝達された信号はきわめて速くかつ冷静な分析を可能にする。

その反射速度たるや脊髄反射をも優に凌駕し、およそ生身の人間では到達しえない反応スピードを叩き出していた。

 

直列型神経回路(ダイレクトサーキット)

これは祖国がかつて編み出した戦闘状態(・・)の一つである。

 

人間は物事を認識する時、必ず”神経”を通じて電気信号が送られる。

例えば我々が物を視認する場合、物に反射した光を目が吸収し、それが電子信号となって脳へ伝えられる。

また皮膚に何かが触れたと感じるのは、皮膚の感覚器が刺激を受けると感覚神経を通じて中枢神経に電子的信号が送られ、そこでようやく脳が触れられた事を理解する。

つまり、本来生身の人間の身体では、外部からの刺激を感じてから脳がそれを理解するのに若干のタイムラグが存在している。

一般に、この時間は片道およそ0.5秒とされている。

 

また無意識に、特に命の危機が迫った場合に、これよりも早い反応現象である”脊髄反射”という物も存在する。

これは信号を脳まで伝達せずに脊髄で処理をしている為であるが、これは決定的な欠点として高度な情報処理が出来ない。

せいぜい事前にインプットされた行動を信号として送り返す程度で、大脳と比べると処理が非常に劣っている。

ゆえに、通常反射という物は総じて簡単な動作ー目の前にボールが飛んできたから目をつむったり、熱い物に触って思わず手をひっこめる等ーに限定されるのだ。

 

高度な情報処理と素早い情報伝達。

本来ならば、この二つは人間の身体構造上絶対に両立し得ないものだ。

 

だが大宮祖国ならば、彼の”ギフト”ならば、話は別だ。

 

原理は至極簡単。

彼のギフト”カット&ペースト”は、彼が知覚しうる事象を自在に切って貼る事が可能。

ならば、神経そのもの(・・・・)をギフトでつなぎ変えてしまえばいい。

受容体から発生する神経回路を”切り取り”、大脳へ直接”貼り付ける”。

つまり、電子信号が感覚神経やその他器官を介さず、ダイレクトに大脳へと到達する。

それが直列型神経回路(ダイレクトサーキット)の正体。

これにより祖国は脊髄反射を越える速度を維持したまま、かつ情報処理能力を低下させる事無く戦闘が可能となったのだ。

 

そして今祖国が展開しているのはそれの部分装甲、つまり局所的な神経のつなぎ変えだ。

今回は主に、目の神経と大脳をリンクさせているのだ。

 

”まさか初っ端からコレを使う羽目になるとはなっ…。”

 

アルゴールの実力を過小評価していた訳ではないが、それでも予想以上であった事に変わりは無い。

確かに祖国は一度バックステップ時にアルゴールから視線を切っていたが、それこそ刹那に等しい時間である。

高々ゼロコンマ数秒の内に態勢を立て直し、さらに追撃までしてきたとなると、彼女の評価を大いに見直さなければならないだろう。

 

一瞬の内に気を引き締めなおした祖国は、加速した神経と研ぎ澄まされた思考の中で、眼前に迫る脅威の対処を考えていく。

 

”この一撃を避けることは……可能だ。だが避けたとしても、結局は同じ繰り返しだろうな…。ならばこの主導権を取るためにも………やるか。”

 

そう結論付けるやいなや、祖国は直列型神経回路を部分装甲から全体装甲へと切り替えた。

これで身体中のありとあらゆる神経は直に大脳へとリンクされた事になる。

もちろん部分装甲よりも全体装甲の方が脳に負担がかかるのだが、今回祖国が狙うのはカウンターだ。

それもホンの一瞬の事なので、万全を期して全体装甲へと切り替える。

この刹那のやり取りで、主導権を取るために。

 

対するアルゴールも祖国の不用心な態度に一瞬眉をひそめる。

今の祖国からは一切避けようという意思が感じられないからだ。

 

”回避を諦めた?…いや違う。コイツはアルちゃんの攻撃を誘っている!”

 

瞬間、彼女の中で本能という名のアラームが鳴る。

 

ー今攻撃するのはマズイ、と。

 

祖国の不敵なオーラに、言い知れぬ不気味さに、彼女の背中に悪寒がはしる。

幾千の戦場を生き抜いて来た勘が、彼女の頭に”撤退”の二文字を浮かび上がらせる。

必然、彼女の動きに迷いが生じた。

 

 

 

 

 

 

その時だった。

彼女が祖国の変化に気づいたのは。

 

それはとてもとても小さな変化。

目のふちに留まるか留まらないかといった程度の、ほんのわずかな表情の変化。

そうー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー彼は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、彼女の感情はある一点に集約された。

 

ーそれすなわち憤怒。

 

まさにその言葉に違わないであろう激情が、一瞬で彼女の頭の中を染め上げた。

 

それは嘲笑だったのかもしれない。

表情一つで攻撃をためらってしまった臆病な彼女への嘲笑。

 

それは優越だったのかもしれない。

彼女程度の攻撃ならば避けるまでもないという傲慢なまでの優越。

 

それは挑発だったのかもしれない。

彼女にの攻撃をあえて受けるために見せた挑発。

 

だが答えなどどれでもいい。

正解などに意味はない。

なぜなら、それらすべての選択肢は必ずある答えに辿り着くのだから。

そう、

 

”な・め・ん・な!!!”

 

魔王アルゴールへの侮辱である。

星霊であり、強者であり、勝者である彼女への、寸分たがわぬ侮辱である。

祖国の笑みは彼女のプライドを一瞬でへし折り、同時に魔王としての誇りを地に落としてみせたのだ。

 

故にこそ、彼女は直感を無視した。

故にこそ、彼女は引かなかった。

故にこそ、彼女はどこまでも魔王たらんとした。

 

アルゴールは再び強く拳を握りしめた。

目の前の不遜な人間に、己の在り様を示すために。

魔王アルゴールはいかなる策謀をもってしても更にその上を行くと、己が拳で証明するために。

 

そしてその拳は振り下ろされた。

一撃が大地をも容易く砕く威力を秘めた一撃が祖国を襲う。

もはや回避は不可能、避ける術はない。

鎧袖一触、第三宇宙速度という常識外れな速度を叩き出して祖国の胸元へと吸い込まれたそれはー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なっ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の予想だにしない結末を迎えた。

 

 

~side 祖国~

 

アルゴールの攻撃が繰り出されてから、ほんの数秒。

大宮祖国の眼前には、目の前で起こった事を未だ呑み込めていないであろう彼女の姿があった。

彼女の全霊をもって振るわれた拳が、あのような結末を辿れば当然の事だろう。

なにせ、防がれるでも、避けられるでもない。

まるで拒絶されるかの如く、弾かれた(・・・・)のだから。

 

”リフレクター”

 

祖国がアルゴールの一撃を弾いた技だ。

その名の通り相手の攻撃をそのまま運動ベクトルを反転させて反射する荒業。

どこぞの魔術と科学が交差する世界の一方〇行さんよろしくな技名なのは、もちろん筆者が悪い。

(筆者「一度やってみたかった。反省も後悔もしていない(キリッ」)

 

原理は白夜叉との戦いで見せたダメージ転写と全く同じだ。

外部から受け取った衝撃を”切り取り”、そして相手に”貼り付ける”。

これによって、相手の攻撃によるダメージを大幅に減らす事が出来るというシンプルな技である。

 

だが、本来ならばこれは祖国が衝撃を知覚した時には既に身体にダメージが通っているため、決して反射(リフレクター)などという御大層な名前を冠する様な技では無かった。

なぜならダメージ転写と違い反射(リフレクター)は殆どダメージを受けないのだから。

そして、その秘密こそが直列型神経回路にある。

 

とは言え秘密といっても本当に大した事ではないのだが。

先ほども説明したが、人間の身体は構造上刺激が脳に伝わるまで若干のタイムラグが存在する。

そしてそのタイムラグのせいで、祖国が衝撃を切り取ろうと思う頃には、すでに数割のダメージが発生してしまっているのだ。

 

だが直列型神経回路では、すべての刺激はノータイムで大脳へと送られる。

つまりタイムラグが極小、数学的に見ればほぼ0と言っていい状態にある。

ゆえに外部からの衝撃を即座に切り取ることができ、身体へのダメージも皆無と言えるのだ。

 

そして祖国のもう一つの狙い。

わざわざアルゴールの攻撃を避けるのを止め、そして挑発がてらに笑顔を振りまいてみた目的も、上手く事が運んだらしい。

 

”いい感じにテンパってるな。まあ、全力の一撃が効かなかったら焦るのも当然か。”

 

そう、祖国が回避ではなくカウンターにした理由がこれ。

攻撃を弾かれた後の、驚愕による硬直である。

 

相手が強ければ強い程、自尊心という物は膨れ上がる。

それは何も根拠ない自身では無い。

勝利という揺るがぬ証拠により積み重ねられてきた実績が、その者のプライドを形作る。

 

そしてそれは同時に、相手のプライドが高ければ高い程、それを打ち砕いたときの反動が大きい事を意味する。

今回が良い例で、目の前のアルゴールは決して戦闘中にさらしてはいけない、呆然とした顔をしている。

もちろん、それは時間にすれば1秒にも満たない刹那であろう。

だが、戦闘中にそれは悪手。

これ程大きな隙はそうそうやって来ないだろう。

 

”悪いが、このチャンスを逃す程、お人好しじゃ無いんでね!”

 

そして決定的な隙をさらしたアルゴールの懐に潜り込んだ祖国は、

 

「とりあえずは一発!」

 

渾身の正拳突きを繰り出した。

低い姿勢から繰り出されたそれは、武錬の跡が見える洗練された一突き。

無駄なく最小限の動きから突き出された拳は、最大限の威力を発揮し、アルゴールへの腹部へと突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

攻撃をうける直前、アルゴールは慢心していた。

先ほどはいかなる手品を用いて回避したか知らないが、所詮相手はたかが人間。

人類最高峰のギフトを持つ逆廻十六夜の乱打をもってしても多少の傷で済むほどの耐久性能を持つ自分に、一介の人間がダメージを負わせられるとは考えられない。

 

相手がいかなる攻撃を繰り出そうとも、ほとんどダメージが無いなら恐るるに足らず。

相手の攻撃を受け次第、反撃に転じる。

 

必然的に導き出された答えに従い、”あえて”彼女はその攻撃をその身に受けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

~side アルゴール~

 

 

 

 

 

「…カハッ!」

 

瞬間、乾いたうめき声が口から洩れる。

だがそれ以上は言葉にならない。

言葉に出来ない。

 

”あり…えない…。”

 

身体が宙を舞う。

こんなこと想定さえしていなかった事態だ。

目の前の景色が一瞬で過ぎ去っていく。

 

 ドォォォォォン!!!

 

身体が闘技場の壁にめり込み、衝撃で一帯が硝子の様に砕け散った。

だがまだ体は止まらない、止まれない。

その衝撃は未だ衰えず、何層にも囲われた壁を容易く身体ごと貫いていく。

 

”クッ…おかしい。これ程の威力…ただの人間に出せるはずがっ!。”

 

油断していた、慢心していた。

言い訳はいろいろあるが、この状況を説明できる材料は何一つない。

ただ一つ言える事。

 

”フッ、あの金髪君の言う通りーーーーーーーーーーーー、強い。”

 

その結論に辿り着いた時、私の身体はペルセウス城の最外部のそのまた先、荒れ果てた荒野へと打ち付けられた。

 

「…いい塩梅だ。」

 

フッと漏れた感想に自然と納得できる自分がいた。

 

なるほど、ここならば、彼ならば、久しぶりに(・・・・・)思いっきり暴れられそうだ。

 

口元が緩む。

 

久々の鉄の味だ。

 

 

 

 

 

to be continue

 

 




読了ありがとうございました。

なんと今回から、読み仮名をつけてみました!
導入初めてなので上手くいってるかな?
変な所あったら、コメント欄までよろしくお願いします。

さて、ようやくアルゴール戦開始です。
なんとか40話くらいで一巻分を終わらせたいですね。
フラグじゃないよ!

フラグと言えば、見事に前話のあとがきのフラグをへし折りましたねw
なんと更新が10日以内という快挙!
いや~、筆者頑張りましたねw
自分でもビックリですw
最初のころは毎日更新してたって?
…ナンノコトデショウ。

まあ、一話にダイブ詰め込むようになりましたし、ご愛嬌という事でw

感想、意見、批判、質問等も待っています。
それでは今回はこれにて。
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