問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

34 / 44
皆様お久しぶりです。
しましまテキストと申す者です。

お気に入りが370件を突破!
毎度のことながらありがとうございます!
目指せ400件!

さて唐突で申し訳ないのですが、活動報告にて読者様へのアンケート?的な事を行う予定です。
今後の執筆活動に大きく関わる事ですので、よろしければ覗いてやってください。

それでは今話もお付き合い下さい。


You'll soon see your Maker

修羅神仏、悪鬼羅刹が蔓延る箱庭において尚、最強と謳われる存在がいる。

 

一つ、生来の神仏である神霊

一つ、鬼種や精霊、悪魔等の最高位である星霊

一つ、幻獣種の頂点にして系統樹が存在しない龍種の純血

 

人外が闊歩する箱庭においても隔絶した強さを誇り、時には歴戦の魔王にすら忌避される存在。

それが箱庭における三大最強種と呼ばれる者達であった。

 

 

そして今、祖国の目の前に広がる光景。

幾千、幾万、いやそれ以上か。

数えるのもバカらしく感じる程の魔獣の軍勢が荒れ果てた陸を蹂躙し、陸を抜けたその先にはー

 

「GYAaaaaaaaaaaEEEEEeeeeeeeeeYYYAAAAAAAAAAAAAAaaaaaaaaaaaAAAAAAAAAAaaaaaa!!!」

 

天地を揺るがす程の雄叫びを上げる最強種、龍の純血。

海から生える様にして伸びたその巨躯は、かつて打倒した蛇神の比どころでは無い。

比べる事すら烏滸がましいその巨体は最強の名に違わぬ絶対的存在感を身に纏い、その一動作が天災クラスの破壊力を秘めている。

 

だが彼の怪物が恐ろしいのはもっと他の要因。

本来それだけで十分すぎる程化物じみた存在であるにも関わらず、なお天より与えられたある性質(・・・・)

そう、それ即ちー

 

「……不死の怪物……ケートス……。」

 

不死性。

箱庭においても滅多に見る事の無い特性の一つ。

不死性という反則的な恩恵に、純血の龍という最強種の性能をもった怪物。

それが彼方に召喚された化物、不死龍ケートスの正体であった。

 

「…おいおい、これは流石に……冗談でもキツイぜ…。」

 

祖国はガンガンと痛む頭を押さえながら、絞り出すような小声で一人呟いた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

時は数刻前。

アルゴールもろとも大地を引き裂きいた祖国の白撃・重纏によって緩やかに、だが確実に大陸は崩壊しつつあった。

砕けた岩盤、揺れる地面、そして底が目視出来ない程に穿たれた巨大な穴。

あちらこちらから巻き起こる二次被害はまるで湯水の如く天災を振りまき、穿たれた穴からは粉塵が絶間なく上る。

その景色だけで先の一撃に秘められた威力が容易に想像できるだろう。

 

ーハァハァハァ

 

そんな天変地異の中心で、息を切らしながら右腕を抑え蹲る一人の少年がいた。

派手に焼け爛れたその腕は見るも無残な様相を呈し、痛みを堪えているのか少年の表情も苦悶の色に染まっている。

 

「……痛っ…。やっぱ……全部は無理……だったか…。」

 

頭が上手く働かないのか、途切れ途切れながらに言葉を紡ぐ少年、大宮祖国。

内心では薄々こうなる事は予想していたが、やはりそれでも痛いものは痛いらしい。

辛うじて呻き声を漏らす程度で我慢した彼の意地とプライドは流石と言ったところか。

 

さて、何事にも反動というモノは存在する。

大きな力はそれだけ自身の身体に負担をかけ、身に余る力は当然自身をも呑み込むだろう。

そう、今の祖国の様に。

 

彼が最後に放った白撃・重纏。

これは本来1コである貼り付ける事象を同時に複数個重ね掛けする技である。

分かりにくければ、白撃を例に出そう。

従来の白撃・纏は祖国の白撃に十六夜のパワーを”一回分”貼り付けた攻撃だ。

それに対して今回祖国が貼り付けたのは十六夜戦で切り取った全ての衝撃、具体的に言うなら十六夜の打撃計184発分の威力だ。

つまり白撃・重纏には理論上、十六夜のパンチ184回分のエネルギーが込められていた事になる。

 

だが当然のことながら、この大技にはデメリットが存在する。

それは一度に184発分の威力を貼り付ける事は出来ないという点だ。

これは祖国のギフト発動時において、貼り付ける対象と貼り付けられる対象は1対1でなければならないという演算上の制約に起因する。

例えば、物体Aに事象Bを貼り付ける。

これは物体と事象は1対1を満たしているため、ギフトを何の問題もなく行使できる。

しかし物体Aに事象Bと事象Cを同時に貼り付けるとなると話は別だ。

この場合1対1の原則を満たしておらず、同時に一つのプロセス上で処理する事は出来ないからだ。

 

プロセスが分かりにくければ、ベルトコンベアでも思い浮かべればいいだろう。

ギフト発動条件というコンベア上では、事象に対し座標設定、形状把握、同質化という処理を施す。

だがこの処理は非常に重く、一度に複数の事象を扱う事は出来ないのだ。

車の生産ラインなどが良い例かもしれない。

車生産においても流れ作業が採用されているが、車体の溶接等の作業で一人の人間が同時に複数の車両を加工してはいないのと同じだ。

これを怠れば品質が低下し、欠陥品が出来てしまうように、祖国のギフトでもこの処理を疎かにするとイメージ通りの発動が出来ない。

 

では、実際問題これをどのように解決するか?

方法は2つ。

一つ、コンベアの絶対数を上げるパターン。

つまりは、一般的に言うところの並列思考だ。

二つ、コンベアにおける処理速度を早くして、矢継ぎ早に加工していくパターン。

いわゆる処理速度の向上化である。

後者は完全なる”同時”とは言い難いが、速度を極限まで早めれば誤差の範囲に収まるだろう。

 

当然その程度の問題を祖国が把握できていないはずもなく、彼は人知れずコレに対する対策、訓練を続けて来た。

その成果も相まって、前者の方法はギフト発動限定ではあるが同時に7個まで並列処理が可能となった。

後者は決定的な練習方法が見つからず結局慣れの範疇でしか上達してこなかったが、それでも秒間5コという速度に達している。

どちらも脳に負担をかける行為だが、その分戦闘のバリエーションを格段に上昇させる結果となった。

 

さて、今回の話に戻ろう。

先ほど祖国は184発分のエネルギーを拳一つに貼り付けたのだが、当然完璧に成功した訳ではない。

むしろ完璧に成功していれば、祖国はダメージなど負わないはずである。

ならなぜ失敗したか?

それはアルゴールに確実に攻撃を当てるためのタイムリミットに原因があった。

 

祖国とアルゴールの最後の攻防。

アルゴールが地面に叩きつけられてから体勢を整えて反撃に転じるまでの時間は、祖国の見立てでは精々2~3秒といった所であった。

だが彼の処理速度と並列思考をフルに使用しても7×5=35/sが最速であり、マックス3秒見積もったところで約100発分が限度である。

当初はそれでもいいかと考えていた祖国であったが、ゲームでアルゴールとの戦闘を重ね彼女の力量を見定める内に、一抹の不安が彼の頭を支配する様になった。

 

ーそう、100発程度では足りないかもしれないという不安が。

 

なにせ相手は星霊アルゴール。

規格外を絵にかいた様な存在だ。

先の十六夜戦といい白撃の件といい、耐久性能はそれこそ星にも匹敵するだろう。

下手をすれば全弾ぶち込んでも倒せないかもしれない、いや恐らく倒せない可能性が高い。

 

そう結論付けたと同時に、祖国は決意した。

 

”チッ、右腕くらいくれてやるよ!”

 

反動を覚悟した一撃を。

発動条件が未達成にも関わらず、演算をすっ飛ばした強引なギフトの発動を強行したのだ。

 

せいぜい100が限度だった処理をかなぐり捨て、自分の能力を超えた力を引き出す祖国。

己が内在世界に存在する184発のエネルギーをただの一事象としてあえて誤認し、そして貼り付ける。

そんな反則技を躊躇なく行使した。

 

だが当然、それは諸刃の剣。

完全に貼り付けられなかったエネルギーが腕から溢れ極光と化して漏れていく。

本来運動エネルギーとして貼り付けたはずが、いつの間にか光エネルギーとして腕から逃げていく。

それだけではない。

明確な原因は分からないが、祖国の腕が絶え間なく彼の脳に激痛を訴えてきていたのだ。

筋断裂か、骨折か、あるいは神経損傷か。

変質したエネルギーが腕の構造に干渉し、内部から破壊したのだろう。

その激痛たるや大の大人が泣いて許しを請う拷問さえ生易しく感じられる程だ。

 

それでも彼はためらいなく腕を振り下ろした。

激痛に苛まれ、もはや感覚さえ無くなりつつある腕を。

この一撃を逃せば勝機は無いと、彼の本能が訴えかけてきていたが故に。

 

”これで止めだ、アルゴール!”

 

勝利を確信した一撃がアルゴールに突き刺さる。

慢心も無い。

傲慢もない。

ただ純然たる事実として彼は判断する。

 

ー決まった

 

決定的な手ごたえを感じながら、それでも祖国に油断の二文字は無い。

 

”…まだだ…、リフレクター!!!”

 

反作用として腕に伝わる衝撃さえも切り取り、そしてアルゴールへのダメージへと転化する。

白撃・重纏。

単純計算で十六夜の拳撃368発分の威力を秘めた一撃。

その一撃は星を揺るがし、余波だけで大地を沈めるだろう。

 

そしてそんな規格外の一撃を放った祖国もまた、確かな勝利の余韻と共にその余波に巻き込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は始めに舞い戻る。

マグマをまき散らしながら崩れゆく大地の中心。

円柱状にえぐり取られた巨大な深淵の端で、祖国は一人、ある種の不安感に駆られていた。

 

”…おかしい…、どうして…ゲームクリアーが宣言されない…?”

 

酷使しすぎた反動か、未だに回転が遅い頭をそれでも懸命に振り絞って現状を認識しようとする祖国。

霞む思考の中で彼が行き着いたのは、とてつもなく理不尽な現実であった。

 

”…おいおい…、今のでもまだ…足りないってか…?”

 

流石に何かの悪い冗談だと笑いたくなる結論だ。

これだけわが身をなげうって未だ届かない相手など、これまでの人生で相対した事すらない。

必殺を覚悟した一撃でさえ彼女を倒せないとなれば本格的に手詰まりだ。

 

だが現状を説明できる仮説がそれ以外ないのも事実。

彼が先の一撃でアルゴールを倒せていたのなら、今頃ギアスロールで勝利宣言がされてゲーム終了のはずである。

そしてそれが成されないという事実は即ち、ゲームクリア条件の不達成に他ならない。

 

冗談にしても笑えない。

そう感じざるを得ない程の現状だ。

ただでさえ先の攻撃は彼の存在理由を犯すギリギリの一撃であるのに、それさえも通じないのか。

そんな軽くない絶望感に襲われながらも、祖国は大陸に穿たれた大穴、その深淵を覗き込んだその時ー

 

 

 

 

 

 

ーゾワッ

 

 

 

 

 

 

彼の本能が今まで経験したことの無い程のアラームを上げた。

根拠は無い、確証も無い。

だが確かに何か(・・)、とてつもない存在が来る。

 

”…ヤバいヤバいヤバい…アレはヤバい!!!”

 

朦朧としていた彼の意識を強制的に覚醒させる程の絶対的な何か。

一瞬でも気を抜けば魂と身体をバラバラに引き裂かれそうな程の何か。

彼の貧弱な想像力さえ軽く凌駕する存在が、今正に地の底で胎動しているのだ。

 

”…ッツ…透過空間(クリアー・ダイス)!!!”

 

その行動は迅速だった。

悲鳴を上げる脳を理性で抑え込み、強引にギフトを発動する祖国。

限界が近い事は彼自身が一番理解しているが、出し渋って致命傷を負えば元も子もない。

元より彼の本能が告げる危機感は、そんな事さえ些細なモノだと感じる程のレベルである。

そうして彼のギフトが発動し終わった瞬間ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー世界が停止した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

比喩では無い。

荒れ狂う大地も、乱風巻き上がる空も、呼応するように震える大気さえも、何もかもが静止していたのだ。

それはまるで…

 

「……世界を石化するギフト…だと…!?」

 

まるで世界その物が石化したかの様な静寂だった。

有機物も無機物も、現象さえも石化させるそのギフトは正しく彼女の代名詞に相違ない。

アラビア語で「悪魔の首」を意味し、ペルセウス座におけるゴーゴンの首に位置する変光星の主、魔王アルゴール。

彼女の本当の力の片鱗を垣間見た祖国は、自身の無事に安堵すると同時に、先のギフトに驚愕を隠せなかった。

 

”…世界を石化するギフト…、これはまだいい。…問題は…さっきのギフトを認識できなかった(・・・・・・・・)事だ…。”

 

そう、認識できなかったのだ。

視覚も、圧覚も、嗅覚も、ありとあらゆる感覚器官をもってしても知覚できなかったのだ。

気が付いたら世界が止まっていた。

気が付いたら世界が石化していた。

そんなもの、どうやって対処すればいいと言うのか?

 

先程は直感的に透過空間を行使したが、今後も同じ手が通じる訳も無い。

戦闘中に突発的に発動でもされれば即詰みである。

いやそもそも現状の負担からして、正常時の速度でギフトを発動できるなどと考える方がおかしい。

強引な攻撃の反動と大技の使用によって、彼の脳は既に満身創痍であるのだから。

 

”…マズイ…。”

 

背中から冷や汗が流れ落ちる。

額には大粒の汗が浮かび、本能は今すぐに逃げろと囁いている。

彼のささやかな勇気など容易く消し去ってしまう程に、現状は最悪の遥か先を行っていた。

 

”…まぁ…ここで逃げるなんて…だせぇマネは出来ねえよなぁ…。”

 

そんな誰にも届かない言い訳で辛うじて意志を繋げようともがく祖国。

恐怖で震える脚を己のプライド一つで抑え込むと、彼はおもむろに頭を上げ…

先の決断など塵ほどに無意味であった事を知る。

なぜならー

 

 

 

ー現実は常に弱者に対して非情であるのだから。

 

 

 

彼が見上げたその先。

大地を穿った巨大な穴の真上。

いつからそこにあったかすら分からない。

純然たる事実として、それはそこに浮かんでいた。

 

漆黒の月が。

 

見るだけで吸い込まれていく様な感覚さえ抱かせる黒月。

灰色に染まった世界で唯一色を持つその球体は、今までのアルゴールでさえ霞んで見える程の圧倒的な存在感を放っていた。

 

それは世界の終焉を象った闇であった。

原初故に確約された終わりであった。

そしてそれがーーーーーーーーーーーーー祖国の限界であった。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぁぁぁ!!!!!」

 

愚策であろう。

目に余る愚行であろう。

だが、本能が、理性が、攻めぎ合う二律背反が、彼から冷静な判断をとうに奪っていた。

逃げ出したい、だが逃げ出す事は出来ない。

そんな強迫観念にさえ似た義務感こそが彼の存在理由の根底をなす物なのだから。

 

もはや悲鳴に近い雄叫びが死んだ世界に響きわたる。

脳を埋め尽くす恐怖を振り切るかのように、臆病な自らを叱咤するように。

そして彼は地を蹴った。

 

限界など越えてギフトを行使した祖国は一瞬で月へと肉薄する。

ボロボロの右腕を振り上げ渾身の力で白撃を放つも、それはあっけなく外殻にはじき返されてしまう結果となる。

それどころか大部分の衝撃を切り取り損なった反作用が、彼の拳を無残な程に破壊していく。

 

「ぁぁああああ!!!…ッ…クソが!!!」

 

激痛に耐えかねて苦悶の声を上げる祖国。

だがそんな苦痛に浸っている暇は無い。

瞬時に己のプライド一つでそれをかみ殺し、衝撃を切り取りながら着地すると、祖国は次なる攻撃手段を装填する。

 

”…Load…100 straight…電磁砲(ガウス・キャノン)!!!”

 

響き渡る轟音と共に、無数の閃光が球体に迫る。

その一つ一つが第三宇宙速度さえ凌駕するそれは、人類が生み出した最強の兵器の一角。

電磁力だけでなく地球の磁力さえも利用したその閃光は、一説によれば第五宇宙速度さえも軽く超えるとさえ言われる代物だ。

そんなバカげた速度で打ち出された弾頭が100 straight、つまり100発のガウス・キャノンが球体に襲い掛かった。

しかもただむやみに打ち出したのではない。

その100発の着弾点全て、外殻上の同一点上で集約されるように計算されていたのだ。

 

”…喰らいやがれ!!!”

 

轟く爆音。

まるで金属同士が激しくぶつかり合った様な甲高い音をまき散らしながら、閃光が次々と球体へと襲い掛かって行く。

狙いを同一箇所に定められたそれは寸分違わず同じ場所に着弾し、本当に少しずつではあるが着実に外殻へのダメージを蓄積させていた。

 

が、所詮その程度だ。

些細な損傷こそあれ決定的なモノなど一つも無いそれは、明らかに祖国の火力不足を露呈していた。

故にこそ、彼の次なる行動も必然な事であった。

 

”…load…火山雷(volucanic lightning)!!!”

 

”…load…マラカイボの灯台(catatumbo lightning)!!!”

 

一瞬にして灰色の世界が地獄で塗りつぶされる。

大地に穿たれた虚構から湧き出る火山雷と、天から降り注ぐ何十という数の稲妻が球体を上下から挟撃する。

本来決して交わることの無い両者であるが、その相乗効果は凄まじく、その一撃一撃がかつて白夜叉をして回避せしめた雷撃に匹敵する威力にまで昇華されていた。

火山雷時に発生する火山ガスには細かい粒子が含まれており、それが摩擦し帯電する事で舞い降りる稲妻の威力を極端に増幅させていたのだ。

 

”…まだだ…load…大寒波(deep freeze)!!!”

 

だがその程度では終わらない。

その程度でアルゴールをあの球体から引きずり出す事など出来ない。

そしてそれは他でもない祖国自身が一番理解していた。

 

だからこその追撃。

火山雷も、無数の稲妻も、全てを呑み込んで展開されたそれは一面の銀世界であった。

優にマイナス100℃を下回るそれは、並大抵の生物なら10分と持たないであろう死の世界。

今までの熱気が嘘のように影を潜め、史上最悪の寒波は球体からドンドンと熱を奪っていく。

そしてそれこそが彼の狙い。

今まで散々加熱されたであろう外殻を急速冷却する事で、物理的に変質・変形させ、脆くなった所を破壊しようという作戦であった。

キーとなる楔も既に打ち込んである。

 

”…電磁砲で多少なりとも傷があれば…そこから加速的に変質していくはずだ…。”

 

そう、彼が事前に打ち込んでいた電磁砲もこの時の布石。

破壊まで至らずとも外殻の一部さえ傷つけられれば、そこから容易く変質を引き起こせる。

少しでも穴があれば水が漏れる様に、切っ掛けさえあれば科学的な変質は飛躍的に加速するのだ。

が…

 

”…チッ…いつまで…引きこもってんだ…”

 

彼の予想に反して球体に変化は見られない。

いや、外殻にはわずかにヒビが入りつつあるのだが、肝心の中身が一向に動向を示さないのだ。

思惑通りに事が運ばない現状に焦りを思えながらも、外殻の変質自体は上手くいっていると祖国は無理やり自身を納得させる。

 

”…だったら…いやでも引きずり出してやるよ!!!”

 

超高温で加熱された後の急速冷却で、外殻にはあちらこちらにヒビが見受けられる。

ヒビ割れて弱体化した外殻ならばもうひと押しで破壊出来るはずだと思考し、再び電磁砲を装填しかけた正にその時であった。

 

 

 

 

 

世界が暗転した。

 

 

 

 

 

 

世界が切り替わる。

ゲーム盤が再構築されていく。

 

 

 

 

 

彼が再び瞼を開けた時、そこには寂寥たる荒野の面影は微塵も無かった。

彼の瞳に映る光景。

それはどこまでも続く広大なる海と、そこに君臨する最強の暴君の姿。

崖下に臨む海辺を跋扈する幾千、幾万もの魔物の軍勢。

そしてそれらの後ろ、彼らを見下ろすかの様に佇む異様な黒い月であった。

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと頭をもたげ空を仰ぎ見る。

闇夜に映える黒い月(・・・)は依然として異質に浮かび続けている。

当のアルゴールがアノ中で悠々と回復に勤しんでいると思うと、やたらと腹が立つのを感じる祖国。

今すぐ殴りかかりに行きたい欲望に駆られるが、まるで彼女を守護するかの様に陣取る魔獣と龍の軍勢がそんな事は許さないだろう。

 

「…ったく…俺としたことが…。」

 

ガンガンと脳内に響く鈍い痛みを押さえつけながら、安直に決着をつけようとした数分前の自分に後悔する祖国。

彼にしては珍しく勝ち急いだのが裏目に出たようだ。

確かにまだアルゴールがこんな奥の手を残していると予想出来ていたなら、今これ程までに追いつめられてはいなかっただろう。

 

「……右腕は……まだ動くか…。」

 

内心で反省会を手早く済ました祖国は、頭以上に激痛を放つ右腕を見やる。

先ほどの白撃・重纏の反作用を完全に切り取れなかった反動か、まるで腕の内部から爆ぜたような火傷痕が至る所に刻まれている。

外傷こそ焦げ痕程度で済んでいるが、おそらく内部はもっと酷い。

筋裂傷に骨折、下手をすれば神経がいくらか消し飛んでいるかもしれない。

辛うじて動かせてはいるものの、右手での攻撃はもう不可能だろう。

 

「痛っ…。」

 

ギフトを使って取り出した応急手当用の包帯と気休め程度の痛み止めを使用すると、軋む身体に鞭を打ち立ち上がる。

このまま座しているのも一興ではあるが、どうせ死ぬなら魔獣よりも星霊の方が箔が付くというものだ。

 

「…ま…せいぜい…派手に散ってやるよ…。」

 

そんな彼の呟きは、誰に届くことも無く虚空に消える。

せめて最後にひと暴れしてやろうと、彼の者は一人、魔獣の軍勢へと駆け出すのだった。

 

 

 




読了ありがとうございます。

今回登場した火山雷やマカライボの灯台は、実際にネットで見る事をお勧めいたします。
筆者も実際の画像を見ながら、かなり感動いたしましたのでw

さて、ようやく折り返しですね。

…嘘です。
40%くらいです。

いい加減終わる気がしないですね、本気でw
まあ、1巻分は絶対書き切りますのでご安心を。

感想、評価、批判、誤字・脱字、質問等ありましたらコメント欄までよろしくお願いします。
それでは今回はこれにて。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。