問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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お久しぶりです、しましまテキストです。

更新がかなり遅れてしまい申し訳ありません。
言い訳も何も特に無いので、コメントのしようもありませんが(泣)

さて、お気に入りが390件を超えていました。
毎度のことながらありがとうございます。
同時に活動報告にてアンケートも行っております。
ぜひとも皆様の解答をお待ちしております。

それでは今話もお付き合い下さい。


殲滅戦

地を踏みしめて大地を駆ける。

 

眼前に蔓延るは巨龍の眷属、その鱗より生まれ落ちた多種多様な魔獣の混成軍。

バジリスク、キマイラ、トロールにサイクロプス、遠くに見えるはケルピーの類か。

およそ一枚の鱗片から生まれたとは考えられない量の化生が祖国の行く手を阻むように立ちふさがる。

 

「…ッツ…邪魔だあぁぁぁ…!!」

 

しかしそんなモノは些細な事だ。

今更何匹加わろうと、道を阻む敵に容赦はしない。

さながら威嚇する咆哮の如く、祖国は雄叫びと共に魔獣の群れへと切り込んだ。

 

 

 

 

 

開戦は一瞬。

敵の接近にいち早く気付いたバジリスクが、その強靭なアギトで祖国をかみ殺そうと首を伸ばす。

およそ外界では類を見ない程巨大なそれは、人一人の身体など容易く丸呑みに出来るだろう。

が、所詮は化生の攻撃だ。

知性も持たぬ一直線上の攻撃など、百戦錬磨の祖国のとっては脅威にすらなりえない。

 

祖国は完全に余裕を持って半身で躱すと、通り過ぎ際にギフトで顕現した刀で難なく首を切り落とす。

噴き出した血潮が噴水の様に巻き上がり、無骨な岩肌を鮮血で染め上げる。

首から先を切り落とされたバジリスクは、その研ぎ澄まされた一閃を認識する暇さえなく絶命した。

 

それとほぼ同時に、左右から挟み込む様に追撃が迫った。

祖国から見て右からは棍棒を振り上げるサイクロプスが、左には今にも口から炎熱を吐き出さんとするキマイラが、それぞれ祖国の命を刈り取らんと攻撃を仕掛ける。

しかし挟み撃ちという場面に直面しても尚、彼の思考はいたって冷静であった。

振り下ろされる棍棒の軌道を刀を添える事でいなすと、無防備な姿を晒すサイクロプスの背後に素早く回り込み両足の腱を切断する。

同時に身体を支える脚がやられ地面に膝をつくサイクロプスを肉盾とすることで、キマイラから放たれる豪火をやり過ごす。

多少の熱波は防ぎきれずとも、直撃さえ避けられればそれでいい。

嫌な音と共に燃え落ちる巨人を後目にキマイラの攻撃圏内から距離を置くと、祖国は握っていた刀を地面に突き刺し次なる武器を現出させる。

 

”…威力はバジリスクで確認済みだ。…喰らっときな…!”

 

彼の手に握られたのは何の変哲もない3つの短剣。

特徴らしい特徴を強いて挙げるならば、投擲用に空気抵抗が少なくなる様流線型にデザインされているといった所か。

良くも悪くも脅威性を感じさせないそれら短剣を、だが祖国は何の躊躇いも無くキマイラに向かって投げ放った。

 

短剣の迫る速度は精々100キロ。

キマイラの身体は巨大なれど、その俊敏さをもってすれば避ける事は造作も無いだろう。

いやそもそもの話、あの短剣本体(・・)に当たったところでダメージなど無きに等しい。

 

故にこそキマイラが短剣よりも祖国の行動を注視していたのも当然の事。

短剣を投げ放った直後、地面に刺さった刀を引き抜いてキマイラに肉薄しようとする祖国にキマイラは犬歯をむき出しにして威嚇する。

 

ー今はこの人間が最優先だ

 

キマイラはそう本能的に理解していた。

そして理解していたが故に…

 

「GYAAAAAAAAaaaaaaaa!?」

 

その短剣の本当の脅威を察知する事が出来なかった。

 

ドスッ

 

一瞬だった。

いつの間にか胸に突き刺さった短剣を驚愕に揺れる眼で見つめるキマイラ。

その短剣から伝わる激痛に、肉を直接溶かされるような不快感に、キマイラは堪らず苦悶の雄叫びを上げる。

狂ったように地面に身を打ち付けては、理性を失った瞳で口から溢れんばかりの業火をまき散らす。

周りの魔獣たちさえも巻き添えににして。

 

だがそれも所詮は最期の悪足掻き。

全ての余力を使い果たしたのかパタリと力なく地に倒れる頃には、キマイラは既に息絶えた骸と化していた。

それと時を同じくして、キマイラの背後に陣取っていた魔獣2匹も同じように絶命する。

全ては祖国が打ち出した短剣が生み出した結果であった。

 

「…日本国の科学は…世界一…!」

 

そんな某ルドル〇フォン〇シュトロハイムさんが飛び出て来そうなセリフを吐きながら、祖国は新たに取り出した短剣を左手でクルクルを持て遊ぶ。

そしてさながら曲芸じみたそれは一瞬の閃きの内に姿をかき消すと、祖国を背後から狙っていた魔獣の額に突き刺さり又もや容易く命を奪う結果となった。

 

”…ほんと…大したモンだぜ…ウチの技術はよ…。”

 

神話に名を刻んだ魔獣さえも容易く屠る文明の利器に内心ビックリの祖国。

彼にしてみれば思惑が当たればいいなと期待程度の採用だった訳だが、ことのほか効果がてきめんだったようだ。

嬉しい誤算に頬をほころばせながら、彼は喜々として魔獣狩りに専念し始めた。

 

 

 

さて祖国が使っている武器であるが、当然のことながら普通のモノである訳が無い。

確かに大宮祖国という人間は武芸全般に秀でた素質を持ってはいるが、あくまでもそれは十全な状態における話。

利き腕である右腕を使い潰しまともに動かせない状態で、霊格は低いとはいえ魔獣を一刀両断出来るほど彼の剣術は優れていない。

拳術ならまだしも戦場で人を斬るためだけに覚えた我流の剣術など、せいぜい二流が良い所だろう。

 

にも関わらず、どうして祖国は魔獣の首を安々と斬り落とせたのか?

それこそひとえに彼の元居た世界の技術力の結晶の賜物であった。

 

実は今回使われた刀も短剣も、刃部分にある同じ物質が塗布されていた。

それは超強酸と呼ばれる物質。

およそ硫酸の1000倍の酸性度を誇り、ほぼ全ての有機物を溶解すると言われる酸性を越えた酸性物質だ。

本来ならば刃である鉄部分も腐食してしまうのだが、今回の刀と短剣には人口ダイアモンドのコーティングが施されており、これが刃の溶解を防いでいる。

さらに短剣に至っては塗装部分が二重となっており、内側には猛毒であるボツリヌス毒を即効性に改良したモノが仕込まれている。

2ナノグラムで成人男性を死に至らしめる改良型ボツリヌス毒をこれでもかという程ふんだんに塗りたっくた仕様となっているのだ。

毒で表面を溶かし、毒で内部から殺す。

先ほどのキマイラも、空間を転移して到達した短剣が突き刺さった瞬間酸により肉を溶かされ、同時に仕込み毒で即死したという具合だ。

外界の技術の粋が箱庭の魔獣を凌駕した瞬間だった。

 

 

 

そんな危なっかしい事この上ない得物を自在にとは言わないまでも洗練された動きで使いこなす祖国は、現状着々と魔獣の数を減らしつつあった。

接近する敵は溶かし斬る事に特化した刀で、遠距離から攻撃する敵が溶解と猛毒を含んだ短剣で、それぞれ相手取っている。

右腕は依然として使用不能で非利き腕である左腕のみの戦闘であるが、それでもなんとか致命的な損傷だけは受けていない。

連携も無く、個々の力のみで押し切ろうとする魔獣の群れが彼に致命傷を与えるなど到底不可能な話であった。

 

心に比較的余裕を持った祖国は、同時に脳内で今後のプランを画策する。

アルゴール、巨龍、そして魔獣の軍勢。

これら3つの勢力を踏まえたうえで、残り時間を加味したシミュレーションを並列思考で行っていた。

 

”…残り時間が2時間弱って所か…雑魚共は特に問題ないとして…疲労回復は…もう少し時間がかかるか…。”

 

自身の状況を改めて客観的に鑑みて、予想以上に疲労が蓄積している事を認識する祖国。

脳の疲労はもちろんの事、手足の筋やアルゴール戦で無理をした右腕など現状は余りにも損傷は激しすぎる。

一応応急手当として止血剤や回復剤、痛みどめ等は打ったが、それでも思った以上に治りが遅い。

現在の魔獣狩りも極力ギフトを温存しているし、使用するにしても単一解答の簡単な方法でしか使用していないが、それでも疲労回復は常時よりも数段劣る。

ある意味アルゴールが一時戦線を離脱したのは、祖国にとっても都合がよかったのかもしれない。

 

”…そんな事より…一番厄介なのは…あの野郎だ…。”

 

自身の状況把握はさておき、祖国は未だ不気味な程に静観を保っている巨龍を横目でチラリを見やる。

顔は確かにこちらを見ているし、着々と隙を狙うような雰囲気は決して油断出来た物ではないが、それでも積極的にこちらの戦闘に関与しようとはしてこない。

祖国としては有り難い限りだが、それでも空恐ろしい事に変わりは無い。

まるで何かを待っている様な、そんな泰然自若とした態度である。

 

”…チッ…隙がねぇな…歴戦の猛者みたいな貫録出しやがって…。”

 

恐らくあの巨龍には魔獣と違い知能がある。

自らの役割を理解し、それを達成するための状況判断を成すだけの知能が。

だからこそ今はその時ではないと静観を貫いているのだろう。

 

”…面倒な事だ…ただでさえアイツは不死…不死殺しの武具を持たない俺とでは相性が悪い…。”

 

さらに面倒な事に祖国と巨龍ケートスの相性は最悪に近い。

それは単純にギフト相性もあるのだが、箱庭にゲームにおける不文律に由来するところが大きい。

 

箱庭のゲームは良くも悪くもホストが有利だ。

クリア条件でどんな無茶な命令を下されようとも、基本的にはそれを実行できなかったプレイヤーの過失となる。

ゆえに不死を殺せないのは不死を殺す手段を持たないプレイヤーが悪い、星を砕けないのはそれだけの力量を持たないプレイヤーが悪いと裁定される。

今回の場合、不死殺しの恩恵を持たない祖国が実力不足と判断される訳だ。

 

さらに付け加えると、多少なりともギフトの相性も関係している。

祖国のギフトは基本的に手段の差はあれ直接攻撃系である。

雷も爆炎も突風も星落としもその他諸々も、相手を物理的に殺す事を主とする方法だ。

それに引き換えケートスの有する不死性は物理耐性が極めて高い。

煮ようが焼こうが斬ろうが貫こうが、根本的な打倒にはなりえない。

不死を殺すにはそれを運命付けられた対極のギフト、つまり不死殺しの恩恵を宿した手段が必須とされている。

あるいは他の手段として、不死性を保証する歴史的な何かを紐解く方法があるが、これは対象の伝承を事細かに熟知している必要がある。

 

”…俺に不死を殺す手段は無い…それに俺の記憶が正しければ…ケートスは歴史上未だ一度たりとも殺されては(・・・・・)いない…。”

 

一瞬険しい表情を作ると、突っ込んで来た巨人の腕を切り落としながら祖国は思考を加速させる。

彼がケートスの考察を続けている間も、魔獣群はその数を着々と減らしつつある。

彼の周りを取り囲むように陣取る軍勢の前には、死屍累々、数多の屍が積み上げられていた。

 

さて、ではそもそもの話、不死龍ケートスとは何ぞやという話をしよう。

これに関しては祖国もそこまで専門的な知識は持っていないので、ここでは彼の有する知識内で語る事となるが今回はそれで十分だろう。

現状、祖国の有するケートスの主な知識は以下の3つだ。

 

一つ、ギリシャ神話において女神アンドロメダを生贄として喰らおうとした存在である事。

一つ、ペルセウスをその高い不死性で苦しめるも、彼が掲げたアルゴールの首により石化・退治された事。

一つ、外界ではクジラやアザラシとして語られる事が多いが、それはケートスが信仰を得やすくするために意図的に霊格を下げた姿である可能性が高い事。

 

ここで二つ目の記述に注目して欲しい。

これが祖国の表情を険しくさせた根本的な原因だ。

彼の懸念した通り巨龍ケートスが歴史上殺されたという事実は箱庭において観測されていない。

初代ペルセウスによって退治された(・・・・・)という記述があるだけで、どこにも殺された(・・・・)という記述は示されていないのだ。

そもそもいくら星霊アルゴールの石化の魔眼であろうとも、さすがに不死殺しの恩恵までは宿していない。

つまりケートスという存在は打倒こそされたが、正式に殺された事実はただの一度も確認されていないという事になる。

この事実がこそがケートスの不死性にさらになる絶対性を与えているのだが、それは今回置いておくとしよう。

 

同時に、今回アルゴールがケートスを召喚できたギミックもこれで理解できただろう。

ゲーム名”The Venus with Andromeda”

自身と女神アンドロメダにまつわる伝承をゲーム名に組み込む事で巨龍ケートスを呼び出し、さらにそれを石化させたという神話的功績からケートスに対する優位性を確保する事で、一時的にではあるが最強種を従える事を可能にしたのがこのゲームの”一面的な”正体である。

 

そして当然のことながら祖国はこのゲームギミックに気付いていた。

アルゴールとアンドロメダの共通項をゲーム名に組み込むことで、その功績の一部を試練として再現する。

それがこのゲーム”The Venus with Andromeda”に仕掛けられたギミックであると、彼は巨龍が召喚された時点で既にあたりをつけていたのだ。

 

”…唯一の救いは…あの巨龍を殺す必要は無いって事だ…ゲームルールに則って召喚されてはいるが…あくまでそれはギミック…ゲームクリア条件に何ら変更は無い…。”

 

十中八九倒す事になるだろうがなと、自らの希望的観測を自嘲気味に笑う祖国。

まあ彼の感想も理解できないことも無い。

いくらゲームで倒す必要がなかろうと、アルゴールに手を出そうとすれば巨龍は確実に彼の行く手を阻むだろう。

そうなれば戦闘は必至。

巨龍の攻撃を掻い潜りながらアルゴールだけ狙い撃ちするなど、無理難題もいいところだ。

それならば先に巨龍を対処し、それからゆっくりとアルゴールを倒す方がまだ現実的というもの。

実際問題としては、どちらの成功率も大して変わらない様な気もするが。

 

と、その時、祖国は何かが頭の底で引っかかる様な奇妙な感覚にとらわれた。

 

”…ん…?…待てよ…何か…おかしくないか…?”

 

何がおかしいのか分からず、違和感だけが彼の脳内をもんもんと駆け巡る。

痒いところに手が届かない様なもどかしい感覚に、祖国は堪らず今までの思考を中断する。

 

”…何がおかしい…?…俺は今何を考えていた…?”

 

即座に今までの思考の一部始終を思い出し、反芻し始める。

残り時間に始り、自身の状態、ケートスの不気味さ、そして巨龍が召喚された方法…。

一つ一つの思考を隅々まで見渡し、吟味し、そして彼はとうとうその原因に行き着いた。

 

”…そうだ…名前だ…!…今回のゲーム名…どうしても何か違和感がぬぐえないんだ…!”

 

それはとても小さな違和感。

本来ならば気が付くはずもなく、当然の様に見過ごされてしまう程度の存在。

それを見落とさなかったのは単に彼の運が良かったのか、あるいはその他の要因か。

ただ過程はどうあれ、彼がそれに気が付いたという事実。

それがこのゲームの真のクリア条件を探る第一歩だった事に変わりはないだろう。

 

”…今回のゲーム…もしアルゴールとアンドロメダの伝承をベースにしたものなら…本来は…”

 

ーそう、本来のゲーム名は”The Venus "and" Andromeda”であるべきだ

 

これこそが祖国の感じていた違和感の正体。

たった一つの英単語の違いがもたらす、決定的な差異であった。

 

”…アルゴールとアンドロメダは系譜的にも交わることが無い存在…だがこの”The Venus with Andormeda”というゲーム名…これではまるでアンドロメダとアルゴールが存在の要素レベルで(・・・・・・)関係がある様な…そんな印象を受けてしまう…”

 

巨龍を召喚した先のゲームギミック。

これは今回のゲーム名でAndoromedaがアンドロメダ女神を、The Venusが美の女神の比喩、つまりアルゴールを指し示すモノと仮定し、二人が登場する伝承を試練として再現したものだ。

その際にアルゴールの生首を見てケートスが石化・打倒されたという功績をゲームメイク時に組み込む事で、アルゴールにケートスを従える権能を付与するという構成になっている。

 

が、それならばゲーム名は”The Venus with Andromeda”よりも”The Venus and Andoromeda”の方が相応しいはずである。

なぜなら英語における前置詞withは「特徴・状態・様子を示す」場合に多々利用され、withが結ぶ二つの存在の間に要素レベルで密接な関係がある事を暗示させるからだ。

しかし先に述べた通り、アンドロメダとアルゴールには系譜的にも歴史的にも、何ら関係性を見出す事が出来ない。

ならばこの場合、要素レベルの結びつきを示すwithではなく、単なる付加情報を示すandの方が相応しいはずだと、祖国はそう考えたのだ。

 

”…だが実際はゲーム名がwithとなっている…これは俺の考え過ぎか…あるいはもっとゲーム深部に関わる何かが…!?”

 

それは祖国がさらに考察を進めるために、更なる思考を割り振ろうとした時であった。

突如として魔獣の動きに変化が生じた。

今までは統制も何もなくただ個の力で押しつぶそうとしていた魔獣軍が、全方位から互いを補完しあうように動き始めたのだ。

しかもどれもこれもが祖国を倒す事を前提をしない動き。

玉砕覚悟の特攻に流石の祖国も動揺を禁じ得ない。

 

”…いきなりなんだってんだ…!?…まるで俺を足止めする様な…足止め!?”

 

導き出した結論に、不快な汗が流れおちるのを感じる祖国。

根拠は無い。

しかし戦場の勘は時に合理的な判断よりも優先されるべき事だ。

祖国は胸に渦巻く嫌な予感に従い即座にその場を離脱しようとするが、絶え間なく特攻を繰り返す魔獣軍にことごとく機会を逃してしまう。

 

”…畜生…抜け出せねえ…!”

 

急に動きが見違える程変わった軍勢に戸惑いを隠せない祖国。

命すら顧みないその猛攻に、流石の祖国も防戦一方になってしまっている。

 

そしてそんな祖国の苦戦を遠くからじっと見つめる存在がいた。

そう、今まで静観を続けて来た巨龍ケートスだ。

理知的な光を宿すその瞳は彼方で起こっている戦闘を見据えている。

それはまるで決定的な隙を伺うような、猛禽の如き鋭い視線の如き眼光であった。

 

 

”…クソが…キリがねえぞ…。”

 

あれから何匹の魔獣を仕留めただろうか。

ハァハァと息を荒げながら、左手に持った刀を振るう。

打ち込まれた錬鉄が優れているのか、あるいは塗布された超強酸のおかげか。

軽く三桁は切り結んだ刀は刃こぼれ一つ起こさず、未だ鋭い切れ味を保ち続けている。

 

が、それを扱う人間は別だ。

長らく戦場から離れていた祖国の体力は、巨大な軍勢を前に今にも尽きかけようとしていた。

 

”…こんな引っ切り無しじゃ無理に決まってんだろ……こうなりゃ大技でここら一帯を一掃するしか…”

 

このままではジリ貧が目に見えている状態で、祖国の思考には焦りが生まれていた。

 

命を捨てる前提で突っ込んで来る相手と、一つしかない命を守りながら戦う自分。

そもそもの条件が相手の優勢にも関わらず、それに加えて途中から連携のとれた物量作戦だ。

未だ辛うじて均衡を保っている現状は最早奇跡に近いだろう。

 

”…幸い連携の取れていなかった時間があったおかげか、脳の疲労はだいぶ軽減できた…今なら確実にこいつらを仕留められる…!”

 

全快とまではいかないが、戦いに支障が出ない程度には体調も回復している。

今なら残りの魔獣共を殲滅する威力のギフトを放っても、後々に響く事はなさそうだと祖国は判断する。

 

”…急に動きが良くなったのは気になるが…今はこの状況を打開するのが先決だ…!”

 

背後からの一撃をいなし、振り向き際に逆袈裟斬りで斬りつける。

肉を抉りながら進む刃は、まるでバターでも切断するかの様に抵抗なく敵を切り裂くと、その最後の一撃と共に役目を終え虚空に消え去った。

 

”…今だ…load…暴風(tempest)!”

 

瞬間、祖国を中心として突風が巻き上がる。

敵の侵入を拒むかの様に展開された見えざる防壁は追撃を仕掛けようとしていた魔獣を吹き飛ばし、あるいは弾き返し、途切れる事のなかった猛攻に終わりを告げる。

当然この程度の突風などでは抑えきれ無いレベルの魔獣も存在したが、今回は突発的な暴風により不意をつければ十分であったのだ。

 

そして数十秒後

 

嵐が吹き止んだその中心。

魔獣たちが見つめるその先。

そこにいるはずの存在、標的である人間の姿はーーーーーーすでに消え失せた後であった。

 

 

「…ハハ、いい感じにテンパってやがんな…。」

 

自身の姿を見失った魔獣たちがざわめき立つのを、上空で(・・・)心底愉快そうに見下ろす祖国。

現在彼がいるのは先ほどの座標のちょうど真上。

雲の高さとほぼ同じ対流圏と呼ばれる空間だ。

 

暴風を目くらまし兼防御壁として貼り付けた後、祖国は瞬時にギフトで真上に転移していた。

当然、足元の空間を別座標にある地面と貼り付ける事で、足場も確保している。

 

「…しっかし、こうやって改めて見てみると凄い数だな…。ま、足りたからいいんだけど…。」

 

誰にも聞かれる心配が無いからか、彼にしては珍しく饒舌気味であるようだ。

 

今回祖国が上空に転移した理由は主に2つある。

一つは地上からでは把握しきれ無かった敵軍の残り勢力を確認するため。

そしてもう一つは、可能な限り脳への負担を少なくしながら次の攻撃を繰り出すためであった。

 

なにせこの次の一手は貼り付ける対象がとてつもなく多い。

まあ魔獣軍全体を対象としている以上、それも仕方がないことではある。

だが貼り付ける数が多いだけならば、時間をかければ脳への負担は減らす事が可能だ。

そしてそのための目くらましでもあったのだから。

 

「…たっぷりと時間は貰ったからな…」

 

嵐が止むまでの数十秒間。

祖国はひたすら次の一手の仕込みに専念していた。

 

そしてそれが完了した今、眼下に戯れる魔獣たちの運命は決したも同然であった。

 

「…じゃ、いっちょやりますか…」

 

そんな気の抜けた掛け声と共に、祖国は自らの左腕を天高く掲げる。

 

望むは勝利。

圧倒的な殲滅。

立ち上がる事さえ許さない、理不尽なまでの暴力だ。

 

掲げた左腕に力を込める。

ロードは完了。

処理工程も滞りなく完了している。

後はただいつも通りにギフトを発動するだけだ。

 

にも関わらず未だこの手を振り下ろすのを戸惑っているのは、きっと、そうー

 

ーデジャヴというやつに違いない

 

”…全く…馬鹿げた話だ…”

 

かつて今と同じような光景を目にし、そして同じような方法で人々を殺して回った頃の記憶が幻影を見せる。

これから訪れる結末はかつての彼が望んだ答え。

そして今の彼が拒むべき未来だ。

 

だが現実はどうだ。

あれだけ奴を否定しておきながら、不都合な部分と切り捨てて封印しておきながら、結局同じように平然と敵の命を奪っているのはどこの誰だろうか?

今まさにそれを再現しようとしているのはいったい誰だろうか?

 

唐突に突きつけられた現実に、もはや自嘲する気さえ起きない祖国。

 

憎みもしよう。

償いもしよう。

断罪ならばどうぞ好きにするがいい。

 

だが、今だけは。

成すべきことがある今だけは。

この蛮行を許して欲しい。

 

そして今日も今日とて曖昧な言い訳で答えを濁したまま、彼はその名を口にする。

 

「…load…万剣(million blades)!!!」

 

突如、大地が陰に覆われた。

魔獣が闊歩する荒野に差し込んでいた光が途切れ、突然の異変で地上の軍勢に動揺が走る。

何が起こったのかと、いち早く我に返った一匹が原因である空を睨み…

 

 

 

 

 

ーそしてその瞳が驚愕で揺れた。

 

 

 

 

 

そこに浮かんでいたのは紛れもない剣であった。

ただし驚愕に値するのはその数だ。

一本や二本とか、そんな次元の話では無い。

地上に蔓延る魔獣を飲みこまんばかりに展開されたその兵装たるや、もはや数万という言葉ですら生ぬるいだろう。

 

そんな天空に浮かぶ無数の刃軍も当然見かけ倒しなどでは決してない。

その一つ一つが当たり前の様に先の短剣を凌駕する殺傷能力を秘めている。

超強酸、猛毒などは可愛い部類。

怪しく光る光剣や、禍々しい瘴気を放つ突剣、あげくの果てにはプラズマ膨張を始める奇剣など、ありとあらゆる殺戮兵器が顔をのぞかせている。

 

当たれば必殺。

例外は無い。

 

対象を殺すことだけに特化した外界の技術の結晶が今、大空を埋め尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

そしてー

 

「…あばよ…」

 

無慈悲な宣告と共に、祖国は天に掲げていた左腕を振り下した。

 

マグネティック・フォートレス同様、磁力の反発で空間に浮いていた数多の刃が一転、吸い寄せられるかの様に地面へと降り注ぐ。

弾丸にも引けをとらない速度を叩き出しながら、天を覆っていた無数の刃軍が地を穿つ。

その様相は正に刃の嵐。

絶え間なく降り注ぐ死の兵装は地上を這う魔獣を貫き、切り刻み、溶かし、壊し、ありとあらゆる方法でその命を奪っていく。

 

悲鳴など聞こえない。

一切合財悉く、声を出す暇さえなく死んでいく。

いや、出したところでこの喧噪の中では彼に届く事はないのだろう。

 

地に突き刺さる金属音だけが響き渡る。

時々聞こえるわずかな断末魔や、肉を引き裂く生々しい音。

そんな僅かな雑音さえもかき消すように、更なる刃が天より降り注いでいく。

 

そして十数秒後

 

全ての武器が打ち尽くされ、鮮血で染められた大地に再び静寂が訪れたその時ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー極大の閃光が祖国を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

さて今作なのですが、自分なりになんでこんなに進むのが遅いのか考えてみた結果…

詰め込み過ぎたという結論にいたりましたw
いやまじでw

もう、色々詰め込み過ぎてそれを消化するのにあれやこれや書いてると、軽く1万字越えてるとかマジ筆者無能スグルw

一章はもうこのままやりたい放題でいこうと思いますが、二章以降はテンポ重視で内容薄めにするかもしれません。

返信が遅くなるかもしれませんが、感想やコメント待ってます。
あとアンケートもw

それでは今回はこれにて。


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