問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~ 作:しましまテキスト
しましまテキストです。
またまた更新日が開いてしまいましたね…。
うん、もう何も言うまい(遠い目
さて、お気に入りがついに400件を超えました!
こんな駄作を読んで頂き、本当にありがとうございます。
これからも遅筆ながら、頑張っていきます。
あと評価してくださった方、アンケートにお答えいただいた方にも、ここでお礼を述べさせていただきます。
本当にありがとうございます。
アンケートには個別返信はしておりませんが、一つ一つしっかり読まさせて頂いております。
個別返信はしても良いのですが、多分ハンコを押したように似たり寄ったりの受け答えになってしまうので(汗
あと、アンケートはまだまだ受付中です。
是非とも皆様の意見を、よろしくお願いします<m(__)m>
それでは前置きも長くなってしまいましたが、今話もお付き合い下さい。
淡々と。
ケートスはその時を待っていた。
彼方で暴れるは自身の鱗より生まれ落ちた魔獣たち。
そしてそれを相手取りながらなお、自身への警戒を緩めない一人の人間。
およそただの人間とは思えない御業を体現したようなその姿は、かつて箱庭を席巻した軍神を思い起こさせる。
そんなある種の郷愁さえ感じながら、ケートスはただひたすらにその時を待っていた。
ー魔王アルゴール覚醒の時を
巨龍ケートスには理性があった。
自身が召喚された意味も、こなすべき責務も、このゲーム盤に呼び出された時点で須らく理解していた。
そして同時にケートスには
幾千年を経てもなお色褪せる事の無い、自身を打倒したその光景を。
生首一つでありながらも、不気味な眼光で石化の呪いを植え付けた星霊の顔を。
なればこそケートスにとってこのゲームは屈辱以外の何物でもない。
自身を打倒した伝承を具現化し、あまつさえその功績で自らを従えるゲームなど、最強種たる彼女には許容しがたい屈辱であった。
このゲームは、そう、侮辱だ。
自身の死に際を再現したフィールドで、たかが
そしてたとえ最強種と謳われる存在であってもなお逃れる事が出来ない箱庭の理不尽な掟。
それら二つの現実がいかに彼女のプライドを貶めたかなど今更語るまでもないだろう。
そして必然、ケートスはアルゴールへの忠誠心など微塵も持ち合わせてはいなかった。
彼女を突き動かすのはただの呪い。
ゲームルールという名の拘束力なのだから。
だからこそケートスはこのゲームを静観しようと心に決めていた。
自身の鱗から魔物を生み出しそして彼方の敵と戦わせるという必要最低限の役割を終えた後は、一切戦いに関わるつもりなど無かったのだ。
もとより望まず呼び出された身だ。
そこまでゲームマスターに尽くしてやる義理は無い。
それが憎むべき仇敵であるなら尚更である。
ー叶うならば早く終わって欲しい
それが彼女が唯一持つ感情であった。
誰が勝とうが、誰が死のうが、全く持ってどうでもいい。
このゲームと言う名の呪いから逃れられるならば、その結末など彼女にとってみれば些細な問題だったのだ。
だが現実は彼女の望まぬ方向へと進んだ。
彼女の主から、星霊として完全なる覚醒を遂げるために眠りについたアルゴールから、ケートスに対して一つの命令が下ったのだ。
「手を抜くな」
傲慢な物言いで自身を見下す彼女に、そしてその言葉一つにも逆らえぬ自分への不甲斐なさに、ケートスの感情は今にも激昂しそうな高ぶりを見せる。
何が魔王だ。
何が星霊だ。
ゲームルールという拘束さえなければ既に貴様は無様な骸に成り果てていたはずなのに。
だがそんな憤怒の感情の一方で、ケートスは冷静にもアルゴールの命令の意図を理解していた。
そして皮肉にも彼女が至った解答がその冷静さの源でもあったのだ。
ーそう、つまりこの魔王は恐れているのだ、と
*
本来、今回のゲームにおいて第二条件のクリアを判断するのは魔王アルゴールの役割であった。
必然、参加者側はギアスロールに示された謎の解答及び仮説をゲームマスターに何かしらの手段で伝える必要があった。
そしてその解答が正しいかどうか、ゲームマスター自身が吟味しそして裁定する。
これが今回変則的な方法で組まれた第二条件のクリア方法だ。
しかし実際はどうか。
アルゴールは黒い月の中に引きこもり、参加者側が意志疎通を図ろうとしても叶わない状況だ。
つまり現状、参加者側がもし正しい解答に辿り着いていたとしても、彼等にはそれをゲームマスターへと伝える手段が存在しない。
要はそもそもの第二条件クリア方法がゲーム的に成り立っていないのだ。
これはゲームメイクにおいて重大な欠陥を意味する。
そしてそれが魔王という強力な存在の与える試練であるなら、尚更その欠陥の意味するところも大きくなるだろう。
故に箱庭においてはゲームルール上重大なかつ予期し得ないミスが発生した場合、それを補うため自動的に補正がかかる様になっている。
補正を拒めば待っているのはロジックエラーによるゲーム破綻、そして同時に最悪の未来であるのだが、当然アルゴールはその様な事は望んでいない。
当然の事として、逆に喜々として受け入れた程だ。
さて、ゲームの話に戻るとしよう、
今回の場合休眠状態にあるアルゴールは、その状態中は参加者側がどの程度クリア条件を満たしているかを随時知る事が出来る補正を受けていた。
そして参加者がクリア条件を満たしたならば、たとえ休眠中であっても参加者の勝利を認めなければならないという制約も同時に受けていたのだ。
そしてそれは同時にアルゴールが参加者の、今回においては大宮祖国のクリア進展度合いを逐次把握できるという事を意味していた。
だからこそアルゴールは恐れたのだ。
彼が第二条件をクリアする事を。
ケートス召喚という派手な演出の裏に隠された、ある法則性に気づいてしまう事を。
事実、彼はゲーム名の違和感に気が付いた。
些細な違和感を見逃さず、本来あるべきゲーム名を言い当て見せた。
それだけで、アルゴールがその恐れを抱くには十分過ぎたのだ。
故に彼女は命令した。
これ以上祖国が思考を進めない様にするため、ケートスに祖国をけしかける命令を下したのだ。
最悪殺しても構わないと。
もちろん惜しいと思った。
間違いなく大宮祖国は歴戦の勇士だ。
叶うならばアルゴールも覚醒した自らの手で決着をつける事を望んだだろう。
それ程までに彼との戦いは彼女の心に愉悦をもたらしていた。
だがアルゴールにとって最重要目的はあくまでもその先。
かつて苦楽を共にした姉たちへの復讐にあった。
今回の戦いもその情報を掴むための手段でしかない。
なればこそアルゴールが最も危惧すべきはゲームクリアが成される事だ。
それが起こる可能性がある第二条件は、万が一にも解き明かされてはならない。
例え祖国を自らの手で倒すという楽しみを失ってでも、絶対に阻止しなければいけない条件であった。
それにそもそもの話、
もし仮に敗れたならばその程度の実力だったというだけの話。
アルゴールにとってみれば当たるも八卦当たらぬも八卦といった所だろう。
これらの思惑からアルゴールはケートスに対し本気で祖国に対処する様に命令した。
ケートスが非協力的であるのは重々承知していたが、それを補って余りあるほどに彼女の力は強大だ。
龍種にして不死。
そしてあまり知られていない事実であるが、ケートスは神霊としての側面も持ち合わせている。
大宮祖国の
かくして大宮祖国の身に最大級の試練が降りかかる事となる。
*
ケートスは生まれながらにして強者であった。
その動作一つが天災を生み、その咆哮一つで海が逆巻く。
圧倒的な不死性を有し、ゴーゴンの魔眼という相性最悪のギフトを用いてなお完全に殺しきれない存在。
そんな彼女が大宮祖国という人物に興味を持ったのは、ある意味必然であったのかもしれない。
彼女の祖国に対する第一印象は”少し強い程度の人間”であった。
確かに魔獣軍を圧倒してはいるが、隙の大きい個体を一匹一匹倒しているに過ぎない。
手にしている武器は強力なれど、使い手自身の技量は良くて二流といった所だ。
この程度の人間がアルゴールの目に留まるとは思えない事を考えると、何かしら強大なギフトを持っているのだろう。
が、肝心のギフトを使う様子を見せようとしない事から何かしらの事情で今は使えない、あるいは使わない様に心がけている様に見える。
ーくだらない
無聊をかこつ様にケートスは目を細める。
彼女にしてみれば、この程度の敵をひねるなど造作もない事だ。
今の状況は祖国が若干有利だが、それはケートスの怠慢によるもの。
眷属である魔獣共に交信して連携を取らせれば、すぐにでもその均衡は崩れ去るだろう。
その結論にたどり着くと即座にケートスは地に蔓延る眷属に命令を下した。
目の前の敵を殺すために共闘せよ、と。
声になど出さずともそれを察知した眷属たちは、今までの戦いが嘘のように連係が取れた戦いを開始する。
全にして個、個にして全。
そんな言葉を体現したような連携。
時には自身の命すら顧みずに攻め込む魔獣たちは着々と祖国を追いつめ疲弊させていく。
この戦況も遠くないうちに崩壊する事になるだろう。
ーあとは貴様次第だぞ、人間
彼方で激化する戦場を俯瞰しながらケートスは思案する。
このままギフトを出し惜しみして魔獣の群れに押しつぶされるなら、それはそれでいいだろう。
所詮は人間、その程度の相手だったという話だ。
だがもし彼に現状を打開する手札があるならば。
そしてその刃がケートスの喉元に届きうる程のものならば。
それはきっとケートスにとっても至高の数分間になるに違いない。
ーさぁてこの博打、鬼が出るか蛇が出るか
そんな事を考えながらも、だが彼女の予想はやはり何か運命めいたものを感じていた。
博打と銘打ってはいるものの、この感覚はもはや確信に近いだろう。
それは何千年と生き抜いて来た強者の勘であり、今まで彼女が最強を名乗り続けてきた所以でもあるのだから。
そして数刻後、その予感は現実のモノとなった
空に浮かぶは無数の剣戟。
打ち出される刃は弾丸の如く、その一撃一撃が禍々しい程の威力を秘めて大地を蹂躙する。
微かに聞こえる程度の悲鳴をあげて、絶命していく魔獣たち。
そのどれもこれもが原型を留めておく事も出来ずに肉体的に瓦解していく。
その残虐なまでに殺戮に特化した攻撃には、さしもの最強種も目を見張るものがあった。
ー捨て鉢に赴いた身でこれ程の余興に出会えるとはな
矮小なその身に宿る
そんな小さき者がしかし精一杯それを扱おうとする姿は、超越者たる彼女かた見れば最早微笑ましく思える程だ。
それでもだ。
それでもケートスは不覚にも見入ってしまったのだ。
天より降り注ぐ刃はあたかも神罰の如き閃きを見せ、それを統べる彼の者の立ち姿はかつての軍神さえ彷彿とさせる。
過ぎた力を身に宿したその人間から、しばしの間ケートスは目を離す事が出来ないでいた。
なればこそ、ケートスの決断は早かった。
彼の者がアルゴールの認める英傑と言うならば、そして業腹ながら己がその前座と言うならばー
ー貴様の真価、ここで見定めてくれよう
それをするだけの価値があの人間にはあった。
これから彼女という箱庭においても最大級の試練を、彼の人間はいかにして打ち破るのか。
はたまたあっけなくその命を散らす事になるのか。
いずれにせよ、彼女にはその結末を見届ける責務があった。
ー戯れだ、耐えて見ろよ人間
狙いを定めるかの如くケートスはゆっくりと頭をもたげ、
そして剣戟が鳴り止んだその時、彼女の口から極光と見紛う程の莫大な水刃が放たれた。
*
「…やりたい放題かよ、クソが。」
額から大量の汗と共に、真っ赤な鮮血が流れ落ちる。
この場での治療は出来ないが、せめて視界を遮らないようにと乱雑な態度で額の血を拭い去る。
「…本体は完全に避けてこの威力か…マジで勘弁してくれ。」
口調こそいつも通りを装っているが、内心では先ほどの一撃に動揺を隠せない祖国。
話には聞いていたが、実際に目の当たりにした箱庭最強種の実力は彼の予想を遥かに超えるものだ。
アルゴールを打倒するどころかそこまでたどり着く事さえ困難な現状に、さしもの祖国も苦笑いを浮かべていた。
先のケートスの一撃を祖国が回避できたのは、ほとんどまぐれに近い奇跡であった。
恐らくは目の端がケートスの行動の一端を捉えていたのだろう。
それを理性が攻撃と判断するよりも早く、祖国は本能的に回避行動へと移っていたのだ。
にも関わらず、祖国は今こうして手傷を負っている。
そしてそれは単にケートスから放たれた攻撃の初速が異常なまでの速度を有していたからに他ならない。
彼が直前までいた場所を、たった数コンマ差で極光の本体が駆け抜けていったのだ。
だがそんな事でさえ、今の祖国には小さな問題に過ぎなかった。
何よりも彼を慄かせた事実。
それは彼の肌を切り裂いた一撃が先の極光によるものでなく、そこから漏れ出た余波、その
彼にしては珍しく、心底困ったような表情で天を仰ぐ。
そこには天災の通り道が、空に揺蕩っていた雲を貫通する巨大な穴が、さきの極光の軌跡をありありと映し出している。
「…ざっけんなよ…」
祖国の口から忌々し気な呪詛が漏れる。
本体から派生した、ただの水滴でこの威力だ。
先ほどの一撃をまともに喰らえば、確実に彼の肉体はバラバラの肉片に成り果てるだろう。
しかもその威力を裏付けるように放出時の速度も尋常ならざるものだ。
何度も運よく逃れられそうにはない。
だが現状はなにも悲観すべき事だけでは無かった。
今の攻撃をごく間近で観察できた事、そして余波として発生した水滴の弾丸の存在を知った事。
この二つから祖国は先程の極光の正体に迫りつつあった。
”…おそらくさっきの攻撃はウォーターカッターに近い性質だろう。超高密度に圧縮された水を極小点から射出する事で、破壊力を増幅する方法だったはずだが。”
そこで一瞬、祖国の表情が曇る。
彼の知るウォーターカッターとは違いあまりにも桁外れな威力であるために、どうしても彼自身が信じ切れていない様子だ。
いやそもそもの話今の攻撃をウォーターカッターと仮定すると、どうしても納得いかない点が発生してしまう。
第一にウォーターカッターはその性質上、遠距離攻撃に用いるには向いていない。
ホースの水がそれ程遠くまで飛ばない様に、また仮に飛ばしたとしても途中で霧散して勢いが逓減しまう様に、ウォーターカッターも遠距離に対しては十全にその威力を発揮できない。
今の祖国とケートスの距離は目算で数百メートル程度だが、その距離を威力を損なうことなく飛ばす事が物理的に可能なのか甚だ疑問だ。
第二に先ほども説明したが、ウォーターカッターは水を極小点から発射する必要がある。
ならば必然的に、水の軌跡も線の様に細いものでなければならないはずだ。
だが先ほどの攻撃は、祖国の身長分を丸々呑み込んでもまだ余裕がある大きさであった。
これでは一点特化の利を活かせず、あれほどの威力を叩き出すなど不可能なはずである。
だが仮にアレをウォーターカッターとするなら、一つ説明のつく事がある。
極光の正体だ。
通常ウォーターカッターで射出される水は純粋な水ではなく、その切れ味を上げるために研磨剤代わりに混ぜ物を加えた水が使用される。
その際よく用いられるのはガラス粉やダイヤモンド粉など光物関係であることが多いのだ。
もし先ほどの極光がそれらに反射して発せられたものだとしたら、一応の説明はつける事が出来る。
”…まぁとにかく分からない物は考えてもしょうがねえ。今はアノ攻撃を連発させない事が最優先だ。”
思考にいったん区切りをつけ、彼方に泰然とたたずむ巨龍を睨む。
その姿はさながら挑戦者の登場を待つ師の如く、圧倒的強者の雰囲気を醸し出していた。
”…正直勝てるビジョンが見えないんだがな。”
彼我の力量差は圧倒的だ。
正攻法ならば確実にケートスに軍配が上がるだろう。
だがそれでも未だに祖国の瞳に諦めの色が映らないのは、彼もまた強者である故の矜持からだ。
強者たる者、己の勝利を疑ってはならない。
勝者とは常に傲慢なほどの勝利を確信した者である。
なればこそ、祖国の思考の中には一片の諦めも存在しないし、してはならない。
たとえ命散らす事になろうとも、その瞬間まで勝利を渇望する事を止めてはならないのだ。
「…上等だ。やってやるよ、ケートス!」
そう、ならばもう
全身全霊でこの試練に対峙しよう。
そんな渾身の決意と共に、祖国はケートスへと向き直った。
二者の間に静寂が流れる。
開戦のゴングなどありはしない。
彼方に佇むケートスにも変化は無い。
ならば祖国が先に行動を起こしたのも当然の結果だ。
駆け出した足裏にストックしていた事象の一つ、粉塵爆発を貼り付ける。
四方八方に四散するはずの運動ベクトルをすべて推進方向へと纏め上げ、文字通り爆発的な加速力を得る祖国。
だが今回はそれだけでは終わらない。
加速する毎に自身に加わる空気抵抗さえも切り取り、そして反対方向の運動ベクトルとして貼りなおす事でさらに累乗的に加速を続けていく。
初速において既に十六夜のそれを優に凌駕するその速度は、瞬きする間に祖国をケートスの元へと運ぶだろう。
だが相手は最強種にして海の覇者ケートスだ。
いくら速かろうとも直線的な動きでは彼女を出し抜く事など出来はしない。
ケートスは人間などとは比較にすらならない圧倒的な動体視力で祖国の動きを視認すると、先程と同様、口から超高圧のブレスを祖国めがけて打ち放った。
狙いは必中。
放つは神速。
本来ならば目視してから逃れるのでは遅すぎる。
そう、
超高圧の水刃が空を切る。
彼女がブレスを放った時、十六夜を越える速度で迫る祖国は既に彼女が狙った場所には存在しなかった。
彼がいるのはその遥か左。
荒々しい岩肌と鮮血で染められた大地が印象的な荒野の中心だった。
ーいつの間に移動した
そんなケートスの疑問をよそに、依然として祖国のは減速するどころか加速を続けて接近する。
もはや海岸までの距離は半分を切り、さらに数秒もすればケートスのいる海域に到達するだろう。
それはそれでケートスの独壇場ではあるのだが、一発も攻撃が当たらないのは癪な話だ。
一種のプライドにも似た意地でもって、再びケートスはその口を開くのだった。
さて、祖国がケートスの攻撃を回避した手段であるが、当然ギフトによる空間転移がネックとなっている。
しかし上述した通り、ケートスの攻撃は目視してから行動しては遅すぎる。
ならばどうするか?
簡単な話だ。
ケートスがブレスを放つ直前に、その軌道を
彼女の攻撃はその性質上必ず直線的な軌道となり、攻撃を打ち出してからばそれを変更する事は出来ない。
ならばケートスの口の角度と自身の位置を照らし合わせれば、ブレスが飛来するタイミングも予測が出来るはず。
もちろん並大抵の人間がぶっつけ本番で成功する様な技術ではないが、彼の場合は外界で数多の戦地を駆け抜けた経験がその神業に近い弾道予測を可能にしていた。
”…あと半分!”
更に加速を続ける祖国が、ついにアルゴールとの距離を半分まで詰める。
目の前には既に海岸線が迫り、彼のフィールドがここまでである事を告げる。
これから先、ケートスが本領を発揮できる海ではこれまで通り安々と接近する事は出来ないだろう。
そう、
そもそもの所、そこまでして祖国がケートスへと接近を試みる目的はただ一つ。
”…本体に近づいてりゃ、そうそうブレスは打てないだろ!”
あの殺人的な遠距離攻撃を防ぐためである。
確かにケートスのブレスは強力で速いが、それでも無敵という訳ではない。
とくに今回の様に相手との体格差が大きい場合は、小回りの効かない大技は近接戦闘には向かない事が多いのだ。
さらにケートスはその巨体からも想像できる通り、あまり俊敏性に特化してはいない。
その原因の内、そもそも圧倒的な不死性を有する彼女は相手の攻撃を避ける必要性がないという理由が大部分を占めているのは最早皮肉としか言いようがないが。
とにもかくにも生半可な攻撃がケートスへ通じない以上、必要最低条件として祖国はケートスへと接近する必要があった。
当然彼女もその目論見に気づいており、ゆえにこそ執拗に祖国を撃ち落そうと躍起になっていたのだ。
が、彼女の攻撃は悉く祖国の先読みによって躱されてしまう。
左に、右に、上に、下に、四方八方に転移し迫る祖国の動きに、流石のケートスも未だ対応できていなかった。
そうしてかくしている間にも、祖国は既に最後の大地を蹴り発っていた。
ー速いな、止むを得んか
祖国の圧倒的なアジリティ。
その人間ならざる加速度にケートスが警戒を示し、いよいよ迎撃に本腰を入れようとした、その時ー
ー祖国の姿は、既に彼女の眼前にあった。
瞬間、ケートスは自身の失態を悟った。
何てことは無い、基本的な見落とし。
むしろ今になって考えれば、どうして思いつかなかったのかすら疑問に思える程だ。
そう彼女は気付くべきだった。
祖国が空間転移のギフトを有する以上、彼にとってみれば距離など常に無いに等しいのだと。
彼が望めば直ぐにでも、その手はケートスへと届き得たのだと。
ー不覚
だが時すでに遅し、だ。
彼女の対応が後手の回る様に、この人間の読みは常にケートスの一歩先を行っている。
現に今、彼は既に彼女の懐へと速度を落とす事なく潜り込み、そして次なる一撃を放とうとしていた。
ーおもしろい
元より素早さには特化していない身だ。
今更この攻撃を避ける事は出来ないし、そもそも避ける意味も無い。
それこそ己の不死性を上回る一撃を放とうものならば、潔く敗北を認めるだけの器量をケートスは持ち合わせていた。
ーさぁ、来るがいい
己を出し抜いた人間の次なる一撃に
そして祖国の一撃が彼女の巨躯を打ち抜いたのは、それとほぼ同時の出来事だった。
*
その常軌を逸した光景に、祖国の瞳が大きく見開かれる。
驚愕。
その一言に尽きるだろう。
理不尽の塊がウロウロしている箱庭に来て尚、今回の驚愕は彼の印象に深く残っていた。
が、それもしょうがない話かもしれない。
なぜならば、
「…なっ!?本体が…水!?」
こんな光景、外界では決して視る事すら出来ないのだから。
祖国の攻撃、その一撃は確かにケートスへの巨躯へと突き刺さった。
今までの高速移動分のエネルギーを全て拳に貼り付けリフレクターと共に放ったその一撃は、白撃・重纏とまではいかずともかなりの威力を有していた。
なにせ直前の移動速度は優に十六夜を凌駕し、もはや第五宇宙速度にさえ迫りつつあったのだ。
それをエネルギー変換して放たれた攻撃が弱い訳がない。
もちろん左腕で技を放った分、技術や精度は落ちるし無駄もある。
エネルギー全てを効率的に伝導出来た等とは露ほどにも思わないが、それでもその威力は折り紙つきだ。
実際、彼の左手は最強種の鱗さえ安々と砕き、貫通し、巨大な胴体の一部をごっそりと吹き飛ばしていた。
が、
巨躯に開いた大穴から見える、ケートスの内部。
なんとその内部すべてが
つまりケートスの本体は、鱗や皮膚の内部はすべて液体で構成されている事になる。
それだけでも十分突飛な話であると言うのに、しかし彼の目の前ではそれを遥かに越える事態が起こっていた。
再生だ。
ケートスの欠損した身体が内部から再生していく。
失われた部分を補うかの如く周りから水が集まると、数秒後には何事も無かったかの様に重厚な鱗に覆われた身体が甦っていたのだ。
「…んなバカな話があってたまるかよ…」
絶望的な現実を目の当たりにした祖国の口から、驚愕の言葉がこぼれる。
いくら否定しようとも覆らないその事実が、彼の目の前に壁の如くそそり立っていた。
そして同時に、聡明な彼は気付いてしまったのだ。
ケートスの不死性は大宮祖国では攻略出来ない、と。
つまりはそういう事なのだ。
ケートスの不死性。
それの正体は液体ゆえの圧倒的耐久性と回復力を再現したものだ。
衝撃伝導率が高いという水の性質を利用し、本来ならば自身を殺しえる程の一撃さえも衝撃を分散、流動させる事で即死を防ぎ、さらに水の表面張力を利用した回帰性質で、圧倒的な再生力を実現する。
要するに、水の性質を模した力こそがケートスの不死性の本質なのだと、祖国は瞬時に推測した。
そしてその推測は、理論部分だけならば、ほぼ正解に近かった。
ゆえにこそ大宮祖国は理解した。
不死殺しの恩恵を持たない今の自分では、ケートスを物理的な方法で殺すことはほぼ不可能だ。
主な攻撃方法が物理的な手段しかない己のギフトでは尚の事。
”…っ、まずは一時撤退だ!有効打が見つからない以上、不用意に接近するのはマズイ!”
ここに至って勝利を諦めないのは流石の胆力といった所か。
自分がいる立ち位置を思い出し、祖国は瞬時に今成すべきことを判断する。
今は一時の猶予が必要だ。
現状を打破する作戦を練るのも、あるいはケートスの弱点を探るのも、まずはいったん冷静になる必要がある。
攻撃が通じない以上、ケートスへ張り付いての攻撃は無意味どころか最悪だ。
このまま命知らずに闘うよりも一度この場を離脱するべきだと、彼はそう結論付けた。
そしてそれが既に
だが彼がギフトを発動するよりも早く、その異変は訪れていた。
何時の間に広がっていたのだろうか、彼の周りには数メートル先すら見えない程の濃霧が発生していたのだ。
その霧は祖国とケートスがいる海域一帯に展開され、外から見ればまるで何かを閉じ込める様な、三角形をした牢獄を形作っていた。
”…クソ、目視できねぇ。”
転移に必要な外部情報が手に入れられず脱出が出来ない祖国は、一か八か情報を抜きにしてギフトを発動しようと試みる。
この手段は最悪の禁じ手。
運が悪ければ岩の中や、マグマの中に転移してしまう可能性さえある技だ。
だが、そんな彼の最終手段をもってしても…
「…な…に?空間に干渉できない…だと?」
彼がその牢獄から抜け出る事は叶わない。
それどころか今まで彼が切り取って足場にしていた空間さえもがいつの間にか消え去り、海面へと落下しているではないか。
今までの人生で一度たりとも経験したことが無いこんな事態は、流石の祖国であっても理解の範囲外であった。
そして、そんな彼を嘲笑うかのように、
『逃がさぬよ、人間。私の庭に土足で踏み入った無礼、黙って見過ごす訳がなかろうて。』
霧の空間に爆音が響いた。
読了ありがとうございます。
ハナシガイッコウニススマナイ( ;∀;)
進まな過ぎて、もうそれが慣れて来た自分がいる程です。
更新速度だけは何とかしたいよ…。
感想、意見、批判、あと要望は、コメント欄にお願いします。
それでは今回はこれにて。