問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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ハーメルンよ、私は帰って来た。

お久しぶりです、しましまテキストです。
投稿期間が開いてしまい申し訳ないです。
失踪では無いですよ、断じて。

今回は少しリハビリもかねて短めとなっております。
今後は依然程度にアップしていけたらと思っていますので、読んで下さる読者様方も、まったりと待っていただけたらと思います。

それでは今話もお付き合い下さい。


魔の海域

突然だが、少し余談に付き合って欲しい。

あまりなじみの無い話かもしれないが、箱庭における神霊はその成り立ちから2つに区分する事が出来る。

一つは精霊からの成り上がりとして神霊へと至った場合。

もう一つは生まれながらにして神霊として誕生した場合。

具体例を挙げるならば前者はクロア・バロンが、後者は有名どころなら帝釈天が挙げられるだろう。

 

だがこの区別は、実のところ正確では無い。

いや正しくは、後者は更に二つに分類する事が出来るのだ。

 

一つ、対象とする概念そのものへの信仰によって発生したパターン。。

一つ、神霊として先に誕生した者が後から司る権能を付与されたパターン。

 

例えば今回は”海”という概念を念頭に置いて話を進めるとしよう。

まず前者。

これは全ての生命の起源であり、人類史において時には災害を時には恵みをもたらした偉大な母たる”海”への信仰。

この信仰が積み重なり、神聖化され、そして神という形を与えられた場合に相当する。

海への信仰がその神を生み出したパターン、いわば概念神という存在に近いだろう。

そして何を隠そうこの海への信仰を一身に受け発生した個体こそ、神霊としての女神ケートスである。

 

次に後者。

これは神話における系譜を考えると分かりやすい。

例えばギリシャ神話では主神ゼウスが存在し、その兄ポセイドンとハーデスが存在する。

ゼウスは天空を、ポセイドンは海を、ハーデスは冥界を、それぞれ統治する神として語られるが、これは先に述べられたように海という概念ありきの話では無い。

神という存在が先にあり、そのあとその神が何を統べるかが決定されたパターンだ。

つまり簡単に纏めると、互いに海を司る神であるケートスとポセイドンも、その発生の仕方が異なるという話だ。

 

さてこの両者、一見して大差ない様に思うかもしれないがそれは大きな間違いだ。

海→神という順で生まれたケートスと、神→海という順番で設定されたポセイドン。

この二者の内、より海という概念への親和性(あいしょう)が高いのはどちらだろうか?

 

無論ケートスに決まっている。

 

海から生まれた神と、後付けで海を統べるように決められた神。

その存在レベルからして前者の方がより海との相性が良いのは語るまでもないだろう。

実際ある事件よりも以前は、人類における知名度も影響力もそして神としての信仰も、全ての点においてケートスはポセイドンやその他の神々を遥かに凌駕していた。

海という地球の7割を占める概念への信仰を独占し、ともすれば星霊にさえ匹敵する程の力を有していたケートスは他の海神と比較しても別格の存在であったのだ。

 

だが、華々しい時は長くは続かなかった。

 

確かにケートスは強者であったが、さりとて賢神では無かった。

ありていに言うならばハメられたのだ。

他ならぬ海神ポセイドンの手によって。

詳しい話はここでは省くが、手法だけならありきたりな話だ。

他者を貶め、その信仰を略奪する。

北欧神群の主神オーディンが他宗派のプロパガンダによってその神威を貶められたという話は有名だが、手法だけならばそれに近いかもしれない。

 

ギリシャ神話を信仰する民へ教えを説き、ケートスの神威を削ぐように信仰を誘導する。

その時代ヨーロッパを中心に文明が発達し、急速にギリシャ神話群が力をつけていたのも一役買っていたのだろう。

瞬く間にその信仰は各地へ拡散し、ケートスへの信仰は急速に衰えていった。

 

そして決定打となったのが、ポセイドンがとある詩人と結託して起こした事件ーーーギリシャ神話の改変であった。

あろうことかポセイドンは女神ケートスをギリシャ神話へと組み込み、その信仰を丸々自身の物として奪い去ったのだ。

現在に伝わるギリシャ神話において、ケートスがポセイドンによって作られた存在として語られている理由がここにある。

 

被造物は創造主には及ばない。

 

この決定的な力量関係をギリシャ神話の系譜に刻み込む事で、ポセイドンは半永久的にケートスを上回る事に成功した。

そして同時に、これこそがケートスが巨龍種として語られるようになった所以でもある。

つまり”巨龍という強大な存在を作り出す事が出来る程に、ポセイドンという神は圧倒的な力を持っている”と、暗に信仰者へと示唆する事が出来るのだ。

 

これによってポセイドンの神格はケートスへの信仰が増えれば増える程膨れ上がっていった。

ケートスへの畏怖が、信仰が、そのままポセイドンの神威へとつながるのだ。

必然、ポセイドンは海神の中で抜きんでた神霊として頂きへと登り詰め、今や最も有名な海神として今日まで語られる事となった。

かくして人智の関与しえないところでとあるヒエラルキーが崩壊し、また新しく作り出されて来たのだった。

 

だがケートスは諦めていなかった。

 

海という概念神であった彼女はポセイドンの策謀によってその存在を巨龍へと変えられ、かつて所有していた権能の全てを彼の神に簒奪された。

当然信仰も低下し、めぼしい海域の主権はポセイドンが独占している。

傍から見れば一縷の望みも無い状況だろう。

そんな絶望的な状況において、だが彼女は未だに諦めてはいなかった。

 

なぜなら彼女は知っていたのだ。

いずれ発生するその信仰を。

未だポセイドンさえ感知しえない海域において、だが確実に発生するそのパラダイムシフトを。

 

それは20世紀、最期にして最新の”海”にまつわる歴史の転換期。

移民開拓という背景があったからこそ特定の宗教が広がる事無く、それゆえにギリシャ神話さえも感知し得なかったその海域。

巨龍と化したケートスが、唯一最期に獲得する事が出来た海の主権。

 

その名をバミューダ・トライアングルと言う。

 

 

 

 

 

 

”クソが!何だってんだ!”

 

貼り付けていたはずの足元が消え去り宙を落下する中で、大宮祖国は混乱の最中にいた。

なぜ足場が消えたのか、なぜ空間転移が出来ないのか、そもそもこの濃霧はいったい何なのか。

いやそれ以前に最悪ギフトが使えないと仮定すれば、この高さから海面に叩きつけられて生きていられるのか。

そんなある種の極限状態において尚、彼がその一撃の兆候に気が付いたのは幸運以外の何物でもなかった。

 

ーあのブレスが…来る!

 

かつて戦場でいやと言うほど味わったその気配。

己の命を刈り取ろうとする圧倒的な意識。

それが今、自分に向けられているとすれば…

 

「下か!!!」

 

頭から落下する姿勢で真下の海面へと視線を向けると、わずかに霧が揺らめいて見える。

そして彼がそれに気づいたコンマ数秒後、予想通り蠢いていた濃霧の中心点から極大のブレスが放たれた。

先ほどと何ら遜色ない威力の水刃が祖国の身体を貫かんと瞬く間に肉薄する。

無防備に落下している今のままでは物理的に避ける事など不可能だろう。

 

”…あーもう、こうなりゃヤケだ!グダグダ考えてる暇はねえ!”

 

だから彼は考えるのを止めた。

どうせ自分が一生懸命考えたプランも、相手の理不尽なまでのゴリ押しで打ち破られてしまうのが関の山。

ならば自分もあれこれ考えず今できる事を成すのみだと、半ば投げやりになりながらも行動に移る。

 

”どうせ既存のリフレクターじゃ、あのブレスは打ち返せねえ!とすれば……展開、直列型神経回路!”

 

瞬間的に神経をつなぎ変えて一気に戦闘態勢へと移行する祖国。

それとほぼ同時に祖国へと水の凶刃が到達する。

彼の身体に凄まじいという言葉も烏滸がましい程の衝撃がはしるが、次の瞬間にはそのすべてがギフトによって切り取られていく。

 

もちろんこのままではジリ貧は目に見えている。

無限に使い続ける事が出来る道具が無いように、祖国のギフトもいつまでも発動し続ける事は出来ない。

ギフトが途切れた時が最期、彼の身体は無残な肉塊へと成り果てるだろう。

が、そんな事は本人ならば百も承知。

今の状況を切り抜けるためには、行き当たりばったりでもやるしかないのだ。

 

”リフレクターは継続的な攻撃とは相性が悪い。弾丸みたいな単発ならまだしも、水みたいな非固形物とは尚更だ。とすれば俺が今回成すべき事は!”

 

そして次の瞬間、彼の身体は見えない何かに引っ張られるようにブレスの射線上から弾き出されていた。

 

祖国の行った事は単純明快。

デフォルトで来た方向とは真逆側に貼り付けていた運動エネルギーを、今回は射線から離脱するために横方向に貼り付けただけ。

自分に加わった衝撃を切り取り、そのエネルギーを横方向に利用して軌道から逃れたのだ。

一見したところブレスによるダメージも皆無であり、ひとまずは思惑が上手くいった事に安堵の息をついた祖国はギフトを使って速度を増大させながら落下する。

数秒後、着水時全ての衝撃を切り取り静かに海上に着地した祖国は、ギフトで表面張力を操作して海面上にゆっくりと立ち上がるとブレスの発生源めがけて…

 

「吹っ飛べ!!!」

 

なさけ容赦ない爆撃をお見舞いした。

海上にも関わらす勢いよく燃え上がる火柱は周囲の海水を即座に沸騰させ、同時に周囲の気温が高まった事で周囲の霧もある程度薄らいで見える。

そしてその爆炎の中心点。

本来そこにあるべき巨龍の姿は、

 

「チッ、外れか。」

 

影も形も残っていなかった。

 

 

 

 

 

 

ーほぉ、今のを防ぐどころか反撃までしてくるか…。

 

立ち込める濃霧の中で、この現状の元凶である巨龍はフッと笑う。

つい数秒前まで不測の事態に陥っていたにも関わらず不意打ちを回避し、あまつさえ反撃までしてきた人間など彼女の記憶の中でもそうはいない。

そもそも彼女がこの領域を展開すること自体が稀である以上絶対数が限られるのは当然ではあるが、それでもただの人間がそれをやってのけたのは少なくともここ数百年の間では一度たりとも存在しなかった事態だ。

 

ーあの気に食わない星霊が認めた以上何かあるとは思っていたが…、中々どうして期待できそうではないか。

 

西欧の海神に服従させられてから数百年。

躍る戦いなど久しい彼女にしてみれば、此度の祖国との戯れは極上の愉悦に等しい。

だからこそゆっくりと。

楽しみを一つ一つ噛みしめるように、ケートスはその時間を味わっていた。

 

ー先程のを避けたからと慢心しないのは良い心構えだ。まあ、この程度で油断する様な輩ならば、所詮残りの試練は越えられないだろうがな。

 

そう、何も焦る事はない。

たかがバミューダに関する”仮説”の一つを乗り越えたに過ぎないのだ。

これから訪れる災難にとってみれば先程の攻撃はあいさつ代わり程度の代物。

それすら越えられない様な者に、この先を行く資格は無い。

 

 

 

ケートスが展開した結界。

これは結界の内外を空間的に断絶し、疑似的なバミューダ・トライアングルを形成する権能だ。

そしてこの結界内部において、ケートスはバミューダ・トライアングルの正体と目される複数の”仮説”をギフトとして行使できる。

 

例えば先程のケートスの攻撃は、バミューダ仮説の一つである「歪三角形説」をギフトとして昇華した「ワープド・トライアングル」を利用したモノだ。

歪三角形説とはバミューダトライアングルの3つの点を結んでみると、正三角形より僅かに歪んでおり、この歪みが空間の歪みとして影響するのではないかという説である。

この仮説をギフトとして昇華したワープド・トライアングルは、結界内のみという制約こそあれど、その内部ならばほぼ無制限に空間操作を可能にするという強力極まりないギフトだ。

先の攻撃などはケートスのブレスを空間操作で祖国の足元へと展開しただけの、彼女からしてみれば可愛らしい使い方の部類。

本来の殺し合いならば、否、彼女が祖国との戦いを戯れと認識してさえいなければ、それこそ一瞬でケリがついてしまっても何ら不思議が無い程にそのギフトは凶悪なのだから。

 

ひっそりとその巨体を潜ませながら、巨龍は神妙な態度で思案する。

 

ー残る試練は3つ。早々にここを探し出さねば貴様に勝機は巡って来んぞ、人間。

 

数メートル先さえ不明瞭な濃霧の中からケートスを見つけ出す。

それが祖国に課された最低にして最大の勝利条件。

しかしその最中は敵の未知のギフトによる攻撃に晒され続ける事となる上に、濃霧のせいで方向感覚も失いやすくなるというデバフ付き。

そんな傍から見れば絶望的な状況を、彼の人間はどのように攻略していくのか、あるいはたまたあっけなく死んでゆくのか。

その結末だけが、きっと彼女の無聊を慰めるのだろう。

 

ー所詮は戯れ、愉悦だ。どのような結末になろうとも、私も、人間も、そしてあの星霊も、後悔する事はあるまいよ。

 

なればこそ自分が倒されるという得難い経験も悪くはないのかもしれないと、柄にもなく自虐的な考えに至るケートス。

未だかつて攻略されたことの無いこの海域を、不死性を、存在を、ことごとく凌駕する者がいるのならば、そしてもしそれがこの胸の内にくすぶる無聊をかこつと言うのならば…

 

ーそれはそれで悪くはない。

 

そしてそんな一抹の期待を抱きながらも、いや抱くからこそだろう。

 

淡々と、あくまでも淡々と、ケートスは侵入者に対して次なる試練を課すのだった。

 

 




読了ありがとうございます。
やはり5000字じゃ短いですね。
次話は今まで通り10000字程度を目安に投稿したいと思います。

感想、批判、質問等、コメント欄までお待ちしております。
それでは今回はこれにて。
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