問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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こんにちは。
お気に入りが謎に伸びてビビりまくっているしましまテキストです。
身の丈に合わない評価、ありがとうございます<m(__)m>

さてようやくケートスとの決戦です。
白夜叉時と同様に前後編に分けて書いており、今話は前編にあたります。

後編も近いうち(※筆者主観)にアップしますのでよろしくお願いします。
それでは今話も付き合い下さい。




彼にとっての矜持とは

 

気に食わない。

 

率直な感想としてはそれが一番しっくりとくるだろう。

箱庭で最初に死闘を演じた白夜叉もそうだったが、例に漏れず箱庭のお偉方は人間を試すことが大好きらしい。

こんな馬鹿げた空間を作ってまで尚殺し合いでは無く試練を課すのだから、彼等の傲慢さは箱庭の天蓋さえも優に超えるのではないだろうか。

 

確かに、此度の敵は今までの人生でも類を見ない程に強大だ。

特に致命傷クラスの損傷でさえ一瞬で回復してしまう程の不死性は今の祖国では対処する手段が無い。

いや正確には無い事はないのだが、今の祖国がそれを使うという選択肢を無意識の内に外してしまっている以上結果としてみれば同じことであった。

故にケートスからしてみれば今の彼はただの弱者。

戦いの場においてなお傲慢にも試練を課すにとどまる、ただの一人間に過ぎなかった。

 

”まぁ相手が勝手に油断してるならそれに越した事はない。こっちがその間に寝首を掻くだけだ。”

 

だがその傲慢さが足をすくわないと誰が言えるだろうか。

否。

むしろ弱者が強者を屠る事が出来るのは、相手の慢心からの隙をついた場合が大多数を占める。

今回の様にはなっから油断してくれると言うのならば、その伸びきった鼻を叩き折って差し上げるのは当然の礼儀というものだろう。

 

それにー、と彼は一つ苦笑する。

 

戦場とは何も正攻法だけがまかり通る世界では無い。

強者が下らない理由で弱者に打たれ、強国が一夜にして弱小国に敗れ去る。

理不尽な理が横行し溢れかえる、そんな世界だ。

 

だからこそ、

 

「別にお前の不死性をバカ正直に攻略する必要はねえんだよ。」

 

彼は再びその拳を振り上げるのだ。

 

賭けの分は悪い。

仮定に仮定を重ねたその可能性は作戦と呼ぶにはあまりにも稚拙な代物だ。

それでもそこに勝機があるのなら、彼の巨龍を打倒する可能性があるのなら、喜んで命を差し出そう。

彼が再び立ち上がる理由など、それだけで十分なのだから。

 

「いつまでもそんな態度でいられると思うなよ。」

 

そんな不遜な呟きと共に祖国は濃霧を睨み付ける。

まずはこの濃霧を皮切りに敵様の余裕を剥いで行く事としよう。

ケートス(やつ)が己の焦燥に気づく頃にはきっと、事態はもっと愉快な事になっているはずだから。

 

 

そして祖国は不敵な笑みを口元に浮かべながら、彼の巨龍を打倒するため次なる一手を打ち出した。

 

 

 

 

ケートスがその異変に気付いたのは、彼女が次の試練を選定し終えた正にその時だった。

 

ー霧が薄く…気温が上がっているのか?

 

そう、些末な変化など気にしない彼女が気が付く程度に、この空間全体の温度が上昇し始めているのだ。

当然これは彼女の意図したことではない。

そもそも彼女が有するギフトの中で炎熱系統のギフトは存在しない。

ならばそう、これは必然的に、

 

ー仕掛けてきたか…。

 

あの人間の仕業に違いない。

そう結論付けたケートスは周囲に展開した濃霧からもたらされる情報を読み取って、異変の発生源を探索しにかかる。

この濃霧、ケートス以外のプレイヤーには視界遮断の役割を果たすが、本人にとっては周囲の状況を広範囲で察知できる性質を持つ。

むしろこの空間の主であるケートスにとって濃霧の届く範囲こそが彼女の認識できる範囲に他ならないのだ。

 

そんな彼女の知覚の延長線とも言える濃霧が、遂にこの異常事態の中心を捕捉した。

何てことはない。

敵は不遜にも堂々と、まるで一切隠れる様子も見せずにそこにいたのだ。

 

彼女が見上げ、彼が見下す、その空高くに。

 

だが彼女が注視したのは彼の人間がいる場所では無い。

彼女がその目を奪われたのは彼が手を掲げたさらに上空、その先に渦巻く膨大なエネルギーの塊である光球であった。

 

 

 

ーバカな…、あの技はまるで…!

 

 

 

「まるで白夜王のソレだ、とでも言いたいのか?」

 

 

 

心の内を見透かしたような祖国の言葉が朗朗と響く。

無機質に、だがどこか嘲るように、確信的な物言いで彼はそう言い放つ。

 

対称的に、ケートスの瞳は驚愕に染まっていた。

 

彼女が驚くのも無理はない。

周囲一帯に熱波をまき散らし所々があまりの高温故にプラズマ化し始めているその光球は、かつて箱庭でも最強との呼び声高かった彼の星霊の御業。

生まれながらの絶対者である星霊の中で尚”最強”の名を欲しいままにした、白夜王の第四態光球に他ならないのだから。

 

そしてケートスはここ数百年において初めて、一人間に対して明確な意志を持ってその口を開いた。

 

『問おう、人間。何故貴様がその御業を手にしている。』

 

「さあね、少しは自分で考えろよ。といってもまあ、箱庭でそれが出来る方法なんて限られてるだろうがな。」

 

祖国の遠回しな解答に、確かにそうだと内心苦笑するケートス。

箱庭における他者の技を再現する方法など、ギフトをおいて他には存在しないだろう。

そんな彼女の思考をよそに、いつもの飄々とした態度で今度は祖国が問いかける。

 

「逆に聞くけど、お前この状況大丈夫な訳?第四態光球の熱で霧も蒸発したし、視界も良好。濃霧に隠れてコソコソと狙い撃ち出来なくなっちまったんだぜ?」

 

『構わぬ、何も問題は無い。むしろ問題があるとすれば貴様の方だろう?濃霧さえ消さなければ、その中に隠れて闇討ちする事も出来たろうに。』

 

「ハッ、よく言うぜ。あれだけの濃霧の中、俺の位置をピンポイントでスナイプしてきたんだ。どうせあの濃霧の中でもお前はキッチリ俺の動向を把握してたんだろ。」

 

『否定はせぬ。しかしならば貴様は何故そう堂々としていられる?貴様が逃げ(・・)の一手を打った時と状況は何も変わっていないであろうに。』

 

至極まっとうなケートスの言葉に「逃げの一手ねぇ」と祖国は一人小さく呟いた。

 

確かにそうだ。

初撃でケートスの不死性に圧倒され、異常な回復力を一目見ただけで撤退を決断した。

当然その決断に後悔などしていない。

もしあの時引き際をわきまえなければ、今の自分が五体満足でいれたのかすら怪しいだろう。

 

だが結果論をいかに述べようとも、あの決断が逃げであった事に変わりは無い。

 

大宮祖国はあの時、あの場所で、確かにケートスに背を向け、そして逃げた。

 

それは紛れも無い事実だ。

覆しようのない現実だ。

 

 

そしてー

 

 

だからこそ彼はここに帰って来た。

何一つ変わらない状況へ、いや寧ろ悪化しているとも言える現状へ。

 

それを越えねば見えない景色があるが故に。

 

かつては逃げた存在だからこそ、ソレを乗り越える価値がある。

逃げた己自身を越えるというのならば、ソレを乗り越えてこそ初めて成したと言える。

 

状況が悪い?

 

好都合だ。

賽の目ならば好きなモノをくれてやろう。

 

敵が強大?

 

知った事か。

必要とあらば神だろうと殺してみせよう。

 

だから越える。

今ここで。

己が生んだ汚点など、この道に一点たりとも残しはしないのだから。

 

 

「何故か、と聞いたな。良いぜ…教えてやるよ。」

 

 

そして彼は言葉を紡ぐ。

依然として堂々と、不遜な態度のまま腕を広げ、そして大仰に謳う。

 

 

「それが俺の矜持(プライド)だからだ。」

 

 

そんな彼の言葉がケートスに届くのとほぼ同時。

彼の頭上に展開されていた第四態光球も遂に自身の超高温に耐えられなくなったのか。

剥離しプラズマ化したその暴力が周囲一面に拡散・伝播し、そして彼等のあたり一帯を眩い程の極光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

「それが俺の矜持(プライド)だからだ。」

 

その言葉を皮切りにしたように、周囲一帯に力の嵐が吹き荒れた。

踊り狂う熱波は容易く海を焼き、叩き出される衝撃波はそれだけで海面を切り裂く。

暗夜に映える太陽の化身のそれは、正しく疑似的な小太陽に等しい威力を有していた。

 

そしてそんな攻撃に晒され続けたケートスも、勿論無傷という訳にはいかなかった。

焦げ付く様な熱風にその体表は焼け爛れ、美麗な竜鱗は余りの高温に溶解を始めている。

生半可な神霊程度なら存在ごと消し炭にしていたであろうその光は、さしものケートスを持ってしても身体の大部分に深い傷を負う程度にはダメージを与えていた。

 

 

 

が、

 

 

 

ー所詮はこの程度か。

 

 

 

それ程の一撃をもってしても、ケートスの不死性は更にその上を行っていた。

極光を避けもせず、ただ一身に受け切った彼女の瞳には、心なしか落胆の色が映っている様にさえ見えた。

 

ー先の一撃…仮に白夜王と同等なれば流石の私も危なかったかもしれぬ。だが所詮はまがい物、贋作だ。この程度では…正直期待外れだ。

 

実のところ先程の一撃、ケートスにとって回避する事はさして難しい事では無かった。

歪三角形説のギフトを使用すれば、空間ごと熱波や衝撃を遮断する事も出来たからだ。

 

それでも彼女がそれをしなかったのはーーーーーーーーーーーーーひとえに彼の人間へのささやかな期待に他ならなかった。

 

彼ならば、悠久の時を生きながらえるこの身に終止符を着けてくれるのではないか。

彼ならば、未だ歴史上誰も無しえなかったその偉業を成しえるのではないか。

 

そんな儚くも淡い期待は、だがしかし彼女自身の不死性によってあっけなく散り行く事となった。

 

ー此度の徒もまた凡百か…。

 

彼女の心境を笑うように、燦々と輝いていた小太陽も徐々に光を失いつつある。

あと数十分もすれば、か細いこの光源も完全に消えてなくなるだろう。

 

ああ、タイムリミットだ。

もはやこれ以上この人間に期待するのは酷というモノだろう。

此度の戦もまた既存のルールを、彼女の勝利を覆す事無く、つまらない結果に落ち着くのだ、。

 

そんな絶望にも似た諦観を抱きながら、彼女は依然として上空で佇む人間に厳かに告げた。

 

『もう良い…。貴様が何度挑もうとその牙が私の首に届く事は無い。』

 

そう、何も難しい事はない。

元々彼女がその気になりさえすればダース単位で消える命だったのだ。

それを彼女が無意味に期待し、勝手に失望し、そしていつも通りの倦怠を抱いてその役目を終わらせる。

ただそれだけの事だ。

 

彼女がせめてもの慈悲にと。

死んだことさえ気づかぬほどに、せめて苦しまぬ様に、彼女の持ちうる最凶級のギフトを持ってこの戦いに終止符を打とうとしたー

 

 

正にその時、

 

 

『…なんだこれは?』

 

 

自身が投げかけた視線の先。

己の瞳に映る想像だにしていなかった光景に、ケートスの口から驚嘆の声が漏れる。

 

当然だ。

 

広大に広がる海があろうことかスッパリと、ある一定地点から、何かに遮断された様に途切れている(・・・・・・)のだから。

それも決して一面だけではない。

祖国とケートスを中心として、一辺およそ数キロ程の正方形状の何か(・・)が、海水の侵入をことごとく遮絶していたのだ。

 

例えるなら、そう。

プールの中に巨大なアクリル板で四角形を作り、その中の水だけ抜いたような、そんな光景。

およそ人の力をもってしては到底実現しえない光景が、だがそこにはあった。

 

そんな光景にー

概ね予想通りのその景色にー

ほのかに口元を吊り上げながら、彼はケートスの問に応える。

 

「さっきの攻撃の直前、ここら一帯を囲うように特殊な結界を作らせてもらった。」

 

『…結界だと?』

 

「ああ、そうだ。そんでもってこの結界はちょっと特殊でな。内側からは特に何の影響もなく外に出れるんだが、外からの影響は一切をシャットアウトする性質をもってるんだよ。」

 

それゆえに引き起こされた、いや引き起こしたこの光景。

 

全方位を取り囲む透過空間(クリアー・ダイス)の内部でプラズマ爆発を引き起こし、その余波で空間内部の海水、水蒸気、もとい水分の諸々を結界外へと弾き出す。

透過空間は先の祖国の言葉にもある通り、内側から外側へ出る事は出来るが、外側からは一切の干渉を受け付けない。

ゆえに弾き出された水は結界内には不可逆、この透過空間内部にはすでに第四態光球の余波を辛うじて免れた少量の水分が点在するに過ぎない。

当然気化したり、水滴となって空気中をさまよっている水分も存在するが、それらもじきに上昇し、この結界内から出て行くだろう。

 

そしてここまで語れば先の一撃の意味も、もはや明確だろう。

そう、祖国の放った第四態光球は決してケートスを打倒するために放たれたのではない。

濃霧を払い去り、さらにその余波で結界内から可能な限りの”水”を弾き出す。

 

何を隠そう水を取り払ったこの空間こそが、彼の望んだフィールドに他ならないのだから。

 

ではどうしてそこまでして水を取り払う必要があったのか?

なに、簡単な話だー

 

「さて不死性自慢のケートスに聞こうか?おまえの不死性はあくまで”水”を媒介にして再現されているが…、はてさて、その水が極端に少ない(・・・・・・)空間では、その不死性はちゃんと機能するのかね?」

 

彼女の不死性の元を断つ、それだけの話。

 

祖国がケートスの回復力を眼前で目撃した時、ケートスの欠損部位は水によって補完されていた。

つまりそれは彼女が不死性を再現するための媒介としているのは”水”であるという事を意味し、海がある限り彼女はほぼ無敵の存在である事を示す。

 

だが、もし彼女を水の無い(・・・・)空間へ引きずり込めれば…

もし彼女の不死性を根源から機能不全にすることが出来れば…

 

 

「おまえは後何回不死身でいられるかな?」

 

 

あるいはケートスを打倒することは可能かもしれないと、祖国はそう賭けたのだ。

 

そしてその賭けの答えはー

 

 

『…フッ、フハハハハハハ!!!良い、良いぞ人間!!!知略、策謀、そしてその胆力…、なるほど確かにそれらも”力”であろうな。………だが惜しい』

 

 

是也と応えるその口で、だがと告げるその理由。

 

 

『空間操作のギフトならば私も所有している。その気になれば水を得る事など何時でも可能だ。それにそもそもの所、私がこの空間内に留まる保障はなかろう。』

 

 

ケートスから告げられる最もな主張。

本来ならば論破されて、うなだれるべきであろう場面においても、しかし祖国の態度には些かの変化もない。

 

「ハッ、それこそ笑い種だぜ。おまえの回復には見た所かなりの量の水が必要だ。そんな大量の水の侵入、この俺が見逃すとでも?ギフトで空間操作するってんなら、こっちも同じように空間操作でそれを封殺してやるだけだ。」

 

出来るか出来ないかを論じるまでも無く、そうやってのけると断じた上で、彼はなおも巨龍に語る。

 

「それに後者はもっとあり得ない。」

 

『…というと?』

 

「そりゃ、そんなことしたらおまえは俺から逃げた(・・・)って事になるんだぜ?ギリシャ神話において海の怪物とされ、不死身と恐れられたあの巨龍ケートスが、たかが一人間(・・・)から逃げた。たとえそれが一時的なモノであろうとも、プライドの高いおまえらにとってみればこれ程屈辱的な事はない。そうだろ?」

 

ま、プライドないならご自由に、と若干の煽りを加えながら、祖国は静謐な瞳でケートスを見やる。

見極めるように、問いかけるように。

巨龍が己が予想した通りの矜持を持つならば、必ずやこの駆け引きに応じると信じて。

 

『…つくづく飽きさせぬ人間よ。』

 

そんな彼の態度に対し、溜息交じりにこぼした言葉と共にケートスは苦笑する。

 

ああ、なるほど。

これは逃げられぬ、と。

 

これだけあからさまに挑発されて、その意図さえ明言されてなお、逃げるなどという選択肢がこのケートスにあろうはずも無く。

 

ましてや挑む側の人間が逃げ(ソレ)を乗り越えてここに立っている以上、

 

ー…勝利したとて、なんと虚しい事か…。

 

そんな後味の悪い結末を彼女が認めるはずもない。

ならば必然、ケートスの成すべき事は一つのみ。

そうー

 

『よかろう、ならば貴様の思惑通り踊ってくれる!』

 

まんまと状況を一転され、だがそれすら関係ないとばかりに彼女は傲慢に吼えた。

 

瞬間、空気が圧迫された様に激しく振動する。

ビリビリと肌に伝わるその咆哮は、一吼えで屈強な勇者の心をへし折ってきた代物。

音自体が質量を持っているのかと錯覚する程の声が空間に響き、存在レベルでの彼我の力量差を明確にしていく。

 

 

『呑まれるなよ、人間!!!さぁ、今こそ最後の試練の時だ!!!』

 

 

その声に比例するかの如く、天より数多の烈風が下り堕ちる。

無作為に、無造作に、手当たり次第に触れた物を瓦解させていくその暴風は、干上がった海底さえもめくり上げ、そして粉砕していく。

ああ、まさに天災、破壊の化身。

 

 

巨龍ケートスの最後の試練がついに幕を開けた。

 

 

 

 

天から吹き降ろす暴風を前に、一瞬大宮祖国は思案する。

 

如何にしてあの理不尽な暴力の渦を突破するのか、と。

 

もちろん直撃は論外であるが、触れただけでも裂傷はかたいだろう。

何よりこの空間全体に展開された数がおかしい。

目に触れただけでも軽く二桁、最悪三桁あっても頷ける数量だ。

 

ならば当然ここは空間転移を、と言いたいところだが、数キロにも及ぶ透過空間を常時発動し続けている今の祖国にそんな演算をする余裕が残されているはずも無く。

結果的に彼に残された方法は反射神経に頼った気合い避けしかないのだから、笑えないにも程がある。

 

「ま、いいか。存分に死に合おうぜ。」

 

呟くように零したその言葉が空気に溶けるやいなや、彼は自身の足場を蹴放った。

 

瞬間、彼の身体が加速する。

十六夜にすら遅れをとらないその初速は空気抵抗を鼻で笑うようにさらに加速し、次々と吹き降ろす爆風を歯牙にもかけない様子でケートスへ接近する。

暴風よりも速く、音さえも彼方に置き去りにして。

そして、およそ一瞬と呼ぶにふさわしい速度で彼女の懐に潜り込んだ彼は、

 

「遠慮は無しだ!歯喰いしばれぇ!」

 

非利き腕とは思えない程に洗練された一撃を、彼女の胴体めがけて躊躇なく打ち放った。

 

ドオォォォォォンと鈍く、しかし決して軽くは無い音が空間に木霊する。

白撃の時の様な破裂音では無い。

身体の内部から響き渡るソレは、身体の内部破壊に重きを置いた一撃。

貫通に使用していた衝撃を内部で暴発させ、肉体を共振、破壊することに特化したその一撃の名はー

 

「ーーーーー赤撃!」

 

次の瞬間、ケートスの胴体が内部からーーーーーー爆ぜた。

爆散するように、四散するように。

体内でダイナマイトの爆発でも起こったのかと見紛う程に盛大に、ケートスの胴体が内部から吹き飛んだのだ。

 

胴体の一部を失ったケートスは、当然その身体を維持する事は出来ない。

爆発した部分を中心にその巨体は完全に真っ二つに分断されて崩れ落ちていく。

 

そんなグロテスクな惨状を生み出した本人は、だがまだ足りないとばかりに攻勢をかける。

飛び散った肉片を焼き尽くし、灰と化し、足で踏み砕き、そしてその足で干上がった海底を蹴って裂かれた本体へと駆ける。

こんなモノ、ケートスには蚊に刺されたのと大差ないのだと言わんばかりに。

 

そして彼の想定は往々にして正しかった。

 

ケートスの肉体は、爆ぜて、千切れて、裂かれたその胴体は、ものの数秒後には何もなかったかの様に元の通りになっていたのだから。

そこに傷跡などは無く、まるでその攻撃自体が無意味だと嘲笑うように、完全な体表が再生していた。

 

”ハッ、それくらい想定内だよ!”

 

そんな傍から見れば絶望的な状況にも関わらず、一撃、また一撃と、祖国は暴風の中を掻い潜りながらケートスに赤撃を放ち続ける。

そう、その程度は想定内なのだ。

あの圧倒的な再生能力を見た時から、そしてその再生能力が水に依存していると看破した時から、こうなる事は半ば必然であったといえるだろう。

つまりはー

 

”おまえが再生に必要な水を使いきるのが早いか、それともおまえが俺を仕留めるのが早いか…。根競べといこうじゃないか!”

 

殺しきるか、殺されるか。

至極単純にして明快なその答えが、同時に両者の共通認識であることなど疑いの余地もない。

 

現状、透過空間内部に海水はほぼ存在し無い。

先ほどの第四態光球の熱波と衝撃波で、大部分の海水は蒸発かあるいは結界外部へと押し出されてしまっているからだ。

ならば必然、ケートスが回復のために使用できる水分は空気中のモノという事になるだろう。

 

だがいかに展開された透過空間が広大であろうとも、空気中の水分など海と比べれば微々たるものだ。

もし再生に使用される水が欠損部分と体積比的に同値であると仮定するなら、大規模な肉体破壊はそう何度も耐えれるはずも無い。

よしんば同値より少ないにしても、再生回数に制限がある以上ケートスの不死性は有限となる。

そしてケートスが全ての水を使い切った時こそが、大宮祖国の勝利に他ならないのだ。

 

「さぁ、どんどんいくぜ!」

 

その言葉を体現する様に、祖国の攻撃はどんどんと苛烈さを増していく。

後の疲労など考えずに、ただひたすらに拳を振るうその姿は正しく一騎当千。

彼が与えた損傷具合を鑑みれば既にケートスが2、3度死していても何ら不思議はないと、そう思える程に彼の攻勢は激しく、そして破壊的であった。

 

 

 

だがそれ程の攻撃の嵐を受けてなお、ケートスに焦りの色は見えない。

当然だ。

彼女もただ無策に攻撃を受け続けていた訳では無いのだから。

 

 

 

いやむしろ本人である祖国を除けば、彼女程この空間の性質を理解し、順応し、ましてや逆手にとろうと考えた存在などいないだろう。

彼女はこの空間の性質を聞いた時、その欠点をいち早く理解したのだ。

 

生命線が絶たれるのは、何も自分だけでは無いのだと。

 

もし外部からの干渉が一切絶たれるのなら、彼はどうやって息をする(・・・・)のだろうと。

 

先も述べたが透過空間においては外部からの影響は完全にシャットアウトされる。

その対象は当然有害な物だけでなく、流れ込んでくる光や風といった無害な物、そして人間が生命活動上欠かせない空気(・・)までも含まれるのだ。

つまりこの空間内の空気が外へ流出し続ける以上、時間を追うごとに結界内は限りなく真空へと近づいていく事になる。

 

そう、人間にとって絶望的な状況へとこの空間は刻一刻と姿を変えているのだ。

 

呼吸など必要としないケートスでさえも真空など遠慮願いたいのに、人間がその中で生命維持を続けるなど不可能以外の何物でもないだろう。

だが、いやだからこそか、

 

ーこの期に及んで妥協など…無粋どころか軽蔑に値する蛮行だ。彼の人間もその様な勝ち方を望む男ではあるまいて。

 

一切の慈悲なく、彼女は試練を振りかざすのだ。

 

彼女がこの考察を行っている僅かな間にも、彼の人間は暴風をものともせず既に二回ほど致命的なダメージを与えている。

そのたびに身体は自動的に修復を始めるが、この空間ではそれがいつまで機能するかも分からない。

こちらがそれを理解してなお躊躇っていれば、瞬く間にこの戦いの決着がついてしまうだろう。

 

ならば彼女がする事はただ一つ。

 

『あまり図に乗るなよ、人間!!!』

 

徹頭徹尾、全身全霊で、完全無欠に、その人間の前に試練として立ちはだかる。

 

ただそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

ケートスの咆哮。

それを皮切りに戦いの様相は180度逆転した。

先ほど烈火の如き攻勢を見せていた祖国は一転、今度はケートスの猛攻に防戦を強いられていた。

 

”クソッ!やっぱなんか調子良過ぎると思ったぜ!”

 

彼女の余りの豹変ぶりと放たれる一撃の鋭さに、思わず祖国は悪態をつく。

 

だが彼の心境ももっともだろう。

なにせ彼女の変化に呼応するかのように、無造作に吹き降りていた暴風が一斉に祖国めがけて(・・・・・・)迫って来たのだ。

上下だけでは無い。

前後、左右、斜め、挟撃、時間差、不意打ち。

ありとあらゆる角度から死角を狙って吹き荒れる爆風には、流石の祖国をもってしても防御で手いっぱいであった。

 

しかし辛うじてでも防戦を保てているのは、やはり百戦錬磨の祖国だからこそだろう。

圧倒的な暴風を時には回避し、目視可能な場合は切り取り、回避不能と判断すればストックしていた暴風で相殺し、それでも避けれないならばリフレクターで軌道上から避ける。

一瞬の迷いも一分のミスも許されない状況においてなお、彼はその猛攻と不完全ながらに渡り合っているのだ。

 

「…しっかしこの暴風、一向に止む気配がねえな。」

 

おそらく回避数が二桁後半に届こうかというタイミングで、祖国は忌々し気に呟いた。

天地を踊る暴風には彼の言葉通り一向に衰えは見えない。

それどころか風圧、風速ともにますます上昇しているようにさえ思える。

 

そしてこの展開は祖国にとっては非常にマズい。

なにせこの結界内は時間制限付き、時間超過者にはもれなく死というペナルティー付きなのだ。

ならば祖国の作戦は必然的に制限時間内での決着、つまりは短期決戦という事になる。

 

しかし彼の現状、攻撃はおろかケートスの攻撃を回避するので精一杯。

彼女の攻勢以降まともに接近する事すら叶わない状況だ。

 

”このままだと…ジリ貧は確定的!”

 

後方から迫り来る暴風を相殺しながら、祖国は打開策を懸命に思案する。

 

”遠距離は…ダメだ。今の手持ちじゃ決定打に欠ける。せめて白夜叉の第四態光球くらいじゃないとケートスに水を使わせる事は出来ない!なら武器庫(元の世界の兵器)は?却下だ、どれもこれも今までの戦いで消費しすぎてまともなのが残ってねえし、そもそもこんな状況で呑気に数百発単位のストックを貼り付けてる余裕もない!”

 

たどり着く解答はしかし悉く却下されていく。

悪化する状況への焦りからか、はたまたすぐ眼前を切り裂いていった暴風への動揺からか、彼の思考も次第に冷静さを欠いていく。

 

 

 

”どうする、どうする、どうすれはいい!!!完全に詰みなら、最悪この結界を解除してでも…!?”

 

 

 

瞬間、祖国は漫然と思考に浸っていた自身の愚かさに激しく後悔する事となった。

 

 

 

そう、彼が真に警戒すべきは荒れ狂う暴風でも、ましてや数十分後に訪れる死でも無かった。

今そこにある敵。

この事態の元凶であり、最悪にして最凶の存在がすぐそこに居る事を、彼は一瞬でも意識の内から外すべきでは無かったのだ。

 

 

だが、もう遅い。

 

 

彼の瞳に映ったソレは。

途切れた暴風の間から垣間見えた光景は。

 

 

 

祖国へ向かって既にブレスを打ち放った(・・・・・)ケートスであったのだから。

 

 

 

 

「あーあ、やっちまった。」

 

 

 

彼がリフレクターを展開するよりも早く。

ギフトを発動する暇すら与えずに。

辛うじて捻り出したその言葉がこぼれるその頃には既に、彼の左腹部には見るも無惨な程の大穴が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

さて今話は意外にも難産でございました。
というのも今回重要な作戦の一部を占める技、透過空間にて重大な欠点といいますか設定不足が発見されまして、それをどうカバーするのか苦心していたためです(泣)
しかも作品の都合上、一部理論上おかしいが表現がそのまま残っております。

なので頭のキレる読者様には、ここの表現はおかしいやろ!と思う方がいらっしゃると思いますので、そこは流石駄作と生暖かい目で見て頂ければと存じます。

あとようやく一巻完結が見えましたね(笑)
予定(※当然筆者主観)通り、おそらく40話で切りがつくと思います。

それでは今回はこれにて。
感想、批判、意見、疑問等はコメント欄までお願いします。
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