問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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またまたお久しぶり、しましまテキストです。

詰め込みに詰め込んだ今話。
もはやどこへいくのか筆者自身も分からない迷作と化す。
どうしてこうなった。

それでもよければ、お付き合い下さい。


彼女にとっての望みとは

その光景にケートスは驚愕していた。

 

見つめる先に佇むのは腹部を大きく欠損してなお不敵に笑う人間。

およそ一般的な人間ならば激痛のあまり苦悶し泣きわめくであろうその状態で、しかし未だに余裕ぶった仕草を見せるその姿はなるほど確かに驚愕に値する。

 

だが彼女が真に驚いたのはそこではない。

先ほどの一撃を受けて、たかだか腹部欠損程度(・・・・・・)で済んでいる事実。

彼が未だ五体満足で存命している事自体が、彼女にしてみれは到底信じられない事であったのだ。

 

ーまさか…外したのか?この私が?

 

真っ先に思い浮かぶ原因にケートスの表情には難色が浮かぶ。

あり得ないと、本来ならば一笑に付すところだ。

しかし地面に大穴を穿っている先の攻撃の爪跡が、彼女の予想していた着弾地点から少しばかりずれているその光景が、彼女の仮説の有力さを雄弁に語っていた。

 

ー直撃ならば跡形も無く消え去っていた一撃だ。奴の負傷の程度を見るに飛来した飛沫にでも当たったか…。

 

状況整理の傍らで、彼女は思考を巡らしていく。

そもそもこの出来事が偶然で起こり得る状況なのか?

あれだけお膳立てされた状況で、このケートスがたった一撃を外す可能性。

そんなもの広大な海原から一粒の砂を見つけるにも等しい、いやそれ以下の確率だ。

 

ーならば…やはり奴が何かしたと考えるのが妥当か…。

 

そんな虚数の彼方にしかない可能性に賭けるくらいならば、彼の人間が何かしたと考えた方がよほど合理的というもの。

いくらあの状況で彼女がギフトを3つ併用していたと言っても、その程度でブレスを外すほど彼女の狙いは甘くない。

 

そんな思考の傍らで、フッと彼女の表情に喜色が浮かんだ。

 

ーああ、実にしつこい人間よ。いかなる方法をとったか知らぬが悉くこちらの手を掻い潜って来る。

 

例えるならそう、チェスでチェックを何度も外されるような、そんな感覚。

あと一歩の所まで追い詰めながらも、だが結局取り逃がしてしまうようなもどかしい気持ちに似ている。

本来ならばイラつきや焦燥に変わるはずのその感覚も、悠久の時を無為に生きる彼女にしてみれば単に物珍しい事だったのだろう。

久しく出会えなかった感覚に思わず頬が緩むのも無理はない。

 

だが彼女の気が緩みかけたのもほんの一瞬。

まばたきをした次の瞬間には彼女の表情はいつもの泰然とした面持ちに戻り、思考も眼前の敵の対処へと全て注がれる。

 

ーだが小手先の技術が何度も通じると思われるのは癪にさわるな。

 

そして彼女の意志に反応するように、再び空間は暴風で満たされる。

バミューダ・トライアングル第二の試練にしてダウンバーストを司る恩恵、堕天の御風(フォールン)

天から吹き降ろすという事象を堕天になぞらえる事で、接触した相手の霊格を一時的に封印する性質をもった神霊殺しの突風だ。

今回に限ってはただの強烈なダウンバーストに過ぎないが、それでも直撃すれば人間である祖国では致命傷は避けられないだろう。

 

何より脅威なのは、本来「ダウンバーストを発生させる恩恵」にすぎないそれに指向性を与えている第一の恩恵ワープド・トライアングルとのシナジーだ。

吹き降ろす地点を正確には指定できないはずの恩恵を、二つの恩恵を併用する事で疑似的に「ダウンバーストを操る恩恵」として成立させている現状、この空間内はほぼケートスが掌握しているといっても過言ではない。

さらには祖国の関与し得ないところで今もなお第三の恩恵が着々と空間を侵食しつつある。

 

ー急げよ人間。貴様が思っている程、この空間の余命は長くはないぞ。

 

ケートスを彼と同じ次元まで引き落とすために作り上げらた空間が、同時に彼自身の首をしめるという皮肉。

それだけならいざ知らず、まさかそれをケートスに逆手にとられているなどとは彼の人間も夢にも思わないだろう。

どこまでも不遜な態度を貫く彼の表情を今度こそ苦悶へと変えるべく、彼女は再び動き出した。

 

 

 

 

一方表情にこそ出してはいないが、祖国もケートスの一連の攻撃に動揺を禁じ得ないでいた。

 

”おいおい、この状況でブレスとか…正気か?”

 

それも自らの状況を顧みるよりも先にそんな感想が浮かんでくる程には、彼も混乱状態にあると言えた。

 

だが実際、彼の感想も筋は通っている。

この空間における戦いはケートス視点から見ればいかに水を切らさないかという点に帰着する。

ゆえにこの状況で水を大量に消費するブレスは最も警戒に値しない、言ってしまえば使用されるはずが無い(・・・・・)攻撃だと、祖国はそう予想を立てていた。

そしてその予想を裏付けるように、先程の一撃まではケートスも一切ブレスの兆候を見せないでいたはず。

そのはずだったのだ。

 

”読み違えたか…。いや、何が奴をそこまでして駆り立てるのか…読みきれ無かったのか…。”

 

いずれにしても、とそこまで考えてようやく彼は負傷した左腹部へと意識を移した。

見るも無残に削り取られた傷跡は、一目見ただけで致命傷と分かる程に痛ましいありさまだ。

あばら骨も何本か消し飛んでおり、十二分な手当てが出来ない以上タイムリミットがそう残されていない事は誰の目から見ても明白だった。

 

”とりあえず傷口は焼いたから失血は…なんとかなるか。痛覚もギフトで遮断済みだし、痛みは問題ないが…”

 

考えうる限りの手当ては尽くした。

だが腹部の損傷をカバーしながら戦うとなると今まで通りの戦闘が出来るはずも無い。

ただでさえ後手に回っていた攻防が防戦一方へとなってしまえば、祖国の勝ちの目は完全に潰える事になる。

空間的タイムリミットもある現状、祖国としてもこれ以上数少ない攻撃の機会を減らす訳にはどうしてもいかなかった。

 

「…きっついな。」

 

珍しく彼の口から弱音がついて出る。

確かに戦況としては、ケートスの猛攻を掻い潜りながら同時に少ないチャンス時には即死級の攻撃が必須という状態だ。

祖国でなくとも客観的にみればほぼ詰みに近いと誰もが判断するだろう。

 

”奴が空間操作系のギフトで暴風を誘導している以上こっちの手番は限りなく少ない。まぁそのおかげでさっきは助かったんだから俺の悪運も尽きてはいないようだが…。”

 

これを何かしら利用できないかと再び策を練り始める祖国。

こんな状態の中でも、しかし決して諦めず勝機を見出そうと思案する彼の精神力には目を見張るものがあるだろう。

さしあたっては祖国が先の一撃による即死を免れた要因、ケートスが空間操作を行うたびに感じていた”空間的な違和感”に思考を割いた。

 

彼が感じていた違和感、それは彼が彼女と同様に空間操作系のギフトを所有していた事に起因する。

そもそも空間操作とは読んで字の如く空間を自由自在に操る事。

自然にそこに存在している空間を、人為的な力によって捻じ曲げ、そして改変する能力の事だ。

ならば改変した空間は当然”不自然”な歪みとして、常時それを意識している空間認識能力の高い人物ーつまり同系統のギフトを持つ祖国の事なのだがーにとってみれば何かしらの兆候、つまり違和感として感覚的に認識出来ても何らおかしくは無い。

 

そして彼が最後の一撃を逃れる事が出来たのは、意識的にしろ無意識にしろ、その違和感を発する座標にギフトで干渉していたからに他ならなかった。

単なる悪運か、それとも戦闘経験による直感か、彼はケートスの挙動を見た瞬間ブレスを転移させた空間にギフトで座標への干渉を行い、そして最悪の結末の一歩手前で踏みとどまったのだ。

 

”…今もそこかしこに感じる違和感。それを一つでも捻じ曲げる事が出来れば!”

 

先ほど体感した祖国だからこそ言える事だが、ケートスの一連の攻撃は非常に計算されたモノであった。

避ける方向を誘導し先回りして暴風をぶつける事で、彼女の望んだ場所へ祖国を誘導し、そしてフィニッシュとしてブレスで止めをさすつもりだったのだろう。

だがそれは裏を返せば彼女の攻撃の誘導しない方向へ回避出来れば、そのあとの事前に予定された攻撃は全て無駄、つまり想定外の事態にはめっぽう弱い事を意味している。

 

ならば一手、たった一手でいい。

その一手の座標干渉にさえ成功すれば、それ以降はなし崩し的にケートスの攻撃を逃れることが出来るはず。

よしんばケートスが空間操作を再度使用しても、後手に回っている以上主導権はこちらにある。

 

”問題があるとすれば…。”

 

そこまで考え至ると、忌々し気な表情で彼はふたたび傷口を睨み付けた。

 

”消し飛んだ箇所が箇所だ…、まともな挙動が出来るかどうか…。”

 

そう、いかんせん損傷個所が致命的であった。

彼が吹き飛ばされたのは外腹斜筋という上半身の体幹を司る筋肉。

いくら止血と痛覚遮断で応急処置をしたとしても欠損した筋肉を無視して今まで通りの動きが出来るはずも無い。

仮にケートスの攻撃を躱すことが出来たとしても、その後彼女に致命傷を与える事が可能かどうかもまた別問題だ。

 

”かといってそれ以外の方法…今の俺には思いつかねえし、結局やるっきゃない訳か。”

 

だがどうあがいてもこの方法が今とれる選択肢でベストチョイスである事は確実。

となればどこまでも合理的な彼がとる選択も当然の帰着。

 

そして祖国は一つ、ハァと心身ともに大きくため息をついた。

内心からこぼれた愚痴を器用に使い分けて。

 

まぁ、とりあえずはさしあたって…

 

「甘いものが欲しいな。」

 

そんな至極場違いな発言を残すと、ゆらりと幽鬼のような挙動でもって彼も再び動き出した。

 

 

 

 

両者に流れたわずかな沈黙とその間に成された一連の思考。

それは客観的な目で見れば実に数秒の出来事。

だが彼等が一瞬の内に決めた凡その指向は、恐ろしい事におよそ最善に近い解答を叩き出していた。

 

そして空間が再び爆音に包まれる。

先手はまたもやケートス。

暴れ狂う風の刃が再び統率された動きで祖国の命を刈り取らんと肉薄する。

 

だが彼の意識は既に迫りくる暴風などには向いてすらいなかった。

その程度は避けて当然、否最早視認するまでもない。

祖国の瞳が見据えていたもの、それはケートスが次に予定しているであろうその座標。

一連の攻撃に隙を生むであろう座標への空間干渉なのだから。

 

”干渉!!”

 

さらに威力を増したダウンバーストを右足を軸に身体ごと半身ずらすという最小限の動きで躱しながら、彼はギフトで空間干渉を仕掛ける。

だが…

 

「…くそっ!」

 

暴風の渦はそんな事などまるで無かったかのように祖国の元へと降り注いだ。

いや実際に干渉できなかったのだろう。

一ミリたりとも狙いを外さずに迫る暴風が、祖国の背後から大地をめくりながら肉薄する。

 

”失敗か!”

 

迫る暴風を視認すらせずに、祖国は残り少ない暴風のストックでそれを相殺する。

やはりぶっつけ本番は無茶があると思いながらも、だがそれ以外の選択肢すら残されていない事に歯噛みする祖国。

無意識に出来たなら次は意識的に出来るはずだと、そうなんの根拠もなく自らを鼓舞しそして狂信して、彼は試行を繰り返した。

 

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

   ・

   ・

   ・

   ・ 

   ・  

   ・

   ・ 

   ・ 

   ・ 

   ・ 

   ・

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

”干渉”ーーー失敗

 

 

 

極限状態で行う命がけのトライ&エラー。

それは気が狂いそうな程の悠久にさえ感じられる試行だった。

終いには永遠に成功など来ないのではないかと、そう祖国自身が認めてしまいそうな程に。

何度も何度も何度も何度も何度も、もはや祖国さえ成功を信じきれ無くなりかけていたその時ー

 

 

 

”干渉”----------成功

 

 

 

気まぐれな神がその顔を見せた。

 

突如として一陣の突風が乱れる。

全くもって見当違いな方向へと暴れ出したその風は他の暴風へとぶつかり干渉し、そして統率された突風の空間に混沌をもたらした。

干渉された暴風がさらに他の暴風へと干渉し統率を乱し、まるでドミノ倒しのように全ての風が混然一体となっていく。

 

”ここだ!!!”

 

そして唐突に訪れたその時を、大宮祖国は見逃さなかった。

これが正真正銘最後のチャンス。

ケートスが慢心し、そして驚愕しているであろうこのタイミングを逃せば、二度とこんな決定的な機会は回っては来ないだろう。

そう判断した彼の行動は早かった。

 

尋常外の速度で大地を跳躍する祖国。

足場は反動のみで崩れ去り、吹き荒れる風すら瞬時に置き去りにしてケートスへと肉薄する。

およそ今回の戦いでも最速に近いそのスピードは、唯我独尊を地で行く十六夜はおろか星霊アルゴールですら驚嘆に値する代物だろう。

だがケートスの行動も早かった。

祖国の策を見越してか、あるいは彼ならば暴風程度越えてくるはずとの信頼からか、既に彼女はブレスでの迎撃態勢に入っていたのだ。

 

閃光ー

 

そして打ち出された極大のブレス。

自らの不死性を引き換えにして放たれた諸刃の剣は、一分のブレも無く祖国を撃ち落しに迫る。

 

互いに迫る祖国とブレス。

凡人ならば反応どころか認識すら出来ないであろうその体感速度。

そんな常識など既に鼻で笑う速度で迫りくるブレスをー

 

「うおおおぉぉぉおおおおリフレクタァァァアアアアアア!!!」

 

ー大宮祖国は強引に捻じ曲げた(・・・・・)

 

瞬間的に直進していたブレスが折れ曲がる。

跳ね返すのでは無く折り曲げる。

必要以上に既存のベクトルと対立しない様に横方向へと設定されたそれは、ほんの一瞬ではあるが射線を祖国から外す事に成功する。

 

そしてその一瞬さえあれば、彼がケートスの元へとたどり着くには十分すぎる時間だった。

 

瞬きよりも速く数十メートルの距離を詰めた祖国は、滑るように体を動かしてケートスの懐へと入り込む。

振り上げる左腕。

溢れ出す極光。

もはや彼自身も何を貼り付けたのか理解するよりも速く、巨大なエネルギーの塊と化した左拳がケートスの巨体へと叩きこまれた。

 

ズドォォォオオオオオオオオン

 

腹の底に染み渡る重低音が空間中に響き渡る。

伝播し・拡散した衝撃だけで大地に十数メートル級のクレーターを作り出した一撃は、ケートスの巨体の一部をごっそりと削ぎ落としていた。

 

ーGYAaaaaaaaaaAAAAAAAAaaaaA!!!

 

次いで絶叫。

此度の戦いで初めてケートスが明確な意志を持って苦悶の叫び声をあげたのだ。

その兆候から不死性の限界が近いと感じ取った祖国は、よろめきかける身体に鞭を打って追い打ちをかける。

 

「まずは一回!!!」

 

最後の攻勢に持てる全てを注ぎ込むように、祖国が怒号にも近い声で吼える。

だがその言葉がケートスに届くよりも速く祖国は次の行動へと移っていた。

爆散する大地だけを残し、再度ケートスの巨体へと潜り込む。

 

西洋竜よりも東洋竜に近い姿形をしているケートスは、当然その全長もバカにならない。

一目見ただけでも軽く数百メートルはありそうな巨体が彼女の強大さの証と言うのならば、なるほど納得という他無いだろう。

しかし当然巨体にもデメリットはある。

例えば今回の様に…

 

「懐がお留守だぜ、ケートス!!!」

 

堅牢な防御を掻い潜って、かなり内部まで侵入を許してしまった場合などだ。

複雑にとぐろを巻いた内部では、小さな人間一人など見つけ出すのは至難の業。

ましてや身体を貫かれる痛みに悶えている内など、そんな事に気を回す余裕もないだろう。

 

そして振るわれる第二の拳撃。

ケートスの巨体の丁度中央部を打ち抜いた一撃は、先程と同じくいやそれ以上の爆音を響かせながら、彼女の巨体を真っ二つに引き裂いた。

もはや激痛のあまり声も出ないのかケートスは巨体を大きくくねらせると、無造作に暴れまわりながら大地を蹂躙していく。

巻き込まれればひとたまりも無いその暴力の渦中からギリギリのタイミングで抜け出た祖国は、暴れ狂う巨龍に相対し不遜に叫ぶ。

 

「次いで二回!!!」

 

だがまだ彼女の不死性は機能中だ。

一度目のダメージは当然ながら、二度目に吹き飛ばされた箇所も既に何事も無かったかの様に回復し、完全に再生している。

祖国の破壊規模が小さいのか、それとも回復のコスパが良いのか。

ずいぶんとまだ水分が残っていた物だと苦笑しながら、巨体付近から抜け出た祖国はそのまま空中に足場を貼り付けると、それを反動だけで粉々に破壊し再々度ケートスへと接近する。

 

しかし百戦錬磨のケートスがそう何度も易々と接近を許すはずも無い。

敵を見失ったのなら手当たり次第に壊せば良いだけ。

攻め入られるのなら360度全方位を守護すればよいだけだ。

 

そしてその言葉を体現するが如くケートスの周囲一帯に再び暴風が舞い降りた。

その数たるや数十を優に超え、軽く三桁にさえ達する暴風の壁は正しく鉄壁。

おそらくこの壁を貫通するにはケートスのブレス級の破壊力が必要だろう。

 

もちろん、正面突破ならばの話だが。

 

「あんま安く見られちゃ困るぜ!!!」

 

ケートスに接近していた祖国が暴風間近でその方向を急変更する。

目指すは上空、暴風が吹き降ろす基点よりもさらに上。

筒状に展開された暴風壁では絶対にカバーできないケートスの真上(・・)であった。

 

数百メートルはあるであろう暴風の渦を一瞬で登り詰めた祖国は一転、上空からケートスを見やる。

流石に痛みへの耐性はある程度あったのだろう。

数秒前まで悶えていた姿は既にそこには無く、態度そのものは落ち着きを取り戻してはいる。

が…

 

「俺はここだぞ、ケートス!!!」

 

未だ祖国の姿だけはとらえ切れてはなかった。

 

足場を蹴って一気に加速する祖国。

初速の運動エネルギーは言わずもがな、重力加速度さえ味方につけ、ありとあらゆる運動ベクトルを下方向へと従えた彼の速度はもはや音速すら生ぬるい。

あえて言葉で例えるならそう、それは烈火の如き流星の一撃であった。

 

そして彼の怒号がケートスに届くよりも速く、祖国の一撃がケートス胴体へと直撃する。

武錬などとは程遠い、ただただ莫大なエネルギーに任せた一撃は、ケートスの耐久性さえ紙同然という常識外の威力となって彼女の身体を吹き飛ばした。

 

耳をつんざく爆音と次いで巻き起こる衝撃の余波。

ケートスの周囲を覆っていた暴風の壁はその余波のみで完全に吹き飛ばされ、ケートスの巨体があったであろう(・・・・・・・)箇所は超巨大なクレーターとなり果てている。

肝心かなめのケートス本体も直撃した一撃の威力が凄まじかったせいだろう。

その巨体の実に数割も吹き飛ばされた状態では、さしもの彼女といえど満身創痍を隠せないでいた。

 

「これでっ!…三回…!」

 

疲労困憊なのは祖国も同様ではあったが、可能な限り強がった態度で祖国が高らかに宣言する。

何より今この状況において、ケートスを一時的にではあるが圧倒しているという事実こそが、彼の身体を未だ奮い立たせている最大の要因であった。

 

”押してる!”

 

握る拳に力が入る。

無茶な挙動の連続で欠損した部位を中心に身体がいう事をきかなくなってきているが、今の彼にはそれですらどうでもいい。

 

”この勢いなら…勝てる!!”

 

勝つこと。

今の彼にとって至上にして絶対の命題。

その到達点に、目指すべき解に、今彼は最も近いところにいるのだ。

 

”絶対に…勝つ!!!”

 

この勢いを逃せば、恐らく勝機は二度とめぐって来ないだろう。

だからこそ容赦なく、一切の慈悲なく、ケートスが疲労しきっているこのタイミングで討つ。

 

「そんでこれで四回目だぁぁあああ!!!」

 

そして彼は大地を蹴った。

いつも通り足裏にエネルギーを貼り付けて、いつも通り大地を爆散させ、いつも通り空気抵抗というベクトルすら加速方向へと貼り変えて、そしていつも通りケートスの懐へと接近する。

 

 

 

 

 

 

 

そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

ードシャリ

 

 

変わりに彼が感じたのは酷く鈍い痛み。

激痛なんて大層なものでは無い、頭をどこかにぶつけてしまった様な、そんな軽い痛みだ。

 

いや、”様な”では無い。

なぜならば彼は実際にこうして地面に倒れ伏しているのだから。

だからこの痛みは、こけて地面に頭を打った痛みで相違ない。

 

「……………は?」

 

だがそんな至極単純な状況を、大宮祖国は呑み込めずにいた。

 

”…っ、おいおい勘弁しろよ。いくら満身創痍だからって、こんな絶好の機会逃すわけにゃいかねえんだ!さっさと動けよ、このポンコツが!”

己の身体を叱咤するが、身体の方は一向に思い通りに動こうとしない。

全身の力を腕に込め、這いずるように立ち上がるも、足に力が入らずに再度転倒してしまう始末だ。

這いつくばる様に倒れ伏した状態で、なおも彼が起き上がろうと再び身体に力を込めた、ちょうどその時だ。

 

『限界の様だな。人間よ。』

 

頭上から重厚な声が響いた。

 

わざわざ顔をあげて確認するまでもない。

そう思いながらも視線を移したその先には彼が予想したのと全く同じ、無傷(・・)で見下ろす巨龍の姿があった。

いい加減心が折れそうになるその不死性に、若干八つ当たり気味な口調で応じる祖国。

 

「ああ?まだまだ余裕だっつーの。なんなら二次会どころか朝まで付き合ってやろうか?」

 

『この状況でその不遜さ、感服すら覚えそうだ。…だがな人間よ、刻限だ。この空間はもはや貴様が生きていける状態では無い。』

 

「ざっけんな。この規模ならまだ十数分は理論的には行動可能なはずだ。今動けないのは、単に俺の身体がなまけてるだけなんだよ!」

 

『いや、貴様の身体はよくやっている。それだけの重症でこの私を三度も殺したのだ。その身体的負担、推して知るべきであろう。』

 

「っ、勝手に他人の限界決めてんじゃ『通常の状態ならば、まだ希望もあっただろう。』

 

差し挟まれたケートスの言葉から、一瞬で彼女が何か仕掛けていた事を察した祖国。

ケートスの傲慢な物言いに対する怒りもどこへやら。

突きつけれた突然の事実に彼の目が驚愕で見開かれる。

 

が、今の状態の彼がその正体を看破する事はなかった。

空間内の酸素がそろそろ尽きて来たのか、先程から集中力が乱れていまいち思考が纏まらない。

こうして会話をしている最中でさえも軽くめまいを感じる程だ。

 

「…いったい何をしやがった?」

 

『貴様の言葉を借りるなら”少しは自分で考えろ”と言いたい所だが…、その状態では無理も無いか。…よい、私をここまで追い詰めた褒美だ。少し語ってやろう。』

 

どこか遠くを見つめていた双眸が、満身創痍の祖国を射抜く。

この構図こそが当然の在り様とでも言うように、王者然とした態度でケートスは口を開いた。

 

『貴様が展開したこの空間は確かに私の不死性を封じる手立ての一つとしては有効だ。不死殺しさえ持たぬ身でよくここまで対等に渡り合えたと褒めてやっても良い。』

 

これまでの戦いから祖国の実力に一定の評価を示すケートス。

だが、と続ける。

 

『だがこの空間は、同時に貴様にも多大な制約を課した。その最たるものが人間の生命維持に欠かせぬ空気、その中でも重要な酸素だ。貴様の空間は最終的には真空へと行き着く事になるが、その前に重度の酸欠で大抵の生物は絶命する事になる。』

 

ケートスの読みに誤りは無い。

伊達に年をくっていないという事か、その洞察力も元神霊の名に恥じない鋭さだ。

 

『そして貴様にとって最も不運だった事。それは私が揮発性の物質を生成する恩恵を有していた事だ。確か貴様たち人間は…メタンハイドレートと呼んでいたか。』

 

バミューダ・トライアングルにまつわる第三の仮説にして、メタンハイドレート及びメタンガスを生成する恩恵「燃える氷(アンチ・フリーズ)」。

本来は対神群規模で猛威を誇り、特に炎神を含む神群の場合、可燃性という性質から大規模なフレンドリーファイアを誘発する効果を持つ恩恵である。

さらに「氷が燃える」という概念を昇華する事で、パッシブスキル的に展開した海域内部を不凍状態へと変化させる副次的恩恵も持っているこのギフト。

透明、無臭、そしていつの間にか仕掛けられている時限式の爆弾としては非常に厄介な部類に入るだろう。

 

そしてケートスの言葉を聞いた祖国は、全てを悟ったように口を開いた。

 

「…ああ、なるほど。つまりお前の本命は酸欠(こっち)だった訳だ。突風だのブレスだのは全て囮。派手な攻撃で俺の目をそらすことで空気中のメタンガスの増加を悟らせず、さらに暴風自体も空間から酸素を押し出す役割をしていたと。…たしかに俺を酸欠に追い込むならこの上なく合理的なやり口だ。」

 

『然り。そしてそのためには貴様が常に何かしらの行動をしている必要があった。戦闘以外に気を回されては勘づかれる恐れがあったからな。』

 

「…ハッ、そうかよ。」

 

そう毒づく彼の表情には、負け惜しみにも近い乾いた笑みが浮かんでいた。

 

まあ彼の気持ちも分からなくはないは無いだろう。

智をもって武を制する事を心情とする彼が、こともあろうに策謀で敵に後れをとったのだ。

これが笑わずにいられようか、と。

 

”力で負けて、智でも負けて。あーあ、ほんとに格好悪りぃな…。”

 

全てが全て彼女の手のひらの上。

彼がどのような行動をとろうと、彼女にしてみれはそれは想定の範囲内。

さしずめ釈〇に玩具にされるどこぞの猿の様な道化っぷりに、自身のバカさ加減が嫌になる。

 

「…ここまで全てお前の計画通りって訳か。」

 

『然り。敵が智をもって戦いを成す者ならば、その土俵で打ち負かしてこその勝利であろう。』

 

「…カッケェな、お前。」

 

ぐうの音も出ないとは正にこの事だろう。

悔し紛れで捻り出した言葉に帰ってきた返答は、一筋の矢となって彼の胸を貫いた。

 

憧憬

 

彼が抱いたその感情は、この言葉こそが相応しいだろう。

ただ純然に、自惚れも卑下もなく語るその態度に、歳外もなく憧れを抱いた。

どうあがいても、どれだけ手を伸ばしても届き得ないその存在に、だがそれでもと必死に追いすがった。

 

そしてだからこそだろう。

 

彼は生まれて始めて、こんなにも、それこそ己の全てをなげうってでも…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー勝ちたいと、そう思えたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「…ああ…けどやっぱ…まだ負けを認める訳にはいかねえわ。」

 

ポツリと漏れたその声音を聞いた瞬間、ケートスの脳裏に今まで何度も目にしたはずの、その不遜な表情が浮かびあがった。

倒れ伏してその表情を読み取る事が出来ないにも関わらず、彼女の直感はそれが既成事実だとでも言わんばかりに警告を鳴らす。

 

そして彼の表情には確かに、ケートスの予想に違わない薄ら笑みが浮かんでいた。

強がるように、だがどこか今までの不敵な態度では無く。

心の底から湧き上がる衝動、愉悦、そしてそれに身を任せた者の面持ちがそこにはあった。

 

ーもしここまでが(・・・・・)全て計算通りと言うのなら――――――――――――――――この先はまだ白紙なんだろう?

 

顔をあげキッと睨み返した祖国の双眸。

その双眸が言外に告げる威圧感に、そしてそこに込められた意志に、ケートスの身体が緊張する。

 

これ以上満身創痍の身体で何が出来るのか、と。

 

常識的に考えれば彼の言動は戯言に等しい。

かたや瀕死の大けがを負い、今なお地に伏せた状態で吼える人間。

かたや追い込まれてはいるが状態としてはほぼ無傷で敵を見据える巨龍。

どちらが優位に立っているかなど改めて語るまでもないレベルだ。

 

それでも、とケートスの本能は語りかける。

この人間の進化は彼女の目から見ても異常な所がある。

そしてこの人間の真価を見まがう程、ケートスの目は節穴では無い。

 

ならばそう、彼の言動は妄想や虚言などではないと、そう彼女が思い至ったのと、彼が最後の言葉を紡いだのはほぼ同時であった。

 

「…泥仕合だろうが何だろうが…最後に生き残った方が、勝ちだ!」

 

その言葉がこぼれた瞬間。

ケートスが何事か行動を起こす暇さえ与えることなく―――――――空間内部を爆炎が包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

空間が軋む。

透過という性質上本来軋みなど発生するはずが無い結界内部で、それでもと空間は悲鳴をあげる。

それ程までに彼が引き起こした爆撃は鮮烈極まる一撃だった。

 

だが実のところ、彼が貼り付けた事象そのものにそれ程の威力は無い。

せいぜいが粉塵爆発レベルであり、決してそれ単体ではケートスの耐久力を上回ることなど出来ない程度の破壊力であった。

 

ではどうやって彼はこの惨状を引き起こしたのか?

その解答は至極単純、ケートスの生み出したメタンガスにある。

言わずもがなであるがメタンガスは可燃性の気体であり、そして空間内部には祖国が酸欠になる程にガスが充満している。

そんな中で火種、もとい爆発という事象を貼り付ければどうなるか。

 

その答えがこの惨状である。

 

水素ほど爆破規模は大きくないものの、それでもメタンガスの誘爆性能は非常に高い。

加えて彼が意図していた事ではないが、空間内部がもっとも爆発に適したガス濃度になっていたのも大きな要因であった。

日頃の行いのおかげか、はたまた単なる悪運か。

彼の引き起こした爆発は様々な要因が重なり合い、結果として白夜叉の第四態光球に勝るとも劣らない程の圧倒的な熱量となって空間全土を蹂躙したのであった。

 

 

 

 

そして数秒後

 

 

 

 

嵐が止み静寂が訪れる。

干上がった海底は熱波のあまり溶岩と化し、僅かながらに残っていた水も酸素も全て塵芥の如く消え去った。

外部からの干渉を受け付けない性質上冷ますモノが存在しない、つまり依然として灼熱のままの空間内部は、さながら煉獄の如き様相を呈している。

 

そして、そんなとても生命が生きていける状態では無い空間に一つ、鈍く蠢く影があった。

全身に痛々しい傷を負いながら、だがそんな事すら眼中に無い様子で、その影の主は地に倒れ伏したソレに問いかけた。

 

『…最後の最後に自爆とは…。存外以上に興ざめな結末であったな、人間。』

 

応答は無い。

いや、恐らく彼女自身もそれを期待などしていなかったのだろう。

フンとその人間を一瞥した彼女の瞳には、失望にも諦観にも似た眼差が浮かんでいるだけだ。

 

ーああ、まったく…ほとほと下らぬ結末だ。

 

どこで間違えたのだろうかと、らしくも無い悔恨が胸を締め付ける。

当然だ。

こんなつまらない結末を、彼女は望んだわけではなかったのだから。

叶う事ならばそう、彼女はきっと――――――――――。

 

『…ああ、そうとも。私は劇的(・・)を望んでいたのだ。』

 

幾星霜もの年月不敗を貫いた彼女が、最後の最後に求めたモノは。

勝利に意味を無くし、戦いに情熱を見いだせなくなった彼女が、その先にたどり着いた答えは。

 

劇的な幕切れで彼女を打倒しうる、そんなおとぎ話のような英雄だった。

 

そしてだからこそ彼女は大宮祖国に期待した。

数百年ぶりの英傑に、不死殺しさえ持たぬ身でなおも彼女に挑む矮小な存在に。

持てる限りの智と武を勇をもって、彼女を打倒する”劇的”となる事を、知らず知らず彼の人間に求めたのだ。

 

『…だがそれも過ぎた願いだったようだ。』

 

途端、紡がれた言葉に呼応するように空間がそのものが揺らめき始める。

次第にそれは莫大な力の渦となって空間全体と共鳴し、共振し、すべてを呑み込むエネルギーの奔流となって逆巻いていく。

およそ此度の戦いで最大のエネルギー量を誇る何かが、終焉を告げるため静かに胎動し始めたのだ。

 

しかしそんな凶悪な何かを生み出した本人は、ひたすらに寂寞とした瞳でただ一人の人間を見つめていた。

 

ー…なんとまあ、無様な事だ。私自ら手をかける必要も無いほどの重傷ではないか。これでは数刻も持つまいよ。

 

己をここまで追い詰めた人間を、八つ当たりにも似た気持ちで酷評するケートス。

だが彼女の動機はどうであれその判断に誤りはない。

 

無論ケートス自身もかなりの深手を負っているのだが、それを差し置いても祖国の傷は無残なものであった。

ブレスで吹き飛ばされた腹部はもちろんの事、先の爆発で避けきれ無かったのか身体のいたるところに火傷の跡が見受けられる。

彼女が手を下すまでも無いのだ。

このまま放置しておけば、それだけでこの人間の命はこと切れる。

たったそれだけの、小さな命だ。

 

それでもなお彼女自身が止めをさそうと思えたのは

わざわざ終の試練さえ持ち出してまで彼を屠ろうとしたのはー

 

『…決別の時だ。』

 

彼女なりのけじめだったのだろう。

 

己が希求した未来を、己自身の手で打ち砕く。

常人ならば心が折れそうになる所行も、幾度も繰り返せば無味乾燥な作業へと成り下がる。

たとえそれが神霊だろうと巨龍だろうと、そこに例外などない。

 

そして此度もまた無意味な戦いを終わらせるため、なんら感慨も沸かないままにケートスはバミューダ・トライアングル最後の試練を起動した。

 

 

 

『…響き滅びる逆位相 (コラプス・フィールド)

 

 

 

瞬間、うねりをあげていた莫大なエネルギーが祖国の周囲に集約されていく。

無秩序に展開されていた力の渦が統率され、統合され、そして彼を中心にして完全なるピラミッド型が形成される。

黄金に輝くそれは眩い棺、ただ一人の勇者を葬り去るために作られた必滅の空間であった。

 

彼女が創生した最後のギフト、響き滅びる逆位相。

第一から第三の恩恵を使用不能を代償にようやく発動できるそれは、バミューダ仮説の逆位相説をもとにした恩恵。

ピラミッド状の空間内部にある物質全てを有無を言わさず消失させるという、局所的にではあるが全権領域の範囲にある能力だ。

当然その物質が人だろうと神だろうと一切関係なく、悉くを消滅させるそれは正に最凶最悪、絶対の切り札たる代物だろう。

 

出る事は出来ない。

破る事も、逃げる事も、ありとあらゆる手段が封殺されるこの空間を生き残った者は神霊であろうとも存在しない。

ゆえにこの技は、このギフトを使うという事は、ケートスにとって絶対の終焉を意味していた。

 

閉じろ(バニッシュ)。』

 

そして下される無慈悲な宣告。

その言葉に反応するように金色の牢獄が目も眩むような極光を放つ。

神々しくも残酷なその光は彼らのいる凄惨たる空間を満たして、

 

満たして

 

満たして

 

全てを白へと満たして

 

そして――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、知ってたぜ……ケートス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不遜な声が空間に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬だった。

滅びを告げるはずの極光は、その一言とともに跡形もなく消え去り霧散する。

割れるように、裂けるように、溶けるように。

彼女の”絶対”たる黄金の光が、何事も無かったかのように欠片も残さず砕け散ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……あっぱれだ。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を目の当たりにしたケートスの口から、ついぞ語られることの無かった言葉がこぼれ落ちた。

激情で渦巻いているはずの胸中には、だがおかしなことに自然と焦りは無い。

 

馬鹿げた話だ。

 

驚愕もしている。

矜持に傷もついた。

だがそれ以上に彼女の胸の内に溢れる感情は、

 

 

ーああ、やはり貴様は―――――――――――――劇的であったか。

 

 

どうしようもないほどの満足であったのだから。

 

 

 

 

 

そしてそんな満たされてしまった彼女に。

既に終わってしまった戦いに終止符を打つように、

 

 

 

 

「…そんで正真正銘、これで四回目(ラスト)だ!」

 

 

 

 

巨龍ケートスの身体を祖国は渾身の一撃で打ち抜くのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。

ケートスの最後のギフトが説明不足なので、追加説明をば。

・コラプス・フィールド
ケートスが有するバミューダ仮説の最後のギフト。もとになった仮説はトライアングル説(詳しくはwikiを参照のこと)。
対象を中心にピラミッド型の空間を展開し、その内部を物質ごと全て消去するトンデモ攻撃。基本的に脱出は不可。
他ギフトとの併用が出来ないのは、前提から矛盾する歪三角形説と相性が悪いためと、他の仮説へと分散している信仰を集約しなければ発動出来ない程のコスパの悪さゆえ。全権領域へと介入する権能であるため発動コストが高いのも当然と言えば当然だが、トライアングル説があまりメジャーでないという現状もコスパが悪い要因となっている。
ちなみにピラミッドの展開範囲は不明。自身を巻き込まない範囲で発動する必要があるため常識的な範囲にかぎられるが、使い方によっては神群一つを丸々消滅させる事も可能とのこと。


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