問題児たちが異世界から来るそうですよ?~えっ、俺も問題児?~   作:しましまテキスト

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こんにちは、しましまテキストという者です。
前回から投稿が少し遅れてしまい申し訳ありません。
理由はあとがきにありますので、もし良ければ覗いてやってください。

さてタイトルからも分かる通り…
今回で終わりませんでした!!!(土下座
いや、無理矢理ねじ込んで終わらせることもできたにはできたんですが、ただでさえややこしい説明回なのでこれ以上文字数こじらせるのもという苦肉の策でございます。
誠に申し訳ありません。
許してください、なんでもしまry)

とりあえず、今回も説明が多いですので、それでも構わないぜって方はお付き合いください。
それでは今話もよろしくお願いいたします。 


怪我人と天才と幼女(中編)

 一瞬でテンションがいけない方向に吹っ切れたアルキメデスと、それをドン引きした顔を向ける二人。

 先ほどまでのデキる女といった雰囲気はどこへやら、今は単なる痴女としか思えないと恍惚とした表情を浮かべている。

 比較的個人の趣味嗜好に寛容な祖国ではあったが、この豹変っぷりには流石に冷や汗を浮かべていた。

 

「おい、白夜叉。こいつはいったいどういうことだ?」

 

 たまらずに旧友であろう白夜叉に助言を求める。

 長い付き合いの彼女ならばアルキメデスの豹変っぷりにも心当たりがあるだろうとの思惑だった。

 

「…科学者という肩書から考えても分かるとは思うが、あやつは昔から人よりも知的好奇心が強かった。それこそ三度の飯よりというやつだ。実際コミュニティを結成する前は研究に没頭しすぎて色々と危ないところまでいっていたそうだ。」

 

「…それはそれは。つまりなんだ、あいつが変にテンション上がってるのは俺の中にあいつの知的好奇心を満たす何かがあったって事か?」

 

「そうなるの。しかもあやつの雰囲気から察するによほど好みの研究対象だったのじゃろう。量子工学…いや機械工学系統のなにかかの。」

 

「その通りだ白夜叉!!!」

 

 いつの間にこちらの会話を聞いていたのか、白夜叉の呟きに対して食い気味に返答するアルキメデス。

 しかも両の手をワキワキとさせながらベッド方面へとにじり寄って来ており、顔はすでに犯罪者のそれである。

 本格的に自身の貞操、もとい失ってはいけない何かの危機を感じ取った祖国は一瞬で白夜叉をリアル壁にして交渉を試みる。

 

「おい、まずその両手を下ろせ!そして必要以上にこっちに近付くな!」

 

「なんだい、そんな冷たいことを言わないでおくれよ!ほんの少し…先っちょだけ、先っちょだけでいいから!」

 

「中年のおやじかお前は!てか先っちょって何だ!?」

 

 いや、もはや交渉ですらなかった。

 ハァハァと息を荒げながら近づく白衣の科学者と、幼女を使って(物理)戦線を押し戻さんとする重症患者。

 いったい何の構図だと心の中でツッコミを入れながら、謎の火花を散らす両者の狭間でもみくちゃにされていた白夜叉がようやく口を開いた。

 

「こら、やめんか二人とも!祖国は私を盾にするな!アルクも重症患者を少しは気遣え!」

 

「し、しかしだね、白夜叉!」

 

「しかしも何もあるか!ここで良好な関係を築けねば、おんしは金輪際この小僧を研究することは叶わなくなるぞ!」

 

「むぅ、言わんとすることは分かるが…。だが科学者として研究対象が目の前にあるのに見過ごすわけには!」

 

「こやつの怪我が治るまでは身柄をここに預ける契約じゃろうに。その間に本人の了承を得て研究をすればよかろう。」

 

 興奮さめやらぬアルキメデスを諭すように白夜叉がゆっくりと語り掛ける。

 本来ならばアルキメデスもその程度の事は理解しているのだろうが、いかんせん状態が状態だけに冷静な判断ができていなかったのだろう。

 ようやく当人もそのことに気づいたのだろう、コホンとひとつ咳払いをして乱れた服装を瞬時に修正すると、さも何事もなかったかのような態度に立ち返った。

 

「それで、そいつは落ち着いたのか?」

 

 一区切りついた二人を見計らって、依然白夜叉を盾にしている祖国が両者に問いかけた。

 恐る恐るといった態度で白夜叉の背後から問いかける祖国に対し、アルキメデスは不自然なまでに麗しい笑みを浮かべながら応答する。 

 

「うむ、すまない。少々見苦しいところを見せてしまったね。」

 

「そう思うなら少しは自重してくれ。さすがにアレは身の危険を感じたぞ。」

 

「悪いとは思っているよ。けど科学者としてあんなモノ(・・・・・)を見せられれば黙っていられないのもまた事実なんだ。」

 

「それでじゃ、アルクよ。結局おんしは祖国の何にそこまで惹かれたのだ?」

 

 ようやく会話が成り立つ状況になったのを見計らって、白夜叉がとうとう本題へと切り込んだ。

 祖国もあのアルキメデスをしてここまで豹変させる何かが気になっていたのだろう、白夜叉の言葉に同調する様にコクリと頷くと彼女に疑問の視線を送った。

 

「ああ、私がなぜこれ程までに興味を惹かれたか。それはね、祖国君ーーーーーーーー君の持つもう一つのギフト"黒箱"が原因さ。」

 

「…黒箱、ね。」

 

「…やはりそうか。」

 

 およその原因は二人とも察していたのだろう。

 確かにカット&ペーストを除いて祖国に特筆すべき点があるとすれば、もう一つのギフトという答えにたどり着くのはさして難しくはない。

 加えてー詳細は祖国のあずかり知らぬ事ではあるがー黒箱はかつて箱庭をおよそ手中に収めたといっても過言ではない魔王ディストピアが生み出した遺産の一つだ。

 白夜叉の過剰なまでの反応といい、また黒箱(ブラックボックス)というギフトネームからしてもアルキメデスが興味を持つことは想像に難くなかった。

 

「それで、こやつの黒箱はどういったギフトなのだ?黒箱シリーズ(・・・・)は種類によってそれぞれ効果も千差万別であろう?」

 

「ああ。その事なんだがね、白夜叉ー」

 

 ごく自然な白夜叉の疑問に対して、アルキメデスの答えは珍しく歯切れが悪い。

 乱雑にセットされていた髪の毛をガシガシとかき上げると、苦虫をかみつぶしたような表情で言葉を続ける。

 

「ー実は何も分からなかったんだ。」

 

「なっ!?おんし程の頭脳をもってしても、こやつの黒箱の効果が分からんと言うのか!?」

 

「いや、そこだけは科学者の誇りに賭けて否定させてもらう。確かに今回は彼の黒箱の正体を突き止めるには至らなかったが、その主な原因は彼が重体にあったからだ。」

 

「………アルクよ、それはいったいどういう意味(・・・・・・)だ?」

 

 どうしても聞き逃せない発言に、白夜叉の鋭い眼光がアルキメデスを貫いた。

 これから先は一切の虚偽を許さないと言外に告げる視線は、たとえ万を数える神群であっても虚偽を述べる事は叶わない。

 

 対するアルキメデスは渋々といった表情を白夜叉へ、そして若干の罪悪感に満ちた表情を祖国へと向ける。

 いかに悪意があった訳ではなくとも己の罪に変わりない。

 ならばせめてもの償いは隠匿ではなく全てを包み隠さず打ち明ける事だと判断すると、覚悟を決めたように隠された真実を打ち明けた。 

 

「祖国君、最初に断っておくが私はこう見えても一応自身のことを分別のつく人間だと思っている。確かに知的好奇心は人より強いかもしれないが、それと誰かの命を天秤にかけるなんてことは断じてしない。その点だけは信じてほしい。」

 

「……………………。」

 

「その上で今から話す内容を聞いてくれ。祖国君、私は既に一度君の中からーーーーーーーーーー黒箱を取り出していたんだよ。」

 

「っ!?アルク、それはー」

 

「分かっているよ、白夜叉。罰なら後でいくらでも受けるさ。だが今はこちらの話を聞いてほしい。」

 

 白夜叉がアルキメデスを糾弾しかけた理由、それは彼女が無断で祖国からギフトを徴発していた点にあった。

 基本的にギフトの移譲はギフトゲームの景品であれ、あるいは単純な売買であれ、両者の合意に基づいて決められる。

 今回のような場合はただの窃盗、しかも話を聞く限り祖国の意識が回復する前の話だと推察できる。

 言ってみれば、意識もない重体患者からギフトを盗み取ったに等しい行動である。

 そんな事態を善神筆頭とうたわれる白夜叉が目を見逃せるはずもなく、加えて今回扱っていたのが黒箱という箱庭でも危険度が一級品の代物だ。

 どう見積もっても、またアルキメデスにそれを悪用する思惑がないと分かっていても、到底黙認できる事実ではなかったのだ。

 

 閑話休題

 

 さて、有無を言わさぬ威圧感と共に白夜叉の発言を遮ったアルキメデス。

 美麗なその顔を罪悪感でにじませながら、罪を告白するような口調で尚も祖国に語りかける。

 

「知っていると思うが、私はサウザンドアイズから君のギフトを調査するようにとの依頼を受けていた。が、やはり黒箱の正体を完全に証明するのは至難の業でね。他のエウレカメンバーとも議論した結果、一度黒箱を嫡出するのが最も効果的な手段だという結論に至ったんだ。もちろんその時には容態も大分安定していたから、これならギフトを取り出しても大丈夫だろうと考えたんだが……見通しが甘かったみたいでね。」

 

「何かあったのか?」

 

「…あぁ、取り出した瞬間ーーー治まっていた黒呪が一気に進行し始めたんだ。重症箇所が次々と再発していってね…、あと数刻対応が遅れていたらあるいは…。」

 

「なるほどな。取り出せなないんじゃ、そりゃ研究も出来る訳ないな。」

 

 場の雰囲気と余りにもかけ離れた祖国のあっけらかんとした対応に、アルキメデスの表情が奇怪なモノを見るかの様にポカンと固まった。

 彼女からしてみれば勝手にギフトを取り上げた挙句に、もう少しで人を殺しそうになったのだ。

 叱責なり何かしらの糾弾があってもおかしくない、いやむしろそうあるべき事態である。

 

 にも関わらず目の前の少年はさも当然と、それどころか彼女がギフトを解析出来なかった原因の方に意識が向いている模様だ。

 まるで自身の命など鴻毛よりも軽いと言わんばかりの態度にアルキメデスも怪訝さを禁じ得ないのか、たまらずカツカツと祖国にじり寄って胸内の感情を問いただす。

 

「君は私を恨んではいないのかい!?私の勝手なミスで死にかけたんだよ!?」

 

「あー、まぁなんだ。結局俺が重症だったところを救ってくれたのはあんたなんだろ?だったら一回は拾って貰った命だ、それとこれでチャラにしようぜ?」

 

「しかし…」

 

「いいんだよ細かいことは。結果として俺は今生きている。それが全てだしその過程なんざ俺の知ったこっちゃねえよ。」

 

「………本当に君は。」

 

 彼のその返答を聞いた瞬間アルキメデスは直感的に理解した。

 

 ーきっと

 

 彼にとっては自身の命は本当にその程度の意味しかないのだろう。

 それが彼の育った環境や価値観によるものなのかは知る由もない事だが、きっと彼にとって命などそんなもの(・・・・・)なのだ。

 いつ失ってもおかしくないモノ、仲間やあるいは下手をすれば敵のために擲っても構わないモノ。

 そう、彼の中で常に庇護すべき対象は仲間であり、弱者であり、見ず知らず誰かであり、 

 

 ーそしてきっとその中には大宮祖国という文字は存在しないのだろう。

 

「ーだがそんなのは嘘だよ、祖国君。」

 

 そう呟いた彼女の言葉は、誰に聞こえる事もなく空気に溶けて消えた。

 彼女の胸中に、ただ一つ強い思いを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、おんしでも黒箱を解析出来んとなると本格的に手詰まりじゃの。」

 

「いや、俺が全快した後でもう一回取り出してみてもいいんじゃないか?」

 

「「却下だ(じゃ)!!!」」

 

 祖国とアルキメデスのやり取りが数分続いた後、白夜叉がようやくと事の要点へ会話を移した。

 現状祖国の内に存在する黒箱が取り出し不可能となっている以上、摘出して解体という最も原始的かつ効率的な手段は使えない。

 

 ならばと祖国が代替案を発するも、残りの2人に強く反発をくらい議論は膠着状態にあった。

 

「そもそも祖国よ、おんしはいささか自身を軽んじ過ぎじゃ。自己犠牲も行き過ぎれば身を滅ぼすぞ。」

 

「白夜叉の言う通り。外界ではそれでまかり通っていたかもしれないが、この箱庭は神魔はびこる人外魔境だ。そんな甘い考えではー」

 

「分かった、分かったよ!善処するよ!それより今は俺のギフトの正体を突き止めるのが先決だろ!」

 

 女性陣2人のありがたい説教が始まりそうになったところを無理やり遮ると、祖国はやや強引だと自覚しながらも話をもとに戻そうとする。

 彼女らが自身のことを案じてくれての事とは分かっているが、やはり忠言耳に逆らうといった所か。

 そんな事ないと思うがなー、と呟いたのをバッチリと聞かれ、絶対零度の視線を二人から頂戴した祖国はきっと何も学習していない。

 

 そんな彼の態度にやれやれといった様子で首を横に振る女性陣。

 これ以上言っても今の祖国には意味がないと悟ったのだろう、なんとか建設的な意見をひねり出すために互いに知恵を絞り合っている。

 

「とはいえ本当に困ったことになったの。上層部からも此度の顛末の報告書とともに、こやつの黒箱の詳細を寄越せとせっつかれておってな。エウレカに依頼して分からずじまいでは本格的に上が動きかねんぞ…。何か手立てはないのか、アルクよ?」

 

「…ないことはないが。科学者としても依頼を受けた身としてもあまり褒められた手段ではなくてね。」

 

「他人からギフトを無断徴発した時点で褒められた事ではないと思うがの。」

 

「…それは言わない方向で検討してくれたまえ。」

 

 白夜叉のあまりにも尤もな意見に、アルキメデスはたまらず目線をそらして苦しい笑みを浮かべる。

 しんとした空間に気まずい空気が流れること実に数秒、根負けしたのは白夜叉であった。

 はぁと一つ大きなため息をつき「処分の沙汰は追って連絡する」とだけ言い残すと、アルキメデスにその手段とやらを説明するように催促する。

 

「して、おんしの言う"手段"とはいったい何なのだ?」

 

「まぁ、あえて言葉で表現するなら"保留"かな?君が上層部へ上げる報告書には黒箱の件は鋭意解析中とでも書いておけばいいのさ。」

 

「それは私も考えた。じゃがあのゲームからすでにかなりの時間が経過しておる。そんな状況でまだ正体を突き止められないとなるとエウレカにとっても不味いのではないか?」

 

「だからこそ褒められた手段じゃないのさ。クライアントの要望を、しかも自分たちの得意分野で未だ完遂出来ていないなんて、恥さらしも良いところだからね。」

 

「ならばー」

 

「だけどね白夜叉。」

 

 自己評価を不当に貶めるような行為は避けるべきだと忠言する白夜叉の言葉を、アルキメデスの鋭い声が遮った。

 

 いかな不測の事態が起ころうと、それを踏破しクライアントの依頼を達成してこその一流だ。 

 それを成せなかった以上いかなる釈明もただの言い訳に過ぎず、なればこそその責任を引き受けるのは当然の帰着。

 それが彼女の、いやエウレカの科学者としての誇りであり矜持なのだ。 

 

 それにー、と彼女はうっすらと微笑みながら告げる。

 

「確かに今回黒箱の正体を証明する(・・・・)ことはできなかった。けどね、それを推察する(・・・・)事はさして難しい事ではないんだよ。」

 

「何だと?」

 

「といってもあくまで推察の域を出ないがね。彼から黒箱を取り出した時の症状、そして彼のゲーム時の特徴的な挙動から導いた仮説にすぎない。それでも良いと言うならご拝聴願いたいが、どうするかね?」

 

 アルキメデスの問いかけに、残された二人は神妙な面持ちでコクリと首肯する。

 彼女のその科学者然とした風格に、まるで今から語る仮説こそが真実であると錯覚してしまいそうになりながら。

 

 そんな二人の真剣な視線を感じ取ったのか、あるいは科学者としての矜持故か、一層凛とした雰囲気をまといながらアルキメデスは己が仮説を展開する。

 

「まず祖国君に眠る黒箱の効果だが表面的な(・・・・)部分を察するのは実のところ簡単だ。祖国君も外界で実際に経験している事でもあるし今回私が取り出した時の症状からも逆算できるが、君の黒箱は"黒呪"の進行を抑える効用を持っている。」

 

「ああ、それは俺も薄々感づいていた。昔このギフトを譲渡されてからあの病状が嘘みたいに良くなったからな。」

 

「その話は私も白夜叉から事前に聞いているよ。これほどまでに巧緻なギフトを譲渡した天使、確かに気になる部分ではあるがそれは後に措いておこうか。」

 

 だがその時はきっとその天使について言及せずにはいられないだろうとアルキメデスは思考する。

 なぜならもし彼女の仮説が正しいとするならば、それはあまりにもー

 

 否、それを考えるのは今ではない。

 

 そう判断したアルキメデスは一人頭の中の思考を切り替えると、今成すべき事へとリソースを割く。

 

「さて、これらの事から黒箱の効果は『"黒呪"を無効化する』という仮説が導ける訳だけど…これが本当に正解だろうか?白夜叉はどう思う?」

 

「おんしがそう質問する時点で、答えはNoだと言っているようなものじゃろうに。」

 

「そういう捻くれた解答を期待していたんじゃないんだけどね…。でも答えがNoだと言うのなら、その点は私も同意見だよ。」

 

 そう言ってアルキメデスは席を立つと、部屋中に乱雑に積み上げられた実験結果のレポート中から一枚の用紙を探し出した。

 顔写真と比較的簡素な文字が綴られているその用紙には、どうやら祖国のプロフィールが記載されているようだ。

 その用紙を祖国と白夜叉に手渡すと、二人に目を通すように促しながら再び席に着いた。

 

「では考察を再開しようか。今回君のギフトを推察するにあたって私は一つ疑問に思う事があったんだ。」

 

「疑問?」

 

「そう。知っての通り黒箱とはかの大魔王ディストピアが作り上げた遺産、有名所で言うならばゲノムツリーに似た系譜を持つ。どちらも神の威光を削ぐために魔王ディストピアから外界に与えられた超技術がギフトの核となっているからだがーーー、はてここで一つの疑問が浮かび上がる。黒箱を作り上げる元になった外界に流出した超技術とはいったい何かという疑問がね。」

 

 アルキメデスの疑問は特別難解なことを問うている訳ではない。

 例えばゲノムツリーというギフトが完成された背景には、春日部耀のいた時代にDNAひいてはゲノム情報を自在に操作する技術が確立されていた事実がある。

 ならば祖国の持つ"黒箱(ブラックボックス)~コンフリクター~"とは、いったい外界のどんな技術が背景としてあるのか。

 彼女の疑問の本質はじつにシンプルなモノだ。 

 

 そしてその疑問を考えれば必然的に結びつくもう一つの疑問がある。

 

「いや、そもそも何故このギフトは"ブラックボックス"なんていう命名がされているんだろうね?」 

 

 そう、既に命名からしてこのギフトシリーズは異常(・・)なのだ。

 

 ブラックボックス、内部原理を理解せずとも外部からの操作のみを知っていれば望んだ結果を得ることができる機械装置。

 転じて内部構造や原理を観測あるいは理解できない物を指す言葉。

 その意味を額面通りに受け取ってこのギフトを解釈するならばー

 

「外界の人類は魔王ディストピアから与えられたこのギフトの元となった超技術を結局解明できなかった。故にブラックボックス、ついぞ人類が到達出来なかった一つの極致がこのギフトの原点ってことになるね。」

 

 アルキメデスのこの推論は実際魔王ディストピアの討伐方法から考えても矛盾なく説明できる。

 あまりにも強大すぎた魔王ディストピアは苦肉の策としてディストピアへと至る外界の流れを消滅させることで間接的に打倒された魔王だ。

 その影響で自身の霊格を確立できないノーフォーマーが発生したように、そもそもノーフォーマーにも成れずに消滅した外界も数多く存在した。

 

 もし消滅した世界の一つにこの黒箱の原点たる技術が流出していたとしたら、そして超技術を解明する前にその世界が消滅してしまったとしたら。

 魔王ディストピアを変則的な方法で討伐した結果、終ぞ人類が解明できなかった超技術の数々。

 魔王の庇護下という状況でこそあれ、本来ならばいつか日の目を見るはずであった科学の結晶たち。

 それが黒箱シリーズの正体だとしたら。

 

「…まさかこのギフトシリーズも"カット&ペースト"と同様にギフトの成り損ないということか?」

 

「恐らくーとは言っても本質的には全く別物だ。本来ギフトとして成立し得ないはずの"カット&ペースト"とは違って、こっちはきちんと証明(・・)さえされればギフトとして完成するんだからね。」

 

 「証明」という言葉に一層の熱意を滲ませながら、アルキメデスは実に楽しそうな表情を浮かべる。

 まるでその役目は自分のモノだと主張するかのような雰囲気に、白夜叉も祖国もやれやれと苦笑した。

 

 さてアルキメデスの発言にもある通り、技術や理論がギフトあるいは存在を確立するためには万人がそれを理解し再現するだけの理論を証明する必要がある。

 ラプラスの悪魔やマクスウェルの悪魔といった思考実験から生まれた存在が、それを"実証"するだけの技術によって霊格が認められたように。

 あるいはかつて人類が夢見た第三永久機関が、熱力学第二法則やエントロピー増大則によって"否定証明"されたように。

 技術やそれにまつわる霊格の所存は、それが理論的に矛盾なく証明されることが必要不可欠かつ最大条件であるのだ。

 

「科学者としてこれほどまでに心躍る瞬間はない!未知の問題!手も付けられぬ難問!その全てを己が頭脳一つ解き明かす快感こそ私が科学者たる所以!………なのだが、今回に限って重要なのはそこでは無くてね。」 

 

 黒箱の謎を解き明かすという愉悦に再びテンションが天元突破しかけるも、そこは学習する大人アルキメデス。

 フッーと一つ深呼吸で意識を整えると、いよいよ最後の考察へと話しを差し向ける。

 

「祖国君。私が君のギフト"カット&ペースト"について話した時、ギフトとそうでない物の基準をなんと言ったか覚えているかい?」

 

「…確か既存の物理法則を超えた事象を起こせるかどうかだっけか?」

 

「その通り。そしてその基準が今回この黒箱を推察する大きな手掛かりになるんだよ。」

 

 あまりにも簡素なアルキメデスの発言に、残された二人の頭には疑問符が浮かび上がる。

 おそらくここからは彼女に一任した方が効率的と早々に判断したのか、白夜叉と祖国は口を開くことも疑問を差し挟む事もなくアルキメデスの次の言葉を待つ。

 そして当の本人も彼らの意図を理解したのだろう、ではーという言葉と共に黒箱の最後の秘密を解きにかかった。

 

「さて。さっきの話からも分かるように黒箱シリーズはギフトの一歩手前、謂わば未完のギフトだ。ゆえに必然、君の黒箱が起こせる事象も物理法則やエネルギー法則に従ったモノでなければならない訳だが…、その場合先の"黒呪を無効化する"という仮説はどうしても成り立たないんだよ(・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「なぜじゃ?」

 

「エネルギー総量が前後で食い違うから、だろ?」

 

 唐突に告げられた祖国の解答にアルキメデスは二重の意味で驚愕をあらわにした。

 一つはずっと考え込む様な素振りをしていた彼がいきなり口を開いたことに対して。

 そしてもう一つはー

 

「ー驚いたね、大正解だよ。」

 

 それが寸分違わず彼女の解答と同じ結論にたどり着いていたことに対してであった。

 

「祖国君も今言ってくれたけどね、さっきの仮説は"黒呪の無効化"。つまりは世界の意思によって祖国君へと向けられた何かしらのエネルギーを無にする(・・・・)っていう仮説さ。だけどそれはエネルギー保存の法則に反する力、要するにエネルギー法則を逸脱していることになる。これは前提条件と大いに矛盾しているだろう?」

 

 そう、それこそ最初の仮説が成り立たない明確な根拠。

 

 元来、祖国が患っている黒呪は世界の排斥力に起因する。

 言い換えるならこれは世界が大宮祖国を排斥するーつまりは殺害するために何かしらの働きかけを行っているということだ。

 その働きかけがいかなる手段や方法をもって行われているかは不明ではあるが、実際にアクションとして表れている以上それを成すだけの"エネルギー"が必ず必要となる。

 例えば祖国の病状を考えるなら、世界が何かしらのエネルギーを使用して黒呪を発症させていたといった具合にだ。

 

 しかしその場合、"黒呪の無効化"という仮説には一つの矛盾が発生する。

 もし黒箱によって黒呪が無効化されて発症しなかったというのなら、黒呪を発生させるために使用したエネルギーはいったいどこへ消えたのか(・・・・・・・・・・・・)

 エネルギー保存の法則という小学生でも知る世界の理に従うなら、黒呪発生に使用したエネルギー総量と同等の"何か"がエネルギーであれ物理現象であれ、何らかの事象として観測されなければおかしいはずなのだ。

 つまり"黒呪の無効化"という、言ってしまえば入出力後でエネルギー総量の辻褄が合わないこの仮説は、黒箱という未完のギフトが外界の法則を逸脱した事象を起こせない以上必然的に破綻する。

 

「ならばこの矛盾点を補足するにはどうすればいいか?そう考えたとき導かれた答えは実にシンプルな物だった。黒呪に使用したエネルギーを消すのではなく転化(・・)、つまり何か他の事象へと転用しているとしたらこれら全てを矛盾なく説明出来るのではないかと、そう考えた訳さ。」

 

 エネルギーが消えていないならどこかにあるはず。

 要は黒呪に使用されたエネルギーは大宮祖国を害するためでなく、もっと他の用途で彼に作用しているのではないかと仮定したのだ。

 そしてそれが黒呪という膨大なエネルギーを転用している以上、他の人間では成し得ないほど特徴的な"何か"が大宮祖国にあるはずなのだ。

 

「だから私は調べた、大宮祖国(きみ)の特異性をね。もちろん箱庭に召還されるだけあって目を見張る点はいくつもあったが、その中でも特に正攻法では説明できない事象があったんだ。」

 

 そう言ったアルキメデスは祖国たちに先ほど手渡した資料を捲るように促す。

 

 そのレポート一枚一枚には、祖国のゲーム中の発言が一言一句正確に記録されていた。

 数センチはあろう分厚いレポートを捲るうちに、二人はふと付箋が張り付けられたページが点在していることに気がついた。

 どうやら付箋でマーキングが施されているページには彼女の言う特異性へと至るヒントが隠されているらしい、ご丁寧に特に重要と思しき部分には赤い線まで引かれている。

 

 二人が渡された資料を読み進める事数分後、両者の顔には次第に納得の表情が浮かびだした。

   

『強いて一番近い言葉で伝えるなら"勘"か?』

 

『それこそ未来予知に比する刹那的なインスピレーションだ。』

 

『本来五感以外では知りえない情報を経験から帰納的に導き出す事。それが"勘"だ。』 

 

 理由は簡単にして明確。

 赤線で記されていた部分はヒントでもなんでもない、彼らが捜していた答えその物であったからだ。

 

「どうやら二人とも理解したようだね。そう、祖国君の言動で特に目を引いたのが彼の言うところの"勘"だよ。観測された事例だけでも殺意や敵意といった害意の感知、対象感情の推定、戦闘面の補助など…。いくらなんでもこの精度と汎用性は一人間の能力を越えている、そう思わないかい?」

 

 アルキメデスの問いかけに、祖国の脳内で今までの光景がフラッシュバックされる。

 

 思い返せば当てはまる節は多々あった。

 久遠飛鳥や春日部耀に敵意や殺意のレクチャーをしていたように。

 アルゴールの挙動から彼女の感情や思考を読み解いたように。

 視界の悪い状況や嵐舞う海底でケートスの攻撃を避け続けていたように。

 

 勘というにはあまりにも鮮明でーしかし何故か何よりも信用できるその感覚に、彼は今までの人生幾度となく助けられてきた。

 その閃きがもし人智を超えた力によってもたらされていると言うのなら、-ああ…なるほど、と納得する以外に道は無い。  

 

「…確かにな。俺自身あの戦いの最中、この能力を直感と言い張るのは少し違和感を覚え始めていたところだ。」

 

「恐らく極限の戦いの中で生き残るため、本能がより正確な情報を求めたんだろう。もはや君のソレは第六感と言っても差し支えないレベルだよ。」 

 

「それではアルクよ、今までの話を総評するとこやつの黒箱は"黒呪の無効化"ではなく、黒呪に使われていたエネルギーを五感の強化へと転化する力ということか?」

 

「今観測されている事象からはそう推測できるけど…本質はもっと別にあると思う。まぁこれ以上は別方面からのアプローチが必要になるだろうけどね。それはさておき白夜叉、今の話で上層部に送るレポートのネタは足りそうかい?」

 

「…あっ、ああ。十分過ぎるほどじゃ。これなら上も納得させられるだろうて。」

 

 アルキメデスのへの返答に一瞬どもってしまう白夜叉。

 どうやらこの考察が始まった理由を忘れかけていたらしい、アルキメデスから上層部へのレポートの話を持ち出されなければ完全に話が頭から流れていたところだった。

 

 何はともあれアルキメデスの考察はここに完結、祖国の黒箱の効能も少しは検討をつけることが出来た。

 しかも黒箱シリーズの正体までも推察するというおまけ付きでだ。

 これなら口うるさい上層部の連中も色々な意味で黙らせることが出来るだろうと、白夜叉は一人胸中爽やかな気分を感じていた。

 

 だがしかし因果な事かな、何事も確率とは収束するものだ。

 人間万事塞翁が馬というように、良い事があればその後には不幸な事が待っている。

 

 とどのつまり、白夜叉のすがすがしい気分はたった数秒後には消え去ってしまっていたのだ。

 

 

「それじゃ、祖国君。これが最後の質問だーーーーーーーーー君はいったい誰に作られた(・・・・・・)?」

 

 

 心地よい静寂を切り裂いた、ひどく無機的なアルキメデスの声音によって。 

 

 

 

 

 

 




読了ありがとうございます。
いや~、後編でまとめられませんでした。
本当に申し訳ない。
いい加減火龍誕生祭へカチコミに行きたくてタイピングする指がプルプルと…

あと今回投稿が遅れた理由は、実は以前書いていた文章に決定的なミスといいますかロジックエラーがありまして、全没になったからでございます。
なので新しい理由もとい設定を矛盾なくつなげるために酷く苦心しました(汗

何かミスがない事を切に祈る(割とマジで

とはいえミスがあれば訂正するのは当然ですので、ここどういう意味?ここ原作と違うんじゃないの?ここの説明が分からない! などありましたらコメント欄までお気軽にどうぞ!
その他の意見、疑問等も受付ておりますので、そちらも気楽に書き込んでやってください。

それでは今回はこれまで。
また次話でお会いしましょう。
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