ぼくらのヒーローアカデミア TS脳無化錬金術ヒーローマリくんちゃんの終活   作:Radrabbit

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 遂にちびちび書き溜めていたストックが消失しました。哀しい。今後は不定期更新で体育祭終了まで書く予定です。
 それと書き忘れがちになってしまっていますが、いつも誤字報告や感想ありがとうございます。たくさんの方に読んでいただいているお陰でこの作品は続いております。皆さんに感謝を・・・。
 
 


37話 Acid rain

 

負゛け゛ち゛ゃ っ た゛ぁ゛ぁ゛!!

「瞬殺でしたね」

 

 わあわあと透さんは泣いていた。恥を捨てて無敵になった透さんの透明殺法ですら上鳴さんには通用しなかったのだ。

 透さんには残念ながら彼の開幕放電を避ける手段が無く、不意打ちをしようにもステージ全体を覆うレベルの攻撃規模から流れることもできなかった。

 

(相性差って残酷ですね)

“あはは・・・まぁ、勝負は時の運っていうし、ね?”

 

 マリさんが少し気まずそうにしてそう言った。時の運・・・運勢か。

 確かにそうかもしれないけれど、それなりに長引いた緑谷さん達の根性バトルを見た後だとこうも試合が一瞬で終わるというのは中々複雑な気分になる。

 

あ゛ぁ゛~・・・・・・はぁ、泣いたらスッキリした」

「まぁ、いい作戦ではあったと思いますよ。相手が上鳴さんでなければ」

「哀ちゃんが冷たい〜、慰めてくれないの〜?」

「自分で持ち直してるじゃないですか・・・」

 

 情緒が落ち着いた透さんに持ってきた体操服を着せ、乱雑に背を押して観客席へと送り出す。

 彼女はまだ愚痴を聞いて欲しそうに私をちらちらと見ていたが、それは観客席で暇してる人たち相手にやって欲しい。

 

「そういうわけなので、時間になったら起こしてくださいね」

「ここ私の控室なんだけど!?」

「声を掛けていただければ起きますので、身体には触らないでください」

「それはフリってやつ?」

「角を二本から一本にしたいのならご自由に」

「コワ〜」

 

 自分でも結構我儘を言っている自覚はあるが、やっぱり他人から触られるのは好きではない。透さんでも大分ギリギリな気がするし、マリさんなら大歓迎なのだけれど。

 

「すぅ・・・すぅ・・・」

「寝るのはや、え、マジで寝たの?」

 

“うぅん、これも成長・・・成長なのかなぁ?操奈ちゃんが図太くなっちゃった・・・”

(マリさんが居なかったらこんなことしませんよ。それに図太くなんてなってませんし、芦戸さんと透さん以外にはやらないです)

“・・・誰かを頼れるようになっててえらい!100点!”

 

 ふふん。いつまでもクラスメイトにビビり倒している私ではないのです。騎馬戦での堂々とした立ち振る舞いをマリさんは忘れてしまったのでしょうか*1

 

 ・・・それにさっきからやけに眠気が鬱陶しい。さっさと眠ってしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あれ、何か混ざりかけてるじゃん・・・あーあー、幸せそうに眠っちゃってさ。自分が消えそうなの理解してるのかなぁ】

 

 

 

【君は既に■■へ手を掛けた。空へ飛び上がったイカロスにもう後戻りはできない】

 

 

 

【・・・ま、焚き付けた分の尻拭いはしないとね。君が消えたらあの子も泣いちゃうからさ。頑張って生き残るんだよ】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へいへーい、時間だぜお嬢ちゃん。起きないなら悪戯しちゃうよぐへへ」

「どうやら二本とも角をへし折られたいみたいですね」

「いやいや冗談ですやん、な?可愛い冗談ですやんかお嬢」

「何の真似なんですかそれ・・・?」

 

 彼女は両手で胡麻をするような品のない所作を繰り返していた。口調も出鱈目で腰の引けたその姿勢は嘲笑を誘っているのだろうか。

 

「・・・もっと短いかと思いましたが、意外と眠れましたね」

「マイク先生の実況しか聞こえなかったけど、何かプレゼンやってて時間掛けてたみたい」

「プレゼン・・・?」

 

 私達の前は飯田さんとサポート科の方だった筈だけれど、彼等は雄英体育祭を発表会か何かと勘違いしているのだろうか。

 彼はとても真面目な人柄だったと記憶しているが、こういう大きな舞台だとはっちゃけたりとか・・・あ、違うんですか?

 

「いやね。飯田は多分騙されてた感じだよ。マイク先生めちゃくちゃ爆笑してたもん」

「マイク先生・・・」

 

 気の抜ける話を彼女から流し聞きながら通路を抜けて、ステージへ二人で並び立つ。軽い仮眠のつもりだったけれど、思っていた以上に効果があって助かった。

 

“眠気は大丈夫?怪我しないようにね”

(問題ありません・・・少し仮眠をとったお陰なのか気分が良くて)

“そう?ならいいけど、無理は厳禁だよ”

 

 緩んでいたネジがぴたりと嵌ったように、頭がかつてないほどクリアに澄んでいる。さっきまで眠気に苛まれていた分、より一層気分がいいように感じるのだろうか。

 

「二人とも、準備はいいかしら?」

「もちろん!」

「いつでもどうぞ」

 

『次はちゃんとした試合見せてくれよ!?A組主席、これまで好成績をキープしてきた小さな優勝候補、影山哀!!(バーサス)、ド派手なビビッドカラーのインベイダー、芦戸三奈!!』

 

 躊躇いはない。戸惑いもない。強いて言うなら・・・私は今、少しだけ高揚しているかもしれない。それがなんだかおかしくなって、思わず笑ってしまった。

 

START!!!

 

「先手必勝!」

「でしょうね」

 

 プレゼントマイクの宣言と共に彼女が全速で踏み込んでくる。けれどそれは想定内。私みたいな後衛タイプには()()()()()()()()()()突っ込んでくる。

 

「うぉっ!?危なっ!」

「あら残念、当たってくれればよかったのに」

 

 相手に合わせて私も踏み込んでカウンター放つ・・・が、奇跡的にタタラを踏んで仰け反った彼女の上顎を掠めるに終わった。惜しい。

 

「ちょ、まっ、なんで影山がインファイトしてくんの!?」

「貴女から仕掛けたんじゃないですか。何故避けるんです?」

「後衛タイプは近接できないのがお約束でしょーが!」

 

 戦闘訓練でそれなりにマリさんが接近戦はしていた筈なのだけれど、基本的にゴーレムを使っていたからそれに気が引っ張られたのだろうか。

 ・・・む。意外と拳が避けられる。私のイメージと手脚の長さが違うのもあって中々綺麗に当たらない。

 

“・・・なんか、急に動き良くなってない?”

(気のせいですよ)

 

 ズブの素人であるハズの自分が自然と身体の動かし方がわかる。()()()()()()()

 熟練の職人が年老いても染み付いた技術や体捌きが錆び付かないように。まるで己が長年ヒーローとして戦っていたのかと思ってしまう程、思考する前に手足が動く。

 

痛ったー!?・・・その見た目でこの怪力は詐欺でしょ!!」

「もう少し縮んでくれませんか?サンドバッグとして不適です」

「コイツぅ〜〜!!私のこと死ぬ程舐め腐ってない!?」

 

 舐めてはいないが、思ったより練習相手として丁度いいなとは思い始めています。すみません。

 

“・・・・・・”

(・・・ごめんなさい。ちゃんと後で相談します)

“んーん、大丈夫。それよりホントに平気?無理してない?”

(頗る絶好調ですよ。安心してください)

 

 どう個性を使って戦えばいいのかなんとなく理解できている。というのも、こうして身体を動かすほど記憶が湯水のように湧いて出てくる・・・この場合出てきてしまう、と言った方が正しいか。

 

【ねぇねぇせんぱい、そのくもどうやってうごかしてるの?】

【お?そいつはなぁ・・・なんとなくだ!】

【白雲は参考にするなよ。コイツかなり感覚派だからな】

【ほほ〜う?ならばショータ先生はしっかり教えられるのですかな?】

【・・・俺は郷里と個性の系統が違うんだ】

【ここは俺に任せときな!Listen to me boy〜?】

 

 春風のように暖かで穏やかな彼の思い出、失くしてしまわないよう奥底にしまっていた貴方の郷愁。

 何処までも続く淡い青空のように晴れやかな思い出が飛来する。これが試合中でなければ目を瞑って存分に堪能したいところだけれど、生憎そうもいかない。

 

「・・・影山、笑ってる?」

「えぇ、今はとても気分がよくて」

 

 自分の知らない記憶が勝手に溢れて自然と身体が動くようになる怪現象だなんて、昔の私なら怯えて部屋で震えていたかもしれないのに。

 それとも思春期らしい病にでも溺れていたか・・・まぁ原因はなんでもいいけれど、貴方の思い出に触れられるのなら私は何色にでも染まりましょう。

 

「ヨユーじゃん!その可愛い面歪ませてみせるからね!」

「あ、別に今のは挑発などではなく」

「知ってる!」

 

(今回も節約で行きますよ)

“なんだか雰囲気が変わったね・・・少し吹っ切れた?”

(さて、どうなんでしょう)

 

「『から傘乙女(ヴァルゴ)』」

「わーなにそれ!?新しいヤツ?ズルい!」

 

 劇役者のように仰々しく指を鳴らし、態とらしく立ち姿を演出しながら『錬成』を使う。こうもトントン拍子で個性が伸びている───私の場合慣れている、が適切だろうか?───と後が怖くなるが・・・まぁ、マリさんがドクターストップを掛けるまではセーフと判断する。

 

 そうして演出と共にステージが隆起し、瞬く間に私の背丈を越えるほどに盛り上がる。目の前で私を隠すようにして生まれたのは大きな番傘を手にした和装の女性・・・に見える人型のゴーレム。

 から傘乙女(ヴァルゴ)と名付けられた彼女は防御専門に設計された守り手であり、セメントス先生の作ったステージを材料にすれば、彼女の酸を防ぐ程度ならどうにでもできる。

 

「あら、こうゆうのはお嫌いですか?」

好き!

 

 芦戸さんの笑顔と共に放たれた酸をヴァルゴの盾で凌ぐ・・・傘を広げると私の視界が塞がるな。

 『千里眼』で俯瞰しておかないと危なくて使えたものじゃない。見た目は結構好みだったけれど、こうして実戦で使わないと欠点も中々わからないものですね。

 

「ゲェ、酸で溶けない」

「綺麗な傘でしょう?私もお気に入りなんです」

 

 星屑の揺籃(ジェミニ)の本領は敵に接近すら許さない圧倒的な制圧射撃。されど今の私にそれを可能にする余裕もリソースも無い。

 そして彼女がから傘乙女(ヴァルゴ)の防御を抜いて私に攻撃を通せる可能性は低いが、ヴァルゴは攻撃主体では無く守りに重点を置いた盾。

 結局のところ、この後のトーナメントを勝ち抜くにはある程度の近接戦闘を交えた戦い方が必要になってくる。

 

えい

「うおっと!なんか拳圧エグくない!?武術とか習ってたっけ!?」

「記憶にないですね」

 

“わぁちゃんと加減!・・・は出来てるの?ここにきて成長速くない!?”

 

 強化された肉体(ハイエンド)の膂力で人を殺さない手加減のやり方なんてわからないから、間違っても人を殴ったりしないように接近戦は避けてきた。

 うっかり加減を失敗してミンチを作ろうものならこれまでの全てが水の泡になってしまうから、極力ゴーレムに攻撃を任せてきたワケで。

 

Shall we dance?(踊りましょうか)

「嫌だよ!?」

 

 だからせめて戦いに慣れるまではとマリさんは私に接近戦を勧めなかったけれど、今の私ならきっと最初の一歩くらいなら踏み越えていける・・・はず。

 最悪顔面がボコボコになる程度には気を付けて抑えるので、まぁ頑張って凌いでほしい。

 

「ダンスはお嫌いで?」

 

 思わず後ろ足を踏んだ彼女に息を付かせぬよう、私とから傘乙女(ヴァルゴ)で両サイドに跳び左右から挟み込みにかかる。

 

「そこで二手に分かれるの!?なら本体狙──ちょちょ待っ!」

 

 私を守る為の盾と離れての挟撃。

 予想外の行動に数瞬固まった彼女が私へ視線を向けた隙に、私より速く彼女の背後に接近したヴァルゴが頑強な傘でフルスイングを叩き込む。

 

「ふべっ!?」

 

『惚れ惚れするほど見事なフルスイングが土手っ腹にジャストミィ〜ト!ありゃあ相当痛ェぜ!』

『基本人間は右と左を同時には見れんからな。挟まれる前に離脱するべきだったんだが』

 

「加減はしますから、頑張って堪えてくださいね」

 

 から傘乙女(ヴァルゴ)に弾かれて勢いよく私に転がってきた彼女の胸部を目掛けて拳を振るう。大体の感覚はさっきまでので把握できたから・・・出来るだけ損傷が抑えやすい箇所を狙う。

 

「ぬおおおお秘技!アシッドスライド(咄嗟の思いつき)!!

「え?」

「からのスピンキック!」

「痛っ!」

 

 芦戸さんが辛うじて酸を掌から撒いて床をくるくるとコマのように滑る。

 そのせいで狙いがブレて拳が外れ、逆に芦戸さんのカウンターを受けた。慣れないうちに奇策なんてやったからか・・・お腹痛い。

 

『天性のバランス感覚と身体の柔らかさで成せる動きだな。ああいうのはセンスが要る』

『俺らが真似したら間違いなく腰やるな』

 

“操奈ちゃん大丈夫!?”

(平気ですよこのくらい)

 

 ・・・少し調子に乗っていた。身体が動かせるようになったからって私の思考まで身体に追いついたわけじゃない。慣れるまでは正面からすり潰す戦い方の方がいいか。

 

「このままやらいでか!」

から傘乙女(ヴァルゴ)

「ず・・・ずっこいよそれぎゃん!?

「んー、初めからこうすれば良かったです」

 

 闘志を眼に宿し再度突撃してきた芦戸さんにから傘乙女(ヴァルゴ)を正面に置き、傘に酸と手を弾かれて仰け反った隙だらけの胴体に加減した右ストレート。

 本当は星屑の揺籃(ジェミニ)のような遠隔で攻撃できるゴーレムと組み合わせて戦うのが正しい運用方法なのだろう。

 けれど今はから傘乙女(ヴァルゴ)に適宜隠れながらのヒットアンドアウェイが最も適している・・・と思う。

 

“・・・そうだね。今のところその子はこの戦法が安牌かなぁ”

 

「お覚悟!」

「チ、チクショー!ロボが突破できなーい!」

「ゴーレムです!」

 

 惜しむらくはから傘乙女(ヴァルゴ)を筆頭として鳥紗さんが制作した試作ゴーレムには実践でのフィードバックが無く、武装の取り回しが些か悪そうなこと。

 鳥紗さんといえど流石に小学生の身で実戦を目標に云々なんて試せなかったのだろう。

 むしろあの齢でこれだけ個性を活かした試作機が作成できているだけ、天賦の才に恵まれていたと評するのが適切だ。

 

「ぶべらっ」

「空は飛べないでしょう?詰みです」

んにゃぁぁぁぁ届けぇぇぇぇ!!!

 

『再び傘ゴーレムのフルスイングが炸裂!しかし今度は上方にホームランだ!こりゃ厳しいか!?』

 

 上空に弧を描く彼女は少しでも落下地点をずらそうと必死に空中でもがく。けれど空を飛ぶ術を持たない彼女は抵抗虚しく芝生の上に打ち付けられた。

 

「芦戸さん場外!影山さんの勝利!」

 

(後5・・・いえ、4回が限度ですかね)

“ん〜?別にもうちょっと使っても大じょ──”

(嫌です)

“んふふ、はあい”

 

 単純計算で一人1回、強敵に限り2回だけ『錬成』を使うチャンスがある。順当に考えれば準決勝で爆豪さん、決勝で轟さんが上がってくるはずだ。

 正直心許ない・・・が、やるしかない。勝ったばかりだというのに次の試合を考えて憂鬱な気分になってきた。

 

ぬあぁぁぁ!くっそー!!負けたぁ!!」

「はぁ・・・みっともないので芝生で暴れないでください。私の品性まで穢れます」

「なんか今エゲつない罵倒されなかった?」

 

 芝生に転がって駄々を捏ねている芦戸さんを引き摺ってステージへ戻り、ミッドナイト先生の前で握手を交わす。悔しいと繰り返すロボットと化した彼女が見るも無残な化物に成り果ててしまう前に、彼女を首根っこを掴んで私達はそそくさと退場した。

 

 

*1
本人の主観




 ちなみに体育祭は掲示板回除いて33話目で終了する予定だったのですが、普通に40話超えそうで草です。プロットとは・・・?
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