「どうやってここまで来たのかしら」
ヘカーティアが興味深そうに首を傾げる。
「……月の民の力を借りて」
諏伯は短く答える。
「ふーん。あいつらの力、ね」
ヘカーティアの口元が歪む。
「よくそんな真似できたわね」
霊夢が一歩前に出る。
「あんたらが暴れてるせいで、月の民が幻想郷に来そうなのよ」
「へぇ?」
ヘカーティアは楽しそうに目を細める。
「ちゃんと嫌がらせ効いてるみたいじゃない。いい傾向ね」
「よくないわよ!!」
霊夢が睨みつける。
「幻想郷に迷惑なの。だから――攻撃、やめなさい」
一瞬の沈黙。
そして――
「嫌」
あっさりと返される。
「巫女風情が、神に命令してるんじゃないわよ」
空気が一気に張り詰める。
「……そう」
霊夢が一歩踏み出す。
「じゃあ力づくで分からせるだけね」
「ちょっと待て霊夢、それは――」
「黙ってなさい!」
諏伯の言葉を一蹴する。
「この女神止める気ないなら、口出ししないで」
ピリッと空気が震える。
ヘカーティアはくすっと笑う。
「ねえ諏伯」
軽く手を差し出す。
「そんな巫女と一緒にいるより、こっちに来ない?」
その瞳が、深く揺れる。
「全部忘れてさ。月の民に復讐しましょうよ」
静かで、甘い誘い。
「……」
諏伯は一瞬だけ視線を落とす。
「……その気持ちがないと言えば嘘になります」
全員の視線が集まる。
「ですが」
顔を上げる。
「幻想郷を見捨てる理由にはなりません」
はっきりと断言する。
「へぇ」
ヘカーティアの笑みが少し変わる。
「ちなみに、月を襲ってるのは純狐の意思でもあるのよ?」
その一言で、諏伯の表情が止まる。
「……本当に?」
低い声。
「おかしい……母さんが、また復讐に取り憑かれるなんて」
「ええ」
ヘカーティアは即答する。
「純狐自身の意思よ」
わずかな“間”。
「……なら」
諏伯が一歩踏み出す。
「会わせて下さい。直接話せば――」
――ドンッ
次の瞬間、体が弾かれた。
「っ……!」
「はぁ?」
ヘカーティアの目が冷える。
「何様よ、あんた」
一歩、踏み込む。
「せっかく誘ってあげたのに、“母に会わせろ”?
そんな暇あると思ってる?」
さらに圧が強まる。
「月の民の力借りてここまで来ておいて――」
吐き捨てる。
「本気で純狐のこと考えてるの?」
言葉が突き刺さる。
諏伯は――何も言えない。
沈黙。
その時。
「……うっさいなぁ」
ぽつりと、声。
「ん?」
ヘカーティアが振り向く。
早苗が一歩前に出る。
「さっきから聞いてれば好き勝手言って……」
ぐっと拳を握る。
「うるさいんですよ、この変なTシャツヤロー!!」
一瞬、空気が止まる。
「さっさと諏伯さんを純狐さんに会わせてくださいよ!!この駄女神!!」
「お、おい早苗!?」
魔理沙が慌てる。
全員が呆気に取られる。
そして――
「……変なTシャツ?」
ヘカーティアが、自分の服を見る。
「これが?」
ピキッ――と空気が軋む。
「……神のセンスが分からない凡人が」
笑っているのに、目が笑っていない。
「いいわ」
ゆっくりと顔を上げる。
「月の民の前に――あんたたちから遊んであげる。」
月の大気が震える。
完全にスイッチが入った。
地獄の女神の威圧に、四人は即座に戦闘態勢を取る。
空気そのものが重い。
立っているだけで、本能が警鐘を鳴らしていた。
「安心しなさい。地獄の女神といえど、心は広いの。殺しはしないわよ♪」
ヘカーティアは笑顔で手を振る。
「ははっ!そいつはありがたいんだぜ!!」
魔理沙が笑い返した瞬間――四人は一斉に散開した。
「弾幕!“八坂の神風”!!」
早苗の放った風の弾幕が一直線に襲いかかる。
だが、
「あらあら、弾幕薄くない?」
ヘカーティアは散歩でもするように避けていく。
その瞬間。
「当たるなんて最初から思ってないわよ!」
霊夢が真正面から突っ込む。
御札を握り、そのまま殴りかかる。
「おっと」
ヘカーティアは片手で受け流す。
重い。
人型とは思えない。
諏伯が叫ぶ。
「魔理沙!霊夢には夢想転生があります!霊夢ごと撃ちますよ!――“宝塔”!」
「おう!“恋符・マスタースパーク”!!」
宝塔の光と極太の魔砲が同時に放たれる。
轟音。
月面が白く染まる。
爆煙が広がり、視界を覆った。
やがて煙が晴れる。
そこには――
「げほっ……ちょっと!撃つなら言いなさいよ!」
「言っただろ!!」
文句を言う霊夢と、
「悪くなかったわよ〜♪」
無傷のヘカーティアが立っていた。
「……は?」
魔理沙の顔が引きつる。
「今ので……ノーダメなの?」
霊夢も眉をひそめる。
「さーて、なんででしょうね〜?」
ヘカーティアは楽しそうに笑う。
諏伯は目を細めた。
「……単純です。膨大すぎる神力で防御している」
「ピンポーン!!」
ヘカーティアが指を鳴らす。
「神力の壁さえ抜ければ、ちゃんとダメージは通るわよ?」
「なら何度でも撃つだけだぜ!」
魔理沙がミニ八卦炉を構える。
だがヘカーティアは余裕を崩さない。
「できるかしら?」
ニヤリと笑う。
「さっき当てられたのは、博霊の巫女が私を抑えてたからでしょ?」
空気が軋む。
「このまま“持つ”のかしら?」
一歩踏み出す。
「神である私を相手に――人間ごときが」