※間に合わなかったので供養として投下します。主催者様、期日後のタグ使用大変申し訳ございません。
意外ッ! それは快晴!
さて今は現在、俺がやってきているのは駅前の広場にある時計の下。何してるかと言われたら星……じゃなくて人を待っています。
「ご、ごめん……お待たせ」
「おはよう
荒い呼吸を携え目の前に現れた少女『高松燈』に問題ないという旨を伝えながら応対する俺。実際は彼女がここへ来たのよりも1時間と24分、36.8秒。地球が何回自転と公転したタイミングかまでは分からないが、それぐらい前からここにいました。こんなこと言うなんて最低だな。顔が見てみたいぜ……あ、鏡見れば良いのか。
「そ、そっか……それで
「ショッピングモール行きたいなと思いまして。少し見たいものがございます故」
問われた俺は本日の行き先と軽い理由を伝える。一応名乗っておきますが『
ではでは、移動するため一旦割愛をば。キンニ・クリムゾンッ——
あの後駅から電車に乗った結果乗り継ぎをミスして到着予定よりも遅くショッピングモールに辿り着いた。その結果、お昼の時間を過ぎておりました。なんでや工藤……あ、乗り継ぎ失敗したせいか。
なのでその、今からお昼ご飯を食べようって話になっています。イマココ。
「何食べる?」
「どうしよう」
昼時ということもあり、混み合っているフードコートやレストランフロアを歩き回りながら相談する俺達。結果としてはどこも混んでるのと、お互いにこれが食べたいってものがはっきりしていないので徘徊の一途を辿っております。これが本当の
「彼方君は、何か食べたいものとかは……?」
「うーん……揚げ物は避けたい、かな」
「揚げ物……天ぷらとか、やめた方がいいね」
「そうなっちゃうね」
どうしようかな、なんて思いながら再びフードコートに戻ってくると二人掛けの席が空いているのが目に留まる。およよ、このタイミングで空いてるとか運命かな? 間違っても交響詩曲第五番のことではない。
「あそこ座ろ?」
「うん……」
燈の手を取りながら空いていた席に座る俺達。任務、完了……まだ肝心のお昼持ってきてないから達成条件不十分だよ。
ということで、燈と俺と順番に食べたいお店を探して買ってくることになりました。先手は燈で、俺は席でお留守番してます。
頬杖つきながら呆然と周囲を見渡す。どこを見ても人、人、人。家族連れだったり友人とだったり、はたまた異性とサシの席なんか見える。……俺も異性とサシだよ。爆ぜろとか言わないで。
「お待たせ」
「決まった?」
「うん……注文もしてきた」
帰って来た燈に問いかけると、テーブルの上にベル——料理ができたら知らせてくれるアレ——を置いた。
おそらくだが会計を済ませてきたということの証明なのだろう。元より彼女のことを疑うなんてことはしていませんが。燈はめちゃめちゃ良い子なんだよ! 失礼、取り乱しました。
てなわけでお留守番をバトンタッチしてご飯探しに行く俺。待機中に目星をつけてたから行き先は決まってるようなものだが。
お目当ての店舗で注文しベルをもらった俺が足早に席へ戻ると、燈の持ってきたベルが鳴っていた。
「グッドタイミング、かな?」
「う、うんッ……行ってくるね」
「いてらー」
人混みに消えていく燈の背中を見つめながら席に腰を下ろす。相変わらず小さくて、人によっては頼りなく見える背中。けれどいくら追いかけても追いつけなくて、見失いそうになる儚げな彼女の後ろ姿。本当に変わらない。
彼女と出会った頃のことを思い返していると、トレーを持った燈がぎこちなくこちらへ向かって歩いてきた。なんか歩き方ペンギンみたいだな……?
「おかえりー」
「ただいま……ッ」
返事しながらトレーを置いた燈は、一気に緊張が解けたといった様子で椅子に座る。人にぶつからないように料理を運んできたから気張っていたのではないかと推測してみる。この状況なら誰だってそうなる。俺もそうなる。
「大丈夫?」
「うん……大丈、夫」
「それはよかった。あ、カレーにしたんだ」
俺の言葉に頷いてくれた燈。彼女が運んできたトレーに乗っていたのはカレーライス。……カレー良いな。全く選択肢になかったけどすごく美味しそうだ。
「甘口?」
「うん。一番甘い……やつ」
しおらしくなりながら答えてくれた燈。しょげないで。もっと胸張って。誰もカレーの甘口が悪いとか言ってないからね。うん。なんか、なんか言えよ俺。
「良いセンスだ……」
「えと、ありがとう?」
「
「あ、うん。いただき、ます……」
丁寧に両手を合わせカレーに手をつける燈。うーん、これは育ちの良さ。燈のご両親がしっかりと教えたことの表れですね。みんなもちゃんとご飯の前とあとは手を合わせるんだよ? 誰に言ってるんだろう。
カレーをフーフーと冷ましてから口に運ぶ燈を眺めていると卓上のベルがけたましく鳴り始めた。料理ができた……ってコト、ですね。
「ちょっと行ってくる」
「うん」
一言断りを入れて店舗へ向かう俺。そうして受け取ったのは——デン、長崎のやつ。あ、決して燈のバンドのベーシストのことではなくてよ? ……ということで今回は、このちゃんぽんで優勝していくわよ。
「おかえり」
「ただいま。こぼさないかヒヤヒヤしちゃった」
テーブルにトレイを置き一息つく俺。改めまして、俺が頼んだのはちゃんぽん。かまぼことかエビとかコーンとか入ったあれね。麺類の中でも上位に入るくらい好きなんです。
「美味しそう」
「間違いなく美味しいやつだよ」
先の燈と同様に手を合わせてから箸を取る。ありがとうお店の人。ありがとう工場の人。ありがとう一次生産者の人。感謝を込めてからいざ実食。
箸で麺を掴んでみると、魚介出汁の効いたスープが絡んでいるでは無いですか。それを一度食すと途端に口内へ広がるこってりとしつつもしつこくないスープの旨みとモチモチの麺の食感。
「うまし……」
口に含んだ分を飲み込んだ後ぽつりと溢す。やはりちゃんぽんは至高。異論は認めます。好みは人それぞれですからね。現に目の前の燈もカレー食べてるし。
自分に言い聞かせるようにしながら料理に手を伸ばそうとしたところ、視線を感じ顔を上げた。
「どうかした?」
「彼方君のそれ……美味しい?」
「これ? 美味しいよ。食べる?」
「いいの……?」
燈からの問い返しに頷く俺。こんなこともあろうかとね、二本目のお箸と取皿を貰ってきているんですよ。なんでそんなに用意がいいのかって? 企業秘密です。二本目の箸で器の中の麺やら具やらをよそい彼女の前に差し出す。
「ありがとう」
お礼を言って、渡したちゃんぽんを食す燈。所作の一つ一つが可愛い。目に入れても痛くないぐらいに。……今どっからか『燈は可愛いんだよ!』って聞こえてきた気がする。多分気のせいだな。きっとそうだ。
「美味しい……!」
「お口にあったみたいでよーございます」
美味しそうにちゃんぽんを食す燈をみながら小さく笑う。美味しいと言ってもらえて本当に良かった。俺だけじゃなくてお店の人も多分そう思ってる。多分きっとメイビー。しょうもないと感じる思考を頭の片隅に寄せながら、食事に戻ることにしよう。……うまい、うまい、うまい!
思考の隙間に生えてきた
「どうかした?」
不思議に思って問いかけてみると、何やら困った様子でカレーと俺とを交互に見てくる。……なんか苦手なものでも入ってたのかな? でも燈が苦手って言ってたの魚卵だったと思うが。魚卵の入ったカレーってそれはカレーなのか……?
「えと、その……彼方君もカレー食べる? 私だけもらっちゃって、悪い……な、って」
「え、あ、カレー? うーん、いいの?」
予想だにしていなかった問いかけに面食らいつつも確認の意を告げる俺。対する燈は首を縦に振った。あ、いいんだ。なんというか、燈の優しさが心に染みる。……あったけぇですわ。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。
「じゃあいただきます」
「うん……あーん」
「……うぇっ?」
彼女から差し出されたカレーを掬ったスプーンを前に硬直する。……え、あの、えと、燈さん? これ、え、いや、その、あなたが普通に使ってたスプーンですよね?
脳死に陥りそうな俺の手前、不思議そうに首を傾げてくる燈。ヤバい待たせている。ええい、心頭滅却、明鏡止水。
強く念じながら差し出されたカレーを食べる。こ、これは……ッ! めちゃめちゃ甘口のカレー。しかしながらコクがある。バターを使っているのか、スパイスの旨味を持ちつつもまろやかなのに食べ応えがあるではないですかちょっと。つまり、うまいってことです。
「ど、どう……?」
「めっちゃ美味しい」
口元を軽く抑えながら率直な感想を告げる。最&高過ぎる。燈、これを頼んでくるとかご飯選び上手すぎでしょ。ちょっと今度カレーの食べ歩きとかしてみようかな……。
「良かった……!」
俺の感想を聞いて明るい表情を浮かべる燈。可愛いですねぇ。守りたいこの笑顔。……さて、燈のスプーンで食べてしまったという事実からどのように目を背けようか。とりあえず
極力平静を装いながら汁を吸って太くなってきている麺を啜っていった。
昼食後、本題であるウィンドショッピングに向かった俺と燈。やって来たのは服屋。上着が見たくて燈にお願いして見に来ました。
新しいパーカーがね……欲しいんですけどね、全然お店見に行く機会が無くて。
「パーカーはどこかな」
「あっちの方……かな?」
二人揃って売り場がわからず右往左往する。服屋に来ると時たま売り場がわからなくなるんだけど、これって俺だけなのかな……?
内心で首を傾げながら歩いていると、お目当てであるパーカー類の並べられた棚を見つけた。
「彼方君、あれ」
「うん。あったね」
燈の言葉に頷きながら目に留まったパーカーを手に取る。……お、ファスナーが付いた前開きのやつだ。前開きじゃない普通に頭通すタイプのパーカーも好きだけど、個人的には前が開いて羽織るタイプの方が好きです。着脱が容易なので。
「パーカー、買うの?」
「良さげなのがあったらそうしようかと。燈もパーカーいる?」
問われた俺は頷きながら尋ねた。聞いてみたのはいいけど、彼女は現在進行形でパーカー着てるんだよな……逆に考えるんだ、パーカーが好きだから着ているのであって、新しいのを欲している可能性もあると。
「え、あ……」
「も、もし欲しいのがあったらって意味で。うん」
「いい、の?」
「うん。今日付き合ってもらってるお礼、っていうと変かもしれないけど」
首を縦に振りながら補足のように答える。いやね、下心なんてないんですよ。ほんとにただお礼したいなって思ってるだけなんですよ。でもなんか、怪しげなお誘いしてる人みたいな感じになってるのが否めなくてなんとも……悲しいねバナナ味。
「えと、じゃあ……」
そう言って一つのパーカーを手に取った燈が、徐に更衣室の中へと入って行った。……流れ変わったな? あと、燈が自分から更衣室とか入ってくの稀すぎんか?
普段では起こることがない事象を前に戸惑いつつ更衣室の前で待機していると、カーテンが開き着替えた燈が姿を現す。
「どう……かな?」
彼女が身に纏ったのは七部袖で白を基調としながら、こちらから見て左側の二割ほどが水色になっている被り込むタイプのパーカー。白と水色の組み合わせが彼女と恐ろしいほどの親和性を発揮している。少なくとも俺はそう感じている。
「めっちゃよく……似合ってる……」
「ほんと……?」
「うん……本当に本当」
あまりの良さに言葉を失いかけた俺。良すぎる。ほんとにそうとしか言えないぐらい似合ってる。もうちょい具体的に言うと、燈のバンドのドラマーが卒倒しないか心配になるくらい似合う。
「じゃ、じゃあこれに……する」
「OK」
頷いた俺は、再度着替えるために更衣室の中へと戻っていく燈を見送った。
あの後、燈の選んだパーカーを持って会計に行こうとしたら、彼女に色違いのパーカーを勧められたので自分の分として購入しました。燈が白と水色のパーカーなのに対して、俺のは黒と水色のパーカーです。
そして現在は、お店を変わって文房具屋にきております。
「……あっ、付箋」
「お。最近のやつって可愛いのね」
「これ……海の生き物だ」
燈が手に取ったのは……シャチの付箋。待て。落ち着け。ヨシ。……シャチの付箋ってなんだ。しかも結構リアル。デフォルメではなくリアリティに振り切れておる。企画通した人よく通ったなと思ってしまった。ごめんなさい。
「付箋集めてるの?」
「うん……言葉を集められるから」
「なるほどね。燈らしい理由だな」
「私、らしい?」
首を傾げた燈に対して頷く。言葉を集められるという理由で付箋を集めるという発想が、少なくとも彼女でないと出ないと思う。俺はその発想に至らないので。うん。あ、褒めてるからね?
「彼方君は何か買うの?」
「あーっとね、ペンとノートを。切れちゃったので」
「そっか」
「うん。お目当てだけ買ってくるんだけど、まだ付箋見てる?」
「うんっ……」
頷いた燈を見た俺は、それぞれの売り場に赴き欲していたノートとペンを手に取ると会計に向かった。そして会計を終え燈の元へ戻っている時、再び彼女の背を見ることとなり感じた。かつて、水族館で出会った少女の姿と重なっているのを。
「——燈」
相変わらず付箋に夢中になっている彼女に声をかけると、顔を上げた後にこちらへと振り返ってくれる。ちゃんとこっち向いてくれるの良い子すぎて辛い。俺は泣いた。
「決まった?」
「うん……買ってくるね」
「おう。外で待ってる」
会計に向かった燈を見送った俺は、宣言通り店舗の外で待機することにした。……最近、彼女と二人で出掛けると言ったことがなかったせいか、色々なことを思い出すな。などと思うこと数分、袋を持った燈がこちらへと歩み寄ってくる。
「お待たせ……あ、これ」
側に来るなり袋の中から付箋を取り出し手渡してくる燈。それはペンギンの付箋であった。……何ペンギンだっけ。目の周りが白くなってるこの子は。
「これは……?」
「アデリーペンギンの付箋……彼方君に似合うかなっていうのと……さっきのお礼」
「マジで? いいのもらって?」
「うん……ッ」
燈の返答を聞いた俺は差し出された付箋を受け取る。最近何かを貰うってことがなかったから嬉しい。加えて燈からのものなので余計に嬉しい。神に感謝。
「ありがとう。授業とかでありがたく使わせてもらうよ」
「うん」
頷いた後、小さく表情を綻ばせる燈。そのお顔100点……いや得点つけるの不可能なくらい綺麗です。というかこんな顔見ちゃって良かったのかな。あとで椎名さんに蹴飛ばされないか心配になってきたよ俺。
脳裏に浮かんだ不安を退ける努力をしながら、携帯を取り出し画面を見ると時刻はすでに16時を回っていた。
「ありゃ、もう16時過ぎてる」
「どう、する?」
「見たいところ見終わっちゃったしな……どうしようかな」
天井を仰ぎながら考え込む。やりたいこととかは特にないし……正直帰るくらいしかもうないかなってのが……あ、そうだ。
「……少し、歩かない?」
「歩く?」
「うん、駅まで。燈が良ければ……だけど」
俺の言葉に暫し考え込む様子を見せる燈。返答を待ちながら凛々しさを感じる彼女の横顔を見つめていると、こちらに向き直った燈が口を開いた。
「良い、よ。彼方君の、お願いだから」
「ありがとう」
彼女に謝意を述べ、揃ってショッピングモールを後にする。駅からショッピングモールまではバスでおよそ15から20分程だったから、歩いたら30分から1時間程のはず。
茜色に染まった空の下、車の行き交う幹線道路に設けられた歩道を並んで歩く。ゆっくりと、自分達のペースで。その最中、徐ろに燈が言の葉を溢す。
「今日……」
「ん?」
「彼方君が買い物に誘ってくれたの……嬉しかった」
頬を僅かに紅潮させながら発された彼女の言葉に、俺は撃ち抜かれた。比喩でもあるし物理でもある。言葉がこれ程に威力を持った物だったと改めて認識できました。本当にありがとうございました。とりあえず燈さん、軽率に火力の高い発言はおやめください。人が死ぬぞ。嬉しさで。
「そっか。そう言ってもらえて俺も嬉しい限りだよ」
そう返して柄にもなく頬を掻く。なんだが気恥ずかしくなってまいりました。画して俺達の間から会話が消え静寂が訪れる。
そんな中、俺は視線のみを燈へと向ける。相変わらず俯きがちで西陽を浴びる彼女は、自身が今まで見てきた中で最も儚げに感じた。
いつの間にか、そんな彼女から目が離せなくなっていた俺。漸く気が付いた。——彼女に対して好意を抱いていたことに。
「……彼方君?」
燈の姿に釘付けになっていると、こちらの視線に気付いたようで彼女が不思議そうに問いかけてくる。対する俺は我に返ると、なんとか返答を捻り出していく。
「あ、えと、ごめん……燈が綺麗だったから」
「綺麗……?」
無意識のうちに口を衝いた言葉。あ、あれ……思ってたことそのまま行っちゃったよ。あと燈が首傾げちゃったよ。どうしようこれ。この状況からでも入れる保険とかないの?
「うん……燈、すごく綺麗だったから……」
「彼方君……えと、ありがとう?」
戸惑いがちに感謝の言葉を伝えてくれた燈。それを受け取った俺は、唐突に歩みを止める。対する彼女も驚きながら足を止めた。
「どう……したの?」
「燈……今言うのは変かもしれないけどその、ずっと前から燈の事好きだった。だから、もし良ければ付き合って……もらえませんか?」
だんだんと塩らしくなりながら伝えた想い。そして、心の奥底からようやく取り出せた言葉。それを向けた相手である燈は沈黙したかと思うとこちらへと歩み寄ってきた。
「燈……?」
「正直……そういうの……分からないこと、ばかりだと、思う……」
「そう、だよね」
彼女から発せられた言葉に肩を落とす。そう、だよな。突然こんなこと言われても困るよな。こればっかりはしょうがない。
自身へ慰めるように言い聞かせていると、燈が先の続きを発し始めた。
「けど、彼方君のこと……もっと知りたい」
「……え?」
「だから、その……不束ですが、よろしくお願い、します」
その言葉と共に俺の手を取り、重ね合わせてくる燈。……あの、高松さん。一体全体何をしていらっしゃるんでしょうか。あと、今さっきなんて言いましたあなた? よろしくお願いしますとか言いましたか? 断れるの前提だったせいでどうしていいかわからなくなってきました。
「あ、え、うぇ?」
「大、丈夫……?」
「え、うん、多分?」
現実か夢かの区別がつかなかなってしまい混乱していると、燈が心配そうな様子でこちらを覗き込んでくる。あら可愛いですね……じゃなくてじゃなくて。え、OK貰えたの?
「あの、本当にいいの……俺で?」
「うん……ッ」
頷いた彼女は、重ねていた手を優しく握った。柔らかくて暖かい感覚が右手を包んだ時、無意識に俺は彼女の手を握り返していた。その温もりが、今この瞬間が現実であることを感じさせてくれる。
「ありがとう……暫くさ、このままでもいい?」
「……?」
不思議そうに視線を送ってくる燈。そうだよね。ちゃんと言わなきゃ、だよね。恥ずかしいとは思うけど。
だから俺は続けた。自分の言葉の意を補足するために。
「——今、自分が確かに生きている実感を得られる気がして、ね」
「そう、なんだ」
らしくない事を言ったせいか、顔が熱くなってきた気がする。恥ずかしがるなら言うなよって本当にその通りですね。でも気付いたら言っちゃってて……助からない要素しか無くなったなこれ。
「私も、彼方君のことを感じられるから……一緒にいる、今を。だから……こう、してたい」
「燈……」
彼女の名前を呟きながら視線を向ける。すると顔を上げた彼女と目が合い、小さく微笑んでくれた。あー、かわいい。こんな可愛い姿、他の人には見せられないな。あれ、俺って重い……?
「彼方君……」
「あ、はい?」
「改めて、よろしく……」
「こちらこそ」
未だどこかぎこちない俺達。それでも少しずつ、一歩ずつ変わって行ければな、と自身の掌から伝わる彼女の熱を感じながら俺は思うのだった。