樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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3章34話:神社で猥談したくない

「ゆ、幽々火しゃまのご尊顔……あ、あへ、あへ……夏葉は朝から幸せ者ですぅ……」

「寝て治るタイプの病ではなさそうですね」

「うん、脳って一回焼かれたら元には戻らないんだね……おいたわしや〜……」

 

 朝、珍しく遅起きして準備をしていると、夏葉がようやく起きてきた。が、ルームワンピを着た僕を見た瞬間みるみる顔が溶けていって今は何故か地べたを這いつくばっている。なにしとんねん。

 

「ど、どうぞ、私のことは椅子だと思って接してください。このまま顔を見続けたら幸せで死んじゃいますぅ……」

「もう人格としては死んでませんかこれ……」

「夏葉〜、お〜い、明日までには治してね〜? 多分ニコラちゃんぶちぎれると思うから」

 

 普通に無視しても「ほ、放置プレイなんて、我が(しゅ)のなんと寛大なこと……」と都合よく解釈されてしまった。もう打つ手がない。

 縋り付く夏葉を引き剥がしてもらい(昨日と構図が逆である)、月潟家を出て病院へと向かう。

 北湊病院。

 相変わらず、病室のドアを開ける時は脚が震える。あの光景は生涯忘れることはない。それくらい僕に取ってはトラウマであり憎しみの源泉でもある。

 

「ち囮……」

 

 頬を撫でる。

 体温を感じる。

 生きてると、実感する。それだけで充分、それだけでもう良い。

 

 転院自体は割とすぐに済んだ。前にも言ったが大掛かりな医療機器を必要としない以上、北湊の病院である必要はない。

 だがそれでも、毎日のケアが必要なことを考えるとそこそこの規模の病院ではあるべきだ。そこで選んだのが『奴奈市』の病院。

 翠雨様と出会う前から奴奈市にしようとは決めていた。北湊の隣市だからというのもあるか、1番の理由は神の存在だ。

 僕は奴奈に行く前から奴奈川姫という存在を調べていた。翠雨様という力強い味方を得ることが出来たのは結果論だが、少なくとも色恋の神とは違う由緒正しき神がいる土地であれば、そうそう手出しは出来ないだろうと考えたのだ。

 

「翠雨様、元気かな……」

 

 奴奈市はローカル線で1時間ほどで行ける距離にある。今回は病院の方で出してくれた車に乗って奴奈病院へと向かい、そこでち囮をお願いすることになった。

 翠雨様にお供えをしに行くことも考えたけど、電車じゃいけない場所だったのと次は向こうから行くから待つようにという、別れ際の言葉を思い出し素直に直帰することにした。

 

 帰りは電車で帰ることにした。

 数人しか乗客のいない車内で僕は頭の中で諸々の計算をする。

 既に母の通帳から現金を全て下ろしてある。数回に分けて下す羽目になったが、必要経費だ。襲撃後すぐに入院した叔母は勿論、通帳周りのことを警察にて正式に手続きしなかった叔父の愚かさによって口座は現在も凍結されていない。だが下ろしておくに越したことはないだろう。

 古銭を換金した分も含めて結構な額にはなったものの、ち囮の入院費のことを考えると余裕はそこまであるわけではない。このままち囮が目覚めない場合、資金自体は3年で底を尽きる。

 

「いや、僕の寿命的にあと1年か」

 

 自嘲気味に呟く。

 北湊を滅ぼす際、憎悪に飲み込まれても飲み込まれずとも結局僕は生を終える。前者は翠雨さまの手によって絞首台へ、後者は月潟に敗北して力尽きる時だ。僕の彼岸行きは確定している。

 となれば僕が居なくなってもち囮が生きていけるようになんとかする必要もあるのだ。目覚めるに越したことはないが、もし目覚めなかった場合にも資金を援助してくれる誰かを。

 つくづく叔母を恨みたくもなる。

 女優だった母さんはち囮が長期で入院していてもなんとかなるであろう遺産を有していた。にもかかわらずそれを勝手に浪費したことでこのような事態に陥っている。

 

 そんなことを考えていると、我が麗しき憎しみの都:北湊市が見えてきた。

 もう人質はいない。僕はこれから徹底的にこの街の闇と向き合うことになるだろう。その果てで僕は此岸での生を終えて彼岸にて救われる。それが今から楽しみで待ち遠しくて……。

 

「私ちゃんとやり遂げますから。待っててくださいね、かみさま」

 

 例えかみさまが望まなくても、必ずやり遂げますから。

 

◇◆◇

 

「はい、わんつーわんつー、かしこみかしこみ、みこみこにゃん♪」

「み、みこみこにゃん!」

「………何アホなことしてるんですか」

 

 夕方、境内に戻ってくるとアホ共がアホなことをしていた。

 巫女服を着た巫女が2人。手には祓え串を携えよくわからない踊りを披露している。月潟はノリノリで、夏葉は恥ずかしそうに踊っていたが、やがて僕の視線に気付いたのか月潟は踊りをやめてこちらに駆け寄ってくる。

 

「おかえり〜! 見てた? 見てたよね? どう? どうかな? 翠ヶ淵巫女〜ずの奉納演舞は!」

「今のけつフリダンスが奉納演舞……? 神をなんだと思ってるんです?」

「寧ろ神様はえっちなダンス好きだよ? 天宇受売命(あめのうずめのみこと)だって、全裸で媚び媚びえろだんす踊ってたんだし」

「神聖な神社で猥談したくないんですが!?」

 

 天岩戸(あまのいわと)のエピソードにて、エロスティックなダンスで神々を沸かせた女神の名は天宇受売命(あめのうずめのみこと)。芸能の神としても知られる女神だが、現代語訳するとこんな酷い字面になるのか。

 一応翠雨様と同じく神話の時代の神なので、この先出会うこともあるんでしょうかね。実際にヤバい格好の女に出会ったら興奮とかじゃなくて恐怖が先に来そうだけど。

 

「幽々火ちゃんも踊る?」

「私は奉納される側なので此処からその眺めを楽しんでおきますよ」

「ふ〜ん、幽々火ちゃんのえっち」

「奉じておきながらこの態度……」

 

 いつものように軽口を叩き合う中、夏葉はまだ熱を帯びた視線でこちらを見ていた。一応時間が経ったから少しは落ち着いたようだ。

 

「……あ、あにょ、あの、あにょ……幽々火さま……わ、私……」

「……? 夏葉さん?」

「わ、わわ、わわわ、私……まだ処女なのでいつでも大丈夫ですから!」

「……………………」

 

 何言ってんだこいつ。

 

「琵樹さん、このお馬鹿さんは何を言ってるのでしょうか」

「多分、巫女さんは処女として神様に仕える存在で、しかも神様に初めてを捧げる〜とかなんとかどっかで得た知識を間に受けたんじゃないかな〜?」

「あなたが吹き込んだわけではないと?」

「なんのことかな〜? あ、因みに私も経験ないからね? 70年前も含めて♪」

「聞いてないんですけど……」

 

 ちょっと? 神社で猥談やめよ?

 

「幽々火ちゃんとの"仲良し"のために取っておくんよ〜」

「わ、私も幽々火さまの為ならいつでもこの身この魂を捧げる所存でしゅうぅう」

「帰りてえ……」

 

 人質の消えた北湊。

 そして代わりに変な巫女が2人出来ました。

 自体が好転したかは全く分からないけれど、別に悪い気分ではない。感傷に浸ったあとだからか、余計にそう感じる。

 

「さ、幽々火ちゃんに見てもらう為の奉納演舞、第2ラウンドいくんよ〜!」

「ひゃ、ひゃいいい! み、みこみこー!」

 

 それはそれとして夏葉は次章からちゃんと元に戻ってますか? これ大丈夫なやつ?




これにて3章完結です。
同時に毎日投稿も一旦終わりになります。
4章開始までしばらくお待ちください!

中々伸び悩んでいたりしましたが、皆様に支えられて投稿を続けております。
感想、評価、ブックマークなど、本当に感謝しかありません。
見せ方の問題なのか、この手の内容が伸びづらいのかまだまだ分からないことが多いですが、最後まで走り抜ける所存。気づいたこととかあれば感想で頂けると嬉しいです。

また、小説家になろうでも投稿を開始するため、そちらでも遊びに来てくれたら幸いです!
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