ミスったので修正します。ごめんなぁ!!
「うああああああああああああああああッ!!?」
医務室の一角、バネが組み込まれた玩具のようにベッドから飛び起きた少年がいた。数刻前に
「…………?」
飛び起きたのはいいが、何が原因で飛び起きたのか自分でも理解できていないらしいハリー。ただ、死ぬほど見たくないものを夢の中で見たような気がしている。酷く汗を掻いたのか、体にべったりと制服が張り付いていて気持ち悪い。
大雨で濡れた身体や服を魔法で乾かしてくれるのだから、寝汗も魔法でどうにかできればいいのに……と心の中で呟くハリーはふと、ベッドの横に設置されている二つの椅子、そこに座っている存在に気付いた。同じグリフィンドールの寮に住まい、強い友情で結ばれている友人の二人、ロンとハーマイオニーである。
「ハリー! 良かった、起きたのね!」
「ハリー、君、酷く魘されてたんだ。見てるこっちも気が気でないくらい」
そう言って笑う二人の目元は赤く腫れており、随分と心配をかけてしまったことを理解したハリーは申し訳なさそうに呟く。
「ごめん、記憶があいまいで……ディゴリー先輩に助けられたことは覚えてるんだけど……」
「箒から落ちたんだよ、ハリー。吸魂鬼のクソ共がいきなり襲ってきて……」
「それと……その……落ち着いて、気を落とさない……は、難しいでしょうけど……あなたの箒が」
「え……?」
ハーマイオニーが気を遣うような言葉遣いと声音でそう言う。そしてロンが指差した方を恐る恐る見てみれば────ボロボロになって砕け散ったハリーの相棒、ニンバス2000の姿があった。
「……そんな」
「その、どうしようもなかった。ハリーの手から離れた後、暴れ柳に突っ込んで……」
「ああ……」
絶望のどん底に叩き落されたかのような表情と顔色でハリーが呻く。試合の勝敗をロンが伝えようとしていることも気付かないくらい、ハリーの心は沈み切っていた。初めて夢中になったクィディッチ、その象徴とも言えるような箒。自分がグリフィンドールを勝利へと導くための武器が粉々に砕けた姿は、ハリーの心を絶望に沈めるには十分過ぎた。
そんな中────医務室のドアが無遠慮に、かつ優しく開かれた。
「おお、もう起きていたか」
入ってきたのはハッフルパフ寮の学友であり、何かと秘密を抱えていそうなファヴニル・モルトキュール。手にはいつも通り薬水が入っているという瓢箪が握られており、もう片方の脇にはいくつかの本と薬品が抱えられている。
「……ニール?」
「記憶は大丈夫そうだな。Gがかかって記憶が飛ぶ人間もいるからな。少し懸念していたが、杞憂だったらしい」
「何しに来たの?」
箒が壊れてしまったことや、先程まで試合をしていたハッフルパフ生ということもあってぶっきらぼうな言い方になってしまったハリーの言葉を気にした様子もなく、ファヴニルはいつも通りの表情で丸椅子を持ってきてハリーの近くに腰かけた。
「一つ提案があってな。ロナルドとハーマイオニーがいるなら話も早い」
「「「提案?」」」
「ああ。箒が壊れたと聞いたからな」
「誰から聞いたの?」
「スリザリンの……マルフォイだったか? 彼が騒いでいたのを見たぞ」
その後監督生に拳骨を喰らって沈んでいたが、とカラカラ笑うファヴニルに対して何とも言えない表情を浮かべる三人。トラブルやイレギュラーが発生しても平常運転だったらしいドラコ・マルフォイに呆れるやら憤りが湧くやら、様々な感情がないまぜになった三人にファヴニルは続ける。
「試合はグリフィンドールとハッフルパフがどちらも大抗議でな。学期末にもう一度試合をすることになった」
「そう、なんだ」
「というわけでハリー、お前には新しい箒を手に入れてもらう」
「手に入れるって……買うの?」
ハリーが乗っていたニンバス2000は高額な箒だ。高額なだけあって、性能も凄まじいものであった。
そんな箒に乗っていたハリーが満足できるような箒を手に入れるとするなら────それこそニンバスの後継モデルであり、人気で品薄が続くニンバス2001や、最近発売した超高性能箒、ファイアボルトぐらいだろう。
ハリー達がどうするつもりだと疑問に思っていると、ファヴニルは何でもなさげに口を開いた。
「いや、作れ」
「「「作れ!!?」」」
医務室では静かにするものだと分かっていても、思いもよらないファヴニルの発言に叫んでしまう三人。あんな高速で飛び回る箒を買うどころか、ずぶの素人だけで作れと言ってきているこの男の言葉が信じられないのである。
「なんだ、知らないのか? 箒の販売にはライセンスが必要だが、製作することは違法には当たらん」
「え、そうなの?」
「ああ。クィディッチに興味がない俺でも少し調べれば出てくる────ワールドカップだったか? あれのルールで勘違いされがちだがな」
「ええと……試合に参加する選手の箒は、開催当時の最高性能を有する箒を公式とする……だったかしら?」
「ああ。最高性能であれば、無名の箒であっても問題はないし、ハンドメイドであっても構わんらしい」
クィディッチに使われる箒は現行の箒の中でも最高級品のものばかり。ハリーが使っていたバランスが良いニンバス2000、最近登場した炎雷の如き速度のファイアボルト、気難しい女帝の如き苛烈で繊細なクイーンスイーブ、彗星の如く駆け抜けるコメット────そのどれもが普通の箒とは一線を画す性能を誇っている。一般的に利用される箒と比べるのはおこがましいほどの性能の箒ばかりなのだ。
それに匹敵する箒をハンドメイドで作るとなれば、どれだけの時間とお金がかかるのかは……少し想像しただけでも分かるものだ。だが、本当に分からないことが会った時に聞けば、解説をしてくれるファヴニルが考え無しに発現することはないだろうという信頼がある。付き合いがなかった一年生、関わりができたがそこまで濃いものではなかった二年生と、学期末のテスト勉強に付き合ってくれたり、何もかもがどうでも良さそうな顔をしていても案外気遣いができるので上級生、同級生、下級生含めてファヴニルの評判は結構いいというのは、ハリー達がよく知っていた。
だからこそ、今回の提案にも確かな確信があってのことなのだろう。そう信じてファヴニルの言葉に耳を傾ける。
「恐らくだが、今のお前達であればニンバス2000を超えた箒を作るのはわけないだろう」
「その、なんでそう思うの?」
「ここまでで覚えた魔法と、魔法薬学などの知識さえあれば問題ない。ホグワーツの生徒の中にはお前達の歳でホグワーツを飛び出して箒メーカーに就職した人間もいる」
まぁ、当時の校長に連れ戻されて卒業はしたらしいがな、と薬水を飲みながらファヴニルは続ける。
「ハリーとロナルドには前にも軽く話したと思うが、クィディッチに使われている魔法は魔法の知識が詰まっている」
「ああ、そういえば言ってたっけ。えーと、呪文学、魔法薬学、植物学とかだっけ?」
「…………ああ!?」
ハーマイオニーが何かに気付いたように叫んだ。
「ど、どうしたのハーマイオニー?」
「いきなり叫ぶなよな……耳がキーンってなるよ……」
「ごめんなさい! でも、そうよ! 私達、箒を作れるわ!」
驚くハリーと耳を塞ぐロナルドを真っ直ぐ見据えたハーマイオニーは、ファヴニルが持ってきた本や薬品を手にしながら言う。
「これ、見覚えがあるわ! 全部授業で使った資料だったり、授業で作った魔法薬よ!」
「あ……! 確かに見たことある!」
「薬品なんて去年四苦八苦して作ったやつじゃんか。あれ難しかったよなー……スリザリンでも減点されてたしさ」
苦い思い出を脳裏に浮かべたロナルドに釣られるように、ハリーとハーマイオニーも苦笑する。制限時間が迫る中で魔法薬を作るテストというのは、本当に神経が摩耗するのだ。
「急いで作ろうとするとそうなる。スネイプ先生が定めた時間一杯使えば失敗はなかったぞ」
「そうだけどさー! 焦るだろ、砂時計を見るとさ。しかも嫌味ったらしい感じで講評するし」
「気持ちは分からんでもないがな。だが、ネビルは褒められていただろう?」
「「「あれ褒められてたの!?」」」
制限時間全てを使って作った魔法薬をネビルが提出した際、薬品を何度か確認したスネイプが少し間を開けた後、遠回しすぎて皮肉や嫌味にすら聞こえてしまう言葉でネビルを褒めた。なお、ネビルの祖母も中々苛烈な言い方をする女傑なので、何となく褒められているのだろうなと感じ取っていた。
「まぁ、話を戻すが……知識はある。実践も積んでいる。ならばやれないことはないだろう。……それに」
「「「それに?」」」
言葉の続きを促した三人に対して、ファヴニルは笑った。いつものように、獰猛で、けれど知性を感じさせる笑みを浮かべた。
「そっちの方が面白いだろう?」
「面白い、かなぁ?」
「ああ、面白いさ。考えてもみろ。お前達が作った箒は誰も見たことがない、お前達だけのオリジナルだ。そんな箒がシーカーというエースを乗せて空を駆ける────」
ほら、面白いしワクワクもするだろう? そう言って笑うファヴニルに対して、ハリー達も目を輝かせて頷いた。
自分達で作った箒を使って、勝利を掴み取るなんて、まさにコミックの中の話のようでワクワクするに決まっているじゃないか。
「答えは……聞くまでもなさそうだな」
「「「もちろん!」」」
「ならまずは体を万全にしておけ。時間はまだたっぷりとあるからな」
これから間違いなく忙しくなるだろうが、今の三人はその忙しさよりも皆で何かを作るという体験へのワクワクが勝っている。今からどんな箒を作ろうかとか、どんな姿にしようかとか楽しそうに話し始めるハリー、ロナルド、ハーマイオニーを見て、ファヴニルは薬水を飲む。
(ふむ、これなら大丈夫そうだな)
メンタルが崩れると様々なことに対してネガティブになったり、荒々しく対応してしまう。そうなってしまえば、ハリーが今学んでいる守護霊の呪文も成功率が低下して、吸魂鬼への根本的な対処ができなくなってしまうのは目に見えていた。するとどうなるかと言えば、ファヴニルに対してホグワーツが問題の解決を催促し始め、ゆっくり酒を飲む時間が少しだけ減ってしまう事態となってしまうのだ。
酒を飲むためには苦労を惜しまない。忘れることなかれ、こいつの頭の中の九割は酒のことで埋め尽くされているのだ。
* * *
ハリー達が自分達だけの箒を作るために四苦八苦しつつ、鬼気迫る勢いで様々な課題を攻略し続けている中でも時間は進む。
ファヴニル達にとって三年目となるホグワーツの冬休み。ファヴニルは今年もまたヴィヴィアの家に招待されていた。去年は角笛だったり大鍋だったりするホムンクルスに再会したり、竜殺しの剣槍に拘束プレイを強要されている友人を目撃するなど中々濃い冬休みを過ごしているわけだが、この冬、ファヴニルはアドワーズ家のダイニングキッチンで酒やグラスを並べてバーを始めていた。
現在時刻は16:00────お酒を飲み始めるには少々早過ぎる気がしないでもないが、酒はいつ何時飲んでも美味しいものであるというのがファヴニルの考え方であるので気にしたら負けである。
「あちらでも思ったが、本格的だな……」
「店に置いていたものを持ってきているからな。俺の店はバーではなく酒場だが」
「店? 君、店を持ってるのか?」
「ああ。酒を扱うなら、自分の城を持ってみろと友人に言われてな」
ひっそりと経営している、とクツクツ笑うファヴニルがカウンターに立てかけているのは彼が経営している酒場の看板である。『竜の酒処』という安直な名前ではあるが、知る人ぞ知る超穴場の酒場として密かな人気がある店だ。
「店主の君がいなくていいのか?」
「ああ。俺の知り合いや仕えてくれてる連中が回してくれているからな」
「うん? 君は眷族がいないのではなかったか?」
「ああ、いないぞ。いないが、俺に仕えてくれているやつが何人かいてな」
写真もあるぞ、とファヴニルが懐から取り出した写真を見てみると、見目麗しい男女の姿が動きやすそうな制服を着て酒場を歩いている。髪色や背丈、肉付きなどはバラバラだが、共通しているのは、肌が死人のように真っ白で瞳が鮮血のように赤いことだ。
「連中曰く、俺の血は最高級のブランデーやコニャックすら霞むらしいぞ」
「待て、君の血を飲むのか? 彼らはまさか……吸血鬼というやつか?」
「らしいな。正確には吸血鬼とシルキーやバンシーの混血だそうだが」
「らしいな!!? そしてなんだその混沌とした混血は!?」
そもそも魔法界においての吸血鬼とは、ゾンビ同様生ける屍であり、知性は認められるが杖の使用規則によって杖を携帯及び使用することを禁じられている存在なのだ。人狼ほどとは言わないが、非常に寄生的で危険な性質を抱えているがゆえに闇の魔法生物として教科書に載るくらいなのである。
そんな者達がファヴニルが経営しているらしい店で働いているというのは、何かの冗談のようにしか聞こえないが、ファヴニルがそのような嘘を吐くわけがないことを知っているヴィヴィアは彼の店の店員が吸血鬼であることを確信していた。
「というか君の血を飲んで大丈夫なのか? 四肢が捥げて爆散するとか言っていただろう?」
「ああ、それが不思議なものでな。やつら、爆散しないんだ。しない代わりに────」
「代わりに、どうなるんだ?」
まさか骨が砕けたりするとか、内臓が滅茶苦茶になるとか、そういうグロテスクなことになるのかとヴィヴィアが引き攣った表情を浮かべる中、ファヴニルが言う。
「泥酔する」
「で、泥酔……?」
「凄まじいものだぞ、やつらの泥酔ぶりは。泣き上戸に笑い上戸、爆睡に……怒り上戸がいないだけマシか」
困ったものだ、と言うわりにはその声や表情には困った様子はなく、どちらかと言えば優しい表情を浮かべている。こういう表情を浮かべているファヴニルをホグワーツで見ることは稀で、竜の楽園ではよく見る表情であった。
「まぁ、そのうち紹介することもあるだろう。それはそれとして何か飲むか?」
「ん、そうだな……何か変わったものを飲んでみたいかな」
「ふむ……バレンタインには少し遠いが、これなんかは変わったものかもしれん」
そう言ってファヴニルが手にしたのはリキュールグラスと呼ばれる小型の足つきグラス。元々はリキュールをストレートで味わうために作られたというそれはよく冷えている。そんなグラスに注がれるのは品の良いカカオの香りが特徴なリキュール、クレーム・ド・カカオ。本来はアルコールが入っているものだが、今回のこれはアルコールを飛ばした一品である。
透明度の高いチョコレートのようなリキュールを注いだグラスにバースプーンを当て、静かに注がれるのは生クリーム。白と黒の美しい層となったそれに、仕上げとして添えられるのはマラスキーノ・チェリー……つまりはサクランボのシロップ漬け。
「デザートカクテルの王道、そう呼ばれる一品、エンジェル・キッスだ」
「ああ、ありがとう」
チェリーの装飾がなんとも可愛らしい一品であり、ファヴニルがそんな可愛らしい名を言うのが少しだけ面白く感じながらも、ヴィヴィアはそのカクテルを受け取る。
「うん────甘いな、凄く。まるで生チョコを飲んでいるみたいだ」
まず最初に感じたのは、生クリームのまろやかな甘み。続いてやってくるのはカカオリキュールのチョコレートのような豊潤でリッチな風味。滑らかに喉を通っていくこのカクテルはまさに飲むデザートと言って過言ではない。
「ただ、あれだな。騙されて悪酔いしそうな気がするな」
「ああ、かもしれんな。デザート感に騙されて飲んで泥酔する可能性は────」
「あら? ヴィー、何を飲んでいるの?」
ヴィヴィアがファヴニルの話を聞きながらもう一口カクテルを口にしようとした時、ヴィヴィアの母であるエレインがやってきた。その手には籠があり、中には一杯に詰め込まれたラズベリーやブルーベリー、キイチゴが入っている。
「ああ、お母様。今ニールにアルコールが入っていないカクテルを作ってもらってまして。エンジェル・キッス、というものだそうです」
「まあ、エンジェル・キッス! 懐かしいわ!」
「エレイン殿も飲んだことが?」
「ええ、もちろん! 学生時代にロットがね、私をデートに連れていってくれた時に飲んだわ」
「アルコール入りを?」
「いいえ、ノンアルコールよ! そのお店の店員さんったら凄かったわ! 私達のことを未成年だって一目見て分かったって!」
まぁ、それはそれとして。そう言って頬を薄っすらと赤く染めたエレインは懐かしむように、慈しむかのように────そして、恋する乙女のように笑みを浮かべた。
「デートに誘ってくれた時、本当に嬉しかったわ。ロットったら凄く緊張してて、お誘いするだけで声が震えてたのよ」
「それだけエレイン殿へ心を傾けていたのでしょう」
「ええ、それが分かっていたからこそ、私はあの人を選んだの。誠実で、優しい、そして誰よりも私を愛してくれたあの人を」
一応、婚約者もいたのだけれどね、と笑ったエレインに疑問符が浮かぶファヴニルとヴィヴィア。エレインとロットは恋愛結婚をしたと聞いていたから、エレインの婚約者はロットだったのではないか……そう思ったのだ。
「あ、ごめんなさいね! 正確には婚約者候補! ほら、アドワーズって結構歴史ある貴族の家でしょう? だから婚約者候補が結構いたのよ」
「お爺様やお婆様がそれを良しとしそうな気がしないのですが……」
「ええ。だからこそホグワーツに入学する時に言われたわ。心から好きになった人と一緒になりなさいって!」
「そしてそれがお父様だった、と」
花が咲くような笑みを浮かべてヴィヴィアの言葉を肯定するエレインは、昔のことを思い出したのか、大切な宝物を抱えるかのように口を開く。
「凄かったのよ、ロットってば。私に相応しい人になるんだってたくさん頑張ってたの」
「ほう……具体的には?」
ドラゴンとして武勇伝には目が無いファヴニルが反応する。
「あら、聞きたい?」
「無論です。名誉騎士として、仕える家の方々の武勇を聞きたいのはおかしいことでしょうか?」
「いいえ全く! ……そうねぇ、素面で話してもいいけれど、何か飲もうかしら? ……あ、ダンブルドアからあなたのことは少し聞いてるわ! お酒に詳しいって!」
ニコニコと笑うエレインは、そっと差し出されたメニュー表を受け取ってしばらく悩んだ末にあるカクテルを指さした。
「ホット・ウィスキー・トゥデイをくださる?」
「ああ、寒い日にはいい一杯ですね」
ホット・ウィスキー・トゥデイとは、ホットグラスに注がれた琥珀色のウィスキーに角砂糖を投入し、熱湯を注ぎ入れ、クローブを刺したスライスレモンを添えるだけのシンプルなカクテルだ。シンプルだからこそ、好みの酒を味わえる一品でもある。
「火傷しないよう、お気をつけて」
「ありがとう。────うん、体が芯から温まる感じがするわ!」
「口に合ったようで幸いです」
「ええ、とっても美味しい。……ああ、それでロットの話だったわね!」
上機嫌に笑うエレインはチビチビとカクテルを飲みながら話を続ける。
「相応しい人になるって言って、猛勉強して成績もそうだけれど、強さも身に付けていったわ」
「お父様の強さ、と言うと、あの鉄壁と謳われるような守りの堅牢さですか?」
「それもあるけれど、それは元々! あの人最初からプロテゴの腕はとんでもなかったから!」
こと守ることに関しては間違いなく当時のホグワーツ生の中で頭一つ抜けていた、そう言っても過言ではないロットは元ハッフルパフ生。ハッフルパフは守ることに関して最強になる生徒が多いのだろうか?
「それで、守るだけじゃダメだって魔法をたくさん覚えて……私の婚約者候補の人達に片っ端から決闘を申し込んで全戦全勝してみせたの!」
「決闘王になった、ということですか?」
「ええ。あ、リベンジで決闘を申し込んできた人達も返り討ちにしてたわね」
分かっていたことだが、ロットもまたアドワーズ家に相応しい強さを誇る戦士であった。
「あ、でも個人的に許せないからってロットが決闘を申し込んだ人達もいたわね」
「お父様を怒らせる人間がいたんですね……」
ロットが怒った時の苛烈さを知っているヴィヴィアは、彼を怒らせた者への呆れなどを浮かべつつ腕を擦る。穏やかな人間だからこそ、怒らせると恐ろしいというのはどの世界であっても共通事項である。
「ええ。確か……マローダーズとか言ってつるんでた人達ね。一応私の婚約者候補だった人もいたわ」
「マローダーズ……?」
「自分達のことをいたずら仕掛け人なんて言ってた問題児四人ね」
「……双子のウィーズリーの先代、と言ったところか?」
「色んな方面から話を聞く限り、ウィーズリーの双子たちは皆を笑わせるいたずらでしょ? 全くの別物よ」
冷たい笑みを浮かべたエレインは続ける。
「あれらのいたずらは人を笑わせることもあったけど、人を傷付けることが多かったわ。だからこそロットが怒ったのだけれど」
「なるほど、確かに別物らしいな、ヴィヴィア」
「そうだな。彼らのいたずらは確かに派手だが、人を楽しませたいという気持ちが伝わってくる」
なお、フィルチには笑えないいたずらが多いことはご愛敬。お労しやフィルチ。
「ところでエレイン殿の婚約者候補だったという御仁の名は?」
ファヴニルが問いかけた質問に対し、エレインは少しだけ考えた後────はっきりとした声でその名を口にした。
「シリウス・ブラック。ブラック家の跡取りだった人ね」
エンジェル・キッス
18度 甘口 ビルド リキュールグラス
デザートカクテルの王道とも呼ばれるカクテル。クレーム・ド・カカオというカカオリキュールと生クリームを使った飲む生チョコのようなデザートカクテルであり、天使の口付けという言葉に負けないほど優しくて柔らかい、それでいてちょっとリッチな甘ーいカクテル。カクテルピンで添えられたサクランボのシロップ漬けも相まって可愛らしい一品。
甘さに騙されて悪酔いするかもしれないカルーアミルクの系譜……とも言えるかもしれない。皆は騙されないようにしようね!(二敗)
ファヴニルからのお言葉
「エンジェル・キッスは食後に飲むデザートカクテルだ。合わせるならチョコレートケーキやブラウニー……チョコレート系のスイーツやナッツ類がいい。ディナーの後、ゆったりと余韻に浸かりながら飲むのがいいだろうな。度数もそこまで高いというわけではないが、騙されてカパカパと飲めば悪酔いするかもしれん。……ああ、それとカクテル言葉もあってな。ロット殿がエレイン殿とデートに行った時に飲んだと聞いて、ロット殿も中々粋でロマンチストだと思ったよ。カクテル言葉は『あなたに見惚れて』――――相手に惹かれている気持ちや恋心を伝えるための象徴的なメッセージを言葉にせず、飲み物で表現する……花を贈るのと同じようなものだな。花言葉はニド姉さんの専門だが、代表的なものはチューリップ、アネモネ、向日葵、カスミソウ、だそうだぞ」
ホット・ウィスキー・トゥデイ
ウィスキーに角砂糖を投入、その後熱湯とクローブを打っ刺したスライスレモンをぶちこんだホットカクテル。そもそもトゥデイというのが『today』ではなく『toddy』。好みのお酒に砂糖を入れて水か熱湯をぶち込むスタイルが『toddy』。トディじゃねぇかって思うじゃないですか。トゥデイなんです。文献によってトディだったりトゥデイだったりするんです。はっきりせんか。
まぁ、好みのお酒に砂糖を入れて――――って辺りから恐らく「今日の一杯」みたいな意味合いも兼ねてるんじゃねぇんですかね?
ファヴニルからのお言葉
「ホット・ウィスキー・トゥデイは温かいウィスキーベースのホットカクテルだな。レモンの酸味と健胃効果があるとされるクローブが入ったこのカクテルは体を芯から温めてくれる。好みの酒に砂糖を加え、水かお湯で割るToddyスタイルは根強い人気があるな。無粋な言い方かもしれんが、水割り、お湯割りというやつだな。これもメリットがある。水割りであれば香りや味の輪郭を変化させて飲みやすさや香味の調整ができるし、お湯割りであれば酒の香りを引き立ててくれる。ウィスキーであればお湯割りにすることでリラックス効果も期待できる。……ああ、Toddyスタイルだが、今日の一杯として色んな酒を楽しむのにも使えるぞ。夜、寝るまでの時間にそれを飲みながらどんな味わいだったのか、ゆっくり飲んで手記に纏めてみるのも面白い」