「別れよう」と上位存在の彼女に言うだけの短編集   作:やゆゆゆゆ

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いつもと変わらず俺は飯を食っていた。

 

今日は豚の角煮と白飯、具でいっぱいの味噌汁。手元でスマホをピコピコやんながら食っていったので味なんてよく分からん。

 

「ねぇ、美味しい?君が食べたいって言ってた角煮。上手く出来たつもりんなんだが・・・・」

 

眼の前でそう尋ねる同居人に、「あぁ、まぁ。よくわかんねぇわ。」と適当に返す。今日はイベントの開始だから、こいつと話す時間が惜しい。

 

半分くらい食べ終わったところで席を立って、部屋に向かうと「すぐ飯食って帰ってくっから」と伝えていたパーティの連中はまだオンラインみたいだ。

 

「おぉ、おかえり!相変わらずヒモやってんなぁ!」

 

「うっせぇなぁ、ヒモじゃねぇって言ってんだろうが。主婦だよ、主婦。最近じゃあ、ジェンダーだのでそういうこともあんの!」

 

「そうだな、忘れてた!主婦・・・・」

 

「ただし、家事は何にもしてねぇ主婦だけど!」

 

騒ぐパーティ連中にちょっと苛つきつつ、俺はクエストの開始ボタンをクリックする。イラつきのせいか、少し手が震えた。

 

「分かってんだよ、そんなこと。俺が一番・・・」

 

コイツラに言われなくたって自分の現状なんて誰よりも分かっているつもりだ。

 

煌々と照らされたディスプレイのクエスト以降画面には、無精髭が生えたいかにも中年の太った男の面が映っていた。

 

昔はもう少し、痩せた体をしていた。昔はもう少し、仕事というものをしようと思っていた。昔はもう少し、ちゃんと自分で家事をしていた。昔はもう少し、ちゃんとした大人になると思っていた。

 

でも、顎についたブサイクな肉を見れば自分がどんな人間かなんて何よりも分かった。

 

 

 

 

俺は、もう五年。この家の寄生虫になっていた。

 

 

 

 

 

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マトモであったのはいつだったかと思い返せば、それは大学生の頃までだったろう。

 

高校生の頃、思っても見なかった難病にかかり、そこから腕の良い医師の手術で命を救われた俺はよくある志望動機だったろうが、必死の勉強の末に医学部に入った。

 

いつか、俺と同じような誰かを救いたい。あの医者に繋いでもらった命を誰かのために使いたい。

 

大学に入るとサークル、合コン、コンパなど様々な誘惑が襲いかかってきたが、かつて抱いたあの情熱が俺を動かして勉強へと追いやった。(まぁ、学年の中でも賢くない生徒だったから、人一倍頑張らねばという実情もある)

 

もちろん、実習だのテストだのは途方もなく辛いものだった。一度落ちれば留年確定の試験、研修先の病院で受けるパワハラまがいの説教。しかし、ただ辛いだけかと言うとそんなこともなかったのである。

 

 

 

チェン・ライシン。

 

 

 

北京大学から留学できたというその女性と付き合い出したのも、大学生の頃だった。同じ実習班に配属になった彼女はいわゆる龍族の女の子らしく、青と白が混じった上に怜悧な顔立ち、モデルのようにスラッと背の高いスタイルの良さは医学部の中でも大きな話題だった。

 

しかし「医学部の王子」と以後呼ばれることになる彼女も、流石に完璧人間というわけではない。留学はじめのうちは日常会話レベルの日本語はこなせるのだが、医療用語には対応できない彼女の通訳を何度かこなすうちに、僕らは知らずに中を深め、三ヶ月ほどたたずで交際を始めるに至った。

 

 

「ねぇ、アオイ。今日の帰りは君の家に寄りたいな。だって・・・その・・・・あの・・・・」

 

 

 

実習が終わるたびに恥ずかしそうにそう言いながら尻尾を巻き付ける彼女をからかうのが一番の楽しみだったのを覚えている。

 

必死に勉強しては、遊び、またテストに備えて必死に勉強しては、どこかにデートにでも行き・・・・辛い実習も一緒に乗り越えていく。そんな日常が大好きだった。いつまでも続いてほしいと思っていた。

 

しかしその幸せな日常も、終わるのは呆気なかった。

 

「アオイ!アオイ!お父さんが急に倒れて・・・それで・・・お母さんどうしたら、どうしたら・・・・」

 

五年生の春を迎えるちょうどその時、母さんからかかってきた電話は父さんが突然意識を失い倒れたというものだった。すぐに駆けつけ、診断結果を聞くと結果は魔界由来の難病とのこと。

 

治療費が毎月莫大な金額がかかるともあって、止める母さんを振り切って俺は結局大学を辞めることになった。

 

「ごめんなさい。ごめんなさい、アオイ・・・私、私・・・・・・・・・」

 

泣き崩れる母親を前にして、俺はあの時、ちゃんと上手に慰められただろうか。

 

父さんの入院する病院のエントランスから出て、少し歩くと何故か見慣れた女と一代の高級車が止まっていた。

 

大きな入道雲をバックにして、彼女は襟の高い麦わら帽子を被っている。

 

「チェン・・・・・・なんでここいいるんだよ」

 

そう問いかけると彼女は「君が困っているんだ。当然だろう」と僕の手を掴む。龍族独特の冷たい手。細い指が何だかやけに懐かしくて、俺もぎゅうとその手を握り直した。

 

彼女のまるで蛇のように細い指が手のひら全体に絡みつき、寄せられた体がぎゅうと密着する。長い尻尾が二人を隠すように広がり、もうこのまま溶け合うんじゃないかと言うほどに近づいた後、彼女の口が耳元としっとりと囁いた。

 

 

 

「いいんだよ。もう君はいっぱいつらい思いをしたんだから」

 

「だから、もう甘えちゃっていいんだよ」

 

 

 

 

 

 

==================================

 

 

 

人間甘い汁を吸い始めるとそれは止まらなくなるようで、医者を目指していたはずの俺はチェンの優しさに甘えてもう5年もこの家にいる。5年の中で自分なりに行動しようとしたこともあった。バイト、就職、一人暮らし。やろうと思えばいつでも行動は出来たのだ。しかし、そのたびに自分が医者を目指していたこと、夢をほっぽって今更自分がどんな仕事をするのかという甘えが口に出た。

 

「大丈夫、君はいつまでだって家にいていいんだ」

 

そう優しく微笑むチェンの姿に自分はどこまでも依存してしまったのだ。

 

今となっては朝起こしてもらうところから飯の世話、着る服、携帯代金、趣味のゲーム、寝る場所まで、何から何まで世話になってばかり。ゲーム仲間に屑だ、ニートだ、ヒモニートだのと馬鹿にされても客観的に見れば事実なのだから仕方がないのかもしれない。

 

まぁ、いいさ。いつか、どこかで働けばいい。チェンが生活に苦しくなって働いてくれといったら、金がどうしても必要になったら、30歳を超えたら働けばいい。

 

そうだ、そう。まだ俺は大丈夫・・・・まだ、まだ、このままでも・・・・・・・・。

 

なんて、そんな甘い考えに危機感を持ったのはチェンが酷い風邪を引いたときだった。

 

 

 

======================================

 

 

 

 

 

「ごめん、アオイくん・・・・・・・・・・・・今日のご飯、遅くなっちゃうかも」

 

 

 

ある冬の日、いつも通りチェンが勤め先の病院から帰ってきたのは深夜の11時頃だった。

 

チェンはその年からもといた病院から引き抜かれ、ここらへんでも一番の総合病院に入ることになったらしいのだが、そこは救急外来が設置されていることから夜勤でチェンが遅くなることが多かった。

 

俺は普段からゲームの周回で深夜まで起きることは多かったけれど、チェンは朝早くに仕事にいかないといけないし、だから睡眠時間も必然的に短くなる。だからだろう、疲れから体を壊したチェンはいかにも熱に浮かされた顔をしていて肌が青白い。

 

「なぁ、お前、絶対に熱あるし明らかに体調悪そうなんだかから寝たほうがいいって!今日は飯大丈夫だから!」

 

必死にベッドに押し込もうとすると抵抗するチェン。彼女は掴んだ俺の手を振りほどくと、赤らんだ顔で言った。

 

「・・・・・・・だい、丈夫だから」

 

「大丈夫・・・・大丈夫だから。だって、私がちゃんとしないと。わたしが、ちゃんとしないと・・・・・・・・・・・」

 

「仕事しないと・・・・・・」

 

「アオイ君が、生きていけないから」

 

俺は愕然とした。足元が震えるような気がした。

 

今まで自分の中でどうにか誤魔化していたもの、甘い霧の中に隠していたものが如実にさらけ出されたような気がしたのだ。

 

そうか・・・・・・・・・・・・お前はそんな気持ちで俺を見ていたのか。

 

そんなことを、考えさせてしまったのか。

 

不意にこれまでパーティメンバーから言われていた「ヒモ」という言葉が自分の中でぐるぐる回った。

 

そうだ、俺は医者なんかじゃない。今は、ただのヒモでしかないのだ。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・このままじゃ、いけないんだよな。」

 

小さく呟いた言葉にチェンは赤らんだ顔で顔を傾げた。

 

決めた。

 

決めるのだ。

 

俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺は。

 

「大丈夫、今日は俺が飯を作るよ。お前はベッドで待っていてくれればいいから」

 

抵抗するチェンを強く押し込み、俺はキッチンへと向かう。もうここ数年握ってもいなかった包丁はなんとも使い方が分からず、切った玉ねぎは大きさがバラバラのままだ。どうやって野菜の皮を向いていたかも、キッチンのどこに調味料があるかも、全くわからないことばかりである。

 

苦笑する。

 

「もう、変わんなくちゃあ、いけないんだよな」

 

チェンの病気が治ったら。

 

チェンの病気が治ったら・・・・・・・・、そうしたらこの家を出ていこう。

 

それが、二人の最良の選択に違いないから。

 

 

 

========================================

 

 

 

 

 

 

あの人がいなくなったと気づいた時、あの人の『ただいま』が帰ってこなかった時、部屋中の家具をひっくり返してあの人を探してもあの人が見つからなかった時。

 

私は・・・・私は。

 

わたしは、自分の頭がどんどんと可笑しくなっていくのを感じた。

 

「出てきて、一緒にご飯を食べよう」

 

「どこに隠れてるの?今日はかくれんぼの気分なの?」

 

「今日の夜は外に食べに行こう!ほら、アオイくん、鰻が食べたいと言っていたから!」

 

「ゲームを買いに行こう!買いたいと言っていた、ほら、あの、銃をバンバンと打つやつ!私もあれをやってみたいと思ってたんだ!」

 

「私も病気が治ったからさ、外に出てみるのも悪くない!」

 

「いや、やっぱり君は家の中にいるほうが好きかな!もう・・・仕方ないなぁ・・・。今日は、ほんのちょっとエッチなことでも・・・・・・・・・」

 

「なんっでも、好きなものを作ってあげる!だから・・・・・・・だから・・・・・・・・・だから・・・・・・・・・・・・だから」

 

 

「だから」

 

「だから、もうそろそろ、でてこないと」

 

 

分かっていた。

 

家具を端から端まで倒して、絨毯を剥がして、壁をいくつか壊して、中を覗いて、それでも。いなくて。

 

分かっていたのだ。あの人がいなくなってしまったことは。

 

分かっていたのだ。

 

「なんで?」

 

ただ、認めたくなかった。

 

幸せな毎日だった。幸せな毎日だったでしょう?幸せな毎日だったはずだ。

 

帰ってくればアオイくんが待っていて、美味しいとご飯を食べてくれて、彼がゲームをしている姿を横目に眺めて。彼はいつもぶきっちょな顔をしているけれど大丈夫。喜んだときは本当に可愛くて、わからないことを教えてくれるときは優しい顔をしていて、性格悪そうに振る舞うけどどこか善人なところが外に出て・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

幸せだ。幸せだった。

 

そうだ。

 

だって、この幸せのためになんでもした。なんでもしたから彼を手に入れられた。

 

昔、彼の家族に龍の秘薬を隠して飲ませたときも、彼に普段からちゃんと媚薬を飲ませて頭をとろけさせたことも、彼のネットの友達をきちんと間引きしたことも、他にも・・・・・・・・・。他にも、すべて。

 

全部、簡単じゃなかった。心だって苦しかった。彼とのこの生活を手に入れるために、なんだってした。なんだって捧げた。私のできることをすべて。全て、したはずなのに。

 

なのに。

 

なのに。

 

 

 

なんで?

 

 

 

 

 

「あと、何を捧げれば、いいんだろう」

 

 

 

そう呟いて、暫く悩んで、そして。

 

わたしは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・そっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

名案を、思いつく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価あったら全力で次回作描きます!!

下さい!!というかおくれ!!!!

既存のものばっかお出ししてるので簡単に最近考えたシチュを一つ!!!

ある学校で働く熱血教師くん。新卒で入った学校だったが、自分のクラスに不登校生徒が1人いることが悩みの種。
毎日何度も電話をしたり、家に行って氏にたいという女生徒の悩みを聞いたり、なんなら虐待されているらしい彼女の家庭問題にまで首を突っ込んで必死に対応を続ける。
その甲斐もあり登校してくるようになった雪女の女生徒。もともと黒髪に上位存在らしい整った顔。どこか退廃的な雰囲気と外見が整っていたこともあり、クラスですぐに人気が出て(教師くんも影で支えていた)教師も「よし、彼女にとって最良の結果になった!!!」とにこにこで自分の手から彼女を手放していく。
電話をかけることはなくなり、日常になっていたように彼女の家に行くことはなくなり、親とも良好な関係を築けているようだから話しかけることもだんだん減った。それでも彼はそれこそが教師離れだと思ったし、彼女の最善だと思ったのだ。自分の手から離れて生きていく。それが彼女の幸せだと考えた。
その決意から1週間、彼はいつも通り学校の業務を必死に終え、夜10時に学校を出る。あぁ、もうスーパーも閉まってる。急がなくちゃあ、といつものように校門から出ようとしたその時。

自分に向かってくる小さな人影と腹部に強い痛みと痺れ。

体がドサリと倒れ、硬いアスファルトに体を打ち付ける。

手を動かそうとしても動かない。強いしびれが全体に広がっているのだ。

倒れた教師くんは、その人影が仰向けに倒れた自分に覆いかぶさり、ロープを自分に括り付けようとしている様を眺めるのみ。

顔の前、真っ黒なフードの奥には幸せになったはずの教え子の顔とその口からこぼれ出る冷気。

じっと目と目が合い、教師くんの怯えを彼女は見つめた。


「先生、おかしいですよ」

「あんなことして、あんなに仲良くなってそれでポイって?」

「それって」


「それって………………間違ってますよね?」


「ね?」




彼女の冷たい手がほおを下に撫で、そのまま首を強くつかんだ。








「教えてください」



「いつもみたいに」


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