チフォージュ・シャトーが、圧倒的な質量が何も考えずに落ちてくる。
錬金術によって何重にも強化されて破壊不能となった施設で力づくで私を叩き潰そうなど!
両の手で落ちて来たシャトーを受け止める、バカですねえ!私ならこれぐらい持ち上げられる!
悪いですがその目論見は通りませんよ!ほいっとステージの外に投げ捨てた、その時5つの光が飛び出して来て、一つになった。
それはオートスコアラー達と一体化したフルパワーのキャロルだった、さて……あの白銀をどうやって解除したのかは知りませんがステージに上がって来たということはもう手加減も不要だってことです!
「壊して殺す!この世界などどうでもいい!ただただオレのプライドで!」
新たなチャレンジャーがやってきた、それだけで舞台は湧く、ため込んだ大量のリソースを焼却して放たれる一撃、それは膨大なフォニックゲイン!
「あなたが一番、私を殺しに来てくれる!うれしいですねぇ!」
それを正面から受け止めて打ち砕く、ですがどうやら私の読み違いだった!この一撃は……フォニックゲインをばら撒く為の一手!目的は装者達の限定解除!
「イグナイトモジュール!抜剣!!」
そこに乗せてのイグナイトでの神殺しの強化!
「やれ!立花響!その怪物を消し去れ!」
エクスドライブとなったガングニールが猛突してくる、さすがに威力がありすぎてこれを受けたら砕けるのは私、ようやく回避するしかないという所まで追い詰めてくれましたね……!
ですが悲しい事ですよ!翼さんはずっと歌ってばかり!繋がらない私にはそれだけじゃ届かない!
そこに攻撃を加えようとすれば切歌ちゃんと調ちゃんが邪魔をしてくるし、悪魔もクリスに撃ち抜かれて届かない!
何もかもが上手く行かない!いえ!初手を潰される!イラつきますよ、こんなにも不自由なのは!いい加減にして欲しい……!誰も彼も私を妨害するだけで、私と打ち合ってくれるのは響ちゃんとキャロルだけ……ならばもう数を減らすしかなくなっちゃいました。
純粋な神の力を抽出して、創り出すのは黄金錬成。
これに耐えられないようならそこまで、じゃあ……選別を……。
ボロボロと光が崩壊していく……?何故……?
「凛音!耳を傾けて見ろ!人々の歌声に!」
翼さんに言われた通り、意識を向けて見ればいつの間にか……世界は歌声に満ちていた。
誰も彼もが好き勝手に歌い、友と、家族と手を取って、それぞれの想い想いの歌を歌う。
だとして何が、ただそれだけの事が何を意味する?
『そうか……!これは!ネットワークによって心を繋いだのか!』
『だとして何ですか!たかだか70億人ぽっちが歌った所で!私の力が崩壊する訳が!』
「戦うだけが私の全てでないと言ってくれたのはお前の筈だ!凛音!」
「誰も彼もが同じでなくていいって!同じ方向を向いて歩いていればいつか道は重なる!だから私が束ねて力とする!」
神の力が崩壊していく……!?打ち合って……いや打ち合った時にガングニールで何度も楔を打ち込んでいた!?
「こんな……こんな事を一体どうやって……ああ……」
そうか、皆は心で繋がっていたから……言葉にしなくともこの作戦が伝わっていたんだ。
敗因はそう……全ての行動の出だしを潰された事、私に何もさせない。
動き出した瞬間を潰すという封殺戦術……とても容易い事ではないが実現できたなら、例え神であろうと勝てるだろう。
やはり私はひとりぼっち、だったという訳ですね。
本当の意味で。
力が失われていく、哲学の呪いがイカロスを蝕んでギアが崩壊して、何者でもない私だけが残る。
「終わりだ、凛音。もういいんだ、お前一人が頑張る必要は……」
終わり?御冗談を……始めたのは私です、終わりを決めるのも私だけ!
まだ私には歌がある!
結局、あなただけは私を裏切らず手元に残ってくれた!呪われしギター『ラグナロック』を手にする!
「まだです、まだ終わりではありません……誰よりも高く飛ぶのは私なんです!」
取るべき手段は……ギターによる切腹!
「凛音!!!」
さあラグナロック!私の命を吸え!一つとなれ!
世界に満ちるファナティクスの概念をここに一つとしろ!
さあこれこそがラストステージです!
もはや悪魔の合奏団すらも存在しない、私一人の独奏!
一挙一動全てが音楽となる、血の一滴も残らず歌と変える!
生命の焼却、想い出の焼却、哲学の焼却。
ただのギターテクと歌声だけにて私はもう一度力を生み出す!
神に中指を立て、悪魔を犯す。
見ろ!さっきまで好き勝手歌い続けていた観客共が声も出ない!
「これが……これが私のロックンロールです!!!」
ようやく……ようやく完成した、私は仰向けに倒れる。
「凛音!!!」
倒れた私を翼さんが抱き起こす。
「これで……世界は救われる」
シェム・ハが私を器とした時から、これまで積み重ねて来たモノを最大限度利用し、アドリブにアドリブを重ねた解決策……案外、誰も彼もその瞬間瞬間を必死に生きている。
どんなに暗躍して、策を弄してもたった一つのミスで崩壊して、そのリカバリーに泣きながら奔走する事になる……私が選んだのは終わらせる事。
「最初から……最初からこのつもりで……!そうだお前の事だからそうやって自分を犠牲にしてでも事を果たそうとするだなんてわかっていた……だから私はそれを止めたかった!!」
翼さんを……悲しませたくはなかったんですけれどね……ですがこれは次善の策、無いよりはマシだった結末です。
どんな熱狂もブームも、いつかは終わりが来る。
何もかもをぶち壊して失敗して、敗者となる事。
ファナティクスは今宵死んだ、神へと至った少女は傲慢に地へと落ちた。
誰が言ったか、死こそが全ての完成だと。
失敗して終わるからこその美しさがあると。
「さぁ……迷える子羊の皆、日常へお帰り、ミュージシャンは……廃業……引退で……」
「ちょっと待った!!」
私が目を閉じようとしたその時、ノーブルレッドの3人がやってきた。
「まだ、まだファナティクスは終わっちゃいねえぜ!!」
「そうであります!約束は果たされてはいないのです!!」
「私達はまだ怪物のまま!一人だけ抜け駆けは許しはしません!!」
はぁ……そういえばすっかり忘れていましたね……メンバーはまだいました。
「もう、いいんですよ……再手術をして……普通の人間に戻って、稼いだお金で……」
「でもそこに凛音はいないぜ!」
「リーダー不在じゃ音楽活動もままならないでガンス!!」
「散々コキ使ってはいさよならなんて不義理!許せるものですか!」
くそ……人がせっかくキレイにシメようとしてたのに……。
「おーっと!観客諸君!ライブにはアンコールがつきものとは思うんだぜ!」
「アンコールがきこえなーい!はいではご斉唱くださいでガンス!」
「アンコール!」
この星を震わせる様に、また熱狂が生まれる……まだ、まだこんな私に歌えというのですか?
「悲劇で終わらせたりなんかしたくない!」
響ちゃん
「諦めて涙を隠していきたくない!」
小日向さん
「ワケ分かんねー奴は何度だってぶん殴って!」
クリス
「間違ってたって何度だって立ち上がって!」
マリアさん
「手を取り合って、一緒に歩いていく!」
切歌ちゃん……調ちゃん
「そう私達で見た事のない知らない歴史を作ろう!」
翼さん……!
「……はぁ、死んではいられませんね……こんな期待をされているのに歌わないというのはエンターテイナーの名折れというものです……」
体を起こす、それを支えてくれるのは翼さん、そしてサンジェルマンさん。
ラグナロックも……まだ付き合ってくれるというのですか……ならば、ならばまだ歌う理由はあるというものです!
何もかもが綺麗に終わる、なんて物語の中でしかない。
ハッピーエンドの後にも歴史は続いて、いつかは誰もが死んでいく。
けれども命は終わらない、生きた証は誰かの心の中に残って歌になる。
まるで夢のような日々でした、短くも濃密で、誰も彼もがおかしくなって、世界を変えていく。
力の代償は避けられない、負った傷だって浅くはない。
一言一言紡がれる言葉と共に命がこぼれていく。
私は出会いに恵まれていた、孤独ではなかった、これが心の繋がりだって。
見てくれましたか?シェム・ハさん?
『ああ、もう十分だ……』
バラルの呪詛が生まれて、不和の中でも繋がろうと足掻いてきた人々の歩みの一つが歌だった。
生体ネットワーク端末として生きなくたって、いつかは繋がれると信じてきた。
『よくわかった』
ならばよかったです……これで今度こそ思い残すことは……。
『お前が本当にとんでもないバカだということがな』
はは……最後の最後で手厳しい。
手にしたギターが、ラグナロックが輝いて、光の粒子となって散っていく。
同時に私の中に温かい力が満たされていく……これは……。
『奴も十分に堪能したんだろう、呪われた品ですら満たされる程の歌姫を……失うなんてとんでもない損失だ』
そう、ですか……ですが寂しいですね、これが……これが失うって事なんですね。
何故か涙が流れてくる、当然の様に我儘を聞いてくれた私の半身が消えていく。
とても気に入ってたんです、新しいギターは……当分選べませんね。
好き勝手暴れた後は……やっぱり疲れますね……少しだけ、少しだけ休みましょう。
目が覚めた時には全てが終わった後だった、あの日の決戦はまるで熱に浮かされた様な変な出来事で済まされて、次の日には皆普通の生活に戻りながらもそれぞれ好きな歌を口ずさむ。
あんなにボロボロだったアダムもすっかり元通りになってしれっと戻って来て……。
訃堂のジジイは神の力こそ手に入らずグチグチ言ってましたが功労者として評価されて溜飲を下げたらしい。
キャロルは苛立ちを隠せないまま再戦を宣言した上で投げ捨てられたシャトーを修理の為に位相差空間の中に戻そうとしたが、プレラーティによるバックドアによってシャトーを掌握されて憤慨。その場で大暴れしたものの多勢に無勢にボコられて縛られて黙らせられた。
今は錬金術を封じられて結社が確保している。
肝心のシェム・ハはと言うと少なくとも今は満足してくれたみたいです。
すくなくとも私達が生きている間は見守ってくれる、という約束までして私の内側で再びの眠りについた。
サンジェルマンさん達は……まだ混乱の中にある地域を平定して回る為に活動しているらしい、新時代の聖女……なんて話が聞こえてくる。
私は、背負った責任として全てを語った。
工作で作られた人気、カストディアンの眷属であった事、シェム・ハに乗っ取られた時に自滅を選ぶ事で諸共に消え去ろうとした事も。
だが、誰一人犠牲が出ていない事にあまりにも現実離れした事を理由に「疲れてたんだろ」の一言で無罪となった。
ファナティクスの解散は叶わなかった、私が辞めようと言ってもノーブルレッドの3人に引っ張り出されて歌うハメになり、各地から失われたラグナロックの代わりに逸話付きのギター共が送られてくる。
そのどいつもこいつもが筋金入りのロクデナシ、マジの呪物がどんどん出て来て、こいつらのお焚き上げを完遂する事が私への罰となった。
「あの日、翼さんと死ぬまで歌いたいって言ったの……嘘ではなかったんですよ」
「それはわかっていた、けれどその言葉の本当の意味は違うだろう?」
「ええ……私か翼さん、どちらかが命を全うして死ぬまで……歌いたいと願ったんです。プロポーズみたいなものです、死が二人を分かつまでって」
ようやく戻って来た日常、赤く染まった髪を風が揺らす。
神人合一、錬金術における最終段階に至って、私はある意味では完成した。
自分の本心に素直になれた、というべきでしょう。
「翼さん、私と一緒に歌ってくれませんか。ツヴァイウイングではない、新しいユニットを組んで」
「よろこんで」
遠回りを続けて、ようやく私は本当の願い事に気付いた。
ずっと翼さんの隣で歌いたかったんです。
ようやくその憧れが叶った。
これにて完結です。
リメイクといってもその時代、その瞬間の作者の思想やらで完全に同じモノとはならない。
殆ど完全に再構成、加賀美詩織と加賀美凛音は別のルートを辿り、別の結末を迎えました。