妖術使いだよ in 真・恋姫†無双 作:槇村 a.k.a. ゆきむらちひろ
この青年を"妖術使い"と称したのは趙雲だった。
傍目にはとても武人には見えない。にもかかわらず、理解不能かつ圧倒的な"ちから"で、彼は相手をねじ伏せる。趙雲自身、かつてその"ちから"によって叩きのめされたひとりだ。
そして何の因果か、彼女は再びその青年と相対している。
再会など、したくなかった。ましてや戦場で出会うなど想像もしたくなかった。
趙雲は、内心どころではなく、額に手に背に、冷たい汗を流しながら、青年の動きを注視する。少しでも意識を緩めれば、たちまち蹂躙されるだろう予感が止まらない。
普段の趙雲は、強い力を持つ相手を武を競うことに喜びを感じる。そんな気質を持っていた。だがそれにも限度があることに気づかされた。敵わない相手は存在する。人ならざるものは存在する。そんなものに出会ったのなら、逃げるしかない。そう思わされるものがいることに。
動けなくなった関羽を背にかばい、逃げられないと思いながらも、何とかして逃げなければと己を鼓舞する。
どうやって?
……倒す?
無理だ。
関羽を庇うべく飛び出したものの、代わりに自分が彼を打ち倒してみせる、といった気概があるわけではない。
仲間を助ける。
ただその思いに駆られただけだった。
「……私のことを、覚えておられるかな?」
武で敵わないのなら、対話を試みる。何とかしてこの場を凌がなければという思いが、話を通して見逃してもらおうという行動を取らせた。
普段の彼女であれば選ばないだろうその手段。
だがこの青年に対しては、それが最も有効なものだった。
「覚えてるぞ。いきなり俺に襲いかかってきた奴だろ?」
「……あれだけ一方的にやり込まれてから言うのも妙なものですが、確かにあの時は私の方に非があった。今の私は、好んで貴方に噛みつくつもりはありませぬ」
「ほう」
青年にしてみれば、その言葉は意外なもの。また因縁をつけられるかと、内心げんなりしかけていたため、彼女の態度に思わず声を漏らしてしまう。
「貴方がつい先ほど叩きのめしたふたりは、同じ主に仕える仲間なのです。
手を出すな、と止めはした。しかし止めることができなかった。それについては、私から謝罪させていただく」
「ほほう」
ずいぶん殊勝なことを、と。青年は素直に感心してみせた。
「その上でお願いしたい。
関羽と張飛、貴方に斬り掛かったふたりは、当人である貴方によって瀕死の状態にされた。これを報いとして、我々を見逃してはくれまいか。
今後、同じことが起こらぬよう厳に言い聞かせるゆえ。何とか」
「いいぞ」
「……は?」
あまりにあっさりした返答。
胃が痛くなるほど必死になっていた趙雲はあっけに取られた。
「だからよ、見逃してやるって言ってるの。素直に謝ってきたお前さんに免じて。
ただし。また同じようなことになったら、今度は容赦なく潰すから」
「……よろしいので?」
「自分からお願いしといて何だよ。いいって言ってるじゃない」
確かにこれ以上相手をするのも面倒だしな、と。彼はあっさり、彼女の願いを聞き入れる。
趙雲は胸をなで下ろす。だがそれでも、直ぐに安心できるかといえばそうでもない。本当だろうかと訝しんでしまう。信用できないというよりも、信用するのが怖い、と言った方が適切かも知れない。
「聞き入れていただいたのは本当にありがたい。だが、正直なところ、あまりにあっさり願いが通ったので、現実味が」
「いいって言ってんだろ。それともまた潰されてぇの?」
滅相もない、と、趙雲は慌てて首を振る。
「私自身、貴方に嬲られていますからな。愛紗……、関羽がいなければ、今すぐここから逃げ出しておりますよ」
そんな彼女の反応を、青年はつまらなそうに受け流す。
だが、何かを思いついたような仕草をし、彼はしばし思考をめぐらした。
再び、趙雲に目を向ける。
「じゃあ見逃す代わりに、ちょっと聞きたいこと、というか確認したいことがあるんだが。答えてくれるか」
いきなり何のことか。
趙雲は訝しむも、彼女に選択肢などあるはずもない。穏便にこの場をやり過ごせるならば、それぐらいは容易いことだ。
ここは戦場の只中であるはずなのに、彼女は武とは異なることで神経をすり減らしていた。
「よろしいですとも。私で分かることならば、お答えしよう」
「じゃあまず、ここどこ?」
「……そこからなのですか」
趙雲は、張り詰めていた気が一気に緩んだように思えた。突っかかるようなことをしなければ問題なさそうだ、と、彼女の態度まで緩んでしまう。
「分からないもんは仕方ねぇだろ。文句は俺を連れ回す奴に言ってくれ」
「以前言っていた、知らない間にここにいた、というやつですかな」
「よく覚えてるな」
「それだけ忘れられない体験だったのですよ」
もっとも、その中身は恐怖そのものでしたが。
趙雲はそんなことを言いながら、引きつった笑みを浮かべる。
対する青年の方も笑みを浮かべていた。ただし、人をいたぶるような質の悪い笑みだったが。
綱渡りのやり取りとはいえ、その綱をいくらか太くすることはできたようだ。何とか丸く収まりそうだと、趙雲は胸を撫で下ろす。
だが、その安堵も束の間のものだった。
「きぃさまぁぁぁぁぁぁぁっ!」
怨嗟に満ちた雄叫びと共に、何者かが青年に斬り掛かってきた。
気を抜いたところで不意を突かれた趙雲。だが相手の目標から外れていたことが幸いして、彼女に被害はない。
狙われていたのは青年の方だ。
だが彼は襲い掛かる大剣を焦ることなくいなし、やり過ごしてみせる。
襲い掛かってきた相手に、青年は見覚えがあった。落ち着いていた機嫌が、再びささくれ立つ。
彼を襲ったのは、夏侯惇元譲。反董卓を御旗に集った一勢力・曹操孟徳に仕える武将にして、かつて青年になす術なく叩きのめされたひとりだった。
「あの時の屈辱、忘れはしないぞ」
憎しみに満ちた表情、湧き出る憤怒を露にして、夏侯惇は青年を睨みつける。なぜ彼がこんなところにいるのか、彼女にとってそんなことはどうでもよかった。憎い相手が目の前にいる。それがすべて。
「今度こそ殺してくれる!」
得物である大剣を掲げ、突貫する。怒気に満ちた彼女の様相は見る者を尻込みさせるに十分なもので、並の人間であれば腰砕けになったまま斬り捨てられられること必至だろう。
だが、それはあまりにも悪手だった。
青年は並ではない。普通でもない。趙雲曰く、"化物"である。
何よりも、以前に夏侯惇が突貫した際、近づくことすらできずに翻弄されているのだ。同じやり方では、やはり同じように翻弄されるだろうことは想像に難くない。
そしてやはり、夏侯惇は翻弄される。
「同じことをするこちらも疲れるっての」
彼は拳を振るう。明らかに届いていないそれが、大きな音を立てて夏侯惇の顔面をはたいた。
受けた衝撃に夏侯惇は体勢を崩す。かつて受けた痛みを思い出したのか、彼女の怒りは温度をさらに上げていく。
「ぬぁぁぁぁぁっっっっ!」
咆哮。雄叫び。並の兵ならばそれだけで殺せるのではないかというくらいに鋭く、重い声。その形相も鬼か何かかと思えるほどに殺気をたたえながら青年を睨めつける。その視線もまた、それだけで人が殺せそうなほどに剣呑なものになっている。これも並の兵ならば居竦み動けなくなることは間違いない。
激憤に満ちた叫びと、苦々しい敵意に満ちた視線。「人を殺せる」と称されても、それは比喩。どれだけ叩きつけられようと、青年はわずかな痛痒さえ感じない。
彼の身に届くのは叫びと視線だけ。命を絶たんと振るう大剣はひとつとして届かない。否、届くどころか振るうことすら叶っていなかった。
左、左、右、左、右。青年が腕を振るう。それによって生まれる衝撃が、面白いように夏侯惇を痛めつけていく。
ジャブ、ジャブ、フック、ジャブ、ストレート。ボクシングを知る人間ならそう言うだろう攻撃。離れた場所で振るう拳、明らかに当たるはずのない距離にいる彼のそれ。ひとりシャドーボクシングをするように拳を振るうその動きに合わせるように、夏侯惇は血まみれになりながらその身体を躍らせる。
目に見えない攻撃に嬲られながらも、なんとか崩れ落ちずに立っている。憎い男を斬り殺すという一念だけで、夏侯惇はその身を支えていた。
だがそれもわずかな間。声と視線までが、青年に届かなくなった。
夏侯惇が受けているのは、文字通り蹂躙、なぶり殺しそのものの絶え間ない攻撃。彼女が自らの足で立っているのか、それとも振るわれる見えない拳によって強引に立たされているのか、それさえも分からない。
「想像以上に頑丈だな」
面倒くせぇ。
青年は表情だけでなく口にまで出して、血まみれになった夏侯惇のしぶとさに辟易する。
彼は突然、振るっていた拳を止めた。攻撃の勢いで無理やり立たされていた夏侯惇の身体が、抑えをなくしたことで地に倒れ伏そうと崩れ落ちる。
だがその寸前に、青年は足を踏み出した。
彼女の正面に移動し。
無造作に蹴り上げる。
その足は、内出血で晴れ上がった夏侯惇の顎先を捉えた。蹴りの勢いそのままに彼女の身体は仰け反り、その身を飛ばす。
そして反動のままに、頭から落とされた。
「さすがに死んだか?」
まるで羽虫を仕留めたかどうかを確認するような、そんな軽さ。だが口調とは裏腹に、迂闊に近づこうとすることなく、彼は遠目から様子を見る。
「まだ生きてんのかよ」
頑丈にも程があんだろ。
青年はうんざりした口調で言葉を吐き出した。
今度こそしっかり踏みにじろうとした、その時。
彼の背後で風切り音が鳴る。
青年はあらぬ場所に向けて腕を振るう。
何かが折れる音がした。その音の下に、ふたつに断たれた矢が落ちる。
さらに、立て続けに射られた矢が青年を襲った。
1本、2本、3本、それ以上。ひとりの射手が放つ、叶う限りの速射。
ただひとり、青年だけに襲い掛かる。1本でも当たれば致死、あるいは身体の動きに差し障るような急所を狙ったもの。腕に覚えがある程度の人間ならば、為す術もなく身体中に矢を生やして絶命するだろう。
だが、彼には当てはまらない。
振るった右腕が戻るより前に届いた矢を、左手で断つ。その影から続けて襲い掛かった矢は、戻りが間に合った右腕がへし折った。
3本目と4本目。眉間ではなく腕と脚を狙った矢は、身体をよじらせながらやり過ごし、はし、と捕まえてみせる。
そして再び頭と心臓を狙った次の矢もまた、掴んだ矢をそのままに振るわれた手刀によって断たれ、砕け落ちる。
およそひと息と半ばに射られた弓を、青年は息を乱すこともなく対処してみせた。
「これも凌ぐか」
彼を襲った弓の射手は、夏侯淵妙才。一方的に沈められた夏侯惇の妹だ。
彼女は背に冷たい汗を感じながら、化け物め、と内心で罵る。
それを口に出す暇はない。残心する余裕もなく、彼女は惜しみなく矢を射る。射続ける。
だがそれらはことごとく、青年に届かなかった。払う、叩く、折る、掴み取る。すべての弓が凌がれる。
これ以上は無駄だと、夏侯淵は手を止めた。反撃が来ても応えられるように残身はしたまま。青年の動きを見逃すまいと気を張り詰めたまま。
「お前さんは、あいつと違って分別があると思ったんだがな」
青年はそう言い、うずくまりわずかに身を震わせる夏侯惇を指差す。もし彼女が足元にいたのなら、迷わず足蹴にしていただろう。そんな忌々しさを声に滲ませている。
対する夏侯淵は、怒りに任せて青年に斬り掛かっただろう姉・夏侯惇の行動を予想した。愛しい姉とはいえ、その短慮さを責める気持ちが少し、湧き出てくる。
「正直なところ、お前を相手にはしたくなかった」
彼女も覚悟を決め、口を開く。
「相手にしなければ害がないことは華琳さま、曹操様も仰っておられたしな。実際、私もそう思っている。だが、実の姉をそこまで打ち倒されて、黙ってはいられない」
「手を出したのがあいつの方でも、か?」
「そうだ」
「殺人鬼を返り討ちにして、その仲間が仇討ちに来るのを良しとするわけだ」
「……姉者は殺させない。どうにかして連れ戻す」
どうやって?
夏侯淵は考える。青年の動きと、瀕死の姉の様子、周囲の状況に神経を張り巡らせながら。彼女は手にした弓に新たな矢をつがえた。
「気が向いたら書く」を実践する心意気。(威張ることじゃないぞ)
槇村です。御機嫌如何。
負傷した仲間を抱え、どうあがいても敵わないとわかっている相手と対峙する。
危機を凌ぐために取った行動。
その対極を描こうとした。
久しぶりに手をつけたからだろうか。
会話と地の文のバランスがヘンテコな気がする。
さて。
1対多の戦闘シーンを書くことを目的にスタートしたこのお話。
そのきっかけである大元の小説がちょっとした理由からしばしストップしまして。
殺陣を書こうとする熱が冷めています。
というか、戦闘なんてモンじゃないよ、
もうこれってイジメですよね。(いまさらだな)
とはいえ、
原作での一刀と春蘭さんのやり取りとか、
程度は違えこれに近い内容だったような気がする。
ギャグやラブコメ補正もあって気にならなかっただけで。
上で殺陣、ひいてはアクションを書く熱が冷めたと言いましたが。
代わりといってはなんだが、今、本気でエロ小説を書いている。オリジナルで。
というか電子書籍にして売り始めた。
そのせいか"エロいものを書きたい"欲でいっぱいです。
オリ主が一刀から女の子たちを寝取る話とか書いてみたい。
需要があるなら、息抜きに書いてみる。