魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いが見たい   作:reverofllaF / 永遠下降

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Sin22-4.「演算機構の幕引」

 旅立ちの日。

 小高い丘に集まった三人を前に、少しばかりの準備を進める。

 

「……申し訳ないです、色々」

「ん?」

「私は……最後の最後まで、戦いに参加しなかったので……」

「何言ってんだかね。コイツの輪郭を固定して、時間干渉を受け付けるよう再設定する。それがお前さんの仕事だろ、ピオ。グリーフィーの嬢ちゃんの目論見通りにはいかなかったが、ちゃんと成果は出したんだ。申し訳ないとかないだろうよ」

 

 ピオが己の前で見せた事象改変。己達と寸分違わぬ水準で行われたソレの目的は、繰り込まれたデータ塊でしかない己の輪郭を固定し、一つのオブジェクトにすること。グリーフィーはコルリウムが最後の足掻きに出した未来送りの対策にその改変を行わせたようだけど、結局コルリウムは視た通りにはならず、さらにはイーリシャが改変に便乗して己を過去へ飛ばしてしまった。

 グリーフィーが未来を外すのはこれが初めてのこと。ただしイーリシャもグリーフィーも「捻じれ」については認識していたようで、謂わば経験の差が出たとでもいうべき話なんだとか。

 イーリシャはこの五千年間で「未来」を「どう頑張っても収束しないもの」であると捉えていた。だから頻繁に現場へ赴いて、自身でコントロールをしようとしていた。

 その点グリーフィーは手出しをせずに見守るだけ。下準備はするけど自分が出ていくことはない。彼女がウォルチュグリファになってからの日はまだ浅い。だから、「未来とは確定させられるものである」と勘違いした……とか。

 

 己から言わせてもらえば、うん。

 割と簡単に変わるよ、未来。だからイーリシャの方が正しいだろうね。

 けれど、それをしてくれたことで、より早く感情が根付いたことも事実だ。

 

「……よし。準備はできた。……言葉はあるかな、三人とも」

「無い。楽しかった。またな」

「世話になった。んで、結局会いにこなかった親父殿に……まぁ、元気でやれとでも伝えてくれ」

「不思議です。オールドフェイスを取り込む必要のない身体になったというのに、もう食べられないと思うと……少しばかりの感傷が」

「いやお前さん、あれ人間の魂だぞ。こえーこと言ってんじゃねえよ」

「カイルスのオーバーロードもできなくなるな」

「まぁ製法については当然フリスが知っているから、あっちで作ることができない、ってこともないと思うから、適当に頼んでみてくれ」

「え、遠慮します」

「あっちの気紛れ以外で頼み事なんざ何要求されるかわかったもんじゃないからな……」

 

 うん、嫌われ過ぎじゃないかな君。

 己より詐欺師していないかい。

 

「それじゃ、飛ばすよ。あ、一つだけ注意点だ。この星の力場圏内を出る時に肉体と霊魂がコンバートされる。航行時間もそれなりにある中での変換は、少し気分が悪くなるかもしれないけれど……必要なことだから、我慢してほしい」

「おう」

「俺とピオもなるのか。生物じゃないんだ、気分が悪いって感覚は味わったことがない」

「霊魂における酔いのようなものだから、生物かどうかは関係ないよ。野良の機奇械怪や廃徊棄械でも感じるんじゃないかな」

 

 しっかりと陣を描き、しっかりと祝詞を描き。

 起点へ杖を突き入れる。

 ──輝き出す陣。

 

「世話になったな。お前さんが今よりも多い幸福を掴めること、宙の彼方から祈ってるよ」

「古井戸さんは神とやらになったと聞きました。あなたは祈られる側では?」

「またな、フリスのダチ」

「……ああ、また」

 

 サイキックで三人を包み込み、射出する。

 瞬きとかからず消える彼ら。既にメガリアの属する銀河系を抜けた頃合いだろう。

 

 さようなら、最初の時代の英雄たち。

 何も残さずに行ってくれたことへ……最大限の感謝を。

 

 残るのはもう、己達の時代だから。

 

 

 コーヒーを啜る。

 百云万年の追加があってなお、味というのはよくわからないけれど……ここへ来たらこうすべきなのだろうと思っての行動だ。

 

「『賢者』は大勢の命を救うために、大勢の命を奪った。『愚者』は自身の感情を検証するために、大事な者達の命を奪った。……そして、その二存在によって生み出された『智者』は、『賢者』と『愚者』のやり残しを掬い上げて……世界を救った。因果とは巡るもの。縁とは断てないもの。であるのなら」

 

 研究開発学術都市アンブロシウス。

 その上空にて、声を届ける。

 

「すべてを想起させるこの地は、天上の地としてではなく、おとぎ話にあった架空の土地として……そうして語り継がれていくのがいいオチというものだろう」

 

 異次相を出現させる。

 今までの比ではない大きさのそれは、この地を丸ごと飲み込んでいく。

 

「壊しはしない。保存する。ここに住まうゴーレムたちはそのための礎だ」

 

 生命の次元階位を上げ損ねた者達。形だけ残ったヒト。

 君達が生まれ変わることはない。その魂のプールは、次、人類の滅亡が……本当にどうしようもないほど目減りしてしまった時に、ようやく使うとする。

 

 存在抹消の里をはじめとして、この世界の人々は着実に二つの魂を保有しつつある。

 実を言うと、これこそが強化だ。意識として表出する魂と、それを補強する別の魂。これらを重ね合わせて一個人と置き換え、生命の次元階位の上昇を必要ないものとする。必要がないだけでやることはできるから損ないにはならず、その上で人類というものを少数精鋭に絞っていく。

 繁殖力の高さが現人類の特長だけど、このメガリアという星においては繁殖力より寿命の長さを強調すべきだと判断した。

 

 天上の地はそのバックアップを担う。

 夢物語の大地。夢の一族の作りし土地。

 

 ロマン、だねェ。

 

「しかし、本当にいいのかい? ここは永遠の土地になんかならないわけだけど」

「ええ、勿論。……ここまでの大舞台を前に、死に損ねたのは初めて。"百云万年の時間短縮"は私の寿命を確実に縮めると思ったのに……案外あっさりできてしまって残念だった。だから私はこれを、意味のあることなのだと考える」

 

 テン。いや、纏・フェイブ。

 己が経験した過去から未来への変遷。焦燥感の獲得。各種感情のブースト。百云万年のお預けを食らうことで、感情が爆発するようにした、という真相のイーリシャの過去曳航。未来を変えてしまいかねないタイムパラドックスを引き起こしかねない過去曳航は、過去から現在に至るまでの全てで「己が未来へ一切の影響を与えなかった事実」を世界に強制させることで事なきを得た。フェイブの時間短縮により、百云万年を一気に無駄と見做したのだ。

 そこまでの暴挙。だから当然来ると思われていた《茨》の戒めは、けれど不思議なことに一切来なかったという。

 

 不思議なことにもなにも、って感じだけど、彼女が外さないでほしいと言っている以上は何も言わない。

 

「私はまだ必要とされているの。だから、この地で時を止められて、必要な時に起きて……余暇を過ごすわ」

「……安息は、要らないのかい」

「必要でなくなることのほうが恐ろしいから」

 

 過去の残響。亡霊クンの呪いを引き受けた、天恵の依代(ピトス)の一族。

 彼女については、己が解決できる問題ではない。

 

 君が思っているより《茨》も世界も悪辣な存在ではないのだけど……言うべき話ではないか。

 

「それじゃあ、纏・フェイブ。君にはお世話になったからね。次に会う時は、己が君のために動けるよう尽力しよう」

「ふふふ、そんなことに励むくらいなら、私を呼び出す必要がないようにするだけでいいでしょう」

「確かにそうだ。……さようなら」

「ええ、さようなら」

 

 異次相の裂け目を閉じる。

 あの中で時は流れない。だから……永い、ということは、ないのだろう。

 おやすみ、聖騎士の君。

 

 

 打って変わって紅茶を飲む。

 うん。いや別に味がわかるわけではないのだけど。

 

「……大人バージョンのお前を知っているだけに、その姿で紅茶飲んでるとちんちくりんに感じるな」

「少年バージョンの己は可愛げがあるだろう?」

「エンジェ以外でお前に可愛げを見出すやつはいねえよ」

「そうですか? 案外可愛い所あると思いますけど」

「アリス……目、腐ったか?」

「生身がないので腐るも何も?」

 

 ケニス・フラッジロード。アリス・フラッジロード。

 正式に婚姻を結んだ二人は、けれど二人きりの時以外は前とあまり変わりがない。口調も"前"のものが鳴りを潜めているから年相応だし、考え方や趣味も少年少女に戻っている。

 お互いを好いている、という気持ちが強くなったこと以外は、昔の二人と何ら変わりがないのだ。

 

「しっかし、学園がフラッジロード傘下になったからって、温情も温情だよなー。俺たち三天王で貴族連中ぶっ飛ばしてたってのに」

「最後はどっちもイイトコ無しで終わりましたけどね! あれ、私達っていつもそうでは」

「その話ねぇ~? 僕にもグサグサ刺さるからやめようねぇ~? あれだけ対策積んできて、自分のタイムアップすら迎えられなかったんだから……ねぇ~……」

「でも楽しかったですよぅ。もう"馬鹿なアリス・フレイマグナ"でいる必要もないので、卒園までずっとお手合わせ願いたいです!」

「うんうん、僕が死んじゃうねぇ~」

 

 ドクラバ・アッシュクラウン。

 彼は色々な功労者である。アリスとの戦いで見せた黒煤騎士(グレイナイト)は、実際精霊化したアリスを倒すための切り札ではあったようなのだけど、さらに空中へ煤を撒き散らすことで疑似的なチャフを撒いて樹殻の感知能力を攪乱し、命の選別で殺されるはずだった多くの命へのカムフラージュをかけていた。

 ドクラバの煤がなければ存在抹消の里や聖護魔導学園の教師陣による救出は間に合っていなかっただろうし、間に合っていても感知されて諸共だっただろうことは容易に想像できる。

 並行してダルク・クロノミコナから得られた人体鏡像(アルケミラー)の技術化を解析、転用したのも彼であり、始祖たちの力をダミーとして作り上げたのも彼なのだとか。

 そんな沢山のことをやっておいてなーにが刺さるだ。君はもっと自分を認めるべきだよ、ドクラバ。

 

「あ、いたぁ。ドクラバせ・ん・せ・ぇ~?」

「げ」

「げ、ってなんですかぁ? っとと、アリスさんとケニスさん……と、あれ、『せぇんぱぃ』?」

「あれ、ってなんだい」

「んー? さっき室内運動機能場で『せぇんぱぃ』を見たから……あれぇ? ……まぁいっかぁ。それよりドクラバせんせぇ、なんで逃げるんですかぁ?」

「いやあのねぇ~、アナクン。僕は教師で君は生徒だから、色々体裁がねぇ~?」

 

 アナ・フラッジロード。

 始祖であるより学生生活を楽しみたいとかで、少なくとも卒園するまでの間は居座るとかなんとか。

 そんな彼女は誰もが驚く決断をした。

 ──本家筋を作る、と。

 そのために、婿としてドクラバ・アッシュクラウンを迎え入れると。

 

 当然の話をするのなら、そこに愛情など存在しない。

 アナはドクラバの天才性に目を付けただけだ。クローンによる霊魂増強を可能としたドクラバであれば、その子供にもドクラバを増強できる程度の特異性が引き継がれる可能性がある、と。

 そしてこちらも当然、合成魔物(キメラ)や自身に関する倫理観は存在しない彼だけど、人道においての倫理観は真っ当にあるから、そんな理由で子供を作るのはダメだ、と拒否しているらしい。彼からしてみれば相手の正体もわかっていて、且つ多分逃げられないことも確定して、その上で教師と生徒。

 隠そうともせず「げ」とか言うようになったのは諦めからかな。己の経験則から言えば、なんだかんだ言って幸せになる気がするからゴールインもアリだと思うのだけど。

 

 ちなみにイレイアは黙認の構えだ。始祖に意見できるわけがないのもそうだけど、ドクラバはさっさと結婚しろ、とか常々思っていたとか。

 最も仲が良いと思われていた教師D……じゃない、ドリューズが失恋になったのかとも考えたけど、実は許婚がいるとか。びつくらぎゃうてんである。なお、二人は樹殻からイーリシャの所在を隠し通した功績があるため、イーリシャ本人から恩赦がたくさん贈られて、ほとんど人生上がりというか、教師なんてしていなくても充分な財産を得たらしいのだけど……それでも教師を続ける、とかで。

 それはドクラバや他の教師たちも同じ。実際君達のような実力者がなぜ教師をやっているのかとかねてからの疑問をぶつけてみれば、彼らはあっけらかんと「子供の成長を見るのが好きだから」と言った。

 本当に頭が下がるよ。

 

「楽しそうだね、アナちゃん」

「──ひ」

「怖がるってことは、自分が何言われるかわかってるんだ?」

「……カナビちゃん。他人を巻き添えにするの、良くないよぉ?」

「アナちゃんに言われたくないかな。──あたしだけ補習室に一人はさ、アナちゃんも補習なのにさ、ね?」

「そもそも補習にならなければいいだけと言いますか、なんで補習になってるんですか二人とも。名折れにも程がありませんか」

「うっ……。……ずるいよシェリーちゃん。あたし知ってるんだからね、シェリーちゃんが授業中のノートに恋愛小説書いてるこムー!?」

「喧嘩ですか。喧嘩ですね」

 

 カナビ・フラッジロード。シェリー・フラッジロード。

 この二人は学生生活をやりつつ始祖もやる、という形になった。

 カナビの方は、肉体強化(フィジクマギア)の人数がほとんど残っていないことを受け、残りの肉体強化(フィジクマギア)が暴徒化しないための旗印が必要だったこと、そして「まだ話の通じる子供達」をカナビ……というかビアンカ自身が捨てきれなかったことを要因とする。

 シェリーの方は単純にまだ「家族計画」が続いていることと、彼女と本家は然して劣悪な関係になっていないことから来るもの。ただしストレスが溜まったら長期休暇を取って学業に専念するつもりだとか。

 この二人も一応腹に抱えるものがあるのだけど、「エンジェちゃんに逆らうつもりは無いよ」らしい。動くとしたら、彼女が寿命を迎えてから、だそうで。

 

「喧嘩は構いませんが、一応自重してください。特にカナビさんを止められる戦力が欠けているので」

「今ナチュラルに私を見下しましたねあなた。良い度胸です」

「事実です。カナビさんが暴走した場合、シェリーさんとアナさんでは火力不足にも程がありますので」

「暴走シナイヨ?」

「はい。一応そういうことにしておきます」

 

 逆にアンジェリカとイーリシャは学生生活から足を洗った。

 もう充分に楽しんだらしい。ただし始祖として戻ったのはアンジェリカだけで、イーリシャはもう少し雲隠れする予定だとか。曰く、もっともっと痛い目をみるべきでしょうから。だそうで。

 今回の魔法大戦の実質的な引き金を引いたエレメントリー本家。様々な観点から引き起こされたそれは、けれどこの戦争が滅亡によって曖昧な結果に終わったことを受け、フラストレーションがたまりまくっている。だから無駄なバッシングを鎮圧するためにアンジェリカが始祖に戻り、エレメントリー本家を保護するとか。

 多分要らないって言われるけど、私がやりたいから、らしい。

 

 なお、スヴェナの口調に関する認識錯誤はもう解除されている。己じゃなく彼女が自身で解除した。

 シェリー曰く、理論における魔法の扱いはどのデルメルサリスよりも上だそうで、フラッジロードになってくれて良かった、とも言っていた。

 存在の露見が無駄な血筋争いに繋がると……そんな話を。

 

 ……対象者がスヴェナでなければ喜ばしい話だったのだけどね。

 

 そんなスヴェナは、学業を行いつつ存在抹消の里でも活動をしている。

 いずれはあの里で学校を開きたいらしい。二種魔法使用者専用の学校を。

 生前引く手あまただったという研究機関へは行かなくていいのかと問うたところ、興味が無い、のだそうで。

 彼女はもう、心配ないだろう。いずれはこの時代の『賢者』とでも呼ばれたりするのかもしれないね。

 

 で。

 

「エンジェ、あの、機嫌を直してください。確かに我慢ならなくなって人前で……き、キスをしたのは、恥ずべきことですが、そこまで怒らずとも」

「アンタ色々あってからネジぶっ飛んだわよね。人前でキスがまず恥ずかしくて、フラッジロードになったとはいえまだまだエレメントリーとして見られることは少なくないんだから、体裁ってものがあるし……」

「で、でもずるいでしょう! あの時は空気を呼んで我慢していましたが、あんな……ロマンチックな展開を……」

 

 シャニア・デルメルサリス。

 彼女はデルメルサリスの名を捨てていない。デルメルサリス本家の次期当主の座は捨てないのだそうだ。

 そのままにフラッジロードの当主であるエンジェと番うことを正式に発表したものだから、相当の混乱があって……それでもデルメルサリス本家は彼女を尻尾切りにはしなかった。愛のある家族なのか、その才能を見込んでか。

 半ば強制的な公認を得てから、彼女はどんどん暴走しつつある。今のように公衆の面前でエンジェに抱き着いたり手をつないだり、それはもうべったりだ。そして己がいる時は決まってキメ顔をしてくる始末。精神年齢下がってないかな。

 焦燥感や欲求を得たとはいえ、独占欲が肥大化したわけでもないから別に構わないんだけど、どうやら彼女はそうではないらしくて……ま、それは個性というやつなのだろう。

 己はどこまで行っても無個性だからね。それでいいさ。

 

「……え。なんでここにいるのよアンタ。さっき室内運動機能場にいたでしょ」

「あら……?」

「またそれか。折角平和になったのに、まだトラブルがあるのかい、この学園は」

 

 平和になったとは言ったけれど、実際のところそうでもなかったりする。

 世界征服を成した覇道天還(フラッジロード)。その始祖となった己達は、世界全体の王族といっても過言ではない存在だ。そしてその中にカップルが存在している。

 そうなると、独り身でいる者達へ来るわ来るわの求婚の嵐。

 

 結局のところ、ここまでのリセットを受けて尚……己が望まずとも、魔法使いたちの骨肉相食む血筋争いは終わらないという話だ。

 嬉しくはあるけれど……当事者になるのはちょっと話が違うというか。あと己に生殖機能はないのに、エンジェとの子供をぜひ我が子の許婚に、みたいな声も面倒臭いというか。

 

 で、室内運動機能場がなんだって。

 己の偽物?

 

 エンジェといる時間が勿体ないので普通にここから探査を飛ばして……。

 ……。

 

「気にしなくていいよ。あれはそういう魔物だから。人間に成り済まして知能を得ていくタイプの、ね」

「は?」

「はい?」

「それよりエンジェ、こっちへ。折角の学園生活なんだ、もっとイチャイチャしよう。別にシャニアがいても構わないか──」

 

 顔面を殴られる。グーで。

 えっと?

 

「学園内に魔物がいて、どう気にしないで居ろってのよ。アンタほんと、色々獲得した代わりに優しさを少しだけ損なっちゃって……ちゃんと矯正するから、覚悟しておきなさいよ」

「室内運動機能にいるなら丁度いい、行くぜアリス」

「はーい!」

「ぜ、全力戦闘はやめてねぇ~? 君達結構強いことを忘れないでねぇ~?」

「さっき喋った感じ、『せぇんぱぃ』となんら遜色なくてぇ……私がわからないほどの擬態ができる魔物は、貴重だからぁ」

「殴り潰す!」

「切り刻んで、欠片を渡せばいいですか」

「公然と悪の取引をしないでください、一応」

「ご安心くださいドクラバ先生。結界、サポートします」

 

 ……ふと振り返るエンジェ。

 流し目で、けれど……彼女らしい微笑みで。

 

「かっこいいとこ見せてくれないワケ? ……私の彼氏、なのに」

「己の彼女が誰よりもかっこいい、でも良いとは思うけれどね」

 

 それじゃあまぁ、出ようか。

 まだまだ彼女を王にする旅は始まったばかりだし、その伴侶が王道をサボっていちゃあ話にならない。

 

「ルリアン。私──」

「エンジェ、己は君が好きだから、君に好まれる存在になりたいと切に願う。最後の最期まで、お互いの好きをぶつけていくとしよう」

「……もしかしてそれ、仕返しのつもり?」

「?」

 

 いいじゃないか。

 いつか、叶うなら。

 エンジェの国が、遍く繁栄を。──その栄耀を、見届けたい。

 

 己は円盤(おもいで)だからね。

 幸せ家族も、血筋争いも、ここから先の、喜びも悲しみも、全て記録して……君を想うよ。

 だから今は、めいっぱいの時間を。

 

「愛しているよ、エンジェ」

「私こそ」

 

 そうあれかし、と。




これは、元から人間であったものが、人間にならんと足掻き続けた、愚者の(幸福な)物語(スピンオフ)
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