人類詰みかけソシャゲで、問題児に囲まれても生き残りたい   作:つみそ

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九 死にぞこないの救世主

 他の家族は、俺を疎んで距離を取り。ユーゴは本質的に俺を恐れていた。あの環境でシオンはどうしてか、俺に遠慮のようなものをただ一人見せなかった。

 どころか、常に俺の後ろを引っ付いてきていて。なぜ、俺を疎んだりしないのだろうと、常々疑問に思っていたのだ。

 

 シオンはこういった。

 

『――お兄ちゃんの見てるものは、特別なものじゃ、ないもんね』

 

 ユーゴが俺へ指摘したように、俺には他人と違うものが見えている。

 前世の記憶だったり、ゲームの知識だったり、それらはどうしても周囲からは「俺は自分を特別だと思っている」ように見えるだろう。

 少なくとも、ユーゴは実際そう感じていた。俺自身、多少なりとも自覚はある。でも、そうではないのだとシオンは言う。

 

『お兄ちゃんが見てるのは、当たり前のことだと思うの。私も、パパも、ママも持ってる……当たり前のもの』

 

 きっとシオンには、俺が何を恐れているのか、なんとなくだが解っていたんだろう。

 俺は恐れていた。恐れているから、生き残りたいと思った。

 死にたくないと、思ったんだ。

 それは、俺以外の人間では絶対に理解できない感覚と、そこから来る恐れだ。シオンだって、なんとなくしか解らなかった。

 

 ――そのせいで、俺はすべてを間違えた。

 

 このシェルターに終わりが訪れた日。ネームドのZOMBIEがシェルターに入り込んだ日。俺はこのシェルターで製造されていたUMウェポン――ベルクを手にとってそのネームドに挑みかかった。

 生き残るために、そうするしかないと思ったから。

 見たことのないネームドだった。もしも、ゲームに登場するネームドだったなら、まだやりようはあっただろうか。

 しかし、未知のそいつに対して、汎用のベルクしか持たない素人の俺にできることなんて何もなく。

 あっけなく吹き飛ばされて、気を失い。

 

 目が覚めた時には、全部が終わっていた。

 

 俺は「EUNOIA」の抗体者に起こされて、シェルターの住人は全員ZOMBIEになっていた。

 ネームドは抗体者を喰うことで強くなるはずなのに、どうして俺を生かしたのか。どうして俺以外の人たちだけをZOMBIEにして去っていったのか。

 あまりにも不可解な点は多い。

 だけど、そんなことはどうでもいいのだ。

 俺は間違えた。

 当時の俺は、シェルターに引きこもってゲームのメインストーリーが終わるのを待てばいいと思っていた。自分みたいな大して役にも立たない元一般人の転生者に、何ができるのか。

 俺みたいな異物が増えても、できることなんて何も無い……と。

 

 でも、覚悟を決めるべきだった。原作知識を使って、死んでしまうはずだった人を救って。そのための力も手段も、俺にはあったはずなのに。

 どうしても、動けなかった。そのせいで、シオンと両親と、シェルターの人たちは死んだ。

 

 シオンは言う。

 俺が恐れるものは誰もが恐れるもので、当たり前のものなのだ、と。けれども同時に、こうも言っていた。

 

『お兄ちゃんは、視点が他の人と違うから。もしかしたらそれが、お兄ちゃんにとっての力になるかもしれないね』

 

 ああ、そうだなシオン。

 俺は転生者で、この世界の人間じゃない。ある理由から、その事実は俺をずっと苦しめてきたけれど。見方を変えれば、考え方を変えれば――

 

 きっと、それも俺の力に、なってくれるんだよな。

 

 

 <>

 

 

 ZOMBIEになったシオンを、ユーゴが触手で抱えている。

 少しでも力を込めれば、シオンはぐちゃぐちゃになってしまうだろう。

 

「――なら、わたしが、その女……殺す」

「別に、かまや、しねぇよ……! そうしたところで、何も……かわらねぇ! オレぁ、もうすぐ、死ぬ! シオンを、誰が殺そうが……関係ねえ!」

 

 カオスが、鎌をシオンに向ける。

 だが、実際ユーゴの言う通りだ。もう、今の状況は決定的である。ユーゴは既に助からない、ネームドのZOMBIEと化している。シオンは既にZOMBIEだ。一度殺しても、また再生する。

 だから別に、ユーゴは俺がこのままここから逃げ出したって構わないのだ。

 カオスがシオンを殺したって、俺がユーゴを殺したって。

 

「だが、だからこそ……てめぇは……逃げた、殺したと、嗤って……オレぁ! 死んでやる!」

 

 そうして、ユーゴは自身の触手を工場内へと伸ばしていく。おそらく、ユーゴは自分自身を自爆させることもできるはずだ。

 

「選べ、カケルぅ! このまま、尻尾を……巻いて、逃げ出すか! 眼の前で……シオンが、もう一度、死ぬ……のを、黙って……見てるか! 何も出来ずに、潰れて……死ぬか!」

 

 選択肢はそれしかないと、ユーゴは嗤う。どの選択肢を選んでも、ユーゴは俺が間違っていると嘲笑う。

 だったら、俺は――

 

「――なぁ、ユーゴ」

「ああ?」

 

 俺は、ユーゴに問いかける。触手を伸ばし切るには、時間がかかるだろう。ユーゴは、話に乗ってくるはずだ。

 

「お前は……()()()()()()って思ったことは、あるか?」

「何を言うかと、思えば……そんなもん、今だって思ってるに……決まってるだろうがよ……! 何だって、オレが死ななくちゃ、ならねぇ!? オレが一体、何をしたって……んだよ!」

 

 確かに、お前が死ななくちゃ行けない理由はないかもな、ユーゴ。

 でも、お前がしてきたことは許されないことだし、俺にはお前を止める義務がある。そのうえで、俺が言いたいことはそこじゃない。

 

「……違うんだよ、ユーゴ。それは死にたくないって感情じゃない。生きたいって感情なんだ」

「何が、違う! オレぁバカみてぇな、言葉遊びに……付き合うつもりは、ねえぞ!」

「単純な話、経験の話だ。俺達は今、生きている。だから、生きたいと思う」

 

 ――ああ、やっと。

 やっとそれを、言葉にできる。「EUNOIA」での俺は、最高戦力だ。アシュラと並んで、誰かの希望にならないといけない存在。

 だから、弱音なんて吐いてはいられない。

 でも、今ここにいるのは、シオンとユーゴ、それからカオスだけだ。シオンはもちろん、ユーゴとカオスを相手に取り繕う必要なんてないだろう。

 

 この世界に生まれ落ちた時から、前世の記憶を持ってしまった時から。この世界が『アルテミック・ウェポン』の世界だと気付いたときから。

 ずっと、俺は抱えていた恐怖がある。それは、すなわち――

 

「だって、そうだろ? ()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 死の恐怖。前世に経験した、死という体験を俺は恐れた。

 

 

「この世界に、死んだことのある人間はいない。だから死にたくないなんて思わない、実感がないんだ。でも、生きたいという実感があるから人は生きたいと思う」

「何も、違わねぇ……じゃねぇか! 同じだろうが!」

「そうだな、同じだ。でも、視点は違う」

 

 そう、視点だ。

 何もかも、シオンの言う通りなんだ。

 

 俺は凡人だ。

 凡人の俺が、ただ努力するだけではアシュラやカオスのような天才には敵わない。届かないと、諦めてしまうから。

 でも、俺には経験がある。前世で経験した、死という恐怖。それを思い返す度、かつての俺は体が動かなくなってしまっていた。

 そのせいで、シオンを死なせてしまった。取れるべき対策を取らなかったことで、シェルターという故郷を失った。

 

「だから今の俺は――死にたくないという感情を原動力にしなくちゃならない」

 

 だってそれは――

 

 

「それは――俺にしかできないことなんだから!」

 

 

 一歩、足を踏み込む。

 即座にユーゴは反応を見せる。シオンを握りつぶして、自分自身を自爆させて。この戦闘に決着を付けるつもりだ。

 俺にはそれを、防ぐ手段はない。イン・エコーズのUMウェポンを模倣する能力は強力だが、できることは物理的な模倣だけ。カルマカルマのパリィなどは、模倣することが出来ない。

 だから、取れる手段は一つだけ。

 

「俺は……特別なんかじゃ、ない!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 イン・エコーズの全開放は今も続いているのだ。俺の身体能力は、最大まで高まっている。何より、俺にはイン・エコーズの血煙があった。

 イン・エコーズの血煙は、他のUMウェポンを模倣する。それは本質的に、血煙は実体を持っており、使用者の俺は自由にそれを操れるということだ。

 つまり――噴射すれば、ブースターになる。

 ユーゴが俺に反応するよりも、早く、ユーゴにたどり着く――!

 

 

「死にぞこないだ……!」

 

 

 決着は、一瞬だった。

 ユーゴが手の内をさらした時点で、この結末は決まっていたのだ。

 

「な、ァ――」

 

 ユーゴの体が力を失い、その手からシオンが解放される。驚愕に染まったユーゴの顔が、肉塊の中から俺を見ていた。

 

「カケル、てめ、ぇ……どこ、まで……強く……」

「強くなんか……なってないよ。俺は……昔から、ずっと弱いままだ」

 

 でなきゃ、死を恐れたりなんかしないだろ?

 でなきゃ、シオンを死なせたりなんかしないだろ?

 でなきゃ――

 

「でなきゃ、もう少し……ユーゴに、マシな言葉をかけられただろ」

「……ハッ」

 

 ゆっくりと、ユーゴが崩れていく。肉塊の中に、その顔が消えていく。

 

「だから……気に入らねぇんだ……何が……死にたくねぇ、だ。……この世の、誰よりも、生きようとしてる……てめぇが、よ」

「それは……」

「てめぇが……もう少し、諦めて、たら……妬まずに、済んだんだ」

 

 そして――

 

「……憧れずに、済んだんだ」

 

 俺には、どうしてユーゴが「EUNOIA」を抜けて、「SLAVE」を選んだのかはわからない。

 強いて言うなら、「SLAVE」というのは立場ある人間が、横暴に振る舞うことが許される組織だ。

 ある程度周囲を納得させる必要はあるだろうが、俺達の故郷であるシェルターの直ぐ側に、個人の意志で拠点を作れるくらいには。

 

「……ユーゴは、ここで死にたかったのか?」

「はっ、いい死に場所だろ……ここは。オレみたいなのが、死ぬには……いい場所だ」

「……傲慢だな」

 

 なんとも、自分勝手な理由だ。

 だが、拠点のトップがこのシェルターを荒らそうとしなければ、部下は誰も荒らさないだろう。結果として、こいつは墓守になったのだ。

 本人にそのつもりは毛頭ないだろうが――

 

「ああ、クソ……なんだよ、やっぱ、死ぬのは……こわいな」

「……そうだな」

「何、解ったような口、聞きやがる……てめぇは、生きろよ」

 

 最後に、ユーゴは。

 

 

「死にぞこないの……救世主」

 

 

 そう、言葉を残して、消滅した。

 

「――帰ろ」

「……そうだな」

 

 カオスが、後ろから声をかけてくる。

 同意して、ユーゴのいた場所と、倒れたまま動かない妹へ視線を向ける。

 前にここへ来たときも、シオンは今のように動かなかった。なにか特別な理由でもあるのかと思ったが、原作でも現実でも、そんな例は聞いたこともない。プロフェッサーの結論も「わからない」だった。

 だから――

 

 きっと、俺はもう二度と、ここへ戻らないのだろう。

 

「……おやすみ」

 

 果たしてその言葉は、一体誰に向けたものだったか。

 答えはなく、俺は彼らに背を向けた。

 

 

 <>

 

 

 カケルは、アズサとの通信のためこの場を離れた。

 どうやらシェルターの外まで、アズサはやってきているようだ。後には、カオスだけが残される。残されたカオスは、一人思う。

 

 

 ――全て、上手く行った。

 

 

 まさか、ここまで上手くいくとは思わなかったのだ。

 あの時、カオスはモノケイン――サルのネームドとユーゴが戦っているのを見つけた。カオスが見つけた時点で、ユーゴは全開放を後戻り出来ない状態まで使っており――そのうえで、死にかけていた。

 あのまま戦っていたら、ユーゴは負けていただろう。だからカオスが手を貸した。ユーゴの事をカケルから聞いて覚えていたからだ。

 カオスは基本的に、興味のないものは聞いても覚えない。だが、ユーゴは違った。カケルの同郷だ、カオスにとっては興味の対象である。

 

 だから考えた、カケルとユーゴをぶつけて、カケルの根底にあるものを引き出せないか――と。

 結果は大成功。周囲が救世のための自己犠牲と誤解している、カケルの「生き残りたい」という真意をしることができた。

 それだけではない、その考えの根底には他者よりも強い「死にたくない」という感情と、家族を失った経験が影響していることまで知ることができた。

 

 家族を失う経験など、この世界の人間なら珍しいことではない。

 しかしそこに、死に対する根源的な恐怖が相乗効果を起こせば、どうか。諦めが蔓延するこの世界において、諦めることのない人間が誕生する。

 ()()()()()()()()()()()人間が、カケルだ。

 

 ――ああ、見てみたい。

 

 カケルが諦めて、心折れて、立ち尽くす姿が。

 その姿は、一体どれほど美しいだろう。

 どれほど、尊いものだろう。

 

 そのために、最も有効で安易な手段。カオスはそれを考えて、地面に倒れ眠りにつくカケルの妹に目を向ける。

 存在を許してはならない相手だ。カオスにとって、この世で最も唾棄すべき相手だ。この女をメチャクチャにすれば、きっとカケルはいい顔をしてくれるだろう。

 でも、ダメだ。それをすればカケルはカオスを許さないだろうし――ただ損壊するだけでは、カケルを根底から破壊することはできない。

 

 仮にやるなら、カケルが限界を迎えそうな時だ。

 

 だから、今じゃない。

 そんな、自分の出した結論に舌打ちをうつ。

 

「シオン、って、言ったっけ」

 

 眠りにつく、カケルの妹へ視線を向ける。

 カケルにとって、おそらく最も特別な存在。血の繋がりという、カオスには絶対にないつながりを持つ存在。

 許せない、と思う。

 だが、何よりも――

 

「……あなたに、何が見えてたか、知らない、けど」

 

 この女には、カケルとも、普通の人間とも違うものが見えている。

 何を思い、カケルにあんな言葉をかけたのか、知らない。そのせいで、カケルの中にこの女がこびりついてしまって、不快極まりない。

 それでも、

 

 

「今、カケルの側にいる女は、わたし」

 

 

 マスクの中で、勝ち誇ったように、カオスは深い、深い笑みを浮かべるのだった。




 お読みいただきありがとうございます。
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 次回更新はプロットが固まってから……よろしくお願いします。
 
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