ブルアカエアプです。
人類が増えすぎた学生人口をキヴォトス各地の学園に分散させるようになって、既に半世紀が過ぎていた。
キヴォトス各地を繋ぐ巨大な学園都市群は、生徒たちの第二の故郷となり、そこで学び、成長し、そして卒業していった。
キヴォトス・センチュリー0080(KC0080)——。
キヴォトス圏の最も遠い学園都市サイド3は「ジオン学園」を名乗り、連邦生徒会に独立戦争を挑んできた。
この一ヶ月あまりの戦いで、ジオン学園と連邦生徒会の戦力は、多くの学園を荒廃させ、生徒たちの半数が戦場に散った。
生徒たちは、みずからの行為に恐怖した。
そして戦争は膠着状態に入り、八ヶ月の時が流れた。
連邦生徒会の新型兵器「デカグラマトン」の活躍により、連邦の勝利に終わった。
だが、それは決して終戦ではなかった。
戦争の傷跡は深く、支配と反発は止むことなく続いた。
戦後、連邦生徒会は自らの権力を強化し、学園都市の自治権をさらに制限した。
もはや連邦生徒会は、「生徒たちのための政府」ではなく、統治機構と化していた。
そして、それから13年後——KC0093。
戦後の混乱を生き延びた者たちの中で、ある男が再び立ち上がる。
彼の名は、シャア・アズナブル。
ジオン学園の創設者ジオン・ダイクンの息子であり、かつてザビ家の暴政に抗った革命家。
彼は、かつて「ジオン学園」と名乗った者たちが引き起こした独立戦争の敗北を見つめ、なおも学園都市を支配し続ける連邦生徒会の腐敗に対して、最後の決断を下した。
——アクシズをキヴォトスに落とす。
その時、彼はスウィートウォーター学園の講堂で、多くの学生たちの前に立っていた。
スウィートウォーター学園
そこは、かつてゲヘナとトリニティの廃墟を繋ぎ合わせ、急造された不安定な学園。
この学園に生まれた生徒たちは、連邦生徒会による統一戦争の影響で自治権を奪われ、荒れ果てた環境で育った。
彼はステージに立ち、集まった生徒たちを前に鋭い瞳を向ける。
その表情は穏やかだったが、秘めた決意が彼の言葉に宿っていた。
「この学園、スウィートウォーターは、ゲヘナとトリニティを繋ぎ合わせて建造された、きわめて不安定なものだ」
彼の言葉に、生徒たちは静かに耳を傾ける。
「それも過去の独立戦争で生まれた難民学生のために、急遽建造されたものに過ぎない。そして連邦生徒会が我々に行った施策は、ここまでだ。彼らは最低限の入れ物さえ用意すれば良いと考え、D.U.(ウトナピシュティム地区)に引きこもり、我々にキヴォトスを解放することはしなかったのである」
シャアの目が、生徒たちを見据える。
「私の父、ジオン・ダイクンは、学生……すなわち各学園の自治権を回復することをキヴォトスに要求した。しかし、父はザビ家によって暗殺されたのだ!」
会場の空気が揺れる。生徒たちは皆、シャアの言葉に緊張を募らせていた。
「その後、ザビ家はジオン学園を名乗り、連邦生徒会に独立戦争を仕掛けた。しかし、その結末は諸君らも知っている通り、敗北に終わった」
彼は一瞬間を置き、ゆっくりと続ける。
「それはいい。しかし、その結果どうなった?」
彼は指を突き出し、生徒たちに問いかける。
「連邦生徒会は増長し、連邦軍の内部は腐敗した! その中で生まれたのが、ティターンズのような反連邦生徒会運動、そしてザビ家の残党を騙るハマーンの跳梁だ!」
生徒たちの間にどよめきが広がる。シャアの言葉は冷徹でありながら、誰もが納得せざるを得ない真実を突いていた。
「これが、難民学生を生んだ歴史である!」
彼は拳を握りしめ、天を仰ぐ。
「私はここに至り、確信した。人類が今後、絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと!」
静寂が広がる。生徒たちは息を呑み、次の言葉を待っていた。
「それが、アクシズをキヴォトスに落とす作戦の真の目的である!」
ついにその意図を明かしたシャア。会場に衝撃が走る。
「これによって、キヴォトス圏の戦争の源である、D.U.に居続ける人々を粛清する!」
「な……!」
生徒たちの間から、驚愕と動揺の声が漏れる。
「諸君! 自らの道を拓くため、学生のための政治を手に入れるために、あと一息、諸君らの力を私に貸していただきたい!」
彼は拳を高く掲げた。
「そして私は……父、ジオンのもとに召されるであろう!」
場内は一瞬の静寂に包まれた。
その刹那——誰かが叫んだ。
「ジーク・ジオン!!」
その声は、まるで点火された火薬のように瞬く間に燃え広がった。
スウィートウォーターの講堂に集まった生徒たちが一斉に立ち上がる。
「ジーク・ジオン! ジーク・ジオン!!」
拳を突き上げる者、涙を流しながら叫ぶ者、静かに瞳を閉じる者——
それぞれの形で、彼らはシャアの言葉に呼応していた。
「ジーク・ジオン!!!」
その声は、天井を突き破るほどの勢いで轟いた。
スウィートウォーターの生徒たちは、いまこの瞬間、革命に身を投じる決意を固めた。
そして、アクシズ落とし作戦が始まる。
スウィートウォーターの熱狂から一転、場面は静かな宇宙艦隊の一室へと移り変わる。
そこは、シャーレの旗艦「ラーカイラム」のブリーフィングルーム。
暗がりの中、一人の少女が佇んでいた。
アリス。
連邦生徒会が誇る最新鋭の機体、「νデカグラマトン」のパイロットにして、キヴォトス最強の生徒兵。
彼女の前には、静かに腕を組んで立つ一人の教師——先生がいた。
「……シャアが動いた。」
先生の低い声が、静寂を切り裂く。
アリスは目を伏せる。
「……やはり、アクシズを落とすつもりなんですね」
「そうだ。スウィートウォーターの学生たちは、彼の言葉に呼応して決起した。キヴォトスを覆すつもりだ」
先生の声には、静かな怒りが滲んでいた。
しばらくの沈黙が流れる。
「……先生は、どうするつもりですか?」
アリスが口を開く。
先生は目を閉じ、一息ついた。
「どうするつもりか、か……」
先生は、言葉を選ぶようにゆっくりとした口調で続ける。
「俺は……生徒たちの未来を守りたい」
その言葉に、アリスは息を呑む。
「未来を守るために、私は出るべきですか?」
先生は即答しなかった。
「アリス、きみはどうしたい?」
アリスは、一瞬言葉に詰まる。
「……私は、連邦生徒会の一員です。キヴォトスを守るために戦う。それが……正しいことなら」
「正しさは、戦場では決まらない。きみ自身が何を選ぶかだ」
アリスは静かに目を閉じ、深く息を吸う。
「——私は、行きます」
先生は、彼女の決意をただ見つめていた。
「……気をつけてな」
「はい」
アリスは振り返り、ブリーフィングルームを後にする。
キヴォトス・センチュリー0093(KC0093)——キヴォトス宙域
巨大な人工衛星アクシズが、重力圏へと引き込まれつつあった。
その巨体は、まるでキヴォトスそのものを呑み込もうとするかのように、無音の空間を滑るように進んでいる。
——シャアの作戦が始まったのだ。
連邦生徒会の防衛網は急速に展開し、各艦隊が迎撃体制を整える。
警報が鳴り響く中、シャーレ艦隊のブリッジには緊張が張り詰めていた。
「敵勢力、ネオジオン所属艦隊、接近中!」
「……来たか」
先生はスクリーンを見つめながら、静かに呟いた。
「νデカグラマトン、出撃準備完了しました!」
オペレーターの声に、先生は目を閉じる。
「……アリス」
「……行きます、先生」
アリスの声は、いつになく落ち着いていた。
彼女の前方のカタパルトデッキには、白と青の装甲を纏った機体「νデカグラマトン」が静かに鎮座している。
「……シャアの言葉が、私の心を揺らします」
「きみが何を感じたか……戦場で確かめろ」
アリスは静かに頷く。
「νデカグラマトン、アリス——出ます!」
青白い閃光が弾け、νデカグラマトンが宇宙へと飛び出した。
まるで大気圏へ突き抜けるかのような加速。
眼前には、赤い機体がいた。
——シャア・アズナブルの「サザビー」。
「やはり、来たか……アリス」
シャア・アズナブルの声が、通信回線を通じて響く。
「あなたを止めます、シャア」
アリスの声は静かだった。しかし、その瞳には確かな意志が宿っている。
「貴様のその機体、まさしく連邦生徒会の象徴だな」
シャアは嘲るように言った。
「いや……お前自身が、その象徴か」
「……」
「貴様は、この腐敗しきったキヴォトスの秩序を守るつもりか?」
「……私は、先生の言葉を信じています」
「先生、か」
シャアは鼻で笑う。
「生徒を導くべき大人が、前にも出ず、ただ後ろから命令するだけか……ならば、貴様は何のために戦う?」
「私は……生徒たちの未来を守る」
「ならば、私のやり方でキヴォトスを救うという考えは否定するのか?」
「……それは、あなたの独りよがりです」
「違うな」
シャアのサザビーが急加速し、ヒートホークを振るう。
アリスは瞬時に反応し、νデカグラマトンのサーベルで受け止めた。
青と赤の光刃が、宇宙の闇を照らす。
「私が望むのは、戦争のない世界だ! そのために連邦生徒会という支配体制を打ち壊し、キヴォトスの未来を生徒たちに取り戻す!」
「アクシズを落とせば、多くの生徒が死にます! そんなものが未来を取り戻すことになるのですか!?」
「連邦生徒会は、自分たちの安定を求めるだけだ……貴様は、そんな組織の道具で終わるつもりか?」
「私は道具ではありません!」
アリスの声が強まる。
「私自身の意志で……この戦いを止める!」
ビームサーベルが激しくぶつかり合う。
その頃、アクシズ内部では、別動部隊がアクシズ爆破工作を進めていた。
連邦生徒会の特殊部隊——「SRT」。
彼らはアクシズを内部から破壊し、キヴォトスへの落下を阻止するために潜入していた。
「アクシズの動力炉、爆破準備完了」
「全員、退避! 時間がない!」
だが、ネオジオン側もそれを察知し、防衛部隊を送り込む。
「連邦の犬どもめ……ここで死んでもらう!」
爆破班の撤退を阻むように、ジオン学園の部隊が襲い掛かる。
「くそっ、撤退ラインを確保しろ!」
激しい銃撃戦が繰り広げられる中、アクシズ破壊作戦が進行していく——。
宇宙の闇を裂くように、νデカグラマトンとサザビーが死闘を繰り広げていた。
「なぜ分からん、アリス!」
シャアのサザビーがファンネルを展開し、無数の光の網を形成する。
しかし——
「……これで、終わりです!」
アリスは、νデカグラマトンのスーパーノヴァファンネルを全展開する。
無数の光の矢が、サザビーを包囲した。
シャアのサザビーが機動するよりも速く、光の奔流が放たれる。
光が炸裂し、サザビーの装甲が砕ける!
「くっ……!」
サザビーの関節部が損壊し、動きが鈍る。
スーパーノヴァファンネルの追撃が容赦なく続き、ついにサザビーの推進機能が完全に停止する。
「……先生は、私に何も命じませんでした」
アリスは目を閉じる。
「それは、私に自分で考えさせるためです。戦う理由を……選択を……」
「……」
「シャア、あなたの理想は、正しいのかもしれません。でも、私は……先生の言葉を信じたい!」
νデカグラマトンが、最後の光の奔流を放つ。
サザビーの装甲が完全に砕け、機体が軋む。
シャアはすぐに脱出ポッドを起動し、機体を捨てた。
「ふっ……まさか、私が貴様に敗れるとはな」
しかし、その瞬間——
「捕獲モード、起動」
νデカグラマトンの肩部から、トリモチランチャーが発射される。
白い粘着性のワイヤーが広がり、シャアの脱出ポッドを絡め取った。
「何……!?」
脱出ポッドの推進機が動かなくなり、シャアは完全に捕獲される。
しかしその瞬間、アクシズに異変が訪れる
嫌な予感がし、アリスの目が見開かれる。
爆発の衝撃で、アクシズの前後部が分裂し、一方の破片がキヴォトスの重力圏へと引き寄せられていく。
「フフフフ……ハハハハハハ!」
通信回線から響く、シャアの静かな笑い声。
「……何がおかしいのですか?」
「私の勝ちだな」
「……?」
「今計算してみたが……アクシズの半分はキヴォトスに落ちる!お前らの頑張りすぎだ!!」
「……!!」
アリスのAI処理が瞬時に状況を再計算する。
確かに、アクシズの前部は爆破の勢いで重力圏を脱したが、後部は爆破によって減速し、キヴォトスの重力に捉えられていた。
さらに加速度が増し、このままでは大気圏に突入する。
「……そんな」
アリスの心が、静かに震えた。
これまでの戦いは何だったのか? すべては無駄だったのか?
だが——
「……ふざけないでください……!」
彼女は歯を食いしばる。
「たかが石ころ一つ……νデカグラマトンで押し出してやる!」
コクピットのスラスター警告が点滅する。
だが、アリスは迷わず最大出力を指示した。
「νデカグラマトン、最大推力!」
青白い光を放ちながら、νデカグラマトンがアクシズに取り付く。
巨体の表面に両手を押し当て、全スラスターをフル稼働する。
しかし——
アクシズはびくともしない。
「……バカなことはやめろ!」
「やってみなければ分かりません!」
「正気か!? 貴様ほどの計算能力があれば、無駄なことだと理解できるだろう!」
「いいえ……私は、先生の言葉を信じます!」
「アクシズの落下は始まっているんだぞ!」
アリスは覚悟を決めて叫ぶ
「νデカグラマトンは伊達じゃない!!」
スラスターの炎が、機体を灼く。
しかし、それでもアクシズは動かない。
「くっ……!!」
それでも、諦めるわけにはいかない。
——その時だった。
「お前が押すなら、俺たちもやるさ!」
通信回線に、先生の声が響いた。
「……先生!!?」
「一人で抱え込むな、アリス」
その言葉を皮切りに、各艦隊の通信が次々と入ってくる。
「シャーレだけにいい思いはさせんぞ!」
そう叫んだのは、連邦生徒会艦隊の司令官、連河チェリノだった。
彼女の声には、かつてないほどの熱意がこもっている。
「……やるなら徹底的に! 戦争で散っていった仲間のためにも、ここで負けるわけにはいかない!」
「生徒会艦隊、全機アクシズに取り付け!!」
次々とミレニアム、アビドス、ヴァルキューレの艦隊が動き出す。
彼らはこの戦争を終わらせるために、今ここで、敵も味方も関係なく協力する道を選んだのだ。
「キヴォトスの未来は……生徒たちのものだ!!」
そしてジオンからも通信が入る
「キヴォトスが駄目になるかならないかなんだ! やってみる価値はありますぜ!」
通信回線の向こうから、笑い声が響く。
彼はジオン学園の古参パイロットであり、独立戦争を戦い抜いた者の一人だった。
「……俺たちは負け犬さ」
「でもな、負け犬にだって意地があるんだよ」
「俺たちは、未来のために押し返すんだ!!」
次の瞬間、ジオン学園の生き残りたちが一斉にスラスターを噴かせ、アクシズに取り付いた。
「お前ら、ついてこい!!」
「やってみる価値はある!!!」
エリートも、革命家も、敗北者も——
皆が、キヴォトスを守るために一つになった瞬間だった。
——連邦生徒会。
——ジオン学園。
——かつて戦争を繰り広げた者たちが、今は一つの目的のために戦っている。
「みんな……!」
アリスの目が震えた。
戦いを超えて、皆が手を取り合い、キヴォトスを守ろうとしている。
「……この未来は、守らなくては」
しかし——
「ダメだ……離れて……!」
アリスの叫びが響く。
「こんなことに付き合わなくていい!摩擦熱で機体がオーバーロードするだけ!!」
警告音が鳴り響く。
次々とスラスターのオーバーロード警告が表示され、限界を迎えた機体が次々に爆発していく。
「……ダメなのか……?」
アリスが歯を食いしばる。
その時——
突如、不思議な光が辺りを包み込んだ
奇跡の光に包まれながら、アクシズはゆっくりと軌道を変えた。
その巨体は、燃え尽きるように細かく崩れ、宇宙の塵となっていく。
しかし、その閃光の中心には、まだ二つの機影があった。
νデカグラマトンと、シャアの脱出ポッド——。
通信は途絶え、レーダーも混乱していた。
誰も、彼らの姿を正確に捉えることはできなかった。
宇宙の闇の中で、微かに通信が残っていた。
「……私は敗れた」
アリスは、かすかな意識の中で、その声を聞いた。
「……」
「……だが、私の意志が消えたわけではない」
「……それは……」
光の中で、シャアは静かに笑った。
「早瀬ユウカは私の母になるかもしれなかった女性だ」
アリスの瞳が、わずかに揺れる。
「おかあさん? ユウカが……」
——「うわあーーん」
しかし、次の瞬間、閃光が彼らを包み込んだ——。
なんじゃこりゃ