───“鬼”。
 規格外の膂力、人知を超えた超能力、そして人間を平気で捕食するという人を人とも思わぬ恐るべき凶悪性をその身に同一させた化け物の総称である。さらに上位の“鬼”となれば血鬼術と呼ばれる災害級の異能を有し、ある者は琵琶の音一つで異空間を意のままに操り、ある者は身体能力を最大強化することで人間では至ることの出来ない武の極みへと足を踏み入れることが出来る。
 この人外どもを殺すことの出来る力はこの世でただ一つ、”太陽エネルギー”のみなのだ。
 即ち、




「俺は太陽の子!!!!!ブラック(ブラァッ)!!!!!RX(アーッエッ)!!!!!」




天敵である。

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“鬼”からしたら災厄みたいなものだよな〜と思いまして。


VS猗窩座

 ゴゴン、という“感触”が己の拳を伝わり骨身まで震わせたことに、上弦の鬼猗窩座(あかざ)は電撃を喰らったように驚愕し、愕然とした。

 

(これは───)

 

 今この瞬間、たしかにこの拳は相手の胸板に触れている。心臓を穿とうとした正拳突きは真正面から激突し、派手な音を立てた。そのはずだった。猗窩座は百戦錬磨の強者、それは間違いのない事実だ。百年以上に渡って鬼殺隊の柱たちを数え切れないほど葬ってきたことがその証左だ。その鍛えに鍛え上げた拳の中手骨が……今まさに冬の枯れ枝のようにパキパキと音を立てて粉砕したのだ。有り得ない事態───否、有り得ない敵(・・・・・・)を前にして、猗窩座の脳髄内はパチパチと火花を散らす大混乱に渦巻いていた。

 ここで、猗窩座のパンチ力とは実際どの程度なのかを探ろう。現代のバンタム級トッププロのパンチ力は平均約180キロである。これが剛腕で知られたWBC世界チャンピオンのリッキー・ハットンになると、瞬間パンチ力はなんと400キロにも達したと言われる。しかしながら医学的観点から計算した場合、人間の骨格が耐えられる重量は500キロが限界であり、それ以上は自壊するとされている。故にオリンピック種目の一つでもある重量上げの上限も500キロなのだ。結論としてはリッキークラスが人類としてのパンチ力の限界に近いと考えられる。一方、人間をやめた猗窩座はどうか。彼は煉獄杏寿郎を殺めた際のように、打撃のみで500キロの重量に耐えられるはずの骨格を持つ人間の肉体をいとも容易く貫通・破壊してみせる。そして、人体のなかでもっとも分厚い頭蓋骨を破壊するために必要な力は、なんと約7トン。

 

 つまり───つまり、だ。つまり、この”かめんらいだー(・・・・・・・)”を自称する謎の男は、アフリカ象1頭分が上乗せされた打撃を食らっても、まったくビクともしなかったということなのだ!

 

 無論、肉弾戦に特化し、その結果として超回復能力を獲得した猗窩座にとって負傷などは意に介すほどのものではない。そんなことは問題ではない。彼を震え上がらせた重要な要因は別にある。

 

(これは、本当に人間を殴った感触なのか!?)

 

 硬い、などという生易しいものではない。まるで大陸の地平線まで続くほど連結された客車群とそれらを引っ張る山ほども大きな超巨大機関車をすべて丸ごと圧縮して無理やり人間大に凝縮したとしか考えられなかった。事実、家ほどの岩をも易易と砕く猗窩座の渾身の右ストレートを真正面から受け止めたというのに、堂々と肩幅に開いた両の足は微動だにすらしなかった。

 

(な、な……!?)

 

 何時ぶりかわからない”攻めあぐねる”という経験に、猗窩座の本能と理性は真っ白となった。一撃目が通じないのなら次はここを狙う……という格闘家なら脊髄反射の段階で発想されるイメージがちっとも湧いてこなかったからだ。どこをどう打ってもダメージを与えられる気がしなかった。

 猗窩座ほどの武の頂点を覗く領域に手を掛けた者だからこそ直感で理解できる。この世には破壊可能物と不可能物があり、両者の間には海と空のように厳然とした境界がある。そして、直感は告げていた───目の前の“機械仕掛けの鎧武者”は、破壊不可能の部類なのだ、と。

 

(馬鹿な、仁王かなにかの化身とでもいうのか!?)

 

 どんな相手だろうと打ち倒す自信があった。あの上弦の壱───黒死牟であろうといつか必ず実力で引きずり下ろすと思っていたのは、それが自分には可能だとイメージ出来ていたからだ。だが、眼前の男にはそのイメージがまったく浮かばなかった。これは鋼鉄(はがね)だ。全身余す所なく皮膚も血肉も骨格もすべて鋼鉄なのだ。恐ろしく高密度で、大重量で、大質量で、高強度な、未知の鋼鉄で構成された肉体。もはやそれを”肉体”と呼んでよいものか。

 

「ロボライダッッッ!!!!!」

「は……!?」

 

 鼻先を突き合わせる鎧武者が叩きつけるように突然吠えた。黒を基調として黄色い意匠に彩られ、真っ赤な両眼から頬に掛けてはまるで悲しみに涙しているかのようなラインが引かれている。猗窩座の身長は174センチなのに対し、眼前の男は199センチ。その迫力たるや恐ろしいものがある。泣きたいのはこっちの方だ。

 それがおそらく名乗りなのだと1秒遅れで察した猗窩座は反射的に武人として対応する。

 

「お、俺は上弦の参、猗窩───」

「ロボパンチ!!!!!」

「ぐぁっっ!?」

 

 名乗り合い(もんどう)ではなかったのか。問答無用とはまさにこのことだ。拳どころか意思も通じないのかと混乱に混乱が重なる。だが次の瞬間には脳細胞とともに意識も空気中に霧散し、深い分析まで至らない。一撃で城門を吹き飛ばす破城槌のような打撃(パンチ)が猗窩座の肩口を穿ち、その余波で半身が粒子となって蒸発したのだ。

 猗窩座の鋭敏な本能が感じるのは、脅威のみだ。同じ人型(ひとがた)をしている分、たちが悪い。対人間用として研ぎ澄ましてきた技が通じるのではないかと期待してしまう。実際は“城”だ。血肉の通わない強固な黒金の城がその時不思議なことが起きて人間に生まれ変わって四肢をイタズラに振り回しているのだ。そうとしか思えなかった。神仏の悪ふざけみたいな所業だが、それは的を得た例えだと吹き飛び損ねた猗窩座の脳の半分が自嘲気味に自画自賛した。

 上述したように、猗窩座のパンチ力は7トン前後である。おそらく彼の防御力に関しても、同程度の打撃に対しては余裕で耐えられると予想できる。では仮面ライダーブラックRXはどうなのか。ライダー大図鑑を参照しよう。なんとなんと70トンである。7トンと70トン。まさに桁が違う。比べるのも馬鹿らしい。ロボライダーはそこに彼自身の莫大な重量が加味される。上弦の鬼であろうとなかろうと、ロボライダーにとっては豆腐か厚揚げかくらいの差でしかない。

 猗窩座の嗅覚は死神が己の肩に手を置こうと揺らめく様子をハッキリと知覚した。このままロボライダーの至近距離に居続けるのは不味い。何故なら、

 

「埒が明かない!」

 

 “鬼”を消滅させるには太陽エネルギーが必要となる。鬼殺隊が陽光を吸収した鉄鉱石によって造られる日輪刀を用いるのもそれが理由だ。幸運なことにロボライダーの打撃に日輪刀と同じ効果はなかった。これでは猗窩座は倒せない。しかしながらロボライダーに対して猗窩座の攻撃はまったく効果がない。そしてロボライダーには今の戦闘形態(フォーム)を苦労して維持している気配はない。お互いにジリ貧と言えるが、どちらかと言えば、日の出というタイムリミットを抱えた猗窩座の方にこそ不利な状況なのだ。

 

(事態を変えるには破壊殺(これ)しかない!)

 

 丹田に気合をこめて一瞬で超回復を完了させると、奥の手である自らの血鬼術を発動するため、鋭いバックステップを刻んでいったんロボライダーから距離を取る。“破壊殺”とは、彼にとって虎の子の血鬼術である。発動すれば身体能力を数十倍まで押し上げる。その状態で放たれる目にも留まらぬ徒手空拳の連続攻撃は無類の強さを誇る。

 

 

 そんな彼の敗因は、ロボライダーもまた自分と同じように徒手空拳を用いて近接戦闘を好むスタイルであると早合点したことだ。

 

 

 猗窩座は気付く。気付いてハッと総身を凍らせる。先ほどまで無手だったはずのロボライダーの右手に、どこから取り出したのか手斧のような何かが握られていることに。それは人間が作った火薬を使う小癪な武器……拳銃に似ていた。その白銀色の銃口から真っ直ぐに殺気が伸びて、自分の胴体を貫いている。脳内麻薬によって時間の感覚がぐんぐんと伸ばされていく視界の中心で、銃口が赫灼とした光を放つ。その光には見覚えがあった。“鬼”になってからは拝むことを許されなくなった、あの光。

 

「ボルテックシューター!!!!!」

「はぁああああぁあああッッッ!!??」

 

 仮面ライダーブラックRXはキングストーンと太陽エネルギーのハイブリッドエネルギーを動力源としている。そして彼の必殺技には膨大なそれらが凝縮されているのだ。つまり、たった今猗窩座の胴体をぶち抜いて後方の木々を焼いてさらに後方の丘を大爆発でド派手に吹き飛ばした光線は、太陽光の塊(・・・・・)なのだ。

 

(こ、こんな……)

 

 瞬く間に猗窩座は消滅する。太陽光そのもので貫かれたのだから、ダメージは日輪刀の比ではない。1秒以下で二度と戻らない暗転を迎える意識のなか、彼は思った。

 

(………理不尽、だろ………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……無惨様。あの、勝てますかね、我々……?」

「……無理だろ」




書いていて楽しかったです。

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