家族になる白兎と剣姫   作:外山清月

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めっちゃ遅れました。私生活で色々あって中々書けずにいました。取り敢えず短めですが出来上がったので投稿しますが、次がいつになるかは分かりません。ごめんなさい!エタりはしないのでそこは安心してください!


逢引のすゝめ

「これ、大丈夫なんでしょうか……?」

 

「……どう、なんだろう?」

 

 メレンでの生活にも慣れ、ベルの身体も回復してきた頃。ベルとアイズは向かい合って座っていた。場所はいつも使っているリビングのテーブルだが、二人の視線の先には見慣れぬ物が幾つか置かれていた。

 

 いや、正確に言えば、ベルにとってはその内の半数は見覚えのあるものだった。茶と黒の(ウィッグ)に、同じ色をした付け耳と尻尾。茶色の方は兎人(ヒュームバニー)、黒色の方は猫人(キャットピープル)のものだ。加えて目立たないけれど品のいい服が幾つか。端的に言ってしまうと、変装道具だった。なにもこの変装道具はそこらから降って湧いた訳ではない。……降ってきたと言えば降ってきたのだが。

 

 ◇◇◇

 

 遡る事少し前。長椅子(ソファー)で、昼下がりのイチャイチャを楽しんでいた二人の耳に来客を伝える鈴の音が聞こえた。今日はリヴェリアが来る日ではないのだが、何か急用でもあったのだろうか。それとも近所の子どものいたずらか。そんなことを思いながら玄関まで進むと、ベルの耳にも馴染みのある声がした。

 

「……申し訳ありません。開けていただいても?」

 

 風にかき消されてしまいそうなほど小さな声だが、ベルもアイズも第一級冒険者。運動能力はもとより、当然だが聴覚もずば抜けているのだ。そんな二人の耳に入って来たのはヘルメス・ファミリア団長、万能者(ペルセウス)アスフィ・アル・アンドロメダのものだった。

 

 何故こんな所に? という疑問を頭に浮かべながらも扉を軽く開ける。すると、少しの風を起こしながら人の気配がスルリと入ってきたのを感じる。ふぅ、と息を吐く音が聞こえた次の瞬間、誰もいなかったはずの空間にアスフィは立っていた。

 

 手にした漆黒兜(ハデス・ヘッド)は、ここに二人が居ることを徹底的に隠し通す為の一貫なのだろうか。ベルもアイズもアスフィの来訪は予期しないものだった。つまるところ、これはリヴェリアをはじめとしたロキ・ファミリアも知らないことになるわけで……。

 

 ベルは少しばかり嫌な予感がしていた。それも当然のことだ。なにせ、彼女の主神であるヘルメスによってこれまで幾度面倒ごとに巻き込まれたのか分からないのだから。とはいえ、それを理由にアスフィに対して態度を変えるようなことをベル・クラネルはしない。

 

 そんな人間だからこそ世界を救うまでに至った訳だが、それはさておき。黒竜という終末の怪物(ラスボス)を打倒し、想い人との熱愛(ラブラブ)生活で少しばかり脳内にお花畑が広がっているベルはそんな嫌な予感を吹き飛ばした。

 

 そしてそれはアイズも同様のこと。むしろそれ以上かもしれない。なにしろ仇敵とも言える黒竜は既に滅び、十年近く張りつめていた神経や摩耗した精神が大好きな兎さんとの新婚生活により回復。剣を手にすることもなく、本来あるはずだったお姫様としての性質を得つつある少女は現在、凡その事に寛容なのだ。

 

 もしベルに色眼鏡を使うような女が相手であれば、凍てつくような視線を向けることもあるかもしれないが、奇しくもアスフィはそうではなかった。アスフィがその美しいかんばせに浮かべるのは、ベルへの好意でもアイズへの嫉妬でもなく、全ての仕事への殺意と、最後に取ったのが何時になるのか分からない休暇への渇望、そして二人に対する少しばかりの敬意と羨望だ。

 

 それが何を意味するのかは、アイズには分からない。ただ、二人に悪意を持って接触した訳ではないという事だけは確かだった。なら、それでいい。だって幸せだし。少しくらいお裾分けしてもいいんじゃい? なんて考えながら二人は遠慮するアスフィを家に上げた。

 

 温かい茶を入れ、リヴェリアが持って来てくれた茶菓子と一緒に出して、ほっと一息つく。久方ぶりの休息は、アスフィの凝り固まった疲労を少しずつ溶かしていった。最近のオラリオや、下界について、アスフィから軽く話を受けながら行われた茶会を終え、コホンと喉を鳴らした。

 

「では、本題に入らせていただきます」

 

 アスフィはそう言うと、机に何かを置いた。そう大きくはない。黒と茶色のソレは、ベルにとっては少しばかりなじみ深い物で、アイズにとってはよく分からない物だった。

 

 いや、コレを見たことは、ある。当然だ。でも、それはこんな形で机に置くようなものではない。アイズにはよく分からなかった。だから、アイズは少し首を傾げて、そしてベルは少し引き攣った笑みを浮かべて、アスフィの言葉を待った。

 

「とは言っても、私はお二人にこれを渡すように言われただけでして」

 

「それは、ヘルメス様から……ということでしょうか?」

 

「ええ、その認識で問題ありません。それとあの主神(ひと)から言伝を預かっています」

 

 やはりヘルメスの仕業だった。と言っても考えてみれば当然のことである。今、下界はてんやわんやの大騒ぎ。勿論、そんな下界の中で様々な姿を持つヘルメス・ファミリアも未だかつてない程の忙しさに追われていることは想像に難くない。そんなファミリアの団長であるアスフィが暇かどうかなんて言うまでもないことだった。

 

 そんなアスフィを動かせる存在なんて、そう多くはない。というか、そんな存在、ヘルメスしかいないのだ。だから、ここまでは予想が出来たこと。ベルにとっては、慣れてしまった大騒動の入り口のそれだ。

 

 けれど、今回ばかりは少し違うようだと気づいたのは、アスフィが続けたヘルメスからの伝言を聴いてからだった。

 

「なんでも、これを付けて逢引(デート)に行ってくるように、とのことです」

 

「はい?」

 

「ですから逢引(デート)です」

 

逢引(デート)って、僕とアイズさんが?」

 

「それ以外に誰が居るのですか?」

 

 今更、そんなに驚くことかとアスフィが少しの困惑を浮かべるほどに慌てふためくベルを尻目に、アイズはぽやぽやした表情を浮かべながら逢引(デート)という単語が脳内で反響させていた。逢引(デート)逢引(デート)である。確かに、これまでにもベルと逢引(デート)をしたことはあった。アイズにとっても聖夜祭は記憶に新しかった。

 

 それ以外にも、時々二人でオラリオを歩くことがあった。一緒に冒険者依頼(クエスト)を受けたこともあったし、市壁の上で特訓したこともあった。そのどれもが、アイズにとってはかけがえのない大切な記憶なのだ。

 

 けれど、そんな時間を一緒に過ごしたベルと結婚をしてからというもの、二人そろって外を出歩いたことはないのだ。それが仕方のないことであると、アイズは理解していたし、そのことについてリヴェリアに文句を言ったことも無い。ただ二人で一緒に居られれば、それで満足だったからだ。

 

 とはいえ、それは逢引(デート)に興味がないという事ではない。大好きなベルと一緒に出掛けられたら、それはどんなに幸せな時間を過ごせるだろうか。

 

 アイズの脳内は、すぐさま一つの結論を叩き出した。すっごく幸せに違いない! 、と。もし仮に、こんなにも順調に情緒を育んでいる最中のアイズを、三首領が目撃したら涙の一つでも浮かべるのではないかというほどの喜び様だ。

 

 まぁ、身振り手振りに出るわけではなく、それは表情に反映されただけだったが、それでもこれまでのアイズからは考えられない変わりようだった。

 

 一方、ベルは混乱していた。アイズとの逢引(デート)が嫌ということではない。当たり前の話だが、ベルがアイズとの逢引(デート)を拒むだなんて、天地がひっくり返ってもあり得ない……のだが、下界では生憎にも天地がひっくり返ったに等しい出来事が起こったばかりなのだ。

 

 黒竜討伐とは、それほどまでに大きな偉業だった。あくまでも一冒険者にすぎなかったベルとアイズがこうして、傷が癒えた今も身を隠したままにせざるを得ない程度には、姿の見えない二人の英雄の所在について現在の下界では大騒動となっているのだ。

 

 呑気に二人揃って逢引(デート)なんてしようものなら、またたく間に下界全土にあること無いこと言われることになるだろう。ベルにとって、それは喜ばしいことではない。アイズや自分の周りにいる人にも迷惑がかかるし、何よりそんなのは余りにも恥ずかしすぎる。

 

 これまでのオラリオでの扱いでさえ、ベルにとっては慣れないもので、それがより激しく、広範囲で巻き起こるなど、考えたくなかった。そんなわけで、折角想い人と結ばれたのにも関わらず、一緒に出歩くこともしていなかったのだ。

 

 勿論、ベルとアイズの消耗も、逢引き(デート)をしていない理由の一つではあったが、それが落ち着いてからも、していないのには、そういった理由があったのだ。

 

 そんな状況だというのに、目の前の麗人は逢引き(デート)をしろと言う。それも仮装(コスプレ)をして、だ。いやいやいや、いやいやいやいや。ないでしょ。というのがベルが出した結論だった。

 

 アイズとの逢引き(デート)? 勿論したい。

 アイズの仮装(コスプレ)? 当然見たい。

 

 じゃあ、その二つが組み合わさったら? うん、恥ずかしいにも程がある。しかも、結ばれて初めての逢引き(デート)仮装逢引き(コスプレデート)とか、特殊嗜好(ハイレベル)過ぎないだろうか。こういうのは、こう、段階を経て、順番にしていくものなのではないかという前提が、ベルにはあったのだ。

 

 故に、一旦様子を見ながら、せめて心の準備をする時間だけでも確保する為に、口を開こうとした瞬間、隣に座るアイズがベルの方を見ながら、それはもう嬉しそうに笑いながらこう言った。

 

「楽しみだね、ベル」

 

「はい! 楽しみですね、アイズさん!」

 

 ベルはどこまでもアイズに弱かった。

 




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