「やぁ、戦友。」   作:rantia92

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「シッテムの箱には戦闘用モードがあります!」

 

初めてタブレット端末に接続したその日の事。

それは、アロナとの幾つかの雑談の内に知った情報だ。

 

まず、先生が交戦状況下にいる際にAIの承認を受ける。

それが完了するとシッテムの箱は各地に存在する

監視カメラ、ドローン、その他のカメラが装着されている

機械類にオーバーライドし様々な場から戦況を確認。

先生が即座に指示を出しやすいように

タブレット端末に画面を映す仕組みだと言う。

相も変わらずの無法ぶりだが、これはもう慣れていくしかあるまい。

電源供給が滞っているのか、監視カメラの映像はまばらだが

なんとかドローンよりも早く索敵を成功させた。

バギーから降り出たヘルメットを着用した少女たちが

アサルトライフルを粗雑に構えながら狂笑をたたえて高校に向かってくるのが見えた。

高校正門を開き、学校机で作られたバリケードに何人もの人影が入り込む。

 

「敵、正門側に多数。もうじき入り込む。」

 

「ノノミ先輩、ガトリングを正門側に掃射してください。」

 

それを確認したアヤネが、指示を即座に送り込んだ。

狭い正門を開き走り出すヘルメットの少女らが縦一線にまばらに並ぶ。

バラバラとひとつなぎに聞こえるほどの銃声が耳をつん裂いた。

ようやくバリケードを抜け前進する彼女らの前に

秒間二千発の暴力が降り注ぐ。

ヘルメットを砕かれ、意識のない少女たちが紙のように吹き飛ぶ姿は

思わず彼女らの不運に同情してしまうほどだった。

真正面を走る人間など、マシンガンの倍以上を誇る秒間火力のガトリングからすればいい的でしかない。

 

「一旦撃破、だが追加が居る。」

 

「セリカちゃん、シロコ先輩。スイッチです。」

 

ガトリングの砲身が赤色に焼け始めたのを視認すると

アヤネは通信マイクに向かい再び指示を入れた。

後ろに下がるノノミと

同時に正面から飛び出して突貫するシロコとセリカ。

銀と黒の色彩が、ぐるりと既に正面に展開し終えた敵と重なる。

早い。

前進と共に発砲を開始。

敵もワンテンポ遅れ銃を構え始めるが、既に射程。

相手は一発すら発砲することなく意識を刈り取られた。

 

5人、沈黙。計9人。残り2。

 

観察に徹していた矢先、遠距離からの弾丸が飛来する。

前転してバリケードの机を盾にする二人。

 

「南方、30メートル先。ARを所持した敵が2人か。」

 

窓の外とドローンのカメラ映像に目を通しながら、戦闘を続ける地上を観察するアヤネ。

 

「「はいはーい、おじさんに任せなさぁい」」

 

通信からホシノの声。直後、発砲音。

その瞬間、映像にホシノの姿が飛来する。

 

「――何が起きた?」

 

急ぎ該当の場所を見れば、強い衝撃を受けたであろう穴が見える机がある。

敵の位置からは少し離れたバリケードの位置。

走っただけでは到底届く距離ではなかった筈だ。

 

まさか――飛んだのか。発砲時の反動を使って。

 

確かに、ホシノの比較的コンパクトな身体を鑑みれば

理論的には不可能ではない芸当だろう。

しかし。

あんなことを実行する為には

どれ程の反動が何処に効果的に発動するのか。

一発の発砲がどれ程の飛距離を保証するのか。

全てを見極めたその上でバランスを一定にし続けなければ

あれほどうまく飛べはしまい。

どれ程の筋力。どれ程の研鑽。

積み続けたそれらを全て活用した技。

さながら、人力で行うクイックブーストか。

 

砂を巻き上げつつ、盾を地面に擦り付けソリのように着地するホシノ。

砂煙に塗れ視界を失った少女らに、その新たな敵影に対応する余裕はない。

すぐさま体勢を立て直した彼女の散弾は

敵の頭部に吸い込まれるように当たる。

ヘルメットが砕け散り、少女らは糸が切れた様に地に伏した。

 

「見せてくれる。」

 

――圧巻。その一言に尽きる。

戦場に於いて、兵士の数は正義だ。

敵の立ち回りが正規軍ほど良くなかったことを抜きにしても

彼女らは倍以上の不利を実力のみでねじ伏せた。

先行して射撃に入ったノノミと、シロコセリカの3名のスイッチングなど

見事という他なかった。

ガトリングの銃身加熱の隙を最大限減らし、弾幕を効率的に張るあのやり方。

共に戦ったシャーレ奪還の面々の連携も見事だと思った物だが

彼女らの連携はその上を行く。

即席のチームと、長年共に戦う者の違い。

各々の実力もありその強さは圧倒的だ。

 

意識を断絶された生徒たちが目を覚ましいそいそと撤退準備を始めた。

実力で敵わないと、本能で理解したか。

 

「カタカタヘルメット団が撤退中。作戦終了です。」

 

実力といえば、小鳥遊ホシノ。彼女の物は目を見張る。

誰も実行しようなどと思えないあの飛ぶ技術。

アレを思えば、たったの5人でこの街を守れたことにも納得が――

 

「どーうよ!思い知ったかカタカタヘルメット団!」

 

思わぬところから大声が上がり、思わず身体をびくりと反応させてしまう。

談笑していた少女らとともに反射的に声の主に目を合わせる。

先程までのむくれ面も忘れ

満面の笑みのままに天高く腕を伸ばし勝利を叫ぶセリカ。

暫くそうしていると、流石に皆に見られ委縮したか

ゆっくりと手を引っ込める。

 

「――セリカ。」

 

「なっ、なによ…先生。」

 

「君は、そんな顔も出来るのだな。」

 

「そんな顔って何よ!?」

 

少女たちの笑い声が大空に響く。

青く美しいあの青空のような、爽快な声が。

 

 

 

 

 

「アビドス廃校対策委員会へようこそ、先生。」

 

作戦終了後、私は少女らと共に『アビドス廃校対策委員会』なる部活の

活動拠点へ向かった。

 

「改めて自己紹介をしましょう。私がシャーレに手紙を出した奥空アヤネです。こっちが――」

 

「砂狼シロコ。よろしく。」

 

「シロコちゃんと同学年の十六夜ノノミ、です~!」

 

「んで、おじさんが小鳥遊ホシノ。3年だよ~。」

 

「…黒見セリカ。1年生。」

 

「元ルビコン解放戦線、現連邦捜査部シャーレ所属。ラスティだ。よろしく頼む。」

 

この挨拶も、なんだかんだと板についてきた気がする。

この街でこの挨拶をするのも三度目だ。

 

「るびこ…何?」

 

少し困ったように砂狼シロコはその名を言う。

緊急時であった事もありシャーレ奪還の際は特に気にされなかったが

確かに疑問を覚えるのも不思議ではないか。

なにせ此処には存在しない軍の名だ。

 

「ルビコン解放戦線。私が昔所属していた武装組織だ。」

 

そう告げれば、奥空アヤネは納得のいったように此方を見据える。

 

「どうりで、シャーレ奪還の際あそこまで動けたんですね。」

 

「とはいえ――戦闘にはブランクがあるからね。

また勘を取り戻さないといけない。」

 

苦笑交じりに謙遜する。

だがそれは実際事実で、ACの戦いが多かった最近の影響で

今の体力は兵として動いていた頃からすれば低下していると言っていい。

 

「へぇ、先生戦えたんだぁ~。」

 

相変わらずふやけるような声で問う小鳥遊ホシノ。

その体は部屋の端に鎮座した大きなぬいぐるみの上にある。

 

「君たちには負けるさ。先の戦い、実に見事だった。」

 

「いやぁ、まさか勝っちゃうなんてね。」

 

「勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩…

勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか…」

 

うへ、と小さく声を上げるホシノと呆れるアヤネ。

あれ程の実力を持ち合わせておいて、よく言うものだ。

それも含め、彼女らの日常なのだろうか。

 

眺める私の姿を捉え、シロコは言う。

 

「補給があったおかげで助かった。あのままじゃ弾切れまで近かったから。」

 

「それに、無線から聴いてたけど索敵も。」

 

「本当に、ありがとう。」

 

ぴこぴこと耳を揺らして、彼女は頭を下げる。

 

「私も此処に来れて、本当に良かったよ。」

 

その光景に、思わず目を細める。

補給が間に合わなければ、この学校は武力組織の手により崩れてしまう。

たったの5人。救いを求めようが誰も救う事など出来はしない。

だが。

ひたすら微力だが。

この街を、彼女らを救えた。

その事を誇りに思う。

 

「今まで寂しかったんだね、シロコちゃ~ん

パパが帰ってきたおかげでママはぐっすり眠れまちゅ…」

 

最初とは少し変わった空気を孕んだ場を

変わらずぬいぐるみに抱かれたホシノが、少し茶化した。

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