スケバン憑依おじさん   作:百合豚丼

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同類

「……まさか、これ程とは思いませんでした。学生は搾取し利用するものとしか思っていませんでしたが、まさか…」

 

 協力関係にあるカイザーPMC理事からの『タイコを見失った!!』という報告を表面上は深刻そうに受け止めつつ、内心どうでも良いと思っていた黒服は顎に手を当てて唸る。

 

 観察者であり、探求者であり、研究者でもある彼にとってカイザーコーポレーションと荒事屋の小競り合いや戦争は大して重要な出来事では無い。

 

 神秘の追求を第一とし、そのためにもキヴォトス最高の神秘である小鳥遊ホシノの身柄を手に入れる事を目的とする彼からすれば、カイザーコーポレーションは研究の資金の一調達先に過ぎない。

 アビドス高等学校が抱えている借金をダシにして身柄の炙り出しにも使えるという利点はあるものの、その程度。利害が一致したから手を貸した程度であり、特に思い入れはなかった。

 

「私の居場所をどうやって突き止めたのですか? 栗浜タイコさん」

 

 そんなどうでも良いと思っていたはずのカイザーコーポレーションに対して『役に立たないな』という感想を抱かせた元凶である人物は、黒服の前で持参したパイプ椅子に足組みをしながら腰掛けていた。

 懐から取り出したタバコを咥える。学園都市では酒類と並んで手に入りにくい貴重品に躊躇い無く火を付け、他所様の拠点と知りながらお構い無しに紫煙を吐き出す。

 

 その瞳には、露骨なまでの怒りの炎が宿っていた。

 

「俺達荒事屋は名前の通り荒事ばっかりやってるが、実は人探しも得意でな。機械やらネットワークやらに強い子が沢山いるから彼女達の手を借りて少し、な」

 

 有名校から無名校まで。キヴォトス内に数多く存在する全ての学校や学園に関しての情報を荒事屋は収集している。

 それを可能としているのがタイコの述べた機械やネットワークに強い子。

 ミレニアムサイエンススクールを筆頭にその手の技術者を養育する学校からの落伍者も取り込んでいる。

 

 例え落第してしまうような成績や素行の生徒であっても荒事屋に取り込まれれば話が変わる。

 同じ境遇の仲間が居て、それを支えてくれる人達が居て、居心地が良いと思える場所が有る。

 自分も頑張らなければと奮起して知識や技術を仲間内で磨き合う。足りない部分を気合と根性で補っていた。

 

「お前の姿はずっと前から追跡してたんだよ。生徒を搾り取る道具としか見てねぇ不愉快な害虫の行動パターンはしっかり把握しとかねぇと、後で色々面倒くせェじゃねぇか」

 

 荒事屋はキヴォトス全体の監視カメラシステムをハッキングしており、不良生徒が問題行動を起こしたり学校を追われた際の迅速なフォローを可能にしている。

 それをタイコは応用し不良生徒の他に、そういった生徒を悪用しようとする不愉快な輩の捜索と排除も行っていた。

 

 彼女は生徒の味方である。

 正義の味方ではなく、世間の味方でもなく、生徒の味方だ。

 過ちを犯せばそれを正し、大手を振って太陽の下を躊躇い無く歩けるように背中をそっと押してあげるのが栗浜タイコという人物だ。

 

 それを妨げる者は許さない。

 前途有望で未来のある生徒を私利私欲を満たす道具とする大人をタイコは絶対に見逃さない。

 黒服を含めたゲマトリアなど、その最たるものだ。

 

「拠点の割り出しまでには至っちゃいねぇが、それは良い。拠点なんて見付けた暁にゃあそっちから何されっか分かったんもんじゃねぇ……それこそ、ベアトリーチェ辺りなら上手いことこっちに攻撃出来るかも知れねぇしな」

 

 ベアトリーチェ。その名をタイコが口にしたと同時に黒服の肉体が微かに強ばった。

 ある程度の可動性を持ちつつ様式美に比重の寄っている衣服の下で肉体が強ばるのを、怒りを宿すタイコの瞳は見逃さない。

 

 黒服を含めたゲマトリアの面々は各々がキヴォトス各地で行動しているが、表立っての行動は控えている。

 先生とタイコを警戒しているから。あまり目立てば生徒を効率良く動かす能力に長ける先生と、その先生に戦闘力と武力とアケミを付け加えたタイコに目を付けられる恐れがあった。

 黒服やマエストロ、グルコンダやデカルコマニーと比較すれば表立って行動しているベアトリーチェは目に付きやすいが、彼女の事を認識されているとは思っていなかった。

 彼女の能力についても同様である。

 

「驚きました……我々ゲマトリアについてそこまで知っているとは。貴女の事は脅威と認識していましたが今後はより認識の度合いを強めると致しましょう」

「そうするといいさ」

 

 荒々しい口調でタイコはタバコを床に投げ捨てる。

 それを黒服は指摘しない。お好きにどうぞ、と余裕のある態度を見せる。

 

 虚勢だ。指摘しないのではなく、出来ない。

 組まれた足の横に置かれている鋼鉄製の竹刀。凄まじい重量があるであろう獲物を軽々振り回す、という報告を黒服は受けており映像も見た。

 この間合いでは自分が不利。下手に刺激して竹刀を振るわれれば太刀打ち出来ない。

 

「今日テメェのツラを見に来たのは確認と警告をする為だ。あまり本腰入れて手を出せねぇ以上は、俺の存在をこうして見せ付けておかねぇと俺と同類のテメェは止まらねぇだろ?」

「……私と貴女が同類?」

 

 その発言は、僅かに黒服の精神を逆撫でた。

 自分は崇高に至るための観察者であり探求者であり研究者。そこに関しては絶対的な自負がある。誇りもある。

 それを年端もいかない少女に同類と雑な一括りにされれば不愉快というもの。

 言われっぱなしも癪であり黒服からの切り返しが始まる。

 

「失礼ですが、貴女が私と同類には到底思えませんね。子供を利用するのを良しとする私と悪とする貴女、これは明確な差が」

「なに寝ぼけた事言ってんだよコノヤロー! 俺もテメェと似たことやってんじゃねぇかよバカヤロー!!」

 

 切り返した矢先にタイコが着火した。

 竹刀の持ち手に手をかけると床を強烈に殴り付け、大きな亀裂を生じさせる。

 大きく開かれた口から放たれる怒声は成人していない子供が放つには覇気を帯び過ぎている。

 

 否、覇気だけではない。

 怒りや憎悪、忌避、自己嫌悪、その他名称し難きネガティブな感情が集まって煮詰められたドス黒い殺意が込められていた。

 そんなものをいきなり叩き付けられれば黒服とて怯む。切り返しは早々に潰された。

 

「俺がやってんのだって根本見りゃあテメェのクソみてぇな行いと変わりねぇんだよ! 子供らの未来を守りたいって欲望にアイツら巻き込んでんだ! テメェと俺ァ同類なんだよ! テメェ勝手な欲望満たすのに彼女等の純粋さ食いモンにゲス同士さ!!」

 

 ゲマトリアの行いはゲームとしてこの世界に触れている頃から知っていた。

 生徒を駒とし、必要とあらば搾取や切り捨ても厭わない。

 自分の目的をしっかりと持っていて、要所要所で活躍も見せる絵に書いたような『物語の進行を手助けする有り難い悪役』だ。

 

 そんな認識、スマートフォンやタブレットの液晶越しに神様視点で見ているからこそ抱くもの。

 実際にこの世界で生きるタイコからすれば黒服含めゲマトリアは『最終的に排除しなければならない病魔の温床』である。

 そしてゲマトリアと自分は自分の欲を満たす為に生徒を動かしているゲスとして、本質的には同類であるとの認識をしている。

 

 生徒達の未来を守るだの居場所になるだのと綺麗事を並べ立てても、その本質は生徒達には幸せになって欲しいという欲望。

 生きる上で欲望は欠かせない感情だと理解している。

 ゲマトリアのような他者を不幸にするだけの黒い欲望ではなく他者を幸せにできる可能性を秘めた白い欲望だと理解している。

 

 それでも、それがゲマトリアと共通しているとなってしまえば受け入れ難い。

 

「だから、安心しろよ黒服。俺はずっとこの土地に居座るつもりも無けりゃあ、この土地に骨を埋めるつもりもねぇ。やる事やりたい事ぜぇんぶやり遂げたらその時ゃあ、テメェ等が生きてたら皆殺しにして俺も外で死んでやるからよ」

「……理解出来ませんね。やる事もやりたい事も成し遂げたのであれば、また次の目標を探すべきでは。私と同類ならば貴女も観察者であり探求者であり研究者だ。終わりなんてもので終えられるモノでは無いでしょう?」

 

 黒服は認識を改めた。目の前の少女は確かに自分と同類だ。

 欲望に他者を巻き込むことへの罪悪感の有無や生徒の搾取や切り捨てに対する認識に差はあれど、欲望のままに他者へ干渉する様は間違い無く同類と言える。

 

 だからこそ、彼は彼女の発言を受け入れられない。

 仮に自分が目標としている崇高への到達を成し遂げたとなれば、その後も自分は何かを求めるだろうと漠然とした予想が彼にはある。

 スパッと己の最期を断言するのは彼にとって理解し難いものだった。

 

 同類と見始めた以上は対応も変わる。

 姿勢を正し、顔を僅かにタイコへ寄せる。彼女の一挙手一投足に関心があると態度で示し、声色もより真剣味を帯びる。

 

 子供として見下す大人から、大人として対等に認識する大人として姿勢を改めた黒服の言葉にタイコは嘲笑で返した。

 

「俺は汚れてんだ。大切で可愛い生徒達を守るって欲望に任せて汚ぇ大人を何人殺したか、こんな風に罵り合った回数ももう分からねぇ。こんな穢れちまった俺がいつまでもこの土地に居座って、挙げ句最期を生徒に委ねるってなっちまったらそれこそ精神衛生上よろしくねェって話だ」

 

 挨拶代わりに弾丸が飛び交うキヴォトスにおいても、人殺しというのはタブーとされている。

 タイコはそのタブーを何度も何度も破って来た。

 生徒を守る為に汚い大人と言葉を交わして罵り合い、必要とあらば殺した。

 れっきとした罪人である。投獄されれば殆ど間を置かずに死刑を執行されるべき大罪人である。

 

 それを理解した上で、彼女は自分の最期は自分で決めて自分自身で与えると決めている。

 キヴォトスは学園都市だ。刑務所も学校が経営している完璧な学園都市であり、最期を刑務所や牢獄で迎えるとなればそれも生徒が関わる必要がある。

 

 認められない。自分のような大罪人の最期にまで生徒を巻き込むのは絶対に認められない。

 だから最期は自分で決める。目処すらも立っていないが、それだけは決めている。

 

「覚えとくこったな黒服。俺がテメェを殺しに来た時、そりゃ俺が地獄まで付き合ってやるよってナンパしに来たって意味だってな。喜べよ? 閻魔サマのお説教を横並びで聞いてやるからよ」

「……クククッ。それは楽しみですね。ええ、とても楽しみだ」

 

 黒服は笑う他に無かった。

 信念や自負を持って行動する自分と同じようで、決定的に異なる。

 厄介な組織を率いる厄介な人物に目を付けられたと笑った。

 

 タイコが立ち上がり背を向ける。

 もう何も話すことは無い、背中でそう語っているから黒服も何も言わずに見送る。

 

ガンッ

 

 竹刀で床を一突き。

 それを合図に床が下方から吹き飛ばされ、空いた穴から筋肉質な腕が飛び出して来た。

 

「ハァッ!!」

 

 掛け声と共に放たれる床を穴だらけにする拳の乱舞。

 先の一撃でヒビだらけだった床には大穴が開き、そこから栗浜アケミが現れる。

 チラリと黒服を一瞥し、無言のままに軽く頭を下げるとタイコをお姫様抱っこで持ち上げた。

 

「私のタイコがお世話になりましたわ。また、ご縁があればお会いしましょう?」

 

 そう言い残してアケミは自ら開けた穴へと飛び降りる。

 粉塵舞う室内に1人残された黒服は今後の身の振り方について、しばらく頭を悩ませることになった。

 

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