転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
ラストステージの最終ウェーブなのでサブタイトルはこれしかないですね。
王国も感染者も総力戦です。
最後の襲撃から20日
ついに静寂が破られた。
奇しくもこの地に進出してから100日目のことだった。
開拓地の周辺は、迫り来る感染者の反応で真っ赤に染まっている。
「全ての方向から感染者の群れが接近中!
数は……駄目だ、数え切れない。
どうして忘れていたんだ…」
ゼイ・アー・ビリオンズ!
「奴らは何十億もいるんだ!」
「動き出したか。
臆するな!
たとえ何十億いたとしても、ここにいるのはその一部に過ぎない。
勝つぞ!」
「はっ、はい!」
あまりの大群に動揺していた部下も、私の言葉に気持ちを立て直した。
そう、仮にここに何十億と集まっていても勝たねばならないのは変わらないのだ。
「第一陣、防壁に接近」
「上位感染者はいるか?」
「いえ、確認されているのはデブまでです」
「我々は、いつでも行けますよ」
兵士たちが出撃を求める。
「まだ、早い。
上位感染者の姿が見えてからだ。
デブ以下の感染者は、防衛兵器に任せる」
不安な気持ちもわかる。
第一陣だけでも数万規模の群れだ。
しかし、何万いようと通常の感染者では我々が築き上げた防衛網は抜けない。
「生産施設の稼働率を落とすな。
火焔砲塔の燃料とワスプ、バリスタの矢弾を枯渇させてはならない」
「はっ」
迎撃は順調に推移した。
群がる感染者を火焔砲塔が焼き払い、仕留めきれないデブや火焔砲塔のチャージ時間の隙には、バリスタやワスプが対応する。
防壁の損傷も許容範囲内に収まっている。
だが、これは序章に過ぎない。
これはアルファの総力を上げた攻撃なのだから。
「南西からベノムの群れが接近。
その数……」
「どうした、報告しろ」
「ベノムの数…数千!
いえ、万に届くかもしれません!」
「くっ、やはり多いな」
前線の防衛兵器だけで凌げるものではない。
「鉄砲衆は全軍、南西の防衛に向かえ!
最優先攻撃目標はベノム」
「了解しました!」
400人の鉄砲衆を前線に移動させる。
予備兵力を残しておくと余裕などない。
さすがにこれだけ増強した鉄砲衆を配備したことで南西の防衛戦を拮抗させることに成功した。
「今度は東からハーピーの群れが接近してきます!
その数、ベノムとほぼ同等」
「やれやれ、一息入れる時間もくれないようだ。
サムライは、全て東に投入しろ」
「はっ!」
サムライ300が東に展開する。
「東の防壁も増強させろ」
すでに防壁は全周に渡って、少なくとも三重に堅めである。
だが、それだけではハーピーに対する足止め効果は不十分だ。
木の壁でいいから、5重にする必要があった。
この総攻撃の中、前線で壁の補修や増設を行なっている労働者たちの献身も、兵士たちのそれに劣るものではない。
彼らのおかげで、サムライたちはハーピーに対して有利に戦えるのだから。
「さらに鬼の群れが接近!
西からです!」
「数は!?」
「数十体…前回の2倍以上です!」
少なくとも60か…
「…戦力が足りない」
鬼武者3人では、とうてい防げない。
「我らが前線に出る。
数の不利など、もとより承知の上だ」
「お前たちの覚悟は承知している。
だが、お前たちと防衛兵器だけでは抑えられない。
一角でも抜かれれば、そのまま壊滅してしまう」
なのに、もう動かせる戦力がない。
「司令官…我々、鉄砲衆から精鋭を50出します」
そこに鉄砲衆の長から無線が入る。
「ベノムとの戦いは大丈夫なのか?
そちらが抜かれても終わるのは同じだぞ。
なにより、たった50で鬼たちを止められるか?」
「ただの50人ではありません。
私を含む、最精鋭で固めた部隊で向かいます。
新兵たちも戦いの中で成長しています。
我々が抜けた穴は、必ず塞いでくれます」
彼が言う精鋭部隊とは、初期から戦い続けてきた歴戦の猛者たち。
その実力は、ベテランの域を超え、達人と言っても過言ではない。
彼らならば鬼武者を援護し、鬼を止められるかもしれない。
いや、彼ら以外に動かせる戦力がない以上、信じるしかない。
「わかった。
鬼武者と鉄砲衆の精鋭は西の防壁に移動。
鬼を迎え撃て!」
「「了解!」」
上位感染者も加わって、戦闘はさらに激しくなっていった。
どの方面からも厳しい報告が入ってくる。
防壁の損傷もじわじわと蓄積している。
崩壊のギリギリ一歩手前で踏み止まっていた。
「そろそろ…来るでしょうか?」
「ああ、ベノム、ハーピー、鬼が投入されて、それでも我々は崩れていない。
ならば、次に来るのは間違いなく…」
「…巨人」
「レールガンの準備は万全か?」
「はい、チャージも完了。
いつでも撃てます」
程なくして、奴らは姿を現した。
「来ました!
北から巨人が接近……3体です」
「やはり、複数体か。
だが、我々とてもう無力ではない」
レールガンが起動し、巨人に照準を向ける。
巨人が腕を防壁に叩きつける。
轟音が、空気を震わせた。
たった一撃で防壁に甚大な被害が出ている。
しかし、次の瞬間…
巨人の胸部に、一本の光が突き刺さった。
レールガンから超高速で射出された弾体が、音を置き去りにして巨人の身体を貫いたのだ。
巨人の巨体が、ぐらりと揺れる。
数十メートルにも及ぶ身体が、まるで糸の切れた人形のように傾き――地面へと倒れ込んだ。
大地が揺れた。
「命中しました!
一体撃破!」
司令部に歓声が上がる。
「次弾装填、エネルギーチャージ!」
私の号令で、司令部の者たちも顔を引き締める。
まだ一体だ。
喜んでいる暇はない。
あと二体もいるのだから。
レールガンの砲身が再び唸りを上げ始める。
残る二体の巨人たちは防壁に攻撃を続けている。
奴らの前では石の壁であろうと長くは持たない。
「チャージ完了しました」
「発射!」
二発目。
轟音。
弾体が巨人へと迫る。
しかし――。
「なっ……!」
巨人が身体を大きくのけ反らせた。
弾丸は胸部を外れ、巨人の肩口を抉り飛ばす。
右腕が力なく垂れ下がる。
「右腕、損傷!
戦闘能力は維持しています!」
「かわされたのか?」
「三発目、チャージ中!」
砲手が照準を合わせ直す。
巨人が壁への攻撃を再開している。
壁はどんどんボロボロになっていく。
チャージ完了までの時間が長く感じる。
「チャージ完了」
「今度は外すな。
壁を殴る瞬間を狙うんだ」
奴は、不完全ながらレールガンを回避した。
レールガンの脅威を理解しているのだ。
ならば、普通に撃っても致命傷には届かない。
巨人が腕を振りかぶる。
「今だ、撃て!」
三発目。
だが。
巨人の腕が止まった。
そして、再び身体をのけ反らせる。
「――回避された!?」
砲弾は巨人の脇をすり抜け、遥か後方へ消えていく。
今回は、完全に回避されてしまった。
司令部が凍りついた。
「レールガンに対応したと言うのか」
こちらの射撃のタイミングが読まれている?
いや、発射時のエネルギーを感知しているのか?
どちらにしろ、レールガンを当てるのは至難の業になった。
「巨人の攻撃、止まりません!」
何度も轟音が響き、ついに巨人の拳が防壁を粉砕した。
巨大なコンクリート片が宙を舞う。
「侵入された!」
誰かが叫んだ。
絶望が広がる。
だが――。
ドンッ!
巨人の足元で爆発が起きる。
対感染者地雷。
巨人が出現した時から防壁を突破された時に備えて配備させていた。
巨人の巨体が大きく傾く。
「今だ!
四発目、撃てぇぇぇッ!」
レールガンが火を噴いた。
弾体が巨人の胴体を貫通する。
巨人の身体が停止し、ゆっくりと膝をつき。
そして――倒れた。
その巨体が塵になっていく。
「……撃破!」
歓声が上がる。
だが、誰も喜び続けることはできなかった。
残る一体。
右腕を失った巨人は、防壁の中に侵入してこなかった。
巨人が吼える。
その咆哮に突き動かされたかのように他の感染者が防壁内に雪崩れ込んできた。
そして、次々と爆発していく。
やがて爆発も起きなくなった。
「……地雷、残数は?」
「ゼロです」
地雷がなくなったことを確信したのか、巨人が歩き出した。
残り一体。
だが、その一体が最も厄介だった。
右腕を失ってなお、その脅威は健在。
その学習能力でレールガンに続き、地雷にも対応されてしまった。
もうこちらには巨人の動きを止める手段がない。
第二防壁は急増品で、石の壁は一枚のみ。
他は木の壁でしかない。
これでは碌に時間を稼ぐことも出来ない。
「レールガンは?」
「チャージ中、まだ時間が必要です」
「間に合わない」
誰もがそう思った。
そのとき。
「こちらレンジャー隊」
無線が入った。
低く、落ち着いた声だった。
「我々が囮になります」
「レンジャー隊長!?」
いつの間にか第二防壁の前にレンジャー部隊が展開している。
本部付きの伝令要員として待機していた60人が全員出撃していた。
「巨人の注意を引きつける」
「無茶だ!戻ってこい!」
「レールガンの次弾が撃てるまで、何分ですか?」
その声に込められた決意を感じ、止められないことを理解した。
レンジャー部隊は、ずっと悔しい思いをしてきた。
作戦の序盤が終わり、他の兵種が戦闘を受け持つようになれば戦闘で役に立てなくなる。
今も、彼らは自分たちよりはるかに強大な戦力を持つ上位感染者と死闘を続けている。
自由に動けるのは自分たちのみ。
自分たちの命を使う時だと確信している声だった。
「……2分」
「了解です。
何としても、その2分を稼いでみせます」
通信が切れた。
直後、彼らは一斉に巨人へ向かって走っていく。
「こっちだ化け物!」
「来い!」
「こっちを見ろ!」
巨人の視線が動いた。
レンジャー隊長が叫ぶ。
「散開!」
巨人の腕が振り上げられた。
「走れ!」
地面を巨大な影が覆う。
振り下ろされた腕。
兵士たちが必死に走る。
轟音。
地面が抉れる。
何人かは逃げきれずに叩き潰されてしまった。
「怯むな!」
隊長は叫んだ。
「もう一度だ!」
再び巨人へ近づく。
巨人も感染者であり、人間が近づけば優先して攻撃してくるようだ。
それは、感染者としての本能。
巨人が腕を振り上げる。
隊長が巨人の動きを冷静に見極める。
肩の動き。
肘の張り。
身体の重心。
そして――。
「今だ!」
兵士たちが一斉に散開する。
巨人の腕が振り抜かれる。
攻撃のタイミングは完全に見切っていた。
それでも、そのリーチによる広大な攻撃範囲から完全に脱出することは不可能。
何人かは犠牲になってしまう。
レンジャーたちが命を使って得た時間が実を結んだ。
「チャージは完了した。
下がれ!」
私が指示を出すが…
「普通に撃って、あいつを仕留められますか?」
「………」
レンジャー隊長の言葉に返事を返せない。
その沈黙が答えだった。
巨人は、周辺にレンジャーがいるのに無理に攻撃を仕掛けなくなっている。
レールガンを警戒しているのだ。
「……司令官、奴の攻撃を誘発させてみせます。
必ず仕留めてください」
「待て、何をする気だ!?」
私の制止の言葉を待たずに無線は切れてしまった。
「全員、集まれ。
一塊になって奴に接近するぞ」
「そんなことをすれば一撃で全滅してしまいますよ」
「それが狙いだ。
今はレールガンを警戒しているが、人間の集団が目の前にいれば感染者の本能が上回るはず」
「我々の命で奴に隙を作るのですね?」
「ああ、確実に死ぬような作戦で済まないが…」
「隊長、それ以上は野暮ですよ。
この戦争に参加すると決めた時から覚悟は出来ています」
「そうか、なら…行こうか」
「ええ、我々の最後の任務を成功させましょう」
生き残っていた数十名のレンジャーが隊列を組み、巨人へと近づく。
隻腕の巨人は、最初、レンジャーたちを無視しようとした。
だが、あまりにも無防備に近づいてくる人間たちの存在が感染者の本能を刺激する。
ついに抑え切れなくなった巨人が腕を振り上げる。
巨人の本能を刺激するため、あまりに近づきすぎたレンジャーたちに回避は不可能。
全滅必至の攻撃が迫る。
「――撃て!」
レンジャー隊長が司令部に向かって叫んでいた。
直後。
轟音が響く。
それに続く衝撃波がレンジャー隊長を背後にいた仲間たちと共に吹き飛ばしていく。
「……っ!」
レンジャーたちの献身を無駄にはしない。
してはいけなかった。
今、巨人は――。
完全に無防備だった。
「レールガン!」
司令部。
五発目の装填完了。
砲手は照準を覗き込んでいる。
照準の中心。
そこには巨人の頭部。
「……撃て」
声が震えた。
「撃てぇぇぇぇぇッ!」
砲手が発射スイッチを押す。
五発目。
レールガンが轟いた。
空気が爆ぜる。
砲弾が飛ぶ。
迷いなく…一直線に。
巨人の頭部へ。
「――――ッ!」
巨人が気づいた。
だが、遅い。
腕を振り切った巨人には、もう回避する術がない。
次の瞬間。
巨人の頭部が――消し飛んだ。
巨大な身体が、その場で停止する。
そして。
ゆっくりと。
大地へ倒れていった。
ドォォォン――。
土煙が舞い上がる。
静寂。
誰も声を発しなかった。
その塵になってゆく巨体を眺めながら、司令部の誰かが小さく呟く。
「……撃破、確認」
その言葉を聞いた砲手は、ようやく力を抜いた。
だが。
視線はモニターから離れない。
そこには、巨人と共に倒れたレンジャー部隊の姿が映っている。
少しだけ間を置く。
「……お前たちのおかげで勝てたよ」
目を閉じた。
五発目は、絶対に外せなかった。
彼らが命を懸けて作った、たった一度のチャンス。
この一発だけは絶対に、外すわけにはいかなかった。
巨人撃破を皮切りに各戦線は収束に向かった。
ベノムやハーピーは、明らかにその勢いを弱め。
鬼との戦いも、防壁に甚大な被害が出ているが終わりが見え始めた。
司令部が終わりを意識し始めた時…
「レールガンのチャージ。
いつでも撃てるようにしておけ」
「は、はい!」
私の意図がわからず、戸惑いながらも指示通り動く司令部の面々。
「感染者の動きを見張れ。
他と違う動きをする感染者を見逃すな」
その言葉で司令部の面々も理解した。
この作戦の目的は、アルファの討伐であると。
上位感染者が全滅し、通常の感染者を掃討する段階に入った時。
「いました!
北東に離脱する感染者の一団があります」
やはり、尻尾を見せたか。
「レールガン、その一団に照準!」
知性を持ち、他の感染者を指揮する個体なら、本能に逆らい逃走を選択するかもしれない。
そう思って警戒していたが、ビンゴだった。
「照準完了」
「……撃て!」
逃げる一団に向かってレールガンが火を吹く。
着弾の衝撃は凄まじく、感染者の一団は粉々に砕け散った。
特異な行動をする感染者は、その一団以外に存在せず。
最後の感染者が倒されたことで戦闘は終結した。
アルファを撃破した。
これでこの戦争も変わる。
私の長かった戦いも、ようやく終わった。