転生した私がゾンビアポカリプスの世界でコロニーを作る 作:ソロモンは燃えている
アルファ討伐後、改めて被害を確認したがひどいものだった。
防壁や防衛兵器はボロボロで、損傷のない箇所などない有様。
兵士にも多くの犠牲が出ていた。
サムライや鉄砲衆だけでなく、鬼武者も一人戦死者の列に名を連ねた。
レンジャー隊長の死を聞いた鬼武者隊長は、静かに目を瞑り、死者の冥福を祈った。
共に鬼武者となったもっとも信頼していた部下を死なせ、心から尊敬し、認めていた同僚の最後を聞いた彼の心中はいかほどだろうか。
さすがの彼も、この時ばかりは寂しそうに見えた。
司令官として感傷に浸ってばかりもいられない。
アルファは討伐したが感染者がいなくなったわけではないのだ。
空白地帯となった関東に周辺から感染者が流入してくるのは時間の問題。
ボロボロになった防壁を修復し、開拓地を維持する態勢を整えなければならない。
部下の内政官に指示を出していく。
数ヶ月後
私は王国にいた。
防衛網の再建後、王国から帰還命令が届いたので引き継ぎもそこそこに戻って来たのだ。
すぐに謁見の間に通された。
玉座には国王が座している。
「司令官よ、此度のアルファ討伐戦の成功、見事であった」
「はっ、ありがとうございます。
これも部下たちの献身あってこそのこと。
皆を代表して、受けさせていただきます」
「…やはり、欲のない男だな。
アルファ討伐後、感染者の動きは明らかに変わった。
各地から勝利の報が届き始めている。
関東を掌握するのも時間の問題であろう。
しばらくは其方の力を必要とすることもあるまい。
ゆっくり休んでおくのだ」
「しばらく…ですか?」
私はアルファ討伐を機に隠居し、軍から距離を取るつもりだった。
私の権威や名声といったものが大き過ぎて、これからの王国の発展に悪影響が出ると思ったからだ。
「そうだ。
この先、さらなる嵐が王国を襲う。
その時に備えて、力を蓄えておくのだ」
「ど、どういう事ですか!?」
国王の不穏な言葉に思わず声を荒げてしまった。
「そのことについては、私から説明しましょう」
そばに控えていた王国技術研究所の所長が進み出る。
「作戦の終盤、司令官殿がまさにアルファを討とうとした瞬間、奴はこれまでで最大出力の信号を発しました。
そして……それに呼応するように二つの信号が新たに観測されたのです」
「新たに…二つだと?」
「はい、観測された場所は九州と北海道です」
それは、古代文明が終焉した地。
「観測された順番に九州の個体をベータ、北海道の個体をガンマと名付けました」
関東での決戦に負けた古代人は、その後、敗北と後退を繰り返し、南端と北端に追いやられた末に滅んだ。
つまり———
「その地こそが古代の戦争における最前線。
人類ともっとも激しく戦っていた感染者たち…」
彼らこそが感染者の主力部隊。
関東にいる感染者など後方の予備戦力に過ぎなかったわけか。
「その通りです。
彼らがいつ王国に襲来するかはわかりませんが、厳しい戦いになることは間違いないでしょう」
ここで、国王が再び口を開く。
「我らに出来ることは一つ。
関東を平定し、内政を充実させることで国力を上げ、いずれ来る奴らに対抗できる軍事力を配備すること。
そして、それは司令官一人で成せることではない。
王国の民を信じてやってくれ。
其方がやるべき事に集中できるように皆が頑張っているのだから」
国王の言葉で理解した。
ああ、王国は私の負担を少しでも軽くしようとしてくれているのだ。
ならば、私の答えは決まっている。
「はっ、ベータ及びガンマに対する備えに専念させてもらいます」
こうして、私の新たな戦いに向けた準備が始まった。
感染者サイド
九州の南端
噴煙を上げる桜島を臨む海岸に一体の感染者が立っていた。
外見はただの感染者にしか見えないが、その目には確かな知性の光があった。
(お呼びでしょうか、将軍)
いつの間にか感染者の後ろに鬼が一体。
まるで上位者に対しているように恭しく控えていた。
彼らはテレパシーのようなもので対話をしているようだ。
(ああ、関東の坊やが討たれたようだ)
(なっ、まことですか!?)
(確かだ。
断末魔の叫びがここまで届いたのだからな)
(…では、ご命令を。
将軍の同類を討った者たちをことごとく滅ぼして参ります)
(そう逸るな。
お前に任せれば、すぐに終わってしまうではないか。
まずは先触れを出そう。
本隊は、その後に進む。
ゆっくりとな)
(それでは相手に時間を与えることになります!)
(かまわぬだろう。
お前との決戦の後はつまらない戦いばかりだった。
その戦いも終わり、退屈していた。
そこに坊やを倒せる者が現れたのだ。
実戦を知らないとはいえ、それなりの戦力もあったはずなのにな)
(…あまり悠長なことをやっていては、楽しむ機会すらないかもしれませんよ。
あのお方が動けば、全てが終わってしまいます)
(王は動かない。
少なくとも我が討たれるまではな。
自分が動くまでもないと断じて、我の楽しみを奪うことはしない。
そのくらいには信頼されている自負がある)
(……そうですか)
(さあ、戦争に行くぞ。
出陣の準備をしろ。
ゆっくりとな)
ベータは、悠然と歩き去っていく。
その場に残された鬼は…
(何故だ?
関東のお方が討たれたと聞いた時、胸の中に何かが湧き上がってきた。
こんなものは知らない。
知らない…はずだ)
鬼は、奇妙な感覚に戸惑いながらもベータの命令を実行すべく行動を開始するのだった。
北海道
かつて札幌と呼ばれた地にて、おびただしい数の人骨が積み上げられてできた山の上に座する感染者が一体。
その目に知性の光を宿し、身体から発する覇気と威厳は、まさに人骨でできた玉座に君臨する感染者たちの王。
(…関東のが負けたか)
自分の同類が死に、関東を人間に奪い返されたにも関わらず、その感情に一切の動きがない。
彼にとって、取るに足らない些事に過ぎないのだ。
(余が動くまでもない。
まあ、将軍の遊び相手にはちょうど良いか…)
奴の戦好きには困ったものだ。
我らの使命は、人間に終末をもたらすことのみ。
対等な戦いを求めるなど不合理極まりない。
だが、それで奴の忠誠が得られるなら認めてやるが王の度量というもの。
どうせ、人間に奴を満足させることなど出来まい。
万一、奴が敗れたなら余が動いて全てを終わらせれば良い。
感染者の王にとって全てが些事。
将軍が負けても、使える駒が一つなくなるだけのこと。
自分がいれば事足りる。
王者としての圧倒的な自負がそこにはあった。
それも無理はない。
なぜなら……
かの王の眼前には、幾千幾万に達する巨人の群れが傅いているのだから。
号令一つで一斉に動き出し、全てを飲み込んで無に帰す。
九州の将軍すらも抗うことの出来ない戦力を持つ、この地における最強の存在。
人類を覆う絶望の闇を振り払う道は、想像以上に険しく長いものであった。
王国は、人の世界を取り戻せるほどに強くなれるだろうか?
歩み始めた以上、もう戻ることは出来ない。
近い将来、王国に戦禍が迫った時、再び人間の真価が試されることになるだろう。
僅かながらも傷付いた身体を休め、戦うための刃を研ぐ時間を得られたことが王国の福音となることを祈ろう。
英雄たちの戦いはまだ終わらない。
最後に事態が解決していないことが明かされる。
ゾンビ物のエンディングあるあるですね。
ゲームでも、さらなる作戦が控えていると示唆されてました。