彼女に解けない暗号はない。
それでも側に居たいから、私はあの子に挑み続ける。

ミレニアムモブ先輩×コユキの百合短編。





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コユキに解けない、秘密の暗号。

 

 

この世に絶対はない。

 

高品質の代名詞たるミレニアム製だって、いつかは壊れる。

かのエンジニア部やハレが制作したものであっても。

 

「っ......!」

 

この学園の創立者であるセミナーの前身は、『千年難題』を解決するために集った技術者集団だったらしい。

今の技術では解き明かすことのできない7つの難題。しかし、遠い将来それも解決されるはずだ。

実際、既に1つは解明されているのだから。

 

「で、できた!」

 

じゃあ、絶対に解かれない暗号は?

それもどうせ存在しないだろう。沢山の時間を費やせば、どんな暗号だって解き明かされるはずだ。

 

でも。

それでも。

 

「できたよコユキ!今度こそ!!!」

 

「うーん......はい!解けちゃいました!」

「ちくしょう!」

 

『絶対に暗号を解いてしまうヤツ』の存在を認めたくないというのは、私のエゴだろうか?

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「どうして......?今回は行けたと思ったのにぃぃぃ!」

「そんな落ち込まないでくださいよ先輩、いつものことじゃないですか!」

 

項垂れる私を憎たらしい笑顔と共に覗き込むコイツは、『黒崎コユキ』。

 

ミレニアムの生徒会である『セミナー』の一員、なのだけど。

残念なことに、問題ばかり起こして同僚とその他に追いかけられているイメージしかない。

 

「それにしたって、もう少しくらい悩んでくれても良いんじゃないか?見せてから2秒しか経ってないよ」

「そんなこと言われても仕方ないじゃないですか!分かっちゃうんですから!」

 

彼女には特殊な能力が備わっている。

それは『コンピューターシステムの暗号であれば、どんなものでも解いてしまう』という......とんでもない能力。

空が赤く染まる動乱の際、ユウカに命じられてリオ会長のセキュリティシステムを突破したとかいう噂まである。流石に誇張されたもの......のはずだ。

 

「さあ、いつも通り奢ってくれるんですよね?」

「はぁ...分かったよ」

 

ニコニコ笑顔で駆け出す彼女を追って、研究室を出る。

向かう先は...いつも行くあのカフェだ。

 

 

 

冬枯れの街路を2人して歩く。

1年とちょっと前、私は中等部だった彼女に勝負を持ちかけた。

 

私が作り出したコンペ用のセキュリティシステムを、ユウカから逃げるついでに解除して走り去っていったその日から、私とコユキの対決は続いている。

 

「にははは!テイクアウトもいいですけど、やっぱりこの店のチョコムースラテはこのテラスで飲むのが1番ですね!」

 

ちなみにコイツは、ちょっと前まで債券偽造で金庫みたいな牢屋にぶち込まれていた。何してんだか......

 

「しばらく反省部屋での差し入れだったから、久しぶりだね」

「意外と居心地は悪くなかったですよ?」

 

実際、反省部屋とは名ばかりの状態ではあった。

私の差し入れもあるけど、気づけばゲームとか物だらけになっていたし。

 

まあユウカのことだから、甘々な罰になることは想像に難くなかったね。

 

「あ!先輩の抹茶クリームラテも美味しそうです!一口ください!」

「いいよ」

 

彼女は遠慮することなく、私の飲みかけに口をつける。

 

「ぷはっ!美味しいです!」

「...良かったね」

 

見事なヒゲを生やし満面の笑みを浮かべる彼女を前に、なんとなく目を逸らす。

 

「今日はどこへ行こうか?」

「そうですね......全然外出れてなかったので、ゲームセンターの新作が気になります!」

 

初めこそ後輩相手に敵対心をバチバチに燃やして突撃していた私。しかし何度か繰り返すうちに、それも無邪気な笑みによって溶かされていった。

 

今ではこのように、ただの友達みたいな関係。

 

......そのはずだ。彼女が奢りに釣られているだけだとしたら、だいぶショックを受ける自信はある。

 

「喫茶店登山の大型アップデートが来てたよ」

「本当ですか!?うぅ〜楽しみです!」

 

コードネーム『白兎』の名に恥じぬ身軽さで、店を飛び出す彼女の背中を見つめる。

 

......そう、友達だ。

私は友達でいい。

 

彼女は特殊な能力を持ち、将来のミレニアムを背負うセミナーの1年生。

方や私は木端のセキュリティマニアだ。

 

それ以上を望むなんて、傲慢以外の何者でもないね。

 

 

 

───────────────────

 

 

 

彼女と勝負をしてから数日後。

あいも変わらず私は、対コユキ用セキュリティシステムを組み上げるため研究室に篭っていた。

 

「むむ......ここは確かに脆弱だったかもしれない。でもこれくらい穴はどうやったって空くんじゃないか......?何か別のアプローチで——」

 

あれからパソコンに齧り付くも、やはり突破口は見えない。

チラリとカレンダーを見てため息を吐く。決戦の日はそう遠くないというのに......

 

「んぐぐ......って、うわっ!?」

「ひぃぃ!」

 

頭を抱えていると......突如研究室の扉が開かれ、ピンクの影が飛び込んできた。

 

「コユキじゃないか。どうした?」

「ああっ!先輩匿ってください!」

 

大慌てする彼女を見て察する。

どうせまた、ユウカに追われているのだろう。

 

「やれやれ......」

 

机の奥につけていたスイッチを倒し、一瞬で部屋の電気が消える。組みかけのプログラムは常にバックアップが取られているので問題ない。

 

この部屋は曲がり角のすぐだ。微かに聞こえるユウカの足音からして、まだこの部屋の電気が付いていたことには気付かれていないはず。

 

とはいえ。

 

「コユキこっち」

「あぇ?」

 

彼女をひょいと後ろから掴んでロッカーへと引き摺り込む。

 

「!?あ、せ、先輩?ちょっと......!?」

「しっ、静かに」

 

コユキを背後から抱きしめ、動きを封じる。

 

「っ......!うぅ」

「......」

 

2人の心音だけが響く中、研究室の扉が開かれる。

十中八九ユウカだ。

 

「コユキ〜?ここに居たりしないでしょうね?」

 

「ひぇ!」

 

彼女は私とコユキの仲が良いことを知っている。電気が付いていなくとも、この部屋を探す可能性は高い。

 

「どこかに隠れてるとか......?」

 

訝しげに研究室を見渡すユウカがぼんやりと見える。

部屋をくまなく調べられて、発見されてしまうのも時間の問題だ。

 

なんか腕の中でコユキがもぞもぞしてるし。

 

私は左足を浮かせて——コツンとロッカーの背面を軽く叩いた。

 

「!」

「っ!?せ、せんぱ──」

 

音に釣られて、ユウカがこちらを振り向く。

 

「そっちかしら?」

 

ユウカがにじり寄って......ロッカーに手をかけるその瞬間。

掃除用ロボットがロッカーの影から発進した。

 

「!な、なんだ。ロボット?」

「......」

 

彼女はロッカーから手を離す。

 

「さっきの音はこれだったのね。もしかして、もう遠くに逃げてるかも......!」

 

人というものは、一度当たりと思い込んだものが外れると、前提を疑い出す。

目論見通り、彼女が研究室を出る音が聞こえた。

 

「もう、いいかな?」

「......ぷはっ!」

 

足音が遠のくまで待ってから、コユキを解放する。

 

「きゅ、急に何するんですか先輩!」

 

抗議を受ける。心外だ。

 

「いいでしょ?やり過ごせたんだからさ」

「それは、そうですけど......!」

 

じっとして凝り固まった肩をぐいーっと伸ばす。

 

コユキを匿うための作戦はいくつか用意してある。

どうせ毎度彼女に非があるのは百も承知だけど、それでも助けてやりたくなるのは......惚れた弱みとしか言いようがない。

 

「で?今度は何をやらかしたの?」

「ちょっとミレニアム年明け宝くじの当選番号を弄っただけです!」

 

コイツは。

私を棚に上げるようだけど、ユウカやノアはコユキに甘過ぎるんじゃないだろうか。

 

「それにしても、よくユウカ先輩をやり過ごせましたね?先輩がロッカーを蹴った時はもう心臓止まっちゃうかと!」

「セキュリティ弄ってると、人の思考をよく考えるようになるんだよ。コユキには分かんないだろうけどね」

 

そう、分からない。

ろくすっぽ考えもせず、私が数ヶ月考えたセキュリティを2秒で突破するヤツには。

 

「ていうかあの掃除ロボット、仕込んでたんですか?」

「そうだよ。コユキを匿うためのプランK」

 

プランAからQ、つまり17番まである。美しいね。

どれも人の心理を利用するものだから、同じ手を繰り返せばどこかで失敗する。数が必要だ。

 

「......その、先輩はなんでそんなに匿ってくれるんですか?」

「え?」

 

不意打ちの質問をくらう。

 

そういえば。『白兎』の悪評など知れ渡っているし、彼女を庇うものなどそうそう居ないはずだ。

ある意味当然の疑問かもしれない。

 

「そりゃ——友達だからね」

 

こちらとしてはそう答える他ない。

君にゾッコンなんですと宣った暁には、キモいです先輩近寄らないでくださいと蔑まれて爆散する未来しかないんだ。

 

「友達......」

「さ、そろそろ行きなよ。不審がったユウカが戻ってくるかもしれない」

 

どうせここを出たら大した時間も待たずに捕まってしまうだろうけどね。

彼女自身そんなに強くはないし、業を煮やしたユウカがあのC&Cを動員するかもしれない。

 

「そ、そうですね......!先輩、ありがとうございます!」

「ほどほどにね」

 

窓を開けて逃げ出していく桃色を見送って、電気を点ける。

 

 

さあ作業に戻ろう。今度こそあのかわいい鼻を明かしてやるんだ。

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「あ、居た」

「ん?ああ、ユウカか」

 

あっという間に1月の末。

私のコユキ打倒計画は進展を見せることなく、締切を前にして私の精神にダメージを与え続けていた。

 

「だ、大丈夫なの?」

「ああ、問題しかないよ」

 

問題があり過ぎて、何が問題かも分からない。

どうすりゃいいんだ?これまで何度もコユキに挑んできたけど、万策尽きたと言っても過言ではない。

 

「まだコユキに挑戦してるのね......?うわ、すっごい複雑!あなた、セキュリティだけならチヒロ先輩とやり合えるんじゃないの?」

 

チヒロ先輩か。おそらくこのミレニアムにおいて1位2位を争う腕前を持つお方だ。いっそ彼女に聞いてみるか?

いや、それはちょっとプライドが許さない。

 

「見に来て正解だったわ......とにかくちゃんと栄養と睡眠を取らなきゃダメよ?ヴェリタスもエンジニア部も、ちょっと目を離すとすぐ不摂生するんだから!」

 

ユウカが腰に手を当ててため息を吐く。

 

「ごめんよママ」

「誰がママよ!」

 

ぷんぷんと怒りながら、ユウカが部屋を出ていく。

 

......と同時に、私は再びパソコンへと齧り付く。

すまんユウカ。でも子供ってそういうもので、みんな隠れて布団の中でゲームするんだよ。

 

 

 

.........。

 

しばらく、キーボードを叩く音だけが響く。

私に気づかれることもなく、日は沈む。

 

 

 

 

——あれ、今何時だ。

 

モニター隅の時計表示を見ると、時刻は深夜3時。

熱中し過ぎた。割には大して進んでいないプログラムを眺める。

 

「だ、駄目だ......こんなことでは!」

 

さらに日付を見れば、今日で2/1じゃないか。

あと2週間を切った!

 

「追い込み......!追い込みをかけなければ......っ!」

 

しかし私の思考は、極まった疲労と深夜のテンションであらぬ方向へと散っていく。

結局錯乱した私が導き出した答えは、随分と馬鹿らしいものだった。

 

 

 

「そうだ。暗号の中に、絶対見られたくないものを仕込もう」

 

 

 

セキュリティとは元来、秘密を守護するための存在だ。

守りたい秘密が大きければ大きいほど、それを守ろうという意識が強まってこう......なんか......上手いこといくんじゃないか?

 

ともかく私は自らを追い詰めることによって、現状を打破しようと考えた。

 

「私の秘密。そりゃ、これしかないよな!」

 

何を考えたのか。

私はその場で——コユキへの恋文を綴り始めた。

 

「えっとぉ......最初会った時はこんな気持ちで......」

 

ふわふわ浮かぶ頭の中で、彼女との思い出を反芻する。

走馬灯か何かのように鮮明に蘇る彼女と過ごした情景。

盲目なる恋の病を患った少女......そう形容されても仕方のない有様だ。

 

「コユキの......笑顔が見たくて......負けて奢るのも......嫌じゃなくなって......」

 

今までのどん詰まり感とは比べ物にならないほど、彼女に当てたラブレターはスラスラと文字数を増やしていく。

秘めに秘め、二度と表に出すまいとしたデータをCodeに変えていく。

 

「いよっし!これでOK!後はセキュリティを作るだけ!」

 

何がOKなのか?セキュリティを作るのがメインじゃないか?これまで通り解除されることを想定していないのか?

 

もちろん、想定していないのである。

 

耽った夜は既に明け、日光が網膜を刺激する。

大事にしまい込んだその想いを護る城壁は、先程とは比べ物にならない速さで築かれていった。

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

「遅いですよ、先輩!」

「いやぁ、ごめんごめん」

 

2/14。

決戦の日。

 

ミレニアムタワーの一室で開かれたコユキの誕生日会に、徹夜明けの今にも崩れ落ちそうな身体を押して出席する。

なんだかんだで寂しがりな彼女のことだ。私が来ないとなれば、山海経高級中学校で使われる漢字みたいな泣き顔を見せるだろう。

 

......いや、今のは気持ち悪いな。それは私の願望じゃないのか?

まあちょっとくらいは悲しんでくれるはずだ。

 

「見てください先輩!皆さんが私のためにこんな豪華なお料理を!」

「良かったな」

 

この誕生日会にはユウカとノアにヴェリタス、なぜかC&Cまで居るという、腐ってもセミナーの一員なだけはある大物メンバーが揃っている。

リオ会長もそろそろ帰ってきたらいいのに。

 

「なんか私、場違いじゃないか?」

「そんなことないわよ」

 

ジュースを取るため立ち上がると、背後から声がかかる。

 

「ち、チヒロ先輩!」

「あなた、界隈では結構有名人よ?是非じっくりお話ししたいと思ってたところ」

 

うおお、本物だ。

 

ヴェリタスの中でも一等忙しい彼女に会う機会はそうそうない。

ありきたりな言葉を使うとするなら、憧れの人だ。

 

「最近研究室に篭ってたみたいね。新作があったら是非見せてもらいたいのだけど」

「新作は、ありますけど......」

 

そう、新作はある。

私が自分自身を追い詰めまくった結果完成した......最強のセキュリティシステムが!

今日はコイツをコユキにぶち込み、 大勝利した記念日になるはずだ。

 

「ふふふ......見せるのは少し待ってください。このセキュリティが『白兎』を打ち倒したその後で、ね!」

 

はっきりいって今度こそ自信がある。私の恋心を漏らすまいと作り上げた防壁は、史上最強のものと化した。

 

「え?でもコユキってあの時リオ会長のセキュリティを爆速で破───むぐっ!?」

「マキ」

 

マキが何故か口を塞がれている。

 

「先輩!何の話してるんですか?」

「コユキが可愛いねって話だよ」

 

適当なことを言って誤魔化す。

 

「うぇ!?ちょ、な......!何を、急に!」

 

この会が終わった後......サプライズでコイツを喰らわせてやる。貴様の敗北が、真のバースデープレゼントだ!

 

 

 

───────────────────

 

 

 

「にはははー!こんなに沢山プレゼントを貰っちゃいました!」

 

大量の箱を抱えてニコつくコユキを眺めながら、帰路につく。

変人揃いのミレニアムらしく、おかしな贈り物ばかりだ。

決済機能付きホットサンドメーカーに、1/24サイズのミニチュア妖怪MAX......素数しかないダイヤルロック(弱くない?)。

その他様々だ。

 

当然だけど、カモフラージュのため私も普通のプレゼントを渡してある。トリニティの一等地に店を構える有名なお店のマカロンを贈った。

 

「えへへ......」

「......」

 

不思議なヤツだ。

あれだけやりたい放題をして、牢にぶち込まれてさえいるというのに、こうして誕生日会が開かれてプレゼントを抱えながら笑っている。

 

彼女自身の無邪気な人柄が、周りをそうさせるのだろう。

勿論私も。

 

......うおっと。

昨日今日と碌に寝ていないからか、今にも倒れそうだ。

その前に、今日の大目標を果たすとしようか。

 

「コユキ!」

「......?はい!」

 

前を歩いていた彼女が振り向く。

 

「実はもう1つ、プレゼントがあるんだ」

「本当ですかっ!?先輩はいつも太っ腹ですね!」

 

タブレットを取り出し、セキュリティシステムを起動させる。

渾身の出来だ。無敵要塞と称するに相応しい最強の防壁。

 

「コユキ、今日こそ君を打ち倒そう!」

「!......ふふ、また作ったんですね?」

 

ひっくり返したタブレットをコユキに手渡す。

高鳴る心臓を抑えるのに必死で、内なる想いを溶かし込んだことも忘れて。

 

「にはは!今回もそっこーで解除しちゃいますけど、悪く思わないでくださいね?」

「やれるものなら!」

 

そうして画面に、彼女の指が触れる。

 

「っ......」

「どれどれ」

 

 

 

 

 

 

「——え?」

 

ふと、彼女の動きが止まった。

 

......止まった?

 

こうしているうちに......3秒、4秒と時間が過ぎていく。

 

「......」

 

まさか、セキュリティがコユキを足止めしている?

私がいくら頭を捻ったものをお出ししても、2秒で解いてきたあのコユキが?

 

「おお......!おおっ......!」

 

10秒だ。2桁。

 

「あ、あぅ......」

 

人生で最も引き伸ばされた時間。

 

無限にも思えたこの時間が終わったのは、タブレットを渡して1分ちょっと。

 

 

「こ、降参です」

「——え?」

 

 

今なんて言った?

 

「だ、だから......降参です」

「......?」

 

降参?

つまり、勝ち?

 

「......本当?」

 

彼女の顔を覗き込むと、視線をサッと逸らされる。

 

「っ......!ほ、本当です!」

「本当に?」

 

降参。

つまり。このセキュリティを、コユキはすぐに解除することができない。

 

ああ......

 

ああ!

 

 

「やったああああああああっ!」

「ひゃっ!?せ、先輩......!」

 

 

歓喜のあまり、コユキを抱きしめる。

 

勝った!勝ったんだ!

この1年、ほぼ全てを打倒コユキに注いできたその努力が遂に。

実ったのである!

 

「今夜はパーティだ!!!いや、パーティは今日やったっけ!?何でもいいよもう!」

 

今日はコユキの誕生日で、私の大勝利記念日。

素晴らしい日が混ざり合って最強に見える。

 

「うっ......!」

「せ、先輩?」

 

ふと脚の力が抜けて、コユキへと倒れ掛かる。

ああ......彼女に勝って気が抜けたのか、疲労の限界が来たようだ。

 

ちょっと今日パーティは無理だな。

まあ良い。明日でも明後日でも、私はコユキと居られるなら何だって構わない。

 

「コユキ、明日パーティやるから......絶対......何でも好きなもの...言って...」

「勝っても負けても、先輩は奢っちゃうんですね」

 

 

止めどなく襲いくる眠気に、意識を持っていかれる。

気絶と言って差し支えないけれど...これだけは断言できる。

 

 

これは、世界で1番幸せな気絶である。

 

 

 

 

─────────────────

 

 

 

 

「うぅ......まったく」

 

1人の少女を膝に乗せた彼女の頬は、夕陽に照らされたせいで赤く染まる。

 

「なんですか、アレ。ずるいですよ」

 

綴られた、セミナーの報告書ほどに長い文字の羅列が......頭の中で渦巻いて止まらない。

セキュリティの奥に守られていたソレは、まるでコンピューターウイルスのように彼女のリソースを奪い去っていく。

 

「ぐぅ......」

 

でも、こちらの気も知らずに眠りこける顔を見ていると、なんだかどうでも良く思えてくる。

 

寝息を立てる彼女の髪を1つ撫でて。

 

「いつか。いつか、ちゃんと解き明かしますから」

 

聞かれないように、秘密をしまい込むように。

彼女は小さく呟いた。

 

「先輩の、秘密の暗号」

 

この世に絶対はない。

ビッグシスターのセキュリティも、千年難題も、誰かが秘めた恋心も。

 

いつか誰かが、その扉を叩く日がくる。

それが彼女であれば尚のこと。つまり——

 

 

黒崎コユキに、解けない暗号はない。

 


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