目狩令によって愛する者たちを奪われた一人の男の物語。


注意:この話は稲妻編までのストーリーを元に作られた作品です。そのため、現在の原神のストーリー、並びに設定と矛盾する点がある可能性がございます。また、この作品は2022年12月11日にpixivにて投稿した作品となっております。

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神の目無しの復讐

 

 

 これは、神の目を持たぬ一人の青年の復讐譚である。

 

 

 

 

「私は水の神の目を貰えたわ!」

 

「俺は炎の神の目だぜ!」

 

「僕は岩ですね。」

 

「アタイは氷。」

 

 彼、龍牙の目の前には四人の友人がいた。親ぐるみの付き合いで、物心つく前から日々を過ごした家族のような存在だ。

 

 水の神の目を持つ少女は美波。髪は金色で、括って肩にかけていた。底抜けに明るいムードメーカーで、いつも俺たちを引っ張ってくれた。

 

 炎の神の目を持つ少年は翔馬。髪は真っ赤なツンツンヘッド。正義感に燃えていて、困った奴が居たら放っておけない奴だった。

 

 岩の神の目を持つ少年は創平。眼鏡をかけて冴えない印象だが、学力はトップクラス。その頭を使って俺たちの悩みを尽く解決してくれた。

 

 氷の神の目を持つ少女は雪華。綺麗な銀色の髪で、性格はクール。冷たいように見えるが根は優しく、面倒見もよかった。

 

 かく言う彼、龍牙は神の目を持っておらず、人より少し剣の扱いに長けた平凡な少年であった。

 

「みんなはいいなぁ。神の目を貰えて。」

 

 平凡であった彼は、いつかみんなに置いていかれるのではないかと考えていた。神の目には、神に認められた存在にもたらされる物であり、神となる資格そのものであるという説がある。

 

 幼い頃から行ってきた剣の稽古も、今までは全て勝利していたものが、神の目を使った稽古に変わってからは勝率は下がってしまった。

 

「気にすんなよ!なんかあっても俺たちがぜってー守ってやるから!」

 

 龍牙にとって、それは嬉しいことではなかった。置いていかれたくない。守ってもらうだけでなく、彼もまた友人を守りたかった。横に立っていたかったのだ。

 

 その日から龍牙は猛特訓し、持ち前の僅かな剣の才をフル活用し、また横に並び立てるようになった。

 

 

 だが、それは決していい事なんかでは無かったのだ。

 

 

 時は流れ、彼らが18歳になった時のことだ。稲妻にファデュイが蔓延るようになり、稲妻を統治している雷電将軍は、目狩り令を出した。

 

 天領奉行は神の目を持つ者からそれを奪い、抵抗した者には見せしめとして処刑する事もあった。

 

 そしてそれは、彼らも例外ではなかった。

 

 

 

 龍牙は、ただただ彼らの落とされた首の前に立ち尽くしていた。彼が買い物に出かけているほんのわずかの間に、友人たちは物言わぬ亡骸となってしまったのだ。

 

「ったく、天領奉行様に逆らうからこんなことになるんだ。」

 

「これを失ったらあいつのお荷物になってしまうとか言ってたが、誰のことなんだろうな。まぁ、多分神の目持ちだろう。」

 

 友人を殺した天領奉行の話を聞いて、ただただ呆然とするしか無かった。俺が剣なんて振らなければ。ただ彼らのお荷物になっていれば、彼奴らはきっと神の目を渡して生き長らえていた。

 

 そんな思考が、頭から離れることは無かった。

 

 次に意識が戻った時には、天領奉行の連中の切り落とされた頭を前に、右手に刀を、左手には友人たちの神の目を持っている状態だった。

 

 

 

 

 その日から、彼は深い眠りにつくことができなくなった。眠れば友人たちとの思い出が夢の中で蘇るからだ。その夢はあまりにも現実的で、でもそれが夢だとはっきり分かってしまって、見ているだけで心が壊れてしまいそうだった。

 

 彼は眠る時間を削り、ただひたすらに剣を振るった。彼らの首の前で呆然と立ち尽くす中、復讐するという決意を抱いたからだ。

 

 努力した俺が悪かったのか?否。

 

 神の目を持った彼奴らが悪かったのか?否。

 

 全ては、将軍のせいだ。将軍が目狩り令なんて命じなければ、彼奴らは死ななかった。きっと今だって、笑いながら盃を酌み交わしていただろう。

 

 将軍を殺す。その復讐心だけで、彼はただ刀を振るい続けた。

 

 

 

 

 

「て、敵が多すぎるぞ!蛍、どうするんだよ〜!」

 

「パイモンを囮にして逃げようかな。」

 

「冗談言ってる場合じゃないだろ!…おい、目がマジだぞ!オイラを置いていこうとするな〜!」

 

 龍牙がたまたま通りかかった場所で、旅人と小さい生き物が大量の敵性生物に囲まれていた。

 

 旅人を見て、龍牙は動きを止めた。髪の色や髪型、聞こえてきた声など、彼女の服装を除けばあまりにもかつての友人、美波に似ていたからだ。

 

「あ!人がいるぞ!お〜いそこの人!助けてくれ〜!」

 

 小さい生き物がこちらを見て助けを求める。思考を切りかえて刀を抜き、ヒルチャール、スライム、フライムを次々と殺す。ヘイトが分散されて動きやすくなったのか、旅人も先程までとは打って変わって次々とモンスターを切り刻む。

 

 全て始末すると、旅人と小さい生き物がこちらに向かってきた。

 

「助けてくれてありがとな!オイラはパイモンで、こっちが蛍だ!」

 

「蛍って言うの。よろしくね。」

 

「天土龍牙だ。さっきのことは気にしなくていい。次から気をつけるんだな。」

 

「というか、龍牙ってずごく強いんだな!あの数を相手に一撃も喰らわないなんて!」

 

 パイモンが龍牙のことを褒める。しかし、自身が強いことは龍牙にとっては当然でなくてはならないのだ。

 

「当たり前だ。あの程度を潰せないようでは、俺の願いは空の彼方だ。」

 

「願い?いってみろよ〜。旅人がお礼で叶えてくれるかもだぜ?」

 

 パイモンは勝手に蛍にお礼をさせる気でいるが、蛍は何も言い返さない。なんでも言ってと言わんばかりに腰に手を当てふんぞり返っている。

 

「申し出はありがたいが、遠慮させてもらう。この願いは、自分で叶えなければならない。」

 

「そっか、大事な願いなんだな!応援してるぜ!」

 

 蛍は若干しょぼんとしている。礼が出来ないことがそんなに気になるのだろうか。

 

「……なら、1度でいい。俺の事を名前で呼んでくれないか?」

 

 そのお願いに、蛍とパイモンはキョトンとする。

 

「それくらいなら全然いいよ。助けてくれてありがとう、龍牙。」

 

 ……やっぱり、美波に似ている。声も顔も髪も、全部。

 

「お、おい龍牙、なんで泣いてるんだ?」

 

 パイモンに指摘されて目元を触ると確かに涙が流れていた。

 

「……悪いな。蛍の全部が、俺の死んだ友人に似ていたんだ。もう2年も前になるのにな…。」

 

 暗い話をしたせいで、空気も悪くなってしまった。

 

「悪ぃな、暗い話しちまって。」

 

「いやいや!こっちこそ辛いことを思い出させちゃったな。」

 

「うん。気にしないで。」

 

「ところで〜、助けて貰っといて悪いんだけど、オイラたち、お腹もペコペコなんだ……。」

 

 確かに悪いな。少し、いやまあまあ図々しい。

 

「よかったら、うちで食べていくか。」

 

「おお〜!ありがとな、龍牙!」

 

 こうして、俺と蛍とパイモンは稲妻城から離れたところにある俺の家に向かった。

 

 

 

 

「ごちそうさま!オイラ、こんなに食べたの久しぶりだぞ!」

 

 そういうパイモンは三人前ぐらいのご飯をペロリと平らげた。その小さい体のどこに収まったのだろうか。だが、驚くべきは蛍だ。

 

「ごちそうさまでした。凄く美味しかった。」

 

 蛍は十人前をペロリと完食して、手を合わせた。パイモンは膨れたお腹を出して寝っ転がっているが、蛍はまだまだ余裕がありそうだ。

 

「お粗末さま。しかし、よく食べるな…。今日買い出しに行ったばかりなんだが。」

 

 買い物袋を横目に見ると、大量に買い込んだはずの食料は無くなり、ほんの少しだけ残っていた家の備蓄も全て彼女らの胃の中に納まってしまった。

 

「わ、悪いとは思ってるぞ…。」

 

「いや、いいんだ。気にしないでくれ。それより、熱いお茶でも飲むか?」

 

「おお!何から何まで悪いな!」

 

「ありがとう、龍牙。」

 

 食料こそすっからかんになってしまったが、こんなに賑やかな食事も2年ぶりで、たまにはこんな食事も悪くないと思った。

 

 

「ところで、お前らはどうして稲妻に来たんだ?鎖国中で中に入るのも一苦労だっただろう?」

 

 実際、離島から本島に入るのは中々に苦労する。天領奉行の監視があまりにも厳しいからだ。

 

「兄を探してるの。」

 

 聞く話によると、生き別れとなってしまった兄を探しているらしい。稲妻にいるかどうかも分からないので、様々な国を当たっているとの事だ。

 

 会話の中で、蛍たちが旅したモンドと璃月の話を聞いた。中には盛っただろうと思いたくなる話もあったが、顔を見る限り本当のことらしい。

 

「お前たちは、神に縁があるんだな。ひょっとして、雷電将軍にも縁があったりするんじゃないか?」

 

 それが話を聞いて率直に思ったことだった。

 

「オイラは無いけど、蛍はデカい像の前で一心浄土に飲み込まれたことがあったぞ!」

 

「一心浄土に…?」

 

 どうやらこの旅人は、思った以上に雷電将軍と関わりがあるみたいだ。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「お、おい…、顔が怖いぞ……。」

 

 どうやら雷電将軍に関わる話で眉間にシワが寄っていたらしく、パイモンを怖がらせてしまった。

 

「ああ、すまないな。もう眠いみたいだ。」

 

 咄嗟の言い訳だが、どうやら外がもう暗かったことも相まって疑われることは無かった。

 

「それで?お前らはどうするんだ?さすがに外も暗いし、放り出すような真似はしないが。」

 

「おお!それなら野宿しないで済むな!やったな蛍!」

 

「うん。何から何までありがとう。」

 

「気にすんなよ。それじゃあ、布団敷くぞ。」

 

 

 旅の疲れがあったのか、蛍とパイモンは直ぐに眠ってしまった。言い訳で眠いとは言ったが、実際はこれっぽっちも眠くはない。

 

 普段の生活では、飯を食べて刀を降って限界がきたら気絶。起きたら飯を食ってまた刀を振る。という不摂生極まりない生活で、更には気絶が睡眠の代わりとなっているので、眠気はあまり感じない。

 

 彼女たちが寝静まったことを確認してから、外に出て刀を振る。

 

 剣の腕は、あの頃と比べるまでもなく成長した。しかし、これ以上の上達の余地がないように思う。才はあっても所詮は多少。俺の限界点はここだということだろう。

 

 ハッキリ言って、俺では復讐の夢を叶えることなんて到底無理だ。当然だが、雷電将軍はこれまでで負け無しだ。特筆すべきは無双の一太刀だが、あれはどのような体勢であろうとも放てるらしい。

 

 人間は少し崩れれば満足に刀を振るえなくなるため、実力の差がただでさえ大きく、ハッキリ言って未知の領域だ。

 

 だがしかし、俺は復讐を止める気は無い。例え首を落とされようとも、ご尊顔に傷を1本ぐらいは入れてやるつもりだ。

 

「何してるの?」

 

 後ろから蛍の声がかかる。どうやら目が覚めてしまったみたいだ。

 

「刀を振ってる。目が覚めてしまってな。」

 

「どうして、龍牙は刀を振るの?」

 

 率直な疑問だった。人も居ない場所でただ一人で刀を振り続けているのが気になったのだ。

 

「……これは、俺の自己満足だ。」

 

「自己満足?」

 

「ああ。守れなかった奴らがいるんだ。大切な、家族同然の親友だった。彼奴らは殺されたんだ。だから、俺は復讐するためだけに刀を振ってる。」

 

「復讐なんて、何も生み出さないよ。」

 

「そうかもしれないな。だが、もう決めたことだ。」

 

「勝算はあるの?」

 

「無いな。負ける未来しか見えない。」

 

「じゃあ、意味は無いんじゃない?」

 

「言っただろ、自己満足だって。ま、顔に一本ぐらいは切り傷付けてやるさ。」

 

 そういうと、蛍は少し悲しそうにした。

 

「どうしてもやるの?」

 

「ああ。俺の意思は、二年前からずっと変わらない。」

 

「それって、私に似てるって言ってた子?」

 

「ああ。それともう3人な。ほんとに、なんで殺されないといけないんだってくらいいいヤツらだった。彼奴らが、神の目を持っていたばっかりに!」

 

 そういうと、蛍は驚く。

 

「もしかして、復讐って雷電将軍に…?」

 

 失言だった。普段ならこんなヘマはやらかさないんだが、どうやら蛍の姿を見て気が立ってしまったらしい。

 

「さすがにそこまで無謀じゃねぇよ。」

 

 とっさに嘘をつくが、ごまかせたとは全く思わない。

 

「じゃあ、一体誰に『これ以上口を挟まないでくれ。』……分かった。」

 

「まだ夜明けまで時間はある。もっかい寝とけ。」

 

 寝ることを進言すると、蛍は俯いたまま家の中に入っていった。その表情は喧嘩した時の美波に似ていて、酷く心地が悪かった。

 

 

 

 

 過去に一度だけ、美波と大喧嘩をしたことがある。きっかけは些細なことであったのは確かだが、細かい部分は覚えていない。

 

「龍牙のわからずや!」

 

「それは美波の方だろ!」

 

 翔馬、創平、雪華が必死に仲裁してくれていたのをよく覚えている。翔馬はともかくとして、普段は顔色を変えない創平と雪華が仲直りさせようと躍起になっていたのは珍しくて、あの時の二人の必死な顔は今でもよく覚えている。

 

 

「……また思い出しちまった。」

 

 嫌な記憶ではない。あの喧嘩があったから俺たちは今まで以上に親密になったので、むしろいい思い出だ。

 

 だけど、思い出したくはない。思い出せば、どうしようもなく胸が苦しくなるから。

 

 きっと俺が復讐を掲げたのも、早く死んで、アイツらと同じ場所に行きたいという隠れた願望があるからなのかもしれない。

 

 細かいことは気にしない。気にしようとも思わない。こんな思考に至ってもなんの意味もない。ただ復讐するだけだ。

 

 

 

 

 

 蛍たちが家を出てから一週間近く経った。蛍の表情は暗いままでパイモンに心配されていた。

 

 そろそろ、潮時かもな。花火が終わった後の星空を眺めてそう考える。今日見た花火は、一年に一度打ち上げられる、いつの日かに彼奴らと見た思い出の花火だ。思い出は振り返らないようにしていたが、花火だけは欠かさずに見た。思い出は思い出したくないけど、忘れたくもない。死ぬ前に、いい人生だったと思うために。

 

 今日がこの星空を見る最後の日だと思うと、あの日から感じることのなかった眠気が訪れた。最後ぐらい、ゆっくり寝て見るか。そう思って、2年ぶりに布団に入った。洗濯は欠かさずしていたので、埃っぽいということもない。

 

 

 

 どうか、懐かしい思い出を見られますように。

 

 

 

 

「すっげぇ!やっぱり花火って派手だよなぁ!」

 

 一発目の花火を見た翔馬がはしゃぐ。あの日は、今日と同じ一年に一度の祭りの日、5人で並んで花火を眺めていた。まだ小さかった俺たちにとってその花火は圧巻だった。

 

「あの花火を見ていると、テイワットってとても広いと思わない?」

 

 花火に見とれていると、横から美波の声がした。

 

「そうですね。テイワットは稲妻だけじゃなく、まだほかの国もありますからね。僕らにとってはとても大きな花火でも、世界から見たらとても小さなものでしょう。」

 

 そう返したのは創平だ。理知的で、俺たちと話すときもいつだって敬語だった。

 

「ねぇ、いつか大きくなったらさ、5人で世界を回ってみたいと思わない?」

 

 終盤に差し掛かるに当たりだんだんと派手になってきた花火を見ながら美波が俺たちに問いかける。

 

「アンタはいつも急だね。ま、もう慣れたけど。」

 

 創平とは別のベクトルで子供っ気のないのが雪華だった。

 

「面白そうじゃねぇか!今から楽しみだぜ!」

 

「なぜ行くことが決定しているんですか!僕らはまだ返事をしてませんよ!」

 

「じゃあ行かねぇのか?」

 

「そ、そうは言ってません!僕も行きますよ!」

 

「アタイも当然行くよ。他の国も拝んでみたいからね。龍牙も行くだろう?」

 

「ああ、もちろん!置いてけぼりなんて絶対嫌だね!」

 

「じゃあ決定だね!みんな、手を出して!」

 

 そう言って、美波は手を握って前に出す。俺たちもそれに倣って前に出した。

 

「大きくなったら、5人で世界の景色を全部見るぞ~!」

 

「おう!」「ええ!」「ああ!」「うん!」

 

 返事は統一感が全くなく全員バラバラだった。だけど、これでいい。これが俺たちだから。

 

 

 

 

 

 

「……懐かしいな。」

 

 懐かしい夢を見た。今となっては叶わない誓いを立てた日の夢だ。最後にぴったりの、本当に大事な思い出だ。

 

 行こう。

 

 いつもの服を着て、家を出る。いつもと違うのは、腰に4つの神の目をぶら下げていることと、もう二度とこの家に戻ってこないことだけだ。

 

 

 

 稲妻城の天守閣の前の像あたりについたが、城門前には雷電将軍と蛍、そしてその仲間がいた。様子を見ていると、雷電将軍が抜いていた刀を納めていた。おかしい。雷電将軍に歯向かったものはもれなく処刑されるはずだ。

 

 話に聞き耳を立てるも、距離があり正確には聞き取れなかった。しかし、俺の心を砕くかのような言葉だけははっきりと聞こえた。

 

 

「目狩り令を、廃止だと……?」

 

 冷静でない自分でもわかるぐらいにドスの利いた声がでた。

 

「龍牙……。」

 

 雷電将軍の前に立っていた蛍がどうしたらいいか分からないというような顔でこちらを見る。

 

「あ、龍牙じゃないか!……っ!」

 

 パイモンはこちらを見て元気に声をかけるが、すぐに言葉に詰まる。

 

「その腰の神の目って……」

 

「パイモン。これはどういう状況なんだ?」

 

 冷静に努めようとするが、やはり無理なようで声音は全く変わらなかった。

 

「蛍がファデュイとの御前試合に勝って、それから一心浄土でも頑張って、目狩り令は良くないって雷電将軍に思い直させたんだ。」

 

 その現実に、心の中がどす黒く染まっていくのを感じる。

 

「雷電将軍。それは本当のことなのか?」

 

 雷電将軍に問い詰める。嘘であってほしかった。もし嘘ではないのなら……、目狩り令に意味はなかったというのなら……

 

「ええ、その通りです。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうして彼奴らは死ななきゃならなかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その一言を聞いて、もう自分を押さえることはできなかった。刀を抜き、自分の最速で雷電将軍に切りかかる。その一撃は、雷電将軍が構えた草薙の稲光とぶつかり火花を散らす。

 

「お、おい!どうしたんだよ龍牙!いきなり将軍に切りかかるなんて!」

 

 切りかかったのはほぼ衝動的だ。でも、後付けの理由は直ぐに頭に浮かんだ。

 

「目狩り令を中止にするってことはよぉ……。獲った神の目は持ち主に返すってことでいいんだよなぁ?」

 

「なぜ、貴方はいきなり切りかかってきたのですか?」

 

「俺の質問が先だ。答えろよ。」

 

「将軍に対してその態度!ただで済むと「お前は黙ってろ、天領奉行。」っ!」

 

 殺気を飛ばし、しゃしゃり出てきた天領奉行を黙らせる。

 

「ええ、その理解であっています。神の目は持ち主に返還します。」

 

「ならば、目狩り令によって奪われた命も、返してくれんのか?」

 

 その一言に、その場の全員が押し黙った。奪った神の目は返すができる。しかし、一度奪われた命は二度と戻ってこない。

 

「4人……、4人だ!てめぇらが奪った俺の大切な人は!てめぇらからしたら大した命じゃなかったのかもしれねぇけどよぉ……、神の目の価値にすら劣るような命だったのかもしれねぇけどよぉ!俺にとってはかけがえのねぇ大事な命だった!守ると誓ったものだった!それをてめぇらが奪ったんだ!だから俺は、必ず、必ずだ!てめぇを殺す!」

 

 そう言い放ち、再度刀を構える。ここから先に、言葉はいらない。

 

「将軍様、加勢いたします。」

 

 そう言った天領奉行を雷電将軍は止める。

 

「いいえ。手は出さないでください。これは、私と彼の問題です。龍牙といいましたね。あなたにも、目狩り令のせいで殺めてしまった方にも謝罪する気持ちもあります。贖罪する気持ちもあります。しかし、殺されるわけにはいかない。稲妻を統治するものとして、なにより、永遠を求めるものとして。」

 

 そう口にして、雷電将軍も草薙の稲光を構える。

 

 周りで見ている者たちは、勝負は一瞬で決まると思っていた。ただ1人、蛍を除いて。

 

 剣のやり取りは、常に雷電将軍に軍配が上がり、龍牙は防戦一方だった。しかし、龍牙は倒れなかった。切り傷こそ無数についているが、致命的な攻撃だけは捌くか避けるかで防いでいた。そのやり取りは常に一瞬の勝負で、蛍をはじめ、その場にいた実力者たちは視認できたものの、それ以外の者は戦っている二人の動きさえ見ることは叶わなかった。

 

 

 

 

「ただの小童と思うておったが、存外やるものじゃのう。一体何年刀を振り続けてきたのやら……。」

 

 二人の剣戟を見ている八重神子は、何年振りかの驚きを感じていた。しかし、すぐに残念そうな表情に変わる。

 

「それゆえに、惜しいのう。ここまでの願いをなすための執着心は見たことがない。じゃが、それを成すための才が、少しばかり足らんかったようじゃ……。」

 

 次に八重神子が見たのは、龍牙の腹が深く切られるところだった。

 

 

 

 

 

 時はほんの少しばかり遡り、2人は刀を振るっていた。龍牙はボロボロだったが、動きと反応速度は落ちる事無く、雷電将軍が攻めあぐねているのも事実であった。

 

(これは、評価を改めねばなりませんね。)

 

 雷電将軍は剣戟を始める前は、そこらの有象無象と何ら変わりはないと思っていた。しかし、無双の一太刀を使っていないとはいえ、ここまで刀のやり取りが続いたことは一度もなかった。龍牙に対して申し訳のない気持ちもあり、無双の一太刀の使用を避けていたが、そうも言っていられない。

 

 確実に勝負を決めるため、雷電将軍は、わざと体勢を一瞬崩した。刀の道を進むものならばかろうじて捉えられる一瞬の隙を作った。これは、ずば抜けた刀の才を持つものならば見抜くことができる罠だった。その罠を、龍牙が見抜くことはできなかった。

 

 気づいた時には遅く、罠にかかった龍牙に無双の一太刀が襲い掛かる。何とか刀を戻し、首への一閃は防いだものの、無数に襲い掛かる斬撃を全て防ぐことはできなかった。

 

 しかし、腹を裂かれてなお、龍牙は立っていた。常人なら既に死んでいるのが普通といえる出血量にも関わらずだ。

 

「なぜ、立っていられるのですか?既に死んでいてもおかしくないはず……。」

 

 龍牙は嗤って答える。

 

「まだ、顔に傷ひとつ付けられてないからな。」

 

 雷電将軍は龍牙の命を刈り取るために、雷の斬撃を三つ放つ。しかし、その斬撃は龍牙でさえも予測しない形で防がれた。

 

 

 

 龍牙の腰の神の目が一つ光る。その中央には、極寒を象徴する氷の結晶が浮かんでいた。

 

 

 龍牙の前に氷の壁が出現し、斬撃をかき消す。

 

 

 アンタだけは、絶対に死なせないよ。

 

 

 懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 龍牙の腰の神の目が一つ光る。その中央には、灼熱を象徴する紅蓮の炎が浮かんでいた。

 

 

 出現した炎の息吹が斬撃を焼き尽くす。

 

 

 ぜってぇに龍牙を守る!こっちに来るのはまだはえぇよ!

 

 

 懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 龍牙の腰の神の目が一つ光る。その中央には、不動を象徴する堅固なる岩石が浮かんでいた。

 

 

 体に纏われたシールドが斬撃から身を守る。

 

 

 生きている龍牙君には、僕らの夢を叶えてもらわねばなりません。

 

 

 懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 龍牙の腰の神の目が一つ光る。その中央には、癒しを象徴する清き水流が浮かんでいた。

 

 

 体になじんだ水が腹の傷をみるみる塞いでいく。

 

 

 私たちで約束したでしょ?この広い世界を探検するって!

 

 

 懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 土産話、楽しみにしてる!

 

 

 

 

 

 それを最後に神の目の光は消え、四つの懐かしい声、気配は消えてしまった。

 

 

 

 

 ああ、久しぶりに声を聴いたなぁ。まだたった二年なのに、何十年ぶりかのような懐かしさだ。涙が溢れて止まらない。

 

 そうだよな。彼奴らなら、絶対にこっちへ来いなんて言わない。立場が逆だったとしても、俺は彼奴らに生きろと言う。もう死のうとは思わない。

 

 復讐心はあいつらのおかげでもう消えた。2年間ずっと抱え続けてきた荷物を、あいつらが代わりに背負ってくれたように。だけど、この刀を振るう理由はまだある。切られたところはまだ痛い。だが、不思議と勇気が湧いてきた。生きて、一太刀入れてやる。勝ち目はまるでないのに、不思議とできる気がした。

 

 

 龍牙の腰の神の目が一つ光る。その中央には、閃光を象徴する白き雷が浮かんでいた。

 

 

 雷を纏い、再び雷電将軍へと切りかかる。外から見ていたものは、その一瞬に白い雷が横切ったと口にした。一撃目と同じ構図で、雷電将軍はそれを防いでいた。先ほどと違うことは、その一閃を受けた雷電将軍がその勢いに負け、ほんの数センチばかり後ずさっていたことだ。

 

「質問を変えます。なぜあなたはボロボロになってまで刀を振るうことができるのですか?」

 

 一瞬の判断の間違いが命取りとなるやり取りの中で、雷電将軍は龍牙に尋ねる。

 

「そうだな……。強いて言うなら、生きるため、だな。」

 

 その回答に雷電将軍は笑みを漏らす。

 

「何笑ってんだよ。余裕かよ。」

 

「いえ、余裕は全くありません。神の目の有る無しに関わらず先ほどより気迫も太刀筋も別物です。憑き物が落ちたかのように。」

 

 雷電将軍は続けて言う。

 

「私に復讐しようとするあなたに抱くにはいささか不謹慎ですが、私はこのやり取りに心を躍らせているのです。それこそ、永遠に続いてほしいと思えるほどに。」

 

 雷電将軍は変わらずに笑みを浮かべながらも刀を振る手を休めない。

 

「だが、永遠に続く戦いなんてこの世に存在しねぇな。俺が将軍を叩き伏せて終幕だ。」

 

 雷電将軍に負けじとニヒルな笑みを浮かべて応戦する。

 

「ふふ、面白い冗談ですね。勝つのは私です。」

 

 そこにはもう、暗い感情や過去の僻みは無かった。神と人間という分別もなく、ただ二人の武人が己の勝利を信じて刀を振るう光景がそこにあった。

 

 互いの攻撃が加速していく。もはや二人に先ほどまでの余裕はなかった。雷電将軍の先ほどの発言も比喩表現ではなく、龍牙はあれから未だに傷ひとつ負っていない。しかし、この戦いも間もなく終幕を迎えることを二人は悟っていた。

 

 神と人間とでは、身体能力の性能があまりに違いすぎた。雷電将軍はたとえ何百年であろうと戦い続けることができる。しかし龍牙はただの人間。本来であればここまで追いすがることすら不可能である領域にいる。そのことを龍牙は嫌というほどに理解していた。それこそ、復讐を決めたその日からずっと。

 

 しかし、だからこその一手を使う。先ほど雷電将軍が龍牙に一撃与えるために使用した一手。龍牙は刀を弾かれ体勢を崩す。もはやそれはブラフではなかった。誰の目から見ても、それこそ、神である雷電将軍から見てもあからさまに分かる、疑いようのない隙。

 

 雷電将軍は迷うことなくそこへ斬撃を叩きこむ。

 

 

「この戦いの間に、何があったんじゃ……?」

 

 雷電将軍の耳にかすかに届いた八重神子の声。それが聞こえたとき、自身の渾身の一太刀は空を切っていた。反射などではない。第六感としか言いようのない感覚で、雷電将軍は後ろへ大きく跳ぶ。頬に、痛みとも呼ぶことのできない、かすかな違和感があった。触れてみると、そこには浅く、しかし確かな一本の切り傷があった。

 

 視線を戻し、龍牙を見ると、居合による一閃だとわかる。同時に、それが龍牙の出せる最後の一撃であることも。

 

「なるほど。あなたの体力の限界からきた疑いようのない隙に対し、私が一瞬油断した瞬間に後ろへと跳び、居合切りを当てて見せたのですか……。」

 

 雷電将軍は冷静に先ほどの状況を分析する。

 

「確かに、切ったと思ったんだがな……。」

 

 息も絶え絶えに龍牙はそう口にする。

 

「だが確かに、あんたのご尊顔に傷一本入れてやったぜ……。」

 

「ええ、見事です。ここまでの強者に出会えたのは、今日が初めてだと言えるでしょう。」

 

 雷電将軍は続けて言う。

 

「貴方、私の傍付きを務める気はありませんか?」

 

 その一言に、周りはひどく驚いた。今まで将軍は、傍に誰一人として置こうとはしなかった。しかし、今日であったばかりの人間にそれを問うたのだ。

 

「悪いが、それはごめん被る。成さなきゃならん幼い日の夢を思い出したんだ。」

 

「それは、貴方の腰についている神の目を持っていた人物との夢ですか?」

 

 その質問にそうだと答える。

 

「そうですか……。ならば仕方がありませんね。」

 

 そう言って、草薙の稲光を自身の胸へとしまう。

 

 それを見て龍牙は、地面へと倒れ伏した。

 

 

 

 

 

 これは、龍牙が倒れた後のこと。

 

 

「龍牙に、船を一隻用意してください。」

 

 雷電将軍は自身の部下に命令する。

 

「いいのですか将軍様!あの者は将軍様にあろうことか刀を向けたのですよ!即刻処刑するべきです!」

 

 天領奉行の者の言うことはもっともであった。いままで将軍は、自身に刃を向けたものは生かして返すことは無かった。

 

「ええ、構いません。これは、私に傷を負わせた彼に対する畏敬の念も込めてのものです。それに、刀を合わせることが、必ずしも殺しあうためのものではないと、今日感じることができましたので。」

 

 ただ殺すために振るのではなく、相手を超えるために刀を振る。雷電将軍は、龍牙と刀を合わせているときの楽しさを振り返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったぞ!まさか龍牙の願いが打倒雷電将軍だとは思わなかったけど、見ててなんかこう、ビリっときとぞ!」

 

 目を覚ました俺の横で、パイモンがひどく抽象的な感想を述べる。

 

「うん、本当にすごかった。最初は死んじゃうかと思ったけど……。」

 

 蛍は俺が死ぬことを危惧していたらしく、目元には若干の涙を浮かべていた。

 

「なにも、会ったばかりの相手に涙を流すことは無いだろう。」

 

「知り合った人には、出会ってから日が経ってなくても死んでほしくないものなの。」

 

 しばらくの沈黙の後、パイモンが口を開く。

 

「なぁ龍牙!龍牙はこれから世界中を旅するつもりなんだろ?よかったらオイラたちと一緒に来ないか?」

 

 パイモンの提案に悩むことなく答える。

 

「悪いな。これからの旅は、俺たち5人の旅なんだ。」

 

 枕元にある5つの神の目を見据えながらそう答える。

 

「そっか……。残念だな。」

 

「確かに残念だけど、旅をしていればいつかまた廻り合えるよ。」

 

 その後もう少しだけ話をして、蛍たちは帰っていった。明日には旅立とう。そう決めて、深い眠りに落ちていった。もう、夢は見ない。これからまた、新しい思い出を作っていくのだから。

 

 

 

 

 

 

「ありがとな、雷電将軍。わざわざ船を用意してくれて。」

 

 離島にある港に停泊している馬鹿でかい船を見て、雷電将軍に礼を言った。

 

「気にしないでください。私に傷をつけたことに対する褒賞のようなものです。」

 

「影よ。それだと傷をつけられたかったかのように聞こえてしまうぞ。」

 

 雷電将軍の隣には、何故か八重神子様もいた。

 

「何故八重神子様もここに?」

 

「影に傷を入れた童を一目見ておきたくてのう。」

 

 そこから少しばかり話に花を咲かせていると、船の方から声が聞こえた。

 

「おーい旦那!いつでも出航できやすぜ!」

 

 その声を聞いて、船の方へと目を向ける。

 

「残念じゃが、この話の続きはまた今度じゃのう。」

 

「ああ。そうだな。そろそろお別れだ。」

 

「次会うときには、龍牙の旅の話を聞かせてください。」

 

「ああ、もちろんだ。」

 

「楽しみにしておるぞ。」

 

 二人に別れの挨拶を済ませて船に乗る。見た目通り船はでかく、蹴鞠も大人数でできそうなぐらいだ。

 

 旅人への別れはいらない。この旅のどこかできっとまた廻り合うから。

 

「さあ。行くか。」

 

 船はどんどん前へと進む。

 

 龍牙の腰に付いた5つの神の目が、潮風になびいて静かに揺れていた。

 

 

 

 

 

 

 


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