角灯の下で乙女らは学ぶ   作:小沼高希

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革命は去り何者かが語る 10

革命混乱期を語る時、「墜ちる灯火」のことを避けることはできない。最も世界を変えた本として、場合によっては聖典や経典以上に評価される書物だ。それはある意味では角灯主義の終結点であり、角灯主義を終わらせたものでもある。

 

では、この本の作者は誰だったのだろうか?多くの同時代の知識人の、あるいは無名の作家の名前が挙げられていたが、その中でもウィルトールという人物は特に可能性の高い人物とされていた。

 

「……で、やることが新大陸での墓荒らしだったわけよ」

 

そう言いながら、一人の女性教授が大学の教室で学生たちに向かって言う。人数は少なかったが、それでも前の方に座っている学生たちの目は映写機が投影する文字をじっと見ていた。

 

「私が見つけ出した遺骨は、蔦の館に残されていた彼の蔵書の中の毛髪、そして彼の末裔と比較された。結果は一致。教会に残された埋葬記録と照らし合わせると、彼はおそらく国民議会の成立を見ずに死んだことになる。その当時は大西海を超えるのは非常に苦労することだったからね」

 

「はい、先生」

 

一人の女学生が手を挙げる。

 

「なんでしょうか」

 

「入出国の記録は残ってなかったのですか?」

 

「革命混乱期に全部焼けてたんだよ、地方の教会の埋葬記録が残っていたのは本当に奇跡と言うしかないし、それがなければ誰もウィルトールと刻まれた墓石を見ても、例の思想家と同じ名前だなとしか考えなかっただろう」

 

教授はそう言って息を吐く。その時に時刻を知らせる鐘の音が教室に響いた。

 

「っと、今日の授業はこれでおしまい。宿題については今週はなしだ。ただし来週の授業の予習はしておいたほうがいいぞ」

 

ほとんどの学生は教授の言葉の前半だけを聞いて喝采を叫んだ。

 

「……あの、教授」

 

先程手を挙げていた女学生が荷物をまとめた教授のそばに立って言う。

 

「なんだい?」

 

「少し質問があります。いいですか?」

 

教授は少しだけ予定を考えてから、首を縦に振った。

 

「……教授は、テレナ・ノイーズ・イルデネという人についてどう思いますか?」

 

学生が、少し緊張しながら口を開く。

 

「ウィルトールの弟子というのが考えにくいぐらい彼と思想が相反していると思うこともあれば、彼の弟子だなと思うほどにある種の理想主義を持っているところもある。正直言って、ウィルトール以上にわけのわからない人物だ」

 

「そう、ですよね」

 

「彼女に興味が?」

 

そう言いながら、教授は最近の若い学生の趣味は奇妙だなということを考えていた。ウィルトールは玄人好みだ。教授がかつて学生だった頃、彼について研究している人は歴史全体を通してみても決して多いわけではなかった。

 

もちろん、「墜ちる灯火」の知名度が低かったわけではない。しかし、その本について詳しく研究する人がどれだけいるかというと話は別だ。革命混乱期の前夜にヴェツァーの「戦争体系論」を読まずに多くの人が角灯主義を語ったように、現代の革命混乱期の研究者であっても「墜ちる灯火」をきちんと読み込んだ人は少ない。

 

「はい。……実は私の故郷はハゼウで」

 

「ハゼウ市。あそこだとテレナ夫人はどう扱われているの?」

 

「……博物館で色々語られるんですが、どうにも歯切れが悪いんですよ。学院時代に彼女が手紙を送ったという間接的な証明はありますけれど、それは筆跡だけ。彼女が代筆人としてアニド卿の手伝いをしていた可能性は高い。とはいえ、シェプルスキア将軍の指導役として彼女と交友はあったようですが」

 

「ああ、地元の英雄にしようにも連邦時代の色々があるのか」

 

「夫を亡くした人物として、その後にできた連邦の内紛を様々な手を使って止めた、とされています。彼女の周囲で倒れた人物についてはあえて触れられずに」

 

「……当時の陰謀とはそういうものよ。未だに統合民主国は『長い手』の存在を否定しているし、学院が革命混乱期に果たした役割についても長らく陰謀扱いされていた。歴史とは誰が語るかによって変わるからこそ、多くの人がそれについて語れるようにしなければならない」

 

「……わかります。けれど、私は故郷で尊敬される私たちのテレナ夫人が、誰かにとって悪役となっていると考えると嫌になります」

 

「そうね。でもそれは必要なことよ」

 

教授も彼女の意見に同意していた。かつての彼女は「墜ちる灯火」の熱心な愛読者であった。火を集めれば力が手に入るのだと無邪気に信じていた。そしてその作者であるとされるウィルトールについて調べるべく、統合民主国の大学で深く学んだ。

 

結果得られたものは、微妙な失望だった。彼は決して理想的な市民の魂を持っている人物ではなかった。語り方によっては貴族に媚び、過激な思想を口先だけで語り、そして家庭教師として育てた娘を騙そうとする人物だった。

 

「……先生の語るウィルトールは、私が故郷で聞いた話とは違いました」

 

「エルンツィンガーの改革者、ですよね?」

 

「はい。そして彼の思想と民を見る姿勢がテレナに受け継がれ、その後の地域の発展に繋がったと」

 

「……確かに私も当時の彼女の改革は丁寧でよくできていると思う。なにせ本人がその改革を記録に残したわけだし、それは後の民庶(テルツ)領域でも参考にされたわけだから」

 

「……でも、きっとそうじゃないんですよね。テレナ夫人はきっと、ウィルトールに失望した。だから彼とは違う、貴族として責任を取る道を選んだ」

 

「あくまで解釈の一つ、よ。もちろん私もそう見たほうがわかりやすい場所があるのはわかる。けれども彼女が全国民会を作ったときに、ウィルトールの思想を理解して、それを実現できる形で導入しようとしたとも捉えられる」

 

「……彼女は、何者だったのでしょうか」

 

「わからないわ。その点シェプルスキアの研究者は楽よね、あの人はかなりわかりやすいから。もちろん複雑だし、よく見れば面白いのだけれども」

 

教授はそう言いながら、同じ革命混乱期を研究する知人たちのことを考えていた。当時には魅力的な人物が多い。そして彼らの思想は、様々な形で現代まで生き残り続けている。

 

「同時代人なのに真逆というか、だからこそ友人として成り立ったのだろうというか……」

 

学生はそう言いながら、歴史を作った人々のことを考えていた。歴史は様々に語られる。ある学者は統合王国の改革は学院の手助けがなくても起こっただろうと語る。また別の学者はウィルトールやテレナ、アニドあるいはシェプルスキアのような英雄なしには歴史が大きく変わっただろうと考える。彼らのうちどちらが正しいのかは、誰にもわかることがなかった。




活動報告にあとがきというか今まで書いて思ったこととかをメモみたいにしておいたので気になった方はどうぞ。

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