ロクでなし魔術講師と氷輪丸   作:洟魔

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大変長らくお待たせ致しました!!!

ここの所仕事が忙しく、プライベートでも色々とショッキングなことが重なりまして執筆する余裕がなかったんです……

なのでこれからも応援して頂けたらと思います……それではどうぞ!!


9話

 

 今日はアルザーノ帝国魔術学院、魔術競技祭、開催当日。

 魔術競技祭は学年次ごとのクラス対抗戦で、年に三度行われる。つまり一年次生、二年次生、三年次生の三つの部があることになる。今回開催されるのは二年次生の部だ。

 そして、今回の二年次生の競技祭のみに限り、女王陛下自らが表彰台に立ち、優勝クラスに勲章を直接下賜するという帝国民ならば誰もが羨むような名誉がある。魔術競技祭に参加する全ての生徒が、そして各クラスの担当講師が、なんとしても優勝したい……そう息巻いているのが今回の二年次生の部の魔術競技祭であったが、ユキトのいる二年次生二組はまさかのクラス生徒全員参加と例を見ない平等出場で色々と噂が流れており誰も期待してなどいなかったが……

 

『そして、さしかかった最終コーナーッ! 二組のロッド君がぁ、ロッド君がぁああ──ぬ、抜いた──ッ!? どういうことだッ!? まさかの二組が、まさかの二組が──これは一体、どういうことだぁあああ─ッ!?』

 

 魔術の拡声音響術式による実況担当者、魔術競技祭実行委員会のアースが実況席で興奮気味の奇声を張り上げている。一位、二位確定の先頭集団はそっちのけで、グレンの担当クラスである二組チームだけを実況し……

 

『そのまま、ゴォオオオル──ッ!? なんとぉおおお!? 「飛行競争」は二組が三位! あの二組が三位だぁ──ッ! 誰が、誰がこの結果を予想したァアアアアア──ッ!?』

 瞬間、洪水のような拍手と大歓声が上がった。

 

(うそーん……)

「先生、そんなあからさまな顔しないでよ」

 

 目を点にして呆然としているグレンにユキトは呆れる。

 

「そもそもペース配分の練習だけをやらせてたのは先生でしょ?」

「そうだけどよ…………ここまでとは……」

「それは、他のクラスに比べてうちのクラスが1つの種目に全力で挑めるからだよ」

 

 全員参加の二組とは違い、他のクラスは成績上位者を使い回しにしている為に次の競技のことも考慮しておかなければならないが、二組にはその必要がない。

 一つの競技のみに集中して行えることが出来る。

 

「何はともあれ勝利は勝利だ。今は喜んでいいと思うよ? …………ところで日に日にやつれていってるけど……ホントにシロッテの枝を?」

「………………聞くな」

 

 グレンは力なくはぐらかす

 

 それからも二組の快進撃は続いていく。

 セシルの『魔術狙撃』、ウェンディの『暗号解読』も好成績を収めて会場も盛り上がっている中で午前の最後の競技──―『精神防御』が始まろうとしていた。

 

「ねぇ、先生……」 

 

 その時、気が気ではなかったシスティーナは、隣でだらしなく腰かけるグレンへ不安そうに声をかけた。

 

「その……今からでも、ルミアを他の子に変えない?」

「はぁ……?」

 

 いかにも、お前何言ってんの? みたいな表情をシスティーナに向けるグレン。

 

「だって、あの子の競技は……」

 

 システィーナは中央のフィールドに目を向ける。そこには次の競技に備えて待機する生徒達の姿があった。出場者は十人、等間隔で円を描くように定位置に並んでいる。その中の一人に、やや緊張した面持ちでたたずむルミアがいる。

 

「『精神防御』……やっぱり、こんな過酷な競技、あの子には無理よ……ッ!」

 

 システィーナは必死にグレンへ訴えかけるが、グレンはどこ吹く風だ。

 

 競技『精神防御』

 精神汚染攻撃への対処法は魔術師の必須技能の一つであり、この競技はその能力を競うためのものである。具体的には精神作用系の呪文を、白魔【マインド・アップ】と呼ばれる自己精神強化の術を用いて耐えるという形で競わされる。そして、少しずつ受ける精神汚染呪文の威力は上がっていき、最終的に正常な精神状態を保って残った者が勝者となる敗者脱落方式の耐久勝負だ。

 

「見てよ! 他のクラスの出場者は皆、男の子じゃない! 女の子はルミアだけよ!?」

 

 システィーナの指摘通り、いかにも精神的にタフそうな男子生徒達が揃い踏みする中、ルミアだけが紅一点だ。

 そのシスティーナに続くようにギイブルも話に加わり、皮肉げな笑いを上げながら言葉を言う。

 

「ははっ……あなたもひどい人だ、先生。でも……ああ、なるほど。彼女は治癒系の白魔術は得意ですが、それ以外はそうでもない……そこそこ、こなしはしますがね。今回、治癒系の呪文が役に立つような競技がない以上、他の戦力温存のために、彼女をここで使うのは実に合理的だ……」

「先生……噓、ですよね? 先生に限って、そんなことするわけないですよね……?」

 

 システィーナが不安げにグレンに呼びかけると……

 

「さっきから聞いてれば……ルミアが捨て石みたいに言ってるね」

 

 不意にユキトがセラと一緒に後ろから現れ、2人に言う。

 

「ユキト……だが君も知っての通り彼女は白魔術は得意だがそれ以外は……」

「そんなこと関係ないよ……ルミアほどこの競技に適した生徒はいないとオレは思うな……フィーベルさんならルミアの心の強さも知ってるんじゃない?」

 

 ギイブルの言うことをぶった切り、ユキトはシスティーナに問いかける。

 

「……ええ、そうね。あの子はこうと決めたら曲げないもの……」

 

 システィーナはその言葉にルミアの性格を思い出したのか肯定する。

 

「だからルミアは絶対に負けないよ……ね? 先生、セラ姉さん」

「ああ、ルミアなら余裕だろ」

「私もルミアちゃんなら大丈夫と思うな!」

 

 ユキトは講師2人に聞き、グレンとセラも心配はしていない様子だった。

 

 そうこうしている内に『精神防御』の競技が始まった。

 

『ではでは、今年もこの方にお出まし願いましょう! はい! 学院の魔術教授、精神作用系魔術の権威! 第六階梯セーデ、ツェスト男爵です!』

「ふっ、紳士淑女の皆さん、御機嫌よう。ツェスト=ル=ノワール男爵です」

 

 伊達姿の中年男性──―ツェストは一礼する。

 

「さて、それでは早速、競技を開始しよう。選手諸君、今年はどこまでこの私の華麗なる魔技に耐えられるかな…………?」

『それでは第一ラウンド、スタート! ツェスト男爵お願いします!』

「それではまず、小手調べに恒例の【スリープ・サウンド】の呪文あたりから始めてみようか…………いくぞ!」

 

 ツェスト男爵の白魔術に生徒達は対抗呪文(カウンター・スペル)として白魔【マインド・アップ】で耐えていくが、何人かは倒れていく。

 

『まぁ、去年の覇者、五組のジャイル君いますからねー、きっと主力温存作戦でしょう。彼の勝利がもう決まっているようなものですから、イマイチ盛り上がりも欠けますしね。というわけで、実況の僕としては、紅一点、二組のルミアちゃんがどこまで残れるか……これが見所だと思うんですけど、どうです? 男爵?』

「ふっ、そうだな。可憐な少女がどこまで私の精神操作呪文に耐えてくれるか、いたいけな少女の心をどのように汚染し尽くしてやるか、実に楽しみだ……ふひ、ふひひ……」

 

 男爵が気持ち悪い薄ら笑いを浮かべながら、ルミアを一瞥する。流石のルミアも、これには脂汗を垂らして思わず一歩引いていた。

 

『うわぁ……ここで男爵、まさかの嫌な性癖大暴露……ていうか、男爵ってまさかそういう変態的な人だったんですか?』

「何を言うか、私は断じて変態ではないッ! 私はただ、喪心しちゃったり、心が病んじゃったり、混乱しちゃったり、恐慌を起こしちゃったりした女の子の姿に、魂が打ち震えるような興奮を覚えるだけだッ!」

『変態だァアアアアアアアアア────ッ!?』

 

 

「…………《開け》」

「ユ、ユキ君? 刀なんか出して何を……ちょっ! ダメだって!? 気持ちは分かるけど落ち着いて!!」

「おい! ユキト落ち着けって!!」

 

 二組の応援席ではユキトがセラ、グレンの2人がかりで押さえられていた。

 

「2人とも離して、大丈夫! あいつ斬るだけだから」

「それを待てって言ってんだよ!?」

「ユキ君ダメだって!!」

 

 ユキトは完全に冷静さを失っており、今にも男爵に斬りかかりそうだった。

 

 

 

 そんな事が起きている間にも競技は進められており、残りはルミアと5組のジャイルの2人になっていた。そして遂に【マインド・ブレイク】が使われるところまで進んでおり、洪水のような拍手が鳴り響く。

 そんな中ジャイルがルミアに声をかける。

 

「ふん。お前……女のくせにやるじゃねえか。ここまで気合い入ってるやつは野郎でも、めったにいやしねえ」

「そ、そうかな?」

「へっ。だが、そろそろきついんじゃねえか? 脂汗浮いてるぜ?」

「あ、あはは……わかる? うん、実は結構、きついかも……今も一瞬、くらっとしちゃったし……」

「棄権したらどうだ? 三日昏睡は嫌だろ?」

「心配してくれてありがとう、ジャイル君。でも……だめ。私だって負けるわけにはいかないんだ」

 

 そう言ってルミアはチラリと、応援席で今にも飛び出して来そうなユキトを見て笑みを浮かべる。

 

「せっかく見てくれるならいいとこ見せたいから」ボソ

 

 ルミアはジャイルに自分の思いを伝えるが、最後の方はルミア自身無意識で呟いてしまっていた。当然、隣にいたジャイルにもその呟きはバッチリと聞こえているため……

 

「……フッ……なるほど男か?」

「えっ……!? ……もしかして今のって……」

「全部聞こえてたぜ?」

「っっっ!!!! ////」

 

 まさか無意識の内に呟いた恥ずかしい言葉を聞かれてたとは思わずルミアは顔を真っ赤にして固まってしまう。

 だが、そんなやり取りの中でも試合は進んでいく。

 第二十九、第三十ラウンドと続いていき、迎える第三十一ラウンド──

 

『ああ──ッとぉおおお!? ここでルミアちゃんがよろめいたぁあああ──ッ!?』

 

 初期と比べてかなり威力が上がった【マインド・ブラスト】の呪文によって、喪心を引き起こす金属音が辺りに一際強く、鳴り響いた瞬間。

 とうとう、【マインド・アップ】の守りを貫通したのだろうか。

 ぐらりとルミアの体が傾いでいた。

 

「……ッ!」

 

 バランスを崩したルミアは、がくりと片膝を折って無言でうつむいている。

 

『一方、ジャイル君はまったく動じず仁王立ちしたまま! こ、これは流石に決まったかぁあああ──ッ!?』

「大丈夫かね、君……ギブアップかね?」

「………………いえ」

 

 少し意識が朦朧としていたらしい。

 返答にラグが数秒あったが、ルミアは頭を振って気丈に顔を上げ、立ち上がった。

 

「……大丈夫です。まだ、行けます!」

 

 力強く言い放つその言葉と目にはまだまだ力が灯っている。

 

『な、なんとぉおおお──ッ!? 続行です、続行──ッ!? まだまだ勝負の行方はわからない──ッ!?』

 

 実況のアナウンスに観客達が総出で大歓声を上げた。

 紅一点だった少女の最後の奮闘に会場のテンションは最高潮だった。ここまで来ると、誰もが見てみたいのだろう──可憐な少女が屈強な男に勝つその光景を。

 

「棄権だ!」

 

 突然、上がったその叫びに、会場が水を打ったように、しん、と静まり返った。

 

「……え? 先生?」

 

 その声に、ルミアが振り返る。

 そこには、いつの間にかやって来たグレンが立っていた。

 

『え、えーと? 今、なんておっしゃいましたか? 二組の担当講師グレン先生……』

「棄権だ、棄権。二組は第三十一ラウンドクリア時点で棄権だ。何度も言わせんな」

 

 微妙な沈黙が競技場全体に流れていく。

 

『な、なんと……二組ルミアちゃん、棄権……これはまた、あっけない幕切れ……』 

 

 実況が残念そうに呟いた、次の瞬間。

 ふざけんな、最後まで勝負させてあげろ、ひっこめ馬鹿講師! 嵐のような大ブーイングが観客席から巻き起こった。

 すると突然空に爆発が起こり、辺りは静まる。

 観客たちが下を見るとそこには腕を上に上げた状態で中央に立っているユキトの姿があり、いやでもさっきの爆発がユキトの仕業だと悟る。

 そんなユキトは実況をしている生徒に近づくとマイクを奪って口に近づける。

 

『え……!? あ、ちょっ! ……』

『注目〜!』

 

 マイクから放たれた間の抜けた声は会場の静けさも相まってよく響き、皆の注目を集める。

 

『うん、よろしい。さて皆さん。初めに言っておきますが勝負はこれで終わりなので関係ないうるさいだけの外野は黙っててくださいね?』

「ちょっ!? ユキト!! そんな事言ったら!?」

 

 ユキトの言葉にシスティーナが慌てるがもう遅い。

 会場ではさっき以上のブーイングがユキトに向かって飛び交っていた。その光景にシスティーナとルミアは慌てていたが、当のユキトは落ち着いた様子で再びマイクを口元に近づけ声を響かせる。

 

『それと! 皆さん勘違いしてるみたいだから言っておきますがこの勝負……ルミアの勝ちです。その証拠にへんた……ンン! ツェスト男爵。ジャイルを見てみてください』

 

 その言葉に皆が混乱する中、指名されたツェスト男爵は見事に仁王立ちしているジャイルの元へ行き、顔を覗き込んだ瞬間、ツェスト男爵の顔色が変わる。

 

「こ、これは!?」

「どうしたんですか? 男爵?」

 

 その様子を不思議に思った、ユキトにマイクを奪われた実況の生徒が声をかけると……

 

「じゃ、ジャイル君は……た、立ったまま気絶している」

「…………は??」

 

 その事実に2人が呆然としているとマイクを持ったユキトが近づいていく。

 

「ね? 言ったでしょ? さぁ、この勝負の勝者の名前を言わないと」

 

 そう言うとユキトは実況の生徒にマイクを返す。

 実況の生徒は数瞬の間固まるが、理解が追いつくと高らかに勝者の名前を叫ぶ。

 

『……な、なんとぉおおおお──ッ!? なんというどんでん返し! この勝負を制したのは紅一点、二組のルミアちゃんだったぁああああ──ッ!?』 

 

 再び爆音のような大歓声が渦巻いた。

 

 そんな中、ユキトはルミアに近づくと声をかける。

 

「お疲れ様ルミア。おめでとう」

「うん! ありがとう! ユキト君!」

 

 ルミアは嬉しそうに笑うのだった。

 それは何一つ曇りも憂いもない、花のような笑顔だった。

 

 

 






ストックが無いのでまたしばらくは執筆に時間がかかりそうです……
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