FAIRY TAIL 才禍の怪物 作:XAI
いよいよ雪が降り始め、年末が近づいてきた頃。
妖精の尻尾のギルドは、いつにも増して騒がしかった。
アルはカウンター席に腰掛けながら、街の人から貰った菓子を静かに口へ運んでいる。
隣では、ルーシィがミラへ困ったように話しかけていた。
「……というわけなのよ。ミラさん……
カナってば理由も言わないし、もうどうなってるんだか」
するとミラは、慣れているようにくすりと笑う。
「大丈夫よ。この時期になると、カナはいつもそうやって言い出すの」
アルも菓子を食べながら小さく口を開いた。
「カナか……
今年こそ合格するといいんだが」
「え!? 合格って何のこと?
ていうか、この時期って?」
ルーシィが首を傾げた、その時だった。
「仕事仕事ーー!!」
「アイサー!!」
ナツとハッピーがクエストボードから依頼書を引き抜き、そのまま勢いよく飛び出していく。
「あ、仕事なら私も――」
ルーシィが慌てて追いかけようとするが、
「悪い! この時期は一人で行くんだ!」
ナツはそう言い残し、そのまま行ってしまった。
「えぇぇ……?」
訳が分からず固まるルーシィ。
だが、それで終わりではなかった。
「ただいま!」
「お帰り、グレイ。服は?」
「それどころじゃねぇ。次の仕事これだ」
グレイは依頼書をカウンターへ置く。
「はい、いってらっしゃい」
「姉ちゃん! 俺はこの仕事行ってくる!」
「はい、行ってらっしゃい」
「仕事仕事ー!」
「僕はこれ行くから!」
「私はこの仕事ね」
「おいてめぇ! それは俺が先に取ったもんだ!」
「早いもの勝ちだ」
次々と依頼書が飛び交う。
ギルドメンバー達は我先にと仕事を受注していき、カウンター前はあっという間に人で溢れ返った。
「ちょ、ちょっと待ってぇ!?」
ルーシィが混乱する中、ミラは慣れた様子で依頼を捌いていく。
しかし、さすがに人数が多い。
依頼書が山のように積み上がっていく。
するとアルは立ち上がり、ミラの隣へ移動した。
「お前ら、オレも受付してやるからこっちに来い」
「お、兄貴助かる!」
「アルさんの方行けー!」
半分ほどの人数が一気にアル側へ流れる。
アルは慣れた手つきで依頼書を確認しながら、次々と処理していく。
「これは許可済みだ」
「お前、その依頼は前金必要だから忘れるな」
アルは淡々と処理を続けていた。
その様子を見ながら、ルーシィは呆然と呟く。
「な、何なのこの空気……?」
やがて騒ぎも少しずつ落ち着き、ギルド内はいつもの喧騒へ戻っていった。
アルは再びカウンター席へ腰を下ろす。
隣ではミラがジョッキを布で磨きながら、小さく笑った。
「アル、ありがとう。助かったわ」
「流石に多かったからな……
まぁ、アイツらも必死だから仕方ないが」
アルはそう言いながら、残っていた菓子を一つ摘まむ。
するとルーシィが不思議そうに尋ねた。
「あの、アルさんは仕事に行かないんですか?」
「ああ、行く必要が無いからな」
「え?」
ルーシィが首を傾げる。
アルは軽く周囲へ視線を向けた。
「オレ以外にも、のんびりしてる奴らはいるぞ?」
その視線の先。
ウェンディ、リサーナ、シャルルの三人は、テーブル席で楽しそうに話している。
少し離れた場所では、マカオ達が酒を飲みながら談笑していた。
さらに奥では。
ガキィン!!
エルザとリリーが真剣な表情で剣を打ち合わせている。
「ほらそこだリリー! もっと踏み込め!」
「言われなくても分かっている!」
その横で、ガジルは腕を組みながら自慢げに鼻を鳴らしていた。
「ギヒヒ、どうだ。俺の猫は」
他にも、普段通りに過ごしているメンバーは意外と多い。
そんな光景を見回しながら、ルーシィは困惑したように呟く。
「なんか、せかせか仕事する人もいれば……
アルさんみたいにいつも通り過ごしてる人もいて、何が何だか……」
するとミラが、どこか楽しそうに微笑んだ。
「明日になれば分かるわ」
アルも小さく頷く。
「ああ、明日にな」
翌日。
妖精の尻尾のギルドでは、いつもとは違う熱気が漂っていた。
アルはギルド奥のステージ裏で壁にもたれながら、静かに待機している。
隣にはマカロフ。
さらにミラ、エルザ、ギルダーツといったS級魔導士達も揃っていた。
幕の向こう側からは、ギルドメンバー達のざわめきが聞こえてくる。
「まだかよ〜!」
「今年は誰だ!?」
「早く発表しろー!」
今か今かと待ちきれない様子だ。
その熱気が幕越しにも伝わってきて、アルは小さく笑みを浮かべた。
「相変わらず騒がしいな」
「毎年こんなものじゃ」
マカロフが楽しそうに髭を撫でる。
やがて。
ドンッ! ドンッ! ドドンッ!!
ドラムの音が響き始めた。
それに合わせ、ギルド内のざわめきがさらに大きくなる。
そして――
ゆっくりと幕が上がった。
視界いっぱいに、ギルドメンバー達の顔が広がる。
「マスター! 待ってました!!」
「早く発表してくれー!!」
「今年こそ俺だ!!」
あちこちから声が飛び交う。
マカロフは一歩前へ出ると、喉を軽く鳴らした。
「んん……
妖精の尻尾古くからのしきたりにより……
これよりS級魔導士昇格試験、出場者を発表する!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉーーーーー!!!!」」」
一瞬でギルド内が爆発したように盛り上がる。
机を叩く音。
歓声。
口笛。
酒瓶を掲げる者までいる。
「皆、静かにしろ」
「マスターの話の途中だろう」
エルザとギルダーツの一言で、騒ぎは少し落ち着く。
マカロフは満足そうに頷くと、再び口を開いた。
「今年の試験会場は――天狼島。
我がギルドの聖地じゃ!」
ギルド内の空気が変わる。
皆の表情が真剣になった。
「各々の力……心……魂。
わしはこの一年、それらを見極めてきた」
そして。
「参加者は八名!!」
マカロフが名を呼ぶ
「ナツ・ドラグニル!!」
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!」
ナツが拳を突き上げる。
「やったね! ナツ!」
ハッピーも大喜びだ。
「グレイ・フルバスター!」
「やっとこの時が来たか……」
グレイがニヤリと笑う。
「ジュビア・ロクサー!」
「えっ!? ジュビアが……!?」
本人が一番驚いていた。
「エルフマン!」
「漢たるものS級になるべし!!」
「頑張って、エルフ兄ちゃん!」
リサーナが笑顔で手を振る。
「カナ・アルベローナ!」
「……」
カナは静かに俯く。
「フリード・ジャスティーン!」
「ラクサスの跡を継ぐのは……」
フリードが静かに目を閉じる。
「レヴィ・マクガーデン!」
「私もとうとう……っ!」
「レヴィが来たー!」
シャドウギアの二人が大騒ぎする。
「メスト・グライダー!」
「メストだ!」
「昨年は惜しかったよなぁ」
ギルド内が再びざわつく。
そしてマカロフは締めくくるように言った。
「今回は、この中から合格者を一名だけとする。
試験は一週間後。
各自、体調を整えておけ」
発表が終わると同時に、ギルド内は再び大騒ぎになった。
「本命はフリードか?」
「いや、メストだろ」
「ナツやグレイもいるぞ!」
誰が合格するのか。
皆が好き勝手に予想を始める。
そんな中、マカロフが口を開く。
「初めての者もおるからの……ルールを説明しておく」
すると今度はミラが一歩前へ出る。
「選ばれた八人のみんなは、準備期間の一週間以内にパートナーを一人決めてください」
「パートナー?」
ルーシィが首を傾げる。
続いてエルザが腕を組みながら説明を引き継いだ。
「パートナー選択のルールは二つ。
一つ、妖精の尻尾のメンバーであること」
そして。
「二つ。S級魔導士はパートナーにできない」
「なるほどね……」
「エルザさんと組んだら最強だもんね」
出場者達の表情が少し引き締まる。
マカロフは満足そうに頷いた。
「試験内容の詳細は、天狼島へ着いてから発表する。
……が」
一瞬、間を置く。
「今回もエルザが貴様らの道を塞ぐ」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
途端にギルド内へ悲鳴のような声が響いた。
エルザは腕を組んだまま笑みを浮かべている。
すると今度は、ミラがにこりと微笑みながら手を挙げた。
「今回は、私もみんなの邪魔する係やりまーす♪」
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
さらに絶叫。
グレイなんかは既に顔が引き攣っている。
「ミラさんまで!?」
「終わったぁぁ……!」
そんな悲鳴を聞きながら、ギルダーツが豪快に笑った。
「ブーブー言うなぁ。
S級魔導士になる奴は、みんな通ってきた道だ」
その一言で。
ギルド内の空気が、一瞬止まった。
「ちょ、ちょっと待てよ……」
「……ということは……」
「ギルダーツも参加すんのか!?」
「嬉しがるな!!」
動揺する出場者達。
だがナツだけは目を輝かせていた。
「マジか!! ギルダーツと戦えんのか!!」
「アンタだけよ! 喜んでんの!!」
ルーシィが即座にツッコむ。
そして。
「お、おい……」
「まさかこの流れは……」
皆の視線が、ステージ最後方へ向いた。
そこには。
腕を組みながら壁にもたれているアルの姿。
視線を向けられたアルは、静かに笑みを浮かべる。
その穏やかな表情に、出場者達は少しだけ安堵した。
……が。
「ああ、当然オレも参加だ」
現実は残酷だった。
一瞬で空気が凍る。
「「「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」」」
ギルド内に絶望の叫びが響き渡った。
エルフマンは膝をつき、
「兄貴が相手とか無理だぁ……」
グレイも机へ突っ伏す。
「終わった……」
一方ナツだけは。
「おっしゃぁぁぁぁ!!!
全部ぶっ倒してS級になってやる!!」
「だからお前は何で嬉しそうなんだよ!!」
再び総ツッコミが飛んだ。
「選出されたメンバーの八名とパートナーは、一週間後にハルジオン港へ集合じゃ。以上!!」
マカロフがそう締めくくり、選出メンバー発表はこれにて終了となった。
その後、選出されたメンバー達は、それぞれパートナー選びへ動き始めた。
ナツは迷うことなく相棒であるハッピーを選択する。
グレイは、以前から約束していたロキへ声を掛け、ロキも当然のように了承した。
フリードは同じ雷神衆のビックスローをパートナーに指名。
ジュビアはパートナー探しに悩んでいたが、エドラスで親しくなっていたリサーナの方から立候補し、そのまま決定した。
エルフマンは残っていた雷神衆の紅一点であるエバーグリーンと組むことになる。
レビィにはガジルの方から立候補した。
最初こそレビィは驚いていたが、最終的には受け入れる。
カナは当初、試験そのものを辞退しようとしていた。
しかし、その事情を知ったルーシィが自らパートナーを申し出る。
一方、メストはウェンディへ接触し、自分がミストガンの弟子であると名乗った。
ウェンディもまた、これまで助けられてきた恩を返したいという思いから、その誘いを受け入れる。
こうして八組すべてのパートナーが決定した。
妖精の尻尾S級魔導士昇格試験。
いよいよ、天狼島での試験が始まろうとしていた。
一方その頃。
ナツ達出場メンバーより一足先に、アル、ミラ、エルザ、ギルダーツといったS級魔導士達は、試験会場である天狼島へ向かう船へ乗っていた。
だが、天狼島周辺の海域は特殊だった。
海流の影響により、一年中真夏日並みの気温となっている。
当然、船上にも強烈な熱波が吹き荒れているはずなのだが――
「いや〜、涼しいなぁ〜おい」
「ああ。一時はどうなるかと思ったが……ありがたい」
「ふふ、アルのおかげね♪」
「気にするな」
アル達はむしろ快適そうに過ごしていた。
その理由は、船の甲板中央に置かれている巨大な氷塊にあった。
白く巨大な氷の塊からは絶えず冷気が流れ続け、船全体を冷やしている。
さらに船の周囲には音の結界が張られており、外部から流れ込む熱気を遮断。
加えて、アルが発生させている微風が冷気を循環させていた。
その結果、船内は避暑地のような快適空間と化している。
ちなみに、アルは最初からこれを作るつもりだったわけではない。
原因は、出港直後に遡る。
ハルジオン港を出発し、船が灼熱の海域へ入った時のこと。
「あぁ〜……あちぃ……」
ギルダーツは耐えきれず、羽織っていた黒いマントを脱ぎ捨て、そのまま甲板へ座り込んだ。
「あんまり言うと、オレまで暑くなるだろ……」
アルもいつもの和装の一部を緩めながら、壁へもたれている。
「さすがに暑いな」
「そうね〜」
エルザとミラも、流石に普段着では耐えきれず、水着へ着替えてビーチチェアで休んでいた。
額には汗が浮かんでいる。
すると。
ギルダーツの視線が、じーっと二人へ向き、分かりやすく鼻の下を伸ばしている。
「ほぉ〜……」
だが、ミラをそんな目で見られアルが黙っているはずもなく……
次の瞬間には、アルがギルダーツの目前へ移動していた。
「ぐぉっ!?」
バシィッ!!
容赦ない目潰しが炸裂する。
「見んな」
「痛ぇ!? 何すんだお前!?」
「お前が見るからだ」
その後。
原因そのものを潰すため、アルは巨大な氷塊を作り出し、船へ音の結界を展開。
さらに風を循環させ、現在の快適空間が完成したのである。
そして現在。
ミラはくすくす笑いながらアルを見上げた。
「そんなに私の水着姿、見られたくなかったの?」
アルは少しだけ視線を逸らす。
「……悪いか?」
「ふふ」
「お前がグラビアとして雑誌に載る事は我慢出来るが……
あれは露骨すぎて我慢できなかった」
その言葉に、ミラは嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ……嫉妬してくれたの? 嬉しい……
じゃあ今度はアルにしか見せないようにしようかしら♪」
ミラは楽しそうに笑いながらアルを見つめる。
アルは何も言わなかった。
だが。
耳だけがほんの少し赤くなっていた。
それに気づいたミラは、さらに機嫌良さそうに笑みを深める。
「……図星ね?」
「……」
アルは無言のまま視線を逸らした。
ミラはその反応が面白かったのか、くすくす笑いながらアルの隣へ座る。
そしてそのまま、ぴったり身体を寄せ始めた。
「おい、暑くないのか」
「全然?」
むしろ嬉しそうである。
ミラはニコニコしながらアルの腕へ抱きついた。
アルも振り払う事はしない。
その様子を見ていたギルダーツが、何とも言えない顔になる。
「なぁ……何か口の中甘くないか?」
「あ、あの様な……っ//」
エルザも微妙に顔を赤くしながら視線を逸らした。
一方ミラはまったく気にした様子もなく、楽しそうにアルへ寄りかかっている。
そんな被害者二名を乗せたまま、船はゆっくりと天狼島へ向かって進んでいった。
そしてそんなアル達が天狼島へ到着してからやや遅れ。
ナツ達、出場メンバーとそれぞれのパートナーを乗せた船もまた、天狼島へ向かっていた。
こちらはアル達とは違い、海域特有の灼熱を真正面から浴びている。
「暑ぃぃぃ……!」
「溶ける……」
船上では既にぐったりしている者も多い。
そんな中、やがて前方に巨大な島影が見えてきた。
妖精の尻尾の聖地――天狼島。
その姿を前に、皆の表情が少しずつ真剣になっていく。
すると、船首に立つマカロフが声をあげる。
「これより一次試験の内容を発表する」
「一次試験……」
「大体、毎年何段階かに分かれてるんだ」
ウェンディへ、メストが静かに説明する。
マカロフは島の奥を指差した。
「島の岸に煙が立っておるじゃろう。まずはそこへ向かってもらおう」
視線の先。
確かに、天狼島の岸付近から煙が立ち上っている。
「そこには八つの通路があり、一つの通路には一組しか入ることはできん。
そして、通路の先はこうなっておる」
その瞬間、マカロフの横へ魔法映像が展開された。
そこには八本のルートが映し出されている。
それぞれの通路には番号。
さらに、文字とS級魔導士達の顔が表示されていた。
「突破できたチームのみが一次試験合格じゃ」
「闘……?」
「エルザやギルダーツの顔の所に“激闘”って書いてあるぞ」
「それに“静”ってのもある」
各々が画面を見ながら反応する。
だが。
「……ん?」
「ちょっと待て」
「何で一箇所だけ違うんだ?」
視線が一斉にある一点へ集中した。
そこにはアルの顔。
そして、その横には――
“闘・激闘”
二つの文字が同時に表示されていた。
出場メンバー達がざわつく。
マカロフは構わず説明を続けた。
「“闘”のルートは、この八組のうち二組がぶつかり、勝った一組のみが通れる」
「“激闘”は、現役S級魔導士を倒さねば進めぬ最難関ルート」
「“静”は、誰とも戦うことなく一次試験を突破できるルートじゃ」
だが、ウェンディが小さく首を傾げた。
「あれ……?
じゃあアルさんの所、おかしくありませんか?
“闘”と“激闘”が一緒になってますけど……」
「確かに……」
ルーシィも同意する。
するとマカロフは、ニヤリと笑った。
「アルのルートは“闘”でもあり、“激闘”でもある。
じゃから、二組共突破する事が出来る唯一のルートじゃ」
「え」
「その場の二組で協力するも良し、一組ずつ戦うも良しじゃ。
まぁ……他のペアを倒してからアルと戦うという方法もあるが、これはオススメはせんのう」
「当たり前だ!!」
「死にたくねぇよ!!」
グレイとエルフマンが即座に叫ぶ。
一方で。
「うぉぉぉぉ!! 燃えてきたぞぉぉぉ!!」
ナツだけは目を輝かせていた。
「何でぇぇぇ!?」
ハッピーが悲鳴を上げる。
「当たりませんように……当たりませんように……っ!」
ルーシィは必死に祈っていた。
「ギヒッ、倒しがいがあるぜ」
「ないよ!!」
ガジルへレビィのツッコミが飛ぶ。
他のメンバー達も、それぞれ様々な反応を見せていた。
「一次試験の目的は武力、そして運!」
「「「「運って……」」」」
皆の意見が一致する。
そして、マカロフは口を開く
「さぁ、始め! 試験開始じゃ!!」
突如として試験開始が宣言される。
だが、出場者達がいるのはまだ海の上だった。
あまりに急な開始に、一瞬船上が混乱する。
しかしその中で、ナツだけは即座に動いていた。
ハッピーを呼び、翼で空から天狼島へ向かおうとする。
だが、それよりも早くフリードが術式を展開。
船の周囲に文字魔法による結界が張られ、ナツ達は弾き返される。
その直後、レビィとエバーグリーンがそれぞれ術式を書き換え、自分とパートナーのみ外へ出られるよう改変。
二組は真っ先に島へ向かっていった。
その後、五分が経過。
術式が解除されると同時に、残りのメンバー達も一斉に動き出す。
ナツはハッピーの翼で空から島へ向かい、
グレイは海を凍らせながら一直線に進む。
ロキはその氷の上を軽やかに駆け抜けていった。
ジュビアは身体を水へ変化させ海中へ潜り、
リサーナも接収魔法で魚の姿となり後を追う。
メストとウェンディは、いつの間にかその場から姿を消していた。
そしてルーシィとカナは、他の者達ほど派手な移動手段を持たないまま、必死に泳いで天狼島を目指していた。
やがて最後尾だったカナとルーシィも、どうにか天狼島へ辿り着く。
だが、岸へ上がった二人を待っていたのは、既に閉ざされた七つの通路だった。
入口には大きな“×”印。
残っているルートは一つだけ。
カナは目を押さえながら、疲れたように息を吐く。
「×が七つ……やっぱり私達、一番最後……」
するとルーシィは濡れた髪を払いながら、無理やり笑顔を作った。
「大丈夫よ! 残り物には福があるって言うでしょ?
私、運だけはいいからね!」
その言葉に、カナも少しだけ表情を和らげる。
「絶対S級になろうね、カナ!」
「うん……ありがとう、ルーシィ」
二人は残された唯一の通路へ進み始めた。
そして、その先で見えてきた文字。
――“闘”。
さらに、その奥に立っていた人物達を見た瞬間。
「あー、その声はコスプレの女ぁ」
「お前達と戦えと言うことか……」
そこにいたのは、雷神衆のビックスローとフリードだった。
それを見たカナとルーシィの顔から、一気に色が抜ける。
「残り物には……何だっけ? ルーシィ……」
「雷神……衆ぅ……」
二人は絶望した。
その頃、他のルートでも戦いは始まっていた。
Eルート。
「よぅナツ。運がなかったなぁ……
俺は何事も手ぇ抜くのが嫌いでな……」
「終わったー!!」
ギルダーツを前に、ハッピーは完全に諦めきった顔をしていた。
だが当のナツは。
「燃えてきたぞーー!!!」
むしろ全身から闘志を燃やしていた。
一方、Dルート。
「強い……っ! こんなに強かったの……っ」
「どうしたジュビア……
そんなことでは、S級魔導士にはなれんぞ」
「海王の鎧……完成にジュビアの水を防ぐ気だ……っ」
海王の鎧を纏ったエルザが、ジュビアとリサーナを圧倒していく。
ジュビアの水魔法すら、まともに通らない。
そしてAルート。
「よりによって……」
「こいつに当たるなんて……」
「弟でも……手加減しないわよ? エルフマン」
ミラジェーン。
彼女が静かに立ちはだかっていた。
対するのはエルフマンとエバーグリーン。
さらに――
「おいおい嘘だろ……」
「よりにもよって……」
「これは……」
「あわわわ……っ、どうしてぇ……」
グレイとロキ、そしてメストは冷や汗を流していた。
ウェンディに至っては、あまりの現実に半泣きになっている。
彼らの前にある文字は――
“闘”
そして、“激闘”。
つまり。
「さて、試験を始めようか」
静かに腕を組みながら立つアル。
その前で、グレイ達は完全に表情を引き攣らせていた。
アルVSグレイ&ロキ。
そして、メスト&ウェンディ。
最難関ルートの試験が、今まさに始まろうとしていた。