このお話では『野生のオルクセン』
Gonzou@NGonzou 様執筆の野生のオルクセン『トヴィーとギサブロー』
https://x.com/NGonzou/status/1902959458533417229
芝三十郎(fcl)@ifyomisuke 様執筆の野生のオルクセン『故郷の味』
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=26880302
両作品をオマージュさせて頂いております。
- とあるキャメロット外交官であり魔種族魔獣研究家だった者の日記より抜粋 -
・星暦877年5月11日。
私を含む大勢の者が、ここエルフィンドはコンクオスト村の停車場・・・オルクセン国旗と黒と白の横断幕に飾られている停車場に停車しているオルクセン国王グスタフ・ファルケンハインの専用列車メシャム号を『取り囲んで』いた。
ただ実際には列車の至近距離という訳ではなく、乗降場にいる警備のオルクセン兵達を挟んである程度の距離を置いて各国観戦武官団や従軍記者、そして私がいるが、雰囲気としては『取り囲んで』いるというのが最もしっくりくる表現だと思う。
ただ最も注目を浴びているのは会議室車・・・我が尊敬する師であるサー・マーティン・ジョージ・アストンもあの会議室車の中にグスタフ王の外交顧問として、王と共に乗車していらっしゃる車両だ。
その会議室車に、停車場にエルフィンド側代表団を乗せた、メシャム号に比べるとずっと見窄らしい列車が到着し、その列車から下車してから30分ほど乗降場上で晒し者以外表現できぬ有様で待たされたエルフィンド政府全権代表が午前9時になると同時に乗車していき、この戦争を終わらせる調印式がおこなわれた。
正直、私はあの車両の中にいたかった。
いや、この場にいる誰もがだと思うが、魔種族魔獣研究家の雛として先生が通訳を務めているあの会議室車の中でエルフィンドという白エルフの国が消滅する瞬間を見たかった。
しかしその様な個人的なわがままは許されない。
そもそも私という存在は先生の秘書という形になっているが、キャメロット外務省に籍を置いている者がグスタフ王個人の外交顧問であり友人たる先生の秘書として勤めているなぞ、オルクセン側からすると防諜上の悪夢だと思う。
しかしなぜか私は先生の秘書として帯同することを許されている。
唯一の秘書として、従僕として。
私は先生の家の者から誰かが従僕として着いていったかと思っていたのだが、先生はただ御一人でグスタフ王の下に馳せ参じていたのだった。
流石は尊敬する我が師でアストン先生である。
オルクセンに向けてキャメロットを再度発つ前に、何とか外務省から許しを得て、先生の家に秘書として帯同させていただくことを報告しにお伺いした際、奥様より先生がただ1人、鞄1つでオルクセンへと旅立ったと聞かされ、大変驚いた。
先生と合流して初めて知ったが、幸いなことにオルクセン側から警備と監視も兼ねていると思うコボルト族の従兵殿がつけられたことから、先生とその従兵の努力により先生の身の回りに関しては日頃と全く遜色ない状態だった。
なので私は先生の身の回りのお世話をする従僕でもあるはずなのに秘書としての業務的な勤めにのみ集中することができた。
コボルト従兵殿には大変な感謝をしなければならない。
ここエルフィンドから最も遠い地の1つである道洋の秋津洲から、秋津洲の地で出会うことが出来たツノダ女史をはじめとする大勢の素晴らしき皆様に──皇帝陛下も変装していらしていたのには大変驚いたが、ニイハシ停車場で盛大なる見送りを受け、タテハマの港より乗船した我が海軍の軍艦を皮切りに何隻もの民間船と我が国の軍艦を乗り継ぎ、僅か1ヶ月半ほどで故国キャメロットに辿り着いた。
本来ならば私のような下級外交官では絶対にあり得ない対応であるが、それほどのことをしてまでグスタフ王の外交顧問として、今回の星欧の動乱の中心にいるグスタフ王の側にいる先生の元へ我が国の外交官を送り込みたいという我が国の強い意志を感じ取った。
しかしどうして最も遠い地にいた私になったのかという気持ちも同時にあったが、先生の元にようやく辿り着いたときに先生自身から知らされたのだが、先生やオルクセン側が他の幾人もの候補者を拒否し、最終的に私になったということを知らされたので、驚きといえるものだった。
先生が私を選んでくれた理由はわからないが、オルクセン側が私を選んだ理由は、最も遠い地にいて先生との合流に時間がかかるので、機密情報に触れる可能性を少しでも減らせると判断したからだと思う。
故国キャメロットに到着し、身だしなみをしっかりと整える間もなく、港から外務省指し迎えの馬車でそのまま外務省に出頭すると、先生並びにオルクセンより私が先生の秘書として同行することが許されたことが通達され、正式に休職とエルフィンドにいらっしゃる先生の元への派遣が伝達された。
首都ログレスから距離がある実家に寄る暇もなく、先生のご自宅に秘書として帯同することへの挨拶にだけは辛うじてお伺いすることができ、先生のことを心配している奥様より先生への手紙を託されると同時に、先生がただ御1人、鞄1つで旅立ったと伝えられ、空振りになったものの、先生の身の回りの世話をする従僕としての勤めも果たさねばと覚悟を決め、僅か数日の慌ただしさで再度故国を発ち、海路にてオルクセンが占領したファルマリア港に到着。
その後は陸路にて先生への元に向かったが、鉄道道路共に軍事輸送が最優先されている状況のため、途中何度か足止めを受けつつ、開戦から約2ヶ月半程でなんとか先生と合流することが出来た。
エルフィンド最後の大反抗であったネニング平原会戦の際にはグスタフ王と共に私達もいたネブラスの街にエルフィンド軍が迫ったが、グスタフ王は退くことをよしとされずネブラスに留まっていらっしゃった。
当然先生と私もグスタフ王に付き従い留まっていたが、その敵が迫る中でも落ち着いていたようにみられた私に対してグスタフ王が『若いのに意外と落ち着いていらっしゃるな。戦場の経験がおありかな?』と突然尋ねられたことがあった。
私は『いえ全く。私の経験といえるものは故国と秋津洲の地での狩りしかありません。しかも秋津洲の地での狩りでは常に女性にエスコートして頂いておりました』と正直に答えると、グスタフ王は豪快に笑われ『女性をエスコートしていたのではなく、女性にエスコートされていたのか!私と君は似ているな』と仰ってくださった。
ちなみにこの時が二度目の王との会話で、一度目は先生と合流したときの挨拶だった。
その様なことを思い出しつつ、会議室車を眺めているとオルクセン側、エルフィンド側共に車両から出てきて、グスタフ王が演説を始めた。
『今日、我らオルクセンとエルフィンドの代表は、知的生物として崇高かつ尊厳ある平和の恢復を希求せんがため集い、ついにそれを成した。もはや不信と憎悪と悪意を以て睨み合う刻は過ぎ去った。これよりベレリアント半島は悪しき習慣を捨て、新しく生まれ変わり、両者は融合していくであろう。ともに手を携え、星欧の平和を希求し、貢献していく国を築きたい』。
その場にいた全ての者から拍手が、万座の拍手が沸き起こった。
『平和で清らかなエルフの国』が『野蛮なオークの国』によって滅びた瞬間だった。
演奏されはじめたオルクセン国歌『オルクセンの栄光』を聞きながら、そんなことをつい考えてしまった。
エルフィンドは平和で清らかでもなく、オルクセンは野蛮でもないというのに。
拍手が収まると『失礼致します!我が王の外交顧問付秘書殿、お客様をお連れいたしました!』という、先生付きのコボルト従兵殿の声に後ろを振り返ると、この場にいらっしゃる筈がない方がいらした。
『来てしまいました』
恥ずかしそうにそう言った、トランクを自身で持ったキャメロット風の服の上からドライビングコートを羽織ったツノダ女史がコボルト従兵殿の隣にいらした。
4フィート半ぐらいのコボルト従兵殿と7フィート3インチはある彼女との身長差は愉快なものだと、戦場となっているエルフィンドの地に来てからオーク兵と、小柄なコボルト兵、ドワーフ兵との身長差を散々見てきたというのに改めて感じたが、問題はそれではない。
どうして秋津洲政府の重鎮でもある彼女がこんな場所にたった1人でいるのかということだった。
ちなみに『戦場に女性が来るべきではない』という思いは、秋津洲の地での思い出とエルフィンドの白エルフには女性しかいないこと・・・つまり兵士も全て女性であるということ、そしてグスタフ王の身辺警護部隊である『紅い眼鏡』の闇エルフ部隊と過ごすことが多かったので一切浮かばなかった。
『なぜこちらに?』
今の私がかけるべき声だと思いついた唯一の台詞をなんとか口にすると、彼女は
『もう少し早く着くつもりだったのですが、途中のキャメロットの地にて色々あり、遅くなってしまいました。来た理由は沢山ありますが、1つは我が国から出奔し、この地にてオルクセン軍の義勇兵となっている秋津洲の者達を連れ戻すためです』
と答えられた。
確かに本国より先生の元へ駆けつけるよう指示がある直前、ツノダ女史やサーゴー大将殿、外務大臣殿達から、オルクセン軍に義勇軍として加わるために人間族や魔種族が勝手に秋津洲より旅立ったと聞いていたが、まさか秋津洲政府の重鎮である、秋津洲魔種族のトップのツノダ女史自ら彼らを連れ戻すためにやって来たというのは想像すらしていなかった。
そもそも秋津洲魔種族の長が秋津洲の地を離れることが出来るのか?と考えていると、それを女性特有の察知能力で感じ取ったのか、ツノダ女史は微笑むと
『秋津洲魔種族の長としての立場はそのままです。ただ古い知り合いのドワーフ族に権限全てを《委任》して参りました。なので今の私は自由に動ける立場となったのです。これも花房氏が皇帝家所蔵の古い史料をご覧になっている際に偶々発見した抜け道と申しますか、私達魔種族ですら忘れてしまった遙か大昔に位階はそのままに実務のみを他の者に委任したことが数回あったを発見してくださいましたおかげです。前例があり、それが禁じられていなければそれは今でも有効。なので是非ともと古い知り合いのドワーフ族・・・ムラカミさんにお願いしました。まぁ少しごねられましたが、誠心誠意お願いしましたら、最後は快く委任を受け入れていただけました。もし秋津洲に戻ることがありましたらお土産が必要ですね』
と仰られた。
この後に私が先生の呼ばれたこともあり、この日のツノダ女史との再会の会話はこれだけだった。
・星暦877年5月25日。
戦争は終わり、平和となったがまだ先生を必要とする仕事が沢山控えており、必然的に秘書として先生のお手伝いをする私も多忙を極め、ツノダ女史と再びお会いできたのは再会から2週間ほどたった今日になってしまったが、愚かな私のせいであの様な騒動になるとは思いもしなかった・・・。
ツノダ女史と私、さらに秋津洲魔種族に大変な興味を示された先生や私が秋津洲を発った後に秋津洲陸軍中将の階級を正式に受けたというツノダ女史の案内役兼護衛としてつけたられたキャメロット語を話すことが出来るオルクセン軍のオーク族大尉殿の4人で、先生と同様にツノダ女史にもつけられたこちらもキャメロット語が出来るコボルト従兵殿達2頭の給仕を受けつつ色々な雑談をしつつ食していた昼食が終わった際、ツノダ女史が片言とはいえ短期間で習得したオルクセン語でオーク族大尉殿に
『魔術による意思伝達を使用してもよいか?』
と質問されたのだが、私はこの質問を
『ツノダ女史自身が魔術により意思伝達をおこなうつもりで質問された』
と理解したにも関わらず、オーク族大尉殿がおそらく『オルクセン軍は戦闘時以外でも魔術による意思伝達を利用しているのか?』と質問されたと誤解し、
『はい。使っております』
と回答したというのに、オルクセン語がまだ片言であるツノダ女史がオーク族大尉殿の回答を『魔術による意思伝達の使用を許可します』と解釈してしまったことに、愚かな私はツノダ女史の能力やオルクセン語を理解しているにもかかわらず気がつかなかったのだ!
さらにここエルフィンドの地がつい2週間ほど前まで血で血で洗う凄惨な戦いを繰り広げられていた地であることも、ツノダ女史の魔術により意思伝達の到達距離がオルクセンのコボルト族より遙かに遠距離まで届くことも失念していたのだ!
ツノダ女史はゆっくりと、こめかみに手を当てるという魔術による意思伝達を使う姿勢をとると、その様子を見たオーク族大尉殿が驚いた表情をみせたときは全てが遅かったのだった・・・。
ツノダ女史としては魔術による意思伝達の使用許可を得たと解釈した上で、秋津洲にいたときと同様に、彼女としては普段と変わりない、オルクセン側からするとあり得ない超強力な魔術による意思伝達で秋津洲義勇兵に呼びかけをおこなったつもりだったそうだが、繰り返しだがこのエルフィンドの地は・・・ベレリアント半島はつい2週間ほど前まで血で血で洗う凄惨な戦いを繰り広げられていた地・・・実際にはそれ以前に両軍共に停戦命令が発せられていたので正確ではないが、政情は未だに安定しているとは言いがたい状況の上、戦争中盤以降からエルフィンド軍はオルクセン軍の魔術による意思伝達への妨害を度々おこなってオルクセン軍の行動を阻害しており、その生々しい記憶がオルクセン軍兵に残っている中、魔術による意思伝達が可能なコボルト族兵や大鷲族兵が
『聞いたこともない言語による、音程から同一内容と推測される内容を複数繰り返していた、誰が発したか不明な魔術による意思伝達』
を広範囲で一斉に感じ取った結果、オルクセン軍はツノダ女史個人が発した魔術による意思伝達を『エルフィンドの終戦反対派が組織的に一斉に発した符丁を用いた魔術による意思伝達』と判断した上で、その内容を『一斉武力蜂起』であると誤解し、逆にエルフィンド側の白エルフ達はオルクセン軍による自分達に対する軍事行動の再開の符丁と解釈してしまい、オルクセン、エルフィンド共に大変な騒動となってしまったのだ!
付近のオルクセン軍が突如として警戒態勢に取り始め、さらに数は少ないものの周辺にいた白エルフ族達が、オルクセン軍の突如としての警戒態勢を見た上で先ほど感じ取った内容が全く不明なツノダ女史の魔術による意思伝達をオルクセン軍による符丁による魔術による意思伝達と誤解したのが合わさり、オルクセン軍が自分達に対する攻撃を再開すると誤解して恐慌状態に陥り、その白エルフ達の恐慌状態を見たオルクセン軍側が更に警戒態勢を強化するという完全な悪循環になってしまったのだった!
最初は事態の重大さに気がついていなかった私だったが、少しして何が起こったのか察した私は先生に何が起こってしまったのかを慌てて説明し、先生の外交顧問としての立場を利用してグスタフ王に状況の報告をお願いし、同時にオーク族大尉殿にも説明し、大尉殿の権限で伝えられる最上位の司令部にこの事態が発生した原因がなんであるのかを報告して欲しいともお願いした。
そして経験豊富かつ優秀な軍人でもあるツノダ女史は、周りの状況から自分がこの大混乱を巻き起こしたとすぐに気がつき、後ほど聞いたことによると
『ただ今の魔術による意思伝達は誤報。ただ今の魔術による意思伝達は誤報。内容に意味はなし。内容に意味はなし』
という内容の魔術による意思伝達を片言のオルクセン語と、流暢なキャメロット語で繰り返し発したそうだが、そのツノダ女史の強すぎる魔術力がオルクセン軍と白エルフ族の魔術による意思伝達を妨害する結果となってしまい、双方共に魔術による意思伝達が使用できないために迅速な組織的連絡が出来なかったことも重なり、私達がいた地点を中心に約60マイル前後の範囲で大混乱が発生してしまったそうだ。
しかし白エルフ族側が武装解除されていたことと彼女たちがすぐに逃げ惑い隠れたことにより、不幸な結果が発生することだけは回避することができたそうで、胸をなで下ろした。
ただこの大混乱を鎮めるためにオルクセンは電信と伝令を大量に発する羽目になり、そして大混乱の中心となってしまったツノダ女史の魔術による意思伝達がオルクセン側に注目されることとなってしまったのだった。
その夜に謝罪とツノダ女史の紹介も兼ねて急遽設けられたグスタフ王をはじめとするオルクセン軍高官達との食事会の際、グスタフ王の護衛である巨狼族のアドヴィン殿や『紅い眼鏡』の闇エルフ達が強い警戒を示す中、グスタフ王だけではなく、同席されていた方の1人であるオルクセン陸軍の通信部長シュタウピッツ少将殿もツノダ女史の魔術による意思伝達の力にかなり強い興味を持ち、謝罪よりもツノダ女史をはじめとする秋津洲魔種族に関する聞き取りの方が重視されているようなものだった。
ツノダ女史よりオニ族の魔術による意思伝達の到達距離を教えられたグスタフ王は笑われていたが、シュタウピッツ少将殿はなぜか大変落ち込んでいるような様子であると感じた。
続いてグスタフ王自らツノダ女史と同席していた観戦武官のアキヤマ大尉殿に対して、なぜかご存じであった秋津洲のワイバーンについて質問されたが、ワイバーンに対する専門知識がほとんどないアキヤマ大尉殿は人間族側からみた伝説と伝統以外説明することが出来ず、代わりにツノダ女史が主にグスタフ王にワイバーンの生態について回答し、さらに先生が私が先生へ送った手紙の内容を王に紹介したため、私の『Dragon slayer』の経験も話すはめになってしまった。
正直、グスタフ王を除いたオルクセン側はワイバーンの存在はともかく、私の『Dragon slayer』となってしまった経験に関しては半信半疑という雰囲気だったが、その場に居合わせていたツノダ女史とアキヤマ大尉が真実であると証言すると、オルクセン側は驚いた様子だった。
ただ不思議なことにワイバーンの軍事的運用方法についてはツノダ女史は殆ど話さず、オルクセン側から質問されても私の『Dragon slayer』体験や首都でのワイバーンパレードの話しに繋げ、それを楽しげに話されていた。
この日記を書きながら気がついたが、まるで話をそらしているような様子であった。
その後、私が経験した秋津洲での魔獣に関する話しや、ツノダ女史による秋津洲在住魔種族に関する話をされたが、オルクセン側はかなり興味深い様子であった。
更に先生が私が手紙で送った秋津洲における最後の魔種族と人間族の武力衝突のことを質問されると、グスタフ王はなぜか大変強い興味を持たれ、その武力衝突の総指揮を取っていたツノダ女史が当時のことを事細かに説明されると、驚きつつもなぜか懐かしい目をされていたのが印象的だった。
ただその説明の中、ツノダ女史が『指揮命令系統は最終的には私へと1本化されていたのですが、情報系統が私と現地指揮官であったドワーフ族が統括する、それぞれが完全に独立した2系統に意図せずに分かれてしまっていて、事態が終了するまでそれに2人ともその様な状況になっていたのに全く気がつかず、後の反省では非常に非効率な状態かつ、片方が掴んでいる情報を片方が知らなかったりと、危険だったと判断する状況でした』と当時の失敗を述べると、これもオルクセン側がかなり興味を引いている様子だった。
・星暦877年5月26日
前日にあの様な騒動を起こしてしまったにもかかわらずグスタフ王は特別許可をくださり、オルクセン軍の通信網を利用した秋津洲義勇兵部隊への連絡と、義勇兵部隊の優先移動が許された。
ツノダ女史共々グスタフ王に感謝を示した。
・星暦877年6月2日。
グスタフ王からの特別許可から一週間後の今日、2名の人間族と1頭ずつの鬼族と狸系コボルト族に率いられていた狸系コボルトを主力とする秋津洲義勇兵達はツノダ女史の元に到着したが、その時の義勇兵部隊の様子はまるで先生に叱られる前の寄宿舎生徒達のようだった。
オルクセン首都ヴィルトシュヴァインより駆けつけた秋津洲公使館の方2名や観戦武官であるアキヤマ大尉殿も同席し、さらに秋津洲魔種族を見てみたいと仰っていた先生や、なぜか興味を持たれたグスタフ王も大佐の階級章をつけた軍服に身を纏って変装してその場にいらし、アドヴィン殿と『紅い眼鏡』の闇エルフ達が憲兵ゴルゲットを首から下げて憲兵に変装してグスタフ王の隣にいらした。
もっとも巨狼族であるアドヴィン殿はともかく、グスタフ王の身辺警護部隊として知られている『紅い眼鏡』の闇エルフ達の憲兵への変装は無理があるのではと感じたが口にすることはしなかった。
オルクセン側の好意で用意して頂いた簡単な演説台の上にいるツノダ女史の大怒号を皮切りに、寄宿舎生徒達へのお説教が始まった。
ツノダ女史は秋津洲義勇兵達へと大変良く通る声で叱りつけたと思っていたのだが、数分すると様子がおかしくなった。
最初のうちはまさに叱られた寄宿舎生徒達の様だった秋津洲義勇兵達が段々と熱気を帯びて来たように感じたからだった。
それも怒りではなく、自身の誇りを感じさせる熱気だった。
秋津洲公使館からいらした2名はオルクセン軍大佐に変装しているグスタフ王の脇でずっと王への通訳をされていたのだが、それも何というか、時折ためらいを感じる様子でツノダ女史の言葉を通訳され、最初は叱られる級友達を見るような表情だったアキヤマ大尉殿も段々と誇らしげな顔になっていった。
ツノダ女史による秋津洲義勇兵達に対する不思議なお説教は30分ほどで終了したのだが、それが終わると秋津洲義勇兵達は敬意溢れる様子でツノダ女史に対して礼を捧げていた。
そして先生やグスタフ王の希望により、義勇兵の指揮官の1頭である狸系コボルト族の方が先生達へ魔術を用いた幻覚をお見せすると先生やグスタフ王は大変興奮された様子であったが、先生やグスタフ王は私と違い、大変紳士的に抑制された様子で驚かれていた。
・星暦877年6月3日。
朝食の場でお会いできたツノダ女史とアキヤマ大尉殿に昨日のあの場ではどのようなことを話したのかを尋ねたところ、最初の数分は秋津洲より勝手に出奔したことに対する叱責だったそうだが、後は彼らがこの戦争で取った行動に対する賞賛だったとのこと。
ツノダ女史はグスタフ王からの特別許可により、オルクセン軍より秋津洲義勇兵達の行動に関する報告書等を受け取り、彼らが到着するまでの間、アキヤマ大尉殿やツノダ女史付きとなっていたオーク族大尉殿の力を借りて、それらの内容を完璧に把握し、ツノダ女史曰く『ソレハソレ。コレハコレ』という秋津洲の諺のようなものだそうだが、それに基づきしかるべきものは叱り、褒めるべきものは褒めるべきであるとし、彼らの軍事行動を褒め称えていたそうです。
ツノダ女史やアキヤマ大尉殿、オーク族大尉殿が教えてくれた秋津洲義勇軍の活躍は凄いもので、羅列するだけでも
・タヌキ系コボルトの魔術による幻覚を用いた攪乱作戦の実施。
・スギハラ殿、スギムラ殿、オニ族のヤゴロウ殿が囮となった上での、幻覚により他の地形に見せかけていた湿地帯へのエルフィンド軍の誘因と殲滅。
・幻術を用いた陽動によるエルフィンド指揮官への攻撃。
・エルフィンド司令部を強襲し、司令官を捕虜とする。
等で、大変驚いた内容であった。
ツノダ女史は
『先の内戦で敗北した側とはいえ、それなりのキャメロット語を話し、いくらオニ族のヤゴロウとタヌキ系コボルトのキサブロウがついていたとはいえ、異国の地で自ら先頭に立って部隊指揮をこなしつつ、オルクセン側との物資補給等の交渉もとっていたスギハラ殿とスギムラ殿が外務省や軍に入れず、無聊を託っていたというのがそもそもおかしいのです。我が国に優秀な人材に無聊を託っていさせる余裕はありません。秋津洲政府に電信をうち、スギハラ殿とスギムラ殿が帰国されたら、2人はどこかに必ずや奉職して頂けねばなりません』
と怒りを感じさせる表情で仰られた。
アキヤマ大尉殿も
『同郷の者として、言葉も食物も違う異国の地であるにもかかわらず、義勇兵とはいえ500名からなる部隊をまとめあげていたことだけでも尊敬を禁じ得ません』
と敬意溢れる顔で仰られていた。
さらにツノダ女史は『オルクセン王にも彼らの活躍を認めて頂けたそうで、内々ですが、オルクセン王自ら秋津洲義勇部隊を近日中に閲兵してくださる予定だとお伝えしてくださいました。同郷の者としては鼻が高いです』と嬉しそうに仰った。
そしてその夜、先生と共に仕事をこなしているとツノダ女史がいらっしゃり、先生へ私を貸してくださるようにお願いし、先生がそれを了解するとツノダ女史は秋津洲義勇軍の宿営地へと私を連れて行った。
宿営地に着くと、秋津洲島義勇兵達が楽しそうな様子で、いくつもの巨大な木製の槌を振るっていた。
一体何がおこなわれているのかと考えているとツノダ女史が『秋津洲では新年の祝いに特殊なライスを蒸してから巨大な木槌で磨り潰した物を食べるのです。しかし彼らは秋津洲で新年を迎える前に星欧へと旅立ちました。なのでせめてと思い、全体としてはそれなり以上の量であるものの1人当たりですと量は少なくなってしまいますが、私の身と共にライスや調味料、木槌をこの地に運んだのです』と説明してくださった。
よくみるとアキヤマ大尉殿や秋津洲公使館の方達もいらっしゃり、楽しげに木槌を振るっていたり、分厚い木板の上で磨り潰しているライスをひっくり返したりしていた。
秋津洲の人達にとって、このライスを磨り潰したものは大変な喜びを感じる食べ物であるのは間違いないと、外国人の私ですら理解できる様子だった。
そう考えていると、大変な驚きが私を突如として突然に襲った。
『秋津洲の皆様、私も仲間に入れてくれないかね?』
はっきりとその声を聴いたのは数えるほどしかないはずなのに、その声を主が誰であるとすぐに認識できた私は驚きつつ後ろを振り返ると、相変わらず大佐に変装しているグスタフ王が、憲兵に変装しているアドヴィン殿だけを共にしてそこにいらした。
『紅い眼鏡』の闇エルフ達は私は見つけることが出来なかったが、後ほどツノダ女史より『周りに隠れていらっしゃいました。見事な潜伏でした』と教えて頂いた。
グスタフ王は『秋津洲の諸君。よろしければ私もご相伴させてくださらないだろうか?こうみえてもアキヤマ大尉とは既にモチを共に食した仲だ』と楽しげに仰り、ツノダ女史がもちろんでございますと、女史も楽しげに答えると、グスタフ王は礼を言われるとモチを磨り潰している場のうちの1箇所に小走りで行き、慌ててグスタフ王の下に駆け寄ったアキヤマ大尉殿が通訳をし、更に驚くべきことにグスタフ王自身が木槌を持ってライスを磨り潰し始めたのだった!!
グスタフ王を囲んでいる秋津洲義勇兵達は愉しげな声を上げ、その声に合わせてグスタフ王はライスを磨り潰していった。
私が呆然とその様子を眺めているとツノダ女史は『初めてとは思えないお見事な動きですね・・・』と呟かれていたのが耳に入った。
ライスを磨り潰し終わった後、その磨り潰した食べ物『モチ』は、各種族の体格差に関係なく均等な大きさかつ個数が、戦死した者の分も含めて配られ、3種類用意されたスープにそれぞれ入れて食べたり、そのままソイにつけて食べたりしていた。
中には泣きながら食べている者もいたほどだった。
グスタフ王は3種類のスープのうち、ソイビーンズペーストのスープと私が見たことのない赤い豆が入った甘いスープの2つを選ばれて食べられていた。
驚くことにグスタフ王は、秋津洲の地ではマナー違反ではないが、ここ星欧の地では絶望的なマナー違反である、スープを音を立てて飲まれていた!
私の驚きを察せられたグスタフ王は『確かに星欧においてはマナー違反ではあるが、その国々のマナーに従って食事を取るのは大切なことだ。私はこの場では秋津洲のマナーに従い、これを食す』と仰り、秋津洲義勇兵のみならず、ツノダ女史、アキヤマ大尉殿、そして公使館の2人グスタフ王に敬意を示した。
その後ツノダ女史とグスタフ王は親しげに話をされ、ツノダ女史が『ソイやアズキは問題なかったのですが、ソイビーンズペースト・・・そうですミソです!それがオルクセンの税関で腐敗物として没収されそうになったので必死に抵抗しました』や『秋津洲の伝統的な樽は長距離の輸送には適さないので、星欧規格の樽に詰めてソイやミソを持ってきたのですが正解でした』『特殊なライスやアズキは麻袋に入れて参りました。星欧の穀物の輸送方法と同じです。虫害も予想していたより低かった』『え?カヅォーブシやコルブのこともご存じなのですか?』等の話をされていた。
どうもグスタフ王が、秋津洲の伝統的調味料である既に少量が昔から星欧においても出回っているソイの他にも、ソイビーンズペーストであるミソやモチ製造用の特殊なライス等を秋津洲から輸入されたいと望まれ、ツノダ女史が輸出の可能性と方法について語られている様だと感じた。
そしてこの特殊な食事会が済んだ後、私はツノダ女史と共に宿舎に戻っていったのだが・・・このことを詳細に記すのはやめたいと思う。
いや記すべきではあると思うのだが、恥ずかしさからどうしても記し事ができない。
ただ私が記すことできてるのは、ツノダ女史は大変美しい、歴戦の軍人であるということだ。
私は、突如として何も知らないうちに本国と友好国が陥落していることを知らされ、その場でツノダ女史に幸福と共に降伏することとなった。
ただ紳士的ではないが、その際私からツノダ女史を抱きしめるべきであったが、ツノダ女史から抱きしめられたということだけは記さなければならないだろう。
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『大御姉様、何をご覧になっているのですか?』
ここキャメロットの屋敷で旦那様の日記を久しぶりに読んでいると、まだ小さい来孫が声を掛けてきた。
『私の愛しい旦那様の日記を読んでいたのですよ』私は優しく答えながら、小さい角が生えている来孫の頭をなでた。
私の子孫で魔種族が生まれたのは彼女で3人目だ。
1人目は私が産んだ次男だった。
彼は秋津洲にて伯爵に叙せられた私の、お家としては当家の秋津洲別家の当主として秋津洲に渡り、今では既に当主は引退したものの、秋津洲魔種族の長としてお勤めを果たしている。
2人目は私との結婚のためと秋津洲での功績によりキャメロット男爵として授爵した愛しの旦那様が地位を継いだ長男の三男だった。
彼はオルクセン連邦に移住し、軍官僚として勤めている。
そして3人目が私からみて6代目にあたる来孫である彼女。
キャメロットの当代本家当主の2人目の子供である長女だ。
私達魔種族の寿命は永遠に近い。
人間族と時を過ごすには適さないぐらい長い。
だから次男は魔種族と人間族が適度な距離を持って共に暮らす秋津洲に行き、名ばかりで実態どころか屋敷すらなかった角田伯爵家を継いだ。
孫は悩んだ末、魔種族の国であるオルクセン連邦へと移住した。
そして来孫である彼女。
彼女の未来はどうなるのだろうか。
オルクセンを除いた星欧において魔種族は未だに生きにくい。
それだけが心配だ。
ただ私が彼女に教えられることは、愛しい旦那様という存在は大変尊いことであることと、愛しい旦那様を手に入れるためには、犯罪以外は手段を選ばずに断固として行動するということだけ。
そう、私が秋津洲帝にお願いして一筆認めて頂き、キャメロット国王に拝謁し、旦那様の実家に幾度となく訪れて御義母様の了承をとってからそれを旦那様に伝え、逃れられないようにしてから嫁入りしたように。
旦那様が貴族で、結婚とは家同士の繋がりであるという意識を持った方でいて良かったです♪
旦那様、良子は幸せでございました。
以上にて、『野生のオルクセン』である『秋津洲における魔種族、魔獣報告』は完結となるそうです。
今までありがとうございました。