【あらすじ】

 敵を作らないことが信条な八方美人の少年、穂波(ほなみ)(かおる)
 放課後、図書委員である彼は居城である図書室に引きこもり、静寂の中で書に親しみ、本を書いていた。
 ある日、静寂を破る騒音が聞こえ、彼は気まぐれでイジメに遭っていた少女、出岸(でぎし)遼夏(はるか)を助けることになる。

 気慰めに書いた本を読み涙する少女に心を強く引かれ、少年はBB2039.exeをインストールさせた。


【登場人物】

 穂波(ほなみ)(かおる)
 主人公その2。前作主人公枠なので主人公その0が正しいかもしれない。
 私立星見原学園中等部二年の男子生徒。中等部から編入。図書委員会会長。
 趣味は読書と機械工作と格闘技。加速によって生じた時間で資格コレクターをしている。好きなゲームジャンルは特になし。強いて上げるならコレクター系やクラフト系。爆速でコンプ、トロコンしすぐ飽きる。昔は対戦系やシューティングが好きだったが最近はさっぱり。
 バーストリンカー。デュエルアバターは『Daybreak_Phantasm(デイブレイク・ファンタズム)』Lv.8のオリジネーター。『仮初の鉄器を具現化する』アビリティと無数の強化外装による手札の多さが自慢。

 出岸(でぎし)遼夏(はるか)
 主人公その1。
 私立星見原学園中等部一年の女子生徒。初等部から持ち上がり。
 幼い頃から体質が弱いためインドア派。初等部は手芸部に入っており、かなりの腕前。好きなゲームジャンルは戦闘抜きのオープンワールドとリズムゲーム。
 バーストリンカー。デュエルアバターは『Moonlight_Sylphid(ムーンライト・シェルフィード)』2046年4月9日(月)にインストール。『風を操る』アビリティと長剣による一撃必殺(チェスト)を信条にする。


 pixivにも投稿しています。作者名、作品名は同じです。URLは↓
 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24112074

 メインを渋に移してからしばらく経ちましたが、この作品はハーメルンで構想を練っていたのでこちらにも投稿する事にしました。

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 年齢差を書きたいけど身体的な年齢は同じにしたいというエゴが高じて書きました。

 pixivにも投稿しています。作者名、作品名は同じです。URLは↓
 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24112074
 ページの仕様が違う以外はほとんど同じです。



episode:1 灰被りと魔術師

 放課後の図書室。

 少女を椅子に座らせ、自分も目の前に座る。

 

 酷い有様だ。

 保健室で借りてきた救急箱に消毒液や包帯を仕舞いながら、女の子1人にこんなにするか、と思う。

 囲まれ、蹴られ、砂利を転がされ擦りむいた膝や手の平の手当は済ませてある。制服の砂汚れは何とかなっているはずだ。

 

「……よし、これで大丈夫なはず」

「ありがとう、ございます」

 

 涙ぐんだ声で少女は応える。

 

 涙ぐんだ声だが、この少女は手当の間、泣くことも騒ぐことなく耐えていた。

 凄惨な責め苦にあっていた時も、助け出した時も、ひたすらに堪えていた。

 少女が泣いていたのは『とある本』を読んだから。

 

 いじらしい、という気持ち。

 自分よりも他者の、本の登場人物に共感して泣く感受性の高さ。

 そして、『秘密』を共有してくれるであろう、という自分の欲望と欲望に由来する醜い独占欲。

 

 ため息ひとつ。

 逡巡は消えた。

 

 この子ならば、全てを託せるはずだ。

 

 図書室を最後の西日が照らす。

 泣き腫らした少女に問いかける。

 

「夢見る少女よ、君を囲む、見えない檻を壊してみるつもりはないかな?」

 

 

 誰かを傷つける鉄器を作るアビリティ。

 作った鉄器は仮初で必ず消えてしまう。

 

 誰かを傷つけ、作った物は全て消える。

 そんな『心の傷』を抱えたのが自分だ。

 

 

「……ありがとう」

 

 少女の少し低めの体温を感じる。

 

「ありがとう、ありがとう……ようこそ『こちら側』へ」

 

 嗚咽交じりの声が自分の声だと気が付く。

 腰の後ろに手が回されたことで自分が少女を抱きしめていたことに今更ながら思い至る。

 

「そのアプリケーションが、ブレイン・バーストが君のためになるかは分からない」

 

 なんて独り善がり。

 少女には情けない男に見えているだろう。

 それでも──────

 

「いつの日か、今日の出来事を後悔する日が来るかも知れない」

 

 この少女を傷つける日が来るかもしれない。

 幼く無垢な希望を打ち砕く日が来るかもしれない。

 それでも──────

 

「おめでとう。ありがとう。ようこそ。俺の希望になってくれてありがとう」

 

 それでも言祝がずにはいられなかった。

 新たなバーストリンカーの誕生を──────(絶望)から無垢(希望)が生まれた事を

 

 ハッピーバースデー。

 言葉は情けなく嗚咽に溶けた。

 

 

 

【備忘録】

 

 原作の舞台は2046年以降の主に東京23区。

 二次創作である本作は原作開始およそ半年前の2046年4月9日(月)に主人公がBB2039.exeをインストールする。

 国民に一台と言われるほどに普及したニューロリンカーを首に巻き付け、脳細胞との量子接続によって高度な情報社会を実現している。

 ニューロリンカーならではの習慣も存在し、例としてニューロリンカー同士を有線接続する行為、通称『直結』があげられる。直結はセキュリティファイヤーウォールの9割を無視できるため、赤の他人が直結をしている場合はかなり親密な関係にあるといっても過言ではない。公共の場で直結をしている男女がいたら99%以上で男女交際をしている。ケーブルが短いほど親密との俗説もある。時と場合によっては『こいつら直結したんだ!』であったり『見ちゃいけませんよ』なんて言われる可能性もある。多分。直結をモチーフにしたドラマとかあるに違いない。

 ブレイン・バーストとはニューロリンカーで実行できるアプリケーションプログラム。現実世界を元に作成された時の流れが1000倍に『加速』した世界を作る事ができる。内部時間で30分、現実世界で1.8秒しか持たないものの、内部で作業をしたり現実世界の様子を伺うなどが出来る。反応速度を5倍にするコマンドもあり、剣道や野球など一瞬の判断が勝敗を分けるスポーツで他を圧倒できる事は想像に難くない。

 加速を行うにはバーストポイント、というプログラム内のポイントを消費しなくてはならず、ポイントはプレイヤー同士の対戦の勝ち負けによって奪い合う事ができる。ポイントを全て失えばブレイン・バーストは強制的にアンインストールされ、同時にブレイン・バーストの記憶を全て失う。

 ブレイン・バーストのプレイヤー、バーストリンカーは1000人ほど存在しているとされる。2039年に小学一年生だった児童100名に配布され、例外はあるが、一度しかできない『親』から『子』へのコピーのみでバーストリンカーを増やすことができる。彼らは加速に頼り、縋り、そして消えていった。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 幼い頃は頻繁に体調を崩した。

 

 生まれつき体が弱く、外に出る事がほとんど出来なかった。

 体に力は入らず、起き上がる事すら儘ならない日が続いた。

 

 私には、この体が檻に思えた。

 だって夢の中(月の下)では自由だから。

 

 今でも檻に囚われている。

 罵声と暴力が振るわれる。

 だが、私は恵まれている。

 両親は元気だし優しい。何より、今、生きている。

 

 それでも、夢が叶うのならば──────

 

『夢見る少女よ、君を囲む、見えない檻を壊してみるつもりはないかな?』

 

 私を囲む見えない檻を壊して、月の下を跳ぶ妖精のように遊んでみたい。

 

 † † † † †

 

「──────良い月の夜だ」

 

 白みがかった黄金のコートと頭髪。仮面(?)を付けており、サングラス(?)の隙間から覗く眼光は右目が赤で左目が青。それ以外はロボットみたいな、闇に溶けるような黒ずくめのプロテクターを纏っている。

 背の高い男性と思われるシルエットに話しかけられる。

 

月光の風妖精(Moonlight_Sylphid)……良い名だ。初めてのステージが月光ステージなのは偶然か悪戯か」

 

 何かの符牒らしき訳の分からない単語。

 中学一年生にハジメテのステージ等と言いよる。

 ……間違いない。

 

「──────ふ」

「うん?どうしたというのかね?」

 

 いつの間にか手に取っていた剣(剣!?)を大きく振りかぶって斬りかかった。

 

不審者(チェスト)ァァァァァァァァァ(ォォォォォォォォォ)!!!」

 

 嗚呼、耳を風が撫でる感覚が心地よい。

 覚悟しろ不審者。ここが貴様の死地だ。

 

「──────示現流!?」

 

 † † † † †

 

 朝のホーム。

 

 家の近くのバス停でバスに乗り、練馬区から中野区の駅に移動。そして学校まで電車で一本。

 使い慣れた駅のホーム。

 

 緊急の車両点検の影響でダイヤが乱れている、とアナウンスが聞こえる。

 手元を見て『生身の指』である事に気が付き、自分が今、何をしていたかを思い出す。

 

「──────大丈夫かい?」

 

 少し困ったような、同時に面白がるような、そんな複雑な感情を含ませた曖昧な笑みで私に声を掛ける先輩。

 

「少し……少しだけ待ってくれませんか?」

 

 混乱する私に「いいよー」と気の抜けた声で返す先輩を他所に、現状を整理する。

 

 透き通った薄い青色と薄い雲の空が春を感じさせる。

 ダイヤの乱れで普段より人が多い駅。

 

 周囲を見渡すと、周りの目線が強い事に気がつく。

 改札外のベンチに座って『直結』してる私と先輩。

 

 ニューロリンカーの『直結』は相手を信頼している証であり男女がつけている場合は──────

 

 頭を抱えて蹲る。

 

「大丈夫かい?」と心配する声が聞こえるが反応する余裕が無い。

 声を出せば声が震えてしまうだろうし、顔を向ければ真っ赤になった顔を見られてしまうだろう。

 

 ──────影。

 ──────重さと体温。

 

「落ち着いて、深呼吸深呼吸」

 

 被せられた上着が視線と陽射しを遮る。

 微かな汗と柑橘系の香水の匂いがする。

 ……深呼吸、深呼吸。

 

「落ち着いた?」

「はい、何とか……」上着を返そうか、一瞬だけ迷った「ありがとうございました」

「どういたしまして」

 

 顔を隠して上着を返す。

 頬が、熱い。

 どうやら私は手遅れみたいだった。

 先ほどの『直結』が誤解ではなくなる日は、そう遠くないように感じた。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 2046年4月10日(火)。

 グローバル接続をオンにして改札をくぐる。

 

 †

 

 私、出岸(でぎし)遼夏(はるか)

 星見原学園中等部一年生。

 この春、初等部から中等部になり、何か変わるかなと期待しています。

 そんな今──────

 

「いやぁ、びっくりしたよ」

 

 駅のベンチに座って電車を待ちながら、先ほど斬りかかった先輩に缶のココアを奢ってもらってるの☆

 

 ……。

 

「先ほどは大変失礼いたしました」

『良いの良いの。初心者が元気じゃないと活気が無くなっちゃうからね』

 

 ウインクしながらの思考発音───ニューロリンカー越しに声を聞かせる技術───で先輩が答える。

 

 涙目で「朝の陽射しが目に痛いねぇ」と眠そうな声でボヤきながら、「いつも地下鉄だから斬新だねぇ」と私の隣でブラックコーヒー(私は飲めない)をのんびり飲んでいるのは私の一年先輩の穂波(ほなみ)(かおる)先輩。

 基本的に優等生で評判が良いが少し『ズレている』らしく、どこか影がある(というかクマがある)ミステリアスな雰囲気と合わさり、一部からは『魔術師』とか『凄い寝不足の人』とか『実は吸血鬼なんじゃ……』とか言われているらしい。

 メガネをかけていたり(今は外しているのでファッション用の伊達メガネかもしれない)、今どき珍しい紙のノート(学校の購買では売っていない)に小説を書いてたり、3階の図書室の窓から五点接地(絶対にマネしないでね、と言われた)で外に降りてきたりする変人だ。

 

『不審者を見かけたら逃げないとダメだよ』

 

 飲み終えた缶コーヒーを手提げ袋に突っ込んで『斬りかかっちゃ、ダーメ」と思考発音と発話を交えて、オチャメに両手の人差し指で小さくバツを作る先輩。

 昨日の放課後は色々なことがあった。先輩がイジメから助けてくれた。怪我の手当をしてくれた。ノートに書かれた小説を読んで泣いてたら、何か意味深な質問をいくつかされ、BB2039.exeという謎のアプリケーションをインストールするよう促された。インストールに成功したら突然泣き出し抱きしめられた。ついでにハッピーバースデーと言われた。謎だ。謎だけど、何か、心に残るものがあった。その後、『インストールしたでは危ないから』と先輩も電車通学なのに家の側まで送ってくれたりした。

 カッコ良くてお茶目でミステリアスで、たまに情緒不安定(?)。図書委員の割には背が高く、運動神経が抜群に良い。時間を1000倍に加速しても(後で5倍と聞いた。特殊なコマンドらしい)3階から飛び降りても無傷なのは常軌を逸していると感じる。

 色々と『普通の』中学生とは違う、大人びたとも違う、かけ離れた先輩のことをもっと知りたいと思うと同時に、クマが目立つ中性的な顔を無意識に目で追っている自分に気がついた。……こういうのを吊り橋効果、と言うのだろうか。

 

 恩人ではある。同時に変な人だ、とも思う。

 多分、好意的な感情を抱いている、と思う。

 

 何となく、気怠げな横顔を見る。

 眼を凝らさずともクマが見える。あ、右の目元に泣きボクロ発見。少し長めの髪の毛で隠れてたのか。

 

「眠そうですね」

「うん、眠いのよ」くぁ、と欠伸を一つ「夜の方が集中できるから、作業予定を詰め込んじゃうのよね」

「電車が来るまで寝ます?」

 

「うーん……眠いけど遠慮しとく」ふぁぁ、と再びの欠伸。

「起こしますよ、私」涙目の先輩を見かねて、少しでも仮眠を摂るよう勧める「電車が遅延しているみたいですし、いつ電車が来るか分からないですし、ただ待つのも大変ですし、ね」

「……甘えちゃって良い?」

「もちろんですよ」

「そうか……じゃあ、そうする」そう言って、先輩は腕を組み、目を閉じて俯く。

 

 先輩はものの数秒で軽い寝息を立て始める。

 この人も寝るんだな、クマがあるんだから当然か、と少し失礼な事を考える。

 ……。

 顔を見る。

 普段はとらえどころの無い雰囲気だけど、寝顔は同級生とほとんど変わらない感じに見える。彼からは先ほど柑橘系の香水の(ような)匂いがした。私には好ましい匂いだった、と思う。学園の初等部は禁止だったが、中等部は香水やアクセサリーは大丈夫なのだろうか?アクセサリーは……見た限りないみたい。私に被せた後で着崩したままの学生服の胸元から香水の匂いが……

 

「うわっ!?」

「──────んえっ?」

 

 気がついたら先輩の膝の上に倒れていた。

 ……なぜ?

 

 電車が来るまで10分ほどかかる。混雑の中、アナウンスが告げた。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 鉄鋼ステージ、というらしい。

 地面に倒れた時、甲冑が鉄の地面にぶつかる音が良く響く。

 

「さて、今までので何となく分かったかな」

「私では天と地がひっくり返っても勝てない事が分かりました」

 

 3回『対戦』して、手も足と出ない事を叩き込まれた。

 相手は大ベテランだから仕方ない……とはいえ、悔しくないと言えば嘘になる。

 

「本題は違うでしょー」

 

 槍でツンツンされる。

 鎧がカンカンと鳴る。

 

「分かってますよーだ」

 

 不貞腐れたくもなる。

 

 なにせ約30分の座学の後、約30分の実践。

 合計一時間のコースを3回も繰り返した。

 

 座学ではバーストリンカーの基本を叩き込まれた。

 例えば、他人に明かすべきでは無い。

 例えば、個人情報の扱いに注意すること。

 例えば、身バレした際の末路と、万が一の際の対処法。

 

 レクチャーの後はカラーサークルとメタルカラーについて教わり、辞書を与えられた。

 覚えるべき単語が纏められており、マークが付けられているモノは『色だから特に覚えるように』と教わった。

 一応はアルファベット順になっており、Aならalexandrite(アレクサンドライト)(子の一人。鮮やかな赤と緑の宝石)やaluminum(アルミニウム)(戦乙女)、aqua()(水色ではなく水)やardor(業火)(巫女っちゃん)、argon(アルゴン)(『目』を開いた正義の女神)などBなら『b』iridian(ビリジアン……?)(実はvなんだよねviridian(ビリジアン))やblack()(怨敵)、blood()(赤の最高幹部)やblue()(最強)など、CならCamel(ラクダ)(『粘り』強い)やchromium(クロム)(R.I.P)、Clearsky(クリアスカイ)(子の1人。晴れの空)やcrimson(深紅)(相棒!)、cyan(シアン)(期待の新人)、など、DならDaybreak(夜明け色)(我ながら何色なんだ?)、Desert(砂漠)(子の一人。周囲を砂漠にするヤベーやつ)等と注釈を一緒に載せてくれている。

 

 色の話のついでとして、私のデュエルアバターは『多分青系』らしい。

 青のドレスの上に白銀の鎧を纏っている小柄な騎士のようなアバター。髪は黄金のロング。

 月光(ムーンライト)という曖昧な色のイメージである青、白、黄が合わさっている。武器が大剣だから近接系の青で良いだろう、と先輩は分析した。

 

 実践では……ボッコボコにされた。

 初めは大剣(強化外装というらしい)や特殊能力(アビリティ)、必殺技の使い方を学んだ。

 続いて、色んな武器の特徴を学んだ。

 色んな武器、というのは先輩の鉄製の道具を創り出すアビリティ『Ironic_Ironmonger(アイロニック・アイロンモンガー)』を使って作り出した武器のこと。ついでに、先輩は大量の強化外装を持っている。

 どうやって学んだか、というと『実際に試してみるのが一番』という事になった。

 私は剣で切られたり、槍で突かれたり、弓矢を射られたり、銃弾を食らったり、ナイフと体術を組み合わせた原理のよく分からない投げ技を食らったり……まぁ、色々と酷い目にあったのだ。

 

 本当に不貞腐れたくもなる。

 

「色から相手の傾向が何となく掴めて、変な必殺技やアビリティを持ってなければ武器は見れば分かる。

 適切な間合いを見極めて戦えば、手も足も出ない場面は少なくなる。

 後は……後は実践あるのみ」

「合格。そこら辺が分かれば大したもんだ」

 

 先輩がこめかみに銃を突きつける。

 

「試合時間も僅かだ。決着をつけるとしよう」

 

 息を飲む。この瞬間は嫌いだ。

「あぁ、そうだ」と思いだしたかのように「何回か言ったけど」先輩が告げる。

 

「レベルアップはしばらくしないようにね」

 

 銃声。

 銃弾が頭を貫通する。

 私の頭ではなく、先輩の頭を。

 このやり取りは都度4回目となる。

 

 先輩のHPが急速に減り、私のHPの割合を下回った瞬間、TIME UPの炎文字が目に映る。

 あの人は私を指導しながら時間を確認していたことになる。

 

 †

 

 シンプルなシャツの男性が私を迎える。

 

「やぁ、おつかれ」

 

 何度目かの『初期加速空間』に私はいた。

 

「お疲れ様なのは先輩です」

 

 この人は何度『死んだ』のだ?

 

「良いんだよ、初心者を鍛えるのはベテランの常だ。しかも相手が『子』ならば尚更さ」

 

 視線の端に表示される、レベル2に昇格できる、と何度目かのメッセージ。

 先輩の意図は分からないが、実戦経験を積まないままレベルアップするのは『正しくない』のだろう。

 

 正しくない。

 今更だが、正しくないって何だろう。

 先ほどから、先輩は色んな事を叩き込んでいる。

 ふと、気になったので聞いてみた。

 

「先輩は、私にどんなプレイヤーに───バーストリンカーなってほしいんですか?」

「……んー」一息の間「難しい事を尋ねるね」

 

「ちょっと考えさせてね」

「わかりました」

 

 んー、とシャツの胸ポケットから取り出したペンをアゴに当てて考え込む先輩。

 何となくカッコイイような気がする。クマも完全再現されている。

 

「ちょっと脱線、というか」目が合う。どこか気まずそうで恥ずかしそうな顔を見せる。この顔は新鮮だ。「昨日の、俺が書いた、その、あの『本』の内容、覚えてる、か?」

 

 ……。

 邪な感想が吹き飛んだ。

 あの『本』の事を忘れるはずがない。

 冒頭が、『全ての記憶を失った未来の君、いや未来の俺へ』で始まる一冊のノート。

 本質はノートでも『本』でもなく、言わば遺書であった。

 

 序盤は『世界』のルールについて書いてある。

 続いて、同様の『本』をいくつか書いたこと。

 この『本』には二人の友達の話が書いてある。

 

 平凡な少年が、とある切っ掛けで力を得た。

 少年のパートナーの少女は高い理想を持っていた。

 全ての住民を守りたい。

 理想を叶えるには力が必要だった。

 少年は少女に力を預けた。

 そして、理想に裏切られた。

 少女は死に、少年は狂い果てた。

 狂い果て、そこには怪物がいた。

 少女が守りたかった住民に、守りたかった世界に──────尊い理想を踏みにじり裏切った全てに災いをもたらすために。

 

 そして、語り手は動き出す。

 手遅れと知りながらも、悲しき怪物を終わらせるために。

 

「俺はこの世界を呪う。穢す。俺は何度でも甦る」

 

 怪物は今も、世界のどこかで待っている。

 

 

「教え導くのは、俺みたいな連中には義務、というより呪いみたいなもんだ」

 この世界に長くいると辛い事が多くあることに気が付く。

 仲間が裏切ったり、バケモンみたいになっちまったりな。

 それでも、辛いことだけではないんだ。

 楽しい事が、喜ばしい事が多くあった。だから失いたくなくなるんだ。

 俺はもう一つの人生だと考えている。

 芽生える友情もあれば、殺し合うしかなくなる事もある。

 少しでも彩れる様にするのか、それとも延命を臨むのか。

「まぁ、なんだ」遠い目をする先輩「俺みたいにはなるなよ」

 

 そう言って先輩は締めた。

 

 そして、再び先輩と戦い、再び先輩は自死するのだった。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 満員電車。

 数秒しかいない現実世界が、ずいぶんと久々なようにすら感じる。

 

『さて、実戦を見せよう』

 

 バーストリンク。

 先輩がそう告げた瞬間、耳を叩く『加速音』と共に『初期加速空間』に移させる。

 

 満員電車から人が消え、ポリゴンでできた青く空虚な車両が目に映る。

 電車に乗っているのは2人だけ。私と先輩だけ。

 

 私のアバターは昔から使っているエプロンドレスのウサギ少女。先輩のアバターは今回はカウボーイ。クマは変わらないのに、服装が毎回変わっている。

 先輩は座席に座り、行儀悪く足を組んでいる。

 

「お行儀悪いですよ」

「誰だって悪ぶりたくなる時がある。みっともなく見栄を張る瞬間があるのさ」

 

 そう言って、不思議な形をした銀色の容器を取り出し、中を呷る。

 小さな瓦のような胴体にキャップの首がついた容器。洗いづらそうな印象を受ける。

 ふぅ、とため息をつき「さて、と」そんなふうに気取った口振りで話し始める。

 

「今から俺が戦う。君はそれを観戦していて欲しい」

「観戦、ですか」

「そう、観戦。先ずは見て学ぶ事。良いね」

「はいっ、分かりました!」

「良い返事だ。対戦を始める前に、注意事項を伝えるから覚える事」

 

 †

 

「今回の対戦相手は……」

「観戦をしているバーストリンカーは沢山いる。彼らに『親』が俺である事は伝えても構わない。でも、隠しておいた方がいいことがあって……」

「観戦中に戦いを申し込まれる可能性がある。相手が一人なら可能な限り断る事。相手が二人だったら……」

 

 †

 

「さて、対戦開始だ。よく見ているんだよ」

 

 † † † † †

 

 耳を叩くような効果音と共に、足音が変わっている事に気がつく。

 手を見る。柔い手の平ではなく、籠手を模したアーマーがある。

 

 Moonlight_Sylphid(ムーンライト・シェルフィード)

 私のもう一つの名前。もう一つの世界を歩く分身の名前。

 妖精の名を冠した小柄な鎧の騎士の姿のアバター。それが私の心の傷。

 囚われの妖精騎士は月光を剣にして檻を壊し、月の下を飛び回るだろう。

 

 制限時間30分のデュエルが始まる。

 

 視界の左上にはDaybreak_Fantasmの字と体力ゲージと必殺技ゲージ。

 そして、画面の右上には───

 

『今回の対戦相手は…』

 

 ───Sapphire_Spearhead(サファイア・スピアヘッド)

 意味は──────サファイアの一番槍!

 

 †

 

「今日は少し遅くね?」「ないかと思ったぜオセロ」「これがないと一日が始まらん」「今日も8erVS8erで白黒つけてもらおーかね」

 

 目線を上から周りに移す。

 そこには数十人の人影がある。

 先輩から聞いている。彼らは(私も含むのだが)対戦を観戦するギャラリーだ。

 

「あの、すいません。ちょっと良いでしょうか?」

 

 試合の行く末を見ながら、雑談をしている周りのギャラリーに話しかける。

 

「あら、見ない顔」「初心者じゃーん」「これは10年に一度の美少女」「週二じゃねーか」「その声は我が友李徴子ではないか」「猛獣使いは黙ってもろて」「青?かなり青板だよねコレ?」「青板ってなんだよ」「青の後輩キタコレー!」「青にも新入りいただろ」「ゴツイ男なんぞ眼中にネーのよ」「爽やか系ゴリマッチョだからね、彼」

 

 恐ろしい、どんどん話が逸れていく。

 

「あのっ、私、初心者でして、マナーとか教えていただけないでしょうか?」

 

「半年ROMれ」「5時間ないじゃねぇか」「つまり昼飯前って事よ」「美少女に教えるチャーンス」「と言ってもルールなくね?」「リアルの名前を言わない」「当たり前だけど、大切な事だな」「親バレはしない方が良いかもよ」「親が身バレしてるとアカンからなぁ」「ルールあるやん」「親が教えてるだろ、というのは軽率か」「身バレしてる親が、子を観戦させるか?」「あー、やめやめレスバしてどないすんねん。スカッとしに来てんちゃうんか?」「エセ関西弁うさんくせぇ」「なんやて」

 

「えっと、自己紹介、しますっ!」

 

 喧騒がピタッと止まる。

 深呼吸。

 

「私のデュエルアバターはMoonlight _Sylphid(ムーンライト・シェルフィード)と申します。あと、親から親バレしても良いと言われていますが、どうしましょうか」

 

「解読班はよ」「シェルフィードは妖精の一種。風の妖精だね」「月の光の風妖精という事か」「ムーンライトって何色?」「親バレOKか」「月を盗み出してしまおうか」「それ親の前で言うてみ。ボコボコにされるで」「親わかんの?」「まぁ、初めての観戦の時点で察するよね」「どゆこと?」「初めての観戦は自分のバトルにしたがらん?」「異議あり!」「異論は認めませーん」「民主主義は死んだ」「加速世界にはそんな上等なモンは初めから生まれてないんだなー、コレが」「うーん末世末世」「いやいや、我らが槍のアニキには既に子がいたよね」「えっ、じゃあ太陽王の子」「貴殿の武装、それは剣か?」「武器商人の子なら槍でも弓でも何でも持ってるかも知れんよ?」「アカン、フルボッコにされる」「まぁ、追求はなしで」「「「「「りょうかーい」」」」」

 

「えっと、話は着いたのでしょうか?」

 

「着いた着いた」「大丈夫だ、問題ない」「あれば確か……」「続けて続けてー」

 

「今回の戦いはどんな感じなのでしょうか?」

 

 先輩(デイブレイク)は移動しながら、両手から複数枚のカードを投擲する。頼りないはずのカードが道路標識や信号機を容易く切断していく。

 溜まる必殺技ゲージ。

 同時に必殺技ゲージが減少する。

 直後、空中に現れる無数の鈍器。それらは周囲の建造物に突き刺さり、次々と建物を破壊していく。

 加速度的に必殺技ゲージが溜まっていき、1分足らずで必殺技ゲージが満タンになろうとしていた。

 

「コレかぁ」「初戦からハードモード」「ステージとか教える前に特殊(イベント)戦闘だからなぁ」「一応だけど、このステージは風化ステージって呼んでる」「物が壊れやすくて、時おり強い風が吹く」「物が壊れやすいってことは、必殺技ゲージが貯まりやすいって事だ。今みたいに」「ほら、デイブレイクの必殺技ゲージがグングン溜まってるだろ」「やっぱアレはズルだって」

 

 ふと、当たりが暗くなる。

 デイブレイクを見ると、彼の外套が眩い光を帯びているのが分かる。

 

「お、いきなりぶち込むのか」「展開はやくなーい?」「くるぞ来るぞ」

 

「……なんですがアレ?」

 

「そういや初見さんだった」「デイブの最終奥義よ」「最終とは」「稀によくあるってヤツだね」「説明しよう!モーニングシ」「光を集めて打つ。それだけよ」「説明とるなー!」

 

「なる、ほど?」

 

「───《ファーストライト》」

 

 デイブレイクの必殺技コマンド。

 極太ビームが右目から放たれる。

 首を振ったため、黄金の光線が扇状に放射される。

 

「「「「「「モーォォォォォニングショォォォォォッッッッッット!!!!」」」」」」「キター!!」「これで勝つる!」「フラグやめーや」「目が、目がァ!」「目覚めの一撃。サイコーだね」「くぅ〜、これにて完勝です。えー、鑑賞した感情ですが」「目に染みるわー」「季節外れの初日の出を見た気分だぜ」「それは初日の出と言うのか……?」

 

 轟音をたて、次々と建物が崩壊していく。

 ……なんだコレ?

 

「唖然とするのも無理はない」「ちょっと男子ー、初心者さんが呆然としてんじゃーん」「真の英雄というのは輝いているのものだからね」「物理的に輝くんじゃねーよ」「またハゲの話してる……」

 

 比喩表現でなく、砂上の楼閣と見紛う光景を見やる。

 そんな中、砂煙に向かって(暴風)に輝く大弓に(爆発)を纏った槍を番えるデイブレイク。

 その構えが伊達や酔狂でやっているのではない事は明白である。

 

 なぜなら、サファイアのHPバーはほとんど減っていない。

 そして見よ─────砂埃舞う傾き崩る建屋を駆け上る人影を!

 

「この孤独なシルエットは一体!?」「どっこい生きてる槍のアニキ」「そこに痺れる憧れるゥ!」「いやー立体機動してるわー……どっかにワイヤーない?」「壁って走れるんやな。やってみよ」「そこには人型の穴が一つ」「描写がギャグ漫画なんよ」

 

 デイブレイクが放った槍。

 それを不安定な体勢から投擲した槍で迎撃する。

 

 直後、大爆発する橙の槍。

 一割ほど減少するサファイヤのHPバー。

 

 砂煙が晴れる。

 そこにサファイヤは─────いない。

 

 ふと、サファイヤの青が視界に入る。

 

 ──────上。

 

 爆発で吹き飛ぶ破片を利用した大ジャンプ。

 ……でたらめだ。

 

 サファイアは槍を構えた右手を大きく振りかぶる。

 

「《コメット───」

 

 槍は輝きを増していく。

 サファイヤの青─────いや、ピンクサファイヤ(・・・・・・・・)の赤!

 

「───ジャベリン》!!!!」

 

 遠隔の赤。

 古来より槍の使い方は投擲が主だった。

 それならば、槍の名手たる彼が投擲を使えないワケがない。

 彗星(コメット)投げ槍(ジャベリン)の名前そのもの、巨大隕石がちっぽけな人間を圧し潰すようなプレッシャーと共に、致命的な破壊力で落ちてくる。

 

「装着──────シールド・シープクラウド」

 

 相対するは盾。

 古来より、投げ槍を防ぐのは盾と相場が決まっている。

 シープクラウド、羊雲。なんとなく頼りなさげ、防ぎきれないような名前の盾だった。

 しかし、分厚い衝撃吸収素材とダイヤモンドを思わせる輝きをした雲の塊。無数に存在するそれが一直線に並び迎え撃つ姿は神話を再現しているようにも思えた。

 

「これなるは大英雄の投擲を防いだ」「スピアを相手の防御にシュゥゥゥーッ」「何度目だコレ?」「いつもの」「おとおし」「未成年飲酒定期」

 

 激突。閃光。衝撃。轟音。振動。

 そこに残っていたのは貫通された盾、穴の開いた盾と地面に突き刺さったままの槍。

 距離を取り、無傷のデイブレイク。

 突き刺さったままの槍が青き一条の光となってサファイヤの手に槍として収まる。

 

「チ──────無傷かよ」

「そうでもないさ、虎の子の盾を破壊された。この戦いでは、君の必殺技を防ぐことは出来ないらしい。」

「そうか───」投擲される無数の鉄器「───よっと」槍捌きと体術でいなす「油断の隙もねぇな」

「君もだろう」唐突に放たれた槍の投擲。その軌道を幅広の短剣で逸らす。

 

 空に消えた槍が、青のレーザーとなってサファイヤの手元に戻り槍を形作る。

 

 フ、と先輩が、デイブレイクが微かに笑ったような気がした。

 

「装着───モーニングラーク、ナイトフォール」

 

 その手に在るは、刃物が取り付けられた大型の二丁拳銃。

 

 同時に、微かにサファイヤの空気が変わったような気がした。

 

 刹那、激突。

 槍と二丁拳銃の近接戦闘。

 現実では二丁拳銃の圧勝だろう。

 

 だが、この世界では違う。

 サファイアは近接の青。先ほどの必殺技の際、槍はピンクサファイヤの輝きを放っていたが、基本的に近接戦闘を得意としているだろう。

 題してデイブレイク。……コレは何色だろうか?素体の色は黒に近い紫。コートは白に近い黄金。何色でもない、が正解かも知れない。

 近接戦闘ではデイブレイクは不利になるだろう。

 

 だが、デイブレイクは渡り合っている。

 理由は複数ある。

 刃がついた二丁拳銃ゆえに距離に関係なく戦える事。

 そして、鉄の道具を自在に作り出せるというのも大きい。空中に鉄器を創造する、(炎熱)のマキビシを撒く、(暴風)を纏った鉄器を射出するなどして隙を埋めている。

 

 ふと、距離が開く。

 射出される無数の(暴風)鉄器。

 それら全てを槍捌きと体術で捌ききる。

 

 サファイヤが体勢を低くし、槍を構える。

 同時に、デイブレイクの外套が強い黄金の輝きを放つ。

 

「《ライトニング───」

 

 サファイヤの残像が目に焼き付く。

 デイブレイクの目前まで、瞬間移動をしたのかを思わせる雷速で移動する。

 

「───ピアッサー》!!」

 

 紛れもない必殺技。

 蒼き光を放つ刺突。

 しかしながら、デイブレイクはその場にいない。

 

「躱したな、我が必殺の一撃を」

「ああ、懐に入れさえしなければ、絶対貫通であっても恐るるに足らずだ」

 

「ほんまかー?」「またイチャイチャしてる……」「何で躱せるんだよ」「槍構えてから立体機動VS目前で大ジャンプ……ってコト!?」「クソゲー定期」「運営は俺らも強化しろ」「ないよ、運営見た事ないよ」

 

 睨み合う二人は体勢を整える。

 

「──────やはり、この双剣が一番手に馴染む」

 

 僅かに湾曲した幅太の短剣を二振り創造、(頑強)金に輝くソレを交差させて構える。

 

「俺はこの槍しか知らねぇよ、だから、この槍が一番いい槍なのさ」

 

 蒼玉の輝きを放つ槍を二、三度回し調子を整える。重さを場に馴染ませ、風に晒す。

 

 ふと強い風が吹く。

 風化ステージの特徴の1つ。

 

 再びの激突。

 短剣が槍に弾かれ、弾かれた瞬間には手元にある。

 槍を突くのは戻す手間を考えれば容易く繰り出すべきでは無いが、槍衾の如く連続して突きを放つ。

 足払いを即席の杖で防ぐ。射出された槍を掴み、そのまま投げつける。巨大な(頑強)の盾で槍を弾き、そのまま身を隠して突進。「装置───」槍を盾に引っ掛け、棒高跳びの応用で跳躍、そのまま上から襲いかかる。「───カッター・トルネイド」巨大な扇風機で迎え撃つ。空中にいながら、扇風機から放たれる風の刃を槍で弾く。互いに距離を取って仕切り直し。

 

 何となくだが、二人が笑い合っているように感じた。

 

「今更で悪いが、バトルする二人を紹介するべきだわな」

 

Daybreak Fantasm(デイブレイク・ファンタズ)

 

鍍金(フェイシング)あるいは鍍金の王(マスカレイド・オーガナイザー)」「嵐を呼ぶ太陽王(ソーラー・ストーム)」「ふふふ、ヤツは西東京最強。しょせん俺らは面汚しよ」「お前さんが言うと説得力あるなペインター」「デイブは鉄鋼ステージにて最強」「月光ステージ大好きビッグファザー」「深紅の夜明け(クリムゾン・デイブレイク)の片割れにして外装担当」「弁慶」「罠師」「武器商人」「死の商人」「天狼殺し」「月の解放者」「二巨人を従える者」「そのもの二巨人を率いて月蝕ステージに降り立つべし」「つまり、3人あわせて青の王くらいの強さというワケか……バケモンじゃねーか」「いつもの」「初心者の前で身内ネタすんなし」

 

「奥義、誘電剣山!」「しゃらくせぇ!」(電撃)を帯びた砲丸が周囲の鉄器を引きつける。蒼き槍使いは抜群の敏捷性で躱し、槍さばきで弾き飛ばす。その直後、(凍結)棘付き鉄球と鎖(モーニングスター)が振り回され、周囲の瓦礫と鉄器が複雑に固定される。同時に(暴風)の槍が槍衾の如く降り注ぐ。降り注ぐ槍を蹴り、反動で天に駆け上がるする蒼の煌めき。彗星投擲には一定以上の速度と高度が必須である。それを迎撃せんとする無数の飛び道具を放つ弓使い。全てを躱し、防ぎ、放たれる二度目の彗星投擲。「これは俺の隠し球だ」「それは、『家』か!?」空中に突如顕る建造物、戸建ての一軒家。「いいや、武器庫もしくは───」(頑強)を纏った『家』は半ばまで貫かれた途端に内部から(爆発)の光を放ち大爆発を引き起こす。「───火薬庫だ」爆発の内部から蒼の光が溢れ、サファイアの手元の集まり槍を象る。建材の破片が飛び散る中、再び戦況は振り出しに戻る。

 

Sapphire Spearhead(サファイア・スピアヘッド)

 

蒼の一等星(スターサファイア)」「千変万化の自在槍(パパラチア)」「青のレギオンの幹部」「風来坊な気質で幹部らしい事はほとんどやってない問題児」「遠征のリーダーやってるやろ」「会議バックレ上等なんよ」「めちゃくちゃ強い」「青の不満分子のガス抜きを適当にしている」「よくしごかれる」「ちょっとアニキ、尻青が震えてんじゃーん」「不名誉すぎるあだ名を考えたのは誰だ!?」「青の尻の方にいる尻の青いヤツの嘴は黄色いらしいな、ピーチクパーチク可愛らしい事で」「許せん、これ終わったらぶちのめしてやる」「おう、望むところよ」「ところで最強の槍使いってアニキで良いの?」「それは結論出てたろ、ブッチギリで最強や」「とにかく逃げられん、壁は走るし天井は足場になるし」「投槍で地面抉るって何だよ。巫山戯んな死ぬわ死んだわ」「成仏してクレメンス七世」「破門、破門でーす」

 

 風化ステージの建屋の残骸が細かく散らばり、風に乗って戦場に舞い散る様子は砂嵐のよう。

 砂場で遊ぶ少年のように、二人の戦いは無邪気に、終わる事を拒むように激しくなっていく。

 

 なぜか私は、ひどく羨ましく感じるのだった。

 

 †

 

「バースト・リンク」

 

 現実世界に戻った直後、再びの加速音が耳を叩く。

 

「──────疲れた」

 

 そう言って座席にだらしなく座る先輩。

 疲労困憊を絵に書いたらこんな感じだ。

 

「お疲れ様です。何で加速したんですか?」

「人混みの中で休むより、誰もいない加速世界で30分でもいいから休みたい」

 

 ラフな格好で、「うー、あー」と意味の無い呻き声をあげながら座席で天を仰ぐ先輩。

「あ゛ー……そういや、アイツの中野区で対戦すんのは珍しいな……まぁ、別にどうでもいいや」と目に手を当てて天を仰ぐ。目が疲れた時にやるアレである。

 昔のマンガやアニメで見た『銭湯から出てトランクス一丁でタオルを羽織り、コーヒー牛乳を片手にマッサージチェアに座る中年男性』みたいになってる。

 今まで持っていた何処か神秘的なイメージがガラガラと崩れていくが……「お疲れ様です」「ありがとうね」これはこれで、ある種の親しみやすさすら感じる。

 ……なんと言うか、手遅れなんだなぁ、私。

 

「休む以外の別の目的もあるけどね」そう続け、先輩はコーヒー牛乳の代わりに例の『瓦のような銀色の容器』を呷る。

 

「それって何が入っているんですか?」

「うん?ああ、スキットルの中身?麦茶よ」

「……泡の出る麦茶、みたいな感じですか?」

「アルコールは入ってないねぇ」

「本当にただの麦茶なんですか?ちょっとカッコイイ感じの銀色の容器なのに」

「何入れても良いだろう。確かに現実のスキットルは洗いにくいからアルコールの類しか入れられんけど、加速世界は自由なんだから」

 

「君も飲むかい?」そう言ってスキットル(覚えた)を差し出される。

 

「ありがとう……ござい、ます?」受け取ってから、ふと考える。これって「これって関節キスになるんですかね」「知らんよ」

 

 飲んでいいのかダメなのか。

 いや、飲んでいいとは言われている。

 

「個人的な感想だけど、関節キス云々より耳まで真っ赤にして葛藤している姿の方が……その、なんだろうグッとくる、と言うか」

 

 一気に飲み干すことにした。

 先輩はミステリアスでなく、割と残念な人なのを巧みに偽造しているだけなのかもしれない。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

「この後は何をするんですか?」

 

 激闘直後の加速が始まってから10分ほど経った。

 先ほど「これ読んどいて」と言って渡された『武器辞典』を読みながら問いかける。

 

「パワーレベリングって知ってる」

「パワー、レベリングですか?」

 

 ゲームの言葉だろうか?

 

「レベルが上のプレイヤーが、初心者と一緒に強敵を倒して効率的に経験値を得させて、強引にレベルアップさせるテクニックの事」

「そうなんですね」

「なので、新宿区に入ったらパワーレベリングをします」

「──────え?」

 

 今、なんて?

 

「これからタックを組んで、バーストリンカーに手当たり次第に戦いを挑み、大人気なくポイントを奪いに行きます」

「え」

 

 ──────えええええええ!?

 

 私の内心の叫びを無視して「次の相手の武器は1人がハンマーと斧の間の子、もう1人がバズーカに近いから予習しておくようにね」なんて言うのだった。

 

 † † † † †

 

 長いトンネルを抜けると───そこは密林だった。

 

「今回は原始林ステージだね」

 建物がデカイ広葉樹になってる。

 小動物が多く出現する。卵は割らないようにね。

 よし、それじゃあ行こう。

 あ、そうだ──────

 

「作戦は覚えているね」

「は、はいっ」

 

 私が突撃して、先輩が側面から攻める。

 それだけの事を作戦とよんで良いのだろうか?

 

「良いんだよ。初心者に難しい作戦の実行は要求しないよ」

 

 ……そうですか。

 

「それじゃあレッツゴー!」

 

 †

 

 アビリティ:Air_Flow_Feeld(エアフロウ・フィールド)

 効果は自分の周りに風を纏うこと。

 必殺技ゲージを消費する事で、ある程度の操作ができる。

 

 このアビリティのおかげで、ときどきやってくる虫がぶつからないのは有難いことだった。

 時折、大きめな虫が目に入るので、長剣で叩き切る事で必殺技ゲージを貯めていく。

 

 そのまま、相手の位置を表すカーソルに従って進んでいく。

 カーソルの青が濃くなるにつれ、相手の距離が近くなっていく。

 見通しが悪い原始林ステージだからお互いに姿が見えない。

 体勢を低くしたりすべきだろうか、と考えた。

 

 ──────サフィーの真似事では無いがな。

 

 ふと、そんな声が聞こえた気がした。

 その瞬間、(爆発)色の光を帯びた槍が空を駆ける。

 大弓を使って射出された槍が、カーソルの先に向かい────。

 

 爆発。

 対戦相手の悲鳴が響く。

 

 相手は混乱しているらしい。

 つまり───好機!

 

 必殺技ゲージを消費。

 循風結界(エアホロウ・フィールド)で風を操作。

 背中に実体のない羽根が形成される。

 弾かれたように速度が大幅に上がる。

 その勢いのままに、大剣を大上段に構えて───

 

「──────チェェストォォォォ!!!」

 

 対戦相手に向けて思いっきり振り下ろす!

 

「甘いッ!」

 

 対戦相手の1人、Mauve_Maul(モーブ・モール)が振り向き、武器を構える。

 

 大剣の大振りが長柄で受け止められる。

 一瞬の拮抗。

 互いに弾かれたように距離をとる。

 

 モーブ・モール。

 モーブ色(青と灰色が混ざった紫)のモール。

 モールとは木を切ることを目的とする柄の長いハンマーで、モーブ・モールの武器はハンマーの片方が斧になっている。

 

「外見に似合わず重い一撃だ」

「そちらこそ、外見からは想像できない素早さですね」

 

 ガッシリとした体格のアバターだから、動きが重いと思ったが素早く対応してダメージを抑えた。

 

「原始林ステージの特徴だが、葉っぱが音を鳴らすんだ。覚えておくといいでしょう」

「なるほど……ありがとうございます!」

「いやいや、どういたしまして」

「参考にさせていただきま───すっ」

 

 再び斬りかかる。

 先程と同様に柄で受け止めて受け流される。投げられる直感。投げには───風!とっさの判断と同時にモールの刃が回転するように襲いかかる。

 腰の辺りで真っ二つにする大斧、横薙ぎのギロチンの如き一撃に風の操作で対処。崩れた体勢を強引に移動させて躱す。

 

「1つ忠告を」

「なんっ、でしょうか」

「対戦相手は1人だけでしょうか」

「──────!」

 

 咄嗟に飛び退き、背後を振り返る。

 そこに居たのはCamel_Caramel(キャメル・キャラメル)

 私が立っていた場所には粘度の高い液体が撒かれている。

 

 キャメル・キャラメル。

 ラクダ色のキャラメル。

 フタコブラクダのシルエットに見える、背中に背負ったタンクが特徴。

 両腕に1個づつ構えているバズーカから放たれるキャラメルを食らうと、体力が継続的に回復する代わりにネバつきで拘束されてしまう。

 

 キャラメルを視界に入れながら、再びモールに斬りかかる。

 モールは再び柄で受け止め、カウンターで斧で薙ぎ払う。風を操り、後方宙返りで攻撃を交わす。

 キャラメルは動かない──────いや、動けない。

 

 当然ながら相手の方が格上。

 それなのに、私がある程度は戦えている理由は1つだろう。

 未だに姿を表さない先輩(デイブレイク)を警戒しているのだ。

 

 だから私は大きく動く。

 風を操って飛んだり跳ねたりすれば、相手の注意が引かれ、先輩が動きやすくなる。

 

 走れ私。跳べ私。

 自分に言い聞かせるように、周囲の木々を利用してフィールド中を動き回る。

 当たり前だが、息切れをしない『自分』に驚きを感じる。

 

 

 嗚呼、私は自由だ。

 この世界ならば変われる。そんな気がした。

 

 ───────ハッピーバースデー。

 昨日の先輩の言葉がリフレインする。

 

 私の心の傷から生まれた──────産み出されたアバターが産声を上げる。

 この世界の私は、きっと、未知の世界を跳び回るために産まれたのだ──────!

 

 

 隙をついて(炎熱)の矢や(爆発)の短剣が飛んできて着実にダメージを与えていく。

 体勢を崩したり、踏みつけを喰らいそうになるなど危ない場面が多くあったが、姿を見せない先輩の攻撃が割り込んで防いでくれた。

 

 気がつけば、相手の体力が共に半分ほどになっていた。

 私の体力も半分くらい。だが、先輩の体力はほぼ満タンだ。

 

 この調子なら勝てる。

 そう、思った。

 

 体力ゲージは勝敗の基準ではあるが、勝敗を決めるものでは無い事を忘れていた。

 

「──────モール!」

 

 呼びかけの直後、モールの必殺技ゲージが一気に消費される。

 

「ぅぅぅううぉぉおおおぉぉぉ!!《ウィンドミル・ディフォアステーション》!!」

 

 ───────必殺技!

 戦況を一気にひっくり返す技!

 相手の必殺技ゲージは満タン。

 

 油断した。

 いや、いっぱいいっぱいで、必殺技ゲージについて考える余裕がなかった。

 どうしよう。おちつけ。先輩なら何とかしてくれるはず。いや、自分で何とかしないと。

 

 定まらない思考の中でモールの武器が肥大化し、大振りな横薙ぎを放つ。

 ──────周囲の木々に向けて。

 

「──────え?」

 

 どこに向けて打っているんだ?

 一瞬だけ疑問を抱く私。直後、モールの必殺技の真価を見る。

 

 後で教わったのだが、必殺技の英単語を翻訳すると次のようになる。

 windmill(ウィンドミル)、意味は風車。

 deforestation(ディフォアステーション )、意味は──────森林伐採!

 

 大斧の一撃は風の刃を生み出し───木々を次々と薙ぎ払っていく!

 暴風の大刃は無数の切り株と同数の丸太を作り、一直線に飛んでいく。

 ステージギミックの大規模破壊を行う必殺技──────だと思っていた。

 

 余波として周囲に放たれた暴風が私を襲う。

 循風結界(エアホロウ・フィールド)のお陰で少し吹き飛ばされるだけで済んだ。

 周囲の木々が大きく揺れていることから、かなりの勢いだと推測できる。

 対して、キャメル・キャラメルは装甲のキャラメルを使って足を固定して踏ん張っている。

 

「キャメル!」

「おうよ!」

 

 大型バズーカ2つが合体し、巨大な大砲を形作る。

 私は───────『私たち』は踏ん張りながら変形するバズーカを見ていた。

 

「《モラーサス・フラッシュフラッド》!」

 

 キャメルから放たれるは、キャラメルの鉄砲水!

 濁流が原始林ステージの木々を押し流し、そのまま一人のデュエルアバターを押し流した。

 

「嘘でしょ!?」

 

 先輩が押し流された!?

 これは──────マズイ!

 

「よっしゃぁ!吹き飛ばしとキャラメルのコンボは抜群だ!」

 

 後から先輩が考察した戦法は以下のようになる。

 対戦相手との距離が10メートルを越すとガイドカーソルが表示される。

 吹き飛ばしによって距離を強引に開かせガイドカーソルを表示させる。そして、カーソルの方向にキャラメルの濁流を流す。

 この方法なら10メートル以内の距離で姿を隠す相手でも確実に拘束する事ができる。

 

 私と戦っていたモール喜び勇みながらキャラメルの沼に浮かぶ丸太───原始林ステージの木々を切っておいたのだろう───の上を飛び跳ね、キャラメルの上を一息に鉄砲水の先に向かう。

 

「先ぱ───」

「《キャラメルクランチ───」

 

 そして、私の意識が先輩に注がれていたタイミングをキャラメルは見逃さなかった。

 いつの間にか手に持っていたボールを大砲に詰めるキャメル。

 

「しまった⁉」

「───キャメルクラッチ》」

 

 大砲から放たれるのはキャラメル色の砲弾───否、キャラメルクランチの砲弾!

 私は風を操り、大ジャンプで交わそうとするけど間に合わない!

 

 衝撃が体を襲い、天地が反転する感覚。

 キャラメルクランチのサクサク生地が私を仰向けに拘束する。

 

 顔だけがキャラメルクランチ生地の拘束から出ているため、話すことや見ることは出来る。

 だが、大剣は背中に固定され、風を操っても何も出来ない。

 

 ──────拘束。

 

 これでは、跳べない(・・・・)──────!

 

「今回は俺たちが運が良かった」

 

 キャラメルが私を見下ろし、キャラメル自身に言い聞かせるように呟く。

 

「相手は、あの武器商人」彼方を見つめるキャメル「拘束はしばらくすれば溶けます」キャラメルは私に背を向ける。

 

「モールの必殺技。あれはステージギミックを破壊する必殺技だと思われていますが、真価は周囲に暴風を撒き散らす事にあります」

 

 駆け出すのではなく、後ろの私をチラチラと見返しながら歩く。

 

「ウィンドミル・ディフォアステーションはダメージを与えませんが、暴風を食らった相手が重量系のアバターでないならば吹き飛ばされないように踏ん張る必要がある。つまり、一時的に動けなくなる」

 

 勝ちを確信した様子──────では無い。

 自分自身を落ち着けるため『1人は確実に拘束したから、もう1人を集中攻撃すれば勝てる』そう言い聞かせる口上。

 

「デイブレイクが潜んでいるのは分かっています。そして、彼は素早い。一時的に動きを封じる必要があった」

 

 私に打つ手がない、そう確信を持てたらしいキャメルが私から完全に意識を逸らした。

 

 ──────好機!

 

「《ルナッッ───」

 

 これは私の必殺技──────

 

「───ストラーーーイク》ッッ!」

 

 大剣を青白い光が包み込む。

 青白の剣気は暴風と混ざり、粘液の拘束を吹き飛ばす──────!

 

「何だって!?」

 

 慌てて振り向くキャメル。

 だが、もう遅い──────!!!!

 

「チェェェストォォォォォ!!」

 

 大剣の軌跡は右肩から真下に。

 キャメルの右腕を切り落とした。

 

 †

 

「お疲れ様ー」

「先輩!?いっ、生きてたんですか!?」

「元気ピンピンよー」

 

 キャメルの右腕を切り落とした直後、先輩がひょっこりと顔を出した。

 

「キャラメルってね、熱で溶けるのよ」そう言って、炎の長剣を見せる「名古屋土産の強化外装フレイムベール・フランジュベルジュ。剣の軌跡に炎の結界を作る剣」キャラメルを加熱する事で拘束を振り払い、そのままモールを撃破したらしい。

 

「まさか、油断させるために濁流をわざと食らったのか!?」

「ご名答」

 

「なんてこった」そう呟いて項垂れるキャラメル「また知らない強化外装持ってる」そっちか。

 曰く、先輩がキャラメルの鉄砲水を食らったのは、相手を油断させるためだったらしい。

 先輩を拘束し(たと思い込み)、その後すぐに私を拘束した瞬間に、相手は勝利を確信した───1人は確信し、もう1人は半信半疑だったが───勝利を確信して、隙を見せた。

 

「なんだ、心配して損しました」

「悪かったね。でも、自力で戦わないと経験積めないでしょ」

「それはそうですが……」

「後で感想戦ね」

「はぁーい」

 

 †

 

「なぁ、ムーンライト」

「何でしょうか」

 

 項垂れていたキャメルに話しかけられる。

 

「ナイスファイト。やられたぜ」

「──────」

 

「ありがとうございました!」

「次こそは勝つからな。覚えといてくれよ」

「はいっ」

 

 左手で握手をする。

 

「おっ、バトルで芽生える友情か、いやぁ若いって良いねぇ」

「食えないクソジジイ──────してやられたぜ、良い『子』を持ったな。性格の悪さは教えんなよ!」

 

 †

 

「お疲れ様ー」

 

 再びの加速空間。

 感想戦の始まりである。

 

「じゃあ、次行こうか」

「──────え」

 

 今すぐですか!?

 

「……少し休ませては貰えないでしょうか」

「流石に休憩の時間は開けるさ」

 

 25分くらいしたら次行くよー。

 

「あ、そうそう」先ほど渡された『武器辞典』を開く「この武器は調べとくようにね」そう言って、先輩は『杭打ち機』のページを開いた。

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 最寄り駅から歩くこと暫し、学校が見えてきた。

 正直、私は疲れ果てていた。

 加速をしていた時間は休憩を含めると5時間を超過するだろう。

 ……これから、いつもの一日が始まるのか。

 

「先輩、疲れました」

「いやぁ……ごめんね」

 

 7戦7勝。

 私と先輩のタッグは勝ち続けた。

 基本的に私が前に出て先輩が援護。先ほど『パワーレベリングをする』と言ったとおり、先輩1人で勝てる相手ばかりだったのだろう。その証拠に私は一度もやられること無く、先輩は体力が7割を下回ることは無かった。

 私が一方的にやられている時に強引に割り込んできて、先輩1人でタッグの2人を倒してしまうこともあった。

 先輩は『みんな協力してくれた』と言う。正直、そのとおりだと思う。

 おんぶに抱っこの状態に思うことがないわけではない。それでも……

 

 それでも、自由気ままに跳び回って、思いっきり戦うのは楽しかった。

 

 電車を降りた時点で先輩はタッグを解除。

 その後は『一人で戦う可能性がある』と言われたが対戦を挑まれる事はなかった。

 1人で戦う事はなかった。次は自分の力だけで勝ちたいと強く思う。心の中でガッツポーズ。

 

「今日は忙しいのに、疲れさせてごめんね」

「え、忙しい……」

 

 新学期が始まって二週目の火曜日。

 何かあっただろうか、と一瞬考え。

 

 放課後、沢山の人影、図書室下の袋小路、五点接地でダイナミックエントリーする先輩。

 フラッシュバックする複数の場面。

 

「昨日、の」

「そう」懐から取り出した扇子を開く「映像があるって言ったでしょ」目の前に手を伸ばし、扇子を横に広げて、音を立てて閉じる。まるで、上に乗せたナニカを切るように。

 

 曰く───────

 先生に相談する前に作戦を立てたい。

 信頼できる人物に部分的に話してある。

 今日の昼休みに話し合いをしたいと思う。

 

「大丈夫かな?」

「は、はいっ。よろしくお願いします」

 

 

「今朝の対戦で一番強かったのって誰?」

「先輩は戦った事ないから分からないかも知れませんが、デイブレイク・ファンタズムというバーストリンカーが一番強かったですかね」

「デイブレイクってずるいよな、ファンタズムと戦わなくて良いんだもんな」

 

 

 そんな話をしながら校門をくぐる。

 視界の端で、校内ローカルネットに接続した事を示すアイコンが表示される。

 

 刹那、耳を叩く『加速音』が響く。

 対戦開始──────。

 

 画面の上を見る。

 見慣れたDaybreak_Fantasm、そして──────

 

「──────Clearsky_Arc(クリアスカイ・アーク)、晴れの日の、空のアーク……弓……?」

 

 晴れの日の……アーク?

 先輩の辞書にあった。

 円の一部の弧、あるいは弓。

 つまり、晴天の弓。弓なら遠隔武器、それなのに赤じゃない?

 

「装着、プルーム・パイク」

 

 即座に武器を手にする先輩。

 煙を吐く炎の長槍が顕れる。

 

「先輩?」

 

 一定の距離が離れた場所に立つ先輩を見る。

 

「済まないね、ハルちゃん」私のことを、ムーンライトのことをハルちゃんと呼ぶのは初めてだった「ちょっと軽口を叩ける相手ではないんだ」

 

 身バレ防止のために現実世界の名前やニックネームでは呼ばない、と先輩は言っていた。

 校内ネットワークで戦いを挑んできたという事は学園の生徒。おそらく先輩がよく知っている相手なのだろう。

 

「そう、なんですか」話の続きを促す「どんな人なんですか?」

 

「青の大幹部」サフィーと同格だね、と続ける「俺の『子』の中で最強かもしれん」

 

 ……なんか、モヤっとする。

 

「彼の名はClearsky_Arc(クリアスカイ・アーク)、空の弓であっているかも知れないな。空の弓が打ち出すのは雷だからね」

 

 後で聞いた事だがarcには別の意味もある。

 電弧((electric) arc)。アーク放電。

 

「青空から雷を放つもの、言わば青天の霹靂。直訳すると青空のアーク放電。特徴を詳細に述べるとアーク放電の日本刀を持って、超高速で接近してくる侍」

 

 普通に戦ったのでは勝ち目がない。

 だから『この長槍』が必要になる。

 電撃を吸収する性質を持つ長槍(パイク)

 Plume(プルーム)には噴煙という意味があり、煙と熱を持つ。電撃の吸収は火山雷のイメージなんだろうね。

「万全の準備をしないと負ける相手なんだ」

 

「万全の準備、なぁ……」気だるげな声「オレからしたら、その槍がないと戦いになりませんって言ってるみたいに聞こえるなぁ」

 

 ソレは、いつの間にか現れた。

 羽織に袴の細身の男性型アバター。

 右手には電撃を帯びた抜き身の日本刀。

 校門の正面から此方を伺っている。

 

「その発言に訂正は求めないさ」やれやれ、と肩を竦める先輩「逆に、俺が『戦いで使った事を見たことがない強化外装』を持ってなかったらば、即座に居合で首を刎ねるか胴切だろうに」槍の穂先を向ける「お前さんがいつもしてる、『勝ち目が薄い相手、正体が分からない相手とは戦いませんって』姿勢が気に入らんのよ」

 

「ハッ、笑わせる」吐き捨てるように「相手を選ぶのは戦いの常だろうが」

 

「間違いないな、だが、ある程度の身分のヤツには責任が付き物だ」一息「少なくともサフィーならば、誰が相手でも戦いに行くだろう」

 

 その一言が空気を変えた。

 

「その槍で戦おうってか」嘲る口調「拾いもんの槍でよ」

「戦うとも。君にも聞かせただろう、富士山頂での死闘を」

「キョーミねぇなぁ」相手をバカにする仕草が目立つ「お前が槍を使えるかよ」こういう口調の人は、キライだ。

「使えるとも。なんせ俺は、加速世界で最も槍の使い方が上手いヤツと戦ってきたんだぜ」

 

 激突。

 決着は5分とかからなかった。

 戦場に立っているのは一人。左腕を喪いながらも槍を手にしていた。

 

「悪いけど、今日の俺は最強なんだ」先輩がこちらを見る「『子』の前では───いや、君の前では恥ずかしい戦いは出来ないからね」

 

 †

 

 戦闘終了。

 試合は一方的だった。

 

 踏み込みの瞬間からトップスピード、目にも止まらぬ速さで駆けるアーク。

 対して──────地面に大量のマキビシやナイフを撒いた先輩。

 (電撃)を帯びたマキビシや刃物は電気に吸い寄せられ、アークは自分から槍衾に飛び込む形となった。

 アークの放つ電撃を纏った神速の斬撃は全て槍に受け止められ、灼熱の槍が放つ高熱でダメージを食らわせる。

 最終的には無数の鉄器に全身を貫かれたアークが、乾坤一擲とばかりに切りかかる。左腕を肘から切り飛ばしたが、顔の中央に槍で穴を空けられて敗北した。

 

 いやぁ、先輩ズルいなぁ。

 

「先輩、サイテイです」

「いやぁ、こうでもしないと勝てないし」

「恥ずかしい戦いはできない、とは?」

「恥ずかしくないね!バーストリンカーになったばかりの頃は、こういう戦法しか出来なかった事を思うともはや伝統芸能さ。伝統芸能なら堂々と見せるべきだろう」

 

 乾いた風が吹き抜けた気がする。

 

「まぁ、アイツはキレてるだろうなぁ」

「そうでしょうね」

 

 先輩の誘導で人気のない場所に移動する。

 そして、人影と相対する。

 

「おう、薫」

「やぁ、大久保先輩。ご機嫌麗しゅう」

 

 体格が凄いし顔が怖い。

 わぁ、スゴく逃げ出したい。

 

「なんつーか」あぁ、確かにアークだこの人。口調が同じだ「そんな貧相なのが良いのか?」……私、この人キライ。

 

「負けた腹いせですか?」思ったより低い声が出た「私のことバカにするのは良いですけど、先輩を巻き込むの止めてくれませんか」

「あぁ?言うじゃねぇかチビ」

 

 睨まれる。

 正直怖い。

 怖い、けど──────睨まれただけで負けてたまるか。

 

「はいはいストップストップ」

 

 先輩が間に割って入る。

 

「大久保先輩は相変わらず第一印象が最悪なんですから自重してくださいな」

「ひでぇ良いようだな」

「ハルちゃんは所構わずチェストしない」

「ところかまわずチェスト!?」

 

 しないもん!じゃない、そんなにチェストはしていない!訂正してください!

「ハイハイかわいいかわいい」

 雑!実に雑です!頭くしゃくしゃしないで!だからって整えないで!やっぱり整えてください!

 

「相変わらず仲裁が雑だな、お前は」

「共通の敵を作るのが大事なんですよ」

 

 分かりやすく(ここ大事!)むくれている私を他所に(信じられない!)話を進める先輩2人。

 髪の毛を解いてるからって無視していいワケじゃない。意外な手の細さと慣れない手つきを堪能しているワケでもないのだ。

「こんな感じかな」「延長で」「はいはい」

 離れつつあった手を掴む。

「……いつまでやってんだ?」「チェイっ」

 頭に伸ばされかけた手を弾く。先輩以外が触らないでください。

「すっげぇムフーっとしてる……」

 

「で、ソイツか」

「ええ」

 

 短いやり取りだが、込められた意味は多い。

 

「なんつーか」こちらを一瞥して「意外だな」

「意外、とは?」

「お前の好みって出る所が出てる歳上だろ?」

「ストップ。ライン越えです。公共の場なのでTPOを弁えてください」

 

 ……。

 ぢつと胸を見る。

 

「年上好きだのおっぱい星人だのと、ケモ耳なら何でも良い人に言われたくありません」「TPO云々はそっちもだろ、つーか、そこまで言ってねぇ……それにケモ耳なら何でも良いワケじゃない、それぞれに違う良さがあるのさ」「……主将?」「ケモ耳少女は現実に居ないじゃない」「そうか、よろしい、ならば戦争だ」

 

 私を置いてよく分からない(分かりたくない。華の女子中学生がいるんですよ)言い合いを始める上級生2人……といつの間にか近くに居た男子生徒が1人。

 

「まったく」まったく……なのは私です先輩「そもそもの話───」

 

「───人間必ずしも好きになりたい人を好きになれる訳ではないでしよう」

 

 ……ん?

 言い合いの中で、先輩の発言が耳に残る。

 

「それじゃあ、ソイツは?」

「この子は例外です」

「例外ぃ?」

「仕方ないじゃないですか」こちらを見る「見つけちゃったんだから」

「見つけた、な」ふ、と笑いが零れるように息を吐く大久保先輩「最後まで言っちまいなよ」

 

 

「この子はそうですね、俺にとってシンデレラみたいな子なんです」

 

 

 ……なんて?

 

「おーおー、良いおったぜコイツ」大久保先輩が後ろを振り向き「どう思うよズミ?」

「いや、僕に振られましても」大久保先輩の後ろに、ズミと呼ばれた男子生徒が一人「少なくとも公衆の面前で言う勇気はないですね」

 

 ……頬が熱い。

 私がシンデレラなら、先輩は何なのだろうか?先輩は『自分が王子様だ』とでも言うのだろうか?

 

「遅かれ早かれバレる話だ」大久保先輩が後ろにいた男子生徒に手を向ける「こいつはオレの『子』だ」

「おぉ、とうとう『子』を作ったか」

「前々から剣道部の見学に来ていてな、気に入った」

「めでたいことだ。『親』として喜ばしく思うよ」

 

 先輩2人は親と子。

 きっと私が知らない話が沢山あるのだろう。

 

「それにしても」

 

 チラリと大久保先輩が私を見る。

 

「不用心じゃねぇか?」

「不用心、とは?」

 

 思わずオウム返しに尋ねてしまった。

 

「いやさ、俺や薫が悪いバーストリンカーだったらどうすんだって話しよ」

「いや、まぁ、仮定の話だけど……」先輩が口篭る。

 

「いや、大丈夫ですよ。昨日の放課後に出会ったばかりですが、先輩の事───『薫先輩』の事は信頼しているのです」

「ハルちゃん……」

「イジメられていた私を助けるために体を張ってくれた人が、わざわざ私に酷い事しないですよ」

 

「いや分からんぞ、見かけに騙されるなよ」

「感動するところで悪ノリしない!」

「先輩は変な人ですが悪い人じゃないです」

「ハルちゃん……?」

 

「インストールが成功した時に、涙ながらに私を抱きしめてくれた人が悪い人なワケないじゃないですか」

「ハルちゃん!?」

 

 演説開始!

 

 私の分身は祝福と共に産まれ落ちた。

 あの時は何もわかっていないし、今も分かっている事はほとんどない。

 それでも、あの時に涙した薫先輩の事は忘れないだろう。

 

「先輩は私の恩人なのです。疑うなんてしません」

 

 決まった──────!

 

 スタンディングオベーションを期待してもバチは当たるまい。

 なんで静寂が帰ってくるのか?

 

 顔を真っ赤にして俯く薫先輩。

「あー、そのなんだ」と言葉を詰まらせる大久保先輩。

 額に手を当てる男子生徒。

 

 ……あれ?

 もしかして、人前では言わない方が良いこと言ったかも?

 

 何となく気まずい空気。「あー、ゴホン」とわざとらしい空咳をした大久保先輩が打ち砕く。

 

「つまり、バブみを感じでオギャ───」

「違う!」

「こ、これがベテランのバーストリンカー……」

「変な勘違いしてる!?」

「老いてなお盛ん、という事か」

「───腹を括って首を洗えよ、グローバルならともかく、校内ネットなら乱入できるからな」

「遮蔽物なし10mで勝てるとでも?」

「バーストリンカーたるもの、時には戦わなくてはならない事がある」

 

 気まずい空気を破ろうと突飛な事を言ったら回り回って一発触発。

 私のせいです、ごめんなさい。

 

 ふと、大久保先輩が私を見る。

 

「いい手があるじゃないか」

 

 薫先輩も私を見て、その後、まだ名前を知らない男子生徒を見る。

 

 ……なるほど、そういう事ね。

 同じく察したらしい男子生徒と目が合う。

 こちらから声をかける。

 

「名前を聞いても良いですか?」

「僕は──────いや」一度言いかけた本名を止める「ここではアバターの名前を伝えよう」

 

「──────Cyan_Pile(シアン・パイル)

 

 よろしく、と彼は───シアン・パイルは付け加えた。

 これから半年の間、私のライバルとして立ちはだかるバーストリンカーの名前だった。

 

 バーストリンク、戦いを告げるキーワードが口の中で弾ける。

 さぁ、初めての、私の戦いだ───────!

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 人は伽藍堂で産まれてくる。

 空っぽの箱の中に色々なモノを入れていく。

 時たま、箱のサイズそのものが変わる事もあるが、大きく変わる事は無いだろう。

 俺にとって、ブレインバーストは箱のサイズを大きくする切っ掛けであった。

 

 昔から真似をするのがうまかった。

 よく観察をして、話を聞いて模倣する。

 相手を理解して、手癖を真似して取り込む。

 新しい世界であるブレイン・バーストでも同様にした。

 

 仲間を増やして、観察して話して模倣する。

 幸いにも初期はコピー回数が無限だったため、多くの『子』ができた。

 観察して観察して、観察観察観察して、話して話して話してはなしてはなしてはなし、て、はなして、手放して。

 離し、手は無し、手放して(はなしてはなしてはなして)

 

 結局、自分は伽藍堂のままだった。

 何も無いなら全て手放しても変わらないのでは?

 ──────いや、手放せない。

 みっともなく縋り付くしかない。

 

 前進の意思は腐り落ちた。

 安寧の泥の中で停滞した。

 

 無くしたくない。

 それならば、どこかに保存しておくしかない。

 電子データの形では不安だ。全敗した者の記憶に鑑賞する以上、電子媒体に保存するのは危険だ。

 だから、紙に書く。あくまで『空想の産物』として書いて残す。欠いて、遺す。全てを喪った未来の自分に遺す。

 

 料理や工作は体に叩き込んだ。

 マナーや所作は繰り返すだけ。

 可能な限り周囲には恩を売る。

 小説は原稿用紙に書いてスキャンしてから校正を依頼する。

 

 遺産。

 そう、未来の自分──────いつか『加速』を喪う未来の自分に託す遺産だ。

 

 だから───────

 

 †

 

 扉の隙間から少女の様子を伺う。

 目を擦り、鼻をすすりながらもノートを読み進める少女がいた。

 

 †

 

 だから、自分以外の誰かが読むとは思わなかった。

 自分以外の人間が遺産を受け取る事を考えなかった。

 

 少女を救ったのは半分は気まぐれで半分は打算だった。

 イジメを解消した功績は今後の生活で有利に働くだろう。

 5年後には美人になるだろう少女に売れる恩。

 その程度だった。

 

 置き忘れたノート。

 二度と会えぬ友を思って書き記した未練と決別、そして忘れてはならぬ悔恨の結実。

 それを偶然読まれ、勝手に泣かれた。

 本来ならそれだけなのだ。

 

 ……それだけ、だったのだ。

 たったそれだけなのに、ナニカが救われたような気がした。

 

 ふと、『遺産』を託す事を思いついた。

 感じたのは『奪われた』ではなく『託せる』という奇妙な安堵。

 

 俺が、俺たちが全てを喪ったとしても、俺たちの物語を忘れない『誰か』がいる。そう思うだけで俺は──────

 

 †

 

「夢見る少女よ、君を囲む、見えない檻を壊してみるつもりはないかな?」

 

 †

 

 ブレインバーストをインストールしないのも手だった、と後になって考えた。

 だが、その時は出会ったばかりの少女に自分の世界を共有して欲しい気持ちでいっぱいだったのだ。

 

 死蔵していた最後の1回。

 成功するように祈ったのは初めてだった。

 

 † † † † †

 

「大久保先輩、heliolite chariot(ヘリオライト・チャリオット)って知ってます?」

「知らん、新人か?」

「いえ、Lv.4でした」

「ふぅん……で、ヘリオライト某がどうしたって?」

「昨日の放課後なんですが……───────」

 

 雑談をしながら二人のデュエルを見る。

 戦況に口を出すのは趣味では無いが……まぁ、剣道部員に初心者が剣で挑んで勝つのは難しいだろう。

 

 今日はやる事が多い。

 昨日の録画データに謎のバーストリンカーの捜索、佐倉先輩に借りてた救急箱も返さないと行けない。

 

 ふと、先程のやり取りを思い出す。

 

『この子、俺のシンデレラだから』

 

 俺のシンデレラ。

 魔法の馬車とドレス、そして靴をあげよう。

 だから、だからどうか──────

 

 どうか、この遺産(魔法)を引き継いではくれないか?

 

 俺の加速(魔法)消える(解ける)まで君の魔法の靴は持つはずだ。

 君だけの王子様に出会ったら、自分の力で手に入れるんだ。

 

 君の邪魔をする者の目を啄む小鳥を産み出し、欲に目を眩ませ自ら足指を切り落とさせよう。

 だから、君だけは(絶望)から逃げ出して幸福を掴むんだ。

 

episode:1

灰被りと魔術師

 

 

 

 

 † † † † † † † † † † † † † † †

 

 

 

 

 設定集的なナニカ

 

登場人物

 

 出岸(でぎし)遼夏(はるか)

 本作の主人公。『岸』担当。

 名前は原作主人公と対になるように設定。岸は檻という意味があり『檻から出て遥かな夏を目指す』みたいな感じの名前。

 華奢な少女。体質が弱く、健康上の懸念があったため、産まれて直ぐにニューロリンカーを装着。

 イジメの心理的負担から食が過度に細くなっていたため、極度に痩せている。

 昔見た時代劇の影響で、チェストと叫んで大上段から剣を振るうと相手は死ぬと思ってる。

 イメージソングというわけではないが、設定時によく聞いていた曲は『MUSH&Co.』の『明日も』。

 

 穂波(ほなみ)(かおる)

 本作の主人公その二。『波』担当。

 前作主人公枠。こちらは割とフィーリングで名付けた。強いて言うならば『正体(≒自分)がない(見当たらない)』だろうか?

 パッと見、年齢不詳の変人。資格コレクターみたいな事をしている。一人暮らし。実は社会人。

 物を捨てられないクセに刹那主義者。潰れる前に取りこぼしていく。大切なものに気がつくのは失ってから。当たり前を大切に、何度、自分に言い聞かせれば気が済むんだい?

 イメージソングは『駄菓子屋商売』と悩んだが『ゴーゴー幽霊船』で。比喩が機能しなくなるの酷くない?

 

 

 Moonlight Sylphid(ムーンライト・シェルフィード)

 遼夏(はるか)のアバター。新人。

 月光(ムーンライト)色って何だよ!?とは突っ込んではいけない。良いね。強いて言うなら『青』メインの『黄』金だろうか?緑らしい打たれ強さはない。近接&間接。

 パロディ元はもちろんセイバーさん。

 どこからチェストが生えた……?

 切りかかる際の掛け声をチェリオにしようか迷った。

 このチェスト妖精、身軽だが打たれ弱い。夢から醒めると無力なのだ。薩摩隼人はチェストを躱されたら潔く死ぬしかないのである。

 

  アビリティ

 ・ 循風結界(エアフロウ・フィールド)

  自身の周りに風を纏わせる。

  必殺技ゲージの消費により強弱やベクトルを操れる。

 

  強化外装

 ・ 両刃剣ムーンライトソード

  聖剣。勝利の剣と見せかけての月光剣。

 

  必殺技

 ・ ルナ・ストライク

  武装に月光を思わせるオーラを纏い攻撃する。

  遠隔攻撃可能。その他、追加効果あり。

 

 

 Daybreak Fantasm(デイブレイク・ファンタズム)

 (かおる)のアバター。オリジネイターのレベル8。

 夜明け(デイブレイク)色って何だよ!?とは突っ込んではいけない。良いね。強いて言えば、黒に近い『紫』と白に近い『黄』。思いっきり補色である。

 パロディ元はアーチャーとランチャー。

 序盤は弱いが終盤になると手がつけられなくなるタイプのコピー能力者に近い。オリジネーターだよコイツ。意図的にチートに設計。

 

  アビリティ

 ・ 鉄器実像(アイロニック・アイロンモンガー)

  鉄器作成能力。あくまで仮初、故に皮肉(irony)

  心意なくして真威は作れない。

 

 ・ 属性付与(エンチャント)

  上のアビリティを強化した結果、追加された。

  武器に属性を付与できる。

  属性は(炎熱)(爆発)(頑強)(暴風)(凍結)(電撃)。そして、下記の強化外装によって追加された(光輝)の7属性。

 

  強化外装

 ・ ライトイーター

  光喰らうモノ。光を貯める/放出するコート。

  かつて神獣を屠った際のドロップアイテム。

 

 ・ モーニングラーク/ナイトフォール

  朝のヒバリ(lark)、夜の帳(night fall)。

  二丁の大型銃剣。初代赤の王からの贈呈品。

 

 【その他多数】

 

  必殺技

 ・ ファーストライト

  目からビーム。強化外装のライトイーターと組み合わせると破壊的な火力になる。

 

 

『今回の問題発言』のコーナー

 

今回の議題はコレ!

「俺にとってシンデレラみたいな子なんです」

 

出岸(でぎし)遼夏(はるか)の反応

 突然どうしたの先輩!?

 私がシンデレラって『そういう事』だよね!?

 先輩が白馬の王子って事だよね!?

 少女マンガ始まっちゃう!?甘酸っぱい青春ってやつなのコレ!?

 

穂波(ほなみ)(かおる)の反応

 この子は俺の希望なんだ。

 全てを君に託す。俺を置いて王子様に出会いに行くんだよ。

 

重い!そしてクソボケェ!女の子助けて惚れさせたんなら責任持たんかい!こちとら早くくっつかんかヤキモチしてんだわ、はよ『検閲』せんかいボケェ!

 

 

 原作と対になる要素を多く取り入れています。

 分かりやすいのは性別が逆。

 

 四肢剣ゆえにそれ以外の武器を使えないのが原作。

 無数の強化外装を含めてあらゆる武器を使う本作。

 

 レベル9故に圧倒的な強さを持つがオリジネイターでは無いため核心の情報を持たないのが原作。

 オリジネイター故に核心の情報を持ってはいるが、レベル9には勝てず本筋に絡まないのが本作。

 

 

オマケ

 

 佐倉先輩

  三年生の保健委員。

  図書室の救急箱には絆創膏と消毒液(紙で指を切った想定)と湿布(司書教諭のギックリ腰を想定)しかなかったため、保健室に借りに行った。策劇場の都合を小学校から大学までの一貫校における中学図書室の予算不足、という事にした。

 

 大久保誠

  三年生。剣道部主将。Clearsky_Ark(クリアスカイ・アーク)

  ネーミングの元ネタが分かったら教えてね。

 

 

 Mauve Maul(モーブ・モール)

 Camel Caramel(キャメル・キャラメル)

 共にレベル5。

 初心者の頃、デイブレイクに鍛え上げられた経験を持つ。

 近接よりのモーブ・モールが前線に立ち、遠隔かつ間接のキャメル・キャラメルが中距離〜遠距離から拘束の砲撃を行う。周囲に暴風を発生させる必殺技を持つモールと暴風で吹き飛ばないキャラメルの相性は良い。

 モーブ・モールはモールで破壊したステージギミックを『木材に変換する』アビリティと『木材の上を安定した足場として使える』アビリティを持っており、『木材を投擲して木材に飛び乗る』事で長距離移動ができる。原始林ステージでは初めから木材なので前者のアビリティの効果は発揮されなかった。変換した木材は必殺技ゲージを効率的にためる事ができるため、長距離移動と併せてエネミー狩りでは重宝される。キャラメルを接着剤代わりに使う事で大人数を纏めて運搬できるのも利点の一つ。尚、クッションがないと死ぬ。決めゼリフは「丸太は持ったな!行くぞ!(言ってない)」

 キャメル・キャラメルの装甲はキャラメルであり、熱に弱いが時間経過で装甲とHPが復活する。5分で10%ほど回復するのでファーストアタックさえこなせれば逃げ回るだけで勝てる。勝てるが鈍足なので難しい。回復効果はエネミー狩りでは重宝する。ラクダ(キャメル)の名は伊達では無い。無限のタフネスが持ち味。キャラメルの装甲で絡め取る事が出来るため、投げ技、掴み技に強い。話し方をキャラ作りのために「キャーメッメッメッ」にしようと思ったが流石に自重した。キャラメルクランチとキャメルクラッチって似てるよなー、から思いついたキャラ。

 

 

 heliolite chariot(ヘリオライト・チャリオット)

 謎のデュエルアバター。




性癖開示!年齢差!
でも年齢は一緒であって欲しい!

この一見意味不明しかしてマグマのような深淵粘度熱量質量な矛盾を解決する方法は創作物なら無数にある
今回はアクセル・ワールド!
グヘヘ、社会年齢外見年齢はほぼ一緒でも精神年齢がドチャクソ違うぜゲヘヘ

年下の少女にガンガン押される年上の少年()が見れるぜ
年上の余裕()を精神年齢の若さでゴリゴリ削るんだぜ
今回はそこまで行かないけどな☆
ちくせう......

実は書いている途中で直結しなくてもダッグを組める(多分)事が発覚
Q.どういう事?
A.つまり、美少女と必要が無いのに直結してたって事だよホーンくぅぅん!
 ぬぁにぃ!やっちまったなぁ!ゆ……許せねぇ。そんな軟派なバーストリンカーを、俺は、認められねぇ!こうなったらLv.8だろうとボッコボコにしてやる!
『次回、「隼人、襲来」』
 え、乱入されるの俺!?
『(何時になるか分からないし、そもそも書かないかもしれないけど)お楽しみに!』

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