新大陸編。割とシリアスめのお話になります。
長いので前後編に分けました。
──期──年 調査拠点アステラ 温暖期 晴れ
海をドラゴンモードで渡って数日間。ずっと飛び回って、近くになったら変身を解いて船を漕いで、で数時間。本当に大変だった。
ようやく新大陸の、調査団らが駐屯している拠点に着いたかと思えば、臨戦態勢の中で来たからか、勘違いされて手厚く保護された。多分これ私のせいだ…*1
というわけで、新大陸に着いた。
早速調査団団長の方にお手紙を渡し、ついでに「新大陸の青い星」こと、スピカさんに挨拶しに行った。禁足地調査団のハンターさんのことを話すと、すぐに出迎えモードになった。若い女性の方だったけど、なんというか、凄いパワーを感じた。こう、「古龍絶対殺すマン」的な。上手く言語化できない。
オレイはすっごくガタガタ震えていた。
その後は、スピカさんたちと一緒にご飯を食べた。老齢のアイルーコックが作るワイルドな肉料理。これがとても美味しかった。壺漬け生肉を飛竜の卵と合わせて焼いたステーキに、将軍カツオの刺身。刺身は魚醤で、月夜茸で出汁を取ったスープと合わせて頂いた。デザートに蜂酒漬けのケーキを食べるという、なんとも和洋折衷な食事だった。思えば、こうした好きなもの欲張りセットな食事も久しぶりだった気がする。
誤算があったとすれば、オレイが酒に激弱だったことだろうか。酒漬けのケーキを食べた途端、すっごい甘えん坊になった。顔真っ赤にしてべたべたに抱き着いてきてかわいかった。ただ、この子がこんな姿と見せたとなると、少し古龍間の教育がどうなっているのか気になってしまった。
今度からあの子にお酒は控えさせよう。
思えば、老齢のモンスターや、古龍というのは、ごく少数だが人間と同じようにコミュニケーションが取れている。それこそ、私は見ていなかったけど老齢の黒龍のように、人間の言葉を唸り声に乗せることができたり。あの時のオロミドロのような言葉のない会話で通じ合えたり。バルファルクのように物々交換という形で取引を行えたり。イブシマキヒコとタキギのような、互いに言葉が違えど言っていることが分かったり。竜人族特有の「共鳴」だったり。色々な手段がある。
その中でも、ハッキリと分かりやすいのが、やはり老齢の黒龍だろう。言葉が合わせられるって、やっぱりすごいことだよね。英語から日本語にわざわざ切り替えてくれてるから。
ただその場合、どうして言葉を覚えようとしたのだろう。
絶対の頂点、その責務からだろうか。それとも、形は違えどかつての竜都のように、人とモンスターが共に過ごす国に居たことがあったからだろうか。
明日、スピカさんに聞いてみようと思う。彼女はミラボレアスと対峙して勝った人だ。何かしら、彼らに関する所感を教えてくれるかもしれない。
オレイ以外の近い視点から見たミラボレアスについて、ちょうど聞いてみたかった。
──期──年 調査拠点アステラ 温暖期 晴れ
スピカさんに会うために、彼女の受付嬢と出会った。
前世ではアレコレ言いまくった*2彼女だが、会ってみると意外にもしっかりとした女性という雰囲気を感じた。同時に、どこか寂し気な様子も。
骨付き肉を頬張りながらも、受付嬢はスピカさんを待っていると言っていた。朝のルーティーンがあるようで、それまでは毎日朝食がてらに肉を食べているらしい。この人、昨日集会所でめちゃくちゃ食ってたのは知ってるんだけど、朝になってもまだ食べられるらしい。イビルジョーかな?
スピカさんに会った直後、緊急クエストが発令された。ついてこいと言われたので、そのままクエストへ。内容はアステラ付近で確認された、歴戦ジンオウガの討伐。先週に捕獲した個体が完全復活し、暴れまわっているらしい。安全性の確保、並びに環境保全のためという理由での討伐命令が下った。
オレイを置いて行ってしまったけど、あの子はスピカさんが苦手そうだったから、楽しくアステラを回っていた。お菓子ばっかり貰っていたのは知っているんだぞ。
受付嬢と一緒にスピカさんの狩猟を観測した。結果で言えば、圧倒的蹂躙。スピカさんの勝ちだった。
弓はイヴェルカーナ武器の見た目だが、そこから爛輝龍のとてつもない呪詛を感じたし、レザー一式の姿も見た目だけで赤龍の呪縛をあえて身に纏っているのが分かってしまった。
明らかに、人のまま古龍の権能を扱えている。彼女は既に逸脱していた。
そんな人間の姿で古龍並の力を纏った彼女に、歴戦程度のジンオウガが勝てるわけがない。属性もメタを取られてたし、あの様子だともう何百とも戦ったんだろうな。*3
正直私もスピカさんのことが怖くなった。
一方的な狩猟を見せつけられた後は、ジンオウガの遺体を五期団のチームと一緒に運んだ。
あの時は私たちが輸送班の後続にいたから、他の人たちには聞かれていなかったとは思ったけど…まさかそこまで見破られるとは思ってもいなかった。
死んだ歴戦のジンオウガを専用の荷車に載せ、牽引する
その後ろ。ハンターのスピカたちもついでにと荷車に乗っていた。
「導きの青い星」こと、スピカは初見でニ・スキらの正体を見破っていた。
それはミラボレアスを討伐し、気が付くと古龍の力を扱えるようになってからか。全身に歴戦王たる強者の権能を纏い、人のカタチを保ちながらバケモノへと変わってゆくことを自覚したからか。一方的だが、彼女にはシンパシーを感じたのだ。
「お前さん、人造の龍だろう。しかも、赤龍ベースの黒龍系列。あと色々ごちゃ混ぜだね」
「!?!!!??!?」
だからか、正体を暴いた際に、とんでもなく飛び上がって驚く彼女の姿に、スピカはゲラゲラと笑うことができた。
「え? ……えぇ゛っ!?」
「お嬢、コイツは舌が青くて角が生えてるだけじゃないよ。明らかに人が弄った痕がある。ついでにオレイとかいうメスガキは幼体のミラボレアスだね」
「オレイさんについては、薄々気付いていましたが……」
編纂者の名折れじゃないですか……と、呻く受付嬢。その一方で、ニ・スキは思わずひっくり返ってしまった体を起こす。手紙には、「禁足地で発見された古龍種」のレポートが記載されており、それらは情報統制の命令を馳せて、新大陸の幹部たちに共有された。
そこに、造竜種の情報は一切込めていないにも関わらず、スピカはニ・スキの正体を当てた。
「……ど、どうして分かったのですか」
「女の勘。なんて、言ったら信じてくれるかい?」
微笑むスピカに、彼女は慄く。しかし理解したことが一つあった。
カムラの「猛き炎」ことタキギが「適応、対応の天才」ならば、「新大陸の青い星」ことスピカに宿っているのは「並外れた第六感」。人一倍強い直感力が、彼女の強みなのだ。
歴戦ジンオウガ戦においては、何度も戦っていたという慣れもあっただろう。しかし彼女はモンスターの攻撃に合わせて攻撃を
スピカの前では、いかなる攻撃も通じない。むしろ行動すればするほど、彼女に手番を渡してしまう。モンスターにとっては必死に相手を仕留めんと戦っているようでも、彼女にとっては譜面通りにオルガンを弾くだけ。
目で見て余裕。否、目で見ずとも全て
バケモノはこっちの方ではないか。ニ・スキは、自身がドラゴン全開の肉体へと振り切らなかったことに、強く安堵を覚えた。
「で、アタシに何か聞きたいことがあったんじゃないか? よければ聞くよ」
「……ありがとうございます」
スピカに畏怖を抱えつつ、ニ・スキは聞いた。黒龍ミラボレアス。かの龍と戦い、どのように感じたのかを。
「やっぱり知ってるんだね。アイツから聞いたのかい?」
「はい。アルゴさんから、色々と」
アルゴ──禁足地調査隊の、あの男性ハンター──のことを伝えると、スピカは懐かしげに目を伏せた。
当時、彼と会ったスピカは語る。「腑抜けた男だった」と。
「アイツの話は今はいいか。ミラボレアス、そうさね……実在する悪夢、それそのものが現象、厄災……なんて色々聞いたけど、今思うと違うものに見えた」
「違うもの?」
言葉を返したのは受付嬢だった。聞いたことがない、と言いたげな様子に、ニ・スキも首を傾げる。
「何てったって、最初に戦ったのは四年前さ。それ以降はちょくちょく、最近だともう全然姿を現さなくなっただろう? 歳を取ると忘れやすくてね」
「歳って、相棒は私と同い年くらいのはずでは……」
「ハッ! 今、自分の年齢が幾つだとハッキリ言えるかい? もうアタシたちは若くないよ」
「……えっと?」
「あぁ、悪い悪い。話が逸れるのも、歳を取った証拠だね」
どう言ったものか。そう呟きながら、スピカは当時の状況を思い出す。
新大陸に渡ってきた、ギルド上層部たち。そこで告げられた、「シュレイド城」に降り立った「未知のモンスター」の目撃情報。当時、最も強いとされたハンター、「新大陸の青い星」への調査ないし討伐依頼。
思えば、アレはギルドからの罠ではないか? と思ってしまった自身も居たが、結果を言えば、未知のモンスターと銘打ってお出しされたのはミラボレアス。嫌な予感がして至高の装備編成で行ったものの、それでもズタボロになってでも勝ちをもぎ取ったことは、未だに鮮明に思い出せた。
「弓の弦なんて千切れて、手持ちの回復も尽きた。それでも諦めることが許されない状況で、アタシは弓矢を剣代わりにして戦ったよ。それで眼をくり抜いて……ようやくソイツは死んだ」
ギルドの目があり、ここで引けば現大陸が滅ぶかもしれない状況下で、逃げるという選択肢は奪われていた。醜態を晒しても、泣いて助けを乞いても、勝てなければ終わる。万全の状態であっても瀕死にまで追い込まれたスピカは、あの場でハンターの誇りを捨てた。
野生児のような戦い方になっても、理性を捨て自らの生すらも投げ捨て、黒龍を殺さんと鏃を手にした。
その末に──
「死に際のアイツがね、囁いた気がするんだ。「貴様に託す」なんてね」
──龍の唸り声が、人の声に聞こえるという幻聴を最後に、スピカは意識を落とした。
<><><>
一方、オレイはアステラの女性たちに、大層可愛がられていた。
調査拠点を組んで数十年。すっかり新大陸の一部となったアステラだが、ここには案外娯楽が少ない。美味い飯と、
そんな時にやってきたのが、「人竜族」を名乗る二人。禁足地調査隊の者たちが見つけ、渡ってくるかもしれないという手紙と共にやってきた二人は、一瞬にしてアステラの名物となった。
竜といえど人。竜人族と違って竜の特徴がハッキリとしており、尚且つ可愛らしい女の子。男衆は盛り上がり、女性たちは──特に服装士らは──美少女の二人をロックオンした。
「や、やっと解放された……」
そんなこんなで、アステラ最上層である集会所から、フラフラと宿泊先の二等マイルームへと歩いてゆくオレイは、大層かわいらしい格好となっていた。
白い肌と、それ以外は黒色という分かりやすいモノトーンな少女に、薄桃色のワンピース。黒色のハーネスや装飾を着けられ、ゴスロリチックな格好にされた彼女。もしも、ここにニ・スキがいれば「地雷系ファッションだ……!」と盛り上がったに違いない。
化粧もされ、そのまま服も渡され、写真も撮られまくったオレイのスタミナは既に下限状態。こんがり肉を食べても回復はしばらく無理そうなほどの「疲労」というデバフにまみれた彼女は、一旦着替えようと部屋の中に入った。
しかし、そこには思わぬ人物がいた。
「────な」
「……千年ぶりか。久しいな」
二等マイルームの中に居た人物は、同じ気配、同じニオイを有する者。深みのある声をかけた男は、オレイを待ち構えるように壁に縋っていた。
白い肌。それ以外は黒色に染まった男。黒い外套を羽織った彼は、千年ぶりに出会った弟……否、妹……? にとても似ている。違いは身長差や、外套越しにも分かる屈強な体格。右目だけを閉じた鋭い目つきの相貌からして、ハッキリと人間の男だと分かることだろう。
「貴様……定命の者に紛れたとて、そのような趣味に目覚めるのはどうかと思うぞ」
「誤解だ!!!!」
千年ぶりの再会。突然の出来事に驚愕する暇など与えられず……オレイは真っ先に「兄上」の誤解を解くことから始まった。
「ニ・スキ」
正体をそれっぽくぼかして旅行中。しかし本業の人間にバレる。
「オレイ」
正体をそれっぽくぼかして旅行中。しかし突如訪問してきた兄上に女装がバレる。なお本人の肉体は女の子なので誤解ではない。
「スピカ」
新大陸の青い星。由来はおとめ座の中で最も明るい恒星。
弓TAはどの作品でも美しい蹂躙を見せてくれる。
「受付嬢」
人類種暴竜上科ウケツケジョー。
最近の相棒に、何か思うところがある様子。
「新大陸調査団たち」
古龍渡りの調査が軒並み終了し、今は新大陸の環境調査にはしゃいでいるところ。ドラゴンモードニ・スキにビビり散らかすも、美少女二人がやってきてさらに大はしゃぎ。
「兄上」
一体何衣の男なんだ……
「アルゴ」
禁足地調査隊のハンター。由来はアルゴー船、アルゴナウタイ。
かつて、スピカの弟子だった。