part A
『────! ────!!』
「ん……」
人の話し声のような音が耳に入り、ウチは眠りから覚めた。
「あれ……ウチ……? そっか、眠っちゃったんだ……」
ウチ、床に突っ伏して寝ていたみたい。
でもおかしいな。確かアキに抱っこしてもらっていたはず……。
アキはどこに行ったんだろう?
ウチは起き上がり、部屋を見渡してアキの姿を探した。
……
でも見渡しても部屋の中にアキの姿は無かった。
「アキ……?」
その呼び掛けにも返事は無かった。
でも今のってアキの声よね?
どこにいるんだろう……。
耳を澄ますと、隣の部屋からさっきの二つの声が聞こえてきた。
二人の声は何か言い争っているような感じがする。
片方はアキの声。
もう片方は女の人の声で――玲さん?
玲さん帰ってきたのね。
やっぱり二人は言い争ってるみたい。
またアキが何か悪さでもしたのかな。
ウチは隣の部屋から聞こえてくる声に聞き耳を立てた。
『さぁアキくん。美波さんに何をしていたのか説明してもらえますか?』
『ねっ、姉さん! だから理由を聞く前に殴らないでよ!』
『問答無用です』
『今説明しろって言ったじゃないかぁっ! 聞く気なんて無いんだろ!』
『いいえ。聞く気はあります。ただ、嘘を言えば許さないだけです』
『どうせ何を言っても信じないくせ……あっ、ご、ごめんなさい……ごめんなさいっ……! 説明します! 説明するから殴るのやめてっ!』
『折檻を受けながらでも説明はできますよね?』
『許すつもりまったく無いじゃないかーっ!』
聞こえてくる打撲音が変わった。
『あっ……言います! 言いますっ! だからグーとパーで交互に殴らないで! なんかとっても屈辱的だから!』
『わがままですねアキくんは。仕方ありません。ではパーだけにしてあげます』
『いや……できれば殴らずに聞いてほしいんだけど……』
『口答えするのはこの口ですか?』
『ごひんははい! ごひんははい!』
『正直に答えれば私も怒りません』
『わ、分かったよ……正直に言うからさ、お願いだから殴らずに聞いてよ……』
『はぁ……しょうのない子ですね。分かりました。では待ってあげますから正直に答えなさい』
『う、うん……』
『えっと……ずっと研究してた新作料理をさ、誰かに試食してもらおうと思ったら、ちょうど都合がついたのが美波だけでさ……』
ちょうど都合がって……嘘だらけじゃない。
やっぱり玲さんにウチらのこと説明してないのかな。
きっとそうね。だから正直に言えないのね……。
『あっ……いたっ……な、なんで殴るの姉さんっ!』
『私にアキくんの嘘が見抜けないと思いますか? アキくんは嘘を言う時に目が泳ぐのですよ』
『ご、ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!』
玲さんにはアキの嘘が分かってるみたい。
きっと、さっきのウチらを見てアキが何かしたと思ってるのね。
玲さん怒ってるみたい。
『姉さんが怖い』って言ってたのはこういうことなのね……。
でもさっきのはウチがお願いしたことだし、アキのせいじゃないわ。
玲さんに説明しなくちゃ。
『美波に試食してもらってたのは本当だよぅ……』
『……そのようですね。では続きを説明してください』
『う、うん……それで……えっと……』
ウチはアキの説明に耳を澄ませながら立ち上がった。
そして隣の部屋に向かおうと足を踏み出した時、予想外の言葉が耳に入ってきた。
『それで感想を聞いてたら……その……美波が『抱っこしてほしい』って言い出して……』
なっ!?
ちょ、ちょっと! なんで途中を省略するのよ!
これじゃウチがいきなり恥ずかしいことを言ったみたいじゃない!
ウチは堪らなくなって、全力で隣の部屋に向かって走った。
もちろんアキに訂正させるために。
すぐに隣の部屋の前まで着き、乱暴に扉を開けると────
「……言うとおりに抱っこしてあげたら気持ち良さそうに眠っちゃってさ……」
っ~~!!
最悪の言葉が聞こえた。