ウチと彼と深層心理   作:mos

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part D

 ウチは玲さんの計らいで泊めてもらうことになった。

 

 玲さんが言うには、今日は帰るにしても遅過ぎるし夜道も危ない。

 だから今夜はここに泊まって、明日の午前中に玲さんが責任を持って送るということらしい。

 この件は、さっきの電話でお母さんに伝えてくれたそうだ。

 

 確かに時刻は既に午後十時を回っている。

 そう言えば夕食もまだだった。

 

 ちょうど玲さんも食事をしていなかったらしく、ウチらは三人で遅すぎる夕食を取ることにした。

 と言っても、作るのはやっぱりアキ。

 アキは昼間の材料の残りでパスタを作ってくれた。

 そのパスタは手早く作ったわりに憎らしいくらい美味しかった。

 

 ここまで腕を見せつけられるとさすがに悔しいわね……。

 でも玲さんがアキに作らせるのも分かる気がするわ。

 

 夜食とも言える夕食の後、アキと後片付けにキッチンへ入った。

 玲さんは仕事の残りを片付ける言ってリビングを出て行った。

 ウチは……特に片付けるものは無い。

 

 アキはリビングで待つように言ってたけど……。

 ご飯もご馳走になったし、泊めてもらうともなれば、やっぱり何か手伝いたい。

 

 洗濯物くらいは手伝えるかな。

 

 そう思ったウチは洗濯機の所へ向かった。

 確か脱衣所にあったはず。

 

 その場所は前に来た時に廊下から見えたので分かっている。

 

 

 ……

 

 

 脱衣所に入ったウチは唖然とした。

 置いてあった洗濯篭の中は空っぽで、辺りには衣類が綺麗に干してあった。

 

 これもやっぱりアキがやったのかな。

 いつの間に洗濯したんだろう……。

 さっきやることがあるって言ってたあの時かな?

 

 アキの食生活を見て甲斐性なしだなんて思ってたけど、そんなこと全然無いじゃない。

 考えを改めないといけないわね。

 

 

 仕方なくリビングに戻ると、仕事を終えた玲さんが戻って来ていた。

 そこで玲さんに勧められ、ウチはお風呂を借りた。

 

 

 今いるのは玲さんの部屋。

 この家でベッドがあるのはアキの部屋と玲さんの部屋。

 ウチは玲さんと一緒に寝ることになった。

 

 今は寝る前の髪のお手入れ。

 玲さんがウチの髪に櫛を通してくれている。

 

「美波さん、綺麗な髪ですね」

「そ、そうですか? ありがとうございます……」

「えぇ。手入れも行き届いていて、とても綺麗ですよ」

 

 そういえばアキも『綺麗』って言ってくれたことがあったっけ。

 アキに褒められて嬉しかったなぁ……。

 あの後すぐ美春の邪魔が入っちゃったけどね。

 

「私のシャンプーで肌に合いましたか?」

「あっ、はい。とってもしなやかでいい香りでした。あれってどこで買ったんですか?」

「あれは通販で買ったものなんですよ。カタログ、見てみますか?」

「はいっ! ぜひ!」

 

 玲さんは部屋の隅のマガジンラックから通販雑誌を取り出すと、ページをめくってその商品を教えてくれた。

 でもその値段を見て仰天した。

 

 こ、こんなに高いの!?

 こんな値段じゃウチには買えないわ……。

 

「玲さん、こんな高級品、ウチなんかが使っちゃって良かったんですか?」

「えぇ、構いませんよ。よろしければ一本さし上げましょうか?」

「ええぇっ!? い、いいんですか!?」

「はい。先程ちょっと意地悪をしたので、お詫びの印です」

「そんな……ウチはぜんぜん気にしてないですよ」

 

 玲さんって優しいな。

 アキは怖がってるけど、いいお姉さんじゃない。

 ウチも見習わなくちゃ。

 帰ったら葉月にもウチのシャンプー使わせてあげようかな。

 

 

 

 この後、ウチと玲さんは寝ることも忘れて話し込んだ。

 

 去年の始めにアキがしてくれたこと。

 ウチが風邪で寝込んだ時に看病してくれたこと。

 無理を言ってウチの家に泊めたこと。

 色々なことを話した。

 

 それに対して玲さんはアキの小さい頃の話しや、弱点なんかを話してくれた。

 やっぱりアキは昔から首筋が弱いみたい。

 またいたずらしちゃおうかな。

 

 それと今度、勉強を教えてもらう約束もした。

 もちろんアキも一緒にね。

 やっぱり玲さんって素敵。

 大人の魅力って感じね。

 

 ウチもこんなお姉さんがほしいな……。

 

 あ、でもアキと結婚したら本当にお姉さんになるのね。

 

 アキと結婚……か……。

 

 えへ……。

 

 

「ところで美波さん」

「あ、はい?」

「アキくんのことで何か困っていることはありませんか?」

「アキのこと……ですか?」

「はい。お恥ずかしいことなのですが、アキくんの女の子の気持ちに対する鈍さは世界級とも言える程ですので……何か困っていることがありましたらアドバイスさし上げますよ」

「確かに前はぜんぜん気付いてくれなくて苛ついたことも多かったですけど……」

 

 でも告白してからのアキはよくウチを見てくれるようになったし……。

 相変わらず酷い勘違いをすることはあるけど、付き合いはじめたあの日からはウチを大切にしてくれる。

 だから今、困っていることなんて……。

 

 ……

 

 そうだ……ひとつだけ。

 

 困っているって程じゃないけど……。

 

「玲さん、あの……」

「はい、なんでしょう?」

「えっと……」

 

 ちょっと恥ずかしいけど、玲さんなら……。

 

「アキはウチのことを大切にしてくれるんです。アキの行動からそれはとってもよく分かるんですけど……でも、言ってくれなくて……」

「? 何をですか?」

「それは……その……」

 

 ……

 

 ダメよ……。

 やっぱりこんなことを玲さんに頼っちゃいけない気がする。

 このことはウチとアキの二人で解決しなくちゃ……。

 

 アキがあれから愛の言葉を口にしないのは、きっと何か理由があるはず。

 それはウチに問題があるのかもしれない。

 だとしたら、自分でその悪いところを見つけて直すように努力しないと。

 

 そう思ったウチはこれ以上言えなかった。

 

「……やっぱりいいです。自分でなんとかします」

「美波さん……?」

 

 そうよ。自分でなんとかするのよ!

 今は何をどうしたらいいか分からないけど……。

 

 ウチはぐっと唇を噛み締めた。

 それは自ら解決するという、決意の印。

 

 玲さんはそんなウチをしばらく不思議そうに眺めていた。

 でもすぐに何かを悟ったような表情に変わり、謎の言葉を掛けてきた。

 

「なるほど……。そういうことですか。分かりました」

「えっ……?」

「美波さん、行きましょう」

「えっ? えっ? 行くって……? どこへですか?」

 

 玲さんは立ち上がり、『任せなさい』と言わんばかりの笑顔でウチの手を引く。

 ウチはわけが分からず、引かれるままに足を運んだ。

 

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