ウチと彼と深層心理   作:mos

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part B

 今日は土曜日。

 

 忙しいお父さんとお母さんは今日も仕事に行っている。

 だから家事全般はウチの仕事。

 その仕事は意外に多く、朝食の後片付けと洗濯、それに家の掃除で時間が過ぎて行く。

 これらが終わるのは午後に差しかかる頃。

 それからやっと自分の時間になる。

 

 家の仕事を終えたウチは今、自分の部屋で机に向かっている。

 今日は授業も補習も無いけど、葉月が家にいる。

 だから家を空けるわけにもいかず、こうして自分の部屋で勉強をしている。

 

 まだ慣れない文字との格闘は疲れる。

 凝り固まった体を反らせて伸びをすると、澄ました顔をした狐のぬいぐるみが視界に入った。

 アキの写真を大事に抱えた狐のノインは机の横で静かに座している。

 

 

 あれから一ヶ月が経つ。

 ウチは今、とっても幸せ。

 一年半想い続けたアキと恋人の関係になれた。

 

 アキはあれからウチにとっても優しくなった。

 あの時交わした約束も守ってくれている。

 

 教室の席も隣にしてくれた。

 お弁当も毎日交替で作っている。

 

 ただ、毎日一緒に帰るという約束は難しいと思っていた。

 それはアキの補習室送りが無くなるとは思っていなかったから。

 案の定、一カ月経った今もアキは相変わらず補習室に連れて行かれている。

 

 だからある時、アキに『補習でどうしても遅くなる時はいい』と伝えた。

 それでもアキは『約束だから』と言ってウチを待たせ、大急ぎで補習を終わらせてくる。

 多分あの時の約束をずっと気にしているんだと思う。

 確かに『絶対だからね』って言ったけど……。

 ホントこういうところだけはバカが付くくらい真面目なんだから。

 でもウチはアキのこんなところを信頼している。

 

 それから、アキは帰りにウチの家によく寄って行くようになった。

 葉月ともよく遊んでくれるようになった。

 相変わらず葉月はアキのことを『お婿さん』なんて言ってる。

 アキはその度に苦笑いをしているけど、いくら葉月でもアキだけは譲れないわ。

 いつかちゃんと言って聞かせないといけないわね。

 

 でもアキは大きく変わったわけじゃない。

 変わったのはウチへの接し方くらいで、むしろほとんどが今まで通り。

 

 アキは行動する時はいつも皆と一緒。

 付き合いはじめてからもそれは変わらなかった。

 遊ぶ時も、勉強する時も瑞希や坂本たちも一緒。

 

 最初は寂しかった。

 もっとアキと二人の時間が欲しかった。

 でもウチとの時間が増えれば比例して皆との時間が減る。

 アキは皆との関係を変えたくなかったんだと思う。

 一緒に過ごして来たFクラスの皆との関係を。

 瑞希との関係も……。

 

 アキはこのことを口にはしないけど、皆との接し方を見ていて分かった。

 だからウチは寂しさを我慢することにした。

 アキの気持ちは分かるから。

 

 でも……。

 

 やっぱり寂しい……。

 

 念願叶って恋人同士になれたのに、想像していたよりも一緒にいられる時間が少ない。

 アキが皆との時間を大切にしていることに加えて、ウチは帰って家事をやらなくてはならない。

 土曜は補習があることも多く、空いているのは日曜くらい。

 

 仕方のないことだけど……。

 もっとアキと二人の時間がほしいな……。

 

「お姉ちゃん!」

「ひゃっ!?」

「お姉ちゃん? どうしたですか?」

 

 あ……葉月?

 びっくりした……。

 

「葉月、ダメじゃない。部屋に入る時はノックしなきゃ」

「何度もノックしたですよ? でもお姉ちゃんいるのにお返事ないから入っちゃいました」

「あれ……? ご、ごめんね。ちょっと考え事してたから……」

 

 ノックの音なんてぜんぜん聞こえてなかったわ。

 そういえば勉強してたはずなのに、いつの間にかアキのこと考えてたわ……。

 

「それで葉月、どうしたの?」

「あ、さっきお母さんからお電話があったです。今日はもうすぐ帰れるって言ってました」

「そうなんだ。珍しいわね。分かったわ」

「それじゃ、葉月はお母さんのためにお茶の準備をするです!」

「ありがとう葉月。火傷しないように気を付けるのよ」

「はいですっ!」

 

 そっか。お母さんもうすぐ帰ってくるのね。

 

 それなら今日はアキとどこかに行きたいな。

 映画? ショッピング?

 う~ん……。

 でもアキのお財布にあんまり負担を掛けるわけにはいかないわね。

 ウチだってそんなにお金に余裕があるわけじゃないし……。

 

 そうだ。それなら大きな公園でのんびり散歩なんてのもいいわね。

 恋人らしく腕を組んで……ね。

 

 ……

 

 恋人らしく……か。

 

 あれからアキ言ってくれないな……『好き』って。

 どうしてかな……。

 ウチのこと好きじゃなくなったのかな……。

 

 ……

 

 ううん。そんなことないよね?

 アキの態度からはウチを大切にしてくれてるのがよく伝わってくるし。

 それにこの前読んだ雑誌。

 あれには男はそういうことを軽々しく口にしないものなんだって書いてあった。

 きっとアキもそうなのよね。

 

 でもやっぱり聞きたいな……アキの口から……。

 

 そう……。

 

 耳元で愛を囁いて……。

 熱い口付けを交わして……。

 それで……。

 

 って! ウチ何考えてるんだろう!

 

 

  Prrrrrr

 

 

「きゃっ!!」

 

 あ……携帯……? びっくりした……。

 

 えっ! ア、アキから!?

 ど、どうしよう!

 ウチったら変なこと考えてて顔真っ赤なんじゃ……!

 

 ……電話なんだから顔が見えるわけないじゃない。

 

 何を慌ててるんだろう……。

 

 

  Prrrrrr

 

 

 あっ! 早く取らなきゃ!

 

「アキ? あ、うん。大丈夫」

「今日? 空いてるわよ? ちょうどアキとどこか行きたいなって思ってたところ」

「料理の新作? ふ~ん……新作品評会ってところね」

「え? 辛いもの? ウチはぜんぜん平気よ?」

「うん。アキの家に行けばいいの? うん、分かった。じゃあ今から行くね」

 

  Pi

 

 やった! アキが誘ってくれた!

 今日はアキと一緒に過ごせるのね!

 

 あ……。

 

 料理の試食ってことは皆も呼んでるのかな。

 きっとそうよね……アキのことだから。

 

 ……

 

 それでもいいっ! アキと一緒の時間ができるのなら!

 

 でも料理の評価ってどうやるのかな。

 料理対決番組みたいに何人かで試食して、十点満点で点数を付けるって感じ?

 だとすると坂本や土屋は採点厳しそうね。

 瑞希は優しいからどんなものでも十点付けそう。

 ウチは……アキの料理ならなんでもおいしく感じちゃうかな。

 えへへ……。

 

 あっ! こんなことしてる場合じゃなかった!

 準備しなきゃ!

 

 

 

 ウチは手早く着替えを済ませ、ポシェットを肩に掛けた。

 胸元を飾るのはもちろんウチの宝物。リボンを象ったネックレス。

 準備よし。

 

 あ……そうだ。葉月をどうしよう。

 

 アキのところに行くって言ったら、きっと一緒に行きたがるでしょうね。

 どうしようかな……。

 あの子、辛いものは苦手なのよね。

 連れて行ったらアキのことだから葉月に気を遣うだろうし……。

 

 やっぱり今日はお留守番しててもらおう。

 お母さんもすぐ帰ってくると思うし。

 

 

 ウチは葉月の部屋に行き、声を掛けた。

 

「葉月、お姉ちゃんちょっと出掛けてくるから、お母さんが帰ってくるまでお留守番お願いね」

「お姉ちゃん、またバカなお兄ちゃんのところですか? 葉月も行きたいですっ!」

 

 どうして分かったのかしら……。

 どうしよう……何か言い訳付けなくちゃ。

 アキの手料理食べに行くなんて言ったら絶対ついて行くって言うだろうし……。

 

 ……うん。やっぱりこれね。

 

「それはほら、今日はクラスの皆と勉強会なのよ。テストも近いし。だから行ってもつまんないわよ?」

「むー。でもこの前そう言ってお出掛けしたお姉ちゃん、とっーても楽しそうなお顔で帰ってきたです。ホントはバカなお兄ちゃんと遊んで来たんじゃないですか?」

 

 この子鋭いわね……。

 

「そ、そんなことないわよ! アキを教えるのってとっても大変なんだから!」

「やっぱりバカなお兄ちゃんのところなんですね?」

 

 あっ……。

 

「じゃ! 葉月お願いね!」

 

「あっ! お姉ちゃん! ずるいです……」

 

 ウチは葉月を振り切って家を出た。

 

 ごめんね葉月。

 今度アキを連れて来るから今日は許してね。

 

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